PandoraPartyProject

シナリオ詳細

黒猫エスケープ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●疾走
 一迅の風が吹き抜けた。
 時刻は昼過ぎ。行き交う人々の合間を俊敏な動作で駆け抜ける影。
 レガド・イルシオン王国。首都メフ・メフィート。
 石畳の敷かれた大通りに、屋台が並ぶとある区画での出来事だ。
 通行人の足元を縫うようにして走るその影は小さい。成人男性のおよそ半分ほどだろうか。
 驚いた馬が悲鳴をあげて、引いていた馬車が横に倒れる。
 通行人の老爺は地面に転げ、建物の2階からそれを見ていた小さな子供は「すげぇ! 早ぇ!」と興奮して叫ぶ。
 騒ぎが大きくなるに従い、その影もまた冷静さを失っていった。
 時には壁を蹴り飛ばし、屋台の調理台に着地し、捕らえようとした男性の顎を蹴り抜いた。
 そんな影を追って、1人の女性が駆けていく。
 茶色の髪に低い背丈。長いスカートを持ち上げながら、息を荒げて通りを駆ける。
「待って! 待って、しぃちゃん! 落ち着いて!」
 その女性は、影に向かって〝しぃちゃん〟と言った。
 彼女はその影の正体を知っているのだろう。
 だが、人々の喧騒に掻き消され、彼女の声は届かない。
「捕まえて、タコ殴りにしてやれ!」
 影……しぃちゃんに顎を蹴り抜かれた男が叫ぶ。
 呼応するように、荷馬車を操っていた商人風の男が「応!」と怒鳴った。
 男たちの怒りと興奮は周囲に伝播していく。
 この騒ぎは、ちょっとやそっとじゃ収まることはないだろう。
「あぁ、どうしよう……このままじゃしぃちゃんが殺されちゃう。私が誘ったばっかりに」
 止まって、と。
 願うような呟きは、誰の耳にも届かない。
 彼女の名はケトル。
 街に暮らす花屋の女性だ。
 どうやら謎の影は、彼女が街に連れ込んでしまったものらしい。

●作戦指令
「やぁ、君たち……動物は好きかい? 俺は好きだ。だからこそ、無意味にその生命が失われることは好まない」
 猫の耳を模したフードの奥で『黒猫の』ショウ(p3n000005)の瞳が光る。
 口角を吊り上げ、ショウは集まったイレギュラーズの顔を見回した。
 まるで、その者たちの人格を見通そうとでもいうかのように。
 そして……。
「いいだろう。君たちになら任せられそうだ。ぜひ、しぃちゃん……雌のケットシーを保護してきてもらいたい」
 ケットシー。
 2本の脚で立ち、人語を介する猫の妖精……あるいは、モンスターの名称だ。
 今回、街を騒がせている影の正体はどうやらケットシーであるようだ。
「黒い毛のケットシーでな。首にはケトルから貰った花柄の首輪をつけている。まだ幼いのか、人語は片言程度にしか操れないそうだよ」
 ケットシーからの要望か、それともケトルの主導なのか。
 とにもかくにも、しぃちゃんは街を訪れ、そして何かの拍子にケトルとはぐれたようである。
 その結果が、通行人や荷馬車を巻き込んだ大混乱。
 既に怪我人は出ているし、破損した荷や商品も多い。
 怒りに我を忘れた住人も中にはいる。
「そんな状況を抑え込めるのは、君たちだけだと思わないか?」
 頼めるね? と、一応といった風にショウは集まった面々に確認を取った。
「さて、詳細を伝えよう。まず、この区画だが大きく弧を描くようにおよそ500メートルほど。通行人や野次馬でごった返しており、混乱は未だ継続中だ」
 数人がひと塊になった状態で、スムーズに移動できるとは限らない。
 人込みに飲まれ、はぐれてしまう者も出るだろうし、通行人同士のトラブルに巻き込まれることもあるだろう。
「その状態でケットシーを探して、捕獲する必要がある。捕まえたら、その後は通りの入り口にある花屋を目指してくれ」
 その花屋には、ケットシーの無事を祈るケトルが待機しているはずだ。
 彼女にケットシーの身柄を渡せば任務は完了となる。
「あぁ、それと、ケットシーの攻撃には注意してくれよ。【足止】と【不運】の状態異常を付与されては、追走もままならないからな」
 ケットシーの背丈は、1メートル足らず。
 素早い動作と、高い回避能力が特徴であり、反面攻撃力や防御力はかなり低い。
 一般人でも、数名でかかれば十分に討伐できる程度の体力だ。
 もっとも、それはケットシーを捕らえられればの話だが……。
「万が一ということもある。なるべく急いでくれよ。余裕があれば騒ぎの収束も試みてくれると助かる」
 と、そう言ってショウはイレギュラーズを送り出す。

