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シナリオ詳細

狂乱シャルフリヒター

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●シャルフリヒター
 街は幻想楽団『シルク・ド・マントゥール』の公演の話で持ちきりだ。右を見ても左を見ても、老いも若きも男も女も瞳を爛々と輝かせ、その時を楽しみにしているようだった。
 賑わう大通りをのんびりと歩く眼鏡を掛けた中年男は、そんな光景を見て言う。
「いやはや、すごいですね。この様子だと幻想(レガド・イルシオン)のどこに行ってもシルク・ド・マントゥールの話が耳に入ってきそうだ」
 彼は誰にでも親しまれるであろう温厚な顔つきの、眼鏡の奥に輝く瞳はまるで子供のような男で、この盛況を心から楽しむように笑みを浮かべている。
 身にまとう衣服は黒を基調としたもので、太陽の日差しが降り注ぐ昼下がりの大通りでは、まるで鴉が舞い降りたようによく目立つ。
 ひと目見て金をずいぶんと掛けている仕立てだと誰もが気づくだろう。もっとも今の熱狂では、男の姿格好に興味を向ける者など居ないようだが。
「今回は長期公演を行うとのことですし、この熱狂は暫く冷めることはありませんわね、イルエン様」
 男の傍にはぴったりとついて離れない騎士が3人いた。そのうちの一人、まだ若い女の騎士がやはり周りを楽しげに眺めて言った。
「楽しみの機会が多いのはいいことです。……直接公演を見られないのは至極残念ですが」
 イルエンと呼ばれた男は苦笑して首をゆっくりと横に振る。
「この歳になって、仕事を放り出して自分のわがままを通してしまおうかと考えるとは思いもよりませんでしたなぁ」
 白髪が目立ち始めた、騎士の中で最も年長と思われる男が顎髭を撫でながら同じく苦笑して言った。
「な、なんか申し訳ないっす」
 騎士の青年が肩をすくめて歩いている。彼は一抱えもある大剣を運んでいた。
「ははは。私も見に行きたくてしょうがないですが……こればかりは仕方ありません。私の仕事が暇であればいいのでしょうが、時勢は許してくれないようです。明日の今頃はまた、私はその剣を振るわなければならない」
 馬車を捕まえ、乗り込む前にイルエンは青年騎士の抱えた大剣を眺めた。名うての鍛冶師に打って貰った今日受け取ったばかりの新品で、真新しい革の鞘に収まっている。
 それは罪人を裁く剣。命を以て罪を償うこととなった者の首を一撃で断ち切るためだけに用意された物。
 彼、イルエンは熟練の処刑人であった。付き従う騎士達は日常的に人を殺める職務に励む彼のために用意された世話人兼、監視人だ。
「事件が相次ぐのはいつものことですが、最近はずいぶん過激なものが増えたような気がしますな」
「そうですわね……。何もそこまでしなくても、と思うような事件がよく耳に入りますわ。痴話喧嘩が発展して殺し合いになったとか、酔っぱらいの喧嘩が殺し合いになったとか」
 馬車に揺られながら騎士達が話し合うのは、ここ最近急増し始めた凶悪事件のことだった。
 当然そんな犯罪の加害者は、イルエンのような処刑人の処罰を受ける対象となる。彼らが多忙を極めているのはそのせいだった。
「イルエン様も大変っすね。仕事とは言え……。辞めたいとか思ったこと、ないんですか?」
 窓から景色を眺めるイルエンは、青年騎士の問いに特に悩んだ様子もなく答えた。
「ありませんね。誰かがやらなければならない仕事です。……あまり相手のことを考えないようにもしていますが、一つだけ。どんな重罪人であれ、私が担当をするのであればせめて苦しませず一瞬で終わらせようと努めています」
「はぁー……。この剣も、今まで使ってたのが限界になったから打ってもらったんでしたっけ」
「えぇ。前のは先任が使っていた剣をそのまま引き継いで使っていましたから……20年近く手入れをしては使い続けたんじゃないでしょうか。さすがに、首を断ち切るには刃が鈍りすぎました」
「あの名工の作品ですから、切れ味抜群間違いなしっすね!」
 青年騎士は何を思ったか、鞘から少しだけ刀身を抜いてみせた。窓から差し込む陽光が銀色の輝きとなって反射する。
「……でも一応試し切りしないんすか?」
 その行為も、その問いも、大馬鹿者と怒鳴られ頭をぶん殴られる程の大失態。
「あぁ……そうですね」
 ――そのはずだった。

