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《FT》再来、昏き淵より/Flowery Things “Vanguard”

完了

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オープニング

●童話はかく語りき
 昔、昔。まだ、人々がバラバラに暮らしていたころ。
 遠い星の世界から、二つの種がやってきました。
 種の一つは、白い百合。
 もう一つは、黒い百合。
 それらは、人々とお話できる不思議な花。
 二輪の花は、人々に安らぎを与えてあげると、世界中にたくさんの花を咲かせはじめました。
 赤、白、黄色、緑に青。
 だんだんと美しくなっていく世界の中で、人々と花たちは幸せな生活を送っていきます。

 ――でも、ある日、突然。
 黒い百合の花が、たくさんの花を率いて、人々にひどい事をするようになってしまったのです。
 理由はわかりません。
 ただ、それはまるで悪夢のようで……。

  ~マリス・リレーター著『白い花と黒い花』より抜粋


●『英主』
 サノン・クロノ・ルミージ――救世の英雄とされる男には、謎が多い。
 彼の人に関して明確に分かっている事は、以下の通りだ。

 黒い花と共に暮らしていた部族の出身である事。
 金髪碧眼の美丈夫で、その外見や言動は、さながら太陽のよう――即ち、指導者に相応しい男であった事。
 黒い花の残虐な所業から逃れ、白い花の勢力に加わった事。
 彼が有する能力は、あらゆる面で人のモノを越えていた事。
 人々をより良く纏め、導き、黒い花の軍勢と拮抗できるレベルにまで鍛え上げた事。
 そして、白い花と人類の連合軍が黒い花の軍勢に挑んだ決戦(花冠大戦)にて、最後の最後で黒い花を道連れにして地中奥深くまで沈み、封じた事。

 これだけを見るのならば。なるほど、典型的な救世の英雄だ。
 黒い花を封じた地にて興された国家『サノン英主国』にて、信仰対象として祀られるのも頷ける。
 しかし。
 彼の情報を集めれば集める程に、肝心な部分が抜け落ちているという点が浮き彫りになっていくのだ。

 彼は、どうやって黒い花の手から逃れる事が出来たのか。
 彼は、如何にして人の枠を超えた力を手に入れたのか。
 そして――彼は、如何なる手段で黒い花を封じたのか。

 ああ。俺の記者としての勘が、きな臭いと告げている。
 この抜け落ちている部分には、絶対に『何か』がある。
 そして、恐らくだが、それは。
 
 ……とても、危険な代物だ。俺にとっても、世界にとっても。

  ~エドガー・ブラウニングの手記『花冠大戦の真実』より抜粋


●銀と鋼の国
 粉雪が積もる極寒の地にて、逞しく生きる人々がいる。
 ある者達は山を掘り、鉱物を運び、霊銀と鋼を鍛え上げ。
 ある者達は羊を追い、木を伐り、懸命に果樹を育てていく。
 彼等は誰一人として、厳しい寒さへの文句は言わず。
 その胸に秘めた誇りと共に、今日も峻厳なる北の大地で生きていく。

 かの国の名はアージェンティ。霊銀の力と鋼の心を誇る国。
 国の象徴たる鉄巨人達が闊歩する地にて、君達は一体、何を見るのだろうか――。


●脈動
 AD1354 6.7
 ブロディ・ワークスに入社した日から数えて、今日で丁度二か月になります。
 今日の勤務地は、マグナ・モンディブス第34採掘区。
 先輩から聞いた話だと、どうも『今世紀最大の混粒鉱脈が見つかった』らしいです。
 先輩達は皆、今年のボーナスはがっぽりだと大張り切り。
 ここぞとばかりに稼ぐ気満々の皆は、たっぷりと残業して掘りまくるつもりのようですが。
 正直、僕は定時になったらすぐに帰りたい気分です。
 搬送路を行くゴーレム・キャリアーの乗り心地は最悪で、既に軽く酔っている感じがするし。
 現場に着いたら着いたで、僕に待っている仕事はせいぜい、油塗れのメンテや雑用ばかり。
 おかしいなぁ。僕、ゴーレム乗りとして就職した筈なのに。
 就職する所、間違えたかな……。

