シナリオ詳細
《FT》再来、昏き淵より/Flowery Things “Vanguard”
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オープニング
●童話はかく語りき
昔、昔。まだ、人々がバラバラに暮らしていたころ。
遠い星の世界から、二つの種がやってきました。
種の一つは、白い百合。
もう一つは、黒い百合。
それらは、人々とお話できる不思議な花。
二輪の花は、人々に安らぎを与えてあげると、世界中にたくさんの花を咲かせはじめました。
赤、白、黄色、緑に青。
だんだんと美しくなっていく世界の中で、人々と花たちは幸せな生活を送っていきます。
――でも、ある日、突然。
黒い百合の花が、たくさんの花を率いて、人々にひどい事をするようになってしまったのです。
理由はわかりません。
ただ、それはまるで悪夢のようで……。
~マリス・リレーター著『白い花と黒い花』より抜粋
●『英主』
サノン・クロノ・ルミージ――救世の英雄とされる男には、謎が多い。
彼の人に関して明確に分かっている事は、以下の通りだ。
黒い花と共に暮らしていた部族の出身である事。
金髪碧眼の美丈夫で、その外見や言動は、さながら太陽のよう――即ち、指導者に相応しい男であった事。
黒い花の残虐な所業から逃れ、白い花の勢力に加わった事。
彼が有する能力は、あらゆる面で人のモノを越えていた事。
人々をより良く纏め、導き、黒い花の軍勢と拮抗できるレベルにまで鍛え上げた事。
そして、白い花と人類の連合軍が黒い花の軍勢に挑んだ決戦(花冠大戦)にて、最後の最後で黒い花を道連れにして地中奥深くまで沈み、封じた事。
これだけを見るのならば。なるほど、典型的な救世の英雄だ。
黒い花を封じた地にて興された国家『サノン英主国』にて、信仰対象として祀られるのも頷ける。
しかし。
彼の情報を集めれば集める程に、肝心な部分が抜け落ちているという点が浮き彫りになっていくのだ。
彼は、どうやって黒い花の手から逃れる事が出来たのか。
彼は、如何にして人の枠を超えた力を手に入れたのか。
そして――彼は、如何なる手段で黒い花を封じたのか。
ああ。俺の記者としての勘が、きな臭いと告げている。
この抜け落ちている部分には、絶対に『何か』がある。
そして、恐らくだが、それは。
……とても、危険な代物だ。俺にとっても、世界にとっても。
~エドガー・ブラウニングの手記『花冠大戦の真実』より抜粋
●銀と鋼の国
粉雪が積もる極寒の地にて、逞しく生きる人々がいる。
ある者達は山を掘り、鉱物を運び、霊銀と鋼を鍛え上げ。
ある者達は羊を追い、木を伐り、懸命に果樹を育てていく。
彼等は誰一人として、厳しい寒さへの文句は言わず。
その胸に秘めた誇りと共に、今日も峻厳なる北の大地で生きていく。
かの国の名はアージェンティ。霊銀の力と鋼の心を誇る国。
国の象徴たる鉄巨人達が闊歩する地にて、君達は一体、何を見るのだろうか――。
●脈動
AD1354 6.7
ブロディ・ワークスに入社した日から数えて、今日で丁度二か月になります。
今日の勤務地は、マグナ・モンディブス第34採掘区。
先輩から聞いた話だと、どうも『今世紀最大の混粒鉱脈が見つかった』らしいです。
先輩達は皆、今年のボーナスはがっぽりだと大張り切り。
ここぞとばかりに稼ぐ気満々の皆は、たっぷりと残業して掘りまくるつもりのようですが。
正直、僕は定時になったらすぐに帰りたい気分です。
搬送路を行くゴーレム・キャリアーの乗り心地は最悪で、既に軽く酔っている感じがするし。
現場に着いたら着いたで、僕に待っている仕事はせいぜい、油塗れのメンテや雑用ばかり。
おかしいなぁ。僕、ゴーレム乗りとして就職した筈なのに。
就職する所、間違えたかな……。
「おい、新入り!」
「はい!?」
突然、運転席の中に響き渡る大声と、それを耳にして上がる驚きの声。
危うく、手にしていた情報端末(タブレット)を落としかけた青年は、それを慌てて掴み直してから、隣のいかつい男へと顔を向ける。
「日記書くなとは言わねぇよ。クソ暇なのは確かだからな」
「は、はい……」
「ただ、やるべき事を忘れそうになるのはダメだ。今度見過ごしそうになったら、取り上げんぞ」
