シナリオ詳細
一緒に帰ろう
オープニング
●無人島
白い砂浜に血飛沫が染みこんだ。
刃と刃がぶつかる音が連続し、砕けた破片が肉にめり込み新たな血を流す。
「やはりお前か」
押されているのは老人だ。
若い頃より技は冴えている。
しかし体力は無惨な衰え若い頃の半分もない。
「会いたかったぞ」
押しているのは何も喋らぬ遺体だ。
肉はもちろん骨の数割が失われたスケルトンが、生前の執着に突き動かされて錆び刀を振るう。
遺体を包む軍服は数十年の風雨にさらされ、ぼろ布にしか見えない。
「船長、援護します!!」
海種の水夫達が甲板から飛び降りる。
真新しい長砲身砲が、波の揺れを感じさせないなめらかさでスケルトンを正確に狙う。
「下がれ」
声を荒らげた訳でもないのに、水夫の足が止まり砲を操作する手が止まる。
「儂の最後の我が儘だ。決着は2人でつけさせておくれ」
スケルトンの剣技は数十年前に消えた友のものだ。
絶望の青に挑み、おそらく序盤も突破出来ず外に流された彼の剣技だ。
「ああ、そうだったな」
利き腕の二の腕が切り裂かれ、豪華であると同時に実用品でもある船長服が血で濡れる。
「お前には、一度も勝てなかったな」
錆びた切っ先が老人の眉間に迫る。
が、左右に持ち替えカウンターで刃を繰り出す方が一呼吸早い。
錆びた刀が真上に跳ね上げられる。
微かに濁った瞳が一瞬だけ潤む。
そして、生涯最高の斬撃で以て、友の亡骸を無惨な余生から開放した。
「儂が剣の腕で追い抜くとはな」
寂しげに笑い、回転しながら落ちてきた錆び刀を指で摘まみとる。
柄には、かつて見慣れていた紋章が微かに残っていた。
「閣……船長」
副長が話しかけてきたのは、戦いが終わって数分経ってからだ。
「面倒をかけた」
「は、いえ。遺体の回収作業は予定通りで?」
普段は閣下と呼ばれる男は、改めて海岸を見て顔の皺を深くする。
無数の漂着物で海岸が8割方埋まっている。
流木や石などもあるが大部分は船の残骸だ。
船首像の首や千切れた縄、砕けた甲板や遺骨の欠片まで多種多様なものが重なっている。
そして、気の弱い者であれば死に誘われるほどの怨念が漂い、蠢いている。
「予定は変更する」
血が滲んだ包帯を押さえて重い息を吐く。
ドレイクが去り、この島を守るように浮かんでいた幽霊船も消えた。
死に損ないの数も減っている。
だが、それでもこの状況なのだ。
「ローレットに増援を頼む。浄化は……可能と思うか?」
「燃やせば多少の効果はあると思います」
返答する副官は申し訳なさそうな表情だ。
「遺品の回収より島の安全確保が優先だ。豊かな土地だろうから、な」
老人が内陸を見る。
決して大きな島ではないが緑が多い。
生と死が循環する陸の匂いが潮の匂いに負けない強さで漂っている。
この島も、絶望の青攻略の戦果になり得る土地なのだ。
「ローレットのイレギュラーズに死に損ないを減らして貰った後、榴弾で死に損ないを一掃する」
蠢く死に損ないの中に見覚えのある装備を見つけ、老人の肩が震えた。
●新たな依頼
「次の依頼なのです!」
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が誇らしげに胸を張る。
依頼の目的地は『絶望の青』外縁の島だ。
かつては目視するだけでも危険な冒険行だったが、『絶望の青』攻略成功後の今では並程度の危険度になっている。
「目的はスケルトン退治なのです」
非戦闘員にとっては脅威でも、冠位魔種やドラゴンと比べると超小粒の雑魚でしかない。
狂王種と比べても、かなり弱い。
「無人島の海岸を占拠するスケルトンを倒したら、普通の船も近付けるようなるのです」
いずれは入植可能になる可能性すらある。
「でも危険なのは確かなのです。大きな怪我をしないよう、注意して、成功させて欲しいのです!!」
ユーリカがイレギュラーズを見る目には、少しの心配と大きな信頼が浮かんでいた。
- 一緒に帰ろう完了
- GM名馬車猪
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年06月30日 22時13分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●心に火をつける
