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シナリオ詳細

<濃々淡々>其れはまるで『あめ』のように

完了

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オープニング

●いとし、いとし
 昔々、あるところに、小さな妖怪がおりました。
 其の妖怪は小さく、力も持たず、そして何より気が弱く。
 妖怪と呼ぶにはあまりにも弱く小さな『モノ』だったそうな。

 飯が欲しいと人の里へ行けば、ものを投げられ。
 助けてほしいと妖怪に助けを請えば、嘲笑され。
 悩んでいるのだと寺へ向かえば塩を撒かれ。
 恵みをわけてくれるのは、ことばを交わすことすら叶わぬ動物たちだけで。
 妖怪は、涙を流しました。
(おれには、家族なんて呼べるのは、名前もわからないいきものたちだけで。
 ことばをはなすいきもののほうが、よっぽど怖くて、おそろしい)
 しとしと。
 しとしと。
 頬から流れる涙は、雨のようで。
 しとしと。
 しとしと。
 生ぬるいそれを拭ってくれる動物たちの優しさに、また涙をこぼしたのでした。

 しかし、妖怪と共に生きられるのは妖怪のみ。
 優しく涙をなめとってくれた動物たちも、世代が変わればそうはいきません。
 仕方のないことだ。
 妖怪は、共に暮らしていた塒を去り、そしてまた人里に戻ってきました。
 けれど。ひとならざるものである妖怪は受け入れてもらえるはずもなく。
 刀で、銃で、槍で。
 罵倒し、殴り、蹴り。
 妖怪は気が付けば、路地裏でひとり、雨粒に打たれていました。
 昔は石を投げられるだけだったのに。
 おれはなにもしていないのに。
 いたい。
 いたいよう。
 しとしと。しとしと。
 また、涙が零れます。

 そんな妖怪に、傘を差しだしてくれた女の子が居ました。
「まぁ、痛そうな傷……なんてことを」
 女の子は、手ぬぐいを裂くと妖怪の傷を手当てしてくれました。
「泣かないで、小さな妖怪さん。
 わたしから、これをあげるから……寂しいときは、これを舐めて」
 はい、と渡された小さな小瓶に満ちていたほうせきのようなそれは、後に『飴』と呼ばれるそれで。
 一口舐めた妖怪の涙は、飴に変わっていったのでした――。

●そうして時は流れて、
「御機嫌よう、皆!」
 双子星の片割れ、ポルックスはレヱスの裾をひらりひらりと舞わせて、礼儀正しくカーテシー。
「皆のお話しから飴を作ってくれるお店があるみたい」
 ぴらり。差し出されたちらしには『歩く飴屋、やっています』の文字が踊っていた。
「歩く飴屋ってことは、旅をしているのかしら。
 なんだかとっても素敵よね。皆も良かったら行ってみて頂戴!」
 ポルックスは小さく手を振ると、大きなキャンディを口に咥えたのだった。

NMコメント

 心踊る物語を貴方に。どうも、染(そめ)です。
 淡い妖怪の恋物語。女の子を追いかけ続ける妖怪の物語の一頁を彩っては頂けませんか。
 今回は、特別な飴を作ってくれるお店のご案内です。

●目的
 飴を貰いに行こう。

 何個でも作りますので、連続参加も歓迎です。一章完結です。
 貴方の過去や思い出、大切にしているものなど、色々なお話しを聞かせてください。
 妖怪は貴方の話を聞きたがっています。

●世界観
 和風世界『濃々淡々』。

 色彩やかで、四季折々の自然や街並みの美しい世界。またヒトと妖の住まう和の世界でもあります。
 軍隊がこの世界の統制を行っており、悪しきものは退治したり、困りごとを解決するのもその軍隊のようです。
 中心にそびえる大きな桜の木がシンボルであり神です。
 昔の日本のイメージで構いません。

