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シナリオ詳細

昏き森のアスタス

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●アスタス伝承
 揺れる安楽椅子。
 皺と骨ばかりの手をてすりに乗せて、老婆は膝の上に本を開いた。
 地元に伝わる絵本のひとつで、『森のアスタス』という。
 ある正直な男が貧困に苦しんで森で野草をとっていると、アスタスが現われて老いた尻尾を切り落としていくという話だ。
 より深く説明すると、尻尾からは高等な薬ができ男は貧困から逃れるが、更に尻尾を乱獲したところアスタスに群がられ殺されてしまうというオチである。
 幻想の本屋にも置かれることもある、比較的ポピュラーなお話だった。
「アスタスは森にすまう亜人だよ。
 絵本にあるように――灰色の翼と蛇の下半身、そして鱗に覆われた顔をしてるんだ」
 老婆は絵本のページを撫でた。
「アスタスにはこの土地の古い言葉で『軋む鳥』の意味がある。
 飛ぶたびにキイキイと軋むような独特の音がすることから、この名前がついたんだそうだ。
 他にも……そうだねえ。アスタスの羽根でできたアクセサリーが売っているんだけれど、どこかツンとする臭いがすることから魔除けのお守りにされていたね。
 なに、ただの観光グッズさ。目に見えるような効果はないよ」
 そう言って、棚を指さす老婆。
 ここは村の雑貨店。
 アスタスの羽根飾りが売られている。

●素材収集依頼:アスタスの尾
「やあ、丁度良かった。狩りは得意かな?
 動物を見つけ出したり、それを殺して持ち帰ったりするお仕事さ。
 興味があるならついておいでよ。今から説明をしようと思ってたんだ」
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)は手を翳し、喫茶店へと入っていく。

 年季の入った木のテーブル。並んだコーヒーカップ。たちのぼる香り。
 ソーセージとポテトフライがたっぷりと盛られた皿のそばに、ケチャップとマスタードのボトルがどこか豪快に据え置かれていた。
「今回は医術ギルドからの依頼でね、『アスタスの尾』を『10本』集めて欲しいそうなんだ。
 知ってるかな? この素材からはいい薬が作れるからね、必要とする医者もいるのさ」
 テーブルにスクロールを広げていく。
 描かれていたのは森の地図だ。といっても、「ここからここまで大体森!」といった非常にざっくりした地図である。
 しかしそれでも、森が非常に広大であることと、山に囲まれていること。森の間を割るように一本の川が流れていること。川の下流および森の端にあたる場所に村があることがわかった。
「アスタスはこの森に生息している亜人系のモンスターさ。
 絵本で見たことあるだろう? 灰色の翼と蛇の尻尾と、鱗だらけの顔のやつさ。
 生態は謎でね……狩人の話だと、森の中を1体ずつばらばらに徘徊しているように見えるんだそうだ。どんな目的があるのか、そういう習性なのか。そういうのは動物知識やモンスター知識に詳しい人が知ってるんじゃないかな?」

 内容を要約すると、森に入りアスタスを見つけ、戦って倒し、尾を合計で10本以上獲得し、帰ることだ。
「アスタスは飛行能力と鋭敏な嗅覚をもってると言われてる。
 戦いになると素早く動き回り、人の精神を食らうそうだ。
 森を探索すればそれだけアスタスとの遭遇率も高くなるけど、何人も固まって移動していると警戒して逃げてしまう恐れもある。ちゃんと戦いに持ち込めるように、少数チームで分かれて動くのをオススメしておくよ」
 それじゃあ後は頼むね。
 ショウはそう言って、テーブルに資料と絵本、そして人数分の飲食代を置いて席をたった。

GMコメント

 いらっしゃいませ、イレギュラーズの皆様。
 こちらはバー『LOL』。昼間はカフェを営んでおります。
 お代は余分に頂いております。追加のご注文はございますか?

