PandoraPartyProject

シナリオ詳細

とこしえの、いのち

完了

参加者 : 2 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――私が識る人と貴方の求め人が同じであるかは分かりません。
 けれど、エーリカさん。貴女が追い掛ければ、きっと、出会う事は出来るのでしょうね――

 ならば、わたしも。
 永遠を生きるそのいのちの片隅で、その意味を知ることができるのでしょうか。
 さちあれかし、祈るように指を組み合わせた。
 怯え孕んだ『夜鷹』は疎ましくも鬱蒼とした闇の色に溺れてはいられない。エーリカ・マルトリッツ (p3p000117)は――ひとりのおんなは、砂楼に立っていた。
 倒れてしまわぬ様にとその背を支えてくれるひとがいる事のなんと幸福な事か。
 月影に紛れて逃げてしまわなくてもよいと、陽のあたたかさに立って居られるしあわせをくれたひとが隣にいてくれることがどれ程嬉しいか。
「しりたいの」
 エーリカはそう言った。
「わたしの、このからだに流れる、いのちのみちを」
「ああ」
 氷の様なこのひとみも、ぬばたまのような黒髪も。
 わたしをかたち作った全てを。
 受け入れる事は、こわかったけれど――

 その不安を、そっと包む様にラノール・メルカノワ (p3p000045)はエーリカの手を握りしめた。
「探そう、エーリカ」
「うん」
 識るためには、受け入れなくてはならなかった。
 夜鷹であることを。
 それよりも、なお、何よりも果たしたいことがあった。

 母さま。
 優しくて、大切なあなた。
 いとしいと抱きしめてくれた、その刹那から、惧れを抱いたあなた。
 わたしは、母さまの憂いを、謂れなき疑いを、晴らしたかった。

 丘を越えて、野を行く。茂る夏草のかおりが備考を擽った。仰ぐ空の青さの中に長耳のおんなが立っていた。
「もし、そこのあなた。
 長く、永くを生きた、黒い髪と氷のようなひとみを持つ幻想種のことを知りませんか」
 この黒い髪が、きっと――往く道をおしえてくれる。

GMコメント

 リクエストありがとうございます。お二人の、せかいをつくるお手伝いができましたらば。

●成功条件
 ご先祖様の手がかりを何か見つける事。

●森の生涯(ゆくさき)
 エーリカさんの故郷、『タオフェ』より遠く離れた深き森、深緑の迷宮森林。
 エーリカさんと同じ長耳の種を中心にした長きいのちを穏やかに生きる幻想種たち。
 草原で出会った長耳のおんなはエーリカさんの黒髪を見てニュイの民に会う様にと言いました。
 幻想種達の集落のうちのひとつ、『ニュイの民』、彼らからヒントを得ましょう。

●ニュイの民
 長い黒髪を持った幻想種達。夜を愛し、静かに日々を暮らしています。
 彼らはそとからくる人間に対しては非常に憶病です。
 その集落へ向かう途中には
 怖ろしきものを拒む茨に、憶病な魔獣が巣食っています。
 どちらも、きっと『そとがこわい』のですね。
 怖ろしくはないことを茨にも、魔獣にも、そしてニュイの民にも、伝えてあげてください。
 何をしに来たのか――そして、何を望むのか。
 ニュイの民は憶病ながらも知りたがり。
 教えてください。どうして、ふたりできたのかを。どうして、知りたいのかを。
 そのおもいにこたえて、きっと、彼らは教えてくれるはずです。
 長く、永くを生きた、黒い髪と氷のようなひとみをもった幻想種の事を。

 プレイングには戦闘よりも心情を重視していただけると嬉しいです。
 おもいを、教えてくださいませ。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 あなたの、いのちのみなもとへと
 すこしでも、たどりつけますように。

  • とこしえの、いのち完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年06月03日 22時10分
  • 参加人数2/2人
  • 相談6日
  • 参加費---RC

参加者 : 2 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(2人)

ラノール・メルカノワ(p3p000045)
夜のとなり
エーリカ・メルカノワ(p3p000117)
夜のいろ

リプレイ


 夜鷹と呼ばれるに至った長耳も、宵の色の髪も、薄氷の瞳も、全てが全て必要なかった。
 自身を構成するすべてが今は全て鬱陶しいもののように思えてしまったから。
 誰も、誰もいない所へ行きたかった。
 ――けれど、あなたがいた。
 あなたが、わたしを『エーリカ』にしてくれた。

