シナリオ詳細
無名無銘のレーゾンデートル
オープニング
●黎明槍
この世には多くの武器がある。
それは例えばそこいらの鍛冶師が打ったモノだったり、名のある職人が手掛けたモノだったり。或いは旅人であれば、召喚された時に手にしていた元の世界のモノだったりもするだろう。量産品、名刀、なまくら、伝説の武具……さてその武器の精度が如何程かはモノによる――が。
「えええええ高ッ! これ、この槍こんなするの!!?」
「あたぼうよ。そいつは特別な一品だぞ」
闇市。特にここに集まる武具はピンキリである。
一般市場に出回らぬ上級なモノもあれば、使えるのかすら分からない呪いの武器まで。この闇市に並ぶラインナップの数々を視た者はその意味がとくと分かるだろう――阿鼻叫喚が凄い事もありますね。
ともあれその一角。ある闇市商人が並べている内の武器の一つを前に、凄い声が。
それは槍。
一見するとただ尖っているだけの、ただの鉄の棒にも見えるのだが――
「こいつはかつて世界を旅していたアルハンドラの槍さ。
多くの戦いを潜り抜けた高名な槍の使い手の品……そう安いもんじゃねぇよ」
一つの昔話がある。
数多の槍を使い、数多の槍を各地に残した、槍の達人たる一人がかつていた。
『彼女』が使った槍は特別なモノではなかったが――しかし卓越した技量を持つ『彼女』に使われた槍は神秘を帯び、運命を超えて須らく名槍と昇華されたのだ。その槍らは元が無名無銘ばかりであったが故に後に『彼女』の名自身が付けられる事となる。
其が名は『黎明槍』アルハンドラ・クリブルス。
形は千差万別。全てが至高。彼女の遺した傑物達。
その一品を安くは売れぬと商人は呟いて――
「んーでも私が持ってた時は只の棒だったんだけどなー?
たしかこれ鉄帝の酒場で泥酔してセクハラしてきたバカをボコボコにしてやった時の鉄の棒だった筈」
その時、何か妙な発言を聞いた。
「まぁいいや。じゃあお金工面してくるからさ! それまで取っといてよおっちゃん!」
「――俺はもう隣の町に移動する予定なんだ。今日限りだぞ」
「OKOK! 今日限りね!」
だが、気のせいだろうと。目の前の女の陽気な口調に引っ掛かりを流して。
離れていくその背を見送った。
白き衣を身に纏った――若い女だった。
●作戦開始
「レアンカルナシォンという組織を知っているかな?
一言でいうと――『ウォーカー』を襲撃する組織だ」
ギルド・ローレット。その中でギルオス・ホリス(p3n000016)は言葉を紡ぐ。
レアンカルナシォンなる組織の事を。
奴らはその仔細が知れぬ謎の一団だ。分かっている事は『ウォーカー』を敵視し、その命を突け狙うという特徴がある事。特に――ウォーカーが多く在籍するローレットは時折攻撃対象となっている。
その姿勢は狡猾。真正面からは当たらず、殺す事を優先とする故暗殺の傾向が強い。
例えば依頼の帰還途中……疲弊している身を襲撃。
例えばごく少数での活動を行っている者を包囲し、圧殺する。
例えば戦闘力に決して優れている訳では無い情報屋を狙う――など。
正々堂々などとは無縁。ただ殺す。
かつて、ギルオスも連中には一度狙われた事があり。
「その後から本格的に調べ始めたんだけどね……やはり詳細は、掴みづらい。
何故かと言うと、構成員を捕えようとすると彼らは一切の躊躇なく『自殺』を選ぶんだ」
その所為でどれ程の規模の組織なのか? なぜそもそも旅人を敵視するのか?
