PandoraPartyProject

シナリオ詳細

万悩罪断マリオネッタ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●監獄島の花一輪
 幻想沿岸部は治外法権の地である――そう言われても、少し前までのイレギュラー達なら一笑に付していたことだろう。
 かの暗殺令嬢が目を光らせ、他の貴族達の覇権争いも活発な幻想にそのような場があろうものか、と。
 だが、そんな(一種の常識を求める)甘い考えはとうの昔に霧散している。
 幻想における重罪人を集めた地、『監獄島』。そこに身を置き、その地の王として振る舞う『ローザミスティカ』は度々、イレギュラーズを呼んでは様々な依頼を、概ねにおいては自らに反目する者の私刑を、申し出る。
 そして、イレギュラーズは彼女の依頼を無下にはできない。
「よく来たね。フィッツバルディ公は元気かい?」
 開口一番、そんな冗談を飛ばしたローザミスティカは訪れた一同を眺め、答えに関わらず「そりゃあよかった」と続けた。彼女は、あの大貴族がそうそう死ぬわけもなし、とわかっていて聞いているのだ。
「ここかい? ここは看守長の部屋だよ。知ってるだろう? ……知らないならいいさ、ここではあたしがルールだ。それだけ覚えて帰るんだね」
 生きて帰れたらね? ところころと笑う彼女のさまは、少女のようでもあり、妖艶な女性でもあり。こんな女性が、『貴族殺し』の大罪人であるとは一見すればとても思えない。
 それどころか、囚人だということすら疑わしい。鮮やかなルージュを引いた唇は瑞々しさを失わず、その眼力はまともな女性のそれではない。まして、犯罪者のそれというにはあまりに堂々としすぎていた。
「まあ、あたしのことはフィッツバルディ公にでも聞くんだね。依頼の話をしようじゃないか」

●刻んで繋いで縛られて
「最近入った……潜り込んだのかね? どっちでもいいさ。一人、少し頭のおかしい罪人がいてね。そいつ、いや、『そいつら』かね? オイタが酷いから懲らしめて欲しいんだよ」
 そいつ、なのかそいつら、なのか。言葉を選んだ彼女の様子に、イレギュラーズは首を傾げる。集団犯の類が監獄島に迷い込んだのか、面倒だな、と。
「いや、そうじゃないんだよ。その男、名前をハリスってんだけど、これがまたクソみたいな男でね。自称芸術家を名乗って他人の体を掻っ捌いて、不出来なモニュメントを作ってるんだよ。しかもそれが動く。……全く悪趣味だと思うね。これが『最初に会った』あいつさ」
 ローザミスティカの口元が歪む。一同は、嫌な予感を隠しきれない。
「次に話に聞いた時は、そいつはよくわからない長い名前を名乗ってたよ。小市民じみてヘコヘコしてる小男が、なんの前フリもなく看守の首を落としちまったってんだよね。笑えるよ。その看守は、後でハリスのモニュメントになってたよ。助けてくれっていうんだよ、腹に繋がれた顔だけでね!」
 彼女にとってはとてもおもしろい話なのだろう。その後、彼女の口からは様々な人物の名が挙げられ、最後に彼女はこつりと漏らす。
「……そして最後はその看守。しめて10からの人格がそいつの体にはあるんだねえ。アーティファクトってのは本当に面倒な代物だね」
 ひとしきり話したあとにぽろりと口をついてでた情報は、今までの答え合わせである。
 性格がどうあろうと(芸術家でも、小市民でも、殺人狂でも)目の前に殺せる奴がいたら殺す。モニュメントにしたり楽器にしたりして、生きたまま切り刻む。そしてそれらは殺したのに死んでいない。
 それが、相手の持つ『万悩罪断』の特性。命あるものに限り、望むものを望むように切り裂き、望むように加工できる。
 そして副作用として、切り刻んだ命、その魂の一部を持ち主が吸い上げてしまうのだという。そうすればどうなるか。
 たった今ローザミスティカが口にしたとおり、手にかけた相手の人格が植え付けられ、決して一人ではいられなくなるのだ。
「今はまだそこまで派手に暴れてないけどね、そのうち素材をもとめてあたしにたどり着くさ。当たり前だろう? こんな美女、芸術に認めない奴はモグリだよ」
 三流の題材になるのは御免だけどね、と彼女はすっと右手を差し出し、コインを弾く。
 薔薇の花をあしらったコインが、月明かりに怪しく輝いていた。

