PandoraPartyProject

シナリオ詳細

お茶会へ至る物語

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●とある黄金のお茶会で
 薄暗い部屋の中。男はひとり、紅茶をいれる。
 その香り高い紅茶が入ったカップを、丁寧にテーブルの上に並べていく。
「さぁ、お茶会を始めよう」
 お茶会の開始を告げる言葉とともに、男はカップを高く掲げる。
 テーブルの椅子についているのは男だけではない。
 少女たちがテーブルを囲うように座っている。
「嗚呼、愛しき我が人形たち。
 今宵もお茶会を楽しもうじゃないか」
 少女たちは、彼の言葉に返事をしない。
 当然だ。
 当然過ぎる。
 何故それがわからない。
 少女たちは、すでに命の灯火が消えているというのに。
 男はそれに気付かない。
 狂った脳が、それを肯定しない。
 人形のように少女たちの死体を扱う。
 天井から吊り下げられた糸を少女たちの四肢に繋ぎ、それを手元で操っている。
 がしゃん、と不躾な音を立ててカップに少女の手が触れる。
 そんなことをしたところで、もう、彼女はお茶など飲めるはずもないというのに。
「はは、はははは、はははははははははははは――!」
 そうして、今日も深夜のお茶会が開かれる。

●終わらないお茶会
「『シルク・ド・マントゥール』はすごかったね。僕も観に行ったけど、なかなか面白かったよ」
 『L.Lの立証者』ヴァン・ルドゥレジィ(p3n000019)は、微笑みながらそう言った。
 しかし本題はそこではない。それを証明するように、彼は集まったイレギュラーズたちを見て、すっと目を細めた。
「実はある人形師の男が、少女を拉致しているみたいなんだ」
 彼の情報網に引っかかった男とは、人形師を生業とする者だった。
 普段は等身大の操り人形でステージを行い、人々の目を楽しませている。
 公演で使った人形を売りに出すこともあるようで、それなりに人気の高い人形師だ。
 しかしそれが、いまでは一転している。
 人形師は人形ではなく本物を求め、少女たちを拉致して夜な夜な"お茶会"を開いているらしい。
 "お茶会"に参加した少女たちは、みな命を奪われ、すでに帰らぬ人となっているようだ。
 そして天井から吊り下げられた糸に四肢を繋がれ、まるで人形劇のようにいつまでも"お茶会"に参加させられている。
「本当なら、腕のいい人形師でね。普段は温厚で人当たりもいい彼が、どうしてこんな犯行に及んだかはわからない」
 ヴァンの話によると、人形師の男はごろつきを雇い、お茶会場に誰も入らないよう警戒させているらしい。
 雇われたごろつきは腕が立つ者ばかりだ。
 そして、いざ人形師の元へ辿り着いたら、彼は人形……少女たちを操り攻撃を仕掛けてくるだろう。
「こんな所業を二度と繰り返させないで欲しい。少女たちはもちろん、彼自身のためにもね。嗚呼、でも彼の生死は問わないよ。まぁ、殺しちゃった方が早いかもね」
 そんな物騒なことを茶化して言いつつも、ヴァンの瞳の奥に宿る光は本物だ。
 最後に、彼はイレギュラーズたちへ向けてこう呟いた。
「……終わらない"お茶会"を、終わらせてあげてよ」
 いつまでも人形として弄ばれるのは、あまりにも不幸だ。
 その言葉を最後に、彼は席を立った。

GMコメント

初めまして。久部ありん(キューブ・アリン)と申します。
ご閲覧いただきまして、ありがとうございます。
今回はとある狂った男の犯行を止めるための依頼です。
以下に情報を開示いたしますので、ご確認ください。

●依頼達成条件
・人形師の男を捕らえる、または殺害すること

●ごろつきの傭兵
・腕の立つ屈強な男が4名います。
・2人はナイフで武装しており、機敏に動きます。
 ナイフには【猛毒】が塗られています。
・2人は大剣で武装しており、動きは鈍いですが攻撃力が高いです。
 一撃一撃が非常に高い攻撃力を有しています。
・傭兵の生死は不問です。

