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シナリオ詳細

八咫烏はそこにいたのか

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●都市伝説の争奪戦
 ところは練達ときは梅雨。
 いわゆる島国であるところの練達周辺にぽつぽつと存在するより小さな島々の中に、その山はあった。
 ロミネク島という島の、名も無き山。
 この山であるときから『八咫烏』がとれると、猟師達の間でウワサになったのだった。
「ええ、ええ……そもそも幻想や鉄帝でヤタガラスと呼ばれるようなモンスターは多くありましたが、これらは都市伝説存在である八咫烏を連想させる特徴をもつことから名付けられたいわば綽名であり、本物の八咫烏を見たというかたの話を私は聞いていません」
 超日本帝国特別公安所属苧号部隊第十三番頬紅雲類鷲(ほおべに・うるわし)、と依頼人の女は名乗った。
 赤い長髪に赤いレインコートに白いサージカルマスクというあまりにも目立つ格好に、更に赤いコウモリ傘をさし続けている、みるからに怪しい人物だが、奇抜な人間の多いローレットからすれば『怪しすぎて怪しくない』人物でもあった。
 彼女は早口で概要を説明すると、ローレット・イレギュラーズを連れて船着き場へとやってきた。
 ロミネク島へと向かうための小型船が、そこには停泊している。
「まだ……依頼目的を説明していませんでした」
 船の前に立ち、くるりと直角にきびすをかえす雲類鷲。
「『八咫烏』を狙う猟師達を、抹殺していただきます」

 ロミネク島へ入り込んだ猟師を可能な限り多く抹殺する。
 それが、ローレットへと出された依頼内容であった。
 元をたどるとロミネク島自体がある貴族の所有する土地であり、練達のある科学チーム以外には立ち入りを禁止しているにもかかわらず都市伝説存在がゲットできるかもしれないと猟師達……いやこの場合『密猟者』と述べるべきだろう。彼ら密猟者が島へ無断で入り、銃や魔道書片手にまだみぬ存在を探し歩いているということらしい。
 島はずっと昔に小さな村があったくらいで、いまは完全な無人島である。
 定住者はおろか、練達の研究員くらいしか出入りがない。
 そのため警備らしい警備も行えないので、この際外注業者(ローレット)を投入して適当に抹殺させ、今後の抑止力にしようという考えなのだろう。
「探索方法、抹殺方法、抹殺した後の処理……それらは全てお任せします。
 しかし成果が出なさすぎるのも問題ですので、最低でも5人以上の密猟者を抹殺した実績を持ち帰ってください。証明は……そうですね、皆様の言葉そのものを信じることにしましょう」
 ボートの乗組員に指事を出し、イレギュラーズへボートに乗るようにジェスチャーしつつ、雲類鷲はぽつりと述べた。
「皆様も『八咫烏』を探すなとはもうしませんが、あまりとらわれすぎないことをお勧めしておきます」

GMコメント

■オーダー
・成功条件:島に入った密猟者たちを5人以上抹殺すること

 探索方法や戦闘方法、チーム分けや分担といった部分も全面的に任されています。
 一応お勧めなのは、探索能力のあるメンバーを軸に3~4チームに分けて島を広く探索することです。
 山が多く木々に覆われているため、すげー空高くから目視で探すのはあまりお勧めしません。(それで済むなら外注するまでもなく自分でやっていたはず、という意味でもあります)

・密猟者
 島には『八咫烏』を求めて侵入してきた密猟者たちがいます
 毎日船で行き来していたらキリがないので、おそらくは島のどこかで野営するなどして活動しているでしょう。
 また密猟者たちはそれぞれが別個に動き、そしてお互いを出し抜こうと警戒しあっているので、彼らはほとんど協力関係にありません。大体が単独。多くても二人程度とみられています。

・期間
 討伐期間は厳密に定められていませんが、入って探索して一晩休んで帰る……といった一泊二日感覚を想像しておいてください。
 何日も滞在して見つかるまで歩き回ったり、逆に数分で帰るように命令されたりすることはありません。

