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シナリオ詳細

<八界巡り>マカライトの世界

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

<八界巡り>マカライトの世界
 練達階層都市の一角に、そのビルはあった。
 広い人工公園がすぐ隣に見える窓に、マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス (p3p002007)は腕を組んで寄りかかっている。
 ふと部屋の中に視線を戻すと、白く清潔な……悪く言えば椅子以外なにもない部屋に、八人のイレギュラーズが集められていた。
「ここに来るのも二度目だなー。終わったら友達に挨拶してきていいか?」
 三ヶ月ぶりの研究所にややうかれぎみの清水 洸汰 (p3p000845)。
「依頼者は『白亜工業』……ということは、例の情報抽出依頼ですか」
 多くの経験を経たことで人間関係や周辺環境が大きな変化をもたらしつつある桜咲 珠緒 (p3p004426)。
「顔ぶれも前回とほぼ一緒だしね。次は誰の世界になるのかな」
 その中でも最も大きな影響とも言うべき藤野 蛍 (p3p003861)。
「俺は特に聞かされてないな。ま、どこだろうと命の危険までには至らないだろ」
 フランスパンにあのマーガリンとジャムを一緒にパキッてやってしぼるあのやつ(正式名称ディスペンパック)を塗ってはむはむやっている上谷・零 (p3p000277)。
「ククク……」
 リュグナー (p3p000614)は意味ありげに(もしくは意味もなく)不気味にわらっている。
「……」
 ランドウェラ=ロード=ロウス (p3p000788)は腕の刻印をなでるようにして独特の手入れをしれいた。
「………………」
 一方ジェック (p3p004755)はといえば窓の外に広がる偽りの青空をぼーっと見つめていた。
 スライド式自動ドアが開き、眼鏡をかけた男が入ってくる。
 眼鏡をかけた男性である――という以外の特徴がまったく頭に残らない、なのになぜか存在感の強い、奇妙な男であった。
「こんにちは、皆さん。顔を見る限り……説明の必要はなさそうですね」

●白亜工業
 探求都市国家アデプトの基本方針と同じく世界のルールの突破と元世界への帰還を目的とする旅人団体『白亜工業』は、ウォーカーの肉体から異世界の情報を抽出し混沌世界の侵食を試みるべくプロジェクト<八界巡り>を続けている。
 今回はその二回目である。
「今回は、俺の世界らしい……」
 壁から背をはずし、みなのほうへと数歩あゆみよるマカライト。
 眼鏡の男は小さく頷き、ボードを返して見せた。
「地球A3591……振り分け番号を覚えてもらう必要はありません。地球と名のつく世界はウォーカー間でも多数報告されますがそれぞれが同名かつ異なる世界であるケースが多いため便宜上の振り分けをしています。
 覚えにくいなら研究員が愛称としている『邪神地球』と呼んでもらってもいいでしょう」

 邪神地球。
 『地球A0001(バベル的に言えばPLの住む標準的地球)』と比較して産業革命時代におきた亜人種の混入と20世紀末におきた邪神大戦により大幅に文明感の異なる世界。
 数世紀にわたっておきた人種および亜人種における領土や権利問題が地球全土の敵である邪神の出現によって一変し、人類種(人亜人の総称)が同盟を結び、主要大陸の各地で邪神たちとの戦争を続けている。
 今回スポットをあてるのは西暦にして2599年。実に600年という月日を経て邪神の存在は自然災害の一種程度にまでとどまっている。
 科学八割魔術二割で混合した文明は超高度化し、特に薬学や機械工学が著しく発達した。目に見えてわかるのは医療や薬品分野だろう。
 そんな世界でほかとくらべ特徴的なのがやはり『邪神』の存在である。
 正式には『次元生命体』とよび、彼らは空に開いた穴からやってきて地球を侵略する敵であり、その容姿の恐ろしさや出現時に主要大国の半分を占領(魔境化)したとうい軍事力からもわかるとおり多くが高い戦闘能力をもつ。
 南米、北ロシア、中国西部、アトランティス島域、この四箇所から現れるという。(主要大国が占領されたのもこの出現位置ゆえのことだろう)