ハンドルを握って操縦を続ける男は、眉根を顰めながら、青年の前にある装置を指し示す。
そこそこ大型のディスプレイにキーボード。概ね、パソコンと言っても差し支えの無い装置が、そこにはあった。
「エーテル・ソナーに反応だ。確認しろ。未確認の鉱脈かもしれねぇ」
「すいません、すぐにやります……!」
混粒鉱――ミスリル銀の素になる鉱石は、エーテルと呼ばれる形而上の力との結びつきが非常に強いものとして有名だ。
だが、それにも波がある。一説によると、それは霊脈と呼ばれるものの動向と密接な関係にあると言われているが、さておき。
詰まる所、エーテル波を感知するソナーを使っても、混粒鉱脈を必ず発見できるとは限らないという事だ。
それ故に、鉱山労働者には常日頃からのソナーチェックが義務付けられている。
月単位の周期か、下手すると年単位の周期で現れるソレを見逃す事は、即ち未来の収益への打撃に繋がる失態と言えるだろう。
故に、本来ならソレは、新人に与えられる仕事ではないのだが……。
「悪いな、坊主。それを弄れるベテランを寄越せって、上に何度も言ってるんだが」
「いいですよ。今は、他の採掘区も鬼のように忙しいって聞いてますし」
何だかんだで慣れた手つきで操作をしながら、青年は答える。
そう、要は人手不足なのだ。
そんな中で、この青年はたまたま『この手の装置』にも造詣が深かった為、これ幸いとこんな所に送り込まれている。
彼がゴーレムに乗せて貰えない理由はそこにあった。
つまり、『雑用やメンテ以外では、ずっとソナーを見張ってろ』という事。
(何とかならないかなぁ、この状況)
渋々と装置を弄りながら、心の中で愚痴を吐く。
その、心の内にある憂さを晴らすかのように、タタンッとキーを叩くと、反応のあった箇所が3Dマップになって拡大される。
それを凝視する青年。
「……あれ?」
「どうした、坊主」
「いや、その。見た事が無い感知影なんです。こんなの、どの講義や資料でも見た事が無い」
「何だよそれ。どんな形してんだ?」
「それなんですけど」
応じながら、更に目を凝らして画面を凝視する。
見間違いだと思いたい。でも、見間違いなんかじゃない。それは、明らかに。
「うねっているんです。なんか、こう……ミミズみたいに。何本も」
●『名無しの傭兵団』
AD1354 6.9 – 大山脈マグナ・モンディブス上空 飛空艇『天浮舟』
「まずは、突然の依頼にも関わらず、こうして応じてくれた事に感謝の意を示させて頂きます」
境界図書館にて突然に行われた、依頼参加者の緊急募集。
それに応じ、異世界の飛空艇へと転移した君達に対し、その募集を行った張本人――新米境界案内人であるフィニーは、恭しく頭を下げる。
「何分、緊急性の高い依頼でしたので……ご容赦の程を」
胸に手を当て、申し訳なさそうに目を細めて言葉を紡ぐ白百合の娘。
――そんな彼女の背後へ、こっそりと忍び寄る影があった。
その人影の色は赤と紫。その顔に浮かべるのは、にやけた悪戯っ子の笑み。
そして。
「はい、しゃんとせんかーーい!」
スパーンッと響く、背中を平手で叩く音。
「ひゃんっ!?」
びっくりした顔で、目じりに涙を浮かべながら振り返るフィニー。
その眼前で、にやつきながら手を振る娘。
「あんなぁ。兄さん方は皆、プロやで。承知の上で来てくれている人達ばかりに決まっとる」
せやろ、と君達の方へ顔を向け。
「それに対して感謝こそすれ、謝罪までするのは筋違いっちゅーもんよ」
「……そういうものですか?」
「うんうん。んでも尚、気にするっちゅーんなら。ゼニ出しとき、ゼニ。それで大体解決や」
「ゼニ、ですか」
「ゼニや」
更にうんうんと一頻りに頷いてから、咳払い一つ。
改めて、くるっと君達の方へ体を向けると、その赤紫の娘が語りだす。
「どーも、初めましてやな。うちの名は蓮華院 纘花(れんげいん さんか)。新米境界案内人兼この飛空艇の艦長さんやで」
よろしゅーな、と笑顔で手を振る纘花。
更に追撃で「さんちゃんって呼んでもええで☆」と告げてから、フリフリしていた手を止めて眼前の机に触れると。途端、机の上に3Dのホログラフが浮かび上がる。
まず目に入るのは、ワイヤーフレームで描かれた山脈の姿。
その山脈の内部に広がる、広大な地下施設らしきものは何だろうか?