かつて抱いた夢も怒りも、今では輪郭すら思い出せない。
朽ちるまで生者の足を引っ張るただの残骸。
それが、この島に流れ着いたものの今であった。
「あの日、足掻くのをやめちまっていたら……アルバニアを斃すのがあと少し遅かったら、俺も今頃、こいつらの一部になっていたのかねぇ」
『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)がほろ苦く笑う。
海岸にうごめく骨はどこか虚ろで、物悲しささえ感じる。
「今回だけじゃなく、22年前、それより前――ひょっとしたら、俺が生まれるよりずっと前にもあったかもしれねぇ大号令でも、絶望の青から帰って来られてねぇままのやつが大勢いるんだろうさ」
一人でも多くこの海から解放してやりたい。
全て打つ倒す自信はある。しかし倒すことが解放に繋がると断言できなかった。
『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)が無言で帽子の位置を直した。
ドレイクが被っていたときは偉大な海賊の一部であったそれも、今は性能の良い装備でしかない。
「うん、まあ、うんともすんとも言わないですよね」
この帽子は役目を終えた。
帽子の所有権はウィズィに移り、絶望の青は凪いだのだ。
眠りについた彼の穏やかな顔と、去って行った船の後ろ姿が脳裏に蘇った。
砂浜から音が消えた。
骨も、残骸の巨塊も、並みの音まで聞こえない。
帽子ではなく、帽子を正当に受け継いだ踏破者が亡者の心に火をつけたのだ。
亡者の意識がウィズィに向いているのに気付き、『六枚羽の騎士』カイト・C・ロストレイン(p3p007200)は良く通る声で亡者達に語りかけた。
「なあ、物言わぬアンデットになっても、声は聞こえているかい?」
ぼろぼろの銃を持つ骸骨が、数分前とは違って知性のある所作でカイトへ眼窩を向ける。
「海洋の戦いは終わり超えられなかった先が見えた。君達にも、この絶望の青の先に何があったのか、その目で見て欲しかったな」
潮を浴び血を流し、踏破した者にしか持てない説得力がある。
「美しい国があるんだ」
見ることのできなかった光景が、カイトの言葉を通じて骨達に伝わる。
「顔も名前も知らぬ誰かよ。この声は、聞こえているだろうか」
朽ちた武具や武具を身につけた亡者達が、じっと聞いている。
「どんな冒険をしたんだろう、どんな楽しいことがあっただろう。敵と、魔物となり果てても、どうか思い出してほしい」
残骸でしかなかった骸骨達に、生気にも似た何かが宿る。
「この海は、本当に冒険に溢れる国だ」
カイトが剣を抜く。
美しくはあれど罪と罰の暗さを感じさせるそれ構え、騎士の礼を以て告げる。
「最後は笑って死ねたのだろうか、剣を交えて教えてほしい」
頭蓋骨が揺れて上下の歯が打ち合わされる。
不気味な音のはずなのに、何故か勇壮に、そして嬉しげに響いた気がした。
●上陸戦
「全速前進、この海の死者に今、弔いの旗を掲げるんだからなっ!!」
軽量の小型船が、座礁しないぎりぎりの深さのカ所を選んで海を行く。
「躱そうなんて思うな! 全部卵丸たちが防ぐ!!」
呪いの銃弾が甲板を掠める。
並みが打ち寄せる砂浜には、奇妙なほど存在感のあるスケルトンが両手を振り上げ威嚇している。
「そっか、絶望の青の戦いは終わったけど……大切な仕事が、まだ残ってんだな」
『理想のにーちゃん』清水 洸汰(p3p000845)が片手でバットを持ち、先端をスケルトンガンナーに向ける。
肉も皮も残っていないのに、洸汰に対してにやりと笑うのが分かる。
「延長戦も派手にやらなきゃな。爽やかにホームラン決めて、皆でホームに戻ろうぜ野郎共!!」
返事は針穴を通すように正確な呪詛狙撃だ。
洸汰のキャッチャーミットが真正面から受け止め、洸汰と骸骨が同時に破顔する。
「どいつもこいつもはしゃぎやがって。楽しくなってきたなぁ、おい」
縁が銃使いに合図を送る。
このまま戦っても勝てない、否、ただの撃ち合いで終わるのは勿体ないと判断したガンナーが、至近距離から弾を浴びせるために前進を開始した。