●何かが狂う
 馬車の屋根を内側からどんどんと叩かれ、御者の男は馬車を止めた。
「ダンナ! どうしやした!」
 後方に向かってのそりと顔を出して問う。すると馬車の扉が開かれ、乗客であった男とその取り巻きの騎士がみんな降りてきた。
「ちょ、ダンナ!? まだ目的地には着いてませんぜ!?」
「いや、すみません。少しあの村に用事ができまして」
「すまぬな御者殿。少しここで待っていてもらいたい」
「すぐに済みますわ」
「ちょっとだけっすから! ただの『試し切り』っす!」
「は、はぁ……?」
 口々に答える彼らの表情を見て、御者は背筋に冷たいものが走るのを感じた。
 にこやかに笑っている。だが、何かが、何かがおかしい。
 まるで仮面を貼り付けたような笑顔。瞳の奥に狂気を孕んだような、普通の人間とは根本的に何かが間違っている光を御者は見た。
 間抜けな返事以外は何も言えずに、御者は彼らを見送る。その先には小さな村があった。確か"ウーム"という名の村だ。
 イルエン一行は村へ向かって歩き続け、野良仕事をしている村の男に何やら声をかけ、そして――。
「……は、ぁ?」
 突如騎士達が男を無理矢理に跪かせ、イルエンが大剣を迷いなく振り下ろしたのを御者は見た。
 村の男の首がするりと落ちて、真っ赤な飛沫が天に向かって吹き出している。
 御者は馬に鞭を入れ走らせた。本能が警鐘を鳴らし、咄嗟に行動した結果だった。
「な、なんだ、なんだ……!? なにをしてるんだアイツらは!?」
 なんでもない些細な用事を片手間に済ませるがのごとく笑って、彼らはあっさり人を一人殺した。処刑のように首を一瞬で落として。
 理解が追いつかない。
 試し切りと騎士の一人が答えていたが、生きた人間に、それも何の罪も無い相手に無造作に仕掛けるものではないことぐらいはいくら馬鹿でもわかる。
 御者ができるのは、この惨劇を一秒でも早く伝えることだけだった。

