PandoraPartyProject

シナリオ詳細

泡沫姫

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●うたかたひめ
 むかしむかし、あるところに人のからだと魚のあしをもつ女の子が暮らしていました。
 人間たちは女の子を『人魚』と呼び、水槽の中でお世話をしながら色々な『研究』をしました。
 ――さぁ、今日は水槽の水を抜いていつまで『持つ』か試すよ。
 女の子はうなづきます。
 ――よし。今日は傷ついたらどれくらいの完全になおるまで速さか調べるよ。
 女の子はだまって自分の腕を差し出します。
 女の子は、人間の言葉が話せません。
 ただ、なんとなく人間の言葉の意味は理解できるのでしょう。
 来る日も来る日も行われる非人道的な研究に、女の子は首を縦に振るだけでした。
 どうして、ですって? 女の子のいるその場所が、彼女の世界総てでしたから。
(きっと死んでしまうまで、わたしはこの中でくらすのだわ)
 諦めでしょうか? それとも外界を知らないが故の割りきりでしょうか?
 女の子にとって、それはどちらでも良いことでした。
 不思議な存在の女の子は、自分と人間のからだの違いを人間が調べることで、彼らが繁栄することを望んでいたのです。
「……本当に?」
 本当に。『彼』と出会うまでは。

●境界図書館にて
 それは一部の旅人(ウォーカー)にはもはや有名すぎるお伽噺。
 人間の王子様に恋をした人魚のお姫様は、その美しい声と引き換えに魔女と取引をする。
 人間となったお姫様は、王子様の元へ向かう。
 ――あなたが好きです。一目見たときから、愛しています。
 けれど王子様は別の女性との婚約が決まっていた。
 自分の思いを伝える術(こえ)を持たぬ彼女は、最終的に海に身を投げ、泡となって消えてしまう。
「……ま、大体そんな感じの悲劇だね」
 貴方たちの視線より下。人間種(カオスシード)の一般的な5才児程度の見た目をした境界案内人はそういいながら本のページをめくる。
 ふとあなたが本の方に視線をやると、彼のめくっている本はそこから先が真っ白の白紙であった。
「気づいたかい? 今回は君たちにこの物語の結末を決めてきてもらいたい」
 曰く、この物語は現在進行形で進んでいっている。
 しかし、このままではだらだらと読みごたえのないままに進むつまらない物語に成り果ててしまう。
「物語のなかで君たちは人魚の女の子の暮らす研究所の関係者だ。飼育員だったり、研究者だったり……もしくは女の子と同じように『研究対象』かもしれないね?」
 そんな物語へ貴方たちは介入をしてもらい、この物語を結末まで導いてほしいのだと言う。
 それが、ハッピーエンドでも、バッドエンドでも。
「もう少し物語について話そうか。物語の主人公は研究施設でアルバイトをしている男。ヒロインは人魚の女の子」
 男は女の子の身の回りの世話をしているうちにただならぬ思いを抱くことになる。
 女の子はと言うと、物心ついてからずっと研究施設でくらしていたからか、この生活が『当たり前』だと思いながらも男が時々聴かせてくれる『外の世界』に、彼自身に惹かれていった。
 そんな最中、 世間は研究施設を糾弾し、施設内の研究対象たちの解放を掲げて抗議活動を繰り返していた。
 ……遅かれ早かれ、彼と彼女は引き離されてしまうだろう。
「どうにかする、といっても選択肢は少ないだろう」
 幸い時間はたっぷりとある。沢山考え、悩み、自分達と彼と彼女の思い描く『相応しい結末』へ導いてほしい。
 泡沫姫の物語の終焉を紡ぐのは、特異運命座標(あなたたち)だ。

NMコメント

 お久しぶりです。ノベルマスターの樹志岐です。
 今回は人魚姫の悲劇を皆様の力でどうにかする物語です。
 以下は今回のシナリオの補足となります。

【世界】
 現代日本に良く似た世界のとある海洋研究施設が舞台です。
【できること】
 男と女の子の恋を応援する。
 男と女の子の逃避行をサポートする。
 女の子を誰の目にも触れさせずこっそり逃がす。
 その他、ノベルマスターが納得するような行動。