「挑んで、破れて、引き継がれて――二十二回。夢は叶いましたよ。皆さんの後輩が、ついに辿り着いたのです」
『何事も一歩から』日車・迅(p3p007500)が小型船から飛び降りる。
脆い砂も速い波も存在しないかのように駆け抜けて、スケルトンのカウンター狙いの拳を躱して高速の拳で頭蓋の前半分を砕く。
「だからもう頑張る必要はありません。巡る命の環に戻りましょう」
時間が経ちすぎていて、亡者の意志だけでは戻れないかもしれないが問題ない。
「この日車、介錯仕ります!」
砂浜に倒れた亡者が親指を上げた直後、心残りもなにもかも燃やし尽くしたかのように全身の骨が崩壊した。
どぎつい陽光の中でも、蝶型の光翼はよく目立つ。
海の男と賊の亡者が蠢く地上に対し、『木漏れ日妖精』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)が本気の一撃を繰り出した。
塩気を帯びた砂が盛り上がる。
1秒もかからず巨人の拳と化して、腕をクロスして防御しようとしたスケルトンを防御の上から貫いた。
「敵の動きが活発だ。なら」
オデットと同じ小型船に乗るカイトが、敵勢の気配を読んで戦術を微修正する。
「陸で勝負をつける。海洋の船には攻撃させない」
魔力を集めて極太の光線として放つ。
海に入ろうとした骸骨に直撃し、後続の進行を妨げた。
「さあ、Step on it!! 終わらせましょう、絶望を!」
ウィズィが被った帽子には、亡者や幽霊船団を操る力は全く残っていない。
しかし、既に去った踏破者と踏破者の誇りはここにある。
彼女の戦意と巨大なナイフにより心に火を灯され、残骸だった塊から戦意に満ち満ちた骸骨剣士が這い出て、無音で吼える。
「絶望の海は開かれた、そろそろ安らかに眠ってもいいんだからなっ……貫け、轟天GO!」
卵丸がジェットパックを噴かして飛翔。
空から骸骨を襲いドリルの斬撃で骨を砕く。
戦意と戦意がぶつかり合い、墓場じみて薄寒かった浜が熱く熱く変わっていった。
●燃え上がり
華麗な装飾が施された魔銃テンペスタから、清浄な力が極太のビームとして放たれる。
骸骨の頭上数メートルに逸れたと思ったのは骸骨の勘違いだ。
ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)が放った膨大なエネルギーは巨大な魔法陣として構築されて、そこから清らかさと密度が増した力が光の槍として地上に降り注ぐ。
「絶望の青に果敢に挑み、死んでしまった人たち。きっと自分の死を認めたくないくらいに未練があったことでしょう」
スケルトンが倒れて古びた銃が転がる。
「ですが、もう絶望の青は攻略され新たな大陸も発見されました。悲願は為されたのです。もう休んでいいのです」
威力は特大でも非殺傷の技だ。
倒れた亡者は、自らの意志で滅びを受け入れ、恨みを残さぬただの骨に変わる。
「はっ、これを躱すかよっ」
数多の敵を砕いてきた拳が、ただの指骨に方向をずらされ縁の体勢が崩れる。
錆びた切っ先が生身の喉笛を狙い、縁が上半身を捻ることで首ではなく肩を切り裂くに留まる。
骨が折れる音が響く。
絶妙のタイミングで縁が刃に触れて、衝撃が骸骨の肩まで届いて大きな罅をいれた。
「まだまだっ」
血だらけの洸汰が立ち上がる。
真新しい裂傷が時間を巻き戻しているかのように癒え、洸汰は恐れなど感じさせずに骸骨剣士の間合に踏み込む。
錆びた刃をミットで受け、素手のスケルトンの蹴りや拳を軽やかに回避する。
ずっと昔に死んだ亡者にとっては見覚えのない、しかし見惚れてしまうほど見事なプレーだ。
「乱れてはいますが見覚えがる剣筋ですね」
錆びついた剣とは正反対に剣技は冴え渡っている。
迅はいくつかの候補を思い出しながら、素早い彼ですら反応も難しい斬撃を技と勘と経験で以て防ぐ。洸汰が与えた衝撃はまだ骸骨剣士に残っていて、迅が与える打撃は予想より明らかに大きい。
「これならどうです」
守勢は無意味。
筋肉に力を入れて血を止めて、迅が一心不乱の攻勢に移る。
正確で、力強く、速い。
