PandoraPartyProject

シナリオ詳細

フゥルム橋を奪還せよ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●交通要所
 幻想某所に『フゥルム橋』と呼ばれる石造りの橋がある。
 河川に渡された取り立てて特徴のない橋である。だがフゥルム橋は王都への街道に繋がっていた。それゆえ近辺の町から人や物が集まり、交通の要所となっている。
 しかし、そんなフゥルム橋に困った事態が発生していた。

「グゲゲゲゲッ!!!」
「荷物ヲヨコセ! 全部ダ! 馬モ置イテケ!!」
「な、何だこいつら……!?」
「化け物……!? ど、どうするんだ……!!?」
 フゥルム橋を渡ろうとしていた商人たちが、突如として武装した者たちに襲われた。襲撃者たちは装備した槍で商人を荷馬車から叩き落とし、積み荷の食料に群がる。
 2本の脚で立つ姿こそ人間のようだが、その者たちの肉体は鱗で覆われていた。顔についたぎょろりとした眼球はまるっきり魚のそれである。
 つまり、人でないということは明白だった。
 魚が人の姿をとっている、と言うのがふさわしいだろう。
 怪物の群れの襲撃に、橋上を行き来していた人々が逃げ惑う。その混乱のうちに川の水面から次々と怪物が現れて、橋を塞ぐように立ちはだかった。
「食イ物ヲヨコセ! ヨコセ!!」
「ヨコサナケレバ殺ス! 殺ス!! 殺ス!!!」
 人々を威嚇するように――。
 魚の怪物たちは声を揃え、フゥルム橋を占拠してしまったのだった。

●ローレットにて
「ちょっと面倒事が起きているみたいでね、誰か急いでモンスター退治を頼めるかい?」
 ギルド内にいたイレギュラーズたちの前にふらりと現れたのは、片手に依頼書をぴらぴらさせた『黒猫の』ショウ(p3n000005)だった。
 黒い猫耳パーカーがなんか似合うスマートな情報屋は、イレギュラーズたちの返事も待たずに依頼内容を話し出す。一同が『モンスターが橋の交通を邪魔している』という状況を掴むのに時間は要らなかった。
「この魚っぽい連中……とりあえず怪魚人とでも言っておこうか。こいつらのおかげで地元の人たちは結構困ってるらしくてね。特に王都との物流を阻害された商業ギルドはかなり参ってるみたいで、慌ててローレットに依頼してきたってわけ」
 損害が大きくなる前に、というのが近隣の商人たちの総意だった。
 イレギュラーズたちが承諾すると、ショウは「よかった」と微笑み、続けて知っておくべき情報を伝えてくれた。
 フゥルム橋に現れた『怪魚人』の数は15体。
 知能が高いとは言えないが、それなりに集団行動はできるようだ。武装した前衛が槍で攻めかかり、後ろに控えた個体が遠距離攻撃で援護するのが基本戦術らしい。
「槍での攻撃はそれなりに強力だから気をつけて。援護役のほうは攻撃力こそ高くないけど、動きを鈍らす粘液弾を吐いてくるから面倒だと思う。君たちが遂行できない仕事だとは思わないけど、油断は禁物だよ」
 そう告げて、ショウはフゥルム橋への地図をイレギュラーズたちに手渡した。

GMコメント

 どうも、星くもゆきです。

●成功条件
 怪魚人15体の討伐

●敵
・怪魚人(武装)×10
 高い物理攻撃力でガンガン攻めてきます。レンジは至~近距離。
 槍による攻撃は【出血】をもたらします。

・怪魚人(援護)×5
 高命中の粘液弾(遠距離レンジ)を飛ばしてきます。
 粘液は体にまとわりついて【泥沼】をもたらします。

●ロケーション
 河川に渡された石造りの橋です。
 よく晴れていて、橋上は先のほうまで見通せます。
 幅はそれなりに広く、人が重なって動きにくいということはないでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • フゥルム橋を奪還せよ完了
  • GM名星くもゆき
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年06月10日 22時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

