PandoraPartyProject

シナリオ詳細

不運洞窟グラフトリーフ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●不運とは
「はぁ、はぁ、ちくしょう! なんでイレギュラーズが……!」
 ドルフ・エッジは天義の、とある地域を中心に活動する山賊であった。
 部下を従え荷馬車を襲い。ある一定以上の稼ぎを得れば騎士団が来る前に次の場所へ。
 足が付く前に拠点を移して安全策を取り続ける――その手法は良く言えば慎重、悪く言えば小物極まる様な形であったが。少なくとも組織として大きな塊である騎士団の手からは辛うじて逃れ続けていた程度には効果があった。

 しかしそれも今日ここまで。

 またいつもの通り薄暗い山道で、手薄な商人の一団を襲おうとしたのだが――そこには護衛としてイレギュラーズ達がいたのであった。騎士団の制服や、或いは騎士団の者達が潜んでいる空気を感じなかったから油断したのもある。
 奇襲にばかり慣れていた山賊団は正面対決に完敗。
 ドルフは這う這うの体でなんとか戦場から逃げ出した、のだが。
「くそ! まだ追ってきやがるのか!!」
 後ろから追手の気配を感じる。
 護衛と言うよりは元から山賊団の壊滅の依頼でも請け負っていたのだろうか……いや、まぁ真偽の程はどうでもいい。とにかくこのままではやがて追いつかれよう。息も上がり始めており、ドルフは自分の体力の限界も感じ始めていて。
「――ッ!? あ、あれは……!」
 だがその時幸か不幸か――彼の視界には洞窟の入り口が見えた。
 奥からは風が吹いてきている。と言う事はこの先はまたどこか別の場所に繋がっているのだろうか。いや、風を感じるとはいえ人が通れる程の穴ではない可能性もある、が……
「ええい、考えている暇はねぇか……!」
 後ろからの気配はどんどん自らに近付いてきている。袋小路であれば自ら退路を断つようなモノだが――元よりこのまま逃げていても追いつかれる可能性は高いか。ならば一筋の可能性に掛ける他あるまい。
 そう思考した彼は洞窟の中へと飛び込んでいく。
 だが彼は知らなかった。
 この洞窟が――世にも奇妙な『不運』の洞窟である事を――

●ファンブル・ファンブルゥ♪
「待てドルフ・エッジ、大人しくお縄に付け!!」
 イレギュラーズ達は山賊頭目ドルフを追う。部下たちは全て撃破し残るは奴あと一人のみ――
 洞窟の中へと逃げ込んだ様だが、無駄だ。
 そちらは一人。こちらは八人。追手と捜索の数が圧倒的に多い以上最早逃げ切れる筈もない。
 穴倉の中へと進んでいく。奴の足音を追う為に、耳を澄まして……
「……ん? なんだこの音、はッ!?」
 瞬間。イレギュラーズ一人の耳に入ってきたのは轟音だ。
 目前、通路の先から響いてきている。何かと目を凝らせばこちらに直進してくる――
「うわあああああなんだこれはああああ!?」
 巨大岩石。もはや足音を探る所の話ではない。踏みつぶされてしまう!
 咄嗟の回避で横へと跳躍すれば――しかしそこは何故かぬかるんでいて。
「わあああ滑るぞここ!! き、気を付けろ!!」
「なんだこのトラップみたいなのは!! ええいくそ、岩石なんて吹っ飛ばして……!」
 そう言って別のイレギュラーズが起動するは魔法陣。強力な魔術で障害物を粉砕しようと試みるのだ。
 ――だがその時。突然吹いた風に埃が乗っていて、彼の眼に直撃。
 思わず瞬間的に目を閉じてしまえば狙いが逸れて、あああ天井に当たって崩れる――!!