・『八咫烏』
 この島に出るといわれた都市伝説存在です。
 これがいかなるものであるのか、どういう姿をしているのか、具体的にどこにでるのか、誰がそんな話をしたのか、どこに証拠があるのか。それらは一切謎です。
 先に述べておきますがプレイング内で『八咫烏について事前に調べる』といったプレイングをかけるとほぼ間違いなく空振りします。
 ほとんど密猟者たちの噂話のうえにしかなく、嘘や勘違いも多分に含まれるせいです。(そしてPCたちが事前調査をヒントに探し出せる程度ならもう既に見つかっていてしかるべきだからです)

 ――ですが、『八咫烏』とは一体なんなのか、自分なりに予測を立てて仲間達と話してみるのも、それはとても面白いことかもしれませんね。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はC-です。
 信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
 不測の事態を警戒して下さい。

  • 八咫烏はそこにいたのか完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年06月26日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)
死を齎す黒刃
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
ルネ=エクス=アグニス(p3p008385)
書の静寂
グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)
孤独の雨

リプレイ

●八咫烏はそこにいたのか
 島へ向かうボートの上。
 真っ赤なコートに紅い日傘をさす頬紅が、ボートの運転席に座っている。暴風が吹き抜けているにもかかわらず、日傘は一切なびくことはない。
「おーおー、シュバルツじゃねぇか!
 テメェ、サボり気味で体鈍ってんじゃねぇだろうな?
 ま、今回は多分雑魚狩りだろ。リハビリにゃちょうど良い!
 殺した数でも競争するか? ハハハッ!」
 いつもの調子で肩をばしばしと叩く『勇者の使命』アラン・アークライト(p3p000365)。
 隣の席に座っていた『死を齎す黒刃』シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)は口の端で笑って、そして島のほうを見た。
「本当にリハビリ程度の仕事になればいいんだがな」
(『八咫烏』ね。一体何を比喩してるんだか。立入禁止にも関わらず、探そうとする猟師共、それに練達関係とか怪しさしかねぇぞ)
 言うべきことは沢山ありそうだったが、直接の依頼人が目の前にいる状態で言うようなことでもない。
 風は相変わらず、乱暴に吹き抜けていく。

 ややあって、ボートは船着き場へと到着。
 頬紅は『しばらくしたら迎えをよこします』と言ったきり、皆を下ろしてボートを引き上げさせてしまった。
「八咫烏ね、居るなら是非ともこの目で見たいけれど、些か胡散臭いかな……?
 ま、こういった不確かな情報に踊らされるのもまた一興さ」
 『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)は相変わらず余裕そうな様子でリュックサックを手に取った。
 イレギュラーズが世界崩壊を防ぐ聖なる存在である……という大前提をもってしても、ローレットがあくまで中立的な何でも屋である事実は変わらない。依頼を受けるということはその遂行努力をするということであって、その先にあるかもしれない何かに介入する義務ではない、のだ。
 それでも彼らに許された一定の自由として、依頼遂行の上での『興味本位』がいまゼフィラたちの心をくすぐっている。
「だいぶ、頑張ってはみたんですが……」
 『鏡面の妖怪』水月・鏡禍(p3p008354)は開いた手帳に書かれた滅茶苦茶な内容に頭をかかえた。
 事前に可能な限りこの島と八咫烏について調べたが、地図どころか島の名前すら判明しなかった。
 観光地であったり定住者がそれなりにいる島とは違うということだろうか。
 だが外に教える必要がない土地であることを差し引いても、『意図的に隠匿されている』ように、鏡禍には感じた。
 だがそれは、他人の家の見取り図がそうそう手に入らないようなもので、より有効なコネクションや情報網を用いれば手に入らないこともない……程度の秘密でもあった。
「あああ聞いてないよ聞いてない! 島の掃除かなにかだと思ったのに人殺しの依頼とか聞いてないよ! あー、人殺したくない!ㅤ世界人口が減ったら運命の割合的に会長が殺される確率が僅かにアップするもん!!」
 一方で『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)は割とついさっきまで依頼内容を把握していなかったのか忘れていたのか(もしくは身内に騙されたのか)意図せぬ業務内容に頭を抱えてぶんぶん左右に振っていた。
「会長帰ってもいい? ダメ?」
「ダメだと思うよ」
 『探究の冒険者』ルネ=エクス=アグニス(p3p008385)はゆっくりと首を振り、読んでいた本を『図書館』のなかにしまい込んだ。
「まあ、この際なんでもいい。八咫烏が何かはよくわからないが……」
 『誰かの為の墓守』グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)は愛用のスコップを地面にざくりと建てると、持ち手の部分によりかかるように身を前傾させた。
「死人の眠りを汚す不埒者どもは、黒き猟犬に噛まれるべきだ」
 グリムや鏡禍に限らず、まだローレットで多くの仕事を経験していないイレギュラーズが半数ほどを占めている。
 大ベテランであるところのアランたちも責任を感じるところだが……それよりも。
「これは、仕事以外のことに首突っ込んだらヤバいかも」
 『こむ☆すめ』リアナル・マギサ・メーヴィン(p3p002906)は手帳をパタンと閉じた。
 この内容を仲間に教えるのは、仕事が終わってからでもよさそうだ。