その表出した疑問に応えるように、彼女が告げる。
「んじゃ早速、お仕事の話に入ろか。待ち遠しかったやろ?」
――只今より、依頼の内容を説明するで。
アンタ等に頼みたい仕事の内容は、『重大なトラブルが生じた採掘区の調査、並びに障害の排除』や。
今より二日前。マグナ・モンディブス第34採掘区っちゅー所に派遣されていた採掘隊からの定時連絡が、突如として途絶えてもーてな。
どんだけ連絡とろうとしても、うんともすんとも言わんモンやから。こりゃアカンと警備隊が送り込まれたんやが……。
「その警備隊も、行方知れずになった?」
「せや。まるっともりっと行方不明やで」
君達の内の誰かが挙げた声に対し、うんうんと頷いて見せる纘花。
「事の重大さを知ったアージェンティ政府は、直ぐ様に軍の部隊を送り込む事を考えたのですが……」
その横で、頬に手を当てて困り顔となっているフィニーが、更に現状の説明を付け加えていく。
「現在、アージェンティ全軍は隣国の進攻に備えての警戒待機に移行しています。その状態でも、小隊一つ分の待機を解いて送り込む事は不可能ではありません。が、しかし」
そこまで述べてから、ため息とともに首を軽く振る。
「どうしても、手続きに時間が掛かるそうです。動けるようになるのは、早くても今より二日後とか」
それでは遅すぎる。
ああ、と。君達の内の誰かが、しかめっ面で応えてみせた。
規則を重視し過ぎる組織が時折に見せる、フットワークの重さというものを痛感しているのだろう。
「まあ、そういう時の為の傭兵制度っちゅーのがあるんやけどな?」
そのしかめっ面に対して、纘花が手を挙げる。
その、傭兵制度とは?