【登場人物】
 男
 名前は【桜庭敏樹】(さくらば・としき)
 小学生の頃、社会科見学でやってきた研究施設で、人魚を初めて見てから恋に落ちた。
 研究施設の飼育員のアルバイトに何度も応募をし、数度目でようやく採用され、女の子の世話を始める。
 研究のために傷つく女の子を守りたいと思いつつ、なにもできないのでせめて、と、外の世界の話を彼女に聴かせるのが日課になっていた。 
 女の子
 人魚の女の子。物心ついた頃から研究施設で育っており、アクリル板に囲まれたこの場所だけが彼女の世界だった。
 敏樹が言葉を教えたことにより、人間の言葉はなんとなく理解でき、片言であれば会話が可能。
 研究施設の外の世界に憧れを持ちつつも、敏樹がきてくれるなら施設のなかで終わりを向かえるのも悪くないと思っている。

【施設内】
・水槽
 研究施設の一画にある『彼女の世界』
 三方はアクリル板に囲まれていて、中は海水と体を休める岩場がある。
 アクリル板がない壁はバックヤードに通じていて、飼育員や研究員が出入りするドアがついている。
・バックヤード
 さまざまな道具が雑多に押し込まれている。
・研究室
 海洋生物を研究する部屋。
 研究員に割り当てられたカードキーで中に入ることができる。
 警備はザル。
・出入口
 受付前の出入口と研究員や関係者用出入口には監視カメラがある。
 研究による廃棄物を搬出する出入口にはカメラはないようだ。

 それでは、よろしくお願いいたします。

  • 泡沫姫完了
  • NM名樹志岐
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年06月17日 22時35分
  • 参加人数4/4人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ミミ・エンクィスト(p3p000656)
もふもふバイト長
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
ジュルナット・ウィウスト(p3p007518)
風吹かす狩人
レティシア(p3p008346)
焔色の幻想

リプレイ


 抗議団体の活動は日に日に勢いを増している。
 白衣の研究者たちは忌々しげに窓の外を一瞥して研究施設のカーテンを閉め、それに背を向けて向き直る。
「さぁ、今日も我々の文明に革新をもたらす研究を始めよう」
 その白衣の一団に紛れる緑髪……『風吹かす狩人』ジュルナット・ウィウスト(p3p007518)は主席研究員のありがたい話にうなづきながら目を細める。
(文明に革新をもたらす研究、ねぇ)
 そのためにどれほどの犠牲を払ってきたのだろう。もしかするとそう考えることは相手が人間のような形をとっているからこそで、純粋な魚類ならばこう思うのかもしれない。
 ――これは必要な犠牲だ、と。
 さて、一緒に潜入した仲間たちは守備良くやっているだろうか。
「おい」
 背後から声をかける細身の男が一人。彼は――、そう、抗議団体のひとり。つまり、今の自分の仲間だ。
 あぁ、そうだ。“仲間”達に情報を秘密裏に伝えるのが今の自分の仕事だ。
「さァて。老体に鞭打って、頑張りますかナ」
 まずは内部と重要そうな施設の把握。
 朝礼を終えたジュルナッドはゆるゆると割り当てられた今日の持ち場に移動を始めた。