●人形師
・本人には戦闘力はありません。
 接触できればすぐに捕らえる、または殺すことが可能です。
 しかし、激しく抵抗することから、無傷で捕らえることは容易には出来ません。
 慈悲として殺すことも一考した方がよいでしょう。
・3人の少女たちを天井から吊り下げた糸で操り、攻撃を仕掛けてきます。
 糸は大変頑丈なため、容易に切ることは出来ません。
・少女たちは一定以上のダメージを与えると、手足が機能しなくなり、戦闘不能状態になります。
 少女たち全てを戦闘不能状態にしない限り、人形師への接触はできません。
・少女たちはカトラリィのフォークで武装しています。
 動きは鈍く、攻撃力も大したことはありませんが、
 フォークには【麻痺】の毒が塗られています。
・人形師の生死は不問です。
 
●状況
・人形師の館が舞台となります。
 玄関はもちろん鍵がかかっていますが、窓を割るなどして侵入しても構いません。
・ごろつきの傭兵は館内のお茶会場の扉の前を見張っています。
 廊下は明るく広く、戦闘に支障はありません。
・人形師はお茶会場の室内にいます。
 こちらも最低限の明かりがあり、また、広さも充分にあるため戦闘に支障はありません。

以上です。
ご縁がございましたら、なにとぞよろしくお願い申し上げます。

  • お茶会へ至る物語完了
  • GM名久部ありん(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年04月16日 21時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ロザリエル・インヘルト(p3p000015)
至高の薔薇
R.R.(p3p000021)
破滅を滅ぼす者
はぐるま姫(p3p000123)
儚き花の
デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)
共にあれ
マリア(p3p001199)
悪辣なる癒し手
弓削 鶫(p3p002685)
Tender Hound
Nerr・M・März(p3p004857)
愚者に焦がれる者
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人

リプレイ

●傭兵を操って
 昼が瓦解し、夜が空の支配者となった。
 辺りは静まり返っており、物音ひとつさえしない。
 そんな密やかな街にあるとある洋館。
 そこに、イレギュラーズたちは揃っていた。
 周囲の者に気を配りつつ、ひっそりと目的の館へと向かっていく。
「正気で立ち向かってくる人間が一番美味しいのだけれど。まあ贅沢を言うのはやめておきましょう」
 『妖花』ロザリエル・インヘルト(p3p000015)が、ほう、と溜息を吐きながら呟く。
 それに続いて、『悪辣なる癒し手』マリア(p3p001199)も切なげな表情で言葉を零した。
「……きっと、善良な方でしたでしょうにー……なぜ、こんな事にー……」
 マリアの言葉に同意するように、『Tender Hound』弓削 鶫(p3p002685)は強く頷く。そして口元へ手をやって、その端正な眉をひそめた。
「確実に広がっている狂気の渦。これも、その一環という事でしょうか……」
「いやはや、なんということでしょう。ご同胞(サーカス)が来てから、おかしな事件ばかり起こる……。ネーアさん……とても悲しい、辛い……」
 『ペストマスク』Nerr・M・Marz(p3p004857)が大袈裟な仕草で肩をがっくりと落とす。しかしすぐにその落としていた顔をあげ、けらけらと楽しげに笑ってみせた。
「まあ、起きてしまったことは仕方ない! ネーアさんはいつもの様に戯けて笑って無様を晒しましょう!」
 そのけろりとした雰囲気は道化そのもので、くるくると表情を変えてはおどけてみせた。
 一方で、『軋むいのちと虚ろなこころ』はぐるま姫(p3p000123)は悲しげに目蓋を伏せる。自身の作り手が狂うなど。きっと、こころに何かが突き刺さるような苦しみがあると。人形の身として、そう思ったからだ。
 この事件の裏で、何か深い影が落とされているような気がする。
 それぞれがそのように、形容しがたく、けれど実感として胸中に去来しているような、不思議で不気味な仄暗いインクが、心の中に一滴、染みていった。

「準備はよいかの」
 『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)が皆に声をかける。玄関から少し離れた大きな1階の窓際。館の灯りは消えているようだったが、その窓の奥だけ、ぼんやりとした灯りが見えた。この広い館のなか、そこにターゲットがいることは明白だ。
 デイジーはガラスに布を当てて、慎重に窓を割る。そこから手を入れて、窓の鍵を開けた。
 仲間と頷きあってから、開いた窓から全員が中に入る。
 気配を殺したまま廊下を進むと、やがて曲がり角が見えた。
 『破滅を滅ぼす者』R.R.(p3p000021)が、曲がり角を曲がった先の廊下に、ごろつきの男が4名いることを確認した。
 R.R.は思う。屍を己の思うがままに弄する事、それ自体は興味ない、と。だが、既に滅んだ存在である少女は、“正しく”滅んだ状態でなければならないのだ。その障害となるならば、どんな相手であれ排除も辞さない。無論、このごろつきたちも同じこと。殺すも生かすも興味は無いが、これは“正しさ”の証明だ。
「でも私は……死ななくて済む人は、死んでほしくないわ」
 『お節介焼き』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)もまた、相手の姿を確認した。まるでR.R.の胸中を読んだかのように、言葉を落とす。心に投じられた一滴のインク。それが華蓮の心を淀ませたものの、それ以上に、生きる価値は誰にでもあると考える。

