PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<濃々淡々>貴方色のインクは如何?

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●あなたの色でインクを
 から、ころ。から、ころ。
 下駄の音は静かに、澄んだ音色で鳴り響く。
 下駄を鳴らした娘は急ぎ足で、通りを進んでいく。
 瓶覗の空の下、茜色の行灯通りを抜けた先にある、レトロモダンな一軒家。

 ――インク屋『パレヱド』。

 怪しく笑う物ノ怪の店主が生み出すのは、貴方だけのオリジナル。

 片思い。愛しいあの人へ想いを伝えたいのだ、と語ってくれた少女・杏には「杏」と名付けたインクを。薄桃に僅かに滲んだ黄金。淡く染まるひかり。桜の咲くころに生まれたのだと教えてくれたから、仄かに香る桜のにおいに杏は心を弾ませて。

 旅立ちの日が近いから、感謝の想いを書き綴りたいのだ、と語ってくれた青年・優斗には「優斗」と名付けたインクを。芽吹きの緑に月の雫を思わせる碓氷を混ぜて。綴った軌跡に僅かに残る銀の煌めきは星の如く。仲間と見た星が美しかったんだ、と語っていた優斗は涙をこぼして、手紙を書いた。

 おや、店主が色を創るようだよ。さぁさ、お立合い。
 語られた思いを。のせられた願いを。運ばれた祈りを。結ばれた奇跡を。
 かたちに。
 華奢な瓶に店主が手を翳せば、こぷり、こぷりと溜まっていくどろっとした液体。恐らくはあれがインクだろう。葡萄色のなかに浮かぶ赤い星。インクに万年筆をつけて、恐らくは彼の名前の『時雨』と書けば、赤と葡萄は酩酊。酔うように緩やかに溶けて混ざっていく。
「――おや。お前、其処で見ているだけだ、なんて云う心算じゃァ、ないだろうね?」
 ふと覗いていた客を出迎えて、店の奥へ連れていく店主。
「なァに、取って食いやしないさ。お前さんの物語が、代金さ」
 ぱちり、軽快に閉じられた右目に後押しされるように、客は己の物語を語りだし――そして、新しく生まれたのは『 』というインク。客は嬉しそうに頭を下げ、店を出て行った。

 ――お前さんの物語を、教えてくれやしないかい?

●ガトゥの手には
「へいっ、そこのおにーさん、おねーさん? ちょいと耳寄りな依頼のご案内ですぜ」
 黒い耳と尻尾を持つ青年――ガトゥは、特異運命座標を見つけると豪快に手を振って此方へと駆けよって。
「なんでも、タダでオリジナルのインクが作ってもらえるらしいっす!」
 ふんす、と胸を張り。巻物を解いて要項を読み上げる。
「ええと……うん、大丈夫! 誕生日とか、好きなものとか。思い出のエピソードを店主に語ると作ってくれるみたいっす!」
 いってらっしゃいっす! と手を振って、ガトゥは特異運命座標の背を見送った。

NMコメント

 どうも、染(そめ)です。
 万年筆は手入れが難しいですね。でも、持っていると少しだけ幸せな気持ちになれます。
 今回は万年筆のインクを生み出してくれる不思議なお店のご案内です。

●目的
 貴方の色のインクを創ろう。

 何個でも作りますので、連続参加も歓迎です。一章完結です。
 貴方の過去や思い出、大切にしている者などなど、色々なお話しを聞かせてください。
 所謂心情依頼です。ぶつけてください。

●世界観
 和風世界「濃々淡々」。

 色彩やかで、四季折々の自然や街並みの美しい世界。またヒトと妖の住まう和の世界でもあります。
 軍隊がこの世界の統制を行っており、悪しきものは退治したり、困りごとを解決するのもその軍隊のようです。
 中心にそびえる大きな桜の木がシンボルであり神です。
 昔の日本のイメージで構いません。

●その他
 万年筆売ってます。
 五月下旬に〆る予定です。

 以上となります。ご参加お待ちしております。

  • <濃々淡々>貴方色のインクは如何?完了
  • NM名
  • 種別ラリー(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年05月18日 20時03分
  • 章数1章
  • 総採用数10人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

古木・文(p3p001262)
文具屋

 文は瞳にいっぱいのひかりを煌めかせ、並ぶ商品のひとつひとつに目を奪われていた。
 売られている万年筆の、ペン先の緩やかなカーブ、持ち手の素材、その加工。
 インクの色を見る目と云ったら、完全に分析の世界へ。
(これは素晴らしい品。叶うならばうちの文具屋で卸したい品だがどうすればいいんだ……)
 と、柔らかな墨色を揺らすばかり。
「お客人、商品(こいつら)は逃げやしねェさ。なァに、気に入ったら卸したって構わねェぜ?」
 店の主人は文の後ろから顔を出して。驚いた文は、言われた言葉を理解する前に言葉を返し。
「あ、え、はい。ごめんなさい!?」
 まぁ此方へ来いよ、よ促されるままに木製の椅子に腰かければ、心落ち着く雰囲気に後押しされ、文は思っていたよりも流暢にことばを紡げて。
「……嬉しいなぁ。ええ、僕も普段は作る側の人間ですから、作って頂く機会は少なくて。どうしたってワクワクするものですよ」
 傍らには混沌よりも前からの『家族』がひとつ。紺の地に金のラインの入った万年筆は、文の手に握られると柔らかい字を書き綴らせてくれるのだ、と。
 文が語ったのは、万年筆との思い出。遠き場所にある家族との物語。店主は懐かし気に目を細め、手元の硝子瓶にインクを注いだ。