不明な点は多い。だが、こちらとてそれで終わらせる気はない。
執拗に粘り強く調査を続けた結果――レアンカルナシォンの構成員を一名の所在を掴んだのだ。
「彼女は今ラサにいる。君達には彼女――もしくはその配下の者を一名以上捕えて欲しい」
「……『彼女』? 女性なのか?」
「ああ名前は分かってないんだけどね。前に僕を襲撃した人物の一人さ」
微かに捉えていた顔の造形から割り出したという。
異なる雰囲気、衣装から幹部の一人と目されていて。
「具体的にはラサの闇市で何か武器を探しているみたいだ。この時点で彼らを奇襲すれば彼らの態勢が万全じゃない状態で戦闘に突入させる事が出来ると思う。ただ……周りには多くのラサの住人がいる状態だ」
「……迂闊に騒ぎを起こせば面倒な事態になる可能性もある、か」
「そう。戦闘が始まれば混乱が発生するのは当然だろうね」
周りの住人からしてみれば突然暴れ出した者達がいるとしか思えぬ。そうなれば混乱は必至だ……ローレットのイレギュラーズと名乗っても効果は如何程のものか。名声が高く、顔が売れていればある程度の効果は見込めるかもしれないが――
ともあれ、或いはレアンカルシォンを見逃し、戦闘をしやすい場所に引き込むという手もある。その時は住民を気にする必要性はさほどないだろう。尤も、その時には敵も万全になっている可能性がある故、どちらを選ぶかは作戦次第だが。
「頼むよ。奴らを放置していればまた仲間にいつ被害が出るとも知れない……
情報の入手が最大の目的なんだ。奴らを一人でもいいから――生きたまま捕まえてくれ」
- 無名無銘のレーゾンデートル完了
- GM名茶零四
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年06月20日 22時55分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
ラサの街にはいつでも喧騒が溢れている。
商売が絶え間なく続く地だ――朝も夜も人だかりの山。
白衣の女は吐息を一つ。人込みを掻き分け街を歩き続け……
――おい知ってるか。ローレットの新田って奴がラサに来てるらしいぜ。
と、その時。彼らの耳に声が紡がれる。
声の主は――さてどこか。見えず、されど聞こえる事は確かに近くで。
「ベロリの野郎、上手くやりやがれよ。おめぇの口先を活かせるウマい仕事なんだからな」
そしてその様子を『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)は、老人の表情を模した翁面を付けながら遠くより見ている。先の声は彼の『仕込み』だ。彼の知古たる傭兵ベロリのモノ。
レアン……なんちゃらだったか? とにかく旅人を狙う組織だと言うのだ。ならばここ、ラサでもそれなり以上の名声を持ち顔と名が売れているであろう『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)を『囮』に奴らを誘き寄せる策を練ったのである。
その為にグドルフはベロリに根回しの仕事を要請。
新田が休暇を取って骨休みにラサに来た――品を市場で物色している――など。
「ま、俺達ァ様子を見させてもらうとするがな……おっとホホホ、これはよい喃」
もしかすればローレットの一員として目を付けられているかもしれない己らよりも、直接の関係はないベロリの様な人員が動いた方が効果的だろう。そして自らは奴らを遠目に観察しつつもバレぬ様に物見の爺の振りを決め込み。
「……特に私などは彼らと一度戦っている次第。もしかすると顔を覚えられているかもしれませんし……変装し、様子を見るのが最善でしょうか」
「ああ、その方が安全だろう。
……しかし旅人を狙う、か。奴らの狙いが今一つ分からんのは、気味が悪くも感じるな」
グドルフ――とは少し異なるが『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)もまた、己の顔が容易には分からぬ様に外套を着込みフードを目深に。されば『ドゥネーヴ領主代行』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)も言葉を紡いで。
「誘拐し、文化や知識を収集するならば分かる。だが殺す事に何の益があるというのだ」
彼らの思惑が分からない。人は自らに利益のある行動によって他者に理不尽を強いる事はままある。例えばベネディクトの言ったように知識、技術……そういったモノの吸収の為に狙うならまだ分かるのだが――
「――まあ、この世界にとって私らは言ってみれば『侵入者』だ。
余所者が土足で家に上がり込んでいる様に感じるなら、嫌う連中がいても不思議ではないさ」
「理由は色々ありそうですよね。私だって珍しい旅人の死体とかは見てみたいですし……ああ、とはいえそれはあくまで『モノ』があればの事。積極的に害を成そうとは思いませんし、死ぬまでは死んでほしくないですね。私も旅人ですから」
もしかすればただ単純に『嫌悪』の感情によるものかともしれないと『砕月の傭兵』フローリカ(p3p007962)は言い『ネクロフィリア』物部・ねねこ(p3p007217)もまた純粋な益以外の行動の可能性もあると示唆をする。
あちらとこちら。人はたかがソレだけで争う事は出来るのだ。
多くの戦場を渡り歩いてきたフローリカは時として『純血主義』だの『劣等種は排すべし』だのなんだの、大層高貴である『御託』を飽きる程聞いてきた。
人が人を殺すのに複雑怪奇な理由などいらないのだ。
尤も今回の連中が『そう』だとは限らないが……さて?