GMコメント

 やんごとなき立場の人からのの依頼だなんて、なんて当たり前で平和な依頼なんだろう(棒読み)

●達成条件
・『マリオネッタ』ハリス・ロブ・ロスの殺害
・『万悩罪断』の破壊
※ローザミスティカにとって満足の行く結果であった場合、『薔薇のコイン』を得ることができます。
 監獄島ではローザミスティカが用意した仮想通貨が存在し、『薔薇のコイン』を使用することで様々な恩恵を得られるそうです。
 『薔薇のコイン』を得る事で追加報酬(gold)が増幅します。

●『マリオネッタ』ハリス・ロブ・ロス
 幻想では非常にコアでゴア趣味のある人々に知られていた狂気の芸術家。当然、今まで人や動物を手に掛けたことはなく、立体物による表現にとどまっていたようです。
 なんらかのルートでアーティファクトを取得し、監獄島に侵入。囚人達や看守を切り刻んで芸術に変えている模様。監獄島のどこかを徘徊しています。
 現在は複数(計測不可)の人格を自分の中に形成し、完全に発狂している。表に出てくるのは以下。共通して「近扇」「遠単」などの攻撃を行います。

○ハリス(主人格)
 上記の通り。芸術家思考のため完璧主義で、クリティカルと物理攻撃力がかなり高いです。それ以外の性能は平均的。人の肉体に加工は無粋と考えており、【所持品にアクセサリ・入れ墨等人体装飾各種】を多く所有するPCを優先して狙います。添え物など無粋。ブレイクしてきます。

○ルナ・ベナ
 小声、小柄(人格交代で骨格すら変化する)、地味な少年の人格。非常に気弱な態度ですが、その分なんの予備動作もなく攻撃を行ってきます。【全ての攻撃に不意打ち属性を持ちます】。回避、特殊抵抗高め。他の人格より機動+1。精神系BSを多用します。

○看守
 正義感に溢れ、己の信念にそぐわぬ相手を苛烈に断罪するある種、正義の操り人形。神秘攻撃力、防技高め。
 【幻想悪名が高い者を優先して狙います】。BSの使用はあまりありませんが、攻撃に呪殺や必殺を伴います。

●オブジェ×3
 肉体を不快な粘土細工のように弄り回した不快極まりない存在。生物であり、仮にも生きている。こちらも徘徊しており、めぼしい囚人を捉えようとしている。
・腕を足代わりに何本も取り付けられた歩く肉塊
・腸で繋がれた上半身×2
 などが過去のハリスの(立体物の)代表作品です。こんなものが現れるとは言い切れませんが、それっぽいゲテモノは出てくるでしょう。
 毒なんか持ちます。ハリスに従っているとは限らないので、随伴させておりません。

●万悩罪断
 牛刀型のアーティファクト。刀身が非常に分厚く、半ばで二分して二刀流にもできる。
 生物を殺さず切り刻み加工できるという特性を持つが、副作用で傷つけた人間の魂の一部を取り込み、人間性を徐々に失う。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

  • 万悩罪断マリオネッタ完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年06月07日 22時50分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シルフィア・カレード(p3p000444)
リベリスタ
メリンダ・ビーチャム(p3p001496)
瞑目する修道女
極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
Tricky・Stars(p3p004734)
二人一役
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
日車・迅(p3p007500)
疾風迅狼
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者