GMコメント

●ターゲット
ケットシー×1
黒い毛色に、花柄の首輪を付けた雌のケットシー。
2本の脚で、獣以上の俊敏さを発揮し移動する。
人語を解するが、話すのは苦手。
現在、通りを逃走中。
ケトルからは“しぃちゃん”の名で呼ばれている。


・エスケープ:物近ラに小ダメージ、足止or不運
高速で移動しながら、対象へ爪でひっかく、或いは蹴り抜くなどの攻撃を加える。


ケトル(人間種)×1
花屋で働く女性。年齢は20代前半。
花の種を採取するため森に立ち入った際、ケットシーと出会い仲良くなったらしい。
どういった経緯か、ケットシーを街に連れ込み案内していた模様。
混乱の渦中にあるケットシーの身を案じている。
現在、通りの外れにある花屋で待機中。



●場所
レガド・イルシオン王国。首都メフ・メフィートのとある通り。
大きく弧を描くように石畳の道がひかれている。
屋台や商店、露店が多く人や荷馬車の行き来が活発。
現在、往来していた通行人に加え、野次馬が駆け付けたことで通り全体が大混乱の最中にある。
大声で叫ばなければ、近くの者との会話も難しい。
通行人たちは、大まかに下記のような行動をとっている。
目的地もなく逃げ惑う。
怪我をして立ち止まる。
泣き叫ぶび立ち止まる
野次馬のために移動し続ける。
怒りもあらわに、ケットシーを追って駆け回る。

  • 黒猫エスケープ完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年06月17日 22時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アルペストゥス(p3p000029)
煌雷竜
シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)
死を齎す黒刃
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
岩倉・鈴音(p3p006119)
バアルぺオルの魔人
桐神 きり(p3p007718)
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し

リプレイ

●喧噪と混乱
 一迅の風が吹き抜けた。
 時刻は昼過ぎ。行き交う人々の合間を俊敏な動作で駆け抜ける影。
 レガド・イルシオン王国。首都メフ・メフィート。
 石畳の敷かれた大通りに、屋台が並ぶとある区画での出来事だ。
 行き交う人々の足元を駆け抜けたのは、人語を介する猫の魔物……ケットシーであった。
 つぶらな瞳に涙を滲ませ、ケットシーは人々の間を縫って駆けまわる。
 ケットシー……〝しぃちゃん〟と呼ばれている彼女は、最愛の友人である人間の少女、ケトルの姿を探して回る。
 けれど……。
「待ちやがれ! 貴様のせいで、うちの品物がめちゃくちゃだ!」
 大音声で怒鳴りながら、ケットシーを追いかける男が数名。
 ケットシーの暴走により、商品を台無しにされた屋台の主たちである。