「おい、新入り!」
「はい!?」
 突然、運転席の中に響き渡る大声と、それを耳にして上がる驚きの声。
 危うく、手にしていた情報端末(タブレット)を落としかけた青年は、それを慌てて掴み直してから、隣のいかつい男へと顔を向ける。
「日記書くなとは言わねぇよ。クソ暇なのは確かだからな」
「は、はい……」
「ただ、やるべき事を忘れそうになるのはダメだ。今度見過ごしそうになったら、取り上げんぞ」
 ハンドルを握って操縦を続ける男は、眉根を顰めながら、青年の前にある装置を指し示す。
 そこそこ大型のディスプレイにキーボード。概ね、パソコンと言っても差し支えの無い装置が、そこにはあった。
「エーテル・ソナーに反応だ。確認しろ。未確認の鉱脈かもしれねぇ」
「すいません、すぐにやります……!」

 混粒鉱――ミスリル銀の素になる鉱石は、エーテルと呼ばれる形而上の力との結びつきが非常に強いものとして有名だ。
 だが、それにも波がある。一説によると、それは霊脈と呼ばれるものの動向と密接な関係にあると言われているが、さておき。
 詰まる所、エーテル波を感知するソナーを使っても、混粒鉱脈を必ず発見できるとは限らないという事だ。
 それ故に、鉱山労働者には常日頃からのソナーチェックが義務付けられている。
 月単位の周期か、下手すると年単位の周期で現れるソレを見逃す事は、即ち未来の収益への打撃に繋がる失態と言えるだろう。
 故に、本来ならソレは、新人に与えられる仕事ではないのだが……。

「悪いな、坊主。それを弄れるベテランを寄越せって、上に何度も言ってるんだが」
「いいですよ。今は、他の採掘区も鬼のように忙しいって聞いてますし」
 何だかんだで慣れた手つきで操作をしながら、青年は答える。
 そう、要は人手不足なのだ。
 そんな中で、この青年はたまたま『この手の装置』にも造詣が深かった為、これ幸いとこんな所に送り込まれている。
 彼がゴーレムに乗せて貰えない理由はそこにあった。
 つまり、『雑用やメンテ以外では、ずっとソナーを見張ってろ』という事。

(何とかならないかなぁ、この状況)
 渋々と装置を弄りながら、心の中で愚痴を吐く。
 その、心の内にある憂さを晴らすかのように、タタンッとキーを叩くと、反応のあった箇所が3Dマップになって拡大される。
 それを凝視する青年。
「……あれ?」
「どうした、坊主」
「いや、その。見た事が無い感知影なんです。こんなの、どの講義や資料でも見た事が無い」
「何だよそれ。どんな形してんだ?」
「それなんですけど」
 応じながら、更に目を凝らして画面を凝視する。
 見間違いだと思いたい。でも、見間違いなんかじゃない。それは、明らかに。
「うねっているんです。なんか、こう……ミミズみたいに。何本も」