「邪神は死に瀕すると近くの人間を取り込んで『再誕』する。ただしその人間が強い意志や欲望をもっていた場合、まれに主導権を奪い不老をはじめとする異能を得る『邪神憑き』となる。つまりは……俺のことだな」
 マカライトは手を握ったり開いたりすると、上半身から直接はえているという六本の鎖をふわりと浮かせて見せた。
「そして例の年ということは、場所は……」
「はい、秘匿呼称アイアンボトム。『鉄鎧の邪神』とその眷属との非常に大規模な戦闘作戦が行われました。皆さんには、その戦争に『邪神憑き』傭兵のひとりとして参戦していただきます」
「…………ほう」
 ここにきて初めて、リュグナーが興味深そうに声を上げた。
「それは、戦場に参加する『邪神憑き』たちに紛れて戦うということかな?」
「いいえ。今回の再現世界ではマカライトさんを除くすべての『邪神憑き』が参戦していません。
 『邪神憑き』はその異能ゆえに極めて高い戦術的価値を持ち、一人欠けるだけでも大規模作戦を左右すると言われています。
 この作戦に本来エントリーするはずだった『邪神憑き』がいないとなると……」
「アッ……」
 察した様子で顎をあげるジェック。
 零やランドウェラも意図することがわかったようで……。
「十中八九、敗北することになるだろうな」
「俺たちがその戦闘の主力になれ、ってことか」
 以前『邪摩都』へ入った時も、混沌世界とは比べものにならないほどの戦闘能力を発揮し戦いの主導権を握っていた。
 今回もそれと同じことが、別の形でおきるということだろう。
「今回、選択をしていただく必要はありません。皆さんには人類側の主戦力傭兵となって、鉄鎧の邪神およびその眷属たちと戦っていただきます」

●ワールドオーダー
 介入手続きを行ないます。
 存在固定値を検出。
 ――桜咲 珠緒 (p3p004426) 、検出完了。
 ――上谷・零 (p3p000277) 、検出完了。
 ――リュグナー (p3p000614) 、検出完了。
 ――ランドウェラ=ロード=ロウス (p3p000788) 、検出完了。
 ――清水 洸汰 (p3p000845) 、検出完了。
 ――マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス (p3p002007) 、検出完了。
 ――藤野 蛍 (p3p003861) 、検出完了。
 ――ジェック (p3p004755) 、検出完了。
 世界値を入力してください。
 ――当該世界です。
 介入可能域を測定。
 ――介入可能です。
 発生確率を固定。
 宿命率を固定。
 存在情報の流入を開始。
 ――介入完了。
 ようこそ。今よりここはあなたの世界です。

GMコメント

 ご用命ありがとうございます。黒筆墨汁でございます。
 当シナリオは、旅人8名の出身世界を個別にめぐる非連続シリーズ<八界巡り>企画の第二弾でございます。
 そうなることはそうそうないとは思いますが、全ての世界(8世界)を巡ることが必ずしも出来るとは限らないことを、あらかじめご了承ください。

■この世界でできること
 世界をシミュレートしている状態ですが。基本的には混沌のルールが適用されています。
 つまり銃も魔法も邪神もありです。逆に、非介入側世界にしか存在しない技術を習得ないし持ち帰ることはできません。

・邪神憑き
 皆さんは何かしらの邪神の異能を得た『邪神憑き』としてこの世界に介入しています。
 プレイングにはどんな異能をもち、どんな力を振るうかを自由に、ほんとに自由に決めることができます。
 めったにない機械なのでがっつりいっちゃいましょう。
 マカライトさんはそのまま……というかかつての世界でふるっていた猛威をそのまま振るう形になるでしょう。(が、ステータスシートだけでは把握が不可能なのでやっぱりプレイングに記載していただく必要があります)

