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シナリオ詳細

鋼鉄血雨ウォーリアーズ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ヴォルフガング鋼鉄団
 場所は血雨高原と呼ばれる荒野。
 乾いた土地に散らばる骨と、武器の残骸。
 吹きすさぶ風には埃が混じる。
 そんな荒野……かつては高原だった古戦場だ……を根城とする一団がいた。
 彼らは“ノーザンキングス”に所属する総勢17名ほどの小集団だ。
 リーダーを務める男の名は“ホルンベルク”と言う。
 かつて行われた鉄帝国との戦闘で、両腕を斬り落とされた中年の男だ。
 彼は鉄帝国への復讐を誓い、自身に同調する仲間たちを集めた。
 それが〝ヴォルフガング鋼鉄団〟の成り立ちである。

 ホルンベルク最初の仲間は“ヨハン”と言う名のスナイパーだ。
 ヨハンもまた、戦闘で同じ舞台の仲間たちを皆失った。
 後方指揮を得意としていたヨハンだけが、その戦いで生き残ってしまったのである。
 その後、ホルンベルクは失った右腕にガトリング、左腕に鋼鉄の義手を取り付けて戦場に復帰。
 今では「ガトリング・ホルンベルク」の異名を取るほどの猛者になりあがっている。
 ヨハンの指揮とホルンベルクのカリスマのもと、ヴォルフガング鋼鉄団は武器を揃え、策を練ることで鉄帝国へ一矢報いるだけの力を付けた。
 さらについ最近、血雨高原の何処かに鉄帝国も無視できないほどの兵器を用意したという。
 その情報を得た鉄帝国は、ついにヴォルフガング鋼鉄団の討伐に乗り出すことにした。
 こうしてイレギュラーズたちは、鉄帝国からの依頼によりヴォルフガング鋼鉄団の討伐へ乗り出すことになる。

●作戦指令
「あぁ、どうにも血生臭い話になりそうだ……まぁ、君たちなら問題なく依頼達成できるだろ?」
 挑発するような笑みを浮かべて『黒猫の』ショウ(p3n000005)はそう言った。
 それからショウは、イレギュラーズたちに一枚の地図を手渡した。
 地図に載っていたのは、高低差のない荒野のようだ。
「これが血雨高原の地図だ。まぁ、大層な情報は載ってないがな」
 周囲を高台に囲まれた立地。
 かつての高原……戦争の結果、地面は抉れ草木の生えない土地となり果てたという。
 半径300メートルほど。ほぼ円形の荒野である。
 荒野のどこかにヴォルフガング鋼鉄団の基地と……そして、彼らが作り上げたある兵器が隠されているという。
 また、荒野の至るところに鋼鉄団のメンバーのみが知る塹壕が掘られているらしい。
「塹壕からの奇襲には要注意だな。ホルンベルクとヨハン以外のメンバーは、一般的なマシンガンを所持しているみたいだぞ」
 中距離ほどの位置からばら撒かれる銃弾は、威力は低いが回避はなかなか難しい。
 だが、問題にすべきはホルンベルクやヨハンの方だろう。
「ホルンベルクのガトリングには【崩れ】と【出血】が付与されている。注意してくれ。それから、ヨハンの武器はライフルだ。長い射程と貫通、そして【ブレイク】には警戒が必要だな」
 一般兵士は、ホルンベルクやヨハンの指揮がなければさほど脅威にはならないだろう。
 だが、この2人は別格だ。
 さらに……。
「それから、鋼鉄団の拠点にあるという兵器だな。操縦には数名の兵士が必要らしいが……悪いな、詳しい情報は不明なんだ」
 そう言ってショウは、苦々し気に眉間に皺を寄せた。
 けれど、判明している情報もいくらかはある。
「射程は長く、広域に影響を与えるものらしい。また【業炎】の状態異常を付与するという。連射が効かないというのが救いだな」
 以上が、今回得られた情報となる。
 ポイントとしては、火器を装備した者ばかりで編成された部隊であることと、高火力の兵器が用意されていることの2点だろうか。
「それじゃあ、よろしく頼んだぞ」
 と、そう言って。
 ショウはイレギュラーズを送り出す。

