PandoraPartyProject

シナリオ詳細

フライング鯛!!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●美食
 鯛のご飯。
 鯛の味噌汁。
 鯛の刺身。
 鯛の身たっぷりの鍋。
 そして、巨大な鯛の姿焼き。
 素朴な皿や鍋におかれた料理が美術品のように美しく、口にすれば鮮烈な旨味が広がる。
 都市部なら大金が必要になる、鯛づくしだ。
「うぷっ」
「別の魚食べさせてよぅ」
「どうして、どうして……」
 死んだ魚の目をした海種達が、料理を口に入れたときだけは幸せそうに、料理を見たときはさらに目を濁らせている。
「ごめんなさい、他の魚は無理なんです」
 通常なら海の家として使われる建物の厨房で、旅の料理人ミロ・ケビン・アストリューゼが軽く頭を下げた。
 発言中も包丁の切っ先は全くぶれず、鱗を剥がし終わった鯛を瞬く間に上品な刺身に変えていく。
「この鯛、飛ぶように早く腐るからフライング鯛なんです」
 痛まないうちにどうぞと言い添えて新たな皿を配る。
 筋骨逞しい兵士達が、食欲の失せた顔で上司の上司のそのまた上司の顔を見上げた。
「これほどの料理、儂でも滅多に巡り会えぬぞ」
 トドの海種が上品にフォークを操り、新鮮なわさびを適量載せて口に運ぶ。
 温度、香り、歯ごたえ。
 全てが計算し尽くされていて、はふぅと熱い息が漏れた。
「せめて海老料理を1皿……」
「ならぬ」
 この地を治めるトド貴族が断固として拒否をする。
「海老は、絶望の青を攻略した勇者達に贈る」
「そう言われると」
「海老は諦めます」
 兵士達も納得する。
 家族や仕事が理由で、あるいは命が惜しくて挑めなかった兵士達ではあるが憧れと敬意は持っている。
 領内でも評判の海老は、絶望の海を祝う宴で使われるべきなのだ。
「あの、皆さん」
 大量の料理を高速かつ高品質で作り続けていた料理人が、手を止めて海を見ている。
 空飛ぶ鯛が、降り注ぐ日の光を浴びてきらめきながら飛んでいた。
 目的地は、猟師が精魂込めて海老を育てている養殖場。その最後の生き残りだ。
 貴族と兵士の顔から油断が消えた。
 傍らに置いていたそれぞれの得物を手に立ち上がる。
「今度はまた……多い」
「鯛のボスが育ってますっ」
 頭から尻尾まで2メートルもある巨大魚が、空気の中をすいすい泳いでいる。
 逞しい魚肉は鱗を押し上げ、むっちりと艶めかしい。
 涎がでかけたことに気付いたトド貴族が、こっそりハンカチを取り出し口元を拭った。
「今日の昼飯どきにはローレットから増援が到着する。出し惜しみは無しで、派手にやれい!!」
 応、と威勢の良い声をあげ、海種達はフライング鯛の迎撃に向かう。
 撃退は出来たがボスは取り逃し、兵士も貴族も激しく消耗した。

●持ち帰れない
「お土産は無理なのです」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)はちょっとテンションが低い。
「味はいいらしのですよー」
 魚肉が傷むのが早いだけで味は鯛だ。
 現在現地には腕の良い料理人がいるようなので、倒した鯛を持ち込めば様々な料理にしてくれる。
 もちろん、イレギュラーズが料理してもOKだ。
「毎年この時期に発生する害獣というか、空飛ぶ鯛なのです」
 好物は海老。
 美味な海老を食べると力が増すので、海洋にある海老特化村は毎年狙われている。
「鱗が固くて、ぶつかると痛いのです。進化した個体はもっと鱗が固くなって、最終的にはビームまで吐くようになるです」
 鯛の形をしたモンスターなのか、モンスターに似た能力を持つ魚ばのかは分からない。
 ただ、肉は鯛の味と食感で、食べても健康に害がないのは長年の調査(というか何世代にもわたる食事)で判明している。
「海老は売り先決まってるですけど鯛はお代わり自由なのです」
 腐敗の速度が速いとはいえ、その日のうちに調理してその日のうちに食べるなら問題はない。
「おかわり自由……」
 ユーリカはどんよりと落ち込んで、イレギュラーズ達を見送るのだった。

GMコメント

 白い砂浜、青い海!
 敵は空飛ぶ鯛!!