【依頼内容】
 『アスタスの尾を10本以上獲得してくること』

●依頼特徴
・深い森:深い森です。薄暗く遮蔽物が多いため視線が通りづらくなります。また植物や動物が多く、人があまり入らない環境にあります。
・時間制限(長):長期休憩を1依頼中1回まで行なえます。この休憩でHPとAPを全回復できます。戦闘不能は回復できません。
・要手動救出(HP0):味方が戦闘不能になった場合、森の外まで搬送する必要があります。この途中で追撃をうけた場合、重傷のリスクが発生します。
・探索パート:探索パートがあり、工夫によって探索を効率化できます。

【探索パート】
 森に入り、探索を行ないます。
 アスタスはこちらの数が多いと逃げてしまう危険があるため、人数を少なくして分散させる必要があります。
 目安としては『4人以上になるとキツい』くらいでしょうか。
 逆に森からの撤退時に人数を増やすことで追撃リスクを回避することもできます。

 探索中は1回だけ任意の場所で休憩をとることができます。
 これによってHPAPを全回復できますが、戦闘不能を回復することはできません。

【エネミー表】
 以下のエネミーが発生します。

甲:アスタス
 今回の狩猟目標。飛行能力があり、すばしっこい。
 短所:HP、防御技術
 長所:EXA、回避
→使用スキル
 灰色の翼(非戦):飛行できます
 すぐれた嗅覚(非戦):すぐれた嗅覚です。人の臭いや、その数をなんとなく把握します
 精神捕食(神近単【猛毒】):相手の精神を食らい、肉体を蝕みます。

乙:野生の熊
 野生の熊です。冬眠から目覚めてうろうろしています。人間を見かけるととりあえず襲ってきます。
 短所:反応、機動力、回避
 長所:攻撃力、防御技術、HP
→使用スキル
 凶暴(非戦):人間が何人いてもひるまず襲ってきます
 命大事に(非戦):ダメージを沢山受けると逃げる習性があります
 爪(物至単【出血】):爪で切りつけます

【アドリブ度】
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。

  • 昏き森のアスタス完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年04月16日 21時10分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
八田 悠(p3p000687)
あなたの世界
幽邏(p3p001188)
揺蕩う魂
パン・♂・ケーキ(p3p001285)
『しおから亭』オーナーシェフ
ミア・レイフィールド(p3p001321)
しまっちゃう猫ちゃん
佐山・勇司(p3p001514)
赤の憧憬
桃山 風詩美(p3p001519)
ピンク・ファンク
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
杜乃守 エンジュ(p3p004595)
みどりのかみさまのこ
ルクス=サンクトゥス(p3p004783)
瑠璃蝶草の花冠

リプレイ

●森
 雨に置き去りにした本を開いたかのようだ。
 『祖なる現身』八田 悠(p3p000687)は深く呼吸をして、しめった草の香りを確かめた。
 草に含まれる何かしらの成分が、あちこちに存在する野草と異なることが感覚でわかる。
 『誓いは輝く剣に』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)は同じように呼吸をしてから、かくんと首を傾げた。
「生き物の尻尾が薬になる、実感はなかなかわきませんんね……」
「そうかな。トカゲのしっぽや蛇の血はよく薬にされるよ」
「そういうものなんでしょうか」
「はんてぃんぐはんてぃんぐー!!」
 細かいことはなにも考えていないような調子で、『ピンク・ファンク』桃山 風詩美(p3p001519)がしめった土の上をスキップしていく。
 ブーツで土を散らして、手を後ろで組んだまま身体ごと振り返る。
「日本でJKやってるだけじゃこんなスリリングなことできなかったし。超ーぅ楽しーいー!」
 このくらいの構え方が丁度いいのでは?
 そんな顔で風詩美を指さす悠。シフォリィは苦笑して首を振った。