GMコメント

●ターゲット
・ホルンベルク(人間種)×1
右腕にガトリングを装着した偉丈夫。
高いカリスマ性でヴォルフガング鋼鉄団を率いている。

ガトリング:物中範に中ダメージ、崩れ、出血


・ヨハン(人間種)×1
ホルンベルクの副官。
部隊の指揮と狙撃を得意とする男性。

スナイプ:物超遠単に中ダメージ、ブレイク


・一般兵(人間種)×15
ヴォルフガング鋼鉄団の構成員。
練度は高いが、これまで優秀な指揮官の指示のもと活動を続けて来たため、命令の届かない場合は連携が上手く取れないことがある。

射撃:物中単に小ダメージ


・ヴォルフガング鋼鉄団秘密兵器×1
ヴォルフガング鋼鉄団の作製した秘密兵器。
操作には数名が必要らしい。

???:神遠域に中ダメージ、業炎


●場所
血雨高原と呼ばれる荒野。半径はおよそ300メートルほどの円形。
草木も生えない乾いた土地と、武器や兵器の残骸が散らばっている。
血雨高原のどこかに鋼鉄団の拠点が、また至る所に鋼鉄団が作った塹壕が掘られている。

  • 鋼鉄血雨ウォーリアーズ完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年06月27日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)
死を齎す黒刃
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
メル・ディアーチル(p3p004455)
笑顔の仮面
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)
雷神
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
リズリー・クレイグ(p3p008130)
暴風暴威
ラグラ=V=ブルーデン(p3p008604)
星飾り

リプレイ

●血雨高原
 血雨高原と呼ばれる荒野。
 乾いた土地に散らばる骨と、武器の残骸。
 吹きすさぶ風には埃が混じる。
「私ちゃんは目がチョーいいのでめっちゃよく見えるぞぅ」
荒野を見下ろす丘の上、桃色の髪を片手で押さえラグラ=V=ブルーデン(p3p008604)
は戦場となる盆地を見渡す。
 スキルによって強化されたラグラの視力にかかれば、半ば地面と同化している塹壕でさえも問題なく発見できる。
「あそことあそこ……それに、向こうも怪しいなぁーっと。すいませんねぇ、ヴォルフガング鋼鉄団の皆さん。これもお仕事ですからね。お手柔らかにお願いしますよ?」
 素早く戦場の何か所かを指さし、ラグラは言った。
 それを合図に、仲間たちが動き出す。

「敵の防御陣地を攻略するには敵の数の3倍の自軍戦力が必要らしいけど……私達の前にはその言葉が無意味である事を見せてあげるわよ!」
 金色の髪が、乾いた風に揺れていた。『狐です』長月・イナリ(p3p008096)は剣を構えて、戦場へと駆け降りる。彼女の頭上ではファミリア―で呼び出した小鳥が旋回を続けていた。
「最優先事項は敵の秘密兵器を潰す事だ。それさえ無くなればいかに練度の高い部隊と言えど鉄帝の脅威とはならん」
イナリと並び、先陣を切るは『戦神凱歌』ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)だ。
 血雨高原は、今回のターゲットであるヴォルフガング鋼鉄団の本拠地である。その場に踏み込んだ以上、隠密行動など不可能に近い。
 そう判断したからか、ベルフラウは自身の誇る朱の旗を頭上に掲げる。風になびく旗は、乾いた荒野で良く目立った。
敵の攻撃や視線を自身に集める目的もあるのだろう。
 
戦場を駆けるイナリとベルフラウ。
その後ろには『死を齎す黒刃』シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)が続く。
イナリとベルフラウが敵の注意を引いている間に、敵の潜む塹壕を制圧するのがシュバルツの役割だ。
「色々事情はあるんだろうが、出る杭は打たれるのが摂理ってモンだ」
「イナリ達に副官を抑えてもらっている内に、塹壕を制圧しましょう!」
シュバルツと並走する『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)も戦闘態勢を整えた。
ヴァレーリヤの得物はメイス。小柄な身体には不釣り合いな重量武器だが、彼女はそれを巧みに操る武闘派司祭であった。
イレギュラーズが戦場に踏み込んでから数十秒。
 未だ、敵からの攻撃はない。
 こちらの動向を伺っているのか。
 あるいは……。
「敵さんの秘密兵器ってのは何だろうねぇ? 迫撃砲……いや、自走砲か何かかねえ? いずれにしても、足を止めるのはあまり良くなさそうだ」
 用意した秘密兵器による殲滅を狙っているのかもしれない。
そう告げた『荒熊』リズリー・クレイグ(p3p008130)は、愛刀を手にベルフラウの横に並び立つ。
 生来のものか、普段は平和を好むリズリーだが、いざ戦場に立てば誰よりも熱い戦意を胸中で滾らせるのだ。
 