頭蓋、頸骨、胸骨それぞれに痛烈な一撃を与えても止まらず過去の剣士を追い詰める。
「っと」
速力を破壊力に変えた拳で胸骨を砕いた直後、迅もさすがに息が乱れて攻撃が止まった。
「やらせねぇよ」
迅の首を狙った斬撃を縁が逸らす。
やり返された形の剣士は、さらなる反撃をしようとして足の動きが乱れる。
消え去る寸前の妄念を自らの意志で無理矢理燃やしている状態だ。
ただ存在するだけで傷つき、戦えば傷つく速度は爆発的に上昇する。
「音速のエッジで凍りつけ!!」
卵丸がコンバットナイフで音速の斬撃を繰り出す。
そこに容赦も甘さもないことが、古の剣士に対する最高の礼儀だ。
ナイフが骨を掠めて冷気を残す。
骸骨剣士の極めて高度な攻撃術と回避術にはほぼ影響はない。
が、反応速度が鈍り、自らが攻撃をしかける前にイレギュラーズの攻勢を受けることになる。
初撃は巨大な重量武器。
ただし形はナイフで、ナイフの形にされた燃え立つ心が――真っ赤に燃える恋心が防いだ剣ごと骸骨の腕骨を炎上させる。
オデットの中規模魔術の連射は、特殊な効果は防がれたても小さいダメージを積み重ねて骨の痛みを激しくする。
「余裕がないな?」
縁の防御も攻撃も今の剣士にとっては重圧だ。
じりりと下がった所に拳が届き、積み重なった傷と疲労に耐えられずに左肩の骨が砕ける。
「そこっ」
ルルリアが無色の力を集束させ解き放つ。
細く鋭い光の槍が伸び、回避のための空間がなくなり本来の技量が発揮出来なくなった剣士の頭蓋に届く。
優れた技量とは逆に骨の頑丈さは平凡でしかなく、こめかみにあっさりと穴が開けられ魂に当たるものの一部を浄化され反対側にも穴が開いた。
卵丸が至近距離での白兵戦を挑む。
骸骨剣士の剣は衰えず、卵丸のセーラー服風船長服を傷つけ白い肌に痛々しい赤い線がつける。
それでも卵丸は退かない。
骸骨剣士の防御が乱れている今こそが、時間切れではなく正面から決着をつける最後の機会だからだ。
構えが変化する。
剣士として遇してくれことへの感謝を態度で示す。
その上で、イレギュラーズ全員を切り捨てて終わると宣言した。
古き刃が蘭丸たちイレギュラーズを切り裂こうと旋回し、殺傷が可能な速度に達する寸前でカイトの魔剣に阻まれる。
洸汰は一瞬の隙を見逃さない。
骸骨剣士に残った速度を後の先で利用して、バットを骨と骨の間にねじ入れ骨と骨の均衡を完全に崩壊させた。
「超新星の輝きと共にっ」
卵丸の手元でドリルが唸りをあげる。
高速回転する刃から光が溢れて亡者を白と黒の世界に誘う。
「安らかに眠るんだぞ……」
骸骨の増援が到着。卵丸の阻止を狙うがカイトが阻止にまわって近付けない。
「スーパーノヴァ!!」
迎撃兼カウンターの錆びた剣がドリルに触れて砕ける。
卵丸の加速は止まらない。
残った刀身をわずかに前傾することで回避して、物理的にも霊的にもエネルギーに満ち満ちた回転で胸から腰へとえぐり取る。
砕けた骨が肌に当たっても、卵丸は決して怯まず最後まで貫いた。
●燃やし尽くす
「にーちゃんたちすごい!!!」
海洋の船で新人が歓声をあげた。
純粋で光の強い笑顔が眩しすぎて、先輩たちは気後れして声をかけるタイミングが掴めない。
「若いの、戦場に無駄口叩いたら命令が聞き逃すかもしれないぞ」
厳めしい声が飛び、十代前半にしか締めないリーベ・ズィーマンが直立不動になる。
「だがキャプテンを目指すなら目の良さは最低限必要だ。縮こまって見逃す癖をつけるんじゃないぞ。お前たちもだ」
船長の言葉に熟練の船員たちも緊張してうなずき、大砲に次の弾を込める。
「撃て」
砲門から炎が伸び砲弾が距離を維持して飛ぶ。
活性した骨と残骸の塊に大きな穴をいくつも開けて、亡者の敵意と注意を引きつけた。
「アースハンマー!!」
巨人の拳が油断した亡者を直撃する。
蠢く残骸は大きく重く、しかしドレイクや魔種と比べると存在の格が低すぎる。
オデットの術による一撃を躱しも防ぎもできずに、砲撃で開けられた穴を倍ほどに大きくして存在する力を失っていく。
「この距離なら気付くのね」
イレギュラーズが戦闘中にも塊が生み出したスケルトンが、明確な敵意を発してオデットに向かう。