 闇の色のフードの奥で大海の如く慈悲を揺らした瞳がそこにはあった。
 初めてその少女の姿を見たのは寂れた場末の酒場であった。カウンターの上で氷が音を立てたウォッカが歓迎する様に琥珀色を揺らしている。『濃紺に煌めく星』ラノール・メルカノワ(p3p000045)が腰かければ、幾つか距離を開けた位置に居た黒衣の外套の人物は伺うように顔を上げたのだ。
 マシマロを思わせる白い肌は緊張で陶器の様に色彩を失っていた。薄氷の瞳は来訪者に怯えている。その瞳が――何処までも優しい色を帯びていたから、ラノールは「綺麗だ」と思ったのだ。
 今は、その怯えはなく笑みを浮かべてかたわらに立っている『夜鷹』エーリカ・マルトリッツ(p3p000117)。
「こわい」と、エーリカは囁いた。
 夜鷹ではなく、エーリカ・マルトリッツとして。
 脈々と受け継がれた命の涯を目指すものとして。
「こわい――でも、……でも。ちゃんと向き合うって、きめたから。
 …………ラノール。いっしょに、きてくれる?」
 ゆっくりと、掌を差し伸べたその白さにラノールは笑った。まだ誰も踏まぬ新雪の様に真白のその掌はどれ程までの不安を抱きしめ続けてきたのだろう。
 君が、抱えた荷物を分け与えてくれるのならば。ラノールの薄い唇には笑みが乗せられた。薄氷の瞳が、自身の想いを、意志を乗せて煌めいている。双眸に湛えた思いに応える様に、そっとその掌を握りしめた。
「私は君と共に歩むと決めたのだ――君が望むなら、どこまでも」
 昏い夜も、深い果ても、遠く巡る世界の輪の中で。その手を離すことはしないと歩き出す。


 ねえ、あなたは。この耳を、このひとみを、この『かたち』を。
 ――『ゆるし』ではなく、みとめてくれた。
 ただの、エーリカであることを、抱きしめるようにうけいれてくれた。
 あなたが、みちびいてくれたから、


『ハロウ、可愛い夜(ニュイ)のむすめ。今日は何処へ向かうの?』
 天より降った精霊の声にエーリカは首を振る。その色彩が夜(ニュイ)の民と同じと言うならば。
「わたしは、ちがうの。夜ではなく、遠い遠い、白い街からやってきたの。
 このひとも同じ。わたしと、このひとは夜を探しているの。……どうか、手伝ってくれる?」
 銀河の如く煌めく川に、くすくすと擽る精霊たちの笑い声。木々の喧騒は二人を包み込み悪戯めいて降り注ぐ。
 釣鐘花より淡く色づく光の粒が、木々の精霊の唇にお静かにと合図を送る。薄らと静まる光の随に恥ずかしそうに寄り添った精霊は『夜に何か御用かしら』と囁いた。
「ああ、そうだ。けれど、私達は傷つけに来たわけではないんだ。
 夜は美しく全てを攫ってしまう。私達が知りたいことも、夜が包んでしまったようだ」
 そっと、握り込んだ指先が僅かに緊張の色を乗せる。花の光に泳ぐように、こちらへおいでと誘う声。
 いってもいいかと見上げるエーリカにラノールはゆっくりと頷いた。何があっても、けだものが現れようとも君の手だけは離さない。
「エーリカ、泥濘んでる」
 そっと、姫君にそうする様に彼女を抱え往く。不安定な足場に転んでしまわぬ様に。