 人類がFDP(空飛ぶ戦車。人類側の兵器)などの自動操縦兵器(俗に言うドローン)をどかどか投入している中で、皆さんはバリバリの生身で戦場にエントリーすることになります。

・戦場
 大国の旧市街地です。派手に破壊され盛大に木々や草といったものに覆われています。
 高いビルなどはある程度残っていますが、だいぶ壊れてしまっているでようです。

■成功条件
 『鉄鎧の邪神』を倒すことがこのシナリオの成功条件です。
 マカライトさんが正史においてこの作戦に参加していなかったためか『鉄鎧の邪神』のフォルムや能力、どころか作戦の状況自体があちこち正史と異なりますが、そこはあまり気にしなくて良いようです。

・鉄鎧の眷属たち
 『空の割れ目』ことゲートから出現した邪神たちです。
 市街地に大量に放逐されており、これを撃滅しながら人類軍を進めさせるのが作戦の前半部分となります。
 皆さんを援護する人類軍の一方、自由に邪神たちを殲滅、前進していってください。
 邪神たちは人類種と比べると強すぎますが、熟練の邪神憑きにかかれば一撃で抹殺できてしまいます。

・鉄鎧の邪神
 丸ノ内ビル程度の大きさをもつ巨大な鎧です。
 鎧が本体なのか、その中になにかが隠れているのかはわかりません。
 こいつ自体が重要な戦術兵器であり、これを抹殺することが大陸の解放に大きく寄与することになるでしょう。
 戦闘力は……なんていうんでしょうか、歩いて通過しただけで都市が一個なくなっちゃうくらいのヤバさです。実際ドバイを一人で滅亡できるでしょう。
 皆さんの戦闘力もえげつないほど高いですが、こればっかりは協力して戦うべき敵となるはずです。

■■■アドリブ度■■■
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用ください。

  • <八界巡り>マカライトの世界完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年06月05日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ
リュグナー(p3p000614)
虚言の境界
ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸
清水 洸汰(p3p000845)
理想のにーちゃん
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者

リプレイ

●介入開始
 『イデアの棺』を用いて仮想世界へとログインしたイレギュラーズ・ウォーカーたち。
 『君が為』上谷・零(p3p000277)は滅茶苦茶に崩壊した日本らしき景色を前にまず息を呑んだ。
 舗装道路は無残に打ち砕かれ、あちこちから木々が生えてしまっている。
 どこからか水が流れ込んだのか、ぶちぬかれた地下道へと小さな滝ができあがり、苔むした道路に野生動物や昆虫の姿が見える。
 一度は栄えた文明が瞬間的に崩壊し、生活感を残したまましかし自然に飲まれ尽くすほど廃れてしまった。そんな、いっそ幻想的な風景である。
「色々凄い世界だよな此処…え、ホントに地球…?
 ……聞く限りでは地球っぽい所もあるっぽいが……やっぱ色んな世界が存在するんだなぁ」
 違いに驚く零の一方、『二人でひとつ』藤野 蛍(p3p003861)はこの風景にどこか胸をうたれた様子だった。
「ここが、マカライトさんが生まれ育った『地球』……ボクがいた地球とは似て非なる世界なんだっていうのは、見ただけで伝わってくるけど……」
 ぎゅっと『二人でひとつ』桜咲 珠緒(p3p004426)の手を握る。
「たとえ違う『地球』の人達であっても、守れる命があるなら、ボクは戦いたい」
「蛍さん……」
 この複雑な感情は、一度経験した。珠緒がかつて暮らしていた世界を、仮想世界であると知りつつも救うことを選んだ彼女。
 そこには彼女自身の芯の強さと、たとえそこがどこであろうと曲げない行動規則ともよぶべきものがあった。
 行動規則。そういった意味では、『理想のにーちゃん』清水 洸汰(p3p000845)も同じである。
「オレの知ってるチキューとも違って……けっこー物々しい感じだな。
 邪神も異能も、空想上のものだって思ってた。
 だけど、世界が違えど、コータ様はコータ様!
 どんな時でもどんな場所でもバッチリしっかり、決めてやるからなー!」
 まるで散歩の寄り道みたいに世界を救う少年、コータ。彼もまた、この世界でやるべきことを自分自身で決めていた。