〝あれは何だ!〟と、眼下で誰かが悲鳴を上げた。
「…………」
 行き交う人々の頭上に影が落ちる。銀の翼を広げ空からケットシーを捜索するのは『煌雷竜』アルペストゥス(p3p000029)であった。
 その外見もあり、人を苦手とするアルペストゥスは疲れたように鼻を鳴らした。
 アルペストゥスの視線が、怒鳴りながら通りを駆ける男たちの姿を追った。小さなケットシーを人混みの中から見つけ出すのは難儀であるが、怒鳴る男たちならまだ容易だ。
 そして、男たちの進む先にはおそらくケットシーがいるはずだ。
「街や人に被害が出てるみたいだけど……でも幼い命は守りたいな。生きてなきゃ、謝ったり償ったりもできないもん」
金色の髪を靡かせながら、『咲く笑顔』ヒィロ=エヒト(p3p002503)は憂い顔でそう呟いた。
彼女もまた、アルペストゥスに並んで飛翔しながらケットシーの居場所を探しているのだ。ケットシーを発見した際には、地上を行く仲間たちをその位置へナビゲートするという役割を担っている。
そしてもう1人、『劫掠のバアル・ペオル』岩倉・鈴音(p3p006119)もまた、人混みの上空を飛びながら、地上へ向けて右目を凝らしていた。彼女の左目は眼帯で覆われているのだ。
「ケットシーのしぃちゃんを庶民の皆さんより先に保護しなければネっ!」
 そう意気込んで、鈴音はゆっくりと高度を落とした。通りに面した民家の2階、ケットシーの様子を眺めていた子供の姿を発見し、話を聞きに向かったのである。

地上3メートルの低空を、『紫緋の一撃』美咲・マクスウェル(p3p005192)が飛翔する。水色のスカートが、魚の尾ヒレのように靡いた。
 美咲の視線の先には大声で怒鳴る男たちの姿。
 数名が一塊になって同じ方向へ駆けている辺り、その先にケットシーがいるのだろう。
「落ち着いて収めてあげるのが、大人ってもんでしょうに……止めるよ、ヒィロ」
 頭上を舞うヒィロへ、美咲はそう声をかけた。
 アルペストゥスへ仲間たちへの連絡を任せ、ヒィロは美咲の隣にまで高度を下げる。視線を交わしたのは一瞬。
 男たちを止めるべく、2人は同時に加速した。

「ギャウ! ギャウ!」
 と、空の上でアルペストゥスが吠え猛る。
 その尾の指し示す先に、ケットシーがいるのだろう。
「さて、任務開始だ。俺も黒猫と揶揄された事もあったしなんだか親近感が湧いちまうな」アルペストゥスのナビゲートを受け、『死を齎す黒刃』シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)は人混みの中へと歩を進めた。
 フードの奥の瞳は鋭く、アルペストゥスの指し示す先を見据えている。
「うへー、えらい騒ぎになってるみたいですね。ここにこれから向かうと思うと気が重いですが、何とかやってみましょうか」
シュバルツの後に続いて、桐神 きり(p3p007718)も人混みへと向かう。背丈の低い彼女の視界に、怒鳴る男たちもケットシーも映りはしない。けれど、人混みから聞こえる怒鳴り声や悲鳴を聞いて、うんざりとした顔をした。

「さて……状況は余り良くはない様子だな。先ず俺たちにできることは……」
ちら、と周囲へ視線を巡らせ『ドゥネーヴ領主代行』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)はそう呟いた。
 視線の先では、此度の騒動に混乱し訳も分からずオロオロとしている人々がいた。
 怒鳴り声に驚き、人の波に突き飛ばされて、悲鳴を上げる者たちもいる。
 怒鳴り声や悲鳴もまた、ケットシーが人に怯える一要因だろう。
 ならばまずは、人々の混乱を治めるべきだ。
そう判断し、ベネディクトは傍らに控えさせた軍馬の背へと飛び乗った。
主を乗せた雄々しき軍馬が、声高らかに嘶いた。
 人々の視線が軍馬に跨るベネディクトへと向けられる。驚きと奇異の入り混じった視線であった。それも当然。突如として人混みの中で馬に跨る男の存在は、一般的な感覚からすればなるほど確かに〝異常〟であろう。
 だが、それこそがベネディクトの狙いであった。
「俺はローレットから派遣された者だ! 安心してくれ、この件は既に我々が対処に乗り出している!」
 混乱する者たちに声を届けるためには、注目を集める必要がある。