●ウームの村へ急行せよ
「緊急の案件なのですー!!」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)がものすごい勢いでギルド『ローレット』に飛び込んできて、いつも以上に慌てた素振りできゃんきゃん騒いでいた。
「い、今すぐ『ウームの村』に行ってほしいのです! 誰かいませんか!?」
「……ユリーカ。ちょっと落ち着け。状況を説明しないと周りも混乱するだろう。情報屋なら情報屋らしく、務めを果たせ」
「は、はわわ……! ごめんなさいなのです……! すー、はー、すー、はー……」
 『蒼剣』レオン・ドナーツ・バルトロメイ(p3n000002)がため息混じりにユリーカを窘めると、彼女は何度か深呼吸を繰り返して、ようやくテーブルに腰を落ち着け地図を広げ始めた。
「フィッツバルディ領のこの場所に、『ウーム』という小さな村があるのです! そこで殺人事件が起こっているのです!」
「起こった、の間違いじゃないのか」
 レオンの訂正に、ユリーカは千切れんばかりに首を横に振る。
「違うのです! 本当に今! この瞬間! 起きているのです! 重犯罪者を処刑するはずの処刑人が、何の罪もない村人を殺し始めているのです!」
 情報の提供者は処刑人――イルエンとその共回りの騎士を乗せた御者。そして問題の村から必死の思いで逃げ出してきた村人達だ。
「新調した処刑用の剣を試し切りするんだって、いきなり村の人たちを襲い始めたそうなのです! 処刑人について回る騎士たちもそれを止めるどころか協力してるそうなのです! 異常事態なのですよ!」
 その行為の意図するところは不明だが、少なくとも件の村を襲った所でどこかの貴族が利するような事はまるでないとユリーカは断言する。
「犯人たちは今も村に留まってるようなのです! なんでも、一人殺してはその遺体を眺めてひどく興奮した……感激した様子で口々に何かを言い合ってるとかで……!」
 ユリーカの顔には殺人鬼の思考が全く理解できない困惑ばかりが表れていた。
「フィッツバルディ様はこの事件が明るみに出る前に、ローレットで対処して欲しいみたいなのです!」
 仮にも法の番人である処刑人と騎士達が無法に走り、快楽殺人を行ったと知れ渡れば多少なりとも『黄金双竜』レイガルテ・フォン・フィッツバルディにとっても都合が悪いのだろう。
 捕縛しろという命令もなく、それはつまり犯人達の殺害を前提に動いて良いということになるとユリーカは言う。
「急いでいけば、他の村や街に被害が出ることは防げます! もしかすると、逃げ遅れたウームの村の人たちがいたなら、その人たちも助けられるはずなのです……だから!」
 ユリーカは深く頭を下げ、悲痛な、叫ぶような声でイレギュラーズに懇願する。
「お願いします! 今すぐウームの村に行って、犯人たちを止めて下さい! これ以上何の罪もない人を殺させちゃだめなのです……! この事件の解決を、ボクは皆さんに託します!」

GMコメント

ごきげんよう。昼空卵(ひるそらたまご)です。
今回ご案内する冒険は、突如乱心した処刑人とその取り巻きの討伐です。
以下、ユリーカの説明補足となります。ご確認下さい。

●依頼達成条件
処刑人イルエン及び、その取り巻き騎士三人の撃破(生死は問わない)

●情報の精度について
今回のユリーカの情報は極めて正確なものです。
想定外の事態(オープニングとこの補足情報に記されていない事)は絶対に起きません。

●処刑人イルエン
10年以上処刑人という仕事に従事してきた物腰穏やかな男性です。
理由は不明ですが突如ウームの村にて処刑に使用する大剣の『試し切り』を開始しました。
名工の打った新品の大剣を所持しており、戦闘能力(命中力や回避力)こそ取り巻きの騎士には劣るものの、長年続けた熟練の処刑人としての腕と名工の武器の威力は侮れないものとなっています。
攻撃手段は3つ。
1.処刑……至近距離・単・出血
2.薙ぎ払う……近接距離・範
3.息を整える……至近距離・単・回復

●騎士
老騎士、女騎士、青年騎士の3人がいます。実力的には老騎士>女騎士>青年騎士です。
(実力の高さ=命中力の高さとお考え下さい。回避は3人ともイルエンより僅かに高いぐらいで、横並びです)
攻撃手段は2つ。
1.剣戟……近接距離・単
2.シールドバッシュ……至近距離・単・崩れ

4人ともまともな精神状態ではないことは明らかです。対話に因る解決や何らかの有利を得る行為は不可能とお考え下さい。
また、そのような状態のため『逃走する』という選択肢が相手からはすっぽりと抜け落ちています。

●ウームの村について
今回の戦いの舞台です。既に村人の何人かはイルエン達の手により犠牲となっており、遺体が転がっています。
逃げ遅れた村人がまだいる可能性がありますが、殺人鬼の視界に入らないようどこかに息を潜めて隠れていることでしょう。
地形もなだらかで見晴らしがよく、戦闘の支障にはなりません。
イレギュラーズの皆さんは村に急行し、凶行に走るイルエン一行と対峙する場面からスタートとなります。

戦後の処理は『手際よく』済まされるためイレギュラーズの皆様が労力を割く必要はありません。
関係者への口止め工作も既に開始されているため、事件が知れ渡ることもないでしょう。

