PandoraPartyProject

シナリオ詳細

幻想カツアゲ黙示録

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●INTRODUCTION
 カツアゲ黙示録とは!
 汚い銭稼いでチョーシこいてる金持ちどもを道中ぶんなぐって金をふんだくる爽快ダークヒーロー巨編である! ……いや巨編ではない!


「諸君、よく集まってくれた。我が名は瀬賀汰 六八郎(せがた・むはちろう)。
 この悪逆総会は幻想貴族に反逆ののろしをあげた盗賊、海賊、山賊たちの支援と共有を目的としたものである。共に悪しき貴族からの再分配をはかろうぞ」
 鼻から上を唐草模様の布で隠した身の丈3mの巨漢が、黒い泥棒髭をなでてそう述べた。威厳ある声が石のアレオパゴス的会議場へ響き渡る。
 響きわたったが……。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
 収容人数100席はくだらないというハコにありながら、席をうめているのはわずか8名程度。
 その8名が全員ローレット・イレギュラーズ(実質的な部外者)という悲しすぎる有様であった。
「ンンッッッッ!!」
 六八郎はなんともいえないうめき声と共に講壇机をぶったたいた。
「見ての通りだローレットの諸君。我が悪逆総会は数十にのぼる賊たちが加盟していたにもかかわらず、今はこの有様。時代の流れとはかくも残酷なものか……」
 詳しく説明すると……遡ること一年半前に巻き起こった盗賊たちのクーデターこと新生砂蠍事件こと通称『ジーニアス・ゲイム』。この事件を機に多くの犯罪組織が砂蠍の旗本へと移籍。議会の半数以上を失ったことで組織的な価値を失い残る組織も次々に脱退。つい二ヶ月前に最後の三団体も抜け、ついに悪逆総会は議長の六八郎を除いて誰もいないという悲しき有様へ至ったのだった。
 もちろん、かの事件の副次的効果として幻想周辺にはびこっていた盗賊たちを一網打尽にでき治安回復を図れたというメリットはあったが、旧に回復してしまったために一部の貴族が増長してしまったというデメリットもおこしていた。
「我々……もとい我は増長する貴族をただ黙って見ることしかできなかったが、それも今日まで。小貴族達に教えてやるのだ。
 『ゆめゆめ油断めされるな』とな!」
 そしてボードへ豪快に書き付けた文字。
 カツアゲ黙示録、である。

「計画を説明しよう。
 『カツアゲ黙示録』とは油断した貴族を道中で襲撃し、金品だけを奪って撤退するという極めてシンプルなものである」
 あえてせせこましい単語を使ったのは議会が力を失ったことを自覚してのことだと、六八郎は語る。
「この作戦に八名規模の戦力はいらない。二名ないしは三名規模にわかれ、我の提供する情報によってポイントに潜伏。予定通りに通りかかる貴族を襲撃するのだ。
 情報漏洩に気づかずそのまま行動してしまうほどの油断。さほどの護衛もつけてはいないだろうが……無抵抗とはいかぬはず。相応の戦闘は覚悟されよ」
 六八郎は三枚の筒状書簡をグループごとに配ると、もう一度泥棒髭をなでた。
「いまいちど述べよう。
 教えてやるのだ、『ゆめゆめ油断めされるな』と!」

GMコメント

■オーダー
 予定通り通りがかる貴族を襲撃し、金品を強奪。しかるのち撤退します。
 必須条件ではないオプション要素として貴族を含め何人かは生かしておくことがあげられています。
 貴族達への注意喚起が目的だということです。

※厳密には3件すべての計画成功が依頼達成条件であります。

■シチュエーション
 町中や森の中に潜み、貴族たちが通りがかるのを待ちます。
 用意されているシチュエーションは三種類あり、メンバーの特性に応じて振り分けるとよいでしょう。

・裏通り
 薄暗い昼の裏通りです。
 周囲が建物に囲まれており道幅もそれほど広くありません。
 隠れる場所は多く、じっと息を潜める気配遮断等のスキルが役に立ちます。
 通りかかる貴族は護衛を1~2人つれていますが、これを倒して金品を強奪してください。
 細かいやり方は任せるとのことです。