「ま、理由は奴らを捕えれば分かる事……ローレットには随分と世話になっている。
落とし前をつける手伝いならしようとも」
ともあれその辺りの理由は全て、聞き出せばいい事と『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)は呟く。奴らを放置していては、十中八九ローレットには害あって一利も無し。
――動きが見える。さて、あれは囮の寛治に食いついたのかそれとも……
「さて、今回のお仕事は何を護る事になるのやら」
微笑み携え『満月の緋狐』ヴォルペ(p3p007135)もまた動き出し。
奴らを追う。ラサの街の喧騒に――紛れながら。
●
「ハハハ。ヤダなあ、私の予定筒抜けですか。一体どこから聞いたんです?
ええそうそう、あの路地を抜けた先にある娼館に、お気に入りの娘がいるんですよ」
ラサのあるバーカウンターの店。そこで酒を嗜みながら寛治は言葉を。
『新田は休暇で一人サンドバザールを訪れている。
掘り出し物を物色しつつラサの酒を楽しみ、夜は馴染みの娼館で楽しむ予定』
そんな事を『触れ回らせて』いるのだ。寛治自身の情報網と伝手を用いて急速に。あらゆる手段に加え白紙の小切手も用いれば――散財の代わりに情報源になろうと言う者達があちらの方からやって来るものだ。
ただこうして酒を飲んでいるだけでも十分な程に。
「なんです? 私だってファンドばかりと言う訳では……おっと時間が。マスターまた来ます」
最後の一滴。一気に喉奥へと落として席を立つ。視線を時計にやった後店を出て――
そして。
「やっほー、ちょっと時間いいかい?」
その眼前に現れるは白衣の女。丁度路地に入った所で、その道を塞ぐように。
「悪いね。私は先に済ませたい用事があったんだけどさ、こいつらが今しかないって言うから」
だからこそ。
「いえ構いませんよ――実はですね」
寛治はタバコを取り出す。先端に火を灯す、動作と共に。
「こちらも仕事ですので」
ライターを敵の足元へと放り投げた。
直後、爆発。衝撃波と爆薬の匂いが路地に満ちて――と同時。
背後側の黒衣へと加えられたのは、射撃。寛治ではない、それはラダだ。
事前に市場周辺の地理を調査し、戦うによい路地裏の目星をつけていた彼女は『事』が成れば即座に駆けつける。いや、釣られた敵を確認していた時点で、身を隠しつつ追っていたのだ――行動が素早いのも当然か。
「諸君、落ち着け。騒ぎは重々承知の上……迷惑をかけるつもりはない。すぐに避難を!」
そして同時。張り上げる声は周囲へのモノ。
如何に路地裏に引き込んだとはいえ周囲は店の並ぶ地帯。一般人は多く、故に離れてもらう様に声を飛ばすのだ。ラダの名、顔はラサでも存分に知れ渡っており効果は存分に響き渡って。
「ありゃやっぱり。なんか怪しい気はしたんだよねー」
「無意味な発言ですわね! 推理ドラマで種明かしの段階になってから『この方が犯人だと思ってた』と自信満々に発言するぐらい無価値ですわ――!」
ほぼ同時、ヴァレーリヤもまた急行する。
いざや攻撃となれば最早顔隠しは不要。速度の風に任せてフードを後ろへ。
突き出すメイスの一撃が空を叩けば――強烈なる衝撃波が黒衣へと。
進む。イレギュラーズ達は一気に寛治の下へと。包囲からの集中攻撃を受ける前に。
「相応の痛みは覚悟してもらおうか」
殺す気はないが、手加減するつもりはないのでね、という言葉は飲み込み。
フローリカも人混みの中から跳び出し敵陣へと往くのだ。
連中の眼に不審な武器が映らぬ様にと武器は置いてきた、が問題ない。瞬間的に光が手に瞬いたと思えば――その手にはいつのまにやら馴染みのハルバードが。先端の輝きが刃を形成し。
斬り裂く。懐に潜り込み、一撃を天へ。
「寛治。相変わらず見事な手腕だな、流石はローレット筆頭の中の一人だ」