 一方その頃、『『しおから亭』オーナーシェフ』パン・♂・ケーキ(p3p001285)は剣を担いで森の中を歩いていた。
 剣の柄には近くの雑貨屋で売っているアスタスの羽根でできたアクセサリーがさがっている。ここへ来る途中で購入したものだ。
「確かにツンとする臭いだ。一日もすれば消えてしまいそうな……」
 羽根のにおいをかいでいるパン。その様子をちらりと見る『朱鬼』鬼桜 雪之丞(p3p002312)。
「蛇の尾とは鵺を思い出す獣でございますね。鵺のあれも、切れば薬になったでしょうか……」
「ぬえ?」
 小首を傾げた『みどりのかみさまのこ』杜乃守 エンジュ(p3p004595)だが、深く聞くことでも無いかなと前に向き直る。
「植物であれ、鉱石であれ、生物であれ、薬品になるのは珍しくないからねぇ。その薬を必要としている者が居るのなら、止む無しだけれど……かと言って、人の勝手で生態系を崩したくもないし、せめて殺さないようにしないと」
「ん……」
 『しまっちゃう猫ちゃん』ミア・レイフィールド(p3p001321)はこくこくと小刻みに頷いて、雑貨屋さんで手に入れた絵本を開いた。
「動物は、群れる子が多い、けど……アスタス……は、くまくまより弱そうなのにひとり。不自然……なの」
 群れる動物が一人で移動する時といったら、餌を探す時ではないか。
 ミアはそんな風に考えた。
 だからこそ臭いで危険を察知したら離れてしまう。
「そこでこれだな」
 剣の柄にさげた飾り羽根をつつくパン。
「パンパンのそれで、臭いがごまかせるかもしれない……にゃ。他にも……」
 ミアはあちこちの草を集め、臭いを誤魔化す工夫を提案してみた。
 動物から隠れる際に土や草を纏うのは割と一般的な偽装方法だが、それでアスタスの鼻を誤魔化せるだろうか?
 そんな風に考えていると、エンジュが……。
「いい考えだと思うよ。特にこの草。成分が羽根に似ている気がするんだ」
 たまにはえている見慣れぬ肉厚の草。それをぎゅっと握ると、ツンとした臭いがした。

 木々の間を縫うように、ゆっくりと移動する『揺蕩う魂』幽邏(p3p001188)。
(男が貧困から抜け出すのは興味が無い……ただ……倒しすぎるのは危険……決められた数だけ取る……)
 無骨なライフルを抱くように装備し、幽邏は周囲の様子をうかがっていた。
 彼女を守るように前を歩く『誰ガ為』佐山・勇司(p3p001514)。
 黒い鎧ががしゃんがしゃんと小さな音をたて、ぬかるんだ土を進んでいく。
「薬があれば多くを助けられるが欲を出せば身を亡ぼす……か。まっ、俺はいつだって俺に出来る事をするだけだ」
「気負わずとも、人手も有る事だし、の」
 周囲をきょろきょろと探りながら歩く『瑠璃蝶草の花冠』ルクス=サンクトゥス(p3p004783)。
 ピクニック気分とまで言わないが、フィールドワークに心が躍っているようだ。
「アスタスは絵本にのるほど有名だが、生態に関する資料は意外に少ないのであるよ」
 コンパスを手にマッピングをしながら、近くの草花を観察する。
 森の上からファミリアーで俯瞰しつつマッピングをしているので、ルクスを連れたチームが森で迷うことはそうそうないだろう。
「分かっているのは、人間を喰わないことと尻尾が薬になること……それと」
 近くの草をぷちんと抜く。
「自身の健康状態を保つために薬草を食べていること、である」

