PandoraPartyProject

シナリオ詳細

Felicem natalem

完了

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

挿絵『Felicem natalem』

●満月の日に立て籠もる
 事の発端は五月であった。
 アイラ (p3p006523)――彼女がErstine・Winstein (p3p007325)の店である『砂都茶店Mughamara』に出向いた際――些細な会話から発展し、エルスティーネ本人の誕生日パーティを開く許可を貰ったのだ。
 それはいい。それは良かったのだ、が。
「ちょ、こら! エルスさん! な、なんで閉じ篭もる、する、ですか!!」
「ごめんなさいアイラさん……その、ええと、少し、そう! やむを得なきトラブルが!」
 エルスティーネの家の前。扉を叩いて彼女を呼ぶアイラだが、扉が開かない……!
 この理由は何故なのか? そう、エルスティーネの誕生日は六月六日であったのが原因――

 六月六日。それは、この月における『満月』の一夜。

 かの日はエルスティーネが悩んでいる『吸血衝動』が増す日であったのだ。アイラと和気藹々、楽しく話していた時にはさっっっっっぱり想定していなかったが、前日に至りて思い出した彼女は一世一代の立てこもり計画を実行する!
 窓を塞ぎ、扉を閉めて……ってこら! 君この前の依頼で満月から前進したんじゃないのか!! 大人しく出てきなさい!! 天岩戸神話か!! こら――っ!!
「んむむむむ! まさか立て籠もるとは思ってもいませんでしたね!」
「さてどうしようか――流石に扉をぶち破る、というのも……」
 押しても引いてもビクともしない扉を前に夢見 ルル家 (p3p000016)とレイリ―=シュタイン (p3p007270)は思い悩む。ガチでぶっ壊しに掛かれば中に突入するのも決して無理ではないと思う、が……誕生日パーティーという祝いの日。そこまでするのもどうだろうかと。
「だがこう立て籠もられると逆にどう引き摺り出す――もとい祝うべきか楽しくなってくるな」
「Erstineちゃんが家に籠り続ける事が出来るか……それともわたし達がお祝いできるか……!」
 されば回言 世界 (p3p007315)と夕凪 こるり (p3p002005)は思考を回す。ラサのここまでやって来たのだ。祝わせないで帰すなどとは許さない。絶対に祝ってやる……! 絶対に逃がさないぞ……!!
「はっはっは! と言う事はつまりこれは――彼女との勝負ですね! 面白い催し物! この扉をどうやって突破するか……Erstineさん! 貴女の期待に必ず応えてみせますッ――!!」
「ち、違うから!! なんか色々違うから――!!」
 ウィズィ ニャ ラァム (p3p007371)はむしろ更に意気揚々。中からエルスティーネの反論する声が聞こえてくるが、聞こえませーん! 我々は帰らないし、ここを開かないつもりならこちらにも考えがある! いや違った今から考える!

 果たして一行はエルスティーネの誕生日を無事に祝う事が出来るのだろうか……!?

 ラサの空の下、夜でも賑やかな街の中で。
 細やかな攻防が繰り広げられようとしていた……

GMコメント

 リクエストありがとうございます!
 おら、でてこーい! と言う訳でよろしくお願いします!

■達成条件
 Erstine・Winstein (p3p007325)を祝え!!

 六月六日は彼女の誕生日。
 しかし満月である事に気付き、立て籠もっている様です……
 引き摺りだし……もとい、突破し……もとい……

 とにかく予定通り誕生日パーティを開いて祝ってやりましょう……!!

■ロケーション
 ラサの街。砂都の一角。
 時刻は夜で満月が見えます。雲一つないですね……綺麗な満月だぜ……!

 ラサは夜でも賑やか。
 もしかしたらラサに縁の深い人物は偶々近くに居たりするかも……? また、お店とかも普通に営業している様ですので、何か購入したい道具などがあれば、よっぽど特殊な物でない限り手に入る事でしょう。

 Erstineさんは頑強に立て籠もっています。
 見た限り窓とかも締め切ってるようです。うーむどうしたものか……!?

