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シナリオ詳細

太ももをぺちぺちされる簡単なお仕事(する側)

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「いや。本当に申し訳ないんだけどさ」
 『そこにいる』アラギタ メクレオ(p3n000084)の顔にはどう伝えようかと悩んだ跡があった。目の下がうっすら黒い。
 だが、今は、いっそどうにでもなーれ。という顔をしていた。
「一晩徹夜してくれないかな、拷問のために」


「わかりやすく言うと、圧政に対する抵抗運動だな。実際、問題のある代官が治めていた。そっちはもう領主によって懲戒対象になったんで別管轄なんだが。だからって振り上げたこぶしをそうそう下せねえだろ、気持ちの問題で。アイツが悪かったので首をはねます。すぐもっとましな代官を送りますね。で済むかって話だな。済ませてもらうんだけどな」
 メクレオは、ずずずと茶をすすった。
「で、みんなには振り上げたこぶしをなかったことにする手伝いをしてもらう。町の教会の鐘楼に時限式爆発物が仕掛けられたのを発見。ここが吹っ飛ぶと、周囲に立った主要建造物がほぼ巻き添えになり、罪なき民が巻き込まれる。仕掛けた方はちょっとした爆竹と認識してる。実際、大した爆発は起きない。けど、その爆竹で破滅のドミノがスタートするんだよ」
 そこから滔々とメクレオが語った破滅のドミノは、風が吹けば桶屋が儲かるより、もうちょっと長かった。そんなことになるなんて誰も思わないって。
「そうなるとそんな気はなくてもレジスタントじゃなくてテロだ。一気に犯罪者になっちまう。特に名を秘す領主様は、それは忍びないってさ。爆竹を仕掛けた罪は不問にしたいんだと」
 そういう訳で、時限式爆竹さえどうにかできれば大団円なのだが。
「それがどうにもできない」
 解体すればいいだろう。そうでなければどこかに持ってって誰にも迷惑かけないところで爆発させればいいんじゃないだろうか。
「解体しようにも箱が開かない。鐘楼の床にへばりついてぴくとも動かない。結論から行くと物理じゃどうにもできない」
 メクレオは、深く息をついた。
「レジスタンスの一人がイレギュラーズでな。そいつのギフトの産物だ。『蛎殻のごとく』――望んだものは牡蠣の殻のようにいかなることが起きても微動だにしない。魚が涙を流さぬ限りは」
 何の役に立つかわからないヘンテコギフトも使いよう。
「で、みんなには急ぎ、魚――ギフトを使ったディープシーなんだが――に涙を流させてほしい」
 さっき、拷問と言っていた。よほど苛烈な真似をしなくてはならないのだろう。たくさんの人の命がかかっている。命を懸けるのではなく、自分の矜持を捨てる覚悟が時には必要なのだ。
「彼の太腿に該当するあたりにうろこがはがれている箇所があるので、痛くないようぺちぺち今から行ってすぐ。夜明けまで叩いてほしい。今時分だと六時間くらいかな」
 ローレットのイレギュラーズは時々理不尽な要求をされることがある。
「なぜ。と聞かれると思うので答えるが、この通称「オイスター憑き」と呼ばれるディープシーは、該当箇所に普段は牡蠣がはりついている。彼のギフトは任意のものをくっついてはがれず開かない牡蠣とおなじようにするってもので、その間は牡蠣が消えるんだ。回数や使用制限がある。で、解除条件が、牡蠣がはがれてできたうろこのないところを痛くないようにぺちぺち叩かれながら日付を越え夜明けを迎えたとき。と設定されている。」
 メクレオは、事実だけを述べた。
「なぜそうなのか。知りたかったら本人に聞け。語るかどうかはわからないが」
 これが拷問?
「拷問だろ。やる方もやられる方も」