 絵面は間抜けかもしれませんが、撃破に失敗すれば高級食材(海老)が大量に失われて現地経済に大打撃です。
 倒して、出来れば調理して食べてください。
 何故か腐るのが早く、腐ると現地の人々が処理に苦労するので食べてしまうのがお勧めです。


●目標
 フライング鯛の撃破。
 海老養殖場の防衛。


●ロケーション
 フライング鯛が襲来するので観光客が来ない海岸が舞台です。
 入り江が養殖場に改造されていて、東西から飛来するフライング鯛の編隊相手に戦うことになります。
 東からは『フライング銀鯛』1体に率いられた『フライング真鯛』が大量に飛んできます。
 西からは『フライング銀鯛』3体に護衛された『フライング金鯛』が空中を進撃してきます。
 どちらも目当ては、入り江の海水の中にいる高級食材(海老)です。
 養殖場(入り江)は東西に50メートル以上あります。


●害獣兼食材
『フライング真鯛』×50程度
 全長50センチ。
 飛行能力と腐りやすさと鱗の頑丈さを除けば、普通の鯛とあまり変わらない……かもしれないノーマルフライング鯛です。
 海面から10メートルの高さまで飛行可能。
 攻撃手段は以下の通り。
 ・体当たり【物近単】【移】 ファンブルがとても高い。

『フライング銀鯛』×4
 全長1メートル。1度目のクラスチェンジに成功したフライング鯛。
 弱めのモンスター程度の能力を獲得しました。
 海面から20メートルの高さまで飛行可能。
 攻撃手段は以下の通り。
 ・空中で踊るように泳ぐ【神近範】【無】【怒り】 いらっとする。
 ・太陽光を反射する【神遠単】【麻痺】 威力はとても低い。

『フライング金鯛』×1
 全長2メートル。2度のクラスチェンジを経たフライング鯛。
 漁村に対する襲撃を繰り返し、その度に少なくない海老を捕食しました。
 『地元兵士』や『地元貴族』に大きなダメージを与えた個体です。
 海上から100メートルの高さまで飛行可能ですが泳ぎは苦手です。
 攻撃手段は以下の通り。
 ・鯛ビーム【神遠単】【万能】【必殺】 海老を巻き込んでしまうため、追い込まれない限り使用しません。大威力。
 ・控えめ鯛ビーム【神遠範】【必殺】 出力を下げたビームです。狙いが甘いです。

 いずれも知性は猪未満。
 漁師とは相容れない関係です。
このフライング鯛達が、空飛ぶ鯛の主力であり最後の生き残りでもあります。


●友軍
『地元兵士』×8
 槍と弓を使う海種です。
 これまでの奮闘でAPが0に近く生命も半減しているので、イレギュラーズが強く要請しない限り戦闘に参加しません。

『地元貴族』×1
 回復特化のトド海種です。APがほぼ0。
 イレギュラーズが戦闘中は、料理人と一緒に安全な場所にいる予定です。

『ミロ・ケビン・アストリューゼ』
 料理はかなりの腕前です。
 海の幸を購入しに来た際、廃棄予定の大量のフライング鯛を見て料理を始め、貴族や兵士が寄ってきました。
 大量の料理を作った直後なので少し疲れています。


●他
『養殖海老』
 最大で全長30センチに達する大型海老。身はぷりぷり。
 戦闘で養殖場に被害がなかった場合、参加イレギュラーズ1人につき1体、地元漁師からプレゼントされます。
 「外に持ち出されると面倒くさいことになるのでここで食べていってね」だそうです。