 研究施設は海獣や魚の展示も行っており、来場客を楽しませている。
 子供の笑顔、いい感じのカップル、寄り添って歩く老齢の夫婦……。
 彼らが“光”だとしたら、職員だけが行き来するバックヤードは“闇”なのだろう。
 華やかでたのしい水族館の裏で、非道な実験が行われていると言われれば、それは確かに日向に伸びる影に等しい。
 それにしても、と『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)は光景を見る。
「通るのは関係者だけとはいえ、もう少し片付けられないものかな」
 雑多に物が積まれているそこはただでさえ狭い廊下をさらに狭めている。
「まぁ、私たちの行動がバレにくくていいんじゃない? ほら、この入れ物なんてうってつけよ」
 『焔色の幻想』レティシア(p3p008346)が言いながら指差したのは蓋と車輪がついた、縦長の入れ物だ。
 狭いかもしれないが、彼女は敏樹から言葉を教わっている。説明をすれば我慢はしてくれるだろう。
 物置と化しているこの廊下は彼女の部屋にたどり着くための最短ルートだ。この場所にトラップを仕掛けられれば足止めができるかもしれない。
 研究者も抗議団体の人々も。自分は、自分たちこそは『正義』だという幻想に取り憑かれている。
 そんな彼らの目を覚まさせるための。ハッピーエンドへお姫様と王子様を導くための黒子役が自分たちだ。
「おや、こんなとこで出会うなんて」
 彼女の部屋の引き戸が開かれ、姿を現したのは二人にとって見知った顔。『もふもふバイト長』ミミ・エンクィスト(p3p000656)今日はミミが彼女の担当らしい。
「お疲れ様。中々様になっているんじゃないか」
「それって褒められてます?」
「褒めてる褒めてる」
 やや唇を尖らせるミミを世界が宥めると、不服そうな顔はそのままに「まぁいいです」と小さく呟いた。
「それで……、敏樹とは会えたの?」
 レティシアの問いには首を横に振って答えた。
 ふう、とついた溜め息は狭く重苦しい廊下に漂ってから、霧散して消えた。
「でもほら、もうすぐ展示施設の方は繁忙期だし、そうしたら多めに人を動員するかもしれないし、ね?」
 そうなれば今まで会えなかった敏樹と会話ができるかもしれない。
 もしかすると、それが作戦前の最初で最後のチャンスになるかもしれないが。
「……ところで、世界さんは何をやっているんですか?」
「え、何って黒板消しトラップを仕掛けてるんだけど」
 世界曰く、元いた世界に酷似したこの物語の世界の代表的なトラップがこれ、らしい。
「……無事逃してあげられるかしら」
 レティシアは誰にも聞こえない声で呟き、頭を抱えた。