GMコメント

 田奈です。
 昔、やっきーとがっさーは「太ももぺちぺちする連動依頼やろうね!」とキャッキャうふふし、タイミングのがして、幾星霜。ようやく約束を果たす機会がやってまいりました。
 こっちは太ももを痛くなく叩く方です。叩かれる方がやっきーです。
 そう。ママのようにやさしく叩いてもらいます。一晩中。
 心が壊れないように自衛とか、腹の底にくすぶる欲望を表に出さないようにとか、交代間隔とか、速やかに後退するための合図の相談とか、笑い声を上げないように自分に頬っぺたの裏側噛むとか、有り余る膂力をを調整するためのアイテムとか、色々対策してください。
 拾えるネタは拾います。覚悟完了と書いていただけると、田奈が神妙な顔をして頷きます。その場合、今後のローレット・イレギュラーズ人生にいろいろ起こるかもしれませんがそれも覚悟に含まれます。お含みおきください。


*状況:爆発物が仕掛けられた鐘楼
 次元式で起動する爆発物が仕掛けられています。
 爆発物はせいぜい爆竹くらいの威力しかありませんが、不幸の連鎖が起き、周囲に壊滅的な被害を及ぼすことになります。
 この場所から移動させたいのですが「オイスター憑き」のギフトにより、移動・解体が出来なくなっています。
 
*レジスタンスのディープシー「オイスター憑き」
 そんな大ごとになるなんて思ってなかった。ちょっと驚かせることができればそれでよかった。こんなことになるなんて。
 ギフトの解除条件が「トラウマを刺激される」で、トラウマが「鱗の禿げた部分=太ももを、日付を越えて夜明けまで、痛くなく叩かれ続ける」。本人はこれなら絶対解除できないと思っていましたが、ローレットは目的のためなら手段を選ばないギルドです。
 現在、とある館の一室に捕らえられています。イスに座らせられ、縛られ、変化解除させられていますので、下半身が魚です。右もも全面にウロコが剥げている場所があります。そこを叩いてください。脱走、抵抗などの危険はありません。
 爆竹が撤去されたら、厳重注意の上、お家に帰されます。しばらく監視はされるでしょうが、おとがめはありません。ですから、彼を刺激することを聞かせてはいけないのです。彼に一切話しかけてはいけません。
 撤去できなければ、テロリストとして広場で見せしめ縛り首にしなくてはなりません。

参考・ここまで頑張ったローレットの別チーム。
 三日三晩徹夜して「オイスター憑き」を追跡し、ようやく取り押さえ、疲労困憊。それでも鐘楼で爆発物での被害が少なくなるよう、さらに無理して駆けまわっている。

注意
*痛くしてはいけない。判断基準は音がぺち。べち。はいけないし、ぴしゃっもいけない。道具を使ってはいけない。手袋は道具とみなす。素手のみ。
*全ては静寂の中で行われなくてはならない。叩く者は無言。言葉責めはいけない。笑っても泣いてもいけない。執行中、皆さんの頭の中は百万語渦巻くだろうが吐露しないように。「オイスター憑き」に口をきかせてもいけない。
*常に一定のリズムで続けなくてはならない。交代は速やかに。

半数以上が「自分はやり切った」とプレイングに書けば成功。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 太ももをぺちぺちされる簡単なお仕事(する側)完了
  • GM名田奈アガサ
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2020年06月18日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

武器商人(p3p001107)
闇之雲
ジョセフ・ハイマン(p3p002258)
異端審問官
ブーケ ガルニ(p3p002361)
兎身創痍
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家
ロロン・ラプス(p3p007992)
見守る
箕島 つつじ(p3p008266)
砂原で咲う花
浅蔵 竜真(p3p008541)