●飴屋
 手押しの屋台。飴細工やら瓶詰めの丸い飴やらがあります。
 椅子を用意してくれているようですから、好きな時間帯に行ってみましょう。

●妖怪
 華奢な男。その正体は化け猫。
 温厚で聞き上手。

●その他
 このラリーシナリオは、シナリオ欄に表示されなくなる日までは受け付けていますので、どうぞお楽しみいただければ幸いです。

 それでは、ご参加お待ちしております。

  • <濃々淡々>其れはまるで『あめ』のように完了
  • NM名
  • 種別ラリー(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年06月20日 20時25分
  • 章数1章
  • 総採用数4人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

 ちょきん、ちょきん。
 鋏を動かして、琥珀色のそれは姿を変えていた。
 男の骨ばった指が、かたちを生み出していく。

 ころん、ころん。
 雫が落ちるように、飴玉は硝子のなかへと落ちて行った。
 男の青白い指が、不器用に想いを募らせていく。

 何処に居ますか、初恋の人。
 貴方を想って、おれは今日も、ここで飴を作っています。
 いつか貴女がくれた、あの飴を思い出して。

 ずっと、ずうっと、ここで――、




 紅の暖簾が風に靡く。
 男は笑みを浮かべて『いらっしゃい』と、貴方を出迎えた。


第1章 第2節

ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
懐中時計は動き出す
散々・未散(p3p008200)
魔女の騎士

 頬をつう、と伝う『あめ』のように、此処で煌めく『あめ』は泣いてくれるのだろうか。
 もしも。
 もしも、泣いてくれると云うのならば。
 どうか、泣けないぼくらの痛みを拭ってはくれないだろうか。

 ヴィクトールと未散はふたり揃って飴屋の暖簾を潜る。
「ボクの分は彼女の瓶に――嗚呼、ボクにとって食べ物は嗜好品の範疇をでませんので。
 ボクのぶんは、ひとつふたつとあれば、それで」
 『どんなものが欲しい?』と云う男に、ヴィクトールは眉根を寄せて小さく笑みを返して付け足して。屹度美味しく食べられるきみが食べたほうが、『あめ』も喜ぶだろうから、と。男は頷いた。
「傷み、傷ついた果物の苦みすらも忘れさせるような、『あめ』が欲しいのです」
 燻るような夕のいろ。
 未散の淡虹と、ヴィクトールの焦茶。光と影にも似た色が、黄昏に浮かんでは溶けて往く。

「……辛いことが、ありました。悲しいことが、ありました」

 キィ、と軋んだ椅子を誤魔化すように、ヴィクトールは口を開いた。
 もっと若かったのならば辛くて悲しくて泣けたのかもしれない。
 もっと乾いていたのならば、いたみをこらえたのかもしれない。
 けれど。どちらも過去で、今のヴィクトールにはできないことだから。
 だから。
「――だから中途半端に痛みを、傷を背負って歩いていくしかない。
 それが半年ばかりの、半分ばかりの。ボクの僅かな生の欠片です。
 そんなものでも、よいのでしょうか」
 構わない。口に出すのは憚られた男の代わりに、未散はそうだ、と手を合わせた。
「夕が満ちてしまいますから、早速作っては頂けませんか。
 とびきり大きな瓶に、ふたりぶん!」
 劇薬にも似た響き。唯、只管に『甘いの』を!
「ねえ、ヴィクトールさま。この瓶のなかの『あめ』がなくなるころに、良い夢が見れたら良いですね」
「……ええ、ほんとうに」
 自由を求める鳥のように、遠いどこかの誰かへと、逢いに行けたなら良い。
 黒い鴉が青ならば良かったのに。二羽、我武者羅に飛び夜から逃げる烏を指さして、未散は笑った。
「半刻も要らぬ程で語り尽くせるぼく達の生涯の味も、孰れ色帯びて深みを得ると云うのなら。
 屹度。罅割れたこんな心の傷口は埋まらないけれど……其れすらもぼく達だと形容したくて、だから」
 男はことり、瓶をふたりの間へ。
 赫と空色。ふたつの色で満ちた瓶。『味はこんなのだけど』と、男がふたりの掌にそれぞれを置いて。
「ねえ、ヴィクトールさまの『あめ』はどの様なお味ですか?」
「チル様、ボクのは……柘榴の味がします」
 血のように赤い。瘡蓋のように、深い。
 鉄錆びたあの海のような味だ、とは言えないから、『あめ』と一緒に小さく噛み砕いた。
「ぼくのは、曹達味だ」
 しゅわしゅわと弾けて、消えて。
 いつか記憶からも消えてしまうような、些細な一幕だけれど、屹度あの瓶底を見るまでは忘れないだろうな、と。ふたりは笑った。

