シナリオ詳細
狂信者達へのレクイエム
オープニング
●狂信者達と貴族
幻想領内のとある町、そこにある教会でのお話。
町に住む富豪の娘が裁判にかけられていた。
教会での裁判、つまり異端審問である。
「わ、私はちょっと女の子が好きなだけよ! それがそんなに罪だというの?」
娘は男性よりも女性の方が好きなのだが、そのせいで突然拘束されて裁判を受けさせられているのだ。
「神が定めた法により、この世のあらゆる罪を裁くのです。それが我々の役目!」
そう言っている司祭は、普段とても優しく穏やかで笑みをたやさない人物として知られていた。
彼は貴族だが、司祭の位を得てからはずっと町の人々と気さくに接してきたのだ。
裁かれるのは彼女だけではない。
この場に連れてこられた娘と仲の良い町の少女達、屋敷の小間使いも怯えた様子で裁判の行方を見守っている。
「私は誰かを傷つけたわけじゃないのに……」
娘が項垂れてしまうのを見て、小間使いがしくしくと泣き出した。
「盗み、殺し、暴力、強欲、怠惰、色欲、妬み……この世には何と罪の多いことか!
だが神は我々を許してくださる! そう、告白して悔い改めさえすれば! 何と慈悲深いのか!」
教会に集まった町の人々は、司祭のあまりの変化に戸惑っているようだ。
司祭だけが唯一、晴れやかな表情で滔々と話し続けている。
いかに人間は罪深く、いかに神が慈悲深いか。
実に嬉しそうに話しているが、それに賛同しているのは司祭の元で神の教えを学んでいる修道士達だけだ。
司祭は数日前に突然、このような裁判を始めたらしい。
神の名のもと、身分や性別、年齢や職業もバラバラに何かしら噂がある者は全て教会独自に雇っている僧兵に拘束され、教会へと連れて行かれた。
教会の一部は今や牢獄となっている。
しかも噂の真偽はどうでもいい様子で、どんなに些細な内容でも司祭が神の教えに反している、罪であると認めればすぐに連行された。
そして、自らが犯した罪を全て告白し、悔い改めて罰を受けるまでは帰してもらえないのだという。
罰は罪の種類よりも程度に応じて決められるというが、食べ物に困ってりんご1つ盗んだだけで両腕を切り落とすと言っているなど、あまりに凄惨で罪とつり合わないものばかりだ。
生命を対価とする罰も少なくない。
もちろん、まだ誰も罪を告白しようとはしていない。
しかし、教会で監禁されている間、ずっと修道士達から告白せよ、悔い改めよ、と言われ続け、神の教えを説かれ続けるらしく、精神的に追い詰められて告白してしまう者が出るのも時間の問題だろうと思われていた。
ろくに食事も与えられないと言い、長くこの状況が続けば死者が出てもおかしくはない。
●ローレットにて
「皆さんは『シルク・ド・マントゥール』の公演、見に行きましたか?すごかったのです」
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が興奮気味にイレギュラーズへ話を振る。
実際、公演は大成功で素晴らしいものだったという。
軽くその話で盛り上がったが、本題は依頼の話である。
促されてユリーカはコホンと小さく咳払いをし、真面目な表情になって話し始めた。
「ある町の司祭さんが、おかしくなったらしいのです。宗教裁判と言うのでしょうか?