「身も蓋もない事を言うと、ローレットみたいなモンやで。『その道でしか食っていけない者達』が団を組み、代表者がとある国に存在する傭兵協会で登録を行う。するとやな」
賛歌が宙に指を這わすと、そこに何かの画面が表示される。
何かしらの文字がずらずらと書かれているようだが……所々の特徴を見るに、何かの書類のようだ。
その下の方を見ると、サインらしきものもある。
「こうして、お仕事が舞い込んでくるっちゅー寸法や。まぁ、今回は半ば分捕ったよーなもんやが」
そこまで言って、彼女はニヤリと口角を上げる。
「ほな、働いて貰う前に、肝心な所に関して説明させて貰おか――」
まず第一に。君達は、纘花を代表者とする傭兵団の所属者扱いとなっている事。
次に、君達は『この世界の中だと、無辜なる混沌にいる時以上の力を発揮する』事。
報酬は、纘花のポケットマネーから支払われる事。
「最初の事に関しては、まぁ、あれや。ダミーデータを送る事で誤魔化しとる」
後でハッキングかまして修正しとくさかい、とテヘペロな表情をしながら言う。
「二つ目に関しては、大まかな観測を境界図書館で行った上で推測していた事や。まぁ、正直な話。外れておらんかったようでホッとしとる」
三つ目に関しては言うまでもあらへんな、とだけ告げると、纘花は隣のフィニーへと目配せをする。
後は、彼女に説明を任せるという事らしい。
「貴方達には、Aランクの傭兵団として活動して貰う事になります。勿論、活動に支障が出ないよう、私達が全力でバックアップを致しますので、その点はご安心ください」
説明を引き継いだフィニーがそこまで告げると。一息だけ吐いた後、引き締まった表情を君達に向けた。
「このように面倒な事をしてまで、貴方達に協力を求めた理由はただ一つ」
そのしなやかな指先が、3Dマップの一部――坑道の奥底を指し示す。
「私の推測が正しければ。いま、ここに潜んでいるのは『並みの軍や傭兵では太刀打ちできない化け物』です」
仮に軍の部隊を派遣できたとしても、更なる犠牲が生じてしまうだけ。
故に、君達の助けが必要なのだと。
「これは、間違いなく“予兆”。世界を危機に陥れる、厄災の予兆です」
落ち着き払った様子で。静かながらも良く響く声で。
白百合の娘が、君達に向かって懇願する。
「どうか……皆様の力を、私達にお貸し下さい」
●
地の底から、何かが迫る。ナニかがせり上がってくる。
それは、人が長らく忘れていたモノ。
ずっと忘れていたかったモノ。
其れは恐らく、『絶望』という名を冠していた――。
- 《FT》再来、昏き淵より/Flowery Things “Vanguard”完了
- NM名憂以 了
- 種別ラリー(LN)
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年06月22日 00時43分
- 章数2章
- 総採用数9人
- 参加費50RC
第2章
第2章 第1節
●Discover
――先行した救助班より緊急連絡!
第三層最奥、第七大採掘場にて大型目標を確認!
各救助班は現在の作業終了後、至急に第七大採掘場前に集合して下さい!
「いよいよか」
飛空艇『天浮舟』のブリッジにて。
通信員が救助班へ指示を出す様を眺めながら、纘花が呟く。
「そうですね。漸く」
その隣で、静かに見守るように佇んでいたフィニーが、その言葉に応じて頷く。
「兄さん方、勝てるやろか」
「勝てますよ、絶対」
賛歌の言葉に対してそう言い切ると、静かに目を閉じ、息を吐く。
「……そうでなければ。全てが、終焉へと向かって堕ちていくだけです」
●Encounter:Ⅱ
第三層、最奥。
最後の探索箇所にして、“最大の障害”が鎮座している場所。
君達は遂にそこへ着き、ソレを見た。
ある者は、ソレを見て『球根の化け物』と言い。
その隣の者は、ソレを見て『クモを模した何か』と言い。
またある者は、ソレを見て『ヒドラめいた怪物』と言った。
ソレは、探索最終盤にて君達が遭遇したモノ。
フィニーが警告した、厄災の予兆そのもの。
歴史や童話の中で語られる黒い花、その直系。
刮目せよ。ソレこそが、地の底より這い上がりし暴虐の化身。
これより先、この世界にて君達が対峙し続ける事になる最大の敵。
Flowery Things――“人類の天敵”である。
─────────────────────
!!Attention!!