「はーはっははは!! 流石のイレギュラーズと言えど苦戦してるようだな、ザマァ!!」

 同時。奥から聞こえてきた声は――追っていたドルフだ!
 これは、これはお前の仕業かと声越しに問い詰めるが、どうやら違うらしい。
「まさか実在したとはな……俺も風の噂だけで聞いていた存在。不運洞窟『グラフトリーフ』! この地域のどこかには数年に一度、魔力が満ちた特定の日だけ『不運』が襲い掛かって来るという謎の洞窟があるという。丁度俺が入った此処がそうだとは思わなかったが……!」
 あらゆる行動が失敗する洞窟。耳を澄ませば妨害の如き音が鳴り響き。
 目を凝らせば埃が舞って。魔術を唱えれば何故か舌を噛むし、歩くだけで転びそうになる。
 突然タイミング悪く魔物が襲い掛かって来たりするし、バナナの皮が落ちてたりするし、岩石が降りかかってきたりするし、もうホント意味が分からないぐらい失敗してしまうのだ。
 不運な出来事が起こらぬ様に気を付けている者――メタ的に言うとファンブル値0の者でも何故か行動が失敗するらしい。不思議だね。
「分かったらとっとと帰るんだなイレギュラーズさんよ……!
 進めば進むほど雁字搦めの不運がお前達を襲うだろうぜ! それこそ動けなくなるぐらいにな!」
「……つまり、俺達よりも先に進んでるお前はより凄い不運に引っかかって更に動けなくなってるんだな?」
「うん」
 うん、じぇねぇよ。
 ……依頼主からのオーダーは山賊団の迎撃と彼らに正義の裁判を受けさせる事。
 となれば大人しく帰る訳にもいかない。ドルフは捕えなければならないのだから。
「や、やめろ――!! 来るんじゃねぇ帰れよバーカ!!」
「うるさい!! 後はお前さえ何とかすれば万事解決なんだ大人しく捕まれ!!」
「嫌だね! 捕まるぐらいなら俺は更に先へと進んで……ぎゃあああああ!!」
 ああ、ドルフの悲鳴が奥から響いている!
 あんまり進みたくないが仕方ない――依頼達成の為にも、奥へと進み奴を捕えるしよ、うわああああスライムが落ちて来たあああああああ!!

GMコメント

■依頼達成条件
 不運の洞窟に逃げ込んだドルフ・エッジを捕まえろ!

■依頼現場
・不運の洞窟『グラフトリーフ』
 数年に一度、説明しがたい神秘的な理由によって魔力が満ち、洞窟内にいる全ての人物に『不運』な要素を齎す謎の洞窟。これはBSの不運とは全く別のモノであり、そのまま意味で『運が悪く』なる。
 例えば超視力で前を視ようとしたら埃が突然舞い散り。
 例えば火を灯そうとしたらなぜか灯し難い上に、灯せた思ったら火炎放射器レベルになり。
 例えばさっきまで何もいなかった筈なのに突然魔物が襲い掛かって来たり。

 それはもう大変な事になる。
 ただしいずれの不運も死に直結するレベルになる事はないので、やろうと思えばあらゆる不運を受けながら突き進む事も多分可能。どんな不運を受ける事になるかは不明ですが。

 ちなみに。ファンブル値に関わらずファンブル的な不運要素がこのシナリオでは皆さんに降りかかりますが、ファンブル値が低い人はその不運のレベルを下げようと頑張れば下げられるようです。
 逆にファンブル値が高い人は……どうなるんだろう……?

■ドルフ・エッジ
 山賊団の頭目。イレギュラーズの反撃により配下は全滅。
 残るは彼一人。傷を負い、戦闘力もほとんど残っていない様なのだが不運の洞窟に逃げ込んで……
 捕まるのはどうしても嫌みたいなので洞窟の奥へ奥へと進んでいますが、当然彼にも不運は降りかかっていますので段々その歩みは鈍くなっている様です。

■EXプレイング
 本シナリオではEXプレイングを選択可能です。
 場合によっては関係者などを登場させて巻き込……
 もとい、色んな事が出来るかもしれません。

 EXプレイング詳細:https://rev1.reversion.jp/page/scenariorule

  • 不運洞窟グラフトリーフ完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2020年06月27日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

オーカー・C・ウォーカー(p3p000125)
ナンセンス
杠・修也(p3p000378)
壁を超えよ
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
カイト・C・ロストレイン(p3p007200)
天空の騎士
ミリヤム・ドリーミング(p3p007247)
アイドルでばかりはいられない
高槻 夕子(p3p007252)
クノイチジェイケイ