リプレイ


 広い部屋の真ん中に固定された椅子。
 座らせられたディープシーは体が逃げないように本人同意の上で拘束されている。
 そう。全て同意はある。
「これ、誰が悪いん?」
『兎身創痍』ブーケ ガルニ(p3p002361)が言った。
 悪いのは、不正を行い圧政していた代官である。これは代官を成敗する過程に発生した枝葉にすぎない。
「誰への罰なんかな」
 太ももぺちぺちは「オイスター憑き」への罰ではない。単なる手段である。もちろん、ローレット・イレギュラーズへの罰でもない。そういうめぐりあわせだっただけだ。
「俺の理解力が悪いのかもしれへんけど、今回の関係者各位の誰一人として得もしてないし幸せになっとらんよね」
 その通り。依頼主のとある領主も信頼していた代官の裏切りにハートブレイクだし、情報屋もこんなことを別チーム編成して追加発注で書類仕事増えたし、叩かれる『オイスター憑き』も領主には恨みはなく、ちょっとしたいたずらのつもりだったし、メインで動いてた連中は、休息をとりながらうなされているそうだ。もちろん、太もも叩く方も少なくとも一晩徹夜作業が確定している。
「太ももをぺちぺちすると聞いたときはメクレオ殿はお疲れなのだろうと思っていたが……」
『お嫁殿と一緒』黒影 鬼灯(p3p007949)は、「嫁殿もそう思うだろう?」 と聞いた。嫁殿と呼ばれた人形は、『そうよねえ』 と、かわいらしく同意した。嫁殿、マジ天使。
 ま、実際、情報屋はこの依頼の説明をどうするかで疲れていたのは間違いない。
「……ローレットは変わった依頼で変わった手段も躊躇わないんだな?」
『出来損ないの英傑』浅蔵 竜真(p3p008541)は、確認するように言った。
 異世界に召喚されてすぐ、人魚の太ももを痛くないように叩けと言われて、そう言い切れるなら、混沌世界で十分生き抜いていける。見込みがある。
(最近シリアスな戦いが続いていたから……温度差で眩暈がしそうなのだわ……)
『お節介焼き』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)は、多くく息を吸い込んだ。
「でも、ちょっと状況が特殊なだけでこれも皆を救うために必要な事。そしてオイスター憑き……彼自身を助ける為にも必要な事なのだわ!」
 なんとなく、小さな拍手が起こった。
 そう。これも明るい未来を呼び寄せるための作業なのだ。しないと超ド級の不幸が襲ってくるのだから気合入れて頑張らないといけない。
 混沌世界の生まれであるブーケにうまいこと崩れないバビロンが翻訳してくれますように。これは「三方一両損」の物語なのである。


 ローレット・イレギュラーズは四人組の二手に分かれた。
「みんなの精神状態を良好に保つためにA班とB班に適当に別れる」
『闇之雲』武器商人(p3p001107)は、世話好きを発揮して決めてきたことを復唱し始めた。
「班ごとの交代は3時間ごと、班内の交代はそれぞれ体力に合わせたノルマを決めて行う。合図の方法は手を上げる、など音を出さないかつシンプルなものにする。ノルマの時間になるか、緊急事態があった場合に交代」
 これでいいかい? と尋ねる武器商人に全員が了承した。
「交代は手を上げて……だな、あいわかった! 休憩を忘れないようにな。水分補給にエネルギー補給」
『異端審問官』ジョセフ・ハイマン(p3p002258)は朗らかに言った。
「んや適当に別れて休憩出来そうなら休憩する感じなんかな。まあ、仲間たちの行動や場の流れになんとなく合わせていこうね」
 ブーケは、はいはい。と頷いた。
「別室で休憩出来るならそれがええんやけど……」
「ね。別室ね」
『花は散らず』箕島 つつじ(p3p008266)がいうのに、武器商人は頷いたがヒトの出入りが多くなった時入れ替わったりとか面倒なことにならない様に用意されなかった。大丈夫。トイレは別だよ。
「休憩する方は部屋の隅っこで静かにしているのがよさそうかな?」
 きわめてわかりやすくじゃんけんで順番が決まり、そのまま後ろ半分が別班ということになった。