▼第2章:作戦目標
第七大採掘場に座す大型目標を排除せよ。
▼戦域
マグナ・モンディブス第34採掘区:第三層:第七大採掘場
一辺50m近くはある、正四角形状の巨大な採掘場。天井の高さは10m近く。
所々に機材や車両が散乱している。全て破壊済みだが、障害物として利用可能。
又、粉砕乃至溶解された死体があちこちに散乱している。
▼敵情報
◎F.T.『ヴァンガード』
全高5m強、全幅15m強の巨大生命体。
その姿は、『直径5mのグロテスクな球根モドキに、蜘蛛の様な巨大な足と触手めいた何かが何本も生えている』という、正に異形と呼ぶべき代物。
その球根部の所々には、まるで蕾の様な瘤が幾つも存在している。
その後方には、壁に埋まっている太い尾の様なものがあるが……。
※後方の壁へと埋まっているのは『根』。本体を撃破すると切断され、地中深くへ潜っていく。
・ステータス傾向
高HP、低防御力、高攻撃力。命中は低めで、回避は無いに等しい。
・能力(全て物理)
触根:超遠距離まで届く、触手めいた器官。全周に攻撃可能。殴打や突き刺しを行う。
脚:近距離まで届く。踏みつぶすように攻撃。主に側面へ攻撃。
体液:前方への中距離範囲攻撃(中・域相当)。【毒】【猛毒】を付与する溶解液。
瘤:破裂する事で、後述する『S型チルドレン』を生む。発動はランダム。破裂前に膨らむという前兆有り。
※破裂前に瘤を破壊する事で、S型チルドレンの発生を阻止できる。
◎F.T.『S型チルドレン』
救助活動時に遭遇した小型の敵。
・ステータス傾向
全てが低い。
・能力
エーテル・ジャマー:複数匹で囲んだ箇所のエーテル系機能を阻害する能力。【充填】効果半減。
※採掘区からの通信全てを阻害した元凶。
※追加情報
『ヴァンガード』『S型チルドレン』共に、打撃攻撃には特に弱い。
強い光源を浴びせる行為で【怒り】を付与可能。但し、ライトヒットとして扱う。
また、火炎系BS付与時、無条件で特殊抵抗-30(命中度による補正と累積)。
――各員の健闘を祈る!
第2章 第2節
●3+1
かくして、ここに集いし戦士達を紹介する。
動く死体、『特異運命座標』ヨルン ベルクマン(p3p006753)
吸血鬼、『黒焔纏いし朱煌剣』アリシア・アンジェ・ネイリヴォーム(p3p000669)
ルーキー、『強く叩くとすぐ死ぬ』三國・誠司(p3p008563)
そして――。
「ワフ!」
イッヌ。
「この子は?」
「ここで拾った犬、ヨルムンガンドだ。強そうだろ?」
問うヨルン。答える誠司。
「……言う事を聞く子なら、まぁ」
見下ろすアリシア、つぶらな瞳で見上げる胴の長い犬。
ぱたふたと振られるその尻尾は、勝利の予感を皆に与えてくれた……かもしれない。
●Full Attack
意を決して突入した彼等を最初に出迎えたのは、S型チルドレンの群れだった。
「ですよねー!」
得物を砲に変えた誠司が、ガトリングモードで群れを薙ぎ払いながら叫ぶ。
ここは生産元だ。多くのS型が既にいるのは当然の話か。
「どうやら、出所はあの瘤のようね」
掃射された所を駆け抜けながら、アリシアがヴァンガードを凝視する。エネミースキャン、実行。
「瘤が膨らんだら出てくるわ。後、正面は危険!」
判明した事を簡潔に告げつつ、射程内に捕捉した本体目掛けて指先を向けるアリシア。
途端にその巨躯が黒いキューブに包まれ、その中で多様な苦痛が荒れ狂う!
「なるほど、つまり……」
ヨルンが、巧みな多段攻撃で撃ち漏らしの敵を葬りつつ、駆ける。
「ここから、破裂する前に破壊すれば良さそうだ」
そのまま手頃な残骸の裏に滑り込み、即座に弓を突きだして強烈な一射を放つ。
ハイセンスによる瞬間的な把握から繰り出された凶矢は、破裂する寸前だった瘤を破砕し、そのまま本体の中を抉り貫く。
噴き出す体液、悶える本体。効果は覿面だ。
「お。やっぱり、瘤の痕は弱そうだな?」
予想通りの光景を見て、自分もと遮蔽物越しに砲を構える誠司。
しかし。それを阻止せんとばかりに、S型の群れが集まってくる。その数、十数匹。
「いやいや、こっちかよ!?」
それを見て、慌ててとある車両へとライトを投擲。
それは、突入時に目星をつけていた『燃料が漏れている』車両だった。
まんまとライトに釣られ、漏れた燃料の上へと集うS型。
後は――。
「ワッフ!」
――その時、凄い偶然が起きた。
後ろでお座りさせていた筈のヨルムンガンド(犬)が、いつの間にか瓦礫の近くへと歩み寄り、何かのスイッチをてしてしと叩いたのである。
突如として起動する、半ば壊れた発電機。
生じる電力、燃料近くまで伸びるケーブルの先で飛び散る火花。
そして……着火!