そういうことを始めて、たくさんの人を拘束して監禁しているらしいのです」
しかも司祭の元には僧兵達がいるため、一般の人々では迂闊なことができないらしい。
家族が拘束されたことに抗議しに行き、そのまま監禁された者もいるという。
「食いしん坊なだけで強欲だ、と連れて行かれた人もいるらしいのです。怖いのです……」
ユリーカが怯えたように言う。
今回の依頼は娘を連行された富豪からのものであり、司祭に監禁されている人々を救い出すのが主目的となっている。
当然ながら、僧兵達に邪魔される可能性は高い。
司祭や修道士達についても、どう動くか予測できない。
戦闘能力はないだろうが、何をするか分からないという意味では彼らも危険かもしれない。
「かなりおかしくなっているらしいので、油断しない方がいいと思うのです。
気を付けて行ってきてください」
ユリーカは心配そうにイレギュラーズを見送るのだった。
- 狂信者達へのレクイエム完了
- GM名文月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年04月13日 21時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●教会と司祭達
イレギュラーズ達は、街に到着すると教会の近くに宿を取って集合場所と定め、まずは情報収集から始めた。
『暗黒騎士(自称)』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)がネズミをファミリアとして召喚し、こっそり教会の中へと潜り込ませた。
内部の間取り確認や礼拝、異端審問の時間の確認など、やるべきことは多い。
周囲に警戒しながら進ませる。
「なあ、司祭様どうしちゃったんだろうな……」
教会内の住居スペースがある区画で、僧兵2人が何やら話していた。
元々ただの教会なので、普通に使っていた部屋を流用して逃げられないよう外から鍵をかけ、この2人が見張っているのだろう。
1つの部屋に数人が押し込められているのか、部屋の中から微かに話し声が漏れている。
「分かんねぇけど、最近ちょっとおかしいよな。人が変わったみたいというか……」
事前に聞いていた通り、僧兵達も司祭の変化には困惑しているのだ。
「これまで拘束した中に、監禁したり異端審問にかけたりするほどの罪を犯した人間なんて1人もいないってのにな」
「ああ。逃がしてやりたいが、司祭様には恩があるしどうしたらいいのか……。ここのところ毎朝礼拝して、昼から異端審問だろ? 早く元に戻って欲しいよ」
2人して大きな溜息をついている。
ユーリエのファミリアが教会内を偵察している間、『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)、マルク・シリング(p3p001309)、『軋む守り人』楔 アカツキ(p3p001209)は街中に出て司祭達や教会について、そして依頼の遂行に必要そうな情報の収集を行っていた。
イーリンは教会周辺でそれとなく聞き込みしたが、誰もがほんの数日前まで司祭は本当に素晴らしい人だったと話していた。
修道士達も司祭のもとで熱心に神の教えを学んでおり、司祭と同様に評判は良かった。
イーリンが話を聞いた相手は誰もが皆、司祭達は何かおかしな病にでもかかったのではないか、彼らがあんなことをするなど信じられないと話している。
いずれも、事前に聞いていた話の裏付けとなった。
マルクは教会の近くにある店などで礼儀作法のスキルを活かした聞き込みを行っていた。
そこで分かったのは、教会には誰もが自由にいつでも入れるということ、昼間は鍵をかけずに正面入口の扉がいつも開け放たれていること、司祭は礼拝の時間と異端審問の際に必ず姿を現すこと、の3つだった。
アカツキはというと、司教の素性などを詳しく聞き込みしていた。
街の人によると、司教はあまり自分のことを語りたがらなかったようだが、名前はウルバヌスだと分かった。