●『名無しの傭兵団』
 AD1354 6.9 – 大山脈マグナ・モンディブス上空 飛空艇『天浮舟』

「まずは、突然の依頼にも関わらず、こうして応じてくれた事に感謝の意を示させて頂きます」
 境界図書館にて突然に行われた、依頼参加者の緊急募集。
 それに応じ、異世界の飛空艇へと転移した君達に対し、その募集を行った張本人――新米境界案内人であるフィニーは、恭しく頭を下げる。
「何分、緊急性の高い依頼でしたので……ご容赦の程を」
 胸に手を当て、申し訳なさそうに目を細めて言葉を紡ぐ白百合の娘。
 ――そんな彼女の背後へ、こっそりと忍び寄る影があった。
 その人影の色は赤と紫。その顔に浮かべるのは、にやけた悪戯っ子の笑み。
 そして。
「はい、しゃんとせんかーーい!」
 スパーンッと響く、背中を平手で叩く音。
「ひゃんっ!?」
 びっくりした顔で、目じりに涙を浮かべながら振り返るフィニー。
 その眼前で、にやつきながら手を振る娘。
「あんなぁ。兄さん方は皆、プロやで。承知の上で来てくれている人達ばかりに決まっとる」
 せやろ、と君達の方へ顔を向け。
「それに対して感謝こそすれ、謝罪までするのは筋違いっちゅーもんよ」
「……そういうものですか?」
「うんうん。んでも尚、気にするっちゅーんなら。ゼニ出しとき、ゼニ。それで大体解決や」
「ゼニ、ですか」
「ゼニや」
 更にうんうんと一頻りに頷いてから、咳払い一つ。
 改めて、くるっと君達の方へ体を向けると、その赤紫の娘が語りだす。
「どーも、初めましてやな。うちの名は蓮華院 纘花(れんげいん さんか)。新米境界案内人兼この飛空艇の艦長さんやで」
 よろしゅーな、と笑顔で手を振る纘花。
 更に追撃で「さんちゃんって呼んでもええで☆」と告げてから、フリフリしていた手を止めて眼前の机に触れると。途端、机の上に3Dのホログラフが浮かび上がる。
 まず目に入るのは、ワイヤーフレームで描かれた山脈の姿。
 その山脈の内部に広がる、広大な地下施設らしきものは何だろうか?
 その表出した疑問に応えるように、彼女が告げる。
「んじゃ早速、お仕事の話に入ろか。待ち遠しかったやろ?」

 ――只今より、依頼の内容を説明するで。
 アンタ等に頼みたい仕事の内容は、『重大なトラブルが生じた採掘区の調査、並びに障害の排除』や。
 今より二日前。マグナ・モンディブス第34採掘区っちゅー所に派遣されていた採掘隊からの定時連絡が、突如として途絶えてもーてな。
 どんだけ連絡とろうとしても、うんともすんとも言わんモンやから。こりゃアカンと警備隊が送り込まれたんやが……。

「その警備隊も、行方知れずになった?」
「せや。まるっともりっと行方不明やで」
 君達の内の誰かが挙げた声に対し、うんうんと頷いて見せる纘花。
「事の重大さを知ったアージェンティ政府は、直ぐ様に軍の部隊を送り込む事を考えたのですが……」
 その横で、頬に手を当てて困り顔となっているフィニーが、更に現状の説明を付け加えていく。
「現在、アージェンティ全軍は隣国の進攻に備えての警戒待機に移行しています。その状態でも、小隊一つ分の待機を解いて送り込む事は不可能ではありません。が、しかし」
 そこまで述べてから、ため息とともに首を軽く振る。
「どうしても、手続きに時間が掛かるそうです。動けるようになるのは、早くても今より二日後とか」
 それでは遅すぎる。
 ああ、と。君達の内の誰かが、しかめっ面で応えてみせた。
 規則を重視し過ぎる組織が時折に見せる、フットワークの重さというものを痛感しているのだろう。
「まあ、そういう時の為の傭兵制度っちゅーのがあるんやけどな?」
 そのしかめっ面に対して、纘花が手を挙げる。
 その、傭兵制度とは?
「身も蓋もない事を言うと、ローレットみたいなモンやで。『その道でしか食っていけない者達』が団を組み、代表者がとある国に存在する傭兵協会で登録を行う。するとやな」
 賛歌が宙に指を這わすと、そこに何かの画面が表示される。
 何かしらの文字がずらずらと書かれているようだが……所々の特徴を見るに、何かの書類のようだ。
 その下の方を見ると、サインらしきものもある。
「こうして、お仕事が舞い込んでくるっちゅー寸法や。まぁ、今回は半ば分捕ったよーなもんやが」
 そこまで言って、彼女はニヤリと口角を上げる。
「ほな、働いて貰う前に、肝心な所に関して説明させて貰おか――」

 まず第一に。君達は、纘花を代表者とする傭兵団の所属者扱いとなっている事。
 次に、君達は『この世界の中だと、無辜なる混沌にいる時以上の力を発揮する』事。
 報酬は、纘花のポケットマネーから支払われる事。

