シナリオ詳細
<魔女集会・前夜祭>魔女と星が導く迷宮(ミライ)
オープニング
●不思議な夜へようこそ
『夜(ナハト)』という魔女の集団がある。
長である『大魔女』を中心としたネットワークは混沌中に存在し、時折、彼女の号令により集会が行われるのだとか。
「いらっしゃいませ~」
場所は変わって、此処は幻想に店を構える『町のおくすりやさん』。オープンしてからまだ日が浅い、とんがり帽子の美女が営む、ほぼ名前通りの店だ。
「おねーさーん、この前のー、頼めるかねー」
「はいはーい、この前のアレね! あれからどう? 腰、痛くない?」
「ああー、すっかり元気じゃ! アレのおかげで、ワシもまだまだやれそうじゃー」
「それは良かった! じゃあ、ちょっと待ってね。あ、お茶も飲んでく?」
オーナーが杖をひと振りすれば、手前のテーブル上、瞬く間に客人向けのお茶が現れる。こういった心遣いと、細かく個人に合わせての調剤。そして何より、美しく友好的なこの魔女が、たちまち街の評判を集めた。
日は傾いて、店じまい。
今日も一日よく働いたと、ひとつ伸びをして、お気に入りのお茶でほっと一息。頭の中をすっきりとさせ、気力を回復させる薬膳茶だ。
こうやって休憩を挟んだ後で郵便物のチェックを行うのが、彼女の日課である。テーブルに並んだ郵便物をひとつひとつ確かめて、ひときわ目立つ封蝋の中身は――
『魔女集会で会いましょう、私の可愛い、夜の子供達』
――さて。この『魔女』も夜(ナハト)のひとり。【占導の魔女】アストラークだ。
数度目の招待。思い返せば、初めて招待された日は本当にゼロからで。どうやって、異世界から流れ着いた己の事と、その居場所が分かったのだろう。なんという情報収集力か。昔も今も、嘆息せずにはいられない。
招待状とは別の羊皮紙に、会場までの地図と『今回の概要』が記されている。
これは、魔女だけが立ち入れる秘密の――厳密には、あくまで『原則』ではあるのだが――集会であり、集会場所には、人除けの為の結界が張られる。
そして。集会を行う場所も、結界の在り方趣向も、その時の長の気分で様々に変わる。
「ははーん、なるほど。今回はこういう……」
今回の『概要』ひと通り目を通し終わって、思案する。仕掛けの踏破自体は、問題なさそうだ。更には、たどり着くまでに『ご褒美』まであるという。しかし、最大の懸念点がこの『ご褒美』――
今、混沌の地で己が持てる力を考慮すると、単独での踏破は厳しそうか。
「――そうだわ!」
元の世界での知り合いが、かのローレットで活動していると聞く。
あの娘なら、この世界でもうまくやっている事でしょうから――
●上手な英雄のつくりかた
「……魔女集会、ね。まさか汝(あなた)まで、こっちに来てたなんて」
「ええ、ええ! レジーナちゃん! お久しぶりね! なんて奇遇なのかしら!」
ローレットの一角にて、異世界の大罪女王――レジーナと、依頼人の魔女、アストラークが再会を果たす。レジーナ以外にも、数名のイレギュラーズが同席していた。
「大魔女……ワルプルギス、だったかな?」
「お知り合いのレジーナは分かるとして、どうして僕たちまで?」
胡蝶の奇術師と、コンペイトウの旅人が依頼人に問う。彼らの顔ぶれは、決して偶然集まった訳でなく。
「ちょっとね、『視てみたの』! レジーナちゃん以外には、誰にお願いするのがいいかしらって」
「……占いとか、星の導きとか、そういう感じ?」
「そういうこと!」
梟の娘が考えた通り、この場の者は、アストラークが占いで選別した『英雄』たちだ。
オープンに募集をかけるのもいいが、共に行く『英雄』は、やはり自分の目で選びたい。そんな育て好きの魔女曰く、素質がある者を集めたのだとか。
「え、えいゆう……なんて……そんな大仰な……」
「私はただ、皆が笑って過ごせればいいなって。それだけでも?」
そこに居るが居ない女と、笑顔の国の住人にはどうにもしっくり来ないようで、二人揃って首を傾げる。