 その日は突然訪れた。
 ジュルナッドの内通により抗議団体が施設内に強行する日が決まったと連絡を受ける。
(これを逃したらもうチャンスはない)
 昼下がりの誰もいない休憩室に敏樹の姿をみた。
「こんにちは。人魚さんの飼育員さんの……桜庭さん、ですね?」
 突然話しかけられ、驚いたような表情を一瞬した後に彼は肯定の意を返した。
 ――こんな職員、働いてたっけ?
 脳内によぎった小さな疑問はすぐにかき消された。
 この施設では人の入れ替わりが激しい。きっとここ最近入ってきたか、今まで他人に関心が向かなかったからだろう。
「あの子、桜庭氏と逢う様になってから、随分と変わってきましたね、どんな魔法を使ったのでしょう?」
 鋭い指摘にドキリと心臓が跳ねた。
「やぁ、隣いいかい?」
 そんな彼に話しかける白衣姿の男女の組み合わせ。研究員がこの休憩室を使うのは珍しいと思いながらも彼は小さく「どうぞ」と答えた。
「ありがとう。いやぁ、食堂だとガチャガチャしてて苦手でさ」
 黒髪の男……世界はにこやかに笑いかけながら俊樹の隣に座る。
「ところで、君は知っているかい?」
 何を。そう答えようとした彼の背後でガチャリ、と鍵が閉まる音がした。
「……!?」
「まぁまぁ、落ち着いてヨ。悪いようにはしないからサ」
 筒状に丸めた紙の束を小脇に抱えてジュルナッドが語りかける。
 そうは言っても落ち着いていられるはずがない。同じ制服を身につけていても、研究員証を首から下げていても、閉じ込められた事実には変わりない。
「……最初から信頼して欲しいとは思っていないのです。でも話半分でいいから、聞いて欲しいなのです」
 ミミの言葉は、彼女がこの研究者たちと仲間であることを雄弁に語っていた。
 だが、自分がシフトに入っていない時、彼女の……人魚の担当をしてくれていたらしいミミの言葉は、この中の誰よりも信頼できる気がした。
 何も語らない。しかし僅かに首を縦に振ったのを確認してから、レティシアは話し始める。
「きっともうすぐここは閉鎖されるわ」
「……それは、あいつらのせいで?」
 あいつら――抗議団体のことだろう――小さく絞り出すような声で尋ねられたそれに、肯定の意を返すと敏樹はうつむいた。
「なんで……、みんなあいつを独りよがりな正義感で傷つけていくんだよ……」
 それは敏樹自身の、人魚の彼女に対する偽りのない本心なのだろう。
 握るこぶしが、噛み締める唇が、それを雄弁に物語っている。
「だから僕らは助けに来たんだよ。きみと彼女を、この牢屋のような世界から」
「そんなこと……」
「出来るはずがない……っテ? まぁ話は最後まで聞くもんサ、特におじいちゃんみたいな年上の意見はネ?」
 言いながらずっと抱えていた紙を拡げると研究施設の見取り図に丁寧な走り書きで色々と書き込まれていた。
「抗議団体が攻め込むのは明日、午前11時。まず施設内に侵入していた抗議団体の一員がコンピュータールームの電源を落とす」
 研究所の裏手の方を指差してから、すーっと指を紙面で滑らせる。
「電源を落とすと電子ロックを手動で解除できるようね。手動、といっても力でこじ開ける感じになるけど」
 抗議団体の目的は『人魚を海に還す』こと。だ、そうだ。
 自然の中で生まれた人魚を自然に還すことこそ、自分たちが掲げる理想で、それをどんなかたちであれ現実にしようとしている。
 彼女の“家”までの道には備品を使ったさまざまなトラップを世界が仕掛けており、中々彼女のもとへたどり着けないようにしてある。
「そうしてヤツらが罠に手こずってる間に、桜庭クンが彼女と一緒に廃棄口から逃げて仕舞えばめでたし、めでたしサ」
 そこまで聞くと彼は震える声で「どうして」と呟いた。
「どうして、そこまで。そんなことを……」
「そりゃ、それがあの子の幸せだと思うからですよ?」
 人魚の女の子が彼に向ける視線、息遣い、拙い言葉。
 あぁ、この子はきっと恋をしているんだと、わかりすぎるほどにわかった。
 だから駆け落ち、ではないけれど。本人たちがそう決めたならその背中を押して、あげたいと思ったのだ。
 だって、ほんの少しの間だけだけど、彼女は私たちに優しくしてくれたのだから。
「明日までに移動手段を用意しておいてくれないかしら。貴方、車は持ってる?」
「え……、いや、まぁ……軽なら……?」
 ケイ、というのはレティシアにはわからなかったが何かしらあるのだというのは理解できた。
「じゃあ、また明日」
 作戦決行は明日。抗議団体がなだれ込んでくる、少し前に。


 海が見える小高い岬に一人の老人が暮らしている。
 彼は毎日、坂道をゆっくりと下って浜辺へと出向く。
 男は若い頃、とても不思議な出来事を体験して世捨て人と成った。
 自分は今日も、彼女のために生きている。
 しかし男は後悔していない。彼の背中を押してくれた人たちがいたから。彼らが逃亡を手伝ってくれたから。
 彼らがかけてくれた優しい言葉を覚えているから。
 ――今、君が心の底から彼女を想っているのなら守ってやりナ。
 そんな。誰のために。
 ――君のことを好いた彼女の為にも、そして、君自身の心の為にモ。
 ありがとう、不思議な人達。俺は今も自分の心のままに生きている。
『敏樹!』
 老人を呼ぶ声が聞こえる。視線を向けると、あの日と変わらない彼女がいた。
『敏樹、敏樹! あいしてる!』
 彼女が紡ぐのはあの日に教えてもらった『魔法の言葉』。
「うん、俺もだよ」
 愛しい愛しい彼女。あの日、一緒に檻から逃げ出した彼女。

成否

成功

状態異常

なし

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