「最初の事に関しては、まぁ、あれや。ダミーデータを送る事で誤魔化しとる」
 後でハッキングかまして修正しとくさかい、とテヘペロな表情をしながら言う。
「二つ目に関しては、大まかな観測を境界図書館で行った上で推測していた事や。まぁ、正直な話。外れておらんかったようでホッとしとる」
 三つ目に関しては言うまでもあらへんな、とだけ告げると、纘花は隣のフィニーへと目配せをする。
 後は、彼女に説明を任せるという事らしい。
「貴方達には、Aランクの傭兵団として活動して貰う事になります。勿論、活動に支障が出ないよう、私達が全力でバックアップを致しますので、その点はご安心ください」
 説明を引き継いだフィニーがそこまで告げると。一息だけ吐いた後、引き締まった表情を君達に向けた。
「このように面倒な事をしてまで、貴方達に協力を求めた理由はただ一つ」
 そのしなやかな指先が、3Dマップの一部――坑道の奥底を指し示す。
「私の推測が正しければ。いま、ここに潜んでいるのは『並みの軍や傭兵では太刀打ちできない化け物』です」
 仮に軍の部隊を派遣できたとしても、更なる犠牲が生じてしまうだけ。
 故に、君達の助けが必要なのだと。

「これは、間違いなく“予兆”。世界を危機に陥れる、厄災の予兆です」
 落ち着き払った様子で。静かながらも良く響く声で。
 白百合の娘が、君達に向かって懇願する。
「どうか……皆様の力を、私達にお貸し下さい」




 地の底から、何かが迫る。ナニかがせり上がってくる。
 それは、人が長らく忘れていたモノ。
 ずっと忘れていたかったモノ。

 其れは恐らく、『絶望』という名を冠していた――。

NMコメント

 皆様、初めまして。
 新人NMの憂以 了(うれい りょう)と申します。
 何卒、宜しくお願い致します。


●今回の構成
 以下の流れを予定しております。

・第1章:生存者の探索と救助、最奥の調査
・第2章:最奥にいる???との戦闘
・第3章:後始末、???に関する調査

●第1章の要点
 皆様で、採掘区の中を探索して頂きます。
 最終目標地点は、最奥の採掘現場。
 採掘区の中はそれなりに複雑ですが、纘花よりマップを渡されている為、迷う事はありません。
 大きさと複雑さは、どこぞの首都の駅が只管に大きくなったようなものを想像して下さい。
 ある程度は整然としていますが、整地まではされていません。
 
 装備に関しては、ある程度のものなら貸与されます。
 照明、エーテル・ソナー、移動用のオフロードバイクや車両、etc……。
 飛空艇や仲間と連絡を取る為の通信機は、必ず貸し出されます。
 明らかに持ち運べないものや特殊過ぎるものはアウトだと思ってください。
OPに出てきたゴーレムもアウトです。
「すまんなぁ。流石に、今回は間に合わんかったわ」
「次回は用意するさかい。な、な?」

※技術面に関する注釈
 魔導技術の発展により、科学技術の産物と大差ない品物が出回っています。
 OPに出た情報端末レベルのものは確実に存在します。
 近未来レベルのものを想像して頂ければ問題ありません。

※生存者に関して
 生存者に対する処置の仕方は一任されています。
 自分で外へ送り届けるも良し。安全地帯を作って、そこへ避難させるも良し。

※敵性生物との遭遇に関して
 第1章では、探索中に『小型の何か』に遭遇する可能性があります。
 皆様からすれば雑魚でしかありませんが、要救助者達にとっては脅威です。
 くれぐれも、御注意を。

※イレギュラーズの強さに関して
 この世界において、イレギュラーズはある程度の能力補正を受けます。
 簡潔に例えると、最低でもラド・バウのA級闘士級。強くてS級闘士の下の方です。
 また、ギフトの性能がいくらか向上します。
 戦闘中に使えないものが使えるようになったり、効果範囲がいくらか広まったりする程度ですが。
 尚、今後の展開次第で、更に強化される可能性もあります。