リプレイ


 よりにもよって『此処』に来るとは……と。思い悩ませながらもエミリア・ヴァークライトは言葉を紡ぐ。元は騎士団の任務としてドルフ、並びにその配下を追っていた彼女だったが……イレギュラーズ達が既に交戦していると知るや否や現場へと。
「……万が一にもドルフと入れ違いに成らぬ様、私は此処で待機しておきましょう。
 そうすればドルフが戻ってきても、即座に」
「うん叔母様――でも不運のダンジョン、かぁ……
 この近くの街には来たことがあったけれど、そんなのがあるなんて知らなかったなぁ」
 そして時間がない故に簡易的に情報交換だけを済ませ『新たな道へ』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は前を向く。見るは件の洞窟、しかし何を恐れる事があろうか。出口は叔母のエミリアが抑え、こちらは八人。
「警戒できる範囲も八倍だから被害は進み具合の差以上に軽減できるはずだよ!
 さぁ行こう! 何も怖くぬぇ!!」
 ならばと『猫さんと宝探し』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)は進む。厄介な場所に逃げ込もうと数の差と言うのは覆しようがあるまい! ……ただ念の為の周囲の者達とあまり離れすぎないようにはしておこう。
 カバーできる距離を常に保っていれば最悪の事態にはならない筈だ。多分。たぶん。
「とはいえとても興味深いダンジョンだわ。人の手が入った『進ませない』迷宮では嫌がらせの類なんて簡単に出来るけれど――天然のダンジョンが侵入者に対して因果を結ぶ、なんてね」
 一歩。二歩。進む度に空気を感じる『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は内心グラフトリーフに対し心躍る面もあった。
 単純にトラップがあるだけならば人為的に幾らでも可能だ。しかし『不運』という事象を齎すとは、既存の物理的迷宮の概念から外れた場所である事に違いない。
 さて如何なる辛苦が待ち構えている事やら。冒険のいろはを思い起こし、心得を胸に。
 瞼を閉じていざやと目を見開けば――
「あ、痛ったぁ!?」
 甲高い音を響かせて、額が鍾乳石に直撃した。
 おおおッと地を転げまわりそうになるが耐える。
 おかしい、さっきまで此処にはこんなモノ無かった筈……!
「……こいつは一時も油断ならないな。大事な物は仕舞っておいた方が良さそうだ」
「ふむ。だが案ずるな。
 ただでさえ不運な俺がいるんだ――恐らく不運の類は全て俺に吸い込まれ」
 同時。杠・修也(p3p000378)は愛用の眼鏡を壊れぬ様に仕舞った瞬間。隣にいた『ナンセンス』オーカー・C・ウォーカー(p3p000125)が前方より超高速で飛来した巨大岩石に轢かれる様を横目に見てしまった。
 岩石はそのまま転がり続けながら別の道へと進んでいく――オーカーを奇跡的に引っ掛けながら。
「オーカ――ッ! くそ、オーカーがやられたぞ! いや、なんかこういうヤベー事になるんじゃないかとは思ってた地雷だったけど、マジでやばいなここの洞窟!!」
 言うは『六枚羽の騎士』カイト・C・ロストレイン(p3p007200)だ。
 いや洞窟以前に滅茶苦茶不運を纏っていたオーカーだったので元からある程度距離は取っていたし、酷い事が起こるんじゃないかとは予測してたし躱したし、なんなら放置しておくのも面白そうとか思わない訳でもないが……あ、待って名声だけは勘弁して!
「あーっ! 前から蝙蝠が! 蝙蝠達が山ほど波の様に――! く、くそう!! 山賊団の迎撃と彼らに正義の裁判を受けさせるだけの簡単なお仕事の筈だったのに……何でこんな事になってるんスか! もードルフとかいう奴はどこ行ったんすか――!!」
 と、目の前からは『天義の希望』ミリヤム・ドリーミング(p3p007247)の照らした懐中電灯の光に反応して蝙蝠が一斉に飛び立ち動きを阻害。思わず叫んでしまえば灯りを落としてしまった上にそれがどんどん都合悪く奥の方へと転がっていき。
「まぁ任せておきなさいよ。あーしの速さにかかれば、すぐ拾ってみせるわ! なぁにこぉんな洞窟がなんだっていうのよ。所詮はただのざぁ・こ♪ 洞窟でしょ?」
 であればとフラグをぶち立てながら『クノイチジェイケイ』高槻 夕子(p3p007252)は言うのだ。自信たっぷりに、見下す様に懐中電灯が流れていた方を見て舌を出し。