「英雄、って言っても、世界を救うとか、そういうのだけじゃないわ! 色々な英雄があるのよ」
「そうですよね。目の前の人を笑顔にできる、っていうのとかも」
「弥恵は踊りでそう出来るし、俺はパンで! とか? ……や、俺、ちゃんと出来てるかなぁ……」
「ご名答よ、パン屋さん! あ、今ちょうどお腹空いてたのよね。ねえお兄さん、そのフランスパン! 半分いただける?」
「あ、どうぞ」
差し出されたパンをちぎって一口。己の目に狂いが無かった事を確かめながら、占導の魔女は依頼についての話を始める。
「……簡単に言うと、出てくる邪魔者をどうにかしながら不思議な迷路を抜けなきゃいけなくて、ゴールまで私を守って欲しいの。勿論、報酬はバッチリ弾ませて貰うわ」
通常の報酬に加えて、希望する者には【占導の魔女】が簡単な予言を行ってくれるという。その異名は伊達でなく、かなり当たる――と、己の経験からレジーナが言った。
「わ……悪い結果になったら……どうしましょう……」
どうしても悪い方向に考えてしまう幽魅に、安心してと魔女が励ます。
「予言といっても、あくまで『イマの時点でどうなるか』だから。イマが変われば未来も変わる。そういうものよ」
「あなた達は私が選んだ『英雄』。だからきっと、迷宮を抜けるのも、その先、もっと先の未来を掴むのだって、そう難しくはないはず。……でも、あなた達が往くのはとても長い路」
備えあれば憂い無し。長い旅路には、お守り代わりの灯りがあっても悪くない。と、導きの魔女は微笑んで言う。
「それじゃあ! ガードの方、よろしく頼むわね」
未来を掴むにも、まずは目の前の一歩から――という事か。
- <魔女集会・前夜祭>魔女と星が導く迷宮(ミライ)完了
- GM名白夜ゆう
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年05月31日 22時35分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費---RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●今宵の舞台は煌めく夜空
「──綺麗」
夜空の迷宮の真中で『おやすみなさい』ラヴ イズ ……(p3p007812)は感嘆の溜息をひとつ。
美しくも寄る辺の無い夜に、彼女の佇まいはひどく寂しい。あまり長居はしたくない。自然と足取りが早くなる。
「ふふ、英雄なんて恐れ多いですが、悪い気はしません」
楽しい未来になるように、と。『魅惑のダンサー』津久見・弥恵(p3p005208)の気合は充分。
「しかし、本当に不思議な迷宮ですね、キラキラして……あっ!?」
ごつん。
「ほら、頭。気を付けないと……壁があるから」
『救いの翼』ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)が弥惠の近くに手を翳す。ひんやりとした硬い感触。硝子のような壁が、其処にある。
「そ、そういえば……迂闊でした!」
額を抑えながら確かめてみれば、足場はきちんとある。注意深く進めば、ステップを踏むにも問題無さそうだ。
「ちょっと先視てくる」
ミニュイ自身は、自分が呼ばれた事に疑問を感じる。遠くの未来より、目の前の壁だ。持ち前の機動力で先行し、ひらりと戻って状況を伝える。
「レナ、もうちょっと先までは安全そう。鏡もあんまり無い」
「お疲れ様。それじゃあ、慎重に行きましょうか」
『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)は、使い魔の執事に持たせた石灰で道や足場を確かめる。
「英雄…英雄ねぇ……」
自分では全く思えなくとも、言って貰える事は嬉しい。『君が為』上谷・零(p3p000277)が、レジーナと同様に道を確かめるべく、混沌の贈り物――いつでも出せるフランスパンをちぎって落としていく。
「上谷はパン屋をやってるのね? ちょっと食べてみたいのだわ」