「猫さん……しぃちゃん、きっとこわがってるよね。どなられて、追いかけまわされて……はやく助けてあげないと」
 民家の屋根から通りを見下ろす小さな人影。
 長い銀髪から覗く潤んだ瞳が、人混みの中を駆ける小さな影を捉えた。
「見つけた……」
と、何かを決心するように深く頷き『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)は屋根から通りへ跳び下りる。
 スキルによって気配を消したリュコスは、ケットシーの後を追って人混みの中を駆け抜けた。

●逃走と追走
 銀の翼が空を打つ。
 空中を疾駆するアルペストゥスの姿を見上げ、通行人の一部が足を止めて空を見上げた。
「ギャウッ!!」
 アルペストゥスはその長い尾の先で、通りの中ほど……ちょうど大きくカーブを描いている辺りを指し示した。
「っと、助かったぜ。その先にケットシーがいるんだな? 一体何があったかは知らねぇが、さっさと保護してやりますかねっと」
 アルペストゥスの指示を受け、人混みに飲まれかけていたシュバルツが進路を修正。
 人と人の間を擦り抜けるようにしながら、足早に目的の場所へと向かう。
「あの辺りにはベネディクトさんやリュコスさんが待機していたはず……予定通り地上班と空中班に分かれてターゲットを包囲していきましょう」
 シュバルツの後に続くようにして、きりも人混みを掻き分け進む。
 しかし、シュバルツに比べて背丈の低いきりでは思うように人の波を掻き分けられない。
 悔し気に歯を食いしめながらも、きりは必死に目的地を目指す。

 民家の二階からケットシーの様子を窺っていた子供から情報を得て、鈴音は苦々し気に表情を歪めた。
 子供の話では、しばらく前からケットシーを追いまわす大人の数が増しているとのことだった。
 はじめにケットシーを追って行った男たちが、その道中で別の屋台や露店、馬車を妨害し混乱を広げてしまったのだという。
「仕方ないですネ……」
 人混みの中には、仲間たちの姿も見える。
 一瞬の逡巡。
 そして……。
「皆、影はこっちの方向に行ったヨー! こっち、こっちだヨ!」
 民家の二階から大通りへと跳び下りて、鈴音は大声を張り上げそう叫ぶ。
 その声に吊られ、怒り狂う大人たちの一部はケットシーとは別方向へと駆けて行った。

 馬上に立ったベネディクトは、胸を張って大音声を張り上げた。
「皆、落ち着いてくれ! まずは周囲を確認してほしい! 怪我をした者はいないか? 泣いている者は? 我々はこの騒乱をおさめに来た者だ。だが、我々も少数。故に及ばぬ所は皆に力を貸して貰いたい、駄目だろうか?」 
 スキル【カリスマ】と【アニキカゼ】の併用により、ベネディクトの言葉は人々の耳に飛び込み、その胸の内に染み込んだ。
 とりわけ冷静であった者たちが、率先して周囲の確認や怪我人の治療へと移る。
 それを見て、満足そうに頷くベネディクトだが、頭に血が上った男たちの耳には、彼の言葉は届いていないようだった。
「これは……まずいな。人々が冷静になったおかげで、彼らの移動速度があがっている」
 判断を誤っただろうか、と。
 その自問自答に答えは出ない。