「少し運が悪くなるだけの呪いなんて大したことないわ!
 いくわよ、ってわきゃああああああ!?」

 言って。駆け出そうとした瞬間――洞窟の突起に足を取られてすっ転ぶ。
 更に受け身も取れずに二回転。坂が急で三回転。したら、なぜかそこには巨大スライム。
「ちょ、なんでこんな所にスライムがいるのよ!? もごもごもごっ! やぁっ、ん……っ! ネバネバしてる――! ちょ、もごごもご! やぁああああん!」
 阿鼻叫喚。防御不能。やけに粘着性の高いスライムが夕子を頭から包んで……まずいえっちなシナリオになってしまう! ダメダメこれは全年齢!
 もがく夕子。そのまま足を滑らせ、なぜか存在するやけに深い穴へと落下。嘘でしょまだ数歩しか進んでないのにイレギュラーズ達、分断されそうである!
「ううん。でも臆しちゃだめだ! お母様も見守ってくれてるからね……!」
 言うはスティア。握り締めるは首元にある指輪。
 母の形見であり握るだけでとっても不運を妨げる気がする。いや絶対そうだ。だってあんなにお淑やかでしっかりしてそうな気がするお母様のモノなんだもん。なんだか以前そんな話をエミリア叔母様にしたら、かなり怪訝かつ微妙な顔をしていた気がするけれど、気のせいだよね。あの時は叔母様多分体調でも悪かったのかなぁ?
「きっと守ってくれるはず……!」
 だから進もう。大丈夫だよねお母様――

 あっ靴紐が切れた。なんでだろ?