リプレイ

●黒く深く昏く
「豚箱ってのは人生でそう何度も来るもんじゃないんだがねぇ。あたしゃこれで何度目だいまったく……」
「ローザミスティカのおば様からの依頼で何度か来ているわ。これからも通うことになるのでしょうね」
 『リベリスタ』シルフィア・カレード(p3p000444)の人生というのは、実に物騒な色合いをしていたらしい。数えるのも面倒になった、という言葉を隠しつつ、彼女はまいったように首を振った。他方、『瞑目する修道女』メリンダ・ビーチャム(p3p001496)は慣れたものだと監獄内を歩き回る。今後も会う運命なれば、その地の空気は慣れねばならない、ということだろう。……実に、後ろ暗いことである。
「なんとも趣味の悪い方がいるものですね」
「芸術家気取りってヤツはどうして、こう……なのかしらねぇ」
 『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)とゼファー(p3p007625)はともに、今回のターゲットたるハリスの狂気に不快感を露わにしていた。芸術に身をやつした結果として狂気が深まるのか、はたまた狂気ありきで芸術に傾倒していくものなのか。卵と鶏の議論のようなもので、答えはないのかもしれない。……いずれにせよ、今回の手合いは狂人であることに異論の挟まる余地はない。
「ローザミスティカ様直々の依頼だ! 顔憶えて貰えりゃあ今後もよろしくお願いできるだろーし、気合い入れるか!」
 『瓦礫の魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)はローザミスティカ直々に依頼を受けられることに、小さな喜びを感じていた。
 監獄島内で彼女の顔を借りて専横が許される、という行為は、当然ながら幻想という国としては坐りが悪い。故にそれに加担した者は名誉とは真逆の道をひた走る運命にあるのだが、ことほぎやメリンダのようなタイプにとっては『望ましい』話であるようだ。一般人には預かり知らぬ信念、というべきか。
「人格が十数も……なんと悍しい。俺はこの問題児一人だけで既に手を焼いているというのに」
 『二人一役』Tricky・Stars(p3p004734)――の稔は自分の胸元をさすりながら、心から不愉快だとばかりに声高に主張する。内側からは『はぁ!?問題児はテメーの方だろ!』と反論が上がっているが、彼はそれを無視することにした。自分ならざる魂を持つ者と、魂の形を変容させたものの間にどれほどの差があるのかは、本人基準でしか無いのだろうが。
「なんか面白いじゃないっ、人格が多くてにぎやかな事だし、刀の打ち合いでもしてみようかなっ」
 『戦神』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)はこの通り。いつもどおり、何も変わらず、ただ刀を振るって敵を狩ることのみが己の有り様。できの悪い造物に遭ってはそれを、敵に遭ってはそれを斬る。何も変わらず、鼻歌まじりで敵を探す目は猛禽か肉食獣のそれである。