 そして、傭兵の姿を確認したところで、曲がり角に身を隠したイレギュラーズたちの行動が始まる。

 ――パァン

 何事か、とごろつきたちがざわめく。デイジーと鶫がクラッカーを鳴らした音だ。しかし、護衛として雇われたごろつきたちは、銃声かも知れない、と気を引き締めた。そして音がした方――イレギュラーズたちが潜む曲がり角までぞろぞろと、しかし慎重な足取りで近付いてくる。
「な、なんだてめェら!」
「煩いわね、食べるわよ」
 ロザリエルが軽く鼻を鳴らしてごろつきをあしらう。
 ロザリエルにとって、ごろつき連中は不味い餌でしかない。
 曲がり角まで辿り着く前にごろつきたちに、先制した。これは圧倒的な有利だ。
 ロザリエルは前に飛び出し、大剣を持ったごろつきの足止めをする。
 その隙に、華蓮が魔弾を射出した。ナイフで武装していたごろつきにそれが命中する。しかし決定打にはならず、ごろつきたちが徐々に近付いてくる。
 当初こそ足並みを揃えずにイレギュラーズたちの元へやってくるのを各個撃破する予定ではあったが、ごろつきたちは手慣れているのか慎重で、4名がそれぞれ固まってイレギュラーズたちの元へ徐々に近付いていった。
 しかし、やることは変わりはしない。
「テメェらが道を閉ざすつもりなら、ここで破滅しやがれ!」
 R.R.が恫喝する。彼は妙に高揚していた。楽しい、楽しい、最高だ。この戦闘がたまらない。この排除すべき敵がたまらない。やがていつかは“破滅”をもたらすものを、こうして討つのがたまらなく、自身を高揚させていく。
「うるせェ、この……!」
 R.R.に向かって、ナイフを持ったごろつきが素早い動きで反応し、その鋭利な刃物で斬りつける。猛毒の塗られたナイフは、R.R.の身体を侵食していく。
 しかしそれも、マリアがすかさず聖なる光を放つことで、猛毒の治癒を行う。猛毒さえ抜けてしまえば、ナイフの傷など浅いものだった。
 鶫が遠距離からそのナイフ使いに攻撃をしかける。ナイフが弾き飛ばされて、ごろつきは腕を抑えて呻いていた。
「さあさ、ご覧あれ! この道化の姿、お気に召すまま!」
 Nerrが高らかに宣言する。
 それに目を奪われたもうひとりのナイフ使いが、一瞬ぽかんと口を開いた。
 その瞬間を逃すことなく、Nerrはまるで道化が踊るように、跳ね回るように、そして何より観客を欺くかのように、くるくるとその場で動きを変える。アクロバットで敵を飛び越え、自らの特殊な歩行で足を滑らせてからの一撃。それに翻弄されたごろつきが、やがて文字通り息を呑んで倒れた。
 残りは大剣を構えるごろつきが2名。
 しかし、ロザリエルがマークしていたごろつきも含め、この惨状に尻込みするような気配を見せた。
「選びやがれテメェら! 道を開けるかここで滅ぶか!」
 R.R.が再び叫ぶ。ごろつきたちは、うう、とか、おお、とか、言葉にならない言葉を繰り返す。
「お主らは金で雇われた傭兵じゃろう? 狂った雇い主に義理立てする必要もあるまい。妾たちはローレットじゃ。降伏するなら命まではとらんのじゃ」
 デイジーが優しく諭す。そう言いつつも、武器は構えたままだ。
 そしてはぐるま姫がその小さな身体をキシキシと動かして言う。
「――もはや勝敗は決しました。武器を捨てなさい! さすれば、命までは奪いません!」
「聞きなさい! 今から勝敗は覆らない、主も私達が倒す! このまま戦っても貴方達は報酬を得られない。お願い……どうか投降を……冷静な判断を」
 はぐるま姫の言葉に合わせるようにして、華蓮が懇願する。その健気な様子を見て、そして、あっという間に倒されてしまったナイフ使いの2名が倒れているのを見て、ごろつきたちは互いに目を合わせて口をつぐんだ。
 やがて、がらん、と大剣を取り落とす。
「……アンタ達は“破滅”ではない。俺に敵対する理由は無い」
 R.R.が先程の興奮状態とは打って変わって静かに呟く。
 そして、皆で手分けしてごろつきたちをロープで縛り上げる。
「さあいざ参ろう! 我らが愛しい人形師の元へ!」
 Nerrが両手を広げて告げる。
 本当の戦いは、きっとこれからなのだと。