今回の護衛対象、アストラークも絶賛した不思議なパンに、レジーナも興味がある様子。
「ど、どうぞどうぞ! ごひいきに!」
このパンなら無限に出せる。食べ易い大きさにカットして、新規顧客へどうぞと渡し。
「アストラークはいつからこっちに?」
「つい最近! あっちの世界も相変わらずわちゃわちゃしてて……その中で急に呼ばれたの」
「で、今は街の薬屋? あの大賢者さんがねぇ?」
「あの時はしょうがなかったけど、私ってやっぱり、小市民が合ってるっていうか……大賢者なんて、肩が凝ってしょうがないわ」
「でも、選んでもらえるのは嬉しいねぇ。こんぺいとうも食べる?」
「あら、嬉しい!」
『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)が差し出した砂糖菓子を、アストラークが一つまみ頬張る。長丁場になりそうな中では零のパン同様、こういった補給も大事だ。
(石灰とパン屑の位置、鏡とランプの場所、色……)
色彩感覚と記憶力に優れたランドウェラが、それらの位置を記憶していく。鏡の大小や色、装飾も少しずつ違うようだ。
「ねえ、魔女さん。<夜>の集会は何をするの?」
瑠璃の夜空に長い金髪を揺らし、ラヴが魔女に問いかけてみる。
「そうねえ、私も日が浅いから全部は分からないけど……今までのは主におしゃべり、かしら」
「そのおしゃべり会に、こんな大仰な迷宮を……大魔女様はおちゃめ、というにも程が御座いますね」
如何なるタネや仕掛けも無い魔術の迷宮は『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)が扱う奇術とは、根本的に異なる。
「鏡よ鏡よ鏡さん、この世で一番奇術が上手いのはだあれ?」
なんて。聞いてみたくなるのは、奇術師の性か。
「ど、どうして……私なんかが、選ばれたのか……疑問は残りますが……」
選ばれたからには、足手纏いにならないように。『覚悟を抱いて』道子 幽魅(p3p006660)も、パン屑や石灰の有無、後方の確認を怠らない。
同時に考える。鏡や灯り、見える風景に何か仕掛けや、法則めいたものはないか。道はまだ始まったばかりで、何も分からないけれど。
「……人一倍……」
仲間たちが、戦いに集中できるように。考えなければ。自分にできる事を、精一杯。
「さっさと抜けよう」
景色は何処までも広がっているのに、この閉塞感は何なのだろう。少しでも早く抜けるべく、ミニュイは再び、先んじて飛び立つ。
真っ直ぐ行けば扉がある。即座に戻ってきたミニュイの報告を受け、英雄たちは気を引き締める。
「……ちょっと、疲れたかも」
「気疲れね。お疲れ様よ」
あらゆる感覚を狂わせる迷宮を人一倍飛んで見たなら、当然の事。アストラークが、ミニュイへ魔力を分け与える。
「ねえ。試したい事があるんだけど、ちょっといいかな?」
零が適当な石を、手近な鏡に向けて投げる。ぱりんと音を立て、鏡に皹が入った。
「割れるには、割れそう?」
「そのようね」
続いて、レジーナの使い魔が石灰で鏡面を汚してみる。
「ウィスプに囲まれたら厄介よ。試さないで判断するのは、愚者の行いなのだわ」
「そうそう! うーん、懐かしいわこの感じ!」
英雄はチャレンジ精神。アストラークは感心する。
「こう頼りになるレジーナちゃんだって、最初の頃はね……」
「進むのだわ」
アストラークの昔話を遮るように、レジーナは大股で歩を進めた。鏡は変わらず多い。
「んん?」
ランドウェラが横切った鏡のひとつに、自分の姿――に酷似している『ダレカ』が、映ったような。
「……気のせいか」
「あ! ランドウェラさん! 後ろ!」
弥惠の警告。鏡を通り過ぎたその直後、彼の背後で鏡が光る。呼応するように、離れた鏡も、もう一つ。
「おっとと!」
振り返りざま、魔炎を宿す武装で背後の鏡を破壊する。砕け散った鏡は破片を散らすのみで、以降は何事も起こらなかった。