「いえそれほどの事は。ベネディクトさんの迅速なる対応の方こそ感銘を受ける次第ですよ」
そしてベネディクトが寛治を賞賛し、槍を投擲。
指に力を込めて空を一閃す。寛治の様子は常に空中より小鳥で追っていたのだ――それはファミリアーで創り出した使い魔。ラダらと同様にタイミングを計っていたのだ。彼らの攻撃に合わせ、一気呵成に攻め上がる。
されば黒衣の者達もやられる訳にはいかぬと反撃に転じて。
「上手い事誘き寄せられた以上は――後は逃がさない様にするだけ、ですね」
そこへねねこの爆弾が――違う。治癒の力を伴った癒しの『弾』が投下される。ハイヒールグレネードと名付けられたそれは練達との技術と融合しver2へ。炸裂すれば爆薬の代わりに回復ナノマシンが周囲へ散布。
「さて、おにーさんと遊ぼうか? なぁにまだまだ遊ぶ余力はあるだろう?」
更にヴォルペの支援が飛ぶ。
英雄を称える伝承歌は皆を奮い立たせ力と成し。初期の攻勢から体勢を立て直してきた黒衣の動きの前に立ちふさがるのだ。奴らめの刃は鋭く、一撃一撃を深くえぐり込ませんとする様な動きを見せて来る、が。
「ははは、やんちゃだねぇ。そんなに必死だなんて――可愛いじゃないか」
ヴォルペの展開してた魔力障壁がその一撃を無効化する。
刃を押し止め物理の作用を遮断するのだ。アルキメデスの亀の様に、その刃は永遠に彼には届かず。
お返しとばかりに掌打を叩き込む。抵抗の力を転じて打撃へ。弾き飛ばす様に黒衣へと打て、ば。
「はー、ほー。一、二……ええ何人だ? 八人かな?」
眼前。白衣の女が頭を掻きながらイレギュラーズ達を数えていた。
その声には些かの余裕が見える。待ち伏せに嵌っている、という事は理解している筈だが。
「ハッ、レアン……ああなんだぁ? とにかくなんちゃら様も大した事ぁねぇな。
どうよ今の内大人しく捕まるってんなら指の一本や二本折るぐらいで勘弁してやるぜ?」
同時。グドルフが挑発じみた言と共に黒衣の一人を蹴飛ばした。
白衣の下へとも飛ぶ様に。されば女は受け止めもせず体を捻って躱す形を取れば。
「アッハッハ! いやいや勘弁してよ、数如きで私に勝てるとでも――」
動く。
激しい闘気を身に纏い。殺気を振り撒きイレギュラーズ達の下へ。
明らかに黒衣の者とは纏う『質』が異なる様が見て取れる。まだ油断は出来ぬと誰かが唾を呑んだ――瞬間。
女の手が空を掴む。何か、武器か何か握ろうとしているかのように五指を動かして……
「……あっ。やっべ私また槍無いじゃん! ジョンのじっちゃんから貰った金まだ使ってないじゃん!! あ、くそやっぱ無し! 今の無しなし! 許してふぉーゆー!」
許さないので一気に攻めた。
●
忘れてはならぬのは今回捕まえねばならぬという事だ。
殺してはならず、自害させてもならない。
その条件においてフローリカとベネディクトの攻勢は重要な面を占めていた。なぜならば二人の輝かしき動きは一撃一撃に『殺さず』の意思を載せている。あらゆる武が舞の様に敵へと繰り出され。
「とはいえ。加減が必要な相手だとは思っていない、全力で行かせて貰う」
しかしそれはそれ、と言わんばかりにベネディクトの一撃に加減は無い。
狼の遠吠えが如く壁を突き破れ。槍の投擲は未だ苛烈、今だ超常。
それもそうだ。不殺を狙っていると悟られれば、瀕死になった時点で自害されかねない。そうなれば無意味とフローリカは思考し、殺す意思はないが攻める意思は常に全力。
ベネディクトの一撃が突き刺さり、更に続いて。
「眠れ。でなくば、痛みが続くだけだぞ」
ハルバードの石突で顎を撃ち抜いた。
黒衣の一人の身が揺らぐ――その意識を奪い取ったのか。ならば、覚醒する前にやる事があるのだ。
抑え込む。死なぬ様に自害せぬ様に殺されぬ様に。
「――行けるか、ヴォルペ」