・森
 夜の森です。
 馬車で通りかかる貴族を襲撃します。
 場所が場所のため隠れやすく襲撃も容易です。周囲が暗いためすぐ点灯できる照明ないしは暗視能力があるとよいでしょう。
 第一段階として走る馬を止める必要があり、条件として馬(と御者)を生かしておく必要があります。
 馬車にのる貴族を生かしつつ、1~2人の護衛を倒して金品を奪いましょう。

・酒場
 事前に他の客を買収しておいた酒場です。
 皆さんが行動を起こすと同時に偽装客たちは一斉に店の外へ出ていく手はずになっています。
 貴族をできるだけ油断させ、ここぞというタイミングで襲撃をしかけましょう。
 気配を消したりするより変装したり人混みに紛れたりするスキルのほうが役立つ場所です。

■エネミー
・護衛
 そこそこの戦闘力がある兵士です。
 特にデータらしいデータはありませんが、皆さんが個性や工夫をがっつり活かして戦えば勝利できるはずです。

■報酬アップ要素
 もし上手に金品をまきあげ、かつ貴族たちへの注意喚起という目的を上手に達成できた場合全員にゴールド報酬が上乗せされることがあります。

■■■アドリブ度■■■
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用ください。

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

  • 幻想カツアゲ黙示録完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年06月08日 23時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エマ(p3p000257)
こそどろ
錫蘭 ルフナ(p3p004350)
澱の森の仔
サイモン レクター(p3p006329)
パイセン
リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)
叡智の娘
彼岸会 空観(p3p007169)
メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
虚無堕ち魔法少女
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
バルガル・ミフィスト(p3p007978)
シャドウウォーカー

リプレイ

●経済ってやつには善悪が必要らしい
 幻想経済学者ジョージ氏曰く、悪党が金を稼ぎ貧民に向けて消費をばらまくことで貧困を救済しうるが、悪徳貴族が金を貯め込み貴族間でのみ金を流しあった場合経済は死ぬらしい。
 そうして指先にたまりきった血のごとく停滞した社会が腐り落ちぬように、悪党は稼ぎすぎた貴族から金をとり、それをより上位の貴族は制御すべきであるという。
「……ですので、悪徳貴族であれば襲撃しても構わないでしょう。
 これに懲りたら真っ当な道を歩むべきですね。
 少し脅しておいても良いかもしれませんね」
「そうだね、畏怖されることは大事な事だ。
 ナメられたら終わりだ、派手にやろう」
 『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)と『猫派』錫蘭 ルフナ(p3p004350)は己の身なりを整え、裏路地をなにとはなく散歩しはじめた。
「しかしこの瀬賀汰六八郎という男は信用しても良いのでしょうか? 今回奪った金で悪事を働く可能性は?」
「さあね。あるかもしれないし、ないかもしれない。僕らを雇って貴族から強盗してる時点で、それは悪事の金と言えるかもしれないしね」
「それよりもっと酷いことです」
「そういうときは、被害者からまた依頼を受けるさ」
 世界の中立ローレット。世界各国の表と裏すべてにコネクションを持ち、すべてに協力しうる彼らに依頼するということは、それ相応のリスクと公共性を負うということである。
 ともすれば敵にすらなりうる相手に自身のゆくえを握らせるのだから、当然のことだろう。
「それが分からないほどの愚か者でないことを祈りましょうか」

 一方こちらは夜の森。
 遠くで鳥と虫が鳴く声がする。草と土のにおいに紛れ、彼岸会 無量(p3p007169)は刀の柄をそっとなでた。
「強盗しつつも注意喚起とは、悪逆と言う割にお優しいですね。
 相手に油断して貰っておいた方が何かとやりやすいのでは?」
「えひひ、『プロの泥棒は鍵を売る』のですよ」
 『こそどろ』エマ(p3p000257)は引きつったように笑いながら、手の中でナイフをくるくるともてあそんでいた。
「その心は」
「無防備な家に忍び込んで小銭を盗むより、防犯を促して堅牢な鍵を売ったほうが、労力に対して利益が大きいのです」
 コンピューターセキュリティで例えると、ウィルスという概念がほぼなかった時代に客の目の前でハッキングやウィルス侵入をやってみせ、本を安売りしてセキュリティソフトの重要性を広め莫大な利益を得たという話がある。
「そういうものですか。よくわかりませんね」
「えひひ……そういうわけですからね。
 本来はもっと面白おかしく山賊の真似でもやろうと思ったんですが、今回は、迅速、かつ冷徹に……遂行させていただきます」
「んー……?」
 『躾のなってないワガママ娘』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)はゆっくりと身体と首をかしげた。
「やっぱりよくわかんない。
 結局はお偉い貴族様も、地べたに頭を擦りつけてわたしに許しを請うことになるのよ。元の世界の校長先生みたいにね」
「それでいいのです。脅威は脅威の顔をしていなくては。えひひ……」