それでは、行ってらっしゃいませ。

  • 狂乱シャルフリヒター完了
  • GM名昼空卵(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年04月18日 21時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エーリカ・メルカノワ(p3p000117)
夜のいろ
メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)
メイドロボ騎士
アト・サイン(p3p001394)
観光客
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
ヴィクター・ランバート(p3p002402)
殲機
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼
ウィルフレド・ダークブリンガー(p3p004882)
深淵を識るもの
久住・舞花(p3p005056)
氷月玲瓏

リプレイ

●汝ら罪あり
「やあやあ。待たれい待たれいそこの狼藉を働く暴漢ども! 今すぐ剣か首かのどっちかを落として貰おうか!」
 ウームの村に『観光客』アト・サイン(p3p001394)の口上が大きく響く。それに反応した姿は、4つ。
「何者だ!」
 首の無い死体の脇を抱えていた青年騎士がイレギュラーズに訝しみの表情を向けて怒鳴り返した。
「僕? 食事中ユーカリに捕まった通りすがりの観光客だ覚えておけ!」
 今回の依頼を寄越した(自称)美少女の名前をうろ覚えのアトは、さてそんな事は今どうでもいいと周りに目配せをしてみせる。
「わたし達はローレットのイレギュラーズ! イルエンさん、貴方達を止める為に来ました! わたし達が相手です!」
 周囲に逃げ遅れた人影は見当たらない。あるのは首なし死体が3つ。アトに続いて名乗りを上げた『かむりゆき』ノースポール(p3p004381)は、それでも犠牲者が3人出ていることに歯噛みした。
「っ……。このまま彼らの相手をしても大丈夫です」
 彼女の脳裏に響く助けを求める声は複数。だがよく聞いてみると、いずれも家屋などに息を潜めて隠れているらしいことがわかる。
「復唱。要救助対象の反応なし」
 『殲機』ヴィクター・ランバート(p3p002402)はその報告を聞くやいなや、N-A48型手榴弾の投擲準備を終えていた。
「処刑人とその監視人達! 『無法』はそこまでにしていただきます」
「これ以上の殺戮は、俺達が許さん」
 避難の必要がないのであれば名乗りを上げ続け、この凶行を止めるに相応しい人物がやってきたことを声に乗せて届けるが上策。
 久住・舞花(p3p005056)と『深淵を識るもの』ウィルフレド・ダークブリンガー(p3p004882)は、加えてイルエン達の所業を真っ向から批判する。
「ローレット……? ギルドが我々に何の用だ。『無法』だの『殺戮』だの、いきなり無礼にも程が有るぞ!」
 二人の批判に毅然とした態度で老騎士が反論するが、彼のすぐ側には首なし死体が転がっており、鎧にも血が付着している。正当性を主張するなど到底できない状況のはずなのに、彼らは狼狽える様子を欠片も見せない。
「むっ!?」
 怒りに一歩踏み出そうとした老騎士の足元に矢が突き立つ。黒鷲の矢羽が太陽の下でその存在を主張し、彼の足を止めるには十分な効果があった。
「動かないで。……私たちは。あなたたちを、止めにきたの」
 威嚇射撃を放ったのは『夜鷹』エーリカ・マルトリッツ(p3p000117)だ。風景にぽつり浮かび上がる黒色といった出で立ちの彼女が紡ぐ声は決して大きなものではなかったが、この場にいる誰もがその美声を耳にした。
「貴様ら……! 我々への侮辱だけでは飽き足らず、武器を向けるか!!」
「貴方達はここで何をしているのです。その行いは、貴方達が本来処刑すべき罪人のそれそのものでしょう!」
 もちろん彼女の威嚇射撃で相手の怒りを買わないはずはない。舞花が更に彼らの行いを糾弾すると、騎士達の表情がみるみる険しくなっていく。
「物を知らぬ大馬鹿者めが! 我らは処刑執行人の侍者である! 執行人の道具新調に伴い『試し切り』を行っているだけであろうが! 貴様らに批難される謂れなど無いわ!」
「よく知らないのは否定しないけれど、その『試し切り』というのは罪のない村人相手にやっていいものなのかい?」
 『メイドロボ騎士』メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)の続けての指摘になにか言い返そうとした老騎士を、そっと手で制する者がいた。
「もちろん、いいからやったのです。私も長年処刑人として生きてきましたが、何故こんな簡単な事に気づかなかったのか不思議なぐらいですよ」
 処刑人イルエンその人だ。柔和な笑みを浮かべているが、その手に持つ大剣は血に塗れている。
「私が学びたいのは実際の切れ味です。肉の塊ではダメだ。……同じ『モノ』でなければ、望む結果は得られない。ごらんなさい!」
 首なし死体の一つを指し示し、イルエンは続ける。
