PandoraPartyProject

シナリオ詳細

愛が為なら

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●悲しき宝石竜と一輪の花
 もし、最愛の者を殺さなければあなたが殺されてしまうとき。
 あなたは最愛の者をその手にかけることができるのでしょうか。
 それとも、自らの死を選んでしまうのでしょうか。

 ——フロア、闘技場
「ねぇ、そろそろ降参してくれないかしら?」
「ふ、ふざけるな!! 貴様のような雑魚に、王国近衛騎士である俺が負けるわけ……ま、負けるはずがないんだ!!」
 とある世界、とある王国のお話。大勢の観客に囲まれた闘技場の中央で、小柄な娘と騎士による決闘が行われていた。全身を守る重厚な鎧に、煌びやかな剣を装備している騎士に対し、娘はお世辞にも防具とは言い難い当て具と騎士に見劣りする剣。
 そんな理不尽とも言える装備差の中、戦況はどんな素人が甘い目で見たとしても娘が優勢で、娘に降参を促された騎士は顔面蒼白になりながらも必至に剣を振っていた。
「なら、王国近衛騎士の名折れね。もう一度見習いからやり直すと良いわ?」
 若干ため息交じりに吐かれる娘のキツイ言葉が騎士のプライドを深く抉ったのは言うまでもないだろ。だが、勝敗は騎士が激怒する前に決せられた。
 剣を軽やかな身のこなしで避けた娘が自らの剣の柄による、鎧が砕けるほど強力な一撃を騎士にお見舞いしていたからだ。
「っっっ!! 貴様……絶対に、殺……」
 騎士がドサッと重い音を立てながら倒れる頃、娘は既に剣を納めており、周りの観客からは熱い声援が送られていた。娘はそんな観客一同に軽いお辞儀をすると、闘技場の入場口に戻って行く。
 その頃。闘技場の上の玉座でずっと光景を見ていた国王は、唇を噛んでひじ掛けに拳を振り下ろすのだった。

 ——フロア、牢獄
「さっきの試合、すごかったよ」
 薄暗い空間、鉄格子越しに小さな声が聞こえる。
「また来たの? もう、ここには来ちゃ駄目って言ったばかりじゃない。国王に知られたりしたら、タダじゃ済まないんじゃないの?」
「……バレちゃったら、相応の報いは受けるよ。でも、さ……どうしても君と話がしたかったんだ。駄目、かな?」
 鉄格子を背に、まだ幼げの残った青年がどこかもどかしそうな様子で、幽閉された[奴隷剣闘士レティシア]に語り掛けた。そんな彼にレティシアは、鉄格子の間から手を伸ばすと頭を優しく撫でてやる。
「まったく……近衛騎士の“騎士長”さんなのに、仕方のない子ね」

 ——宮殿、王室
 その青年がとある奴隷剣闘士の娘に一目惚れをしたのは、もう随分と前の話になる。
若くして才と祝福に恵まれ、その地位を授かった[王国近衛騎士長アンドレ]は、牢獄から王室に向かうまでの間ずっと彼女の事を考えていた。
「失礼いたします」
 国王直々の命により王室への呼び出しを受けていた彼は、身なりを整え扉にノックをいれると静かに国王の居る王室に入室する。
「おお、アンドレよ。急に呼び出してすまぬのう!」
 声がいつもより大きい。そんなときは決まって、ご立腹なときである。十中八九とは言わないが、王国近衛騎士が奴隷剣闘士に負けてしまったことが気に食わなかったのだろう。アンドレとしてはレティシアが勝って嬉しい限りだが、そんな様子を見せたら火に油を注いでしまう。
「いえ、仰せの通りに」
 適当に無難な返事をした後に首を垂れると、国王は続けてアンドレに愚痴をこぼす。
「お前も見ていただろう、あの闘技を。あの奴隷剣闘士は強いが、ああも易々と近衛騎士を倒されてしまっては、ワシもお前も顔が立たんじゃろう」
「え、えぇ……」
 この時点でアンドレは何か嫌な予感がしていた。そして、その嫌な予感は的中する。
「次はアンドレ、お前が闘え」
「……え?」
 それが彼にとってどれだけ残酷なことであると、彼自身が理解したのは数秒後の事。
「“竜“であるお前が相手なら、あの女とて手も足も出んだろう?」
「で、ですが国王……!」
「話は終わりだ。良いか、手加減をしようなどと思うなよ? お前が負ければ国王であるワシの顔に泥を塗ることになる。もしもそんなことがあれば……」
 国王は知っていたのだ。アンドレがレティシアに度々会いに行っていたことを。
 そして、そのことを悟ったアンドレは拳を強く握りしめると、俯いて恨めしい表情を浮かべるのだった。