 倒れた屋台の影。蹲るケットシーの元へ、リュコスはゆっくり近づいた。
「しぃちゃん? ケトルおねえさんがしんぱいしてるよ?」
 優しく声をかけながら、リュコスはその場にしゃがみ込む。
 ケットシーを宥めるように手を差し出して、リュコスはゆっくりその傍へと近づいていく。怯えた様子を見せていたケットシーだが、リュコスに敵意がないことを察し、鼻をひくひくとさせながら、その指先へ顔を寄せ……。
 リュコスの指先とケットシーの鼻先が触れ合いそうになった、その瞬間。
「見つけたぞ! こんなところに隠れてやがったのか!」
 怒る男の、大音声が響き渡った。
 男の怒鳴り声を聞き、ケットシーは全身の毛を逆立てる。
 素早くその場で跳びあがると、間近にいたリュコスの顎を蹴り抜いた。
「あぅっ!?」
 悲鳴をあげ、リュコスがその場に倒れ込む。
 そんなリュコスを踏みつぶしかねない勢いで、数名の男がケットシーへと殺到した。

 倒れたリュコスを男たちが蹴り飛ばす。
 大きなダメージは負っていないようだが、すぐにケットシーの保護へ移ることはできないだろう。
 その光景を上空から見下ろす影が2つ。ヒィロと美咲だ。
 ヒィロの出した【幻影】の矢印がケットシーの真上に現れる。
 仲間たちは、その矢印を追って駆けてくるはずだ。
「まずい……ヒィロ、先に行って!」
「えぇ、美咲さん! まずは全力でその子を救ってあげよ!」
 まずはヒィロがその高度を下げ、男たちの前へと飛び込んだ。
 ケットシー目掛けて投げつけられた石の礫を、その身を挺して受け止める。石の当たったヒィロの額から、つぅと赤い血が流れた。
 さらに、その隣へと美咲が着地。
 2人の横を駆け抜けようとした男に足払いをかけ、その動きを抑制する。
 さらに……。
「ったく、お前らの怒りは分からんでもないが、迷子の猫一匹袋叩きにしようとするのはどうなんだよ」
 追いついて来たシュバルツが、男たちの前に踊り出す。
 鋭い瞳に睨みつけられ、数名の男が足を止めた。
 男たちの視線はシュバルツへ……そして、頭上から舞い降りたアルペストゥスへ向いている。
 大きく翼を広げ「グルルル……」と唸り声をあげるアルペストゥス。
 銀の翼を持つ竜の登場に怯んだ男たちは、ケットシーの追走を止めた。

 男たちの抑止は、シュバルツとアルペストゥスが受け持っている。
 その間に、ケットシーを追ってリュコス、ヒィロ、美咲の3名はその場を離れた。
「落ち着かせるなら、ケトルさんが適任かな」
 傍らを飛ぶヒィロへ向けて、美咲は告げる。
 ヒィロは深く頷いて、数メートルほど高度を上げた。
「だったらボクが目印になるよ!」
 さらに【幻影】の矢印も展開することで、離れた位置にいるであろうケトルへと自分たちの居場所を伝える。

●再開と抱擁
 男たちの動きを警戒しながら、シュバルツは隣に並ぶアルペストゥスへと言葉を投げる。
「どうする? 俺たちも追うか?」
 それに対してのアルペストゥスの返答は“否”というものだった。
 首を数度横に振り、ゆっくりとその瞳を閉じる。
「まぁ、変にケットシーに警戒されても良くないからな……後は他の連中に任せるか」
「ギャウ」
 視線を交わし、シュバルツとアルペストゥスはにぃと笑った。
 シュバルツ愛用の黒短刀は、今日は出番がなさそうだ。
 だが、それならそれで構わない。一般人の数名程度、武器がなくとも抑えることは容易であった。

 アルペストゥスは一度だけ後方を……走り去るケットシーの姿を見やる。
(……ちゃんと、だきしめてもらうんだよ)
 そんなアルペストゥスの思いは、果たしてケットシーに届いただろうか。
 それにしても、とアルペストゥスは思案する。
 ケットシーに再開したケトルは、きっとその小さな身体を優しく抱きしめるのだろう。
 それは、なんて優しくて、そして愛しい光景だろうか。 
 叶うのならば、自分も近くの子供に対し同じことをしてみようか、と。