成否

成功


第1章 第3節

十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜

 陽光からひかりを遮るように番傘を差し、蜻蛉は快晴の青に口元を綻ばせ、柔い手で暖簾を捲った。
「ご機嫌よろしゅう、飴屋のお兄さん。
 同じ匂いがするわ……珍しい、こないなところでお目にかかれるやなんて。
 きっと今日は、ええ日になる」
 洋子に影すら漏らさぬように身を隠す男は『おや』と小さく瞬いて。
「お嬢さんも『此方』のひとなんだね。
 屹度此の世界のひとではないだろうけれど。居心地はいいだろう?」
 男の声が拒絶を示している訳ではなさそうだ、と。告げる勘のままに、椅子に腰を下ろした。
「確かに、居心地がええわ。そういう……場所なんやね」
 蜻蛉は目を細めて、此の世界を改めて見渡した。
 はらり、夏である筈なのに、桜が舞って。懐かしい匂いが鼻を擽ったような気がした。
「せっかくやで、そうやねぇ……飴細工をひとつ。
 春の桜の、儚くてほんのり甘い味のするのを……ひとつ頼めんやろうか。
 見た目はお兄さんにお任せ、綺麗なの」

 ちょき、ちょき。鋏の音が、やけに鮮明に聞こえる。
 男は頷き、飴でかたちを作っていた。
 視界を奪うように、花弁が踊る。
「昔、好いた人が初めて見せてくれた桜が、今でも忘れられんのよ。
 とっても、綺麗やった……風に散ってしまうんが勿体のおてね。
 いつまでもいつまでも眺めとった……」
 紅を差した口が弧を描く。

 差し出されるは、薄桃から藍へと変わりゆく桜。
 潮風の匂いがしたのだ、と男は目を細めた。

成否

成功


第1章 第4節

イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って

 可愛いもの好きである彼がそれに惹かれないわけがなく。イーハトーヴは暖簾の奥に広がる『理想郷』に思わず頬を緩めていた。
「……あ。その、こんばんは、飴屋さん。
 ふふ、俺ね、飴、好きなんだ」
 その表情から伝わるよ、と。男は嬉し気に頷いて。
 けれど一転。イーハトーヴの表情は、雲が星を隠すように陰っていく。
「……ねえ、飴屋さん。
 誰かを、恨んだことがある?
 憎んだことがある?
 軽蔑したことが、ある?」
 沈黙。後に、『あるさ』と聞こえた声。
 イーハトーヴは噛んでいた唇を緩めて、続けた。
「……心にね、冷たい部分があるんだ。
 そこがね、ふとした瞬間に勝手に動き出して、それを、その化け物を、自分ではどうにもできない時が、夜が、あってね。
 俺は、その化け物が、心の奥に居座ってる冷めた自分が、大嫌いで――」
 きゅう、と心臓の上。服をきつく握って。
 何故こんな話をしているのだろうか? 我に返ったイーハトーヴに悪夢の影が忍び寄る。
(……ざわざわして、気持ち悪い……)

 薬。
 嗚呼。
 何処。
 弄るポケット。
 ない。
 ない。

 ない。

 ふう、と落ち着かせるように息を吐いて。イーハトーヴは、苦し気に笑った。
「薬、どこにやったっけ……ねえ、飴屋さん、飴、飴を頂戴。
 化け物が暴れてるんだ。やっつけなくちゃ……」
 痛くて苦しいのを忘れられるような飴を、ください。
 男は乳白色の、甘いミルクの飴を瓶いっぱいに手渡した。

成否

成功


第1章 第5節

 飴屋の男。
 その名は、まだない。

 男の影が、妖しく揺れた。

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