●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • フライング鯛!!完了
  • GM名馬車猪
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年06月23日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
Alice・iris・2ndcolor(p3p004337)
シュレーディンガーの男の娘
エリス(p3p007830)
呪い師
ハルア・フィーン(p3p007983)
おもひで
ソニア・ウェスタ(p3p008193)
いつかの歌声
ヴァージニア・エメリー・イースデイル(p3p008559)
魔術令嬢
三國・誠司(p3p008563)
一般人

リプレイ

●うみ!
 水を弾く肌と美しい曲線が、男達の目に焼き付いた。
 『呪い師』エリス(p3p007830)は何度か瞬きをして、術の準備を途中で停止し振り返る。
 エルフ族(異世界のハーモニア的存在)に伝わる戦装束は大気中の魔素を吸収し易いかわりに布地が少なく、エリスの見事に育った体を隠せていない。
 この緊急時に好色な笑みを浮かべてしまった兵士達に、女性陣からの冷たい視線が突き刺さった。
「ミロ、ちょっとひさしぶり!」
 馴染みのある料理人を見つけ、『Ephemeral』ハルア・フィーン(p3p007983)の目つきが柔らかくなる。
 ミロ・ケビン・アストリューゼはエリス達美貌のイレギュラーズに気付いている。
 その上で己の仕事を優先させ、魚の骨まで斬れる刃物を戦闘に巻き込まれない位置へ移し終えてからハルアに向き直った。
「貴族さんと安全な所へ」
 だからハルアも仕事を優先する。
 ミロが分かったとうなずき、若者達のやりとりを海洋貴族が目を細めて眺めていた。
「兵士さん、鯛はボク達に任せて養殖場を守って! ボク達を抜けちゃったらよろしくだよ」
「出来るだけ仕事しねぇで済むように頑張るからよ!」
「りょ、りょうかいですっ」
 ハルアの笑顔にしか見えない表情と『寿司聖』ゴリョウ・クートン(p3p002081)の圧力を感じる笑みに気付き、海種の兵士達が慌てて弓と矢筒を抱えて養殖場へ走った。
「鯛が!」
 外見は普通の真鯛なモンスターを凝視して数秒。『初心者なので優しくしてほしい』三國・誠司(p3p008563)が己の頭を頭を強く振り気持ちを切り替える。
「すみません、取り乱しました。いや、その、こっちに飛ばされてまだ1週間ちょっとなもんで」
 ほんの少し前は異界の平和な場所で学生だった彼は、決意と緊張感を以て現実に向かい合う。
「気持ちは分かります」
 丁寧に手入れされた長い金髪と宝玉まで組み込まれた礼装の着こなしが魔法的な力と高貴な背景を感じさせる『魔術令嬢』ヴァージニア・エメリー・イースデイル(p3p008559)が、誠司に対して共感を表明する。
 あんなものが存在してしまうほど、世界は広い。
「この世界に来てから今までに、合体するスイカ、手足の生えたインゲン、炎上するシイタケとは遭遇しましたが」
 頭が痛くなってきましたとつぶやいて、スレンダーで眼鏡な『勇気は勝利のために』ソニア・ウェスタ(p3p008193)が弦楽器の弦を弓で愛撫する。
 兵士達は妙なる音色に聞き惚れ、己の体の複数箇所にあった火傷が薄くなっていることに気付いて驚愕する。
「配置についてください」
 海種兵士の顔から甘さが消え、10の矢が戦意を湛えて宙に向けられた。