 銃声が鳴り響く。
 超長距離からの精密狙撃。銃弾に撃ち抜かれ、ベルフラウが姿勢を崩した。咄嗟に短槍でガードをしたおかげで、致命傷こそ避けたもののダメージはなかなかに大きい。
 さらに、周囲の塹壕から兵士たちが顔を覗かせる。その手には散弾銃が握られていた。
 先ほどの狙撃が襲撃の合図だったのだろう。
「秘密の兵器に秘密の塹壕。嗚呼、成程。こりゃあ鉄帝軍は下手に送り込めないわ……だってまあ、正規の軍人ですら清々しいまでの脳筋ですから、ねえ?」
ベルフラウの頭上を跳び越え、塹壕へ駆け寄ったのはゼファー(p3p007625)である。
 ゼファーは左右に素早く動く。
そのせいか、塹壕に潜む兵士はゼファーに狙いを定め切れない。
 業を煮やして兵士が塹壕から上半身を外に出した。
 瞬間、急旋回したゼファーの槍が兵士の側頭部を打ち据えた。
 きれいに入った一撃が、兵士の意識を刈り取ったのだ。

「おー、狙いも射程もやべーのでごぜーますね。っても、今ので場所は分かったかなぁ?」
 戦場を俯瞰しながらラグラは告げた。
 先ほど、ベルフラウを襲った超遠距離射撃。おそらく、放ったのは敵の副官であり、スナイパーでもあるヨハンという男だろう。
 生憎と姿は見えない。
 けれど、およその居場所には検討が付いた。
 ラグラは視線を右へと向ける。
 ラグラのアイコンタクトを受け『笑顔の仮面』メル・ディアーチル(p3p004455)は小さく笑う。
 その手には白銀のライフルが握られていた。
「対狙撃手も狙撃手の仕事……ってね? あ、ところで任務が終わった後で打ち上げとかどう?」
「あははー。仕事に集中してくだせーい」
「集中してるよ。でも、上手く隠れているみたいで、迂闊に撃てない」
 囁くように言葉を交わし、メルは困ったように肩を竦めた。
「じゃあ、気弱そうなの1人くらい捕まえるよう他の方にお願いしますかぁ?」
 それが一番簡単なのでは? なんて、言って。
 ラグラは仲間たちへ向け、そう連絡を入れるのだった。

●血煙弾雨
 シュバルツの姿が二重にぶれる。
 片方は彼の造り出した幻影だ。放たれた散弾がシュバルツの影を撃ち抜いていく。
「その程度の銃撃じゃ、俺を止める事は出来ねぇぞ!」
 果たして、シュバルツの声は兵士の耳に届いただろうか。
 短刀による連撃が、兵士の身体を滅多に刻んだ。
「……っと、そうだった」
 兵士の命が尽きる直前、ふと思い立ちシュバルツは攻撃の手を止める。
ラグラから、兵士を1人生きて連れて来いと言われたことを思い出したのだ。
 こいつでいいか、と。
 切り刻まれ、半死半生といった有様の兵士を引き摺り、シュバルツは後方へと下がる。

 塹壕に身を潜ませるゼファーとヴァレーリヤは、ひそひそと声を潜めて言葉を交わす。
 2人は先ほどから、次のポイントへ移動できていなかった。
 どうやら潜伏場所が敵にバレてしまったようだ。2人の隠れる塹壕から少し離れた位置に、敵の兵士たちが隠れているのだが……。
「そー……っとね」
 造り出した幻影を塹壕から外に覗かせる。
 瞬間、雨のごとく降り注いだ弾丸がゼファーの幻影を撃ち抜いた。
「ちょっと心が痛くなってきた!」
 先ほどから何度も同じことを繰り返している。
銃弾を浴びる自分の姿を何度も見るのは、なかなか心にくるものがある。
「ヴァレーリヤもちょっと顔出してみる? ん?」
「出しませんわよ! 蜂の巣になったらどう責任取ってくれますの!?」
 きつくメイスを握りしめ、ヴァレーリヤは言葉を返す。
 そう言い返しはしたものの、いざとなれば多少のダメージは覚悟している彼女であった。