 夕子は考えていた。何が起ころうと早く動いて早く事態を解決すれば楽勝だと――
 しかし現実は非情であった!
「もが、ぺっ、ぺっ! うぇぇ口の中に……もー! しかも大分落ちてる――!!」
 落下の衝撃でスライムは爆散。夕子は無事。
 上を見上げれば――まぁ上がれない程ではない高さ、か。
「ふふん! これぐらいなら楽勝ね! この程度の穴ぐらいすぐに……すぐに……」
 ならばと復帰するために立ち上がった……と、同時。
 偶々傍にあった木の枝が下着に引っ掛かり、やけに鋭い先端だったので僅か一瞬で『千切れ』た。
「はへっ?」
 下着が。そう、つまりは――ぱんつが! 破けたのである!! いやっほい。
 はらりと落ちた布は確かに自らのモノ。即座に掴みポケットに突っ込みしかし代えのぱんつなどあろうか、いや無い! 吹く風がスカートの裾を揺らせば末恐ろしく押さえるものだ。
 どどどどど、どーしよう! 目まぐるしく働く思考。頬に感じる熱の量。
 上に戻ろうとするのも躊躇う程だ。尚、その上の方では。
「カイト、カイト! こっちよ! こっちなら進めるわ!」
 ああ全くどうしてドルフはこんな所に逃げ込んだのか――カイトは迫りくる不運を最大限警戒しながら前を進む。その更に前には仲間以外の別の影……こっそりと彼に付いてきていた妖精のニアであった。
 ニアとはある出来事をきっかけに知り合った仲である。偶々カイトを見かけた彼女は退屈潰しがてら洞窟の中にまで付いてきていて……しかし何が起こるかも分からぬ場所であれば危険も多い。流石にカイトは引き返す様に言ったのだが。
「ニア。面白がてら付いてくるのは構わないけど、この先本当に危険なんだからな。
 さっきまでの様子を見てたろ――? 僕は忠告したぞ――?」
「大丈夫よ! 大玉が転がって来たりしても私はすぐ逃げられるもの!」
 聞いているのかいないのか、大丈夫だと自信満々に先行する。
 羽根を広げ優雅に。先を見てくれるのはありがたい話だが、警戒が薄いようにも感じれば冷や冷やもするものだ。
「それに――いざとなったらカイトが守ってくれるでしょ!」
「全く、都合のいいことを言いやがって……!
 いやまぁそりゃ勿論守るけど、何が起こっても後で文句は無しだからな!」
 カイトの眼は暗闇の中でも透き通り遠くを見据え、敵意の察知を行う術を走らせている。
 本来であればこのような洞窟であっても万全の筈だ――いつニアに危険が迫ろうとすぐ動ける。
「ああもう、どうなってるのよここは……! どうして式神が出てこないわけ!!?」
 動ける――と思うのだが、イーリンの惨状を見るとそうでもないかもしれない。
 彼女は今までの知識を総動員し前へ進まんとしている。洞窟の構造そのものは自然物であればある程度進路の予想は付くもの……
 しかし! 此処に至るまでに何故か躓いた回数七回!
 先行させようと思った式神の召喚を試した回数二桁! 出来たモノは何故か老いた亀!
「あり得ないでしょ! こう、もうちょっと鳥とかそういう……!」
「ふむ。なら任せろ……こんな事もあろうかと用意したメモ帳とペンでマッピングを――」
 ならばと修也はせめてもの策としてマッピングを試みる。
 今まで歩いた感じからすると、流石の不運も洞窟の構造そのものを変えたりするような動きは無さそうだ。ならば確かに通った跡を記録し、これからの探索に役立て、役立て……
「……なん、だと……?」
 しかしポケットから出てきた物はおでんの大根である。なぜ?
 いやいや待て待てありえないありえない。自らは確かに筆記用具を仕込んでいた筈だ――と。落ち着くために天を仰ぎ、深呼吸。右手には水分、おでんの大根。ほんのり温かい。