 そうする仕草に頬に上るは赤いいろ。薔薇のように色づいて、解けるように指先が彼の胸元をそっと掴んだ。
「エーリカの釣鐘花を借りても? 私が持っているランタンはね、『おばけの夜』用なんだ。
 可愛いカボチャが笑っているけれど、今日と言う日は不似合いだろう?」
「かわいい。おばけのおまつりのときの。ふふ、ことしのおまつりもたのしみだね。
 その時はどんな格好をしよう。おばけのおまつりは、わたしたちを変えてしまうから、きっと、ラノールもわたしを見失う」
「さあ、どうかな」
 笑みがこぼれて、緊張がほどけてゆく。ゆらゆらと、揺れた明かりと木々の笑い声を聞きながら、頬を撫でた夏風にエーリカは目を細めた。
「このお花、憶えている?」
「ああ。勿論、夏のお祭りで買ったやつだろう? 綺麗に咲いて夜を照らしてくれているんだね。
 刻が立つのが早いと驚いたよ。四季のいろを追いかけて、君と過ごした一年が楽しすぎて直ぐに過ぎてしまうんだね。幸せなことだよ」
 揺れる明かりにラノールが笑ったその声にエーリカは頷いた。たくさんの国に行って、沢山のおまつりをみて、四季彩の中に、沢山の想い出が溢れだす。お庭に植えた新しいお花に、サラマの背で遠くへ出かけた日々。
 あのね、と彼の耳朶に言葉を落とした。ぽつりぽつり、雫の様にたどたどしくも愛おしい言葉の羅列にエーリカは目を細める。
「まいにち、たのしくて……『つぎのひ』を楽しみに夜に目を閉じることができるようになるなんて。いまでもゆめなんじゃないかって……、ときどき、不安になったりするの」
「ならば、君が不安にならないよう、確り傍にいてあげないとね。……最も、私の方が離れたくないのだが」
 冗談めかして彼女の体をそっと地へ。硬い地面に足を着いてから手を握って、進むその歩はいくばくか重たい。木々の囁く声に目を伏せた。薄氷と柘榴の色が交差し合う。
「エーリカ、分かるかい?」
「うん、わかる」
 静かに頷いて、ラノールは息を飲む。惧れ怯えた茨はそとを拒むように行く手を塞ぐ。
 その前に、唸る臆病者は拒絶を露に首を振った。
「おどろかせてごめんね……こわがらないで。わたしたちは、この森を傷付けないから」
 その手には武器は持たない。ラノールも、エーリカもそう決めていた。
 傷つけたいわけではない。誓いのリングに乗せられた淡い願いを感じながらラノールは臆病者を受け止めた。
 あなたに、どうか、さちあれかし。星を紡いで、あいを教える様にエーリカはラノールの影より顔を見せる。
「ラノール」
「エーリカ、心配いらないよ」
 彼の声に頷いて、エーリカは言葉を紡ぐ。害する意思はなく、森を汚すつもりもない。ただ、声を聞いて欲しくて、森の生涯(みち)を辿っている。
 自身のその身に宿したいのちが、ラノールに加護を与える。怯えた臆病者の唸り声を聞きながらエーリカは耳を澄ませる。
『こわい』
 そうだ。きっと、それは、わたしだって――
『こわい』
 エーリカはラノールを呼んだ。こわがっているの、と。翠にきらきらと星を宿して、エーリカは祈るように呟いた。