「肉も骨も綺麗に切断されている。どこにも引っかかって千切れた場所がありません。これは『3度目の試し切りに使ったモノ』ですが、血脂で切れ味が鈍った様子もない。私はこの結果に今、非常に満足していますよ。これなら罪人を苦しめること無く一瞬で終わらせることができる! 実に清々しい気分です!」
「……完全に狂ってるわね」
 『断罪の呪縛』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)が苦虫を噛み潰したような顔で一言、吐き捨てた。
 彼らの狂乱の程度を会話で引き出そうとした舞花もあまりの結果に声を出せない。
「理解は難しいでしょう。しかもどうやらあなた方は私達に武器を向けるおつもりのようだ。それがローレットから下された仕事なのでしょうが、我々への侮辱、そして先程の威嚇攻撃。最早見過ごせない罪の重さになっているのは自覚していますね?」
 ちりちりと空気が張り詰めていく。
「略式で構いません。お願いします」
 イルエンの命令に、女騎士が凛とした声を張り上げる。
「処刑執行人及びその侍者への侮辱行為、並びに攻撃行動、いずれも重罪。弁論の余地は無い! 汝らは万死に値する! これより処刑を執行する――」
 それが言い終わる直前に響いたのは、ヴィクターのN-A48型手榴弾の炸裂音だった。
 爆炎と煙に呑まれたイルエン一行を、手筈通りに分断し各個撃破するべくイレギュラーズは距離を詰める。
 だが、想定とは少々違う形に布陣されていることに誰もがすぐ気づいた。
 青年騎士と老騎士が並んで盾を構え、その後方にイルエンと、彼の側から離れずに武器を構えた女騎士の姿が見えた。二人が爆発の盾となり、残る二人への被害を受け流していたのだ。
 結果的に完全分断には至らなかったことをイレギュラーズは認識する。
「さて、ご老人、覚悟してもらおうか!」
「これ以上、好きにはさせません!」
 再集結を許せば余計に崩しにくくなる。せめて今の状況を維持するべく、アトは老騎士、ノースポールは青年騎士に肉薄し、その後ろに回り込んでから攻撃を開始することで再集結を防ぐ。
「おっ……ととと!?」
 特異運命座標たる自分であれば一般人に遅れは取らぬ。そんなアトの認識は数秒で覆された。
 爆発に巻き込まれたとは言え、切り結ぶ老騎士の腕力は老人とは思えず、流れるような剣さばきは気を抜くと即座に躰を切り裂いてくるだろう。
 冷や汗が一筋アトの頬を伝っていく。
「って何この強さ!? 騎士とは言え、本当に一般人か!?」
「例え貴様らがローレットの者であろうが、我々がそう簡単に遅れを取ると思うてか! 舐めるなよ若造!!」
「確かに簡単に負けちゃ騎士の商売上がったりか! だけど……!」
 アトは懐の投げナイフの感触を刹那確かめ、不敵な笑みを浮かべた。もう老騎士の後方には、狙いを定めた仲間達がいる。
「覚悟ッ!!」
 飛び込んできた舞花の斬撃に続き、ヴィクター、ウィルフレドの一斉攻撃が始まろうとしていた。
「その剣は守るための物でしょう!? 自分が何者なのか、思い出してください!」
 ノースポールは青年騎士を自らに釘付けにしつつ、根気強く説得を繰り返す。しかし青年騎士が振るう剣の速度に陰りは見られなかった。
「俺はイルエン様の侍者であり、この剣はイルエン様を守るためのものっすよ! お前たちのような、罪人からね! そこをどけっ!!」
「(だめだ、止まらない……!)」
 言葉での説得はできない。殺さず無力化した上でこの戦いに幕を引くしかない。
 仲間の援護が入るまで、ノースポールは脚甲を装着した脚を変幻自在に振るって剣をいなしていく。
「ご機嫌よう。騎士様と手合わせなんて光栄ね。一手御指南願えるかしら?」
 メートヒェンと共に敵陣に深く斬り込み、女騎士を相手取るのはアンナだ。前進を阻んだことで、これで敵は二人ずつに分断されることになる。
「では一つ指南して差し上げましょう! 分断と各個撃破が目論見であれば、名乗りなんて上げずにさっさと奇襲を仕掛けるべきでしたわね! 騎士の真似事のおつもり?」
 イルエンも女騎士もすぐ手が届く位置にいる。連携を行おうと思えば可能だろう。仲間の援護が入るまでは実質2対2の超接近戦だ。
「っ……。それはどうも。ご指摘、感謝するわ」
 これが戦局にどう影響を与えるか、余裕を演出しつつもアンナの内心は穏やかではなかった。
「試し斬りをするというのなら私たちが付き合ってあげるよ、普通の村人よりもずっとやりごたえがあると思うけど、どうかな?」
「いえ、結構。試し切りは済みました。……あなた方に行うのは処刑です」
 イルエンを抑え込むメートヒェンは、彼の攻撃を誘いひらりと身を躱してみせる。地面にざっくりと刃をめり込ませる振り下ろしは、彼女の予想より、速い。
「動き回る相手の首を落とすのなんて生まれて初めてですよ。これは時間がかかりそうだ」
 すかさず顎を狙って繰り出すメートヒェンの拳がそれより早く引き上げられた大剣の刀身とぶつかり合い、鈍い音を立て、剣越しに睨み合う。
「もう首は落とさせない。先に意識を飛ばしてあげるよ、処刑人殿」
 戦いは、イレギュラーズのやや優位という状態から始まった。