ただ、司祭は貴族出身で元の名前は捨てており、皆が知っているのは聖職者としての名前だという。
司祭は本気でそれまでの自分を捨て、神に仕えていたようだ。
ユーリエのファミリアが宿に戻ってくると、すぐに教会内の地図を作成し、他の3人が調べてきた情報も考慮に入れつつ相談し、潜入計画を詰めていく。
翌日の昼間、異端審問が行われる直前に潜入を決行することになった。
司祭、修道士、僧兵達のほとんどが礼拝堂に集い、拘束されている人々がまだ監禁されている部屋にいるところを狙うのだ。
これはユーリエ達の調査にくわえ、イーリンのギフト、インスピレーションによって確定された情報を元にして決定した。
目指すは司祭達も含めた全員の生存だ。
●教会への潜入、そして脱出
「さて、囚われのお姫様達を助けにいきましょ」
司祭達を説得するのはひとまず他メンバーに任せ、『宵歩』リノ・ガルシア(p3p000675)とアカツキが拘束された街の人々を救出しようと、潜入を試みる。
リノは潜入に有効なギフトを持っているが、それは夜にこそ真価を発揮する。
今回、潜入が昼になったため、メリットとデメリットを考えて使わないことにした。
教会の住居スペースは意外に広く、外からは分かりにくいが3階まであり、その上に鐘楼がある。
住居スペースは各階ごとに部屋が8つあるようだ。
人々が監禁されているのは3階である。
2階では司祭や修道士が生活しているらしい。
3階住居スペースへの出入り口は各部屋の窓や2階からの階段に続く廊下、鐘楼から続く階段など複数ある。
街の教会だけあってそれなりに立派な建物だ。
高さは一定ではなく、鐘楼のある部分は高くなっているが、低いところもあるようだ。
今回、リノ達はすぐ近くの民家から教会の低い部分の屋根へと飛び移り、そこからまず鐘楼へ登って内側から3階へ向かうことになっていた。
そのためにアカツキが鉤縄を用意してきている。
昼間なので見つかりにくいよう教会の裏手から、できるだけ物陰に身を隠しながら動く。
教会の屋根からアカツキが鉤縄を投げて鐘楼に引っ掛ける。
鐘楼は鐘の音が周囲によく響くよう、壁が大きく開いているので潜入しやすい。
それから2人で登り、鉤縄を回収してから階下の様子に注意しながら静かに階段を下りていく。
見張りの僧兵2人は、前日とは違う者達だった。
「そういえば、お前『シルク・ド・マントゥール』見に行ったんだよな? どうだった?」
「ああ、めちゃくちゃすごかったぜ! お前まだなんだよな。絶対見に行った方がいいよ、あれ!」
今日の見張りも雑談しているようだ。
アカツキが静かに、そして素早く階段を下りると僧兵の片割れに蹴戦による蹴り攻撃を仕掛け、気絶させる。
もう1人が驚いて何か言おうとするが、問答無用でこちらも蹴戦で気絶させてしまう。
見張りに立ってはいたが、監禁されている人々が逃げないようにしているだけで、外から誰かが侵入することは想定していなかったのかもしれない。
実にあっけなかった。
続いてリノも下りて来ると、解錠スキルを使って人々が監禁されている部屋のドアを開けていく。
開けながら、中の人々に声をかけていく。
「助けに来たわ。仲間が誘導するから、静かにね」
事前に調査した結果、教会の1階部分には異端審問や礼拝が行われる礼拝堂の他、バックスペースや裏口があることが分かっている。
住居スペースへ続く階段は、そのバックスペースへと出るようになっている。
一般的な教会の作りと言えるだろう。
礼拝堂の裏へのドアは普段閉まっていることも確認済みだ。
つまり、今なら人々を連れて密かに裏口から脱出可能というわけだ。
礼拝堂で異端審問を開始しようとしている司祭や修道士、残りの僧兵達は今頃他メンバーが相手をしているはずである。
リノは気絶している2人の僧兵を縛り上げて猿ぐつわをかませ、拘束されていた人々が脱出したことを司祭達に悟られないようにしておく。
全員が部屋から出たのを確認すると、アカツキが先頭、リノが最後尾に立って極力静かに裏口から出ていく。
集合場所としていた宿屋の主人には、脱出した人々の面倒を見てくれるよう既に話をつけてある。