●メーヴィン調査記録
 各国闇酒場にて『八咫烏』についての調査を行った。
 調査対象は八咫烏そのものではなく、八咫烏という存在をいかにして人は知るか。
 より端的に言うなら、『八咫烏という情報を追った時に何処に向かい易いのか』である。
 結果としてこの調査は――成功した。
 まずどこの闇酒場にいっても『本物の八咫烏』などという情報は無く、まして八咫烏を獲得してハイリスクに見合った利益があるという情報も無かった。
 であるにもかかわらず、数組の人間は『八咫烏がいる』と周囲に吹聴し、『これで億万長者になる』と述べてこの島へと向かったことが確認できた。
 まずこの時点で、ありもしない情報を複数人が取得し、そして信じ込んでいるという異常。
 次にその情報にすがってリスクを冒す行動に出るという異常。
 この二つが不特定多数の人間に発生したことになる。
 もしこの事実をそのまま受け止めるとするなら……。
「『八咫烏はそこにいたのか』……ミーム災害だ、これは」

●怪異は人の心のなかにある
 廃墟と化した村の中を慎重に散策するアラン。
「なんだこの家。廃墟って割に生活の跡がまんま残ってやがる」
 テーブルの上で腐り果てたパスタ。花瓶の上でしおれ果てた花。虫のたかり具合から見ても、この家が使われなくなる寸前まで人が生活し、どころか突然に人がいなくなったことがうかがい知れた。
 更に言えば、居なくなってからそれなりに長い間人が寄りつかなかったことも示している。
「例の密猟者……じゃあ、ねえよな。『八咫烏』に関係あるやつか?」
「さあ。会長は魂を燃料にする装置かなんかだと思ってるけど、そうだとしても会長はなんにもできないし。多分他の人が止めてくれるでしょ。グリムくんとか」
「まあな。そんなワケのわからねえモン、俺らの仕事じゃねえ」
 そこまで話したところで、アランは素早く剣をとり民家の入り口へと歩いて行った。
「なんです?」
「下がってろ」
 ドアノブが回るその一瞬。アランは豪快にドアノブ付近を蹴りつけた。
 金具が劣化していたのか、音をたててはじけ飛ぶドア。巻き込まれる形で転倒する男。
「うおおおらぁぁぁ!! バラバラになれやァ!!」
 既に戦闘態勢を整えきっていたアランは素早く行動をつなげ、拳銃を向けてきたもう一人の男めがけて剣を繰り出した。
 腕から、というより男の肘から先が切り取られていく。
 茄子子はテーブルの下に身を隠しながら、目の前を這いずっていく見たこともない大きな昆虫に顔をしかめ、連鎖天罰『是空』を発動。
 見えない翼が男へと襲いかかり、腰に装着していた予備弾倉を切り落としていく。
「アランくんはめちゃくちゃ強いらしいから会長は後ろで見てるよ。がんばれ!」
「……ああ、まあそれでいいか。新人を守るのも先輩の務めだからな」
 そう言いながら、ドアの下敷きになった男が茄子子めがけて構えた銃を素手で掴み、銃口を無理矢理自分の身体に向けさせた。
「痛えなコラ!」
 相手の銃を掴んだまま『古き月輪』を起動し擬似聖剣を生成。男の顔面と胸に剣を突き立てた。
「よし、まず二人。……あぁ?」
 ふと見上げると、先ほど腕を切り取ってやった男が血を流しながら逃走していた。
 逃がす道理はない。アランは茄子子に合図すると、男を追って走り出した。