【境界案内人より】
●傭兵団に関して
「せや、言い忘れとった事がある。傭兵団の名前なんやけどな?」
「傭兵団の名は、『ネームレス』で登録してあります」
「『名無しの傭兵団』っちゅーわけやな。正体不明で神出鬼没。厨二心をくすぐるやろ?」
「……そういうものなのですか?」

●イレギュラーズの外見に関して
「ああ、もしもや。特異な外見に関して突っ込まれたら、『魔族です』言うて誤魔化しとき」
「詳しくは後日に説明いたしますが。ええ、この世界にはそういう存在がいるということです」
「まぁ、無辜なる混沌におけるウォーカーみたいなもんや。その内、会う事もあるやろ」
「ちなみに、幻想種のような種族はこの世界にも存在します。そちらの方々は問題ありません」
「機械式の義体もあるで。なんで、鉄騎種も問題無しや」


●閑話休題
「そういえば……ゼニ、に関してなのですが」
「ああ、アレな。それがどないしたん?」
「いえ、何で払えば良いのかと。こちらの通貨は通用しないでしょうし」
「何や、そないな事かいな。問題あらへん、ええ方法がある」
「どんな方法ですか?」
「パンツで払えばええんや」
「なるほど、パンt……パンツ!?」
「せや。無辜なる混沌では、パンツが通貨として通用しとるんやで。フィニーはんのパンツなら……」
「……」
「……フィニーはん?」
「そ、それでいいのならば……」
「いや、待ちぃ。冗談や。冗談やから、ここで脱ごうとするんはやめぇ!?」

  • 《FT》再来、昏き淵より/Flowery Things “Vanguard”完了
  • NM名憂以 了
  • 種別ラリー(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年06月22日 00時43分
  • 章数2章
  • 総採用数9人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

ジュルナット・ウィウスト(p3p007518)
風吹かす狩人
迅牙(p3p007704)
ヘビーアームズ
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
天下無双の貴族騎士

●Search
 ――定時連絡。
 採掘区第一層、クリア。要救助者、障害共に無し。
 第二層、10分前にA班が先行。現在位置、中央搬送路から東E通路へ。
 現在、敵性存在との遭遇無し。各員、引き続きの探索をお願いします。

「だってサ」
 貸与されたイヤーカフス式通信機を用いた定時連絡が終わると、『風吹かす狩人』ジュルナット・ウィウスト(p3p007518)が、隣を歩く仲間へと声を掛ける。
「第一層の安全が確保されたのは良い事です」
「避難先となるキャンプ地が危険、というのは洒落にならないからな」
 それに対して先に応えたのは、『ヘビーアームズ』迅牙(p3p007704)。
 その後に続いたのは、『貴族騎士』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)。
 この三人こそが、A班と呼称された先行組である。
「ただ、第一層は元々、人がいなかったらしいネ」
「警備隊の通信記録では、そうなっています」
「なら、本番はこれからかナ」
「肯定です」
 迅牙が頷き、手にしている情報端末の一部を指し示す。
 そこに映し出されているのは、採掘区のマップ。指差した箇所は、これから向かう先――事故発生時に用いられる、避難用のシェルターだ。
「第一層へ逃げてきた痕跡が無いという事は」
 それをちらりと見てから、シューヴェルトがハンドライトで行く先を照らす。
「避難の障害となる何かが発生したのは、確実だな」
「件の敵性存在か」
「そろそろと見るべきかね」
「そうなるかナ」
「兵装の準備は万端です。何時でも」
 互いの意見を確認すると、三人同時に歩み出す。
 彼等の予想通りなら、もうすぐの筈だ。『障害』に遭遇するのは。