 一番最初だ。と、『ひとかけらの海』ロロン・ラプス(p3p007992)が動きだしたとき、緊張が「オイスター憑き」を襲った。ディープシーですら見たことはないだろう。それは活きた「水」だ。成分のほとんどが水である生物はいる。それとは一線を画しているのだ。水が生きている。
 スライムより粘性が低く、表面張力の限界に挑戦している表面は波打ち、ピッチピッチチャップチャップと、かわいらしいさざ波を立てる。
(魔力で弾性を得ているとはいえ、ボクの体はほぼ100パーセント水だ。果たしてうまくぺちぺちと叩くことができるのだろうか)
 大きな水滴は、ずむむむと人の形をとった。更に緻密操作で掌の弾性を整える。ぴち。もうすこし固め。ぺち。後は、一定の感覚でたたき続けるだけだ。
 顔の凹凸もあいまいない人のあいまいなシルエットをした水がディープシーを叩いている。
 できるだけ淡々と。という指示があったが、表情も感覚もあいまいだ。概念が叩いている。実体化した概念が精霊なのだから、それこそ人工精霊であるロロンの存在そのものなのだが、太ももぺちぺちでそんなことが顕在化するなんて誰が考えたか。
 そもそも、ロロンの本能は「オイスター憑き」を溶かして食べてしまいたいのだ。いいだろう、少しぐらい。根源的捕食者であるロロンはすべてを人割と膨大な時間をかけて溶かして食う溜めの存在だ。それをぎゅっと我慢して。お口チャックの状態で。だから、ちょっと交代が早くっても見逃してあげてほしい。ぽとぽと飛び散る水滴は、よだれとニアリーイコールなのだから。
 グーで二番負けしたおててを開いてパーにしなくてはならない。
 華蓮の視界は揺れている。足元がおぼつかない。これは現実?
 うん。申し訳ないけど、これも現実の一側面なのよね。
 華蓮の白魚のごとき指が震えている。むくつけきおっさんの太ももをぺちぺちしなくてはならない。
(依頼には「ママのようにやさしく叩いてもらいます。」とあるのだわ。ならばお任せなのだわよ、だって私は【ママ】だもの!)
 母性がにじみ出ている。伊達に二つ名にお節介とついていない。
(……この依頼はママを何だと思ってるのかしら……?)
 疑問は尽きぬが、今日中に始めなくては日付を越えてという条件を満たせない。意を決して、ぺち。
 もう、あとは単純作業である。ぺち。ぺち。痛くないように。ぺち。ぺち。
 感慨とか、いけない気分とか、そういうのは排除して、ぺち。ぺち。なのである。
 繰り返すが、罰ゲームでは断じてない。三方一両損である。
 否。華蓮のぺちぺちの向こうで打ち震えている者はいた。主に形而上学的な意味合いで。
「静寂の中、太ももをひたすらにぺちぺちする。喋らず、喋らせず。ただひたすらに、夜が明けるまで」
『異端審問官』ジョセフ・ハイマン(p3p002258)の指は震えていた。
「おお、なんてシンプルな拷問。なんて純粋な。なんて……素晴らしい」
 感銘に打ち震えていた。
「あ、タルトでも食べる?夜は長いし多少の慰みはあってもよかろ?あの可愛い「オイスター憑き」が見ていないところで食べる分には許してくれそうじゃない?」
 ロロンに促され、タルトが自然落下。ほぐれたタルトは水と同化した。
「武器商人殿はタルトを持ってきてくれたのか。いや流石、気が利くなあ」
 水分補給にエネルギー補給。 武器商人の差し出した皿を受け取り、ジョセフの鉄仮面の下に器用にフォークを運ぶ。開口部があるのだが、ありかが余人にはわからない。飲食ができるように開くのに口の位置がわからない。
 それは鬼灯も同じで、飲食しているはずの口元が意識に残らない。なんというパラドックス。時空がねじれる。
「あ、我(アタシ)の番だね」
 武器商人は、感情封印を使った。
「仕事には真面目な方だけど、我(アタシ)ってば退屈が嫌いだし好奇心も旺盛だからね。念のため、ってやつさ」
 うんうん。と、つつじと鬼灯が頷いた。感情のコントロールは大事だ。
 武器商人がぺちぺちやり始めたこちら側では、タルトでお茶会が続く。
「やっぱり、そういうものなのだわ? そうよね、ずるではないわよね」
 華蓮はタルトを切り分けつつ、胸をなでおろした。困惑が外に出ないよう、頭の中が理路整然とするスキルを全部使った。ママは時として心を鬼にしなくてはならない。