「はははなんすかこれ……あれスかきっと『これも日頃の行いが悪い所為』みたいなそんなアレっスか? そういう意味ならこの洞窟入る前から不運だったって事になるっスね、アハハ……笑えねェ!」
 くそ、ボクはアイドルだぞ! 蝙蝠の大群に押しのけ涙目ながらなんとかやってきたミリヤム……その顔面には引っかかれたのか痕が沢山残っている。うっ、いくら芸人アイドルとはいえ、なんてひどい……
「なんすか今の天の声は! 芸人じゃないっスよア・イ・ド・ル!!
 ……いやホント絶対醜態晒す系な不運には巻き込まれないっスよ!」
「ああソレは『振り』って奴だな。よくわかるぞ――」
 直後。またオーカーが脚を滑らせて大変な事になった。あああ偶々あった深い穴に落ちていく――!
 あらゆる『探す』力に、洞窟の自然構造を理解する自然の知識もあるのだが、役立たせる暇もない。彼の元からの不運も重なっている結果なのか!? 彼の周囲では何かが起こる。もはやある意味そこにいるだけで効果を齎す戦略兵器である。
 んでもってそんな事だから近くにいたミリアムにも不運が。
「ぎにゃあああああッ!? 待つっス!! こんなの聞いてないっス!?
 だめっス!! こんなの撮影NGッスよ!! だ、誰か助けて――!!」
 なんでか良く分かんないけれど随分とぬめりの強い液体に足を取られ、あああああッ! という涙声絶叫と共に洞窟を滑っていく。それはさながらジェットコースターの如く。超速の彼方にアイドルがしちゃいけない表情しちゃってる。
 壁に弾き飛ばされまた滑り、絶叫の響きはどんどん奥へと。
「ハハハ俺を追って来るからこんな事にな、ぎゃあああ!」
「……色んな事起こってるけどさ、未だにあの悲鳴が途絶えない辺り捜索は簡単だよね……」
「そうだね。足跡とかを辿る必要があるかと思ったけど、よっぽど簡単だよ」
 そしてミリヤムの様を嘲笑う様にドルフの声が響き渡る。が、直後にはそのドルフからも悲鳴が轟く。
 おかげでアクセルやスティアも労せずしてドルフの大まかな位置を把握出来ている状態だ。アクセルの足元では連れて来ていたちびスライム探偵もあっちだと指差している。かわいい。
「まぁだからと言ってやっぱり油断も隙も無い訳だけ――ど!!」
 とはいえ眼前。襲ってくる不運に魔物の襲来もあれば気は抜けぬ。
 こっちに向かってくるのはクマだ。この洞窟を偶々ねぐらにしていたクマだろうか、突進する様にこちらへと。ちびスライムを抱きかかえ、放つは不可避の雹。如何に不運が至ろうと躱せぬ一撃に余地は無かろう。
「うん――やっぱりさ。不運が襲ってくるならどうすればいいんだろうとか考えたけど……ある程度ならもう無視して進んじゃうほうがいいよね。ドルフを捕まえれば終わりだし!」
 同時、スティアが前へと。襲ってきたクマを引き付ける様に――氷結の花を咲かす。
 不運に臆し足を止めればそれだけこの洞窟に長く留まるという事でもある。それは不運が訪れる機が増えるという事――ああならばいっその事どんどん進んでいこう。深く考えても浅く行動しようとどうせ不運は訪れるのだ!
 ドルフの悲鳴が近くなる。なんでまだ先に進もうとするのだアホなのかアイツは。
 ならばと往くのだ夕子は。意を決して穴を出た彼女は気持ち少し『普通』に走りながら……
「PPPは……PPPは全年齢――ッ!!」
 魔法の言葉を唱えるのだ。ああこの言葉、大事・絶対!
 謎の光ならぬ洞窟の謎の闇が夕子の下からの映像を隠し続ける。闇がやけに濃くて何も見えないので安心だ! ぱんつはいてない状態異常になんて負けるか――!! まさかあーしがこんな伝説の状態異常に掛るとは思ってなかったけれど――!!