七鳥・天十里(p3p001668)
有馬 次郎(p3p005171)
鉄壁防御騎士
湖宝 卵丸(p3p006737)
蒼蘭海賊団団長
アンジュ・サルディーネ(p3p006960)
海軍士官候補生
ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)
咲き誇る菫、友に抱かれ
ユースティア・ノート・フィアス(p3p007794)
夢為天鳴
ルリ・メイフィールド(p3p007928)
特異運命座標
カナメ(p3p007960)
毒亜竜脅し

リプレイ

●橋を見ながら
「ゲゲゲゲッ!!」
「ヨコセ! 全部ヨコセ!」
 列になって橋上を塞ぎ、人の形をした魚が踊るように騒いでいる。
 その光景を遠くから観察していた『エンジェルいわし』アンジュ・サルディーネ(p3p006960)は、盛大なため息をぶちかました。
「は~~~~。こういう事されると一緒にいわしの格が下がるんだよね。他の人から見たら同じ魚類に見られるんだからさあ……何してんのほんと。ねえ!」
「こちらに振られても困る」
 精神が昂るままに意味もなく振り向いたアンジュの視線を、『鉄壁防御騎士』有馬 次郎(p3p005171)が手で遮る。
「見た感じいわしっぽくなさそうだから良かったけど。いわし人だったらがちのまじお説教だよ」
「あれってディープシーとは違うのかな? それっぽいだけの魔物? ……んー、カナには分かんないや!」
 怒り収まらずといったふうに頬を膨らませるアンジュの横で、首を45度傾けるのは
『二律背反』カナメ(p3p007960)だ。
「お魚もどきさんは、どーも略奪のあじをしめてしまったみてーですね」
「そうみたいだなっ!」
 『特異運命座標』ルリ・メイフィールド(p3p007928)の淡々とした言葉に、ボブカットのバンダナ少女――ならぬ海の男こと『蒼蘭海賊団団長』湖宝 卵丸(p3p006737)が頷いた。
「人々の暮らしを脅かすモンスター、正義の海賊としては放ってなんておけないんだからなっ!」
「ああ。人々を困らせる輩は、排除されなくてはいけない。ここに住む者たちの平穏を守るためにな」
 毅然と腕組みした卵丸に、静かに首を肯ける次郎。
 悪事を働くならば放ってはおけない。その点に関して卵丸と次郎は同じ思いだったし、それは『ガンスリンガー』七鳥・天十里(p3p001668)も同様だ。
「僕、悪い事するやつは人でも魚でも嫌いだからね」
 指にひっかけたリボルバーをくるりと器用に回す天十里。可愛らしい顔に似合わず銃の扱いに手慣れた少年は、銃口を橋に向けて片眼を瞑った。
「容赦なく鉛玉ぶちこんじゃうよ?」
「仕方ねーです。ちょっとばかし痛い目見せて、はんせーさせるしかねーです」
 しゅっしゅっ、とパンチを素振りするルリ。
 『夢為天鳴』ユースティア・ノート・フィアス(p3p007794)もまた、氷雪のごとき青白い剣を抜く。
「争うことなく穏当に、では済みそうにありませんからね。共存の道を見ぬのなら、自然一方は消えていくもの。なればこそ、そうそうに断ち切りましょう」
「うんうん! 頑張っていこー、おー!」
 いざ怪魚人たちの駆除へ――橋へ向けて歩き出したユースティアの後ろを、カナメが元気に拳を上げてくっついてゆく。
 しかし、その表情はぶっちゃけ戦闘に赴く者のそれではない。
「今回はどんな風に痛めつけてくれるかなぁ、楽しみ……うぇへへ♪」
 にんまり顔を蕩けさせ、荒い呼吸をするカナメちゃんは、Mです。
 ともあれイレギュラーズの一団は怪魚人たちが占拠しているフゥルム橋へと向かう。
 ひとり、河川の畔で揺らぐ水面を見ていた『影を歩くもの』ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)が立ち上がる。
「さて、ただの占い師のワタクシに荒事が務まりますか……ヒヒヒ」
 頭から被さったベールの下で、クマの覗く眼を笑わせるヴァイオレット。
 水面の波紋で見た占いの結果は、良好だった。
 だが、簡単でもなかった。怪魚人たちとの戦いはそれなりに苦労するかもしれない。
「しかし仕事であるならば致し方ありますまい。精々皆様の足を引っ張らぬようにしてみせますとも」
 ヒヒヒ、と笑って。
 占い師は先を行く仲間たちの最後尾に、合流した。