塊を射程におさめるため上陸したオデットは、亡者全てを躱す手段を持ってない。
だからオデットは力を振るう。
熱砂の精を呼び出して砂浜を砂嵐を巻き起こし、重力を攻撃的に操作しただのスケルトンでしかない亡者を磨り潰す。
直径20メートルに達する術は、蠢く残骸の最後の守りを崩壊させた。
「行きますっ! 巻き込まれないでくださいよ……!」
ウィズィの至近の現実が歪む。
有り得るはずだったもう一人のウィズィの可能性を喚びだし、その可能性を纏うことで今のウィズィにはとどかない現象を我が物とする。
金の髪が黄金の光に変わり、神霊を思わせる規模で放射状に広がる。
魔眼と化した瞳からは微かに漏れ出た力でだけで蒼炎の火花が爆ぜ、もちろん彼女自身には全く害は及ばない。
「迸れ、私の右目の魔眼──ウェカビスト!」
蠢く塊の真ん中あたりで爆発が発生。
ウィズィが視線を動かす新たな場所でも爆発が起こり、そのたびに彼女の瞳から爆発地点に届く蒼い太線が宙に残る。
塊から新たな亡者が這い出ようとしても腕が出る前にその箇所が消滅する。圧倒的な速さであり、圧倒的な手数だった。
海洋の船から歓声があがる。
見とれて砲撃の間隔が開き、イレギュラーズは逆に攻勢を強める。
「んっ」
ウィズィが疲労し連撃が唐突に途切れる。
塊は、海岸に残っていた瘴気を全て吸い上げ最後の反撃を試みる。
上下に伸びて己自身を武器にしようとして、力を込める前に土塊の拳で半ばを撃たれて地面に転がった。
「自分から眠りつもりはないのね」
最後に残った亡者の頭上に無数の魔法陣が組み上がる。
それを為したルルリアの瞳には、骸骨に対しては少しはあった慈悲や敬意が完全に消えている。
「悪しきを滅ぼせ、聖浄の槍!」
光が突き刺さる。
残骸の蠢きが衰え、端からただの骨や遺品に戻って零れ落ちていく。
後は戦闘ではなく作業だ。
必要以上に壊れないよう、慎重に骨と遺品が運び出されて安置されていく。
残りが一抱えほどの大きさになった時点で負の気配が尽き、この地を長年占拠していた亡霊が完全に消滅した。
●静かな砂浜で
「すみませんっ、確認おねがいしますっ!!」
金のツインテールを揺らして、ルルリアが急ぎ足で、けれど腕の中だけは絶対に揺らさないよう注意しながらやってくる。
彼らが生きていた証、絶望へ挑んだことを忘れないためにも、戦闘が終わった後は慎重に慎重を期した上で徹底してやるつもりだ。
「ありがとうな。どれ……」
分厚い眼鏡をかけ、今は船長で休暇が終われば閣下に戻る老人が目を細める。
「ずいぶん古い。認識票、かのう?」
「じーちゃん! 武器じゃないなら勲章とか大事なものじゃないのかー?」
錆び付いた金属片を繊細な手つきで並べている洸汰が、遠慮も悪意もない声を老人にかける。
洸汰の後ろでは、馴染みであり今は休憩時間のリーベが慌てていた。
「勲章、大事……そうか! 副長、記録係を呼べ。本当に、若い者は思考が柔軟でいいのぅ」
目を細める彼は好々爺にしか見えない。
過去の記録から現代の機密情報まで頭に納めた文官が呼ばれて、勲章、家紋、海賊が使っていた印章などが選り分けられ、全てを持ち帰る準備が始まる。
卵丸は、遺骨と海に向かって長い黙祷を捧げている。
海の男はこうなる可能性がある。
それを改めて実感し、蘭丸は覚悟を新たにして目を開いた。
「よし! 手伝うよ」
「助かります。できる限り連れて帰りましょう」
普段は闊達な迅が、厳かな態度で遺骨を箱に入れる。
ただし、みっちりとだ。
「いいのかな?」
想像を遙かに超えた密集っぷりに、卵丸が少し戸惑っていた。
「最期は海洋の陸で眠りたい奴も多いんじゃよ。少なくとも儂はそうじゃ」
老人が古い頭蓋を持ち上げようとしゃがんで、腰を痛めて悲鳴をもらす。
「何度も、船を出すわけにも、いかぬからなっ。詰め込むだけ詰め込むしか……」
冷や汗を流し酷い顔色で、老人はなんとか言葉を絞り出した。
「未来を夢見て戦った勇士達です。出来れば彼らを故郷で眠らせてあげたいですからね」
迅は海洋高官の醜態に気付かないふりをして、戦場での荒々しさからは想像し辛い穏やかな声で言った。