もう一つの鏡へと幻が一瞬で距離を詰めるが、壊しきれず。3体のウィスプが飛び出してくる。
「……間に合いませんでしたか」
「壊せば出て来ない。それが分かれば上出来よ」
ラヴが皆を守るように立つ。どちらにせよ、十体は倒さなければ。
「それではどうぞ、ご覧あれ。月を彩る華の舞、津久見弥恵の参上です!」
満天の星空の下、踊り子や奇術師を始めとした煌びやかなメンバーによる、幻想的な舞台の幕が上がった。
●夢幻と無限とそのあいだ
ゆらりと、現か夢か。幻が、瞬きほどの間にウィスプの背後に回り込む。
「それでは、早速」
無数の蝶の群れがウィスプを覆い尽くし、蒼く爆ぜる。この『奇術』には種も仕掛けも存在するが、もはや区別は意味を成さない。
「――」
割り込むようにふわりと移動したラヴが、何事かを囁きながら夜のトリガーを引く。弾丸は箒星のような軌跡を描いてウィスプを貫き、霧散させる。最期の光は、とても優しく。
「なるほど。一つ一つは、そんなに強くないね」
ミニュイが慎重に機械の翼を拡げ、無数の気弾を放つ。この三者の速度に敵う者はそう無く、怒涛の攻め立てがウィスプ達を圧倒する。
ウィスプが放った幻惑の炎がランドウェラを襲うも、彼を守護する魔炎を通り抜ける事は適わず。お返しに放つ雷撃が、後方の鏡ごとウィスプを貫いた。
「確かに、あんまり強くさそうだ。で、でも、うーん……」
攻めるのは苦手、と零がたじろぐ。
「いや、うん! やるよやりますやりますともさ!」
万一だけど、死ぬのは嫌だ。翳した手の周りに生まれ出たのは、複数のフランスパン。混沌の贈り物たる無限のパンが、音の速さを超えてウィスプに迫る。狙うはただ一点、敵の口の中――
「……口って何処だろ?」
しかし、放ったパンは美味しく頂かれたようだ。ウィスプは吹き飛び、パンは炭となった。
「あーん、勿体ない!」
出発前にそのパンを味わったアストラークが、焼け過ぎたパンを見て名残惜しそうに指を咥える。
「でもあれ、無限に出せるのよね。我(わたし)にもいただける?」
「え、ええ! いくらでも!」
思いがけず、街で評判の魔女と天鍵の女王のお墨がついた。今月の売り上げは、期待できそうだ。
「こいつを倒してから、いただくとしましょうか」
残るは一体。他に光った鏡はなく、別所で発生した様子も無い。お楽しみは取っておこうと、レジーナは光球に迫る。
鮮血の魔剣でひと凪ぎすると同時、現れた無数の剣が幾重にもウィスプを串刺しにする。圧倒的な火力の前に、炎は一撃で消し飛んだ。
「これでまずはひと安心、だね。……あっ! 金平糖!」
透明な床の上、光る星型の何かが三つ。
「ランドウェラ君! それ、食べれないわ!」
「冗談だよ、これ、コアだよね? 万一コンペイトウでも、床に落ちてたら流石に食べられないし」
そんな緩いやり取りをしつつ。充分な警戒もあり、現時点の損耗はごく軽微。
一つ目のコアを回収しつつ進み、一つ目の扉を開いた。
●英雄たちを星が導く
「あまり、変わらないわね」
「ええ、あの方と見られたなら……こほん。観光地にでもしたら、存外儲かるのではないでしょうか」
一枚目の扉の向こう、ラヴと幻が見渡す景色は相変わらずの、天地左右に広がる夜空。
「慎重に行こう。視てくる」
機動力と注意をもって、ミニュイが偵察に飛ぶ。床や壁は、気を付ければしっかり見える。二枚目の扉が見えたが、曲がり角がいくつかあり、一枚目のように直進は出来なさそうだ。念の為にと一度、仲間の元へ引き返す。
「ただいま。ちょっと行った先、曲がり角だから気を付けて。特に弥惠」
「わ、分かったわ!」
天地左右、何処を見渡しても夜空に鏡、無数の灯り。幽魅は仲間を気遣いながら、迷宮について考え続ける。
灯りは純粋に光源で、鏡は形に微妙な差はあれど、ウィスプの通り道以外の不利な効果はいずれも無し。
先んじて調査を行うミニュイに、使い魔で後方を警戒するレジーナ。目印を落とす零。鏡と灯りの位置を記憶するランドウェラ。
(みんな頑張ってる……私も、考えなきゃ……!)