●審判
「充填完了。これより本機は至近戦に移る」
 老騎士に狙いを定めて突っ込んでいくヴィクターを見送り、ウィルフレドは銃を構えた。
 射線は確保されている。あとは乱戦に近い形になった老騎士へ、間違いなく銃弾を命中させることに意識を向けた。
 アトが剣戟と投げナイフの複合戦法で老騎士の機動を奪ったところへ舞花が斬撃を見舞い、更に到着したヴィクターが攻撃を仕掛ける。3対1では如何に老練の騎士であっても対応に苦慮しているようだった。
「ぐっ!?」
 銃撃にまで気が回らない老騎士の脚が、銃弾に貫かれた。一瞬がくりと姿勢を崩すが、脂汗をにじませながらも気迫で立ち上がり3人と切り結び続ける。
「どうだい、動きにくいだろう! 動きにくく攻撃してるからね!」
 頬を浅く切り裂かれ、流れた血をアトはぺろりと舐め取り、笑う。
「はあぁっ!!」
 気迫を乗せた舞花の一刀両断が、老騎士に初めて防御一辺倒の構えを取らせた。
 すかさずヴィクターがその脇めがけて拳を叩き込むと、再び炸裂音が響く。
「ぐ、ぉ……っ」
 自らの手の内に隠し持った炸裂弾を至近距離で爆破したのだ。老騎士の鎧がべコリと凹み、彼は武具を取り落とし倒れ込む。
 まずは一人。心に僅かな余裕が生まれたその瞬間だった。
「アンナッ!!」
 仲間の治療に慌ただしく駆け回っていたエーリカの悲痛な叫び声が戦場に響き緊張が走る。
 イレギュラーズが目にしたのは同じように武器を取り落とし、胸元を抑えてへたり込むアンナの姿だった。
「外しましたか……。ですが、手応えは少しありました」
 彼女の目前には今しがた大剣を振り下ろしたばかりのイルエンの姿。
 庇うように飛び出したメートヒェンは、これ以上アンナに攻撃が届かぬように必死に抵抗する。
 何が起きたのか彼女は知っている。女騎士がアンナを盾で殴りつけ、よろめいたところにイルエンが斬りかかったのだ。
 首こそ落とされなかったものの、胸元に入った一撃は彼女を戦闘不能にまで追い込んだ。
 黒い衣服で目立ちはしないが、胸元を押さえるアンナの手からは紅い雫が筋を描いて垂れ落ちている。
「舞花さん! 行って下さい!」
 このままメートヒェンが二人相手に、しかもアンナを庇いつつ立ち回るのは無茶が過ぎる。
 青年騎士を抑え続けるノースポールは、自身の傷の程度にも迷うこと無く舞花に声を掛けた。
「はいっ!」
 不思議なことに、彼女は声をかけられる前にもう走り出していた。まるでそう指示を出されることがお互いでわかっていたとでも言うような流れるような動き。
 アンナが戦闘不能になってできた抑えの穴を、イレギュラーズは最速で埋めることに成功した。
「これ薬ね。あと少し、なんとか耐えてよ!」
 アトがノースポールに薬を投げ渡し、彼女以外のイレギュラーズは女騎士に狙いを定めて動き始める。
「任せて下さい……!」
 アンナの傷の程度も気になるが、自分には役目がある。ノースポールは決意を秘めた瞳で目前の騎士を睨みつけた。
「くそっ!! そこをどけっ!! どけよぉっ!!」
「できません! それだけは絶対にッ!!」
 不屈の精神を宿した彼女に、青年騎士の剣は当たらない。
「くっ……せめて、せめて一人でも、罪を裁かせなければ……!!」
 攻撃の集中が始まった女騎士も、老騎士のように防戦一方となっていた。
 押し切られるのは時間の問題という所で、彼女は瀕死のアンナにどうにか止めを刺せないかと考えを巡らせている。
「イルエン様! 構いません、纏めて薙ぎ払ってくださいまし!!」
「いいでしょう」
 そうして出した結論が、イルエンの攻撃に自分諸共巻き込んでしまう事だというのにイレギュラーズが気づいた瞬間、彼らの居た場所に大剣が風を切り裂いて走り、女騎士が構えた盾にぶち当たり甲高い音を立てた。
 咄嗟に距離をとったメートヒェン、舞花、ヴィクターの3人は、その隙を突いて女騎士がアンナと、その介抱に苦心していたエーリカにがむしゃらに迫ろうとするのに気づいた。
 剣が、拳が女騎士へ追い縋る。しかし届かない。
「殺(と)った――!!」
 切っ先をアンナに向け今まさに剣を突き出そうとした女騎士の額に、銃声とともに赤い花が咲いた。
 崩れ落ちるその姿を、銃撃を行ったウィルフレドはため息一つついて見送った。
「あ、あぁぁ……くそっ! くそぉっ! お前ら許さねぇっ!! 絶対に殺してやる!! 絶対にッ!!」
 仲間が殺されたことで青年騎士の怒りに完全に火が着いたらしい。しかし彼が怒りを力に変える前に、イレギュラーズは対処する。
「それさぁ。この村の人達も君に同じこと思ってるよ、絶対」
 怒りに身を任せて振り回した剣が一度ノースポールの肌を浅く切り裂くも、ついに狙いを彼に定めたアト達にかかってあっという間に制圧されてしまったのだ。
「ごめんなさいっ……!」
 彼が最後に受けたのは、ノースポールの放った強烈な蹴撃。昏倒した彼を見届ければ、残る敵はあと一人。
「――参りましたね」
 処刑人イルエン。彼は7人のイレギュラーズに囲まれ苦笑していた。
「投降はいつでも受け付けているけれど、そのつもりはあるかい?」
「御冗談を」
 メートヒェンの投降の呼びかけは瞬時に否定し、イルエンは乱れた息を整えて大剣を構える。
「……我らは法の番人なり。賊に屈するようでは務まりません」
「法の番人。……ね」
 力任せの突撃を前衛が引き受け、その勢いを完全に殺した瞬間をエーリカは見逃さなかった。
「(たとえヒトの為だったとしても。私は、……ヒトに、矢を射ることができるだろうか)」
 彼女は苦悩していた。誰かを傷つけることで心にのしかかる重さに果たして耐えられるだろうかと。
 しかし指は思いの外、クロスボウの引き金を軽く引いた。
 放たれる夜鷹の矢。吸い込まれる先は、イルエンの上腕。
「ぐあっ……!!」
 片手を封じられイルエンは大剣を取り落とす。残る片手で拾うより先に、彼を抑え込む動きの方が早かった。
「イルエン。あなたは、誇り高き断罪者であるはず。これ以上あなたの名を汚さないで」
 その光景から目を外し、エーリカは地面に横たわるアンナを見下ろした。
「終わった……みたいね」
「……うん」
 治療の甲斐あって意識を保っていた彼女と言葉少なに会話して、エーリカは引き金を引けた最後の一押しを悟った。
 一時の運命を共にする仲間の為。それを護るためならば、自分は引き金を引き続けることができると。