●アスタス
 木々の間を抜ける風。灰色の翼をはばたかせ、アスタスが飛ぶ。
 無数の樹幹を蛇行するそれを、シフォリィは回り込みによって阻んだ。
 鞘から抜いた剣。白銀の刃に菱形の鍔。両足を開いてブレーキをかければ、追った銀髪の先が反動で流れてゆく。
 アスタスは彼女を強行突破するつもりか勢いを増し、低空飛行のまま突撃をかけてきた。
 衝突。衝撃。浮遊感。
 アスタスがカッと牙を見せた途端、シフォリィにずきりとした痛みが走った。まるでファントムペインだ。とれてもいない四肢にありもしない痛みが走る。
 だがそれがアスタスの攻撃手段だということを、彼女たちは知っていた。
 シフォリィはギリギリで剣を突き立てると、相手をひっかくように切りつける。
 吹き飛んでいったシフォリィをキャッチするのは悠の役目だ。やわらかく捕まえて、親指ひとつで開封した奇妙な薬品を振りかけていく。不思議な香りに包まれ、痛みが消えてゆく。
 より不思議なのは、悠の薬瓶が注ぐそばから増えて一向に減っていないことだが、それはまた別の話だ。
「モモちゃん戦闘モード☆ アスタスちゃんもピンク色だったらかわうぃかったかもなんだけどなーっ!」
 アスタスを後ろから追いかけていた風詩美は指鉄砲の構えをとって『ばっきゅーん』と唱えた。
 するとピンク色の星形をした魔力塊が発射され、アスタスの尻尾に打ち込まれていく。
 ブレーキアンドスピン。さながら二丁拳銃のように構えたもう片方の指鉄砲を水平に構え、ウィンクをした。するともう一発おまけに放たれた魔力塊がアスタスに直撃。
 勢いを弱めたアスタスのしっぽを、シフォリィはここぞとばかりに切り落とした。
 これはたまらないとばかりに飛んで逃げていくアスタス。
 それを追いかけることもなく、風詩美たちは目的のしっぽを高く掲げた。

 悠たちが沢山歩いてアスタスを見つけたように、森の中を暫く移動していれば(熊もだが)アスタスを見つけることは難しくない。
 更にもう一工夫あれば、見つけることも容易となるだろう。
 例えば、知識で追いかけるルクスと優れた聴力で探す幽邏のいるチームだ。
「さて、我は回復担当。前衛はそちらに任せようかの」
 飛び退いてヒールオーダーを発動させるルクス。
 異空間からはえ開いた花が香りを放ち、膝を突いた勇司の身体にしみこんでゆく。
「助かった……」
 ゆっくりと起き上がり、剣を構え直す勇司。
 高く飛び上がるアスタスに、再び挑みかかっていく。
 カッと歯を見せ、体当たりをしかけるアスタス。勇司はそれを正面から受け止めるように剣を叩き付けた。
 一方、回り込んで木々の間から細い射線をとる幽邏。
 ライフルを構え、かなりの距離から狙いを定める。
 動き回るアスタスの頭……否、尻尾を狙う。トリガーを引いて弾を発射。
 枝と幹と葉の間をすり抜けるように飛んだ弾はしっぽをかすって地面にめり込む。
 素早くリロードしてもう一度狙う。
「動きを止めて」
「無茶を言うよな……やってみる! 回復厚くしてくれ!」
 勇司は剣を一度捨てると、飛びかかるアスタスの両腕をがっしりと掴んだ。
 目の前で歯ががちがちと鳴り、そのたびに全身に痛みが走っていく。
 一方でルクスはキュアイービルを発動させて勇司にまわる追加のダメージをカバーしていった。あちこちで白い花が開き、綿毛を飛ばしていく。
 そうして稼いだ時間はたったの三秒。
 アスタスのしっぽが地面をこすり、止まる時間。
 幽邏は細めていた目を大きく開け、トリガーの指に力を込めた。
 時間がとまったのかと思うほど凝縮された一瞬。撃鉄が雷管を叩く音。はじける感触、衝撃、大気をえぐる弾頭。
 凝縮が晴れたその途端、射撃によってアスタスのしっぽが切り取られた。
 反動で軽く転倒したアスタスだが、追撃を恐れてか一目散に逃げていく。
 追撃はするまい。勇司たちは頷き合い、落ちたしっぽを拾い上げた。