 道の端に避難させられた怪我人たちに視線を向けて、鈴音はほっと溜息を零した。
「良かったネ。騒動が大きくなると死人もでてしまうところだったヨ……あぁ、そこの貴方、大丈夫ですカ?」
 大きな怪我を負った若い男性に近づくと、鈴音はその傷口へと手を翳す。
 鈴音の手に淡い燐光が灯り、どこからか「リィン」という音色が鳴った。
 飛び散った燐光が若者の傷口へと降り注ぎ、血を止め、裂けた皮膚を癒していく。
 ケットシーの追走は仲間たちに任せ、彼女は一足先に騒乱の後始末へ取り掛かった。

 ケットシーを追いかけながら、リュコスは声を張り上げる。
「ま、待って! ぼくたちはケトルおねえさんに君を助けるようにたのまれたの! ぼくたちは痛いこととからんぼうなことはしないよ」
 ケットシーの進路を誘導するように、素早い動作でケットシーの進路へ回り込んだ。
 驚き、後方宙返りを決めるケットシー。
 地上に着地し、逆方向へと駆けて行こうとしたが、その進路を美咲が塞いだ。
「みんなで、ケトルさんと合流できるように誘導していこう」
「うん。それから、騒ぎを起こしちゃったことを、街の人達に謝って回るのをお勧めしたいな」
 頭上で大きく手を振るヒィロ。
 視線の先には、人混みを掻き分け走る花屋の少女・ケトルの姿があった。
 だが、人混みに流されるケトルはなかなかヒィロに気付かない。
「俺は先に行って、騒ぎを沈める。後は頼んだぞ」
 そう言ってベネディクトは、馬から降りて駆けて行く。
 ベネディクトの頭上には1羽の小鳥。【ファミリア―】で召喚した小鳥の五感を借りながら、騒ぎの大きな場所を目指した。

 人混みに流され目的地から離れた位置に運ばれたきりは「あれ?」とその場で足を止めて首を傾げた。
 彼女の保有する【捜索】のスキルが、近くにいる〝誰か〟の気配を察知する。
 その方向へと視線を向けたきりは、見知った少女……ケトルの姿を発見する。
「あ……あぁ!」
 いつの間にか、ケトルの近くにまで流されていたのだ。
「そ、そっちじゃないです! ケトルさん、こっちこっち!」
 ケットシーとは別方向へと移動しようとするケトルの手首を、慌ててがっしと握りしめた。【レーダー】が探知した、仲間とケットシーの居場所へ向かって、ケトルを誘導するように駆ける。
「あ、貴女……しぃちゃんを探してくれるって言っていた」
「桐神きりです! それより、しぃちゃんのところまで連れて行くんで、付いて来てください!」
 そして……。
「しぃちゃん!!」
 人混みを掻き分け、きりとケトルが跳び出した先……つぶらな瞳に涙を浮かべて、悲し気な鳴き声をあげるケットシーの姿が見えた。
 ケトルの声に反応し、ケットシーは「にゃぁ!!」と嬉しそうに声をあげた。
 地面を蹴って、ケットシーが宙を跳ぶ。
 両手を広げ、ケトルはその小さな身体を抱きとめた。
 再開し、抱き合う2人を眺めながら「よ、よかったです」ときりはその場に座り込む。
 それから……。
「しぃちゃんに怪我もないようですし……全部終わったなら騒動を収めに行きますかねー、気は進まないですけど」
 なんて、言って。
 疲れたように大きなため息を吐き出した。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
無事にケットシーは、少女ケトルと再会することが出来ました。
怪我人は多数ですが、死人は出ておりません。依頼は成功です。

この先、ケトルとケットシーがどのように過ごし、どのように絆を深めていくのか……。
綴る機会があれば良いですね。

此度の物語はお楽しみいただけましたでしょうか?
お楽しみいただけたなら幸いです。
またのご参加、お待ちしております。

PAGETOPPAGEBOTTOM