●開戦
「ギギッ!」
「誰ダ! オマエラ!?」
 橋の上へイレギュラーズたちが姿を見せるなり、怪魚人たちは一斉に身構えた。
 そこへ、卵丸はまっすぐ突っこんだ。
「卵丸は、蒼蘭海賊団団長、湖宝卵丸……人々が行き来する橋を、お前達の好きにはさせないんだからなっ! すぐに明け渡すんだぞ!」
「オマエラコソ、オレタチニ渡……ギャッ!?」
 げらげらと笑っていた怪魚人たちが、眼を覆う。
 卵丸が構えたキルデスバンカーが、七色の光を眩く放っていたのだ。
「橋上に重ねて掛ける虹の橋……必殺、蒼・海・斬!」
 鉄帝製のパイルバンカーを前方に振り下ろす卵丸。海すら割らんとするような虹色の斬撃が飛び、怪魚人たちの陣形を切り裂く。
 さらに、卵丸はキルデスバンカーを突きこんだ。
「そっちが槍なら、こっちはパイルバンカーで打ち貫く……轟け雷鳴の一撃だっ!」
「ギギャッ!?」
「コイツ……強イゾ!?」
 雷撃を伴う杭に貫かれた怪魚人たちが、卵丸を脅威と認識する。
 必然、槍の刺突が集まった。
 突き出された穂先が、卵丸の上腕を強かに斬る。
「くっ!?」
「ゲゲゲ! 串刺シニシテヤル!」
「えー? みんな卵丸っちにばっかり集中していいのかな!」
 明朗な声をあげて、怪魚人たちの注意を引いたのはカナメだ。
 マゼンタとシアンで分かたれたツインテールを揺らして、カナメは両腕をひろげて怪魚人たちへ呼びかけた。
「ほーらカナはこっちだよー。まさか女の子に怖気づいて攻撃できないとかないよね?」
「ギギッ! 馬鹿ヲ言ウナ!」
「スグニ殺シテヤル!」
(「あぁ……きたきたー♪」)
 近くにいた怪魚人たちの槍が殺到し、カナメの頬が綻ぶ。
 槍で刺されるほうがきっと痛い――とか思ってる女の四肢に、鋭い槍が突き刺さる。
「あっ♪ うぇへへ……いたーい、もっと、もっとちょーだい!」
「コ、コイツオカシ……ギャーッ!?」
 恍惚とするカナメにちょっと引いた怪魚人たちを、空気の刃が切り裂く。抜け目なく反撃の構えを取ったカナメが、敵全員にお返しをくれてやったのだ。
 予期せぬ被弾に怪魚人たちが怯む。
 が、いかんせん敵の数は多い。
「あーいっぱい来てるー。えへへ♪」
「喜んでる場合じゃないぞ! さすがにこの数は洒落にならなそうだっ!」
「グゲゲ!」
 カナメに、卵丸に、怪魚人が群がる。
 しかし、そのときだ。
 次郎が踏みこんだ足が橋面を打ち、低い音を鳴り響かせた。
「オレこそは鉄壁の防御、有馬次郎! オレを討てると思う馬鹿者は前に出るのだ!」
 天まで届くような名乗りを上げて、橋上にその存在感を示す次郎。
 堂々たる立ち姿、あまつさえ討てるかとまで言われた怪魚人たちは黙っていない。卵丸とカナメに向かっていた数体が、転回して次郎へと集まってゆく。
「オレタチニ勝テルツモリカ!」
「馬鹿ハオマエダァッ!」
 殺到する槍。
 次郎はそれを認識するなり、ぐるっと体を丸めた。
 全身の頑丈な外皮が穂先を弾く。むしろ反動でのけ反ってしまった敵は眼を剥いた。
「ナニッ!?」
「貴様らが、調子に乗って、人々を襲撃するなら、排除される覚悟をするのだ。そうでなければ、逃げるがいい」
「グギギギッ!!」
 歯噛みする怪魚人たち。
 その隙に、アンジュとルリは後方をてててっと移動して、カナメと卵丸を回復射程に捉える。
「はーい。可愛いいわしちゃんの癒しだよ~。見て~」
 アンジュの放つ(本人いわく愛らしい)いわしがすいーっと宙を進み、卵丸の周囲を泳ぎ回る。それを見て本当に傷が癒えてゆくのはマジいわしの不思議と言うしかねえ。
「いま傷を回復させるですよ」