  • Felicem natalem完了
  • GM名茶零四
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年06月06日 22時55分
  • 参加人数7/7人
  • 相談6日
  • 参加費---RC

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(7人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
夕凪 こるり(p3p002005)
秋呼鳥
アイラ・ディアグレイス(p3p006523)
生命の蝶
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌

リプレイ


 『Ultima vampire』Erstine・Winstein(p3p007325)は後悔する。ああどうしてと。
 扉を開ける勇気がない。例えば『今日』が明日だったら。或いは昨日だったらなんて。
「――エルスティーネ、いいだろうか」
 瞬間。外より聞こえし声は――『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)のモノか。
 虚空に向けて思考していたからか思わず体が一瞬大きく震えて。
「向かい合って話したい事がある。少しの間、俺だけでいいから入れてくれ」
「し、し、しかし……私は、その……」
「今日が満月だとは思っていなかったんだろう? ああ分かっているさ――」
 だがこちらとてそんな程度で諦める筈もないだろう。
 一番槍の機会を貰ったのだ。なんとしても次に、皆へと繋げる為に。

 世界が繰り出すは異世界の伝統礼儀。日本人に於ける伝家の宝刀その名も――土下座。

「頼む――他の皆と少しだけでいいから会って話してくれ、どうか――ッ!」
「へ? せ、世界さん!? そ、そこまでしなくても……わかった……わかったから!」
 形としては誕生日に呼んでおきながら締め出す形をとっているエルスティーネである。彼女としても悪いと思っている手前、断る事はないだろうと踏んだ世界の初手は見事に彼女へと突き刺さり――ただならぬ様子を察したエルスティーネがほんの少し、ほんの少しだけ扉を開ける。
 だがそれでも面と向かって会う勇気が湧かない。
 紅い髪。元と異なる雰囲気。そしてそれにまつわる――過去の――
「わっ、と」
「まず一人だけ呼んでくるから。姿を晒したくないなら――適当になにか被っておけ!」
 同時。エルスティーネの戸惑いの間隙をついて世界は彼女へと近場にあったシーツを薙げる。
 それは姿を、簡易なれど隠す。頭から被れば、少なくとも顔を隠すには容易で。
 走る。世界はそれだけ言って、素早く外へと。
 目的はたった一つ――『彼』をこの場へと呼んでくることで。
「……エルスちゃん」
 そして。扉の開いている内に一人が入る。
 世界に続いたのは――『虹を齧って歩こう』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)。
 一度に皆では入らない。一人ずつ、エルスティーネと会話しようと。
「ごめんね。私には、事情は分からないけれどお話だけでもさせてもらえないかな」
 何も分からないままさよならは、したくない。
 何も知らないままでも――いたくない。
「……ウィズィ、さん」
「迷惑、だったかな?」
「いいえ! まさか、そんな!」
 シーツに包まる彼女から目だけが見えた。
 それでも。彼女の唇から私の名前が紡がれた時。
 ふっ、と。安心したんだ。
「綺麗な色。どうして、その姿を見せたくないの? 自慢できる姿じゃない?」
「き、れい……? ……ほんと? 気味が悪いとか……無理してない?」
「どうしてそう思うの? エルスちゃん、なにか――あるの?」
 涙目になりそうになるのを堪えて紡いだ言葉。
 とても、とても綺麗な色をしているのにどうして見せたくないのか。
 ――嫌な思い出でもあるのかな。
 いや……きっとそうなのだろうとウィズィは思考する。だって、彼女の瞳には悲しみがある。
 私達が邪魔だとか、嫌だとか。そういう感情の色ではなかった。
「そ、れは……」
「無理に、ね。聞こうとまでは思わないの」
 そうするならばもとより、どれだけ扉が頑強であろうとナイフ一つで入っていた。
 盛大に壊し、誕生日を祝うべく彼女の前に姿を現すのも悪くなかっただろう。
 でも――それは違うんだ。
 無理に押し入った所で、本人が悲しいのでは意味がない。
「あのね。誰が何と言おうと、私は今のエルスちゃんも変わらず好き」
 だって。
「エルスちゃんは――私の大切な友達だから」
 どんな姿でも。
「悪く言う奴がいたら、全力で守ってあげる」
「――」
「だから」
 私達にお祝いさせて?
 満月の日だって、きっと怖くない一日にしてみせるから。