ここから離れたら一旦宿屋へ向かうよう全員に伝え、リノとアカツキは他メンバーと合流するために礼拝堂へ向かうのだった。
●その言葉は届くのか
リノ達が潜入にむけて行動を開始した数分後、説得のために他メンバー6人も動いていた。
異端審問を始めようと準備を進めている司祭、修道士が礼拝堂にいる。
僧兵達のうち10人は着席している街の人々に向かって立ち、残り3人は異端審問が始まれば司祭が立つであろう説教台の近くにいる。
礼拝堂の中も一般的な教会と同様、ドアから入って正面中央に見えるのは十字架であり、その左右に説教台や聖書台、少し離れたところから入り口近くまでは信徒達が座るための横長の椅子が通路を挟んで2列に並んでいる。
通路は十字架のある正面の壁まで続いている。
その通路をイーリンを先頭にした6人のイレギュラーズが歩き、信徒達と共に椅子に座るでもなく、信徒達に向かって立っている僧兵達を無視して、聖書台にいる修道士達と話している司祭のところまで進もうとする。
が、さすがにその直前で説教台の近くにいた僧兵達が近づいてきて、その歩みを止めさせた。
「ここから先はご遠慮願おう」
「分かりました。では、ここで……。
ごきげんよう司祭様。突然の無礼をお許し下さい。信徒として、お尋ねしたい事が」
イーリンが司祭に向かって悠然と頭を下げ、注意を引く。
これは同時に、他の5人に司祭達への説得、問答を始めるようにという合図でもあった。
それを受け、『Calm Bringer』ルチアーノ・グレコ(p3p004260)が司祭に向けて頭を下げ、丁寧な態度で声をかける。
「旅人の、ルチア―ノと言います。この世界の神の教えをご教授願いたく伺いました」
ルチアーノの物腰は柔らかく、僧兵達の中にも警戒している者はいない。
「おお、おお! 何と素晴らしいことでしょう! 我らが神の教えはこの世界の者だけでなく、全ての世界に光を与えている!」
司祭はかなり嬉しそうだが、その言葉はどこかずれている。
そして、彼の瞳は常にどこか遠くを見ているようで、イーリン達の方を見てはいるが視線は合うことがない。
「ちょうど良いところに来ましたね。これから異端審問を行うのです! 堕落した者達の姿を見ることで、我らが神の素晴らしさが分かるでしょう!」
司祭にとっては完璧な理屈なのだろうが、他の者にはその理屈がいまいちよく分からない。
しかし、イレギュラーズは動じることなく司祭に向かって神の教えについて質問を続け、潜入班が動きやすいように司祭や僧兵達の気を引き、時間を稼ぐのだった。
ユーリエはというと、司祭が語っている間ずっとその話を熱心に聞きながら目を閉じて祈りを捧げている風に見せつつ、密かにまたネズミのファミリアを召喚していた。
ファミリアはリノ達にこちらの状況を伝えるために3階に配置していた。
司祭や僧兵達への説得が失敗して戦闘になってしまったり、僧兵達が監禁している人々の様子を見に行ったりするようなことがあれば、すぐに合図を送って知らせることになっていた。
ルチアーノやイーリンが司祭に向けて話している間、『暴牛』Morgux(p3p004514)が僧兵達の説得を試みる。
Morguxは不測の事態に備えて戦場神のギフトを発動させた状態で、司祭の行動に戸惑いつつも恩義を感じて従っている僧兵達に話しかける。
「罪がある奴を捕まえるのはまぁ良いだろう。だが、お前らがこの数日で捕まえた奴らは、別に罪がある訳じゃねぇよな? んで、抗議した家族まで捕まえるってのはおかしいんじゃねぇか。なぁ?」
Morguxの言っていることは間違っていない。
僧兵達は顔を見合わせ、困ったような表情を浮かべている。
「ろくな食事も与えずに追い詰めて、果てには重すぎる罰を与える……そんなことを命じるのがお前らの神か。ハハ、悪神か悪魔でも信仰してんのか? 業が深いねぇ」
Morguxは小柄だが、その話を聞いて動揺する僧兵達の方が小さく見える。
身長だけで見るなら、僧兵達の方が確実に大きいのだが。