「まあ芸術活動は大変結構なのですが、他人の肉体を勝手に使うのはどうかと思います。しかも作るだけ作って放り投げているではありませんか! 無駄遣いするなど言語道断!」
 命は燃やし尽くすもの! そう主張する『何事も一歩から』日車・迅(p3p007500)の表情は快活な青年のもので、その言説におかしなところがあるとは一切、思っていない自信満々の表情を見せていた。……いや、主張の6割くらいはおかしいのだが。論点が違うのだが。しかし彼の輝く目の前では瑣末事になってしまう。
「芸術家を探しつつゴミ掃除と行こうじゃないか。豚箱でも掃除は大事ってね」
「そうね、こういうタイプは遊ぶだけ遊んで片付けは苦手ですもの」
 シルフィアとゼファー、タイプは違えど考えつくことは割と同じ方向を向いていたらしい。
 個室に文字通り顔を突っ込み探し回るシルフィアは、幾つかの個室が既にカラであることを知覚する。しかしながら、抵抗した跡はあれど「室内には」目立った血糊などは見当たらない。
 されど、迅の鋭い嗅覚を前にすればその存在感は否応無しに露わになり、僅かな水音、動作音はリュティスの耳を欺くことは出来まい。……そうでなくとも、廊下にこれ見よがしに広がった惨劇の跡と、血液で彩られたペイントを見て敵の在り処を察することが出来ないというイレギュラーズは、この面子には居るまい。
「これだけ悪趣味な状況をこれ見よがしに残しているんだ、相手、もしくはその作品が近くにあるのだろう」
「オレはヘッタクソなオブジェを先にぶっ叩きてえけどな。出来ればまともな看守サマの犠牲は減らしてえ」
 稔は不快な表情を隠すことはせず。ことほぎはぎらぎらとした瞳の色をごまかすことはせず。互いに四周を警戒し、今や遅しと現れる敵の気配を待つ。
 ハリスの人格を鑑みるに、主人格ならリュティスが比較的狙われやすく、看守であれば間違いなくことほぎになるだろう。
 ――だが、その何れでもない場合。もしくは、それ以外が襲撃してきた場合、となれば話は大きく変わる。
「見つけたよ。……壊れたおもちゃは片付けないとね」
 秋奈は天井へと視線を向けた。いかなる移動手段を採ったのかはわからない。だが、身軽そうだな、と彼女は思った。
 なにせ物理的に、明らかに軽い。人体の半分を切り取られたそれは肘の部分から新たな腕を生やし四本腕とし、吹き抜けに張り巡らされたパイプを伝って現れたのだ。
 では、下半身はどこへ? 簡単な質問である。
 現れた2体目の胴を見よ。中途半端に継ぎ足された足が、というか腰から下が生え、両手には骨を加工したかのようなツルハシ状の武器を手にしているではないか。
 そして、最後の三体目。他の2体が禿頭だったのはコレが理由だとばかりの黒い糸で編まれたロープを手にし、イレギュラーズを捕らえるべく視線を巡らせていた。
「ゴミ掃除の時間だよ。中々いい趣味してるようだが、サイケデリックが足りないねぇ。47点ってところさ」
「随分趣味のいいお人形さんだこと」
 シルフィアとメレンダは口々にオブジェにケチをつけると、互いの得物をしっかりと握りしめた。
 趣味が悪い粘土遊びを見せられているようだ。こんな悪意が自分達を襲うのか――そう考えると本当に、ゾクゾクする。