 一方こちらは夕刻の森。
 日が暮れかけた茜色の木漏れ日をあび、シュバルツは胸元をぱたぱたとはたいた。
「ったく、一体何を探していやがるんだか」
 シュバルツが追っているのは人間の痕跡。より具体的に言えば携帯食料の包装やスニーカーの足跡など、密猟者が通ったであろう物理的な跡を点でたどる作業である。
 逃げる人間を追うにはあまり適していないが、うろついている人間と遭遇するにはいい手だった。
「ルネ、そろそろ灯りをつけておけ」
「もう準備してるよ」
 取り出したカンテラに火を灯し、掲げるルネ。
 もうじき夜になろうとしいる森でこの灯りは頼もしいが、一方の密猟者たちからはどう見えるのだろうか。邪魔をしようと襲いかかってくるのか、それとも逃げてしまうのか。
「植物と霊魂からの様子はどうだ」
「うん……」
 そもそも知能の高くない植物しか周りに無いことからろくな情報は抽出できなかったようだ。
 一方その辺にある霊魂からは『八咫烏を手に入れて億万長者だ!』という妄言としか思えないわめきしか得ることができた。
「前にも密猟者がここで死んでるみたいだね。まるで会話にならないけど」
「まあ、そんなところだろう……」
 シュバルツは納得して、そしてサッと手をかざした。灯りを消せというハンドサインである。
 言われたとおりにカンテラから火を吹き消すと、シュバルツは身を低くして進行。木々の間をそっと抜け、灯りの灯った一人用テントを発見した。
 『ビンゴだ』というサインと共にナイフを抜く。
 ルネが魔術の構えをとるのを待って、シュバルツはテントへと急接近。幕を切り裂き中に居る二メートル弱の物体へナイフを突き立てた……が、手応えなし。中に荷物をつめた寝袋だ。
「――!」
 テントの反対側から見知らぬ男が飛び出し、シュバルツへと掴みかかる。
 が、それを待っていたかのようにルネの魔弾が発射され、咄嗟に腕で弾いた男の喉元めがけてシュバルツのナイフが走った。
 彼の行動は、寝袋にナイフを突き立てただけで終わっていなかったのだ。
「悪いがこっちも仕事なんでな。死んで貰うぞ」
 喉から血と空気をふくばかりで返答できぬ男を蹴倒して、シュバルツはため息をついた。
「そろそろ日が暮れる。キャンプへ戻るか」
「……そうだね」

 ゼフィラとグリムは協力してキャンプをこしらえていた。
 この島に長居をするつもりはないが、寝込みを襲われる心配をしながら眠りたくもない。
 その辺の枝やスクラップを利用して音の出やすいフェンスを作り、頭上が枝に覆われた森の中にキャンプエリアをこしらえる。
 居心地はよくないが、外敵から身を守るにはいい場所だ。
「これでいいか。あまり穴を掘りすぎるのはよくない」
 グリムがスコップをかついで戻ってきた。
 足首が埋まる程度の小さな落とし穴をあちこちにつくってきたようだ。
 侵入者を行動不能にするような穴は(相手が飛行能力その他を持っていたらコストの無駄になるため)あけないが、こうした小さな穴を作るのは短時間で済む上に効果もそれなりだ。そして無駄になったときにコストも痛まない。
 そうこうしていると、アランやシュバルツが成果をあげて帰ってきた。
 ゼフィラたちは彼らにテントの留守を預けると、夜の探索へと出かけることにした。
 夜を選んだのはゼフィラが暗視能力をもつことや、グリムが嗅覚を使って対象を捜索できることが理由だった。彼らにとっては夜の方が動きやすく、そして気づかれにくいのだ。
 事実、臭いをたどることで密猟者がたてているテントを発見することに成功した。
 相手は一人。ゼフィラは合図をすると、弓を構えてグリムを待った。
 頷き、テントへと迫るグリム。
 が、ぴたりと足を止めて手をかざした。
「火薬だ」
 グリムが飛び退いた瞬間、テントが爆発。
 近くにギリースーツを被って伏せていた密猟者が立ち上がりグリムへと銃を構える。
 爆発を臭いで予期し、回避していたグリムにとってそれを防御するのは難しくない。
 飛来する弾丸をスコップのブレード部分で弾くと、ゼフィラが反撃として『生命力の矢』を発射。密猟者の腕へと突き立てる。
 うめく密猟者。攻撃のチャンスを的確に読み取ったグリムは、すぐさまスコップで密猟者の頭を殴りつけてやった。
「密猟者といえ死んだのなら墓を掘ろう。
 だが、禁じていると言われていたのに聞く耳を持たずに入ってきた者達だ。
 それならば彼方に持っていく耳は無い方がいいだろう」
 転倒した密猟者の耳をつまみあげ、グリムは目を細める。