 不安や驚きでいっぱいな者がいる一方で、『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)たちはこの世界の個性にワクワクしている様子だった。
「ここがマカライトの世界か。不思議が多いからやっぱり楽しいなぁ」
 特に興味をもったのがマカライトに代表される『邪神憑き』の特徴である。
 人知を超えた異能をもち、世界の情勢すら左右しかねない彼らの存在。
 ランドウェラは今、そんな存在の一部となって本来もつはずのなかった異能を手にしていた。
 自在に動く右腕が、今すぐにでも破壊がしたいとうずいている。
 珠緒のほうは、彼女のもつ個性をそのまま拡大解釈したような異能として現れていた。
「科学文明……稼働している都市等には、触れる機会はなさそうですね。
 時間が許せば、帰還前に見てみたいものです……邪摩都のように」
 もとは小さな部屋……もとい『箱』の中で人生を終えるはずだった珠緒。
 それがたとえ雑草の一本であってさえ、新鮮な驚きと知識にあふれていた。それが異世界の空や大地、文明であったならなおのことだ。
「クハハハハ! はしゃぐのも無理はない。邪神憑きの力……成程、中々面白そうだ」
 『虚言の境界』リュグナー(p3p000614)は包帯を外して目をあらわにした。
 彼が望む限り、そして彼の脳や意識がこの世界基準で耐えられる限り、正確に計算した未来情報を複雑かつ多元に追体験し続けているようだ。この感覚は、さすがに体験した人間にしか説明しようがないだろう。
 参考までにある者はこの『ラプラスの悪魔』を『誰もが幾本もの川を流れる中で、自分だけが空を飛べるようなもの』と表現したらしい。
「それにしても……以前の実験世界もそうだったが、やはりどの世界でも争いは付き物なのだな」
「ニンゲンのサガ、かな」
 『スナイパー』ジェック(p3p004755)はあえてライフルを持ち込まず、空に向けて右手をかざした。
 コッという小気味よい音と共に彼女の腕が上下に割れ、中から露出した謎のエネルギーライフルが天に向けて青白い光の砲撃を放つ。
「……変形は浪漫」
「気に入ったようで何よりだ」
 『かくて我、此処に在り』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)は苦笑し、そして自らの身体からはえている計六本の鎖を自在に操作した。
 まるで自らの手足のように繊細に動作することはもちろんのこと、無限に鎖を延長したり一瞬にして編み上げて巨大な鋼のロープに変えたり、時には鎖の先端をピッケルのように建物の壁に突き立てて移動するといったアクロバティックな動作までもを可能にしていた。水を得た魚ならぬ邪神をえたマカライトである。
「吸う空気も、木が茂る景色も、街に来る【邪神】も……殆ど記憶そのままだ。
 鎖も自在に動くし、故郷での動きを遜色なく出せるだろうなぁ……」
 滅多にない機会だ、とつぶやいて拳を握り混むと、マカライトは砕けた道路へと降り立った。
「混沌世界でセーブされた鬱憤もアレもコレも、ここで晴らす!」