●死にぞこないの挽歌
「来なさい、遊び相手がいなくてさぞつまらなかったでしょう」
 ゼファーはオブジェ達に向けて名乗りを上げ、敵の狙いを己に引きつけた。四つ手が肘を機転として連続した打撃を叩き込み、四足がツルハシで彼女の防御の隙間を縫うべく横薙ぎに振るわれる。
 槍の石突でツルハシを弾いたゼファーは、続く最後の一体が振るった髪の鞭に槍を絡め取られ、強制的に拮抗状態に引っ張り込まれた。
 常人のリミッターが無い分か、異様な膂力で引っ張り込む勢いに姿勢を崩されそうになる。が、彼女はこれに耐えた。
「ゼファー殿、只今……!」
 迅は、その値千金の10秒を無駄はしない。速力を全開にした踏み込みから四足の喉へ直突き一閃、さらに勢いを殺さず顎に叩き込み、首をもぎ取ろうと暴威を揮う。
「こう入り組んだ状態じゃ纏めて狙えねえか……いいぜ、構いやしねえ!」
「~♪」
 ことほぎは指先に込めた悪意を四足に叩き込み、汎ゆる異常をその一体に押し付ける。動きを鈍らせたそれは、続く秋奈の斬撃によりさらなる忘我へと誘われる。
「出来の悪いゴミは戦いぶりもゴミってところかね? だからアタシみたいなのにも当てられる」
「シルフィア様の精度を『みたいな』で済ませるのも……どう、なんでしょう」
 シルフィアは遠距離術式の命中精度を高め、一撃一撃を確実に叩き込む。威力も、精度も、今の彼女が行使できる域としては十分に練り上げられたもの。リュティスの言葉通り、卑下するどころか誇っていいレベルのそれだ。
 そしてリュティスは、ゼファーが健在なことを視認すると黒き蝶を生み出し、髪鞭を操る個体へ叩き込む。自らの命をほんの僅か削るそれは、死力を尽くしての引き合いを続けていたそれのバランスを大いに崩した。
「こうなってはもう、ただのガラクタだわ。ごめんなさいね」
 暴れ狂う乱舞は、明星の形をとってオブジェたちをひきちぎる。メリンダは振るったモーニングスターを手元に戻すと、挑発的に笑ってみせた。
「こんなものでも人は人だ。丁重に殺してやらねば」
 稔は光翼の刃を放ち、居並ぶオブジェたちを苛んでいく。ゼファーの身を蝕む毒を融かしつつ、周囲に屯する敵意には容赦を知らぬ。慈悲と敵意を併せ持ったその一撃は、四足のオブジェを粉砕するに至った。
 次の一体を倒すべく、迅は拳を構え直し――高高度から落下する刃の柄を握った手を、辛うじて弾き飛ばした。
「軽っ……『ルナ・ベナ』と言いましたか。あなたが、それか」
「名乗ったかなぁ、そんな短い名前。さてはここのお嬢様がそう呼んだね?」
 大ぶりのナイフを手に現れた小柄な男は、ケタケタと奇怪な響きで笑い、だらりと両手を下げて構える。目は虚ろ、瞳は忙しなくあちこちを見ていて、誰を、そして何を狙っているのか分かりはしない。
「戦神が一騎、茶屋ヶ坂アキナ! 有象無象が赦しても、私の緋剣は赦しはしないわ!」
「――――、だ。覚えておきなァ?」
 秋奈は、名乗り終えるのも惜しいとばかりに横一閃の斬撃を放ち、ルナは己の真の名を名乗り、そして万悩罪断を振り上げる。両者の斬撃が火花を散らし、互いの身から血飛沫があがる。傷は、ルナが深い。
「油断すんなよ! そいつはなんか……色々とヤベぇ!」
 いつの間にか入れ替わっていた虚は、秋奈へと号令を飛ばし、治癒術を行使する。たった一合、浅いだけの攻撃でも露骨に不調を強いてくる手管は如何にも危険なそれ。Tricky・Starsとして『主体』を入れ替えた理由は、その主人格を引き出さんとしたがため。
 果たして、彼の目論見は半分ほど成功し、半分ほどが失敗となって顕れる。
 秋奈とルナの二合目が打ち合い、離れた直後。骨が軋み肉が潰れるような音を立てて肥大化したその姿は、瞳に狂気めいた正義の心を宿していた。
 最早、一も二もなくそれは正義の奴隷である。
 それは、人々の口に上る悪の名を忘れはしない。
 従って、その大男、看守が一人が万悩罪断を振り下ろす相手はこの場においてただ一人。
「極楽院、貴様の罪は罰では雪げぬ」
「名乗ってねえのに話しかけんなよ、ったく……」
 心底嫌そうに毒づいた彼女は、心からの悪意を看守に叩き込む。知ったことかと歩を進める看守の前に立ちはだかったゼファーは、ヒールを加えてなお頭2つ高い上背から振り下ろされた万悩罪断を槍で弾き、相手の喉目掛け渾身の一撃を放った。