 そんなこそこそ話をやっている横でジョセフの内省は続く。
「私はいつしか拷問というものの本当の姿を見失っていたようだな。積み上げられた体系、歴史。それらは重要だ。しかしそこにばかり固執するあまりに本質から目を逸らしていたッ」
 改善点を把握できたものは幸いである。
 やり切った。と笑顔を浮かべてぶく商人とすれ違い、「オイスター憑き」と相対する。
(平常心を常に保て)
 竜真は、大きく深呼吸した。
(少しでも乱せば、多分俺は、奴を程よく柔らかくではすまない威力で叩きたくなるだろう)
 痛くないように威力を加減しながら叩き続けるというのは集中力がいる。力任せは幼児にもできる。
(絶対にダメだ。失敗したら何故か惨劇が起こる。勘弁してくれ)
 しくじった時の代償はヒトの命かっこたくさんだ。理不尽が過ぎる。何の因果か、そんな世界に流れ着いてしまった。嘆いても始まらない。ここで生きていくしかないのだ。
(だけどその、いくら平常心があるとはいっても抑えきれないものはある。リズミカルに叩くというのはそれ相応に楽しいものではあるしな?)
 酒の席で興が乗るとバシバシ隣の席のヒトを叩くタイプが考えそうなことだ。。悪気はない天然ってそういうことする。
 戻ってきた竜真は自分の唇をかみ切っていた。華蓮がハンカチを差し出した。だって、ママだから。
 そんなことが横であっても、ジョセフの内省は続く。
「私は……私は恥ずかしいッ!!!!!」
 ジョセフの激情はギフトである審問官のトランクをひっくり返せと喚いたが、理性はそうすると騒音を発生するので、そっとそれを床に寝かせた。
「はあ。アンタ、ほんとにお仕事は真摯にしはるヒトなんやねえ」
 ふらふら白黒ハチ割れウサギの姿でいたブーケが感心したように言った。眠気覚ましにこの場限りのお色気を振りまこうと思っているのだ。そうやって気を紛らわせないと、この部屋は広さのわりに人が詰まっていて息が詰まる。
 順番が回ってきて、ウサギさん、じっと手を見る。
「このふゎふゎおててじゃ、ペちって音は鳴らへんよね。しゃあないから可愛さは減るけど変化しとこうね。可愛くなくて堪忍ねえ」
 しどけないふわふわたれ目のお兄さんがウサギの姿そのままの緑の目をしてとろんと笑った。見てる方の頬が知らずほてりかねない。
「オイスター憑き」も、ゆらりゆらりと近づいてくるブーケがウサギだったのは見えていた。が、どぎまぎしてしまう。
 それを見たブーケはへら~っと笑った。持ってきたキッツい蒸留酒の恩恵で若干気は楽だ。うん。ちょっと涙ぐんじゃってもダイジョブかなって。
 ブーケが、保湿クリームを塗ったくった手で奮闘している間もジョセフの内省は続いていた。
「この道具達は芸術だ。なんて機能的。なんて純粋。先人たちの魂が籠もった素晴らしい遺産だ」
 トランクの表面を撫でる指先には蓄積された経緯と愛着が籠っている。
「んしかしッ!!これはあくまで手段だ。歴史は尊重するべきだが固執してはいけない。拷問とは理解。肉体を、精神を紐解け。理解の先に愛がある。正しき愛を導き出せば自ずと正しき裁きが見えてくるのだ。愛を齎し齎され給え」
 愛を齎し齎されることに関して、鬼灯も他の追随を許さない自負がある。
『鬼灯くん、おうちに帰ったらぺちぺちしてあげましょうか?』
 嫁殿、マジ小悪魔。
「本当ですか、ありがとうございます。精一杯頑張ります」
 齎される愛はすべて飲む。俗世は気にするな。愛に真摯であれ。実際、嫁殿にだけイケメンなら何の問題もないんじゃね?
「さあ、舞台の幕を上げようか」
 嫁殿の愛を受けるのにふさわしい甲斐性を証明するために。依頼の遂行は最低限だ。
 趣向を外した素手を伸ばしたときには余計な感情はすべて封印される。ニンジャの技術を駆使した140もの妙技を中年ディープシーの太ももにノーダメージでお見舞いする。
 無言は言うに及ばず、忍び足で戻ってきた鬼灯がおとなしく待っていた嫁殿の愛らしい顔に癒されている間も、ジョセフの内省は続いていた。
「わかった……理解に至りましたよ、師匠……ふふ……」
 笑っているジョセフの横を通り過ぎながら、つつじは、ぺちぺちがスタートしてから数時間。何十回目かの疑問に到達していた。
(……いや、ほんまに何でぺちぺちなんやろなぁ。あかん。そこ考えてたらキリがない)