●人形師を誤って
 イレギュラーズたちは暫く休憩を挟んだ。大した傷は負っていないものの、それでも万全の状態で事に当たりたい。ほぼ全回復の状態で、その大きな扉に手をかけた。
 
 ――瞬間。
 
 真上から人形が落ちてきた。
「く……っ!」
 なんとか回避しようとしたが、時は既に遅く。人形の少女たちはカトラリィのフォークでそれぞれを傷つける。
 あれだけの大騒ぎがあった後だ。
 人形師の方も、それに気付かないほど愚かではない。
 イレギュラーズたちが休息をとっている間、こうして少女たちを吊し上げて待ち伏せしていたのだ。
「君たちもお茶会に参加したいのだろう?
 さあ、怖がらずともいいさ。永遠にお茶会を続けよう、そう、永遠に――!」
 人形師が高らかに宣言する。
 その隙に、デイジーが治癒の加護がある符によってロザリエルの麻痺をとく。
 そしてすかさずマリアがR.R.へ聖なる光を放ち麻痺の毒を軽減させた。
 Nerrもまた、少女たちを操る人形師が部屋の奥にいるというひらめきを得て、自己のペースを取り戻した。
「破滅を知って尚滅べぬ、哀れな躰……完全なる滅びをくれてやる!」
 R.R.が吊り下げられた少女たちに宣言する。
 デイジーとロザリエルが少女のうち1体をそれぞれマークした。人形師もそれに気付き、その2体をデイジーとロザリエルにのみ集中させた。
 しかしそれを黙ってみているわけにはいかない。
「見るに堪えません。止めますよ、遺体を破壊してでも!」
 鶫がそれに応えるように、離れた位置から少女を射抜く。血が吹き出した。けれども少女は止まらない。その綺麗なドレスを血に染めてもなお、少女の動きは止まらない。吊り下げられた糸によって、痛みを表現することも死を願うことも叶わない。
 
 だが、――つう、と。
 
 少女の目から液体が流れ落ちた。
 その透明の液体。それはただの偶然だ。
 何せ彼女たちには、もう、その感情は残されていないのだから。
 それでも。まるで、救ってくれ、とばかりに少女だったモノは涙を流した。
 すると、Nerrがマークされていない少女へと攻撃を繰り出す。
「嗚呼、嗚呼! なんと不幸にして卑劣なのでしょう! 彼女たちはもう笑わない! それを知りてなお、なぜこのような公演を開くのか? ネーアさん、理解できません!」
 アクロバティックな動きで少女、ひいては人形師を翻弄する。やがて、その少女は動かなくなった――いや、正確には、動かせなくなった。
「私の可愛い人形が……! なんという非情なことを……!」
 人形師が叫ぶ。そして2人にマークされていた少女たちを、一斉にイレギュラーズへとしかけた。
 デイジーとロザリエルはマークしている間に麻痺を受けていたが、マリアの回復によってそれもすでに解けていた。しかし、麻痺していた所為もあってか、マークしていた少女たちにはあまりダメージを与えられていない。
 イレギュラーズたちは残る2体の人形のうち、1体をターゲットにした。
 集中攻撃、各個撃破。
 それをなすべく、イレギュラーズたちの戦いは終わらない。
 はぐるま姫が遠距離から射撃攻撃を行う。少女たちのうち1体に命中した。
 ぶつり、と腕が落ちた。
 ロザリエルもそれに続く。
「こうまで弄られた人間を食べる気はしないからね」
 そう言いながら、マークしていた少女に攻撃をしかける。
 糸に繋がれた部位を破壊するために、一刀両断を振るう。
 それは一定の効果があったようで、少女の残っていた足も落とされた。
 残り1体となったとき、薄暗がりのなかから人形師が顔を出す。
 その表情は優しく、穏やかで、いまにも優雅なお茶会を楽しみそうな――正気を失っているそれであった。
「いつまでもそう吊り下げられていると辛かろう。何より、お茶会とやらはもう終いじゃ」
 デイジーが真剣な瞳で人形師を射抜く。
 だが狙ったのは最後に残った少女の方。
 疑似神性を与えられた大壺蛸天を振り上げて、落とす。
 ぐしゃり、と頭が潰れる音がした。
 それでも少女は止まらない。止まることを知らない。止まることは許されない。
 頭部から激しい出血をしてなお、手足が吊り下げられているかぎり、少女たちに安寧は無いのだから。
 鶫がそれを見て片目を細める。
「見るに堪えません。止めますよ、遺体を破壊してでも!」
 少女に向かって、ライフルを構える。そして、指先がトリガーにかかったところで、一度ひたりと指を止めた。それは一瞬の躊躇。けれど、彼女も理解している。少女たちは、もう生命が無いのだと。ここで、そう、破壊してでも終わらせななければならないのだと。
 ぐっ、とトリガーに力を込める。
 そして、発砲音。
 少女は糸から解放されて、どさりと無造作に床へと落ちた。