ただそこに居るだけ、邪魔になるのは嫌だ。考えなければ。きっと、私にだって出来る事はあるはず――!
「それと、そうだ。曲がり角の向こう。ウィスプが2つ、ふらふらしてた……距離は離れてたから、急いで行けば一個ずつ叩けそう」
「承知致しました、急ぎましょうか。僕とミニュイ様なら、間に合うでしょう」
「うん。一人で戦うのは、ちょっと避けたい」
ミニュイの軌道が、仲間に足場や壁の在処を知らせる。幻が続いて、透明な壁をも蹴って足場にしつつ、曲がり角の向こうへ。それと同時に現れる光球。
「分かってさえいれば、楽勝ですっ!」
弥惠が頭上高くに環状の武器を放り投げ、長い脚がウィスプを切り裂くと同時、真上から降ってきた圏が続けて炎を断ち切る。
「決まっ――」
別のウィスプが吐き出した炎が弥惠の衣装を焼き、驚いた彼女は足を滑らせ盛大に尻餅をつく。
「見えた!」
「お、俺は何も見てない! から!」
零が目を背けるが、占導の魔女は見逃さない。とにかく弥惠を援護すべく、零はパンの弾丸を放つ。
「また後日、配達をお願いしようかしら?」
レジーナもパンを気に入った様子で、焼け過ぎたパンを勿体無さそうに見つめながら剣を振るう。後ろからももう二体。アストラークを庇うように立ち、黒の極光で一閃。白い炎をも焼き尽くす。
「その技も! 懐かしいわ」
「混沌ではこの程度だけれど」
戦神と魔女。久方ぶりでも、互いの呼吸は自然と合うもの。
ミニュイが放った弾丸を最後に、至近の危機は去る。
「……くらくら、してきた」
どの位歩いただろう。感覚が徐々に狂ってきた。
扉こそ見えるが、手前は壁。周り道。しっかり進めているか、不安になってくる。アストラークがふう、と溜め息を吐く。
「お疲れですか……?」
幽魅が魔女を気遣い、気力を渡す。流石の魔女にも限界はある。アストラークは幽魅に礼を述べると、補った力を使い、一度に全員の気力を呼び戻した。
「さあ、張り切っていきましょ!」
幽魅が着実にアストラークを賦活する事で、精神力切れの心配は無い。しかし、先の見えない路は気持ちの方を削って来る。その中で、幽魅はなお考える。
何処をどう見ても星空。しかし、星の配置には法則がある。
「明るい星が、七つ……」
スプーンのような形に並ぶ、明るい七つの星。一枚目の扉の前でも、この星々は視えた。そして、少し離れた所に一つぽつりと光る、明るい星も――
「もしかして……合ってるかは、分かりませんが……」
ミニュイの斥候とランドウェラの記憶に、幽魅の推測を合わせてみる。
「確かに。あの明るい星の方向に進むと、壁に当たり難いみたいだ」
「大発見かも! 早速、試してみましょう」
魔女と一つ星に導かれるよう進んでいくと、何事もなく二つ目の扉へと辿り着いた。
●優しい夜を超えて
二つ目の扉を通ってすぐの場所は、心なしか鏡が多いように思える。
そのまま目を閉じていて、と、ラヴや零、レジーナが可能な限り壊していく。その間にも幾つかの鏡が光り、ウィスプが迷い出てくる。
「──夜を召しませ」
ラヴの囁きに応じて、夜が逆しまに――四方八方から降って来る。輝く星もない、真っ暗闇がもたらす重圧。打ち払わんとしてか、光の球がラヴへと集う。
「ここ、ちょっと狭そう。気を付けて」
ミニュイが一刀のもとウィスプを切り伏せ、パンの弾幕と呪詛の黒雷がそれに続く。
そんな中、奇術師は幾度かの夢を見る。迷宮の入り口、問いかけた鏡に映ったその人(ユメ)。
こんなにもあっさりと心を奪い、夢幻の蝶をも捕え続けるあの人はまさしくキセキ、嗚呼、到底敵わない――
(ここでの舞い方は、こう――!)