●鯛づくし
 東から飛来するのは真鯛の群れだ。
「ぶはははっ、空飛ぶ鯛たぁイキが良いにもほどがあるねぇ!」
 ゴリョウが楽しそうに、そして獰猛に笑う。
 フライング鯛は料理人のゴリョウにとっては食材、イレギュラーズのゴリョウにとっては獲物だ。
 鍛え抜かれた筋肉から噴き上がる威圧感が、多くの鯛にゴリョウを殺すか食われるかという2択を突きつける。
 誘われたと気付いた銀鯛……東の集団を統率する個体が宙で妖しげに踊りゴリョウを惑わせようとする。
 だがそんなものは、歴戦のイレギュラーズにして熟練のコックである彼には全く通じなかった。
 エリスの指先が破壊のルーンを描く。
 故郷での責務を終えてから爆発的に成長中の魔力が雷に変わって、白い砂浜より白い雷として東の空を覆う。
 真鯛の鱗が焼け焦げ、口から泡がこぼれる。
 下拵えもしていないのに、お腹を刺激する匂いがいした。
「まかせよ!」
 自信と信頼が籠もった言葉が響き、ハルアが地表すれすれを飛ぶ。
 鯛は全長50センチ。それが50も集まると壮観で威圧感もあり、何より多すぎて編隊も大きくゴリョウの広範囲ヘイト集めでも拘束しきれない。
 エリスのルーンによる雷が直径20メートル近い空間を蹂躙する。
 ゴリョウを迂回してきた鯛が焼き鯛になる。
 だが敵は多く、明らかに兵士では防ぎきれない数が養殖場へ迫った。
「ミロってば」
 海の家に放置された皿を、ハルアが非常に優れた知覚で捉える。
 形、彩り、視覚情報から推測できる味と香りも全て、知っているミロの料理を少しずつ上回っている。
 彼は修練を続けているのだ。
 立派な友は誇らしく、ハルアも頑張ろうという気になる。
「ミロのごはん食べれるの元気百倍っ!」
 上機嫌な足取りで飛び跳ねる。
 春一番を思わせる風がハルアを追って、水色のポニーテールをなびかせ衣装の裾も軽やかに揺らす。
 風の優しさはハルアに対してだけだ。
 彼女に迫った、迫らなくても彼女の近くを通過しようとした鯛達が、食材としてすら扱われず切り刻まれた。
 ソニアに治療を施された兵士達が矢を放つ。
 精度も威力もたいしたことはないが連携は十分だ。
 命中率の低さを数の多さで補い、海老に迫った少数の鯛に致命傷を与えた。
「来ます」
 ソニアの左右に鋭角的なきらめきが生じる。
 彼女の並の視力があれば、小さな氷刃の集まりであることが分かったはずだ。
 太陽の輝きに銀が混じる。
 全長1メートルに達する巨大銀鯛が、兵士の物理的な支えであるソニアを目がけて急降下する。
「空中戦は展開が早いですね」
 銀鯛の進路に厚く氷刃を展開する。
 真鯛なら3枚に下ろせる鋭利さでも、銀鯛の強靱な鱗は切断出来ない。
 銀が動揺した。
 北の海より強い冷たさが体に染みこみ、全力を出しても速度がろくに出なくなる。
「皆さん」
「了解です!!」
 兵士達が銀鯛だけを猛烈な射撃を行う。
 倒すには力不足で、しかし足止めには十分な攻撃だった。