●そして、喝采
「ふふ……ふははは……はははははははは!」
 少女たちの死体が転がるなか、人形師は両手を広げて高笑いをした。
「いい、いいぞ! これでこそ喜劇だ! さぁ、キミたちもお茶会を始めよう! 遠慮はいらない、これは新たな喜劇を公演してくれた礼だ!」
 人形師は言う。
 少女たちとのお茶会が、ささやかな劇であったことを。
 そして、いま、こうして戦闘によって解放された少女たちという筋書きが喜劇であると。
 そう、言ってのけた。
 大人しく捕縛されろ、というイレギュラーズたち。
 そうして無理に捕縛しようにも、人形師は激しく抵抗を見せた。
 短い爪でひっかき、丈夫な歯で噛みつき、お茶会をするのだ、と言って聞かなかった。
「やがてアンタは滅びを知るだろう。解放の死か、苦悶の生か――――終わりだ、何もかも」
 R.R.が事もなげに言う。人形師と目を合わせることさえしない。ただ、その言葉だけを残して、一足先に部屋から出ていった。
 はぐるま姫が、近くにある本物の人形に己の躰に宿る「歯車」を分け与えた。すると、淡い光とともにはぐるま姫に向かって話しかけてきた。
「人形師の異変について、何か知りませんか?」

 ――知らない。知らない。
 ――どうしてこうなったのか、わからない。
 ――ただ、彼は突然狂ってしまった。

「……そう、ですか。では、彼に伝えたいことはありますか」

 ――……。

「わかりました、ありがとうございます」
 はぐるま姫が、つ、と目を伏せる。
 そして鶫は、いまだ抵抗を続ける人形師に対して、自身のギフトを使用するために交渉した。
「狂気に陥る、その切っ掛けを知りたいのです。悲劇の連鎖を断つ為に」
「切っ掛けなどない! 悲劇ではない! これは私が望んだ喜劇だ! あっはははは! お茶会だ! お茶会を!」
 はぐるま姫が、そっと人形師の前に立つ。
 小さな身体の球体をきしりと鳴らして、人形師に向かって優しいような、感情の無いような、或いはあえて感情を抑えているような声で、こう伝えた。
「貴方の人形からの伝言です」

 ――生んでくれて、ありがとう。

「…………ああ、ああああ、ああああああああああああああああ!」

 人形師は頭を抱えてその場に崩れ落ちた。傍に転がっている少女の手からカトラリィのフォークを掴み取る。
 そして、

「止めて――!」

 それは誰の言葉だったか。
 人形師はフォークを首に突き刺した。

「どうして、どうしてこんなことをー……!」
 マリアが慌てて人形師に近づき、治癒の魔法をかける。
 しかし血はなかなか止まらずに、人形師はひどく穏やかな顔をしていた。
「……これで、よかったんだ……。導かれたんだ……。お茶会は、終わら、ない……。はは、はは、は……」
 やがて、人形師は動かなくなった。
 少女たちと同じように、この狭い世界でのお茶会を満喫したかのように。

 永遠に続くお茶会は、一瞬の時間で終わってしまった。


成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。
この度はご参加いただきありがとうございました。

釣りや捕縛、説得など、有効な作戦でした。

次回もご縁がありましたら、ぜひよろしくお願いいたします。

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