 ――だいじょうぶ、こわくなんて、ないよ。

 ラノールは小さく笑う。君が、そうやって『彼ら』に声を掛けるだなんて。
 怯える様に闇を纏っていた君が。何かを抱きしめるように手を伸ばす。
「だいじょうぶ、こわくない。
 わたしたちは、夜をめざしているの。お空のほしで道を照らしてごめんなさい」
「行く道は明るい方がいい。だが、その眩さで君のせかいを曝け出させてしまったか。
 私達は『夜(ニュイ)の民』の許に行きたいんだ。君を傷つけたくはない。
 ……ああ、だが、ぶつかってけがをしてしまっただろうか。君の体に触れる許可をくれないか?」
 怯える臆病者の許へと膝を着いたラノールに、エーリカはそっと手を伸ばした。
 その傷を少しでも癒すことが出来たなら。大きく丸い、まるで熊の様なふかふかとした臆病者のけもの。その傷を撫でてエーリカは「ありがとう」と囁いた。


 淡く光が照らすのは、宵のいろ。ぬばたまの髪をした美しい長耳たちが、その街には暮らしていた。
 訪れた『同じいろ』の少女と、彼女が連れたけものの青年に夜(ニュイ)の民は怯えたように視線を送る。精霊と、釣鐘花にありがとうと呟いてから、エーリカは彼らの視線に向き合った。
 エーリカは息を飲む。
 ぬばたまの、闇の色。長く伸びた耳。魔の象徴であると糾弾されたしるし。
 自身を夜鷹と、災厄の胤と、そう『かたち』づくったしるしを持ったひとびとが、こんなに。
 ラノールの服の裾を握りしめた手が、僅かに湿り、震えだす。その背へとゆっくりと手を添えて、少しでも彼女が落ち着くようにとラノールはエーリカの背をとん、とんと叩いたまるで母親が幼子にするように、落ち着いて、安心してと囁くように掌が背をなぞる。
「あなたたち、どこからきたの?」
 震える声を発したのは夜の青年だった。その色の中に、赤い赤い瞳が丸く揺れている。
 恐れる民たちを代表して『そとのもの』に声を掛けた青年へとラノールはゆっくりと言葉を紡いだ。
「ラノール・メルカノワという。
 砂漠の都で生まれ育ち、彼女と出会い、彼女を守り、愛し、共に歩くことを誓った者だ」
 そして、ラノールはエーリカを促した。言葉を、紡いで――夜の民に、自身は決して彼らを害する者ではないと、そう、心の底から伝える様に。
「……名は、エーリカ。此れより遥か北東の、白亜の国、かたちなき神なる存在の御許にて。
 ひとと、ひととの間に生を受けました」
 そのいのちの流れは、母のこころを苦しめ、自身を悪魔であるかのようにしるしをつけた。
 同じいろを持つ者は、彼女の言葉を聞き「つづきを」と静かに促した。
「人間種以外のものが村を訪れることは稀で、決して歓迎されることはなかったそうです。
 きんいろの髪も翠のひとみも持たぬわたしのことも……彼らが受け入れることは、終ぞありませんでした」
「君の、母は?」
 エーリカは静かに首を振る。懼れる様に、その薄氷の瞳を細めて。有り得もしない父母とのさいわいをまるで物思う様に彼女は笑う。
「いいえ」
 深く、沈黙の落ちる気配がする。夜のいろをその身に宿した者たちは皆、エーリカの言葉を聞いている。
 少女のそのからだに現れたかたちは紛れもなくかれらとおなじ。しかし、それを受け入れぬ場所があるという事を夜の民は識っていた――ひとは、自身と『違う』存在を拒絶するものだから。彼らとてそとのせかいに怯え、そして、ラノールとエーリカを拒絶した、否、『拒絶しようとした』のだから。
「いのちのみなもとは、何処に在るのか。
 外の世界を識り、彼と……ラノールと旅をしていくうち、『のろい』は何時しか『会いたい』というねがいにかわり――旅路の末、この地に、辿り着きました」
「君にとって、そのぬばたまの髪は、氷のひとみは、長い耳は、悍ましいのろいだったのかい」
 夜の民の青年にエーリカは苦し気に頷いた。彼らとは違う、自身の住まう白亜の国の文化。青年は「そうか」とだけ、ただ、ささめくように呟いた。
「ぼくらとて、同じいろを持たぬものに惧れる。
 屹度、君のお母様は恐ろしかっただろうね。愛しい我が子が災厄のかたちと謗られる恐怖はぼくにだってわからない」
 夜の青年はそこまで唇に乗せてから、ゆっくりと肩を竦めた。まるで、友人と語らうかのような優し気な声音で。エーリカの言葉を掬い、拾う様にひとつひとつと吟味して。
「それで、きみは、その『のろい』の源を探したんだね」
 頷き、エーリカは緊張したようにラノールを見遣った。
 此処まで、共に進んできてくれた愛しいひと。彼は、『わたし』を『わたし』であると認めてくれる。
 エーリカは、エーリカの言葉を、心を、伝えればいい。 
 ラノールは言って居た。
 言葉がうまくなくても良い、心さえ伝われば、きっと。

 ――なぜ、『そのひと』を探しているの?

 おそろしいのろいだなんて、言葉にしてごめんなさい。あなたは、わたしの中に生きているのに。

 ――なぜ、ひかりなき森の奥深くへ、ふたりで訪れたの?

 昏い世界に、ひっそりと住まうあなたたち。わたしと同じ、いろ。

 ――なぜ、会いたいと強く願ったの?