 ――気味が悪い。そんな汚らしい姿でよくも人前に出て来れる。

 義妹の言葉は、今でも覚えている。
 罵られ、蔑まれ。満月の日は、いつも、いつも――


「知ってると思うけどさ、この世界は異世界から来た人はもとより……この世界で産まれた人も個性的な人たちが結構いて、混沌でさ、多少個性的でも受け入れられる」
 そう語るのは『騎兵隊一番槍』レイリ―=シュタイン(p3p007270)である。
 混沌。あらゆる世界から人が、あるいは異世界の神やら魔物まで召喚されるこの世。
 そんな世界では多少以上個性的な外見であろうと――些事である。
 この世では受け入れられる。ましてや髪の色や雰囲気などより些細であり。
「……ここでは普通の事……平気、なの?」
「勿論。ああ、きっとエルスティーネ殿がそこまで怯えた様子を見せるのは、姿が変わる以外にも何かの理由はあるんだろうけど……エルスティーネ殿は姿とか他の部分が変わっても」
 エルスティーネ殿だって私は感じる。
 そうだ外が変わろうとどうだというのだ。
 私は、今の姿だって同じエルスティーネ殿にしか感じられない。
 だから、笑顔を見せて欲しい。
 一年に一度のバースデー。私は、私達はその日を祝福したいのだから。
「それにさ、こんな綺麗な満月が綺麗な夜は誰だって気分が高揚しちゃうって思う。
 私もその……こんな満月なら気分が浮かれて、ハメ外しちゃうと思うし」
「……えっ、レイリーさん、が?」
「意外――? ふふ、そうそう。誰だって、知らない一面があるもの」
 だからエルスティーネ殿に私達の知らない面があったって。

「今さら変わりはしないわ。だから――ね? 今日はみんなで楽しく過ごそう!」

 どうか言わせてほしい。ハッピーバースデーと。
 笑顔で皆と一緒に。
「どうも――!! エルスティーネ殿!! 次は拙者の番ですよ――!!」
「ひぇ、ル、ルル家さん……あ、ちょっと、ちょっと、待ッ……!」
「ありゃりゃりゃ、ずるいですよエルスティーネ殿! 隠してるから何事かと思えばかわいいし綺麗じゃないですか! 拙者なんてこれですよこれ!」
 あっはっはー! とレイリーの後に出てきたのは『シリアス忍者』夢見 ルル家(p3p000016)である。にょろにょろと服の裾から見せるのは這い寄る混沌の触手で、邪神パワーひっこめなさい!!
 ともあれラサまで来て何もせずに変える事など出来ようかいや出来ない!! 絶対にエルスティーネ殿をお祝いして帰る。とはいえ流石に強行突破天岩戸即落ち2コマは宜しくない。ハッピーになるには心から。
 不躾承知。じろじろとシーツに隠れる彼女を覗いて触手も見せつけあらあらあら。
「な、なんですかルル家さん……! ちが、見ない、で……!」
「――エルスティーネ殿は拙者の見た目を気にしないですよね。拙者もそうですよ」
「えっ……?」
 と、ふと。ルル家は紡ぐ。
 色々あって右目も溶けた。はっはっはなんて姿なんだろうかと自ら笑い、笑い。
 それでも彼女は拙者を恐れない。ならば。
「見た目が変わった程度で嫌いになるなら、友達やってませんから!
 皆もそうですよ。だから安心してください。誰も貴女を傷つけたりしません」
 此処には敵などどこにもいない。
 貴女を傷つける人など――どこにもいないのだ。
 姿が多少変わるなどなんたる些細な出来事か……
「そう、なの……? 私……もう、変わる事を怖がらなくても……いいの?」
「当然じゃないですか! むしろ満月に姿が変わるなどこれ以上ない素敵な変化!」
 闇夜と満月を背景に。
 その姿を舞わせたならば――ああ。
 きっと美しい事でしょう。
「さて、拙者の番はこれぐらいにしておきましょうか! それじゃまた後でですよ!」
 また『後で』必ず。
 必ずお会いしましょうと――言葉を紡ぐ。


 ラサの街中。『秋呼鳥』夕凪 こるり(p3p002005)はエルスィーネに会う前に、と準備を重ねていた。
「友達のErstineさんのお誕生日だから、素敵な贈り物を探してるの」
 そう言いながら各地の店を渡り歩く。
 扇動の知識が身振り手振りの心得を。商人達に伝わるように、印象に残る様に動き回るのだ。
 求めるは良き品――ではない。
 これらを行った先に話が伝わり伝わり『ある人物』の耳へと届かせる事。
 望みの品は、ただ一つ。いや――
 ただ『一人』と言うべきか。
「あ……そろそろ私の番が来るかな、戻らなくちゃ……!」
 こるりは急ぎ、駆け戻る。エルスティーネさんとは、そう多くの交流がある訳では無い。
 よくて顔見知り。悪ければわたしからの一方的な認知かもしれない。
 それでも、今日この日。
 彼女の事をお祝いしたい。
 優しくて真面目で、それでいて照れ屋だって事は知っている。
 だからこそ、今回のパーティーで直接お祝いして――
「仲良くなりたかったの」
 どうか悲しい顔をして今日を過ごしてほしくない。
 扉の奥底に一人で涙を流させて、逃がしなんか絶対にしない。
「絶対に、絶対に祝ってやるんだからっ!」
 駆ける。エルスティーネの下へ。必ず、必ず――と。