●Encounter
 かくして、その予想は的中した。
 最初に気付いたのは、ジュルナット。
 変な音がすると仲間に告げた彼は、静かな足取りで通路の曲がり角へ。
「うん、これハ……」
 その角越しに覗き込んだ先――シェルター付近を暗視で視たジュルナットは、少しげんなりとした顔で仲間へと振り返る。
「何がいる?」
「クモみたいなのがいっぱい」
「クモ?」
 その返答に首を傾げたシューヴェルトも覗き込んでみるが、暗視を持たない彼にその姿を捉える事は出来なかった。
「照らせばすぐに気づかれる、よな」
「肯定。戦闘態勢への移行を推奨します」
「だな。どの道、排除しなければならない相手だ」
 迅牙の提案を受けて、銃を抜くシューヴェルト。
 それに倣うように、他の二人も武器を構える。
「それじゃ、いこうカ」
 ジュルナットが告げ、二人が頷く。
 そして、曲がり角から飛び出し――。


●Result
 結論から言うと、その戦闘は楽勝であった。
 三人共が射撃武器を持っていた事が功を奏し、遠間から先手を取れた事から始まり。
 直後に率先して斬り込むシューヴェルトを、迅牙とジュルナットが後方から貫通攻撃で援護するという連携がハまった事により、速やかな殲滅を成す事が出来たのだ。
「それにしても、コイツは……!」
 その流れの最後。残った二匹中の一匹を剣で串刺しにしながら、シューヴェルトが唸る。
「クモなんかじゃない。何なんだ!?」
 明らかにクモとは違う硬い手応えを感じながら、剣を薙いでソレを放り捨てると。ソレが、空中で派手に撃ち抜かれて爆ぜ飛んでいく。迅牙の追撃だ。
「奇妙な生体だ。この手応えは、むしろ植物のものに似る」
「そうだネ」
 その横で、残った一匹に対して瞬時に二本の矢を叩き込む事で絶命へと追いやったジュルナットが、眉根を顰めながら、射抜いた敵の遺骸を見据える。
「まるで、ヤシの実にクモの脚を付けたようナ?」
「なるほど、確かにそう見える」
 ごろりと転がったソレの切り口に見えるのは繊維質。そこから流れ出ているのは半透明の体液。
 ヤシの実とは、言い得て妙だ。
「まぁ、コレに関する考察は後回しにしようカ」
「肯定。要救助者の保護を優先すべきかと」
 まずは救助。そう頷き合ってから、三人はシェルターへと歩み寄る。
 幸い、ここは中央搬送路から近い位置にある。すぐに要救助者の護送を行えば、“おかわり”に遭遇する事無く第一層へと避難させられる筈だ。
「それじゃ、殿は任せるヨ」
「心得た」
 その申し出を受けて頷いたシューヴェルトは、ふと近くに転がる敵の遺骸に目をやる。
 果して、コレはあとどの位いるのだろうか。
 そして、最奥には何がいるのだろうか。

 ……ああ。中々に厄介な仕事になりそうだ。

成否

成功


第1章 第2節

アリシア・アンジェ・ネイリヴォーム(p3p000669)
双世ヲ駆ケル紅蓮ノ戦乙女
ヨルン ベルクマン(p3p006753)
特異運命座標

●In the deep

「……で」
 A班が救助と報告を終えた頃合い。
闇を照らす光の中で黒い影が舞い、その華麗な動きに合わせて紫電が迸る。
雷の剣を叩き込まれ、吹き飛ぶのは異形の蟲。
「これが、その敵性体?」
 その光源――車両のヘッドライトを背にして構え直すのは、『黒焔纏いし朱煌剣』アリシア・アンジェ・ネイリヴォーム(p3p000669)。黒いドレスに身を包む、吸血鬼の娘。
「そのようだね。A班からの報告通り……」
 その隣で、狙撃による挑発で獲物を釣ったフードの男が、飛んできたソレを片手剣で両断しながら答える。
「奇妙な怪物だ。まるで、植物に寄生した生物を斬ったかのような感触だよ」
 彼の名は、『特異運命座標』ヨルン ベルクマン(p3p006753)。
 精悍な体躯に似合わぬ血色の悪さと左目の青い炎が特徴的な、動く死体である。
「怪物、ね。私達が言えた義理では無いけれど」
 吸血鬼に動く死体。偶然にも並び立つ事になった二人は、同時に苦笑する。
「残りは?」
「近辺には無し。だが、奥から結構な数が。音の重なり具合からするに、十匹は下らない」
「この先、要救助者の反応は?」
「……今はもう、感知できない」
 スキルを駆使し、状況を確認して報告するヨルン。
 その最後の、寂しげな報告を耳にして、アリシアは眉根を顰める。
 最後の報告――人助けセンサーの感が無くなったという事は、つまり。
「この先はもうダメね……」
 そういう事だ。
 そこまで確認すると、彼女はくるりと振り返る。
 その眼前には、へたり込んでいる男達が三人。
 今は、この者達を救助せねば!