 はたまた一方、旅酒場。長距離移動を行う商人や駅馬車にとっての休憩地点。21世紀地球でいうところのドライブスルーや道の駅に近い場所に、それはあった。
 ウェスタンドアが揺れ、二人の人物が来店する。
「奢れる貴族に注意喚起ね……面白いじゃねぇの」
 黒いスーツから砂埃をはたき、赤いネクタイを締め直す『吸血鬼を狩る吸血鬼』サイモン レクター(p3p006329)。
「仕事の結果次第じゃボーナスも弾んでくれるようだし、きっちり脅して注意喚起しようぜ」
「ええ。『ゆめゆめ油断めされるな』……実に良い言葉です。
 襲う側がいうには滑稽ではありますがね。ははは」
 すこしもおかしくないかのように、言葉だけではははと笑う『胡散臭い密売商人』バルガル・ミフィスト(p3p007978)。
 この胡散臭さと危なさが服を着て歩いているような二人組は、しかし、席に着いたとたん周囲の背景と同化してしまったかのように存在感が希薄化した。
「いらっしゃいませー」
 トレーに水のはいったコップをのせてやってくる美しいウェイトレス。
 もとい、『絶望を穿つ』リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)。
 もともと性別のわからない人間であったが、こうして女性用の服を着てしまうとすっかり美少女であった。
 むしろ……綺麗さと存在感と、更に言えば生まれ持った気品を隠すのにだいぶ苦労したようである。
(同じ貴族としてカツアゲをするのはどうかと思わないでもない……けど、一応の同類が、油断に塗れてるなんていうのはまぁ、見過ごしたくはないよね)
 頭のなかで語ったことを喉の奥に飲み込みつつ、この見るからにワルな二人に水とメニューブックを手渡していく。
 メニューブックを開くと、これからの手はずを書いた紙がはりつけてあった。
「…………ふむ、ではホットコーヒーを、生クリームをつけてください。脂肪分ぬきで」
「俺はハンバーガー。ケチャップ抜きピクルス抜きで。無理なら別にいれても良いぜ」
 一見わがままな客のありふれた注文だが、それが暗号文になっていることを三人だけが知っていた。
 何を意味するかは、これからのお楽しみである。

●高い授業料
 まるまると太った貴族の男が、粗末な建物から護衛の男二人組をつれて現れた。
「安宿はダメだな。すぐに壊れる」
「乱暴に扱うからでしょう」
「元値で買ったのだ、多少の遊びは許されよう」
「フウ……」
 彼らが厳密になにをさして話しているか、うすうすと理解できたリュティスは顔をしかめそうになるのをこらえた。
 それがわからぬルフナはきょとんとしたまま、あえて小物を演じるかのようにちょこまかと裏路地を歩いて行く。
 貴族がこうした社会の影を歩く時、相応の理由があるもの。
 それを察してたとえすれ違っても互いの顔を見ないのがマナーだという。
 ルフナはわざと足下の小石を蹴りながら歩き、どこか楽しげに貴族の横を通り抜けていく。
 彼のはかなさと幼さと、どこか浮世離れした魅力に貴族は思わず目をとられ、ルフナのすぐ後ろを目を伏せて歩くリュティスの挙動を完全に見逃した。
 袖から魔力で出来た鉛筆状の矢を取り出し、逆手に握って貴族の首元へと投擲使用とするリュティスの挙動をである。
「――!」
 投擲しきる直前。がしりとリュティスの腕を大きくごつごつとした手がつかむ。そばに控えていた護衛の男である。一気に距離を詰めたのか。
「どこのガキだ? まあどうでもいいか」
 腕をがっちりと掴んで固定したまま膝蹴りを打ち込もうとする格闘家風の男。
 それで終わるだろうとタカをくくって見物するもうひとりの護衛、魔術師風の男――の眼前。魔力の塊がくわえたたばこの先端をかき消しながら突き抜けていった。
 狙いはリュティスを掴んだ格闘家風の男である。
 片手片足が塞がった状態であるが故に、格闘家の顔面にクリーンヒット。
「がっ!?」
 ルフナが敵(ないしは脅威)だと思っていなかった格闘家は片目を押さえてそのばから転がり、引き倒されるようにしてリュティスもまた転がった。
 転がる途中で握った矢を男へ突き立て、反射的に手をはなした隙に飛び退いた。
「『ナメてた』女子供にやられちゃって、はずかしいね」
 ルフナはそのチャンスを逃さない。『姑獲鳥』の死霊術を放ち、暴風で護衛の男を壁に叩きつけた。
 と同時にリュティスは協力な呪いを込めた矢を魔術師風の護衛へ発射。
 咄嗟に反撃した男と相打ち、もとい同時に直撃しあった状態となったが、最後に立っていたのはリュティスの側であった。
 今この場に残っているのは、リュティスとルフナ、そして腰を抜かして尻餅をついた男のみである。
 もう一本矢を取り出し、歩み寄るリュティス。
「罪を懺悔しなさい。罪に見合った金額の金品を奪っていくとしましょう
 もちろん異論はありませんよね……?」
 逃げようにも、貴族の首を掴んで脅しをかけたルフナによってぴくりとも動けなかった。
 結局の所、男は手持ちの金を全て奪われ、『ゆめゆめ油断めされるな』と書かれたカードを胸の上においた形で路上に放置されたという。