●鉄鎧戦争
 マカライトたちの位置情報をキャッチしたのだろうか。人類軍のFDPが無数に到着し、自動で編隊を組んで砲撃準備に入った。
 空中にマジックサークルが表示され、軍帽を被った将軍らしき人物が顔を見せる。
「『邪神憑き』の諸君。此度の作戦に加わってくれたことを深く感謝する。
 君たちへのオーダーは『鉄鎧の邪神』撃滅だ。我々は可能な限りの援護攻撃を行うが、あくまで主力は君たちだと思ってくれ。まあ、説明はいらないだろうが……」
「ああ、任せてくれ」
 次の瞬間。サークルの向こうから『転移反応を確認!』という声が聞こえた。
 それが何をさしているのか、都市部の空に開いた無数の『穴』を見れば明らかだった。
 本の中にしか描かれないよな邪神たちが次々と現れ、あるものは激しく着地しあるものは飛行を始める。
「うお!? 邪神ってああやって出てくるのか!?」
 若干の驚きを見せるランドウェラに、マカライトは冷静に手をかざして見せた。
「いや、敵の邪神のもつ異能だろう。この近くにいるはずだが……見つけ出すのは得意な奴に任せるとしよう。俺たちは――」
「来た連中をとにかく倒せばいいんだなー!」
 そういうのはバッチリだぜ! と洸汰はバットを構えて邪神たちへと突撃していった。
 常人であれば一瞬で抹殺してしまいそうな恐るべき邪神たち。しかし洸汰は不思議な力で肉体の損傷を免れ、そして彼自身の強い意志で心の芯を保った。
 どれだけ叩かれても折れない心。それが洸汰のもつ最強にして最大の武器なのだ。邪神地球においても、それは異能という形で再現された。
「お前らがこの世界をぶっ壊すなら、オレは絶対にここを守る! オレの好セーブ、絶対に見逃すんじゃねーぞー?」
 邪神をバットでホームランし、ランドウェラへと振り返る。
「いまだ、やっちまえー!」
「ああ……」
 ランドウェラが刀をスパンと一閃させると、はるか遠くへと打ち上げられた邪神の肉体が真っ二つに切断された。
 更に刀を幾度となく振り続ければ、無数の邪神が距離や位置関係を無視して次々と切断解体されていく。
「……なるほどね。面白いな」
 掲げた手をぎゅっと握りしめると、都市全体のあちこちに電撃の球が現れ邪神へと攻撃を始める。
 そんな中、建物の壁を破壊して大型の邪神が出現。
 ランドウェラたちの背後をとった……が、ジェックはそちらへ砲化した腕を向け、沈黙したまま発射。
 ドチュンという大気を激しく突き抜けていった音と共に大型の邪神は吹き飛ばされ、それだけにとどまらず身体の中心に大きな丸い穴をあけた。
「コンナ大きいのに……案外、ブレずに撃てるモンだね。ちょっとソウカイ、かも」
 地面を強く蹴り、高い建物の壁を垂直に駆け上がっていくジェック。屋上へと到達すると、こちらへ徒歩で迫る邪神の群れを目視確認した。
 距離にして八キロは先だが……。
「撃てそうな気がスル」
 そう言いながら突き出した腕が更に巨大な砲身へと変化。本来駆逐艦に搭載されるような62口径127mm砲へ変形し、激しい黒煙を吹き散らして弾を発射した。
 一瞬ほどだろうか。遅れて遠くの大地が爆ぜ、邪神たちが大地もろとも吹き飛んでいく。
「……ワーオ」
「分かったか? 邪神憑きの力……というか、ヤバさが」
 マカライトはいつの間にかジェックと同じ屋上に上っていたが、すぐに助走をつけてダイブ。