「お互い、無益な血は流したくない。来い」
 飛びかかるアスタスに、パンは真っ向から組み付いた。
 手首を掴み、胴体にしがみつく。アスタスは対抗するためにパンのやわらかい身体にかじりつくが、精神ごとむしばむ痛みは彼のスポンジ状の肉体に阻まれた。蜂蜜は染みても毒はしみない美味しい身体なのだ。
「さあ、今のうち――むっ」
 アスタスが飛び上がり、パンを掴んだまま枝に突っ込んでいく。
 ばきばきと枝を折りながらもしがみつくパン。
 ミアはそれを追いかけ、ギリギリ射撃ラインの通る位置を見つけては矢を打ち込んでいく。
「木が多くて、打ちづらい……の」
 打ってすぐにリロード。
 一度木々の上に飛び出したアスタスを見上げる。
「打ち落とせるかな?」
 術を打ち込もうと杖を構えるエンジュが、ミアに視線をなげかける。
 ミアは小さく頷いてから、木々の上をちらちらと飛ぶアスタスに狙いをつけた。
 放った矢が枝の間を抜け、動きの鈍ったアスタスに命中。転がるように落ちてくる。
 その瞬間、首狩正宗という武器を構えた雪之丞が飛び込み、格闘による攻撃をしかけた。
 鋭く走ったしっぽの切れ目を見逃すことなく、エンジュは逆再生の魔術を放った。
 しっぽ付近の組織が崩壊を始める。
 ここぞとばかりに雪之丞は格闘攻撃を連続。
 しがみついていたパンも飛び退き、最後はエンジュが杖でたたき落とすようにしてアスタスのしっぽをもぎ取った。
 転がり落ちたしっぽを掴み、確保するミア。
 みな追撃は考えていない。雪之丞も役目はここまでとばかりに武装を解いている。
 パンが手をさしのべた。
「欲しいのはしっぽだけだ。傷口を回復してやろう」
 見せてみろと一歩歩み寄った途端、アスタスはおびえたように飛び退き、そのまま翼を使って逃げ出してしまった。
 逃げ去る翼を見送り、ふと自分の腕のにおいを確かめるミア。
 つんとした香りが、なぜだか疲れた身体に心地よかった。

●アスタスと熊
 比較的順調に進んでいたアスタス狩りだが、どんなことにも躓きというものはある。
「どうしても勝負するつもりですか……!」
「人間様は恐いんだぞー!! さぁさぁあっち行った!!」
 一目散に走るシフォリィや風詩美。
 その後ろを追いかけるのは森に生息する野生の熊だ。
 熊がなんでまあここまで強いのか。結構な勢いで追いかけ、凶悪な爪で殴りかかってくる。
 人間が最悪死ねる衝撃である。
 シフォリィは一度ターンをかけ、剣に白銀の魔力を纏わせた。
 美しい軌道を描いて熊に叩き込まれる剣。
 熊の拳とぶつかり、余った衝撃がはじけていく。
 その隙に風詩美はシフォリィを盾にするようにして手を翳し、ピンク色の花火を熊の顔面へ打ち込みまくった。
 ……と、こんな具合で、アスタス狩りの途中で遭遇することの多い熊との戦闘がおこるのだ。