 さて、深い森をこっそりと進む馬車について話そう。
「なんなのあの店は! わたくしに残飯処理をさせるつもり!? もう信じられない!」
 目つきの悪い女が、口を上等なワインですすいで馬車の窓から外へと吐き出していた。
 鋼の鎧を着込んだ騎士風の護衛が二人。その様子に顔をしかめる。
「村で一番よい宿をと」
「あれが一番? ふざけないで。この私にあんなもの食べさせるなんて死刑もいいとろころよ。そうだわ! 財産を没収して農奴にしましょう!」
「それは……」
「は? 口答えするの?」
 高圧的ににらみつける女に、騎士はすぐに口ごもった。
「気をつけてよね」
 舌打ちし、続けて何かを言おうとした、その時である。
 ズドンという激しい音と共に馬が驚きによって止まり、御者が慌てた声を出した。
 馬車は激しい揺れを起こしたのちに停止し、そして外はしんと静まりかえった。
「……ここでお待ちください」
 扉を開き……騎士が見たものは、その場に横たわる馬と金ヤスリと包丁を握った少女。
「綺麗な耳してるわね。そぎ落としていいかしら」
 一目でわかる危機。騎士はすぐさま剣を抜き少女――もといメリーへと斬りかかる。
 メリーは対抗するように威嚇術を発射。
 真っ向から衝突するなか、馬車の反対側の扉がガチャリと開いた。腐っても貴族の馬車。そうそう簡単に入れぬよう内鍵をかけていた筈だが、エマにはそんなものは関係なかった。特殊な器具を差し込んでしゃらんとピンをなでてやれば簡単に錠が回るのだ。
「こんばんわです。ひっひっひ」
 軋むように笑うエマ。悲鳴をあげる貴族の女。
 もう一人の騎士は彼女を追い出そうと蹴りを放つが、それを予期していたエマは馬車の天井淵を掴んで飛び上がるように回避。逆に両足を揃えたキックを繰り出して騎士を馬車の外へと蹴り出してしまった。
「くう……!」
 護衛対象から引き剥がされる。それは最も避けるべき状況である。
 騎士は泥の上を転がり、すぐさま馬車へ戻ろうと意識のすべてをそちらに集中――したせいだろうか。
 闇を走る無量の刀が、騎士の喉を深く切り裂いていった。
 吹き上がる鮮血。ひゅうひゅうとなる笛の音。
 そうこうしているあいだに、メリーは馬乗りになった騎士の耳を包丁で乱暴に切り落としていた。
「まってね。あとで食べさせてあげるから」
 貴族の女にむけてそう語るメリーの狂気に、女は震え上がった。
 ダガーを取り出し、女の首元へと近づけるエマ。
 無量は無表情のまま近づき、血にまみれた刀をぶらさげて言った。
「脱いでください」
「な、なにを」
「脱いでください。装飾品も全部」
 無量の、まるで機械のように繰り返す口調に恐れを成した女はすぐさまドレスや宝飾品を脱ぎ捨てた。
「こ、これでいいでしょう。さっさと消えなさい、この――!」
「髪もです」
 言い終わるまえにかぶせて、無量はもう一歩近づいた。
「え……」
 呆然とする女の髪を掴み、刀を押し当てる。
 ……その後、暗い森の中ですすり泣く貴族の女が発見された。
 護衛についていた男達は無残な姿で転がり、馬車には『私は油断していたので身包みを剥がされました』と血文字で書かれていたという。