●処断
 一人深手を負ったものの、戦いはほぼイレギュラーズが制した。
 女騎士以外は捕縛に成功し、どこからともなく現れたフィッツバルディの手の者に引き渡す手筈も整った。
 連行までの短い間に、イレギュラーズ達はイルエンに矢継ぎ早に質問を投げかける。
「貴方は誰の声を聞いた? 誰の姿を想起している? ……公演を直接見なくても、サーカスの近くでその声を聞いた事はない?」
 彼の所持していた大剣は何の変哲も無いものだと調査を終えたウィルフレドに丁寧に抱きかかえられながら、アンナが聞く。
「我々はサーカスに行ったことも近づいたこともありません。……そこの若い彼を除いてね。ですが……声。声ですか。そういえば……」
 気を失ったままの青年騎士を示しイルエンは首をかしげている。
「何かを、聞いた気がします。提案と肯定の声を。簡単な事に気づかせてくれた導きと言っていい」
 罪の意識は欠片も見えない。彼は自身の正義を信じ切っているようだった。
 これ以上聞き出すのは難しいだろう。
「……やり残したことは、ありますか?」
 彼らも被害者だと、ノースポールは悲しげな表情で問う。
「一つ、あります」
 イルエンは穏やかな笑みを浮かべて答えた。
「――あなた方の処刑です」
 