●金銀鯛
 鋭利な刃を化した大気が銀の鱗を削る。
 肉を通して骨まで届く打撃を受けて、それでも銀鯛は群れのリーダーをしっかりと守ろうとしている。
「やるわね☆」
 ストロベリーブロンドの髪を風に揺らし、蛇のような縦長の瞳に愉悦を浮かべて『サイキックヴァンパイア』Alice・iris・2ndcolor(p3p004337)が疾走する。
「活きのいい子は好きよ♪」
 Aliceのサイキックが空間を歪ませる。
 銀の巨体による牽制を防ぎながら、業火の如く噴き上がるサイキックと重なり合い、まだ生きている鯛に触れた。
 鯛がAliceを見失う。
 朧気な影というには存在感のあり過ぎるAliceが――羽化変態のサイキックヴァンパイアが鯛の小さな口に口づけして、内臓よりも生存に必要なエネルギーを啜る。
 鯛が暴れてサイキックヴァンパイアが揺れる。
 それがしばらく続いて、Aliceがいったん開放した銀鯛が空へ向かって逃げ出した。
「近場に恋の精霊でもいれば、この子に私への恋心を植え付けてもらえるかな?」
 料理人と少女を見守っている何かが、そういうの好みじゃないよー、という感情をAliceに向けている気がした。
「鯛が空飛ぼうが、制空権は俺ら漁師のもんだ! 文句があるなら撃ってきなぁ!?」
 緋色の大翼を鮮やかに振るい、『風読禽』カイト・シャルラハ(p3p000684)が波打つ三叉の槍を旋回させる。
 金のフライング鯛は鳥人状態のカイトよりも大きく、けれどカイトの存在感は金銀合計4体をあわせたよりも大きい。
「俺の獲物だ。へへっ」
 少しでも気合いを抜くと食欲が顔に出そうだ。
 手段としての挑発と漁師としての誇り、そして何より若者らしい旺盛な食欲が鯛達の敵意を煽る。
 まず最初に金鯛が釣られる。
 カイトは食欲はそのままに高加速を行い、近距離戦闘が苦手な金鯛を狙い、銀の巨体2つに阻まれた。
「マークとブロックか。だがっ」
 カイトは強引な突破を目指さずわずかに距離をとった。
 砲声が響く。
 復讐という概念を砲の形にした兵器から、次々に砲弾が撃ち出されて金鯛の口を狙う。
 銀鯛はカイトを追撃することも進路を開拓することもできず、リーダーの護衛を行い次々に被弾する。
 鱗が砕け、肉が抉られ、少なくない血が空からこぼれた。
「戦いの基本は、します。させます。させません。……ってどっかの動画で見たからそれをすれば……!」
 誠司はAPを大量消費しているよう見えるが実際は逆だ。
 通常攻撃でも高威力高命中の砲を活かし、限界まで距離をとった上で低コストの砲撃を浴びせ続ける。
 殴り続ければ敵は死ぬのだ。
 単純で、敵にとって最も恐ろしい攻撃だ。
 一方的に攻撃されしかも終わりが見えないのだから。
「効いてる。後2回で銀を1つ」
 銀鯛の止めを用意するタイミングで金の動きに気付く。
 エネルギーを溜め込んだ金鯛が、余波だけで目つぶしじみた光を放つ口を準備している。
 だがカイトが進路を塞ぐだけで金鯛の攻撃は失敗する。
 射程が誠司に負けているという一点のみでも、鯛の側が非常に不利なのだ。
 イレギュラーズの攻勢は止まらない。
 物理の砲弾とは別に魔力の礫が、銀の強靱な盾を苛んでいる。
「高度な知性は感じませんが」
 ヴァージニアが息を整える。
 燃費の良い術を使っていても長期戦になると辛い。
 混沌に招かれて時間が経っていないので、力を完全には取り戻せていないのだ。
「手強い」
 銀鯛2体が重なって見えた瞬間、雷の術を使う。
 稲光が一直線に伸び、礫以上の打撃と焦げを与えて後ろまで貫通する。
 疲労が溜まる。しかしヴァージニアは敵から目を離さない。
「金色の個体が予備動作を開始しました」
 ヴァージニアが飛行に魔力を裂き、養殖場から注意を逸らすために派手な飛行を行う。
 誘き寄せ用のスキルではないので効果は極限られたもので、けれどそのわずかに稼いだ時間のお陰でカイトのフォローが間に合った。
「いまさら本気を出したか? 遅いんだよっ」
 金色のビームと平行して銀の光が迫る。
 物理的に目を眩ませる状態異常攻撃だが、カイトは光の強い場所から離れることで悪影響から逃れる。
 優れた回避は抵抗能力を補うのだ。
 砲撃がビーム発射口を狙う。
 盾になった傷ついた銀鯛達がぐらりと揺れて、砂浜に頭から突っ込み地面が揺れる。
 そして金と護衛の1体が、彼等にとってのクラスチェンジアイテムでもある海老へと突進した。
 速度はあっても隙だらけ過ぎた。
 だからAliceが迫っていることにも気付けず、物理的にも霊的にも死角から襲われる。
 銀鯛が気付くが既に遅い。
「魂まで吸い尽くしてあ・げ・る☆」
 金の鯛が宙でのたうち、少し磯臭いエネルギーがサイキックヴァンパイアに流れ込む。
「ごちそうさま」
 実体化して金の鱗を蹴って離れる。
 追撃のビームは近すぎてAliceを追い切れず、何もない砂地を無意味に焼いて一部をガラス状にした。
「退きなさい」
 魔力を絞り出すようにして、ヴァージニアが青い衝撃波を使う。
 最も海老の近くにいた銀鯛が10メートル近く押し戻され、イレギュラーズを突破できない金鯛もまた青い衝撃波で以て後退を強いられる。
 極度の疲労でヴァージニアの呼吸が乱れる。
 それでも彼女は術の制御を乱さず、数が減り戦術らしい戦術も使えなくなったフライング鯛に雷を浴びせて死の直前まで追い込んだ。
「これで〆だ!!」
 空飛ぶ漁師の槍が金の鱗を砕いて頭蓋を砕き小さな脳をかき回す。
 銀鯛がリーダーを守ろうとして急旋回。
 その無防備な背中を貫いてもヴァージニアの雷は止まらず、瀕死の金鯛に慈悲の一撃を与えるのだった。