●愚王はいらない
「それで、あなた方はこのお話をどのように考えましょうか」
 本を閉じ、目を閉じたまま境界人であるイヴ=マリアンヌはイレギュラーズ達に問いた。
 そんな時は大抵、彼女が君たちを試しているときである。
「闘技場上空から奇襲を試みます。その後の判断……あなた方を信じましょう」

NMコメント

 貴方の冒険に切なくて尊い記録を。
 こんにちは、牡丹雪と申します。

●世界観
 中世ヨーロッパを画いた世界です。
 レンガの敷かれた古風な街並みにや、騎士という概念が存在し、国王の統制により王国は成り立っています。……が、この国の国王は少し曲者のようです。
 奴隷制度が存在し、生まれつきお金も身分も無い貧民は売られて奴隷にされてしまいます。その中で、今回は奴隷剣闘士が勝ち目のない決闘を強いられます。

●目的
『闘技場に現れる宝石竜を討伐する』
 今回境界人であるイヴからはそれしか伝えられていませんが、事の顛末や宝石竜が青年アンドレであることは彼女の口から伝えられています。しかし、アンドレ殺すことが最善なのでしょうか?
 イヴの言葉にはそのことを考えさせられるものが含まれています。

●ロケーション
 空から奇襲を仕掛けます。
 具体的には闘技場上空50m程にテレポートのような形で転送されるので、落下後はすぐに宝石竜と戦闘になります。ご準備ください。

●戦闘の可能性
 このシナリオは戦闘が発生する可能性がございます。
 戦闘になる場合、敵エネミー、味方NPCの情報は以下の通りになります。

【敵】
 ・宝石竜[アンドレ]
 王国近衛騎士長、アンドレ。
 その正体は宝石竜であり、その力は他の王国近衛騎士が束になってもものともしない強さを誇ります。
 国王の切り札でもありますが、イレギュラーズであれば強敵にはなり得ません。

【味方】
 ・奴隷剣闘士[レティシア]
 王国近衛騎士を圧倒する程の実力を持つ奴隷剣闘士の女性。
 アンドレが宝石竜であることを知らない為彼女は戦いますが、1対1の戦いで彼女に勝ち目はありません。(宝石竜が彼女を殺害するかどうかは別の話ですが)

●NMより
 彼らの運命はイレギュラーズに託されました。
 でも忘れないで。この混沌とした世界を『楽しむ』ことを。

  • 愛が為なら完了
  • NM名牡丹雪
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年06月07日 22時15分
  • 参加人数4/4人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ソア(p3p007025)
愛しき雷陣
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
虚無堕ち魔法少女

リプレイ

●1
 少し前の闘技場上空に開かれた転移門にて。
「それにしても、なんて意地悪でおバカな王様なの!」
 まだ決闘の始まっていない闘技場に集まる観客たちの姿を眺めながら、『雷虎』ソア(p3p007025)は呟いた。
 まだレティシアと宝石竜は現れていない。
「王を殺せば解決……」
 『らぶあんどぴーす』恋屍・愛無(p3p007296)も、頷きながら呟く。それは半分冗談、半分本音と言ったところであるが、問題は別にあった。
「わたしたちの仕事は宝石竜の討伐、それしか伝えられていないはずよ?」
 『躾のなってないワガママ娘』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)は二人の事を興味ないように言うが、それは決して間違っていない。今回伝えられた依頼内容は宝石竜の討伐であり、助けることではないのだから。
「とはいえ、このまま竜を討伐してもレティシアが幸せになるとは到底思えないな……逆も然りだ」
 アベルの言葉を聞いた『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)はため息交じりに言葉を返した。
「ボクは宝石竜を殺すのは反対だよ! だから、宝石竜が人を襲わずに大人しくなるなら討伐達成って考える。その後のことは……」
 ソアがそう告げたところで、闘技場が少し騒がしくなってきた。どうやらこれから例の決闘が行われるらしい。
「当事者二人がどうするか、だな」
 世界が突入の合図と共に言うと、イレギュラーズたちは頷きながら転移門を飛び出す。
 最善の手、宝石竜をどうするべきか。彼らはそれぞれの意を持ちながら、闘技場へ突入した。