「そもそも、恩がある相手なら間違ったことをしようとした時に止めるべきでは?」
お忍び貴族を装っている『サイネリア』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)も、僧兵達を説得しようと加わった。
人心掌握術、信仰蒐集のスキルを使い、さらには天真爛漫のギフトまで発動させているスティアの言葉は、僧兵達にかなり響いているようだ。
信徒達を見張るかのように立っていた僧兵達もいつの間にか近くに集まっており、スティアやMorguxの言葉に耳を傾けている。
「今一度考えて下さい。この教会が行っている事を。そしてそれを正さず、付き合うのが貴方達の選ぶべき道なのかを」
スティアの言葉で、僧兵達は完全に戦意喪失したようだ。
「俺達、最近の司祭様はおかしいと思いながらも、どうしたらいいか分からなかったんだ……」
「だが、あんた達の話を聞いててオレっち達がやるべきだったのは、司祭様を止めることだったんじゃないか、って……」
そんな風に言い、僧兵達は皆うなだれてしまった。
「分かっています。だからこそ、貴方達には私達に手を貸せとは言いません。ですが、できることなら邪魔はしないで」
「そういうことだ……仕事の邪魔をするなら容赦はしねぇ。当たり所が悪けりゃ死ぬぜ、死にたくねぇなら武器を置きな」
スティアが言うと、Morguxもダメ押しとばかりに言い放つ。
これを聞き、僧兵達は武装解除して教会を出て行くことにしたようだ。
「できれば、司祭様や修道士達に怪我をさせないでくれ……皆いい人達なんだよ。今でこそ、あんな風におかしくなっちまったが……」
そう言って、僧兵達は教会を出て行ったのだった。
これ以上、司祭達が罪を重ねるところは見たくなかったのかもしれない。
そんなやり取りが後方で行われている間、司祭は神の教えがいかに素晴らしいか、熱に浮かされたようにずっと語り続けていた。
僧兵達が教会を出て行ったことにも気付いていない。
そんな司祭をよそに僧兵達が教会を出ていくのを見届けたマルクは、司祭を否定するようなことを言ってみる。
「人は罪を犯す。告白する事で神は罪を赦す。それは正しい。ですが、安易に死刑や身体刑を科す事が、本当に神の教えだと言うのですか?」
司祭はこれを聞くと、聖書台にあった聖書を取り、その表紙を時々バンバンと叩きながら話し始めた。
「いいですか、これは神の教えを書いたとされる書物ですが、こんなものは偽物だ! 私は神の声を聞いたのです!
神は嘆いておられました。人が犯す罪がなくならないことを! だから私が、全てを正すことにしたのです!」
やはり、司祭はどこかおかしい。
そしてその時、拘束されていた人々を解放したリノ達が礼拝堂に入ってきた。
「はぁい、こっちはOKよ」
それを聞き、これまでずっと司祭達の話を聞きながら、着席していた信徒達を少しずつ避難させていたイーリンが司祭に向かって微笑んだ。
だが、その唇が紡いだのは、司祭の全てを否定するかのような言葉だった。
「司祭様――汝は邪悪なり」
ルチアーノも、これを待っていたかのように言い放つ。
「貴方達の表情には、曇りが見えます。罪とは、過ちとは何か。己の内なる神から、目を背けてはいませんか?」
司祭は、聖書台にあった燭台を掴んで笑い始めた。
かなり不気味である。
その後ろでは、修道士達が近くにあった花瓶や椅子、燭台を持ってこちらの様子を窺っている。
リノ達が人々を解放した時点で、ファミリアを3階の見張りをしていた僧兵達の監視にあてていたユーリエも、こうなった以上は司祭達との戦闘に備える。
「思い出せ、ウルバヌス。
神に身を捧げる事だけがお前の目的か? お前にはもっと為すべき事があったはずだ」
アカツキが司教に呼びかけるが、効果はない。
それでも諦めず、アカツキは司祭達の狂気を払おうと強い気持ちで祈りを捧げるが、彼の祈りは届かなかったようだ。
「ええ、ええ! これこそが私のなすべきこと! これまで愚かだった私が思いつかなかった、最高の神への奉仕なのです!