●心在りて人でなし
「生物を生きたまま刻める刀……生ける屍を斬ったら何が起きるのかしらね?」
 メリンダは最後に残った髪鞭のオブジェを破壊し尽くすと、看守へとモーニングスターを突きつける。明確な挑発に、しかし看守は一切の感情を見せることなくことほぎを狙い、ゼファーとの打ち合いに終止していた。
「人格によって体型すら変える、か……。どの世界でも似たようなヤツは出るもんだ」
 シルフィアは己の記憶の隅に残った『似たような相手』を思い出す。彼女がどんな過去を経たか、本人以外知るよしはない。されど、そんなものを見た覚えがあるなら、きっと彼女にとってろくでもない過去だったのだろう。
 重戦車のような肉体へ、繰り返し繰り返し魔力を練り上げた一撃を叩き込む。それしか出来ぬが、『それは出来る』。不死身ではない敵を倒すのに、それ以上の理由などどこにあろうか?
「皆様、問答は不要ということですね! 潔くて素晴らしい!」
 会話のひとつ重視せず始まった果し合いをして、迅は潔しと快哉を叫ぶ。蹴り、突き、踏み、打つ。腕が動くを幸いに振るわれる暴力は、しかし返す刀とばかり放たれる広範への薙ぎ払いによって中断を余儀なくされる。
「この鈍亀に、根腐れした正義感以上のモノがあるなら聞いてみたいけどね……!」
 冗談めかして応じるゼファーもまた、決して楽な状況ではない。リュティスやことほぎらの放った状態異常により動きの精細を欠くとはいえ、そんなものかと一笑に付すかのように放つ一撃は兎角重く、彼女でさえも膝を付きかねない域にあった。
 秋奈の鼻歌とともに、閃光が幾重にも翻る。後退のネジを外した看守が逃げるという選択はない。イレギュラーズとて、傷つきながらも撤退は許されない。
 ここで逃した後に何が起こるのかなど、考えるだけ無粋なほどに。
「ハリスって言ったか。芸術家なら、取り込んだ人格ぐらい従える狂気と執念を以ってアートを完成させなきゃ3流だよ。たとえオブジェを完成させたとしても、取り込んだ人格に体をいいように使われてちゃ完成とは言えないさ」
 シルフィアは、黙々と愚直にことほぎを狙って前進する看守(ハリス)を笑う。芸術を謳いながらも、自らの精神が不愉快なオブジェになってしまった彼は、三流としか言いようがない、と。
「本当に、悍ましい。実物を見ると……こんなモノで済んでいるのが有り難いくらいだ」
 稔はやれやれと首を振る。内奥で虚が盛んに抗議の声を上げているが、頻繁に入れ代わり立ち代わり姿を変えている彼に『ハリス』が目を向けないのは、きっと目を向けることが出来ないからだ。それほどまでに、人格の中に埋没しているのか。
「……哀れ、というべきでしょうか」
「今のアイツは、その牛刀に魅入られたイカれちまった自慰野郎でしかないのさ。哀れなもんかい」
 リュティスは一瞬の隙をつき、呪いの魔弾を叩き込む。表情に一瞬浮かんだ憂いの色は、シルフィアの言葉が押し流していく。徐々に、足取りが重くなる看守の姿は、哀れというにはあまりにも、愚直。
「……お前のソレ、残ってたらローザミスティカ様に献上されるんだぜ? 悔しいか? 悔しくないわけねえもんなあ? でも、もう終わりだ」
 ことほぎは、看守の瞳に僅かに写った逡巡を見逃さなかった。勝てぬと察した者が見せる弱気の片鱗。
 よって、それがゼファーの渾身の一撃を、その瞬間、己が身可愛さで庇ってしまったことは必然というほかない。
 掲げられた万悩罪断ごと砕かれた頭部は、瞬間、体ごと幾度も幾度も変容し、乱れ、そして動きを止めた。
 オブジェを作り続けた男は、最後にその身をオブジェよろしく不格好に崩して死んでしまったのだ。本来の人格を、イレギュラーズに見せることなく。

「……ククッ、なるほどなるほど! そりゃあ最高に面白い顛末だよ!」
 ローザミスティカは、一連の顛末を聞き届けると薔薇のコインを投げ渡す。それから、もう興味を失ったとばかりに手だけを仰ぎ、一同に退室を促した。
 彼女の心中に去来するのは闖入者への疑念か、イレギュラーズへの信頼か、それとも。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 哀れな芸術家の狂った顛末、これにて幕引き。

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