「さぁさぁ皆さま、遂にこの日がやってまいりました! 此度の決闘は過去最大のものになるでしょう!」
 円状の闘技場全体に設置された拡声器によって伝えられる実況の声は、溢れんばかりに集まった観客たちの声援を掻き立てる。
 その闘技場の中央に剣を構えるレティシアは、いつも以上に注目の目を浴びていた。
「それもその筈、今回決闘を行うのは……王国近衛騎士すら圧倒し、無敗を守り続ける女剣闘士、レティシア! 対するカードは……王国の象徴、そして守護する最強の聖獣、クリスタルドラゴン!」
 闘技場の塀の外から宝石竜が舞い降りる。
 人の数十倍には匹敵する巨大な身体と、人々を魅了する程煌びやかな鱗。それは宝石竜と謡われるのに相応しい姿だろう。
 強大な存在感、プレッシャーを前にレティシアは剣を構える。
 まともに戦えばかないっこない相手だということは対峙している彼女が一番分かっているだろう。寸分間違えれば簡単に首を刎ねられてしまう相手だ。
「…………?」
 だが、レティシアはふと疑問に思った。
 これだけ強烈な存在感を放ちながら、微塵も殺意を感じなかったからだ。これまで戦ってきた近衛騎士たちは確かな殺意を持ちつつ自分に剣を振ってきた。それなのに。
「私ごとき、殺意を向ける価値も無いってことかしら?」
 既に実況の声は耳に入ってこない。ただ目の前の相手を倒すために、レティシアは上段に剣を構え、勢いよく跳んだ。狙うはその首。
 ……その時だった。
「その闘い、ちょっと待ったー!」
 突如として戦場に舞い降りた一人の少女が、宝石竜に迫るレティシアを押さえ込んだ。
 そのすぐ後に、宝石竜とレティシアを分断するように三人が戦場へ着地する。
「ちょ、ちょっと、何するのよ!」
「わわっ、暴れないで。ボクは君を助けたいって思ってるからさ」
 何が起こったのか分からず暴れるレティシアと、それを抑え込むソア。
「き、貴様ら……何者だ!!」
 そして玉座から立ち上がり怒る愚王に愛無はちらっと視線を向けると、目を光らせながら名乗った。
「通りすがりの愛の戦士だ」

●2
「わわっ、暴れないで。ボクは君を助けたいって思ってるからさ」
 宝石竜に斬りかかったレティシアを取り押さえたソアは、必死に暴れる彼女をとりあえず宥めるべく話しかける。王国近衛騎士を圧倒したレティシアといえど、イレギュラーズ相手に組み付かれれば勝ち目は無い。
 だが、見ず知らずの突然現れた少女に”君を助けたい”と言われても、そう簡単に信じることができない訳で、しばらくレティシアは抵抗を辞めなかった。
「話を聞いて、レティシアさん!」
 ソアがレティシアの名前を呼んだところで、ようやくレティシアは抵抗の手を止める。
「どうして、私の名前を……?」
「時間が無いから詳しい説明は省いちゃうけど、ボクはふたりをここから逃がすために来たんだ。依頼されたのは——宝石竜の討伐だけど、逃げちゃうなら同じだよね? あの宝石竜はキミにいつも会いに行っていた少年、アンドレなんだ」
 一方的な説明だったが、先程まで騒いでいたレティシアが急に静かになってしまった。
多分、アンドレは自分の名前もレティシアに言っていなかったのだろう。そこまでに一方的な恋愛だったことにソアは少し驚いたが、彼女の意思は変わらない。
「キミもアンドレも強いから、きっと国を出て逃げてしまっても大丈夫。逃げきるまでは、ボクたちも手伝うから!」
 見ず知らずの少女のお話。だが、宝石竜が攻撃してこなかったことや、殺意が全く感じられなかったことからそのお話が本当であることをレティシアはなんとなく察した。
 そして、今まで溜め込んでいた涙を初めて零すのだった。