●調理開始
 速度があれば小さな質量も凶器に変わる。
 それが数十も集まると、優れた防御技術と強靱な肉体を兼ね備えたゴリョウですら厳しい戦いを強いられる。
「くははっ、活きがいいねぇ」
 重要な神経と骨のみ治療し戦闘力の維持をする。
 ゴリョウが稼いだ貴重な時間を活かし、なんとか他の鯛の撃墜が完了した。
「今から援護します」
 エリスが己の血を使って禍々しい矢を生成する。
 体力の消耗が激しい術ではあるが今は力が枯渇寸前だ。
 海老がいる水槽に最も近い鯛から順々に打ち込み敵の数を減らす。
「様子がおかしな方は一旦後方へ。早く!」
 ソニアは歯を食いしばって銀鯛の踊りに耐えて混乱する兵士達を避難させる。
 氷刃で鱗を砕いて肉まで裂く。
 鯛は今から逃げたとしても途中で力尽きる。だが鯛はまだ戦意を失わず抵抗を続けている。
「ごめんミロ。綺麗なまま渡すの無理かもっ」
 海風がハルアの前髪を揺らして額の宝玉を露わにする。
 それは小さいけれど胸が締め付けられるように綺麗で、知性は魚類同然の銀鯛の視線も一瞬だけとはいえ惹きつけられる。
 その結果、ハルアの周囲に渦巻く力に気付かされてしまう。
 吹き飛ばすのに特化した衝撃が1メートルもある鯛を跳ばす。
 飛ばされる先は、数体まで減った鯛を無視して振り返ったゴリョウだ。
「下拵えは任せなぁ!!」
 組み付き、脳を砕いて神経を奪い、魚肉の熱が魚肉自体を駄目にする前にエリスが用意していた冷水につける。
 見事な、活け締めの技であった。
「桶を運べっ」
「それより水だ」
 戦場が調理場に変わった。
 ただのフライング鯛では食材にしかならない。
 手を念入りに洗い武装をエプロンに変えたゴリョウが、熟練職人の手つきで鯛を寿司に変える。
「おお」
 腹子や白子を見つけて調理しながら、ゴリョウはミロの手配りを見て思わずうなる。
 身体能力は熟練のイレギュラーズであるゴリョウが上だ。
 だが人生をかけて料理に挑むミロは別の長所を持つ。客と食材を見て適切な料理と調理法を判断する速度が明らかに違うのだ。
「ほほぉ、なるほど。勉強になるねぇ!」
 ソニアがびっくりしている。
 クッキー風に焼いた鯛の身と紅茶が何故かあう。
「身を贅沢に使ってみました」
 とっくに鯛に飽きていたはずの兵士達も、ソニアに淹れてもらった紅茶をがぶ飲みしながら素晴らしい勢いで食べている。
「ミロさん無理はするなよ。疲れてるだろ」
 手伝おうとした誠司に若き料理人が具体的な調理法を伝え、若き砲使いが興味を示した。
「はい、使って下さい」
 エリスが馬鹿馬鹿しいほど大きな箱を持って来る。
 中身は氷水と、比較的原形を保ったフライング鯛だ。
 肉をナイフで削りミロが用意していたタレを塗り、焚火で大雑把に焼いてご飯の上にのせ混ぜる。
 解せばチャーハン風魚肉マシマシの完成だ。
「うむっ」
 誰より早くトド貴族が飯にありついていた。
「ねぇおじさま、Aliceの宿主になっていただけるかしら?」
 Aliceが繊細な指使いで脂肪の下の分厚い筋肉を刺激している。