「あ゛ーー!?」
そのつもりだった誠司すら驚く爆発音。
そうする事を聞いてはいたが、やはり驚くヨルンとアリシア。
その火が触根に燃え移り、ばたつくヴァンガード
「……何にせよ、好機ね」
つい先程に浴びた体液をぐいっと拭い、アリシアが走る。身に付けた魔石の力で毒は無効化しており、更に体力にはまだ余裕がある。
攻めるなら、今だ!
「おっと、驚いている場合ではない」
そう呟き、矢を番えるヨルン。その視界内に、ふと何かが映り込んだ。
犠牲になった作業者達の無残な遺体だ。尊く美しい命の面影は、もう無い。
「ここまで無為に、無残に踏み躙るとは」
命とは、そこに在ってこそ輝く。なのにこれでは、僕ら(死霊)は……。
「妬み甲斐が、ないじゃないか!」
故に、このままにしてはおけない。そんな思いを込め、アリシアが駆ける先――本体の中央部目掛けて、渾身の凶矢を再び放つ。
その強烈な一撃で砕かれる殻、溢れ出す体液。
そこ目掛け、「ヤバきもい節足動物は滅びろ!」と吠えながら砲撃を叩き込む誠司。
「――見えた」
その二射が作り出した巨大な着弾痕、その中央に白い何かが見える。それはまるで、何かの種子。
アリシアがそれを視た瞬間、直感とスキルが告げる。そこが“核”だと。
「そこを潰せば!」
動作が加速する。
瞬時に繰り出したのは魔哭剣『虚』。苦痛を増大させ、虚無にて裂く邪剣でその種を抉り出し。
「終いよ!!」
繰り出す弐の撃、膨大な力を乗せた魔力撃がその種子を両断する。
瞬間、声なき声が採掘場内に轟いた。
びくびくんと異様な痙攣を起こすヴァンガード。
その痙攣は十数秒だけ続き――その後、体全体が急激に萎びて崩れ落ちていく。
――F.T.『ヴァンガード』撃破任務、完了である。
成否
成功
第2章 第3節
●Result:Ⅱ
――かくして。マグナ・モンディブス第34採掘区にて起きた惨劇の元凶、F.T.『ヴァンガード』はイレギュラーズ達の手によって討伐された。
その萎びれ果てた遺骸は纘花達の手によって回収され、今後の対策を練る為の研究材料となる。
これで、採掘区を脅かした脅威は……。
「去った、とは言えんな」
激戦の爪痕がいまだ残る第七大採掘場、そこに残る『大穴』を前にして、纘花が唸る。
「やはり。肝心の“根”は逃がしてしまいましたか」
「しゃーない。アレをどうこうするには、まだ色々と準備が足りんわ」
同じく大穴を眺めていたフィニーに対し、肩を竦めてみせる纘花。
「所詮は尖兵、使い捨てだったって訳やな。ヴァンガードが倒された瞬間、あっさりと切り離して地中深くまで潜り込みおった」
「追跡は?」
「やめといた方がええやろ。散々な結果になるのが目に見えとる」
やれやれと言わんばかりに手を振り、そのまま頭を掻いて再び唸る。
「一先ず穴は埋めて、立ち入り禁止にしておくのが関の山や」
「やはり、そうなりますか……」
分かってはいたが、悔しい結果である。
そんな思いに胸の内を支配されながら、フィニーは大穴を……いや、その更に奥深くへと視線を向ける。
その先にいるであろう、『とある存在』の事を想いながら。
「貴方は――今も、本気であんな事を考えているの?」
~再来、昏き淵より:完
NMコメント
皆様、初めまして。
新人NMの憂以 了(うれい りょう)と申します。
何卒、宜しくお願い致します。
●今回の構成
以下の流れを予定しております。
・第1章:生存者の探索と救助、最奥の調査
・第2章:最奥にいる???との戦闘
・第3章:後始末、???に関する調査