 兵士を1人切り伏せて、リズリーは頬に付いた返り血を拭う。
彼女の身体には無数の銃創。被弾を顧みず、敵兵の討伐を優先したためだ。
「ここまで休ませてもらったからね、多少の被弾は許容して行くよ」
 さぁ、次の獲物は……と、視線を巡らせたリズリーの視界に映る銀の髪。
 塹壕から現れ、そしてすぐさま蜂の巣になるゼファーであった。
「幻影? あぁ……隠れたはいいが、出て来られないのか」
 それなら、と。
 剣を構えたリズリーは、仲間を救うべく敵兵の潜む塹壕へ向け歩き始めた。

 シュバルツによって連れてこられた兵士の口には、石が一つ乗せられていた。
 このまま石を殴りつければ……どうなるかを察し、兵士は顔色を青ざめさせる。
「お? どうなるか分かった? 分かったんなら、拠点の場所教えてくーだせい」
 魔眼の力を行使しながら、ラグラは兵士の瞳を見据えた。
 兵士の意識が曖昧になり、震えた声でラグラの問いに答えを返す。
 こうしてラグラは敵の拠点を突き止めた。

 まるで小さな台風のようだ。
 剣と盾を振り回し、兵士たちを力任せに塹壕から引きずり出していく。その隙にゼファーとヴァレーリヤは次のポイントへ移動済だ。
 剣の一撃が、地面の土を大きく抉る。
 飛び散った土砂の合間を抜けて、1発の銃弾がリズリーの肩を撃ち抜いた。
 衝撃と痛みに、リズリーはその場に倒れ込む。リズリーの攻撃タイミングと併せた狙撃……おかげで、銃声に反応できなかった。
 さらにもう1発。
 リズリーの耳は銃声を捉えた。けれど、土砂に紛れて弾丸の軌道が分からない。
 襲い来るであろう衝撃に備え、リズリーは歯を食いしばる。
 その直後……。
「すまない、1発抜かれてしまった。だが、もう安心だ!」
 リズリーの眼前に跳び込んだベルフラウが、その身を挺してヨハンの狙撃を防いでみせた。
地面に旗を突き立てて、己の存在を敵に誇示する。
「かつて祖国に敗れし亡霊よ、今再び仲間を失う恐怖に臆するならば去れ!」
 戦場全土に鳴り響くほどの大音声で、吠えるようにベルフラウはそう告げる。
「そうでないと言うのであれば……貴様らの持つ最強で来い。豆鉄砲ではこの旗を折るには能わぬぞ」
 朱の旗に刻まれるは、2頭の獅子と薔薇である。それこそが彼女の誇り。彼女の誓い、祈りの象徴でもあった。

「しっかしこれだけやれる行動力があるなら、傭兵団でもやってりゃもっと上手く生きられたろうに。恨みつらみはそれだけ人を狂わせるって事なんだろうなー。あーやだやだ」
 ライフルのサイトを調整しながら、メルはぶつぶつと独り言を呟く。
 だらだらと、言葉を紡ぎ……。
「それじゃ全部ひっくるめてズバーンと撃ち抜いちゃいますか」
 静かに。
 囁くように、そう言って彼の顔から表情が抜け落ちる。
 感覚のすべてを、瞳と指先に集約し、その時が来るのを待っていた。
 呼吸は浅く、そして少ない。
「…………」
 ピクリ、とメルの指先が動く。
 放たれた弾丸は、空中で何かと衝突。弾けて地面に落下した。
 地面に落ちたのはへしゃげた2発の弾丸だ。片方はメルの、もう片方はヨハンの弾丸である。
 さらに、もう一度。
 銃声と、衝突音。
 地面に落ちる弾丸は、またもや2発。
 信じがたいことだが、ヨハンの弾丸を、メルは空中で狙い落としているようだ。
 メルがいる限り、ヨハンの狙撃が成功することはないだろう。
 にぃ、とメルの口元に笑みが浮く。