「きゅー」
 目を回してぐったりした風詩美を、悠が抱えて走って行く。
 熊はなんとか撃退したが、受けたダメージもかなりのものだ。おかげで風詩美とシフォリィがへばってしまった。
 ひとり異様に平気な顔をした悠は彼女たちをつれて森の外へと撤退した次第である。
 外ではテントを張った仲間たちがそれぞれ待機していた。
「そっちは酷くやられたな。戦闘の回数が多かったのか?」
 鎧を脱いで傷口に薬を塗っている勇司。
 その横では雪之丞が同じく薬を塗って寝かされていた。
 雪之丞たちはアスタスとの連戦の末熊と遭遇し、雪之丞の勇敢な一刀両断によって撃退できたのだが、重い反撃を受けすぎてこうしてリタイアした次第だ。
「俺も雪之丞も、実はまだ戦えるんだが……」
 ちらりと見ると、テントの中にはアスタスの尻尾が積まれていた。悠たちが集めたものを含めれば9本。
 目標の数まであとひとつだ。
「戦力的には余裕があるし、一人にこれ以上消耗させるのも悪いからね」
 薬を片付けつつ、エンジュが飲み物を差し出す。
 風詩美たちを寝かせて、悠はそれを受け取った。
「一晩休んだら、消耗の少ないメンバーで再編成してリトライしよう」
「そうと決まれば」
 腕まくりをしたパンがにやりと笑う。
 彼はたき火で調理したあれこれを持ってきて、シートの上に広げた。
「ハーブで味付けした干し肉たっぷりのスープとハーブティーだ。召し上がれ」

 さて、すったもんだで再編成。
 前日のうちに効率よく集めたおかげで余裕がある。
 悠、ミア、エンジュ、幽邏、ルクスの五人が第二次探索メンバーに選ばれた。
 残る五人は前日の消耗を考えてお留守番だ。(パンもなにげに消耗しまくっていたので皆を癒やす係として残った)
 もとより探索能力が高く、アスタスをおびき寄せる工夫や人間の数をごまかす工夫もしっかりできていたメンバーである。
 ほどなくしてアスタスを発見することができた。
「見つけた……にゃ」
 バリスタを構えるミア。
 悠は薬瓶を両手いっぱいに引き抜き、ルクスは杖を地面にさしてあちこちから花を開かせる。
 飛び上がった幽邏がライフルの狙いを定めた……が、引き金はひかなかった。
 なぜなら、アスタスのずっと向こうに『アスタスの集団』を目撃したからだ。
 ことの特殊性に、攻撃を一度やめたのだ。
「悠……薬を持ってるだけ出してもらえるかな。回復薬じゃないほうだ」
 エンジュが手を翳した。
 もう片方の手には傷口の治りを早くする軟膏が握られている。戦闘でのHP回復とはまた別の、長期的な治療を目的とした薬である。
「……ああ、なるほど」
 エンジュに言われて何かを察し、薬をわたす悠。
 すると、アスタスは攻撃をせずにゆっくりとエンジュに近寄っていった。
 薬を手渡すと、アスタスは背負っていた三本のしっぽを差し出してきた。
 切断面が綺麗に乾いている。
 戦闘によって無理矢理切り落としたものではなく、自然に落ちたものなのかもしれない。
 薬としっぽの交換だ。
 アスタスはキイキイと翼を鳴らすと、皆に背を向け飛び去っていった。
 その後ろに控えていた沢山のアスタスもまたキイキイと鳴らし、森に反響していく。
 車輪が軋むような音なのに、沢山重なるとなぜだか美しい音楽のように聞こえた。
 ミアは何かを確信したように頷き、そしてアスタスに背を向けた。
「帰る、の」
 こうして、第二次探索チームはしっぽ三本の無血獲得に成功し、(途中で目が合った熊から全力疾走で逃げつつ)余裕を持って探索を終えたのだった。

 これから暫く後。
 近くの雑貨屋さんに新しい絵本が加わった。
 それは、タスタスの狩りをした人々が情けをかけアスタスを逃がしたところ、お礼に訪れたアスタスが傷薬と交換にしっぽをくれたというお話だった。

成否

成功

MVP

ミア・レイフィールド(p3p001321)
しまっちゃう猫ちゃん

状態異常

なし

あとがき

 おかえりなさいませ、イレギュラーズの皆様。
 皆さんの活躍によって、よい薬が作られることでしょう。
 中でも特に活躍したミア様には、MVPを差し上げます。
 またのお越しを心よりお待ち申し上げております。

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