 もう、これは気合で乗り切るしかないと、ギフトである「慎ましやかな花」を早々に使用することにした。
 これで立ち居振る舞いはしとやかな女性だ。かつての仕事柄、女性的な心身をしているが、それも間諜として必要に迫られた魔改造の結果。そもそもはどうだったのかは藪の中だ。
 鱗がはがれている薄い皮の下に白身が透けている。「オイスター憑き」は青背の魚がベースらしい。知りたくなかった。赤身がよかったのかと言われると、それは別に。と、答えるしかないのだが。
 待機中にブーケが「生足魅惑のマーメイドかいな。気になるわ~」とか言っていたが、マーメイドじゃなくてマーマンだし、皮の概念が違う。帰ってきたときコメントがなかったのもわかる。
(手が生臭くなりそうなのが嫌やなぁって思うけど、手を抜いたらたくさんの人が傷つくからな)
 普段、戦闘で返り血や自分の血で十分血なまぐさくなるのがローレット・イレギュラーズの常だが、それはそれ、これはこれ。だ。
(頑張っていくで)
 ぺち。しっとりしている。ぺち、ぺち、ぺち、ぺち。ローレット・イレギュラーズ、知っているか。しとやかにぺちぺちすると指の第二関節から始まって指先で終わるのだ。
(……いや、頭の中はぐるぐるするけどな? なんでこれがトラウマなん、とか思うけどな。でもツッコミ入れたら負けや。めっちゃツッコミたいけど……)
 でもつつじは心を宙にほおることに成功した。しとやかにぺちぺち。
(作業自体は楽しいしなぁ)
 そういう経験がおありになる。職業柄。
 次のステージに到達した法悦。つつじからのハンドサイン。ついに、順番が回ってきた。
 斜め60°ぐらいの虚空を見つめ、法悦の笑みを鉄仮面の下に浮かべるジョセフに幸いあれ。そして、その愛が、無貌の鉄仮面が自分に近づいて来る「オイスター憑き」の恐怖が幾分でも和らげんことを。
 ぺち、ぺち、ぺち、ぺち。愛溢れたぺちぺちが響いた。互いに言葉を交わすことはない、間断なき――殴打でも打擲でもない――ぺちぺちである。初めは恐怖に歪んでいた「オイスター憑き」から徐々に緊張は抜けていった。太ももを叩く音が部屋に響く。話し声やフォークと皿が立てる音の中でそれだけが正確無比だ。いつ尽きるかわからない長さ。可憐が叩いた時間より長く、それは「オイスター憑き」の感覚を狂わせるある意味唯一拷問めいた仕打ちだった。ジョセフが交代と手を上げたとき、誰もがやめるのか。と虚を突かれたのだ。おそらく「オイスター憑き」でさえも。
 窓から差し込む光が夜明けを告げている。指先に固いものが触れるようになった違和感に、ジョセフは指をひいた。愛の時間は終わったのだ。
 散々痛みもなく叩かれ続けた部位に牡蠣の殻が現れた。すぐに爆発物撤去完了の一報が入る。それぞれから安堵のため息が漏れた。


「なぜ、こんなことを。と、皆さんは大層困惑したと思う」
 拘束はとかれ、「オイスター憑き」は解放された。
「私はいたずらっ子で――子供のころに芽生えたギフトをいたずらの道具としか考えていなかった」
 強い力と幼さは、時に凶器になる。
「母は、『ここにあった牡蠣はどこに行ったの』と言った後、無言で幼い私の腿を叩いた。私が謝るまでずっと。母のつらそうな様子は今でもまざまざと思い返される」
 断固たる母の態度が少年の心に悔恨という大きな錨を沈めた。
「私はよくない息子だ。逆にそうされない限り外れない牡蠣を生み出してしまった。このギフトは私の幼さの塊のような能力だ」
 ママのように、だけど話をしないで叩いてくれ。情報屋の言葉。彼の心の錨を動かすために。彼と会話するのはローレット・イレギュラーズの言葉ではなく、追憶の母でなくてはならない。
「手間をかけた。私の意固地ないたずらで人が死ななくてよかった」
 ディープシーの目の下にはクマが出来ていた。それでも、彼は笑顔を作ることができた。
「感謝を」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。これで理不尽な犠牲が発生せずに済みます。
ゆっくり休んで、次のお仕事頑張ってくださいね。

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