「やぁ。今日はちょっとね、尋ねたい事があってきたんだけど……」

 であればこるりの目的は他の者が受け継ぐ形だ。例えば最も先に言を済ませた世界。
 彼は酒場や開いている店へと独自のコネクションを用いて親し気に。
 行う会話は『彼』の話。今日はこの近くには来ていないかと。
「やれやれ。有名人とはいえ、流石にいきなりでは情報は掴めないか」
 ならば人海戦術だ。ラサにも精霊がいるのであれば、簡易魔法陣で呼び出して。
 探す。自らの手を少しでも広げ、探し続けるのだ。
「アイツを今より前へ進ませるには――」
 やはり彼に会の姿を見せておいた方がいいだろうと、思考して。
 直感でもいい。この先にいないかと歩を進める。
 どうか一瞬でもいい。エルスティーネへと。
 姿を見せてくれないかと、往けば。

「よぉ」

 眼前。掛けられた声は、男のモノで。
「なんだ。お前ら俺を探してるんだって?」
 望みの人物。それは――


「こんばんは……お隣、失礼しますね」
 『君に幸あれ』アイラ(p3p006523)は話をする為に、隣に座った。
 満月の日に彼女は囚われている。
 ソレそのものに。ああ、囚われたおひめさま――
「ねぇ、エルスさん。ボク達はありのままの貴女と過ごしたい」
「……ありの、ままの、私……」
「そうです。そしてそれは『今』の貴女もそうなんです」
 言葉を重ねる。ボクは貴女の魔法使い。
 満月の檻なんてボク達が壊してみせます。
 それは、貴女が望むことではないかもしれないけれど。
「例外はありません。ボク達は……どんな貴女でも私達のエルスさんです」
 エルスさん、どうか目を空へと向けてみてください。
 満月がお嫌いなのかもしれません。でも、それでも。
 満ちる月の美しさを。
 月無き夜の寂しさを。
 貴女は、知っていますか?
「――Amo illum。調べました。このことばが、ボクのきもちです」
「え――あっ――」
 Amo illum。その言葉が指し示すのは、シンプルにしてこれ以上無き。
 親愛の表現。

 ――貴女の事が、大好きです。

「たとえ貴女が変わってしまう自分を恐れたとしても、ボクは貴女が、だいすきです」
 だから顔をあげて、恐れないで。
「誕生日、おめでとうございます」
 だから、だから――
 この手をとって、くださいますか?
 扉を開けてくださいますか……? 貴女の心の扉を、ボク達に。
「――――」
 エルスティーネの心に在ったのは過去の楔。
 吸血衝動がある……事だけではないのだ。義妹に罵られ、傷んだのは心。
 精神の傷はそうは癒えない。時間が過ぎても、世界を跨いでも。
 だから、怖かった。
 あの日がもう一度来るんじゃないかと思って、そうしたら。
 扉を閉めていた。
 傷つくぐらいなら涙を流した方が、楽だから。
 でも。
「皆さんッ、めんな、さいね……ッ」
 それはきっと、間違いだった。
 言葉が喉の奥に詰まる。上手く出て来ず、でも、それでも。
 不快だからなどでは決してない。
 アイラの手を取り涙を流す。痛い――違う、これは、感謝の心故に。

 扉が開く。

 ずっと閉めていた扉を、今開ける。
 さればかつての言葉が脳裏に過る。義妹の侮蔑が背中より迫るのだ。
 みすぼらしいのに外へ行くのかと。
「だい、じょうぶ」
 だけどもう振り向かない。どんな姿であろうと、皆さんが離れていく筈もないのだから。
 吸血の欲にも負けない。楔を解き放ち、彼女は進むのだ。臆病な自分を乗り越えて――
 満月の夜の下へ。