●第1章の要点
皆様で、採掘区の中を探索して頂きます。
最終目標地点は、最奥の採掘現場。
採掘区の中はそれなりに複雑ですが、纘花よりマップを渡されている為、迷う事はありません。
大きさと複雑さは、どこぞの首都の駅が只管に大きくなったようなものを想像して下さい。
ある程度は整然としていますが、整地まではされていません。
装備に関しては、ある程度のものなら貸与されます。
照明、エーテル・ソナー、移動用のオフロードバイクや車両、etc……。
飛空艇や仲間と連絡を取る為の通信機は、必ず貸し出されます。
明らかに持ち運べないものや特殊過ぎるものはアウトだと思ってください。
OPに出てきたゴーレムもアウトです。
「すまんなぁ。流石に、今回は間に合わんかったわ」
「次回は用意するさかい。な、な?」
※技術面に関する注釈
魔導技術の発展により、科学技術の産物と大差ない品物が出回っています。
OPに出た情報端末レベルのものは確実に存在します。
近未来レベルのものを想像して頂ければ問題ありません。
※生存者に関して
生存者に対する処置の仕方は一任されています。
自分で外へ送り届けるも良し。安全地帯を作って、そこへ避難させるも良し。
※敵性生物との遭遇に関して
第1章では、探索中に『小型の何か』に遭遇する可能性があります。
皆様からすれば雑魚でしかありませんが、要救助者達にとっては脅威です。
くれぐれも、御注意を。
※イレギュラーズの強さに関して
この世界において、イレギュラーズはある程度の能力補正を受けます。
簡潔に例えると、最低でもラド・バウのA級闘士級。強くてS級闘士の下の方です。
また、ギフトの性能がいくらか向上します。
戦闘中に使えないものが使えるようになったり、効果範囲がいくらか広まったりする程度ですが。
尚、今後の展開次第で、更に強化される可能性もあります。
【境界案内人より】
●傭兵団に関して
「せや、言い忘れとった事がある。傭兵団の名前なんやけどな?」
「傭兵団の名は、『ネームレス』で登録してあります」
「『名無しの傭兵団』っちゅーわけやな。正体不明で神出鬼没。厨二心をくすぐるやろ?」
「……そういうものなのですか?」
●イレギュラーズの外見に関して
「ああ、もしもや。特異な外見に関して突っ込まれたら、『魔族です』言うて誤魔化しとき」
「詳しくは後日に説明いたしますが。ええ、この世界にはそういう存在がいるということです」
「まぁ、無辜なる混沌におけるウォーカーみたいなもんや。その内、会う事もあるやろ」
「ちなみに、幻想種のような種族はこの世界にも存在します。そちらの方々は問題ありません」
「機械式の義体もあるで。なんで、鉄騎種も問題無しや」
●閑話休題
「そういえば……ゼニ、に関してなのですが」
「ああ、アレな。それがどないしたん?」
「いえ、何で払えば良いのかと。こちらの通貨は通用しないでしょうし」
「何や、そないな事かいな。問題あらへん、ええ方法がある」
「どんな方法ですか?」
「パンツで払えばええんや」
「なるほど、パンt……パンツ!?」
「せや。無辜なる混沌では、パンツが通貨として通用しとるんやで。フィニーはんのパンツなら……」
「……」
「……フィニーはん?」
「そ、それでいいのならば……」
「いや、待ちぃ。冗談や。冗談やから、ここで脱ごうとするんはやめぇ!?」
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