 明くる朝。
 メーヴィンと鏡禍は廃村の近くを移動していた。
 別の密猟者達を警戒するためか、密猟者たちはこの廃村を拠点にはしていないようだ。いかにもすぎて危ない、と彼らは考えたのだろうか。
「ここを探すんですか? 『八咫烏』がいるとは思えませんが……」
「そんなものはおらん」
「? でも依頼人のひとはいるって……」
「対抗ミームというやつじゃ」
「?」
 二段階に首をかしげる鏡禍。
 メーヴィンは気にするなと手をかざして、民家の一つへと入っていった。
 部屋はひどく汚れていたが、よく観察すればなんども人間が侵入し、しかしどこにも触らずに出て行ったことがわかるだろう。
「なぜこんな場所に?」
「ありもしないものを探し続けると、なさそうな場所をしつこく往復するものだからね」
 メーヴィンはドアにもたれかかり、部屋の中を探索する鏡禍の様子を眺めた。
「鏡禍殿。ここにいるっていう『本物の八咫烏』というのは、なんだと思う?」
「僕ですか? 僕の世界の常識だと……八咫烏は三つ足の鴉の姿をしている神の使いもしくは神そのものですね。この島で太陽を作っていたり? なんて」
「まあ、まあ」
 メーヴィンは柔らかく『飛躍はよそう』というジェスチャーをすると、話を続けた。
「依頼人の頬紅雲類鷲殿。超日本帝国特別公安所属苧号部隊……まあいわゆる、怪異の破壊を目的とした組織の人間だったそうだ。この世界に召喚されて連絡はとれなくなったが、停止命令は出ていないので怪異を見つけ次第自力で破壊して回っているという話だ」
「初耳ですね……」
「だろう。今回の依頼目的を達するのに不要な情報だからな。だが『目的外の達成』を目指すなら、目的外の情報を要することがある……というのはわかるか」
「なんとなくは」
 これ以上難しい話にしてくれなという顔で続きを促す鏡禍。
 メーヴィンは苦笑して見せると、話の続きを……しようとして、鏡禍がパッとハンドサインを出した。『足音が接近』。
 メーヴィンは扇子を何気なく胸元から抜いた。
 そして背後のドアにコンとつきたて、魔力でドア板を射貫く。
 ドアの向こうでウッといううめき声がして、メーヴィンは改めてドアを開いた。
 鏡禍が急いで建物から飛び出し、外で片目を押さえて転倒した男へ馬乗りになる。
 抵抗しようとする男を連続で殴りつけ、おとなしくなったところでため息を吐いた。
「……ええと、どこまで話しましたっけ」
「『八咫烏なんていない』までだよ」
 話が飛んだような気がして、鏡禍は怪訝そうに振り返る。
 開いたドアの淵に寄りかかり、肩を扇子でとんとんと叩くメーヴィンがいた。
「この場所に八咫烏なんていない。けれどいると信じ込み、そして入り込んだ人間達が居る。彼らは八咫烏を手に入れるまで延々と島で野宿を続け、いもしないものを探し続けるんだ。依頼人はそういう『怪異』を、破壊したかったらしいね」
「それが……分かったところで……」
 もう一度、いましがた倒したばかりの男を見やる鏡禍。
 メーヴィンはため息のように、空にむけて吐き出した。
「殺すことには変わりないな」

成否

成功

MVP

マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete
 true end 1――『八咫烏なんていない』

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