「みな、さん――」

 瞬間。エスルティーネの姿が見えたと同時。
 響いたのは――一つの音。
「お誕生日おめでとう、Erstineさん!」
「エルスティーネ殿! 誕生日おめでとうございます!」
 短い炸裂音。それは、パーティ用のクラッカー。
 小さな紙が舞い散り踊る。こるりが街を駆け巡った時に、集めていた品の一つ。
 ルル家と共に彼女に向けて。盛大に、盛大にお祝いするのだ。
 エルスティーネさん。出ない理由、合いたくない理由、色々あるんだろうね――
 でも、私達。
「Erstineさんのことが……大好きだよ!」
「ハッピーバースデー! エルスティーネ!」
「ああおめでとうエルスティーネ――よかったな」
 レイリーが、世界が言葉を紡ぎ彼女を祝福する。
 誰も彼女を拒絶しない。誰も彼女を忌み嫌ったりなどしない。
 ――過去が遠ざかっていく。
 この日は誰もが私を罵倒してきた。だけど、ああ。
「みな、みなさん……! っ……どうして皆さんは私を泣かせたがるのかしら……っ」
 思わず口の中で言葉が籠る。
 それでも、口元を抑えて絞り出すように。
「こんなにお祝いして貰ったのは初めて……皆さんの事、大好きよ……」
 ありがとう。
 本当に、本当にありがとうと――言葉が零れた。
「おめでとうエルスちゃん! ふふ、ならアイラちゃん準備OK?」
「ふふ! 勿論ですよウィズィちゃん――さ、エルスさん!」
 さればウィズィとアイラがエルスティーネの前に。
 取り出したのは深い紫色、アヤメを模ったピアスである。
 それは一つずつ。両耳用に、ウィズィとアイラがそれぞれ作ったもの。
「右と左、それぞれアイラちゃんと二人でハンドメイドしたの!
 どっちがどっちかは内緒! 比べないでー!」
「く、比べるだなんてそんな! どっちも、とっても綺麗……! ありがとう!」
 アヤメは6/6の誕生花。花言葉は『良い知らせ』『友情』『信頼』……そして。
「紫はいつもの青いエルスちゃんと……い、今のエルスちゃんを混ぜた色だよ!」
 ウィズィはつい、ぽろっと漏らしてしまいそうになった。
 紫とは『青』とそして『もう一色』を交えて作られしモノ。
 つまり――そう――ラサで有名なあの方――
「……紫はよるのいろ、ですから。どんな夜もエルスさんの味方になってくれますように、って、ね」
「それだけじゃない。私の方からも――これだ。どうか受け取って欲しい」
 アイラの言葉に次いで、レイリーからは白い花の髪飾り。
 彼女の髪にも似合うようにと。いずれの時の彼女の髪にも映える様にと。
「どう? それで『彼』とデートに行くのもいいんじゃない?」
「な――なななな、デ、デートだなんて……!」
「ハハハ! ……ま、何かあったら言ってね。いつでも協力してあげるから」
 さ、肉料理やサラダも用意しているんだ。騒ごう!
 エルスティーネに耳打ちしたレイリーは声を高らかに。誤魔化す様に羽目を外そうと。

 瞬間。

「よぉ。今日誕生日なんだって? 水臭いな――誘ってくれりゃよかったのによ」
「ぁ……え……」
 どうして、と紡いだ言葉は消える様に。
 そこにいたのは――ラサの現在の盟主、ディルクその人。
 間違えよう筈もない。その赤き髪色、雄々しき空気……
「ま、俺もここに居たのは偶々なんだけどな。仕事の途中でよ……
 だからたった一言だけで――悪いんだが」
 髪を撫ぜる。
 常とは違う紅き髪を。一切の恐れも、侮蔑の欠片もなく。ただ純粋に――
「――誕生日おめでとさん」
 彼女を祝った。
 あまりの出来事に思考が停止。爆発寸前、熱をも籠って。
「ん、どうした? ああもしかして身内だけの会に俺はお邪魔だったかな?」
「い、いやまさか! う、嬉しいですけれど……って、なんで皆さんニヤニヤしてるのっ!」
 周囲。指差しながら茶化さんとする面々に言葉を放って。
 ああ全く。今日はなんて日だ……!
 嬉しき感情が満月の下に。かような日が訪れようとは、まさか夢にも思わず……
「ははは。さて、何かBGMでもあった方がいいだろう?
 折角だ――コレでも一曲、流してみるか?」
 世界が言うのはシャイネン・ナハトの産物。限定アイドルえるすの幻のシングル。
 ななな、なんでそんなモノが――! 陽気な声と、雰囲気に溢れ。
 流れるは穏やかな空気。負の感情など一切ない……祝福の色合い。

 6月6日は、貴女の生誕日。



 『Erstine・Winstein』
 『エルスティーネ・ヴィンシュタイン』

                       『――Felicem natalem』
                       『――お誕生日おめでとう』

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 満月の下でもどうか幸福を……

 ありがとうございました。

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