 作り出した鎖を用いて複雑な立体機動をはかると、こちらへ接近しつつある邪神の群れのすぐ上へと飛び上がった。
「そうら、返すぞ!」
 道中、まるで自動操縦されるかのように抹殺していった邪神たちの骸をこねて丸めて巨大な鉄球のごとくし、更にビル一棟をオマケにくっつけて邪神たちへと投げつけた。
「俺の真の力はここまで…………ん? ここまでだったか? まあいいか」
 タコという生物は全ての足に脳があり、中心の脳と連携をとることである意味での自動操縦を行っているという。マカライトの鎖操作はそれを思わせる精密さだった。
「よっと、おまたせ!」
 ゲートを開いて飛び降りてくる零。
 ……かと思えば、彼の周囲から大量の建物や自動車や撃墜された飛行戦車といった物品が呼び出され邪神たちへと降り注いでいく。
「人殺しはイヤだんだけど、相手がモロにクリーチャーなんだもんなあ」
「安心しろ。邪神は本当の意味では死なない。肉体が一時的に壊れるだけだ。そのうち別の肉体にうつって動き出すだろう」
「それ聞いて安心した。……あれ、安心していいのかこれ?」
 小首をかしげる零。
 そんな彼の横に、スタンと着地するリュグナー。
「クハハハハ! 落下地点予測は完璧だっただろう? 情報が戦場を制するとは正にこの事!」
 横たわったビルの側面にて胸を張ると、彼の横に零と零が降り立った。
「情報は解析できたかね?」
「完璧ですね。都市部の土壌をナノ単位で答えられるほどなのです」
 珠緒はそういうと、零に情報を直感的に伝達してゲートを開けさせた。
 ボッと地面に円形のゲートが開き、巨大な眼球めいた邪神が飛び出してくる。新たにゲートを開いて撤退しようとする邪神。
 だがすぐさま別の場所から転送・投影された巨大な槍が突き刺さり、邪神を瞬く間に抹殺してしまった。
「これで都市部に直接邪神を送り込む者はいなくなったというわけだ」
「残りを掃除してしまいましょう」
 珠緒はくいっと指を上げると、土にしみこんでいた大量の血液が間欠泉の如く吹き上がって周囲の邪神眷属たちを包み込んでは圧死させていく。
 特に巨大な個体が血液の包囲を破り、翼を広げて飛び上がったが……。
「んんん、よし。これならいけそうな気がするわ。
 珠緒さん、ボクに力を貸してちょうだい」
 空へと飛び上がり、教科書から分離したページが大きな盾となって邪神の攻撃を防御。もう一冊の教科書が剣となり、邪神の腕をすぱすぱと切り落としていく。
「これで全部……じゃ、ないわね!」
 ハッとして空を見上げる蛍。
 いつのまにか空が夜に染まっていた。
 否。あまりにも巨大な闇のゲートが形成され、『鉄鎧の邪神』がその姿を現したのだ。
 都市部を粉砕しかねないほどの巨大さをもつ存在、『鉄鎧の邪神』が着地。
 その衝撃だけで大地は揺れ大気は乱れ雲が吹き払われていく。
 周囲の建物群は放射状に倒壊し、それでも飽き足らぬとばかりに『鉄鎧の邪神』は歩を進めた。
「負けません。こちらも一都市を支えた身ですよ。
 ――普段通り、珠緒の命は蛍さんにお預けいたします」
「んっ」
 頷きあい、戦闘を開始する。
 人類軍のFDPが一斉に集まり砲撃を開始したが、『鉄鎧の邪神』が腕を振っただけで全てのFDPがひしゃげ、爆発していった。
「この戦いに……本来俺は……」
 マカライトは心の中に湧き上がった複雑な感情を再び飲み込み、鎖で地を撃ち建物を引っ張るようにして激しく飛び上がった。