「うん、勿論――ああ、後ろ手に両手親指を括るだけでも動けないもんだろ? 柔らかい布だって、舌を噛むのを防いでくれるしさ。人間の中で歯ってのは丈夫なモノだけど――布とかを噛み切れるかは話が別なんだよねぇ」
担当する一人はヴォルペだ。こんな事もあろうかと用意していた短めの紐や布を取り出し、一人を拘束。硬く結ぶほどの紐は用意出来なかったが、しかし両の親指を固定する程度ならば容易いものだ。どんなモノでも使い方次第。
そんな彼をラダの射撃が援護する。無力化した敵は拾い、ヴォルペの近くへと。
必要が無くば更なる捕縛者を得る為にゴムの弾を敵へと穿つ。実弾と異なり、その素材は柔らかい、が。
「痛みはある意味、こちらの方が上かもな」
死ねない事。或いは骨だけを砕く事からゴム弾は決して優しい代物ではない。
あくまで『無力化』という目的を果たすだけの代物だ――そしてその背後の捕縛者の下へ、グドルフの手も伸びる。拘束はヴォルペが行った故に、やる事は『奪う』事。
自爆用の爆弾、刃……身ぐるみを剥ぐのだ。収奪し、あらゆる手段を封じよう。
「何が企みか知らねえが、持ってる情報を洗いざらい吐いてもらおうかい。旅人を、特にローレットを狙うなんざふてぇ野郎共だ。聞いた事もねぇ弱小組織が調子に乗りやがって――」
瞬間。グドルフの身が反射的に動く。
山賊の斧を構えたと同時。手より全身に伝わってきたのは――衝撃。
白衣の女だ。跳躍し、蹴りを叩き込んできたのか。武器が無いからなんだのどうだのと言っていたが、素手でも案外強烈なモノをやってくるではないか――
「かぁ~~~オイオイ、なんだよまだまだそんなモンじゃねえんだろ?
マジで来いよ。じゃなきゃあ死んじまうぞッ!?」
「あっはっは――面白いね君! じゃあどっちが先に死ぬかな、競争してみよっか」
だがその程度にグドルフが臆すものか。防御と、事前に自らに施していた治癒術式の甲斐もあってさほどの打撃には至らぬのだ。足に力を、腕に力を。膂力を込めてぶった斬らんとすれば――激突。
無数の拳を女が繰り出し、捌き或いは意に介さずに一撃をグドルフが。そこへ。
「やれやれよく動かれる方だ。闘争好きなご様子とお見受けしますが、碌でもないですね」
寛治の射撃が紡がれる。一弾一殺の魔弾を戦場へ。
黒衣の者達へは足へと、白衣の者へは――体の一か所を狙撃する余裕が無さそうだ。全く、とある剣豪が幻想に居たりするが、戦いに人生を置くという者達は一体どうして……
「グドルフ、寛治、皆、伏せて下さいまし! 一気に薙ぎ払いますわよ!」
と、瞬間。炎を纏いしヴァレーリヤが聖句と共に敵をメイスで指し示した。
されば浄化すべき者を認識した炎が濁流の如く敵へ。
全てを貫くように戦場を駆け抜けて――
「おっおう! ありゃりゃ、君はそうだ。前にも会ったねぇ久しいなぁ」
「あら、覚えてくれていたとは光栄ですわね! お眼鏡に叶っていたとは思いませんでしたわ!」
「あっはっは、私は可愛い子は好きだからね! 君みたいなのはそうそう忘れないよ!」
「社交辞令と受け取っておきますわ――とにかく今回こそは、逃しませんわよ!」
そのままヴァレーリヤは炎を伴い吶喊する。気合の咆哮は鬨の様に。
繰り出す打撃、炎の魔術。足を止めぬ勢いで敵を圧倒せんとするのだ。
そして――戦闘自体はイレギュラーズ達の方が優勢と言うべきか。そもそも奇襲以前に黒衣の者達は暗殺者であり、正面切っての戦闘が得手ではない者達ばかり。
「それに――まさか奇襲されるとは思ってもいなかったのでしょうか? 仕込みもなかったですしね」
ねねこは依然として回復の爆薬……もとい安心安全練達クオリティ回復ボム達を投擲しながら、呟いた。先程、襲撃を掛ける前に道行く彼らの後を追跡していた時の事だ。敵がこちらに気付き、危険物を仕込んでいないかなどを注意深く観察していたのだが、そういう動きは無かった。
