シナリオ詳細
アルカネトラズ島の悲劇
オープニング
●
その嵐はカティスバーグ諸島を暗闇で包んだ。
窓を殴りつける雨と強風に喘ぐ巨木。
消えた電気。窓の中には蝋燭が一本。
幽かな灯が隙間風に踊る。
命綱はラジオから聞こえるニュースだけ。
死にかけの電波は途切れ途切れに音を伝えた。
『ここで臨時ニュースをお伝えします。アルカモトラズ島に護送中の凶悪な囚人が十人脱走したとの情報が……、ザザ、近くにお住まいの方は充分注意を……』
――雷鳴轟き、雑音終了。
「ホワーッツ!?」
小さなレディは叫んだ。
孤島の大邸宅でとりあえず叫んだ。
パパとママは本島でお仕事中。
使用人の皆さんもお休みなので今日は一人でお留守番。
ヒャッハー自由を謳歌だぜーと喜んだのも束の間、落雷によって大停電。
予想よりも早い嵐の到着に、海は荒れるしパパママは帰宅困難。
港につないだ自家用船はどんぶらこ。
不吉なニュースを最期にラジオはクラッシュ。
カレンダーの日付は13日の金曜日。
「と、まぁ。大げさに驚きましたがこれくらいのアクシデンツはわたくしにとってお茶の子ソイソイ。嵐も、明日の朝には通り過ぎると言っていましたし一晩くらいノープロブレムですわオホホ」
ここはアルカネトラズ島。鉄壁の要塞監獄アルカモトラズ島、最寄りの島である。
「へへへ、俺たちは運が良い……」
「ここの住人をぶっ殺せば食料や金が手に入る……」
「な、なぁ。寒気がするんだが……やっぱ止めない?」
「らっしぇいガッデム!!」
ゆえに崖下に怪しげな集団が十人上陸しているのは当然の流れであるし、気軽な気持ちで窓を覗いた小さなレディが読唇術で読んだ会話の衝撃に、手に持っていた非常食のパイナップルを腕力で粉砕して窓ガラスがびちゃびちゃになったのも当然の流れである。
「ホームでアローン? 上等だオルァ!! あんまり箱入りお嬢の根性なめてンじゃねえぞォ!?」
●
「ふえああああ!!??」
そういう訳で。
勢いで小さなレディが召喚陣を適当に描いて悪魔お呼び出しの儀式をしてしまったのは仕方ないことだし、鳴り響く雷鳴と変なテンションと適当に描いた召喚陣が奇跡的に混沌世界といい感じにアクセスしちゃったのも仕方ないことだし、本から伝わってきた謎の迫力に混乱した境界案内人が半泣き状態で近くにいた人に助けを求めたのはもっともっと仕方がない事だったのだ。
- アルカネトラズ島の悲劇完了
- NM名駒米
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年06月27日 22時05分
- 参加人数4/4人
- 相談4日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(4人)
リプレイ
●単発教入信
「ごきげんよう、小さなレディ」
陣に月が灯り、幻想的な白銀少女の像を結んだ。
ターラタンのドレスのように広がる銀髪から覗くのは人ならざる証の鹿角。
風が吹き止めばスカートをつまんで淑女の礼。
「ワタシは鹿のポシェティケト。跳ねる足音、ワンダーリング、ナーサリーライム。あなたの物語、見守らせてちょうだいな」
UR『謡うナーサリーライム』ポシェティケト・フルートゥフル。
「悪魔召喚とは懐かしい」
次なる陣に澱んだ光が奔る。溢れた声は懐古の情に満ちた、酷く穏やかなもの。
「昔は良くお声がけ頂いたものだよ」
胎動が炎を揺らし、祭壇の影が痩身を産み落とす。悲鳴にむかって悪魔は無垢な顔で微笑んだ。
曰く、悪魔ほど正直な者はいない。
UR『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ。
「えーっと……まず俺達を召喚した少女の名前がリトル・レイディアンス(略)で、ここは孤島で、或る意味二種類のパイナップルが特産品。現在の天候は嵐でその影響で停電中。そんでもってこの島に脱獄囚が10人いてばらばらに行動中」
頭痛が痛いとこめかみに指を当てる。称号が全てを語りし者。
「情報量、多すぎない?」
UR『貧乏籤』回言 世界。
「たった一人のか弱い少女に対して脱獄囚が10人」
細めた瞳の中に理知的な光を宿し、白の騎士はチェス・ゲームを楽しむが如く腕を組む。
「それでは、恐怖のあまりおかしな事をしてしまうのも仕方がないというものだろう。それで実際に魔法陣が起動して私たちが召喚されてしまったのが本当に驚きではあるけどね」
UR『久遠の孤月』シュテム=ナイツ。
「わたくしのガチャ運が……仕事をした?」
あとは放心している目の前の子羊から現状を聞くだけだ。
「では部屋をひとつ借りるよ」
話を聞き終わるとマルベートは夢見るように格子窓に頬を寄せた。白い雷鳴が閃き、窓硝子に血溜まりのような瞳が反射する。