「木っ葉貴族にローレットイレギュラーズに引き抜きかけさせるのは勘弁じゃ。ローレット相手に揉めとうない。非常に、ひじょーにっ、魅力的なお誘いじゃがの」
 トド貴族は食事に集中することで、なんとかぎりぎりで誘惑に抗っていた。
「料理の種類が……いくつあるのですか」
 ヴァージニアはスプーンを一旦置いて皿を見下ろす。
 スープだけで4種類。さっぱりから濃厚鯛味まであり舌を飽きさせない。
「お手伝い、できませんね」
 料理人達の技術が高度過ぎる。
 ヴァージニアが有り難く味わうと同時に、目で見て調理法を学ぶことにした。
 そして、無言で大皿を空にしていく鷹獣種が1人。
 カイトである。
 若き戦士は胃腸も強く食欲は旺盛。
 焼く、煮る、炒める、油をかける、その他凝った料理を延々食べても速度は落ちない。
 鯛の味噌汁で一旦舌をリセットして、大きく伸びをし元戦場を見回した。
「これも別の所で養殖できたら……」
 1時間も経過していないのに鯛の欠片は腐っている。
「いやたくさんいるし飛ぶのは面倒だからやっぱいいや」
 今の料理の出来は料理人の腕のおかげだ。フライング鯛は商品に向かないと漁師の目で判断し、カイトは改めて養殖場に目を向けた。
「みんな考えてるなー」
 練達製かもしれない高度な技術で造られた機材がいくつもある。
 金と手間と時間をかけて海老を育てているのだろう。
「お待たせしました!」
「今が一番の奴です、どうぞ!!」
 地元の漁師……というよりもう養殖専門の海老のプロが、自慢の海老を料理人のもとまで運ぶ。
 鯛ベースの香りしかなかった砂浜に、海老料理の匂いが加わった。
「ミロ次は?」
 配膳に専念しているハルアは全然食べていないのに楽しげだ。
 真剣に食材と客に向き合うミロの背中を見るだけでも興味深く、そして胸がぽかぽかする。
「はい、服を来て下さい。後は十分な食事を……今の料理で十分以上ですが、無理はお勧めできません」
 エリスの治療がようやく終わった。
 強大な魔力と強力な自己充填能力を兼ね備える彼女でも、大勢の兵士を完治させるの大仕事だった。
「あ……」
 今が適温の料理を運んで来たハルアと、簡潔で興味をそそる説明をしてくれたミロを見比べ、エリスが微かに悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「一度休まれては?」
 ミロから吸収した技術を使うゴリョウが無言でうなずく。
 若き料理人は、上機嫌なハルアに連れられ一緒に席についた。
 刺身は絶妙な歯ごたえがあり。
 汁もの鯛ご飯は料亭に相応しい上品さ。
 一つ一つ注意深く味わい、そのたびに違う表情で喜ぶハルアを、ミロは誰よりも楽しげにみつめている。
「ごちそうさまっ」
 貴族が用意した高額報酬よりも、その一言が嬉しかった。

成否

成功

MVP

カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽

状態異常

なし

あとがき

 物理的にも眩しい依頼でした。

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