コツを掴んだ弥惠は、縦横無尽のステップで迫りくる光球を往なす。
「そろそろ、終幕としましょうか!」
今こそ、温存していた力を存分に振るう時、すらりと伸ばした脚を、全て断ち切る刃へと変えながら跳び。着地と同時に、ひとつの炎が霧散した。
「これで10体! さあ、もう用は無いよね?」
倒したウィスプを数えていたランドウェラが全員を促す。
「ああ! 誰が好き好んで大量の敵と戦うかってんだ!!」
迷宮による精神の消耗も、そろそろ馬鹿にならない。無尽蔵のフランスパンを放ちながら、零が逃げの姿勢に入る。
「よし、一気に走ろう! あ、お嬢様方はお先にどうぞ?」
「うん、そうする」
ずば抜けた機動力を持つミニュイと幻が、道を確かめつつ先行する。この場のウィスプでは到底追い付けず、行く先に漂うウィスプも、彼女らを捉え切れるか。
ウィスプを引きつけていたラヴを始めとして精神の消耗は大きく、アストラークによる支援も少しずつ不足となってくる。
後方から迫るウィスプの中、ひと回り大きい個体がひとつ。大きな光球が放つ閃光はこれまでの比ではなく、英雄の一行に混乱をもたらす。
(ど、どうしよう……!)
無限に増える敵の中、足並みや体勢の乱れは命取りとなる。精神力が減っている今、かすり傷でも痛手になり得る。最悪の事態が頭をよぎり、幽魅は狼狽える。
(考えて……! 私だって、選ばれた……)
運命を変えうる者(イレギュラーズ)なんだから――!
「皆さん……落ち着いて……!」
大丈夫だと、精一杯声を振り絞り叫ぶ。混乱をきたしていた英雄たちが、その一声で正気に戻る。
「幽魅、よくやったのだわ! ……それじゃあ、お返しよ!」
Fluctus et tempestas――天鍵の女王が力、戦車と軍馬の突撃が大きなウィスプをも弾き飛ばす。
「……見つけた! 最後の扉!」
先を行くミニュイが示す道、障害になるウィスプを、ランドウェラが放つ青い衝撃波が吹き飛ばし。
扉へ向かうアストラークをレジーナが守り、幽魅が支え、彼女もまた英雄たちを鼓舞し。
「もう少しよ!」
転がり込むように最後の扉を開ける。その瞬間、真っ白な光が迷宮全体を包んで――
●後日譚/魔女からのお礼状
「プライバシーに配慮して、お手紙でお届けするわ!」
夜のお嬢さんへ:
その時の為に、まずは自分を満たしてあげて。アナタは何が好き? 何が嬉しい? それが分かったその時が『夜明け』の瞬間になると思うわ!
奇術師さんへ:
その人との間に育んで、築いたものは沢山あるでしょう? その人と、何より想い続けた自分を信じて! ほら、もうすぐ希望が見えるわ!
梟のお嬢さんへ:
生活リズムや気持ちの大きな崩れから、色々な悪循環が起こりそうよ!
何があっても、自分のリズムは崩さないようにね!
レジーナちゃんへ:
曖昧だけどキラキラした未来が視えたわ! アナタ自身がその光を信じられるか。思ったままに感じるままに、天真爛漫が開運のカギよ!
万華鏡の踊り子さんへ:
敢えて鉄帝の、ちょっと厳つい場所が吉と出たわ!
あなたの柔らかい身体は、硬い鉄に映えるでしょうから!
パン屋さんへ:
近々、土台を揺るがすレベルの事故が起こりそう! 設備確認はきっちりね! あとは転んでも諦めない、もうひとつの質問にも言えるわね!