「海洋の悲願は叶った。もう“絶望の青”を漂う必要はねぇんだぜ、お前さん方。……長ぇ間、ご苦労だったな」
縁の声は穏やかで、手つきは無造作だ。
凶悪犯だったことが明らかな遺品や遺骨は、生前の所行を考えると非常に丁寧に扱われている。
「何もかも終わったのよ。そして終わっていても終わっていなくても、死した彼らは眠る時間なの」
オデットが海賊を見送る。
「死したことを思い出して眠らなきゃいけないのよ。貴方たちの知り合いは生きているならきっと見つけてあげるから、だからもう、おやすみなさい」
戦場で心残りを燃やし尽くした骨に、恨み辛みは残っていない。
太陽が海に触れる頃に、積み込みが完了した。
「神よ、どうか彼等の魂を寛大な心でお迎えください」
カイトが祈りを捧げる。
鎮魂の思いを込め、剣をゆるりと振るう。
「おやすみ。いつかどこかの、冒険者たちよ」
夕日に染まった砂浜に、穏やかな風が吹いた。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
(黙礼している)
GMコメント
『絶望の青』攻略、お疲れ様でした。
今回は、昔『絶望の青』で倒れ、流れ着いたひとたちのお話です。
●成功条件
エネミー全ての撃破。
●エネミー
『蠢く残骸』×1
船や遺体の残骸が集まり、一塊でゆっくりと蠢いています。
全高3メートル、幅と奥行きはそれぞれ10メートル以上。
機動力は1以下で回避も0ですが、HPは非常に高く、特殊抵抗もかなり高いです。
異様な気配【神近範】【万能】【無】【呪縛】【混乱】を放ちます。
1ターンごとに1体、新たなスケルトンをこの世に送り出します。
『スケルトン剣士』×1
古びた剣を装備したスケルトンです。
最初は戦場に存在せず、『蠢く残骸』が1回のみ出現させます。
命中と回避は非常に高いものの、装備が弱いため威力は並程度。
ただ存在するだけで崩れていく【ダメージ100】【ロスト50】個体でもあります。
最も近くにいる生者を襲います。
『スケルトン銃使い』×3
古びた銃を装備するスケルトンです。
銃から撃ち出すのは銃弾に似た形をした呪詛【神遠単】【体勢不利】で、『古びたスケルトン』と積極的に連携しようとします。
この島への侵入者を襲います。
『古びたスケルトン』×40以上
一部の骨が壊れたり、いくつかの骨が足りないスケルトンです。
服や鎧の残骸を装備している個体もいます。
あらゆる能力が低いものの恐怖は感じず、至近距離に生者がいない場合は何もせず佇んでいることも多いです。
以上のアンデッドには知能らしい知能はありません。
知性があるように見えたとしても、生前の動きの模倣でしかありません。
スケルトンの骨と装備は、スケルトン撃破後も残ります。
●友軍
『海洋船』×1
海洋の軍有志が乗り込む大火力船です。
艦砲射撃【物超範】【業炎】が可能ですが命中は高くなく、スケルトンには当て辛いです。
船長は負傷していますが、船の指揮と士気には問題ありません。
イレギュラーズからの要請があれば、短槍と拳銃を装備した兵士10名が陸に向かって出撃します。
ただしイレギュラーズよりずっと弱いです。
必要がない場合は、砲撃等は行いません。
●地図
1文字縦横10メートル。戦闘開始時点の状況。上が北
abcdefghijkl
1□□□□□骨□■■■■■
2□□□□銃□■■■■■船
3□□□□□骨■■■■■船
4□骨骨骨□□□■■■■船
5□骨×骨□□□■■■■■
6□骨骨骨骨□□■■■■■
■=海です。波は穏やかですがかなり深いです。
□=砂浜です。漂流物が多く打ち上げられ、地上移動時は機動力-1。
×=『蠢く残骸』の、最も分厚い部分があります。
骨=『古びたスケルトン』が3~4体います。
銃=『スケルトン銃使い』3体が、生者の上陸を待ち構えています。
船=海洋船です。停止しています。イレギュラーズの初期位置でもあります。
●情報確度
このシナリオの情報精度はBです。
情報は全て信用できますが、不測の事態も起こる可能性があります。
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