 最後に、旅酒場での一幕。
 不機嫌そうにたばこをふかし、伝書鳩に手紙をくくりつけて飛ばす身なりの酔いスーツ姿の男。
「ったく、仕事のひとつもまともにできないのか、連中は」
「はい」
「俺をろくに満足させないくせに休みだの給料だのは一人前に欲しがりやがる。蜂の勤勉さを学ぶべきだよなあ」
「はい」
 両隣を歩くSP風の男たちは機械的に答えるばかりで、男との間に壁を作っているように見えた。
「フン……返事が来るまで酒でも飲むか」
 見つけた酒場に入ると、席は殆ど埋まっていた。
「いらっしゃいませ、こちらの席へどうぞー」
 美しいウェイトレス(リウィルディア)がトレー片手に男を誘導すると、男は丸いテーブルへとついた。護衛の二人は座ることなく、男の後ろで『きをつけ』をして立っている。
「そちらの方は飲まれないんですか?」
「仕事中に酒を飲む馬鹿はいない。少なくとも俺の部下にはな」
 不機嫌そうに灰皿にたばこを押し当てるが、その後ろ手はSPの男が今にも脱水症状をおこしそうなほどふらついていた。
「あの……」
 差し出がましいようですが、と水を注いだコップを三つテーブルに置くと、男は露骨に舌打ちして後ろのSPに『飲んで良いぞ』と低い声で言った。
「…………」
「…………」
 その様子を盗み見ているサイモンとバルガル。
 いかにも胡散臭い二人組だが、しかし完璧に群衆へと紛れていた。
 特にバルガルの紛れ方は異常であり、目の前にいるサイモンですらふとすると存在を忘れてしまうほど気配を希薄化していた。
 実際の話、彼の注文した料理は未だに届けられていない。
(このオッサン、やべえな……こいつには恨まれないようにしねえと)
 サングラスのブリッジを押すサイモン。そんな彼のテーブルに、するりと一枚のトランプカードがすべった。数字はスペードのジャック。
 サイモンとバルガルはすっくと立ち上がり、同時に――リウィルディアはSPの頭を運んできた酒瓶でもって殴りつけた。
 中身を硬い砂で満たした酒瓶をくらって派手に転倒するSP。普通ならまともにくらわない攻撃だが、リウィルディアが盛った薬物によって意識がぼうっとしていたようだ。
「なっ……!」
 暗殺くらいは慣れたものなのか、貴族の男は慌ててその場から逃げだそうとしたがその足をバルガルが蹴りつけ、足の指の骨を踏み砕いた。
 ぎゃあと言ってその場に転がる男。
「大丈夫、だぁいじょうぶですよ。足の指が折れたくらいで人間死にはしません」
 両目を大きく見開いて、形だけで笑ってみせるバルガル。
 その一方で、駆けつけようとしたSPの脇腹に膝蹴りを入れるサイモン。
「ついてく上司を間違えたな」
 くの字に曲がったところで相手の腕をとり、無理矢理肩関節を外す。
 サイモンは相手の抵抗を崩し、素早く首に腕を回してシメおとした。
「さて……と」
「随分警戒が緩いのですね。これでは命が幾らあっても足りませんよ?」
 恐怖に震える男のネクタイを掴み上げ、サイモンは顔を近づけてサングラスをあげた。
「こ、ころさないでくれ」
「殺さねえよ。……泣いて頼まれてもな」
 サイモンはひどい拷問めいた催眠術を男にかけ、悲鳴をあげる彼を床に転がして店を出た。
 ネクタイをきゅっと締め直すバルガル。
「さて、どこかで酒でものみますか?」
「うーん、今は嫌……かな」
 リウィルディアは苦笑して、男のもとへメッセージカードをなげた。

 こうして立て続けにおこった貴族たちへの強盗事件。
 ウワサは同様の振る舞いをする貴族達へと伝わり、彼らの行動を少なからず変えることになった。
 その影で暗躍した『悪党』たちを、世の者たちは知らない。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete!
 ――bonus up!

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