金平糖のあなたへ:
こればっかりは正直アナタ次第、としか視えなかったわ……!
ひとつ言えることは、感情それ自体に善も悪もないの! 嬉しいなら嬉しい、悲しいなら悲しい。その時の自分の気持ちに正直に、それでいいのよ!
頑張り屋さんへ:
占うまでもなく、今でもアナタは充分よ! あとは勇気を振り絞るだけ!
何をするでなく、一緒に居るだけで嬉しい人って居るじゃない? そういうのだって『役に立つ』って言えるのよ!
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
リクエストとご参加、誠にありがとうございました!
MVPは安定したAP回復でメンバーを大いに支えつつ(アストラークさんもAPは充填含め豊富でしたが、それでも限界はありました)自分に出来ることを精一杯頑張った幽魅さんにお贈りします。
未来はまだ不確定なものですが、皆様に幸せがたくさん訪れますよう、
心よりお祈り申し上げます!
GMコメント
・・・・・・・・
リクエストありがとうございます。パッと見た時のイメージで
キラキラ仕立てとか、思い切りやらせていただきました!
●目標(2つ揃って成功です)
・【占導の魔女】ウィッチ・オヴ・アストラークの護衛
・迷宮踏破。チェックポイント(扉)を3つ突破、かつ、3つ目突破の時点で
ミラーウィスプを10体以上撃破していること
●フィールド情報
集会の長が作り出した、魔的な迷宮です。
天地左右に広がる夜空、無数の鏡やランプが浮かぶ不思議空間。
浮かんでいるかと思いきや、よく見ると透明な床や壁がきちんとあり
(よく見ないと分かり難いです)、足場や灯りは問題ありません。
しかし、気を付けないと色々な感覚が狂う場所です。居るだけでAPを損耗していき、
長居すればするほど減少幅が大きくなります。
迷宮突破には通過すべきチェックポイントが三か所あり、それらはちゃんとした
扉の形で見えるので、そこを目指して進めばOKです。
ただし、道のりは多少の迷路状にはなっていますのでご注意ください。
●出会う敵と出会うモノ
〇ミラーウィスプ×∞
鏡の中から時折現れる、白い火の玉のような存在です。
1度に2~5体がランダムで出現し、出現時は予兆として
出てくる鏡が真っ白に光ります。
一体一体はさほど強くありませんが、不意打ちにご注意ください。
・白炎:神遠単/小ダメージ【CT高め/ショック・火炎】【Mアタ40】【虚無7】
・閃光:神中域/小ダメージ【混乱・恍惚】【Mアタ30】【虚無7】
・合体:二体以上が至近距離に存在する時、寄り集まってより強力な一個体に
なる事があります。一体ずつ存在する時より、合体した個体の方が強くなります。
【3ターンに1回、15%】の確率で出現し、3つ目の扉を抜けるまで沸いてきます。
コアになっている星状の魔石は『長からのご褒美』、アストラークのお目当てです。
〇鏡×全部で100枚
空間を漂う、大小さまざまな鏡です。迷宮全体に、おおよそ均等に存在しています。
様々な風景を映し出す事もありますが、ウィスプ出現以外の害はありません。
●友軍
〇【占導の魔女】ウィッチ・オヴ・アストラーク
かつて、善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)……
レジーナさんを英雄へと導いた魔女です。レジーナさん以外の英雄
(イレギュラーズ)にも興味津々、好意的に接してきます。
本人の戦闘能力はさほどありませんが、英雄叙事詩や魔人黙示録に似た
強化スキルと、単体・全体のAP回復を所持しています。
混沌にあってもその魔力は健在でAPはかなり豊富、本人は【充填】も持っています。
●迷宮を抜けられたら……
お礼にと、アストラークが皆さんの未来や進むべき路に、簡単な予言をしてくれます。
信じるも信じないも、予見された運命を変えるも変えないも、あなた次第です。
ご希望の方は、現在のお悩みをプレイングにお書きください。
●情報精度:A
「私たち魔女は、嘘は言わないの。記されていない事は、絶対に起こらないわ」
・・・・・・・・
それでは、よろしくお願いします!
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