 一方、回復の魔力を送りこむという正統派な手段でカナメを癒すルリ。しかしながらその治癒力は強烈で、抉られたカナメの四肢は見る間に塞がれていた。
「二人とも、ありがとうなっ!」
「ありがとありがとー。これでまたいっぱい刺してもらえるよぉ……うぇへへ♪」
「回復したのが馬鹿らしくなるので、その台詞はやめるですよ」
「確かに確かに」
 馬鹿言ってる女にジト目を向けるルリ&アンジュ。
 イレギュラーズの回復シーンを遠巻きに見ていた怪魚人たちは、悔しげに叫んだ。
「ギギッ! 面倒ナヤツラダ!」
「早ク倒レレバイイモノヲ!」
「ボクたちがいる限り、みんなは倒れさせねーですよ」
「ってかあんたたち、そういう悪役っぽい台詞もいわしのイメージダウンに繋がるから。今度言ったらまじ許さないからね」
 胸を張ってちょっと自信を覗かせるルリ。アンジュさんは本当にブレない。
「ナラバ、後ロノ奴カラ倒シテヤル!」
 ルリたちを先に沈めんと、怪魚人2体が橋の端をすり抜けようとする。
 しかし、銃口がその動きを捉えていた。
「そうするだろうってことは、お見通しだよ!!」
 同じく橋の端で待ち構えていた天十里のリボルバーが、瞬時に6発の銃火を放つ。
 早業のファニングショットで撃ちだされた弾丸の群れは2体の怪魚人の胴体を撃ち抜き、さらには近くにいた怪魚人の手やら脚やらも貫いた。
「グギャギャ!?」
「痛イ! 痛イ痛イィー!?」
「僕がいるからには、簡単にアンジュちゃんとルリちゃんに手出しはさせないよ!」
「ありがてーですね」
「天十里さんまじ天使だよー」
「天使……」
 ぴた、と止まる天十里。
 とても可愛い17歳の『少年』はちょっぴり複雑な気持ちだった。
「ギギ! ナラオマエカラ片付ケル!」
「わっ!?」
 肩を落としてる暇もなく、後方に控える怪魚人たちからの粘液弾が天十里を襲う。
 的確に天十里の足に絡まる粘液。だが天十里はそれが橋面に粘着する前に素早く足を抜き、かろうじて難を逃れた。
「チィッ!」
「危なかったー。あんまり向こうを自由にするのも危険かもね」
「ならば、早急に前線を崩すとしましょう」
 ほっと息をつく天十里に返したのは、ユースティア。
 前衛を構築する武装怪魚人たちを静かに見据えると、彼女は二振りの刀を構えた。
 そして次の瞬間――剣士は怪魚人の懐に迫っていた。
「ギギ!?」
「時間はかけていられません」
 振るわれる剣魔双撃。
 聖剣で斬り下ろし、魔剣で斬り上げた怪魚人は、体を3つに分断されていた
 ギギギ、とだけ言うその体にもはや命はない。瞬間の剣撃に見舞われた敵は、自身の終わりにも気づかずにその場に崩れ落ちる。
「まずは1体。さて、止まらずにいきましょうか」
「コイツ……!!」
「危険ダ! コイツハ危険!」
 二刀を振りおろし、怪魚人の血液を払うユースティアを、武装怪魚人たちが囲む。
 そのがら空きの背中に、ヴァイオレットのブラッドウィップが飛んだ。
「ギギャア!?」
「隙を見せてくれるとは助かりますね。たかが占い師たるワタクシの攻撃も、容易に当たります……ヒヒヒッ」
 相変わらずの不気味な笑いを零すヴァイオレット。
 だが自虐的な物言いとは裏腹に、その血で形成された鞭は怪魚人の背中を深々と切り裂いている。滝のように血を流して1体の怪魚人はくずおれた。
「グギギ……オノレ!」
「辛そうですね。しかしあなた方には癒やす術がないようです。これは困りましたね……ヒヒッ」
 膝をつく怪魚人を見下ろして、嫌らしい笑みを浮かべるヴァイオレット。
 けれど、依然として敵の数はイレギュラーズを上回っている。
 戦いは、これからだ。