「脱獄囚たちに『おもてなし』の準備をするのさ」
「詳しく聞かない方が良いですわね。どうぞどうぞ」
暗闇に真紅の三日月が浮かびあがる。
「私も攻撃にまわろう。後手に回るのは好きじゃないし、さっさと全員探して無力化するのがいいかな」
不知火の柄に手をかけ、普段との差異を感じたシュテムも顔を上げた。
「ところで特産品の手榴弾は、この島にもあったりするんだろうか?」
「ええ。いつも心に手榴弾、が当家のモットーなので武器庫にありますわ」
「……見つける前に全員捕縛したい。島の中を探して脱獄囚を見つけ出すとしようか」
「そっちは任せた。わざわざ脱獄囚を探し回るなんて面倒なことはしたくないし、俺はお嬢さんの世話でもやいておくかね」
「うふふ」
助かったと言わんばかりに、世界が肩をすくめる。
『護衛はこちらで引き受けるから、遠慮なくやれ』
遠回しな世界の言い方が気に入ったのか、ポシェティケトがこそりと笑った。
「雷鳴に、嵐の夜。こんなにも暴れる夜なら、雰囲気がたっぷりね」
――さあ、怖い夜を始めよう。
●開幕! BS祭
「いい匂いがしないか?」
廊下を歩いていた一人が鼻をひくりと動かした。
「そんな筈……本当だ」
脱獄してからというもの飲まず食わず。脱獄囚たちは空腹だった。誘蛾灯に導かれるが如くふらふらと廊下を進む。
「ここだ」
薄く口を開けた扉から灯りが漏れている。
侵入者たちは意を決して、扉を開けた。
そこにはまるで夢のような光景が広がっていた。
三叉の燭台を冠に、重厚なディナーテーブルの上には見たことも無い豪華な食事。
艶やかなワイングラスにはたっぷりと注がれた透明な甘露。そして。
「今晩は」
最奥に座した晩餐会の主催者は、艶やかに笑った。
マルベートの妖艶さに射すくめられた男たちは立ち尽くし、ひとりでに扉が閉まった事にも気がつかない。
悪魔の双眸と笑みが。魂を、挙動を、捉えて離さない。
「素敵な夜になるように、私が夜通しお相手してあげるからね」
マルベートは無邪気に指を鳴らす。
「みゃー!?」
次の瞬間、脱獄囚たちは炎獄に包まれた。
――目が覚めたようだね。
晩餐会へようこそ。その手枷と足枷は特注品さ。電気椅子に座った気持ちで愉しんでくれたまえ。君は手が動かせないだろうから私が料理を口に運んであげるよ。ほらほら、どんどん入れてあげる。噛むのに疲れたら飲み込んでね? そうそう、良い食べっぷりだ! さあ息継ぎに飲み物もどうぞ。鼻を摘まんで流し込んであげるね。もう食べられないなんて遠慮しなくていいんだよ。君達の出獄を祝って朝までお祝いしよう。悪名罪業血液臓腑全て煮溶かして極上のソースを作ろうじゃないか。
「今日は雨がよく降りますわねぇ」
「そうだなぁ」
「ところで、どうしてそんなに名前が長いんだ?」
「お爺様が一族の反映を願って占い師に相談したところ、提示された全ての苗字を足して爆誕した伝説の魔家名ですわ」
「長い自覚はあるんだな」
とことこ。
小さなレディと世界は書斎の前を通過する。
扉の向こうでは悪魔の宴が盛り上がっているようだ。
廊下を照らすのは世界が召喚した火の精霊たち。
オレンジ色の炎をベールのように揺らし、リトル・レディと追いかけっこを楽しんでいる。
その隙に世界は背後を振り返った。
「あそこにガキが」「スケフィントンの娘」
間髪入れずに世界が唱えると、脱獄囚は喉を抑えて崩れ落ちた。
「悪い、一人追加で頼む」
「みぎゃー!?」
開かずの書斎をノックすると扉が開く。
新たな生贄をぽいっと放り込んで、世界は素早く扉を閉めた。
「立ち止まって、どうしましたの?」
「ああ、次はどの精霊を召喚しようかと思ってな」
「ワクワクですわ!」
「ところでパイナップルってどうやって潰すんだ」
「こう、両の掌で挟むようにしてですね」
悲鳴と雷鳴をBGMに会話は続く。
「他の皆も上手くやっているようだね」
狂風に包まれた外庭に突如として降り立った白髪の青年は、暗がりでは眩しいぐらいに目を惹いた。
「なんだ、テメェ」
「護衛か?」
「それにしてはヒョロい」
「飛翔斬」
雨に濡れながら、シュテムはふぅと息を吐き。
「食料や金を手に入れたければ私を倒してからいくことだ!」
「攻撃する前に言ってくれませんかねぇ!?」
運よく見えない斬撃を避けた一人が、ドキドキしながら言い返した。
今の一撃で庭には呻き声が積み重なっている。
「あなた、一人で私たちに挑むなんて正気ですか? 我々の仲間は大勢いるんです。この屋敷の人間がどうなっても……」
言葉を遮るように、大砲の如き閃光と爆発音が地を揺らした。
シュテムの端正な顔には少しだけ憐憫の情らしき色が宿っている。
「再度警告するが……というより大人しくしておいた方が良いと思う」
頭上の窓を顎で示しながらシュテムは告げた。
「ああなるぞ」
いやぁぁぁ!?