 わたしは、知りたかった。『あなた』が認めてくれた『わたし』の命のみなもとを。
 己のこころの奥ふかく。過ぎし日を、思い起こすのは、おそろしかったけれど。
 母さまの悲しみを、心の傷を、謂れなき疑いを、晴らしたかったのです。
 だから、エーリカは静かに唇を震わせる。
「夜の民よ。とこしえを生きる、静寂を愛するものたちよ。
 どうか。どうか、知恵をお授けください。わたしは……叶うなら、そのひとを愛したいのです」
「……彼女が望むものを、私も同じだけ望んでいる。
 人と人との間に生まれた彼女の、幻想種としての血の源流。
 ただ、その人に会い、願わくば言葉を交わしたいが為、ここに足を運んだ」
 声を震わすエーリカの肩をぐ、と抱いた。一人ではないと、教える様に。
「夜の民よ。望むならば武器を置き、鎧を脱ごう。だからどうか。
 彼女の願いを、聞いてやってはくれないだろうか。……よろしくお願いします。」
 深々と、頭を下げたラノールに夜のいろを宿した者たちがゆっくりと歩み寄ってくる。
「顔を上げて」
 優しいその声音に、エーリカは怯えたように指先を震わせた。はじめに顔を上げたのはラノールであった。その手を、ぎゅ、と握りしめてからエーリカは顔を上げる。
 ゆっくりとエーリカの顔を覗き込む夜の色の少女がいた。美しい青い瞳は、まるで、空の様で。
 エーリカは薄氷の如き瞳をまたたかせる。勝気な彼女の瞳がどこまでも澄んでいたから――全てを見通される気がして睫が怯えたように震えた。
「アメリア、エーリカが怯えているだろう」
 青年の声にアメリアと呼ばれた少女は「あら、ごめんなさい」小さく笑った。エーリカの白い頬に獣の皮で作られた手袋越しに掌をぺたりと当てて彼女は「綺麗なひとみね」と微笑んでいる。
「ねえ、ティモ。エーリカの瞳は、誰に似ているかしら?
 夜(ニュイ)のだれのいろを持っていると思う? わたしと似ていると思ったけれど、少し違うみたい」
 饒舌に微笑むアメリアの瞳をラノールは「空のいろだな」と微笑んだ。彼から見れば、エーリカは深く美しい海の色をしていて。どこか違うその色彩にアメリアは頷いた。
「わたしも、あなたのいのちの道を知りたいわ。
 とこしえに、紡がれてきたその血は、きっと夜(ニュイ)に繋がっている。
 美しい夜の色の髪を、守っていてくれてありがとう、エーリカ。あなたは、わたしたちの家族だわ」
 そっと、エーリカの手を握りしめたアメリアが微笑んだ。エーリカが息を飲み、ラノールを見遣る。大丈夫だ、とラノールがその背を撫でてやればエーリカは息を殺したようにその瞳からほろりと涙を落とした。
「私達に、君たちの事を教えてくれるかい?」
「ええ、ええ。……ねえ、エーリカ。わたしのおばあさんがあなたによく似た瞳を知っているの」
 アメリアとティモが振り返る。年老いた幻想種は懐かしそうにエーリカを眺めて、「ああ」と声を漏らした。
「昔、よく遊んだ男の子がいるんだ。彼は冒険をするために夜を出て陽のもとへ行ってしまったけれどね。もしかすると、白亜の都に行ったのかもしれない。……懐かしいねえ」
「その男性について、もう少し聞いても?」
 ラノールの言葉に老婆はゆっくりと頷いた。蒼鷹とそう呼ばれていたのだと。
 夜鷹は、その言葉に息を飲む。知らぬところで自身は『かれの一部』を知っていたのだろうか。
 行方知れずのままになった彼はエーリカと同じ薄氷色の瞳と、よく似たかんばせをしていたそうだ。
「――『蒼鷹』」
 呟けば、その言葉は夜に淡く溶けていく。
 かれが、このいのちの源なのだというならば――
「かれを、追えばいいのでしょうか」
「足取りを追うのは屹度、困難を伴うよ。エーリカ。
 蒼鷹の名を、しるべとして歩めばいい。それが何処に向かっているかは分からないけれど。
 おまえさんの故郷に行かねば分からぬ事もあるかもしれない。……それでも、行くのかい?」
 不安を乗せて、エーリカはラノールを見上げた。
 柘榴の瞳はやさしく細められる。
 長いいのちを辿る幻想種ならば――まだ、彼に会えるかもしれない。彼の足取りを掴めるかもしれない。
 そのいのちが潰えていたとしても、かれの墓標にあいしていることを伝えてやりたい。
 かれが、認めてくれたこのかたちは決して不幸なものではなかったと。
「エーリカ」
 ラノールはそっと、エーリカの夜色を撫でた。
「――君が、望むならば」

 囀る小鳥たちの声を耳にする。昏く茂った森のなか、歌う様な臆病者のことばが響く。
 その場所にすまう夜のいろたちは二人を歓迎した。
 同じ色を持つエーリカを家族だと、微笑んで。
 君が望むならば、この場所でまた、待って居よう――
 困難にすすむならば、そのゆくさきにさいわいをと、そう願って。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 この度はリクエスト誠にありがとうございました。
 美しきいのちのその道に。
 貴女が、そして、貴女が共にと願った方と立たれた旅路の涯がありますよう。

 美しき蒼は、貴女を屹度、待って居るのですね。

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