貴方達にも神のご意志を見せてあげましょう! ハレルヤ! 神を賛美せよ!」
ついに司祭は修道士達を従えてイレギュラーズに襲いかかってきた。
しかし、元々が神に仕えていた者達である。
司祭達の目は血走り、鬼気迫った表情を浮かべており、尋常ではない雰囲気だが、燭台や花瓶など持っている物を闇雲に振り回しているだけだ。
イレギュラーズなら、よほどのことがない限りその攻撃を食らうことはないだろう。
イーリンはすぐにマギウス・スクト・アル=アジフで自らの周囲に魔書の断章を漂わせて防壁を張る。
「司祭様は邪神に騙されています! その狂気を取り払う為にここに来ました!」
ルチアーノが前衛として司祭の気を引き、後衛のマルクがマギシュートで司祭達の持つ凶器を弾き飛ばそうと狙う。
戦闘能力を持たない司祭達が相手なのだ。
凶器さえ奪えれば、取り押さえるのは難しくないはずだ。
スティアも司祭達が持つ凶器を狙い、中距離から魔弾を放つ。
マルクもスティアも、司祭達に極力ダメージを与えないよう細心の注意を払っている。
やがてマルクのマギシュートが修道士の持つ花瓶を割り、椅子を叩き壊し、スティアの魔弾が燭台を弾き飛ばす。
すかさずルチアーノが蹴戦で司祭や修道士達を気絶させた。
「以前の志を思い出して、また皆の為に正しい教えを説いてくれるようになるといいけれど……」
そんなことを言いつつもルチアーノがロープで司祭達を縛り上げる。
念のため、スティアが司祭達が怪我をしていないか確認する。
多少の切り傷、打ち身などが見られたので、救急箱や包帯を使ってすぐに治療を施す。
「司祭達は病気なのかもしれない。王都に連れて行けば、専門家の治療も受けられると思います」
マルクが言うと他メンバー達も賛同する。
もしかしたら、治療を受けることで今回のような事態に陥った原因が分かるかもしれない。
3階にいた見張りの僧兵達は、イーリンから他の僧兵や司祭達に何があったかの説明を受け、半泣きになりながら謝罪し、解放されると肩を落として教会を後にした。
その後、宿屋に集まっていた人々はギルドから送られた応援によって保護され、それぞれの家に帰された。
司祭達は王都へ送られたが、今も狂気に染まったままらしい──。
成否
大成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
大変お疲れ様でした。
今回は私、文月の担当しましたシナリオにご参加いただきありがとうございました。
見事に依頼は大成功となりました。
拘束された人々が生きて戻っただけでなく、僧兵達の説得に成功し、強い意志を持って行動した結果、司祭達も生きて捕縛されました。
ダイスの結果が58でしたので、残念ながらPPP発動はなりませんでしたが、その強い意志と奇跡を願う心にMVPを贈らせていただきました。
司祭たちの今後は心配ではありますが、生きているのですから希望はあるでしょう。
監禁されていた人々、そしてその家族だけでなく僧兵達も、きっと皆様に感謝していることと思います。
少しでも楽しんでいただけましたならば幸いです。
またの機会がありましたら、よろしくお願いいたします。
GMコメント
閲覧ありがとうございます、文月です。
今回はおかしくなってしまった司祭のところで監禁されている人々を救出するのが目的です。
以下、補足となります。
●成功条件
・監禁されている人々の救出
富豪の娘はもちろん、もれなく助け出してください。
数日の間に20人程が捕まっています。
余力があれば、司祭や修道士達を拘束するのも良いでしょう。
放置すれば、また同じことをするかもしれません。
●僧兵達についての確定情報
・基本的には傭兵
・司祭に恩がある者も多く、戸惑いながらも従っている
・司祭達のようにおかしくなった訳ではない
・人数は15人くらい
・強さは人によってまちまち
・最も強い者で、そこそこ強いくらい
・前衛10人、後衛5人くらい
●司祭、修道士達についての確定情報
・司祭は50代後半くらい
・修道士は4人
・全員、おかしくなっている
・神を讃えない者は異端扱い
・異端者には容赦ない
・戦闘能力はほぼ皆無だが、何をするか分からない
僧兵、司祭、修道士達はいずれも生死不問とします。
●その他
口調や性格等が分かりやすいよう書いていただけたりしますと、大変助かります。アドリブ不可と記載がない場合はアドリブが入ることもありますのでご注意ください。
皆様のご参加、お待ちしております。
Tweet