 地面が揺れる。
 男たちの雄叫びが、乾いた荒野に響き渡った。
「何か来る。まさか、秘密兵器とやら? だったら、それより先に仕掛けるわ!」
 イナリの剣に業火が灯る。
 剣だけでなく、その身にも膨大な熱量が宿り周囲の景色が陽炎のように揺らいで見えた。
 すぐ背後に控えていたシュバルツは、あまりの熱さに数メートルほど後ろに下がった。
 掲げた剣が、眩い輝きを放つ。
 直後……。
「せいっ!」
 気合一声。
 剣を振り下ろすと共に、蓄えられた熱が開放された。
 まるでレーザーのような……あるいは、太陽光を集約したような熱線が、ヴォルフガング鋼鉄団の拠点を焼き払う。
 業火と、そして土埃が舞い上がり……。
「あぁ、くそ……」
 悪態と共に立ち上がった痩身の男……ライフルを構えていることから、おそらくは彼がヨハンだろう……の喉元を、1発の銃弾が撃ち抜いた。 
 それは、メルの精神力を具現化した魔力の弾丸だ。
 悲鳴をあげることもなく、ヨハンは血を吐き仰け反った。
 倒れ伏すその身を炎が飲み込み、やがて灰へと変えていく。

●乾いた風と降る雨と
 スコープを除くメルの頬に、つぅと一筋冷や汗が伝う。
 同じく、戦場を俯瞰していたラグラも引き攣った笑みを浮かべていた。
 業火と土煙を割るようにして、地響きと共に現れたのは所謂〝戦車〟というものだろう。
 だが、その大きさも、砲塔の長さも、口径も、そこらの戦車とは桁が違う。
 燃える大地を踏みしめながら、前身を続ける戦車の上に1人の偉丈夫が立っていた。片腕にガトリングを装着した大男……ヴォルフガング鋼鉄団のリーダー・ホルンベルクだ。
 さらに、戦車に続いて戦場を進む4名の兵士たち。
 生き残っている兵士のうち、戦車の操縦に携わっていない者たちだ。
「あー、とりあえず、操縦者がいそうな所めがけてジャスパー投げるぞい」
「それじゃ、僕は援護に専念しようかなー。仕上げはほかの皆によろしくーってね」
 ラグラは短杖を、メルはライフルを手に取ると戦場へ向け駆け出した。

 野太い声が響き渡った。
 強い怒りを瞳に宿し、ホルンベルクは部下たちとともに戦火の中を突き進む。
「ヨハンは死んだ! 拠点は燃えた! けれど、我らの恨みと、我らの戦意は未だこの胸中で燃え続けている! それに、戦車〝ヴォルフガング〟も未だ健在! この場を切り抜ければまだ立て直せる! 皆、意地でも生きてこの戦場を突破せよ!」
 応! と、揃った無数の返答。
 より一層、戦意と集中力を増した兵士たちによる進軍は、こうして開始されたのだ。
 