白衣の女は薄々勘付いていた様な言動をしていたのだが――なぜ――
「だってさーそうしないと『戦え』ないじゃん?」
瞬間。ねねこに対して女の言葉が紡がれた。
治癒を果たし、戦場を保たせる役目を担っている彼女を邪魔に感じた故か打ち倒そうと跳躍し。
「やらせんよ。そう簡単には、なッ!」
だがそれをベネディクトが防ぐ。幾度も放った槍の投擲を再び此処へ。
空へ軌跡を描き一直線。白衣の女は身を翻して間一髪躱すも――頬に一筋の傷が付き。
「どこ行こうとしてんだオラァ! 行かさねぇぞ!!」
「ええ。逃がせませんね――吐いてもらわねばならないことがあります」
更にグドルフと寛治が追撃する。斧の刃を一閃し、傘を翻せば銃となり。
そして寛治は思考していた――そう。彼女は、気になる事を言っていたのだ『ジョン』と。
ありふれた名前の様であるが、もしそれが己の知る――とある名前であるのであれば、調査の方向性は彼らを直接調べる以外にも矛先が見つかるのだから。
攻める。攻め上がる。黒衣の者はほぼ倒れ、完全に捕えた者はおり、自害の術は奪って。
白衣の女はよく動くが――どうにも戦い辛そうにしている。それは求めていた武器を手に入れる前だからか? いずれにせよイレギュラーズの壁を押しきれていない様だ。防御に優れようと、攻撃が必要な場面では意味が無く。
「介錯もさせんよ。だが、もうとっくに分かっているだろう私達の目的は。
お互い退くか続けるか、選ぶ頃合いではないか?」
そこへラダの言葉が紡がれる。もはやゴム弾でもなく常なる狙撃へと移行した彼女であるが。
分かっている筈だ。『そちらの捕縛』が目的なのだと。
そして情報源を殺させる事などしない。優れし五感で警戒しているし、なにより。
「ああ自害なんてつまらない事するなよ。もうちょっと生きてた方がきっと面白いことになるぜ? それにさ、安心しろよ。役目が終われば慈愛に満ちた死神が舞い降りてくれるだろうさ」
意識を取り戻した黒衣の者に直に座るヴォルペ。
どう足掻いても拘束が解けぬ様に見張りながら笑みを相変わらず。
それは幾らでも調理できる鳥をまな板の上に乗せているのと同じ心境――可能であれば白衣の女を口説きたかったが流石にそんな暇はなさそうだ。残念。
「あっはっは――なるほど、ね」
「おっと、逃がしませんわよ……!」
ヴァレーリヤが力の限りで振るったメイスを受けながらも、女は後方へと跳ぶ。
微かな笑みを携え、またも後頭部を掻けば。
イレギュラーズを見渡す。その顔を覚える為かのように、薄い目で全員を記憶し。
「ま、いっか。いいよそいつらはご自由にどうぞー煮るなり焼くなり興味ないし」
随分あっさりと配下らしき者達を切り捨てる。なにやらおかしい。最初に寛治を追うと進言した黒衣の者達と、幹部らしき彼女との間には何か随分と意識に差がある様な……黒衣は自ら命を絶つ事もあるほど忠実であるのに、彼女は頓着していない。
それも黒衣の面々から聞き出せばわかる事だろうか。しかし。
「私たちを殺して、何が得られるというんだ?」
聞かずにはいられないとフローリカは言を。
警戒は怠らず、白装束の女へと。されば。
「んー実はねー特に『なにもない』んだよねー」
「……何?」
「旅人を狙うのはまぁ、その。宗教的理由? んー、まーそれが一番近いのかな!」
やはり単純に嫌悪の感情で狙っているというのか?
白衣の女が嘘をついているような様子はないが……これ以上付き合う気はないのか、駆け出そうとする彼女。
「白き衣を纏う女性よ、俺の名はベネディクト」
そこへ、最後にと。ベネディクトの言葉が彼女へと。
思っていた。女からは長い年月の中で練り上げられた武がある様に思える、と。
「――名を聞かせてくれ」
同じ槍の使い手ならば、興味も沸くというものだ。
槍を持ってはいないが、槍を求めたというのならばそうなのだろう?