ごめんなさぁぁい!?
食べられるぅぅ。
いっそ殺してぇぇぇ。
「出頭します」
感情を無にした脱獄囚がシュテムの顔を見ながら挙手した。
「その代わりに私たちの護衛、じゃなかった、見張りをお願いできます?」
「……承った」
「鹿様とお話できるなんて嬉しいですわ! ここがわたくしの寝室です!」
「あ」
リトル・レディが扉を開けると、そこには窓から侵入する見知らぬご一行。
「いたぞ! 屋敷のガキだー!!」
「ああん? やんのかゴルァ!?」
「この人たちが、困った人ね」
ポシェティケトはふるりと身体を震わせ、朝霧色の巨大な鹿へと変化した。
「それじゃあ鹿は。今からあなたの脚になりましょう」
「大鹿!? それにこの黒犬はどこから!?」
「乗って」
「やったー!」
リトル・レディを背に乗せて、ポシェティケトは風のように屋敷の中を駆ける。
「これからどうしますの、鹿様!?」
「そうねえ。そうだわ」
走りながらポシェティケトは考えた。
「孤島にいるのは『ヒト』だけじゃあ、ないわ」
「くそっ、あのガキ。どこへいった」
「鹿もいない。あの毛皮は金になるぞ……ん? いま、オレの肩を叩いたか?」
「止めろ。めっちゃ怖い」
影が伸びる。
大きな影、鋭い爪痕、暗闇に潜んだ、たくさんの『ダレか』の目が開く。
「想像するだけで、がたがた、怖くなってくるわねえ」
「……いま、誰か何か言ったか?」
「だから、それ止めろ。そろそろ俺が泣く。なぁ?」
男が同意を求めた相手は、宙に浮いた大きな大きな影法師。
「お化けでたー!!」
「逃げろぉー!!」
くすくす。くすくす。ふはははは。
「招かれざる客たちよ、グッナイのお時間ですわぁ!」
「楽しそうで、何より」
背中で高笑いするリトル・レディにポシェティケトはふんわり笑う。
「精霊さんたちも、ありがとう」
壁の影法師がお安い御用だと手を振った。
ちょっとしたお仕置きだと脱獄囚たちに放った魔力の巨砲は、雷鳴と一緒に爆音を轟かせる。
はたはたと前髪をはためかせ、一人と一匹は阿鼻叫喚を温かく見守った。
●脱獄前より体重が2kg落ちました
「この度は娘がお世話になりました」
「本当に何と御礼を申し上げれば」
嵐が去った後の青空ほど、爽やかだ。
小型船を飛ばして島へ戻ってきたリトル・レディの両親は何度も頭を下げた。
「こちらも色々と愉しませてもらったからね」
「それよりも、お二人に大事が無くて良かった」
意味深な笑みを浮かべるマルベートと乏しい表情の中にも労わりを見せるシュテム。
「びぇぇぇ」
「もう、泣くな泣くな」
「ああ、お別れが名残惜しいわね、レディ。あなたの武勇と冒険譚にご一緒できて、心から嬉しいわ」
一方、リトル・レディはポシェティケトと世界から離れようとしない。
一晩の内にすっかり懐いてしまったようだ。
「またいつか、物語で会いましょうね」
また、いつか。
魔法の言葉で宥めすかして、手を振って。
せっかくのハッピーエンドだ。
別れの時は、みんな笑顔がいい(ただし屍と化した脱獄囚を除く)。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
こんにちは。駒米と申します。
こちらのライブノベルは、協力も単独行動も自由です。
協力する場合、相談期間が短めなのでお気をつけ下さい。
・目標
『トラップまたは武力行使による脱獄囚の捕縛、無力化』
『本島から救助が来るまでの8時間、小さなレディを前科一犯にしないための見守り活動』
どちらか一方の達成で成功となります。
もちろん、両方をプレイングに盛り込んでくださっても結構です。
・舞台
禁酒法時代のアメリカによく似た文明をもつ世界です。
いわゆる人間種しか存在していません。
この世界では謎の力により全ての特異運命座標の攻撃に【不殺】がつきます。
もしかして:コメディ
大嵐の夜。孤島のお屋敷。落雷により停電中。
特産品はパイナップル(果物)とパイナップル(手榴弾)。
・NPC
小さなレディ。
本名はリトル・レイディアンステンパーテッドハイモデルフラバーマーチングバンド(13)。
黄色い髪を二つに結んだ、か弱い女の子です。
直情型で目新しい事や珍しい物が大好きな、か弱い女の子です。
暗闇の中で50m下の岸壁の会話を視認しパイナップルを素手で引き裂く、か弱い女の子です。
目を離すと手榴弾持って自爆式特攻をかますので注意が必要な、か弱い女の子です。
・敵
「脱獄囚」×10
今回のリアクション枠。
バラバラに行動するようです。
口で言うほど凶悪でもないし、そんなに強くもありません。
ある意味、自業自得な被害者です。
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