●勝敗
 カナメの巧みなカウンターが、怪魚人の喉元を突く。
「グゲゲッ!?」
「えーどうしたのー? こんなか弱い女の子に苦戦しちゃうなんてだっさー☆」
 武装怪魚人の1体を沈めて、笑声を零すカナメ。
 戦況はイレギュラーズの優勢で進んでいた。怪魚人たちの前衛は7体が倒れ、もはや壁を成していない。後方の怪魚人たちも前に出てきて、橋上は乱戦模様になっていた。
 しかし、イレギュラーズのほうも負傷が重なっている。パンドラがもたらす小さな奇跡がなければ、物量に押されていたことだろう。
「これは、なかなか……」
「ギギ! 倒シタゾ!」
 槍で突かれたヴァイオレットが、傷を押さえながら膝を折る。距離を取って戦っていたヴァイオレットではあったが、接近を許した怪魚人たちからの攻撃は確かに彼女を追い詰めていた。
 だが、しかし。
 刺されて大人しく倒れるほど、彼女は性格の良い女ではない。
「仕方ありません。あなたを道連れにして、ひとまず休ませてもらいましょう……ヒヒ」
「ギィッ!?」
 ヴァイオレットが手を振るえば、虚空に闇の爪痕が奔る。それは怪魚人の体に染み入って、呪力を全身に巡らせ――死に至らしめた。
 そのままゆっくり伏せるヴァイオレットを見て、ルリは密かに歯噛みする。
「ヴァイオレットさんを倒れさせちまったですよ……」
「もー! 敵多すぎ……っと、ルリさん危ない! いわしミサイル!」
「ギギギ……ギギャッ!?」
 乱戦をすり抜けてルリに粘液弾を吐きつけようとした怪魚人に、アンジュがいわしの群れを飛ばす。悲しげに泣きながら特攻かましたいわしたちに全身を強打され、怪魚人がその場で仰向けになる。
 が、抜けてきた敵は1体ではなかった。
「ギギィ!」
 槍を構えた怪魚人が、ルリに向かって突撃してくる。
 しかしその攻撃もルリに届かない。横合いから飛びこんできた天十里が、身を挺して槍から守ったからだ。腹部を突かれた少年の体が大きく崩れる。
「天十里さん!」
「くっ……結構痛い……けど!!」
 倒れる寸前――踏みとどまる天十里。
 抜いたリボルバーが赤熱する。灼熱そのものとなった銃から放たれた弾丸は、槍を掴んだままの怪魚人を貫き、瞬く間に焼き尽くした。
「いま回復するですよ!」
「ありがとう……でも次郎君のほうが僕より大変かも……」
「オレなら、大丈夫なのだ」
 回復を施そうとしてくれたルリを制そうとする天十里だが、その彼が見る先で、次郎は敢然と立っていた。
 だが言葉とは裏腹に肉体はボロボロだ。
 強固な防御を誇るとはいえ、武装怪魚人たちの苛烈な攻撃は耐えきれるものではなかった。
 すでにいくらか膝は地につきそうだった。踏みしめる脚は今だって力が入らない。
 が、その眼光は未だ、強い。
「まだまだだ、まだ終わらせないのだ」
「ギッ!?」
 自らを奮い立たせ、粘液弾の怪魚人に体当たりする次郎。
 体を押し付ける形で敵の動きを押さえ込む――そこへ、ユースティアが走りこんだ。
「その意気がもたらしてくれた機、逃しません」
 流れるように動くユースティアの体。その動きはかつての自分のものだ。
 記憶はない。自分がどうで在ったか。だが剣は自分を覚えていて、時折その片鱗をなぞろうとする。ユースティアは呼吸を整え、それに従うだけでいい。
 そうすれば――。
「ギギャアアアアアア!!?」
 敵は、抗う術もなく打ち砕かれているのだ。
「一気呵成にいきましょう、卵丸さん!」
「ああ! 畳みかけて、全滅といくぞ!」
 声をあげたユースティアの頭上を、卵丸が飛びこえる。
 背負ったジェットパックで宙を舞った卵丸は、そのまま、ユースティアや次郎に粘液弾を吐こうとしていた怪魚人に上空から突っこんだ。
「今、この身を蒼き彗星に変えて……蒼蘭海賊団式、零距離銛打ち術だっ!!」
「ギギギィッ!?」
 瞬間、爆発的に上がる速力。さながら空を突っ切る星と化した卵丸の一撃で、怪魚人は断末魔をあげて消し飛ぶ。
 もはや残る怪魚人は数体。
 敗北を察して狼狽える敵群の前で、ルリはその手に魔力を灯した。
「回復が要る人はいねーですか。もうひと踏ん張り、ボクが支えてみせるですよ!」