だから名を、と。されば――女は――
「名前? ううん――私は、ね」
一息。
「アルハンドラ・クリブルス」
多くの槍を造りし、過去に存在した者の名。
その名を紡いだのだ――ただし。
「ただし――なんていうかまぁ『頭の考え方』は、だけどね」
「考え方……?」
「じゃあね楽しかったよイレギュラーズ――また戦ろうねッ! 今度は万全で!」
言うなり表の方へと往く彼女。人混みの中へと強引に紛れれば、もはや姿も見えはせぬ。
その時。
空より舞い散るは一枚の羽。
退いた女を追う様に天を仰いだねねこが見たのは、暗黒の空を舞う――『何か』
「――」
飛行種か? 遠くにいる故、その姿を捉える事叶わぬが。
確かに感じた。『こちらと一瞬視線が合った』と。
刹那の瞬き。今宵は関わらぬ、何者かの気配――
「……戻りましょうかローレットへ。依頼は果たしましたから」
頭を振るい、ねねこは帰還の意思を皆へと示す。
謎を解くために捕縛者をローレットへと連れて――
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
彼女が語った『名』は、真実だったのでしょうか。それはまたその内明らかとなるでしょう。
EXプレイングで複数の関係者の方が紡がれていましたので、もしかしたら彼らもまたその謎に関わって来る……のかもしれません。
ともあれご参加どうもありがとうございました。
GMコメント
■依頼達成条件
レアンカルナシォンの構成員を一名以上『生存』している上で『捕獲』する。
■依頼現場
ラサ、サンドバザール市場。
時刻は夜ですが、灯りが多くあまり視界を気にする必要はないでしょう。
むしろ出店の多さや住人の多さの方が気がかりです。
障害物は山の様にあります。
戦闘が始まった混乱が発生した場合、どれ程の規模で騒ぎが起こるかは未知数です。
ローレットのイレギュラーズと名乗っても、突然の事ですので本当の事か信用されるかは分からない所です。ただ、傭兵名声+50以上ある場合、貴方の顔はラサに知れ渡っている事でしょう。
■敵勢力:『レアンカルナシォン』
詳細不明の組織です。
ローレットの『旅人』を目標に暗殺を行おうとする危険集団。
彼らは死を恐れていないかのような動きを見せます。
初登場はシナリオ『Amici in rebus adversis cognoscuntur.』ですが、予め読んでおく必要はありません。
■白衣の女
以前ギルオスが襲撃された依頼『Amici in rebus adversis cognoscuntur.』にも出ていた敵人物です。レアンカルナシォンの幹部の一人だと思われますが、詳細は不明です。名前を含めて。
戦闘能力も未知数な所がありますが、防御技術にはかなり優れている様です。
■黒衣の者×6
上記、白衣の女に尽き従っている黒衣装束の者達。
戦闘能力にはある程度バラつきがありますが、暗殺者タイプの者達の様で、真正面からの戦闘ではやや分が悪い者が多いと思われます。また、捕えられようとすると自害する傾向があります。ご注意ください。
■『黎明槍』アルハンドラ・クリブルス
それはある一人の女性が使っていた槍の一つ。それなりの希少価値がある武具で、一般には出回っておらず現在はもっぱら闇市で発見されるのだとか……白衣の人物はなぜかこの槍が欲しいみたいです。ちなみに彼女は現代から数世代以上前の人間種であり、最後は行方不明になっています。
■備考
本シナリオではEXプレイングを使用することが可能です。
ただしEXプレイングは使用しなければ『いけない訳ではありません』
使用しなくても成功へ導く事は可能ですので、その上でご検討頂ければ幸いです。
■EXプレイング詳細
EXプレイング機能は選択する事でそのシナリオにおけるキャラクターの獲得リソース(経験値・Gold)を130%にし、追加のプレイング字数、ないしは関係者登場プレイング(共に最大200字)をかける権利を得る機能です。
EXプレイング機能は追加プレイングを書いたり、関係者登場を希望しある程度の希望内容を記載する事が出来ますが、描写量が増えたり、関係者の登場を確約するものではありません。EXプレイングで担保されるのは『リソース増加』であり、その時点で消費されるRC分の提供は完了している、と定義しています。またEXプレイング機能はGMがシナリオ発表時、EXプレイングを受け入れる設定をしている時のみ機能利用が可能です。
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