●『鉄鎧の邪神』
 もしかしたら世界の命運が分かれたかもしれなかった日。
 この世界、A3591通称邪神地球を象徴したかもしれない事件。
 『鉄鎧の邪神』の本格的襲来と、それに対抗する人類軍および邪神憑きたちの戦い。
 それが今――。
「よっしゃ、なんでもかんでも降ってこい!」
 零はFDPやダンプカーや攻撃ヘリや自由の女神を現実に投影顕現するとその全てを『鉄鎧の邪神』めがけて発射した。
 その殆どが命中する前にひしゃげ、落下していくが、全てというわけにはいかないようで自由の女神のたいまつ部分が『鉄鎧の邪神』へと激突。
「当たった! 畳みかけろ!」
「あの巨体じゃ突き飛ばせないと思ったけど、これなら……」
 ランドウェラは高いビルの上に立ち、拳をグッを引き絞った。
 彼の頭上に半透明かつ巨大なこぶしが生まれ、『鉄鎧の邪神』の顔面めがけて繰り出される。
 距離どころかサイズすら無視してたたき込まれたランドウェラパンチで『鉄鎧の邪神』は派手に転倒。
 洸汰はビルの屋上から大胆にダイブすると、倒れた『鉄鎧の邪神』めがけて思い切りバットをたたき込んだ。
 ダメージが通ったのだろうか。洸汰をひどく邪魔に思ったようで『鉄鎧の邪神』は彼を掴んで強引に近くのビルへと投擲。
 壁どころかビルまるごと突き破って飛んだ洸汰はあちこちバウンドしてから地面に落下。
 しかし、それでも、ニッと笑って立ち上がる。
「受けた分の痛みは、全部お返ししてやるぞ。
 ……いや、オレはちっとも痛くない。
 むしろ、痛くて苦しんでるのは、この世界の人達だ。
 この世界は、再現に過ぎないけど、マカライトの世界でも、辛い思いをしてた人がいたのは本当だ。
 その人達の痛みは、オレが引き受けた!
 さあ、行くぜ!」
「その意気だ。面白くなってきた」
 マカライトは無限に延長し何重にも編み上げたことで大樹のごとき太さになった鎖をあちこちの建造物や地面を掘り進めながら伸ばし、『鉄鎧の邪神』を無理矢理に拘束していく。
「撃て、ジェック」
「これでコイツも、タダのスクラップさ!」
 腕を再び大砲に変え、そのうえ連射まで仕掛けるジェック。
 轟音と煙によって街が上書きされていく。
「デクノボウって、こういうのをイウのかしら?」
「違うな」
「エ?」
「全然違う」
 そうしている間にも鎖を解こうと腕を振り回す『鉄鎧の邪神』。
 蛍はそんな『鉄鎧の邪神』へ真っ向からぶつかり、攻撃を無力化していた。
「ボクはアテナ、女神の加護を受けし盾!
 この絶対不可侵の結界……アイギスで、全てを守り切るわ!」
「おお……」
 全てをひしゃげて破壊していた『鉄鎧の邪神』は全力で蛍を破壊しようと試みていたが、蛍自身のもつ結界と珠緒が施した操作能力によってそれらをはねのけているのだ。
 いや、それだけではない。攻撃のエネルギーを自らの内側にため込み、一気に放出する。
「これがボク達の愛の力よ!」
「えっ」
 転倒していた『鉄鎧の邪神』へさらなる衝撃がはしり、大地が崩壊。
 舗装道路が崩れ巨大な地下トンネル跡地へと落下していく。
 だがそれも、リュグナーが描いた計算通り。
「随分と立派な鎧だが、果たして中身はどうであろうな……確かめさせて貰おうか」
 珠緒の操る大量の血液とリュグナーの未来を知るレベルの演算能力が組み合わさる瞬間。流れ込んできた血液が『鉄鎧の邪神』へ浸透し、その核となる部分を探り当てた。
 前髪をかき上げ、こみあげるように笑うリュグナー。
「クハハハッ! これで終わりだ『鉄鎧の邪神』よ。
 そして……ここは貴様の世界だマカライト。最後は譲ろう!」
「お言葉に甘えて」
 鎖を使って跳躍。『鉄鎧の邪神』の真上をとると、なんとか起き上がろうとする巨体めがけてマカライトは太く編み上げた鎖とその先端に作られたドリルを『鉄鎧の邪神』へと打ち込んだ。
 本来もちえたかもしれない、『ストライクチェーン』の真の姿……なのだろうか。鎧どころか核を打ち抜きその下の地面までもえぐり取ったマカライトの攻撃は、この戦争を終わらせるのに充分な一撃であった。
 そして――。





 気づいたときには、マカライトたちは開いた棺からさす光を見ていた。
 目を細め、起き上がる。
 さっきまでの力も、風も、世界のにおいもない。ここは混沌。練達の研究所だ。
 全ては仮想世界での出来事。
 だが、しかし。
「少しは鬱憤を晴らせた、かな」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――マカライトの世界、介入終了。
 ――データの取得に成功しました。

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