「あああああもう! こんな事もあろうかと便利な箱を持ってきてたのよ!!」
 上手い事式神を創れない事に業を煮やしたイーリンはドルフの存在を近くに感じ。ついに温存していた手段を取り出す。
 それは『箱』――所有者の代わりに不運を背負うとされる祈りの一品。
 たった一時だけでも良い。不運が集約している内に前へと進むのだ! それを邪魔する魔物や瓦礫があるのであれば――
「こうなれば全部ぶっとばしてやるわよ! 道なんてものはね、なければ作ればいいのよ――!」
 進みづらい? なら壁に穴を開ければいいじゃない。
 収束した魔力が槍となり大地を穿つ。おら、どきなさいよ容赦しないわよ!
「どこからともなく現れる魔物に突如発生する瓦礫。
 ……フッ。本当に不思議極まる洞窟だな、ここは……」
 そういう修也は今――洞窟の真横から飛び出てきた食人植物に喰われかけていた。
 飲み込もうとしてくる口元を必死に抑え、拳に力を。魔力を込めて放つ一撃は強力で――他所への影響も少ない。いや遠距離に至る攻撃でもいいのだろうが、うっかり天井に当たって落盤発生とか冗談ではない。今までの経緯を見るにマジで発生しそうで尚に怖い。
「やる事成す事悪い方に動く気がしてならんのだよな。耳を使えば蝙蝠の大群がいきなり飛ぶし……待てよ。となるとある人にとっては幸運でも、ある人にとっては不幸とかも起きるのだろうか?」
 例えば――いわゆるラキスケとか――
 いやいやこんな事を考えているときっと己がラキスケを受ける対象になるかもしれない。深く考えるのは止め、食人植物を殴り飛ばし続けてしっかりお仕事をしよう。第一そんなへっちな出来事なんて簡単に起きる筈が。
「ええと、何とかって言う山賊! その、今日の所は走らずに戦ってあげるわ!
 だから光栄に思いなさ……ひゃあ!!」
 同時。やたら足元にだけ吹く風を夕子は警戒。スカートを抑えて走り辛そうに。
 繰り返すが、そう! 彼女はノーパン(現在進行形)である! ジャンプしようものなら大変な事になるし、蹴り技なんて使おうものならありがとうございます。
「あーんもう! とにかく早く捕まりなさいよ――!」
「やれやれ。奴も意固地になっているようだな……だが」
 そこへ至るのがオーカーだ。あちらこちらとにかく道を疾走し続けた彼は――
 魔物を引き連れトレイン状態。ぎゃああああ洞窟中の魔物が彼の後ろに――!!
 うわあああ来るなぁあああと、何故か前から至るオーカーにドルフは思わず足を止めて。
「――さぁドルフくん、諦めたらどうかな。ていうか諦めろっての!
 ええい大人しく捕まるのなら、外までは俺が守ってやるぞ? 死にたくはないだろ?」
 そこへ即座に介入したのがカイトだ。ドルフの首根っこを掴んで、一気に捕縛。
「いやだー! 俺は天義になんか屈さないぞ――!」
「うるせえええつべこべすんな!! 俺ァ此処から早く出たいんだよ!! 大体抵抗すんなら容赦はしねーぞ!! 散々好き勝手な事しやがって、教皇の膝下でオイタが許されると思うなよぉお!」
「止めて――! 天義される――!!」
 あんまり煩いので剣の峰で殴り飛ばした。アレも起こるわこれも起こるわドルフ一人の為に十人近くが洞窟畜生に命張ってんだ。大人しくしろおおおおお!!
 ブチ切れながらボコボコに。元からドルフは負傷していてここに逃げ込んだ次第。その上先行していた故に多くの不運も受けていて――ぶっちゃけ抵抗する余力なんてどこにもなければ捕まえるのは余裕であった。さすれば追いついてきたアクセルもドルフを縛り付けて。
「ナイスだぜカイト! 後はこっから引き返すのみ……いや引き返せるのかコレ!?
 てかマジでこっから引き返すのかよおおお!!」
 こっち、こっちよ! とカイトの知古のニアが出口方面を指差すが、行きは怖くて帰りも怖い。しかし留まるも危険である。何せオーカーの不運がやばい。ほんまやばい早く逃げないと!
「大丈夫、帰りの道はなんとか覚えてるし、入り口に近くなればなる程不運のレベルは下がる筈だから――うわぁ」
 瞬間。味方へと治癒の術を飛ばしたスティアの足元からサメが生えて来た。
 あれも世にも珍しい地中を泳ぐアース・サメーズである。なんでもツチノコレベルの出現率らしく、見た者は幸運だと呼ばれる事もあるとか……いや絶対嘘でしょこれお母様たすけてー。
 ともあれ魔物を迎撃しつつ足元に気を付けつつ、イーリンはまた鍾乳石に頭を打ちながら引き返す。
 そんな中、天上から降り注いで来たスライムの波にミリヤムは飲み込まれないように走りつつ、鼻先に付いた粘着性のよく分からん物質を拭って進む。非常に『タフ』な性質を持つ彼女は幾度の不運に塗れようと立ち上がり、その度にガチ涙声を洞窟へと響かせ――思うものだ。
「なぜだー! ボクはアイドルっスよー!」
 追っかけられるなら目を輝かせるファンであるべきなのに、後ろにいるのは舌を垂らす獰猛な魔物共。
 なんでこんな、こんな……!!

「ぬひゃあああ! なんなんすかもぉぉおお嫌ッスこの洞窟――!!」

 全ての元凶であるドルフを一発、いや二発どつきながらミリヤムは出口の方へと。
 されば出る直前。
 どこからともなくバナナの皮が彼女の足元へ舞い降りればつるりと滑って一回転。
「ふぎゃ――!!」
 後頭部から地へと直撃し――意識は遠くへばたんきゅう。

 ああ全く……二度と来るかこんな洞窟ぅ……!!

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

依頼お疲れさまでしたイレギュラーズ!!!!!

皆様の活躍によりドルフはこの後連行されました。
この洞窟は魔力を失い、また満ちる日までは大人しい事でしょう……
…………この洞窟、爆発させた方が色々平和な気がしますね。エミリアさんお願いします!

ともあれありがとうございました!!

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