 連行されるイルエン達を見送ってイレギュラーズは顔を見合わせた。
「やっぱり、声か……」
 アンナはため息をつき、そして痛みに眉をひそめる。
「しかし、あの青年騎士を除いて誰もサーカスに近づいても居ない。それが事実だとすると、何故だ?」
 ウィルフレドの言葉に、アトは低く唸り声を上げた。
「サーカスを見た人間が周囲まで狂わせる。って仮説はちょっと、外れていてほしいなー、個人的には。もしそうだと……」
 暫くの沈黙の後、誰かが言った。
「――幻想(レガド・イルシオン)の状況は、更に悪化する」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)[重傷]
無限円舞

あとがき

皆様冒険お疲れ様でした。昼空卵です。
抑え役を選出し足止めを行い、分断を行う動きは王道で、彼らを撃破するに十分な作戦であったと思います。
ただし完全分断に至るには、今回のやり方では警戒を強めてしまい上手くいかない可能性が高いでしょう。

今回皆様は村人の安全を最優先に考え行動されていたように思います。
結果的にそれが完全分断に至らなかった理由になってしまうのですが、決して間違いではありません。
事態がどのように転んだとしても、今回の皆様の作戦は村人にこれ以上の犠牲を出すこと無く解決することができたでしょう。
一人重傷にはなりましたが、この先も我が身を削って何かを救い出す、そんな冒険が皆様を待ち受けているはずです。どうか気を落とすこと無く、これからも様々な事件を解決していって下さい。

ご参加ありがとうございました。またお会いしましょう。

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