●最後の難問
 平時の静けさを取り戻したフゥルム橋。
 そこに、アンジュのまくしたてるような『いわし語』が響いていた。
『住むところもごはんも無くてそんなことしてたかんじ? それともただ悪いことが好きなの? どうなの?』
「ギギィ……」
『そんなに強いなら、戦えないひとのために働えばいいのに。感謝もされてお金ももらえるし。ひととさかなは支えあって生きていけるはずだよ。これが最後の更生のチャンスだから』
「ギィ……」
 正座する1体の怪魚人の前で、滔々と説教をかますアンジュ。
 戦いはイレギュラーズの勝利に終わった。怪魚人もほとんどは討たれた。しかし運よく生き残ってた奴がいたので、アンジュはせめてもの仏心でオハナシしているのでした。
 が、結果は――。
「ギギィッ!」
「アウト!!」
「ギァーーッ!?」
 アンジュに襲いかかろうとして、いわしミサイルで川に落とされる怪魚人。
 多少の知能があれど、やはり怪魚人たちは人間と相容れる存在ではなかったのだ。
 最後の1体が死んだのを見届けて、カナメはぐぐっと体を伸ばした。
「終わった終わったー♪ これで商人さんも安全だね!」
「往来の平和を取り戻せてよかったな!」
「なかなか大変な仕事だったのですよ」
 満足そうに一息つく卵丸とルリ。これでまた人も物もこのフゥルム橋を行き来するようになるだろう。そう思えばやはり達成感はある。
「占いどおりでしたか……ヒヒヒ」
 解放された橋の風景を見て、やっぱり妖しく笑うヴァイオレット。自分の傷を手当しながら視線を送る先では、天十里とユースティアが橋上に残されていた馬車を確かめている。
「食べ物はダメそうだけど……ほかの物は大丈夫そうだね」
「馬も無事のようで、よかったです」
 物品や馬を見ながら、話しこむ2人。依頼してきたギルドにでも引き渡せば、きっと持ち主の元に返るだろう。
 万事、解決である。
 ――しかし、懸案事項がないということも、なかったりした。
「喰えんから、どうするよ、こいつら」
 橋上に残った14体の怪魚人の亡骸を、次郎が見下ろし、ツンツンしていた。
 うん……どうすればいいんだろうね?

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

フゥルム橋の解放、お疲れ様でした。
皆様の奮闘の甲斐あって、近隣の者たちも助かりました。フゥルム橋はきっと往来する人々の声で賑わうことでしょう。
また同じことが起こらないように、商業ギルドは警備隊など編成するかもしれませんね。

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