●Escape

「本当に助かった! 貴方達は命の恩人だ!」
 要救助達を車に乗せ、二人がそれぞれの席に座った所で、感謝の言葉が飛んでくる。
「一か八かで飛び出してきて良かった。あのままだったら、俺達は……」
 それを耳にして、目を合わせる二人。
 ああ、なるほど。この者達は恐怖に耐え切れず、パニックになって飛び出してしまったのだ。
 安全だった筈の、シェルターの中から。
「うん、君達が生きてくれていて良かった」
 いや、言うまい。
 彼等はそんな事なぞ分からずに、二日間も怯えていたのだから。
「感謝は後で。それよりも、早くシートベルトを」
 そう告げるや否や、アリシアはいきなりアクセルを踏み込む。
 猛烈に回転するタイヤ、急加速する車体、壁に激突する寸前のギリギリコースなUターン。
 慌ててシートベルトを締める男達、助手席で平然と窓を開けるヨルン。
「来たみたいだね」
「ええ、予想より早いわ」
 アリシアが召喚した蝙蝠がエーテル・ソナーを操作し、それをヨルンが確認。
 そのソナーの反応と、ヨルンのスキルが状況を知らしめる。
 敵に回り込まれたのだ。数は多い。
「どうする?」
「そうね、お約束でいきましょう」
 答えると同時に、アリシアはアクセルをベタ踏み。
「轢き潰すわ」
「では、張り付いたモノはお任せを」

成否

成功


第1章 第3節

三國・誠司(p3p008563)
一般人

●Rookie
 一方、その頃。二層の未探索エリアでは――。

「本当にいやがったぁー!?」
『初心者なので優しくしてほしい』三國・誠司(p3p008563)が、その称号通りの心境になりながら、懸命にライフルをぶっ放していた。

 その銃口の先にあるのはダクト。その中にいるのは複数の蟲。
 奇襲を回避する為、横穴を見かけたら一発ぶち込むという行為を徹底していたら、見事に当たりを引いてしまったのだ。
「待ちゲーは許さないってか、この待ち方は完全にホラーゲーでは!」
 補正による強化も相まって、抜群なエイム力を発揮する誠司。
 幸いにも、敵は放り込んだペンライトに気を取られ、初動が遅れている。
 その隙に、一匹、二匹、三匹と確実に撃ち抜き。
「これで……」
 そして。ダクトから飛び出してきた最後の一匹目掛けて――。
「ラストォ!」
 ライフルの銃床を叩きつけ、一撃で粉砕する!
 撃破数、四匹。残敵がいない事を確認してから、最後に倒した敵を見下ろす。
 弱点の考察、開始。
「射撃も効くけど、打撃はもっと効いた?」
 光には反応。定時連絡通りなら斬撃も有効。
「意外と、防御は弱い系か」
 そう呟きながら、敵の遺骸にライターで着火。火は点くが、思った程ではない。
「……なるほどね」
 一先ず、試したい事は試した。
 最奥にいるのが同系統なら、共通した特徴を持つ筈。
「攻略の足掛かりになる、かな」
 そう呟きつつ、誠司は耳の通信機に指を当てた。

成否

成功


第1章 第4節

●In to the deep
 ――定時連絡。
 第二層、オールクリア。
 第三層、90%近くまでクリア。
 残るは、第七大採掘場とその近辺のみです。
 既に伝達された予測通りなら、第七大採掘場内に大型の敵性存在がいる筈です。
 くれぐれも、御注意を。

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