●3
「本当にして欲しいことをはっきり言わないのが悪いのよ……」
 アベルはソアに取り押さえられたレティシアにちらっと視線を向けながら、他のイレギュラーズに聞こえないように呟く。宝石竜の討伐という本来の目的を見失わずにいた彼女は、すぐに頭を回転させた。
 レティシアはソアが押さえてしまった。だからここでレティシアを人質に宝石竜を殺そうとするのは愚策中の愚策……だとすれば。
『わたしはあなたの味方よ。あなたもレティシアも助かる方法を教えてあげるわ?』
 騒ぐ国王を無視して、アベルはハイテレパスによる会話を宝石竜に試みた。心を乱すことができれば、少しでも彼を殺す機会ができると思ったからだ。
 他の人には聞こえない言葉を聞いた宝石竜がピクリと反応を見せたのをアベルは見逃さない。
『そうね、今すぐ国王の首を斬り飛ばすか喰い千切るかして、自分がこの国の新しい王だと宣言しなさい。それを受け入れない奴らも片っ端からブチ殺していけばいいのよ』
 想像を絶する方法に、宝石竜はアベルから一歩身を退く。そんな反応を見て、きっとそんなこと微塵も考えてなかったのでしょうね、と心の中でアベルは思いながらもその背中を押した。
『あなたが力で国を支配してしまえば、レティシアも奴隷身分から解放されるわ』
 完璧な言いくるめ。反論の余地も許さないアベルの言葉に宝石竜は小さな咆哮を上げつつ、ゆさゆさと翼を羽ばたかせて見せた。
『そう、そのままあのうるさい国王を殺してしまいなさい』
 多分、止める者が居なければ宝石竜は怒鳴り散らす国王へ飛んでいき綺麗な石榴を咲かせていただろう。そう、止める者が居なければ……。

●4
「まぁ、そういうわけで抵抗は止めて大人しくするといい」
 飛び立とうとした宝石竜を、攻撃しようとしたと見た愛無は素早く宝石竜の真上に跳ぶと、その頭をこつんと叩いた。
 愛無にとって小突く程度の攻撃だったのだが、前線に立つようなイレギュラーズの攻撃は小攻撃であっても致命打になりやすい。哀れ宝石竜は飛び立つことができず、脳震盪を起こしてぐらぐらする。
 そして隣に立っていたアベルが何か舌打ちをした気がするが、多分それは気のせいだと思う。
「僕としては、余力があるうちに其処の彼女を連れて国から逃げるというのをおすすめするが……」
 確かに依頼人の真意を組むのが一番良いのだが、討伐は『抵抗する者』を討ち滅ぼすことゆえに、相手が抵抗しなければ問題無いだろうと愛無は考えていた。
 だからこそ、初撃は本当に手加減をしたのである。だって少しでも本気を出したら簡単に砕けてしまいそうな頭だったから。
「あとは君が選べばいい、地位や義理にしがみついて彼女を殺すか、彼女を選んで全てを捨てるか。逃げるのであれば……まぁ逃げ切れる程度の時間は稼ぐことを約束しよう」
 国王をガン無視し続けていたので既に近衛騎士っぽい人たちが集まっているが、宝石竜に敵わないのであれば全く敵ではないだろう。もっとも、それを彼らが理解しているかは別の話だが。
「さむばでぃとぅらぶ」

●5
「この様子じゃ、上手く話が付きそうか?」
 いつ戦闘になっても構わないように構えていた世界は、ソアに押さえ込まれるレティシアを見て、愛無にげんこつされる宝石竜を見て、やれやれといった様子のアベルを見て、最後に最後の最後まで何か怒鳴り散らしていた国王を見て呟いた。
「国王があんな性格じゃ、ここで一時凌ぎみたいなことをしてもまた同じことをしそうだしな……」
 こう見てしまうと宝石竜がショボく見えてしまうのだが、一応近衛騎士が束になっても敵わないくらいの強さは持っていたはずだ。
 ようやく国王の命令で出てきた騎士たちを遠目に眺めつつ、世界は宝石竜に告げた。
「まぁ俺としてはそこまで関心のあるわけじゃないんだが、それでもアンタたちに協力する気はある。どうするにせよ選んだ道を尊重するとしよう」
 そうは言いつつも愛無のげんこつが気の毒に思えたのか、こっそりと回復をいれてあげる世界が宝石竜から見たら一番お人好しに見えるのだった。

「んじゃ、達者で暮らせよー」
 宝石竜が飛び去っていく様を眺めながら、世界は彼らにハンカチを振って見送ってやる。
 出てきた騎士たちは気の毒様な少数が愛無にぼこぼこにされ、大多数が既に逃げてしまった。まぁこうなってしまっては国王も為す術がないだろう。
 散々怒鳴っていた国王が既に姿を消してしまったのを見て、世界は勇気の逃亡を選んだ二人に祝福を送るのだった。

成否

成功

状態異常

なし

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