 轟音と共に降り注ぐ散弾。
 そしてガトリングによる掃射。
 地面を這うようにして、シュバルツとゼファーは戦火の中を駆け回る。
 敵の狙いを定めさせないための行動だ。
 さらに、メルの狙撃やラグラの支援もあり、イレギュラーズは撤退せずその場に留まることが出来ている。
「こっちも依頼で来てる以上、お前らの野望、悪いが潰させて貰うぜ……!」
 銃弾の雨を潜り抜け、シュバルツは歩兵の懐へと潜り込む。
 短刀を一閃。歩兵の右腕が手首の位置で切断された。
 飛び散る鮮血。けれど歩兵は悲鳴をあげず、血走った眼でシュバルツを見た。
「っ……嘘だろ!?」
 短刀による追撃で兵士の喉を切り裂きながら、シュバルツは素早く後ろへ下がる。
 血を吐きながらも、兵士は片手で銃を操りシュバルツへ向け散弾を撒いた。さらに、死に行く仲間を巻き込む射線で、数名の散弾がシュバルツへ集中。
 右足と右腕を朱に染めながら、シュバルツはその場に倒れ伏す。
 シュバルツへ向け、ホルンベルクがガトリングの銃口を向けた。
 そんなホルンベルクの眼前に、ヴァレーリヤが躍り出る。
「殴り込みですわー! どうやら貴方の戦略は力押しの単純なもののご様子。純粋な人、私、好きでしてよ!」
 口の中で聖句を唱え、ヴァレーリアはホルンベルクの脳天にメイスの一撃を叩き込む。
 姿勢を崩したホルンベルクの頭上。追撃をかけるべく、跳び込んだのはゼファーである。
「はぁっ!」
 速く、鋭い一閃がホルンベルクの首へと迫る。
 けれどホルンベルクは咄嗟に鉄の義手を掲げ、ゼファーの槍を防いで見せた。
 鳴り響く硬質な音。ホルンベルクの義手が砕ける。
 だが、ホルンベルクや兵士の視線をシュバルツから逸らすことには成功した。
「シュバルツがピンチですわね。ごめんなさい、ゼファー! 一時撤退致しますわ!」
「了解! 援護は任せて。身を守るだけが能じゃなければ、殴るだけが能でもないからねえ。どっちも器用にこなしてこその武人、ってヤツでしょ?」
 ホルンベルクへ牽制を仕掛けながら、ゼファーはそう言葉を返した。
 その隙にヴァレーリアはシュバルツを引き摺り、後衛へと下がる。ついでとばかりに、兵士を1人殴り倒した。

「撃てぇっ!!」
 敵陣後方へ狙いを定め、ホルンベルクは戦車による砲撃を試みる。
 轟音と共に放たれた大口径の砲弾が、弧を描きながら荒野へ着弾。業火と衝撃を撒き散らしながら、地面に大きなクレーターを穿った。
「う……く」
 クレーターの縁から顔を覗かせたのはイナリであった。金の髪は煤け、皮膚にはひどい火傷の痕跡。
 イナリに引きずられるようにして、メルとラグラが土の中から現れる。砲弾が着弾する直前、イナリは2人を庇うために後方へと下がったのだ。
 自身に【マギ・ペンタグラム】を付与していたこともあり、意識を失わずに済んでいる。もっとも、ダメージが大きいことに違いはない。
「でも……再装填には時間がかかるわよね?」
 満身創痍。
けれどイナリは笑ってみせた。

姿勢を立て直したホルンベルクの視界の先で、最後の歩兵が息絶えた。
 ベルフラウの短槍により、その腹を貫かれたのだ。
「ヴォルフガング、か。我が父ヴォルフと同じ名……面白くはないな。これ以上父に対して詰まらぬ噂を立てられる訳にもいかん。潰させて貰う」
 血に濡れた槍先を突きつけながら、ベルフラウはそう告げた。
 ホルンベルクは無言のままにガトリングを構える。
 これ以上、言葉は不要。
 鳴り響く銃声。空気が震え、地面に無数の穴が空く。銃弾の雨の中を、ベルフラウは突き進む。鎧を纏っているとはいえ、ノーダメージとはもちろんいかない。
 鎧には無数の傷。抜けた弾丸により、鎧の隙間からは血が零れている。
 けれど、ベルフラウはホルンベルクの眼前へと辿り着いた。
 その様子を、戦車の中の操縦手たちは黙って見つめることしかできないでいた。
 やがて、ホルンベルクの弾丸が尽き……。
「ここまで……いや! 諦めるわけにはいかん!」
 弾の切れたガトリングを振り上げる。
 ベルフラウの頭部にそれが叩き込まれる、その直前……。
「腕斬り落とされたらまあ、恨むだろうねえ。その気持ちは納得はできるけど、戦いには関係のない話さ。ま、もし生き残っちまったら次はあたしを恨みな!」
 ベルフラウを押しのけ、リズリーが跳んだ。
 大上段から振り下ろされる一撃が、ホルンベルクの肩から胸にかけてを斬り裂く。
白目を剥き、ホルンベルクは血を吐いた。
けれど、彼は倒れない。
倒れないまま、その生涯を終えたのだ。

成否

成功

MVP

ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)
雷神

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
ヴォルフガング鋼鉄団は、リーダーと指揮官を失い降伏しました。
依頼は成功です。

砂漠の兵隊たちとの戦い、いかがでしたでしょうか。
お楽しみいただけたなら幸いです。
機会があれば、またのご参加おまちしています。

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