 ◇

 Name:文
 Color:濃紺をメインにした一品。つぅと線を描けばそれを蝕むように優しいセピアが広がる。遠き場所に在る想いが此処にあるようにと願って。

成否

成功


第1章 第2節

黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家

 腕の中ではしゃぐ小さなお嫁さん、嫁殿の喜ぶ顔が見たいから、と勢いで入った店内。色溢れるしょう鬼灯もこれには凄いな、と思うばかり。
「さて、ご夫婦の物語を聞かせてくれるかい?」
「ああ。……嫁殿と出逢う前の俺は、」
 ――ただの影に生きる忍だったと。
 『暦』達を束ね、刃を奮い、何時か影の中で朽ちゆくのだと思っていたのだ、と。鬼灯の声は差し出された珈琲の海に溶けて、沈んで。
 けれど。
「そんな時だ、嫁殿と出逢ったのは」
 硝子箱の中で微笑む君。愛らしく染まる薔薇色の頬。気が付いたときには、硝子箱の乙女をこの腕の中へと連れていたのだと語る鬼灯の目元は幸せそうに弧を描いて。
『その時の鬼灯くんたらね!
 一緒に帰ろう、嫁殿。って言ってくれたのよ!』
 嫁殿はシュガーポットから角砂糖をみっつ取り出し。
 苦い珈琲の海に、ミルクのような『愛』と、甘い甘い『恋』を沈めて。これがふたりの愛のかたち。
「……ふふ、改めて語ると少し恥ずかしいものだな。愛しているよ、嫁殿」
『私もよ、鬼灯くん!』
 幸せそうなふたりにはサービス、と、店主は二つの硝子瓶を取り出して。
 二人の名前のインクを、それぞれ生み出し始めた――、


 Name:鬼灯
 Color:漆黒と薔薇色のグラデーション。嫁殿たる彼女に染められた心を現した。

 Name:嫁殿
 Color:薔薇色と僅かに滲む赤紫。旦那様の想いを受けて、より鮮やかに咲き誇る少女の姿を現した。

成否

成功


第1章 第3節

鬼怒川・辰巳(p3p008308)
ギャンブル禁止!

「お客人のことを話してくれないと、インクが作れないんだよねェ」
 かれこれ三十分は黙ったであろう辰巳。喚く店主の様子が餓鬼のようで目障りに思えて、辰巳は頭を掻いて店主を見据えた。
「……わかった、わかったよ、るっせーな。話せばいいんだろ」
 はぁ、とため息ひとつ。どさっと深く腰掛けた椅子に前のめりに体重を掛ければ――物語は幕を開ける。
「俺高3で……ってか高3で伝わんのかな。
 んまあ学生で、ガッコのアタマ張ってんだけど、最近よくわかんねーまま変な場所に来てよ……」
「ふむふむ。お客人は変なところに迷い込んだんだな」
「っるせ、言われなくても判ってるっつーの。……まあ、これはこれで悪くねえんだけど、いつか戻ることとかあんのかなーって思ったらさ。
 バカなりにちょっとは勉強とか、しとかなきゃいけねえんじゃねえかってよ」
 ふむ、と店主は目を瞬かせ。
「アタマがガッコで一番勉強遅れてるってのは……なんつーか、流石にカッコ悪いじゃん」
 掻き毟られた頭は少し乱れる。色々と悩むお年頃の辰巳に、突き刺さる視線。
「……あんだよ?」
「あっはっは。お前さん随分と可愛いじゃないか」
「うるせえ、ほっとけ、バカだって色々考えてんだよ」
 ケラケラと笑う店主をぶん殴ってやろうかと思う辰巳だった。

 ◇

 Name:辰巳
 Color:快晴の青。曇りなく澄んだ空の色と、散りばめられた金箔の星。此処での青春が幸多きものであることを祈って。

成否

成功


第1章 第4節

ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
懐中時計は動き出す
散々・未散(p3p008200)
魔女の騎士

 此方の生活はまだまだ日が浅いから、文を交わすような恋なんて無い。
 けれど。
(――唯、一本有れば困る事もありますまい)
 此の胸ポケットに重みをくれる、小さな相棒を求めて。ヴィクトールと未散は『パレヱド』を訪れた。
「お前さんの思い出を色にして渡してやるさ」
 などといい笑う店主。とはいえ忙しいようで、カウンターに残された二人。ゆるやかな空気に口も緩んで、二人のことばは溶けてゆく。
「ヴィクトールさま……思い出、なにか。あります?」
「思い出と言われど――ああ、そうですね」
 ヴィクトールの長髪が揺れた。未散はその声に反応するよう瞬いて。
「此処へ来てからの僅かな記憶だけでしょうか、ボクの思い出は。……ああ、強いて言うならば甘い味、薄暗い幻影。柘榴の味と朽ちた金と……それくらいでしょうか」
 日だまりに零した細かな記憶。記憶の裏に仄かに燻る炎。レユ。幾つもの名前。そして未だ、ノイズと靄のかかった記憶達。
「――ああ、すみません。そんなお話しをチル様に聞かせてしまって」
 頬をぽりぽりと掻いて。ヴィクトールはそうだ、と目の前にあった日記帳を取って、話を逸らす。
「万年筆と冊子を一つ。どうせならば買ってゆきましょう。インクも添えれば日記を書くのに丁度良さそうでありますし」
 未散もその心は判っている心算だから、深くは聞かず頷いて。
「ねぇ、ヴィクトールさまは何色になさります? 悩まれるのなら此れなど如何でしょうか」
 未散が手に取ったのは、重ためだけれど時を重ねる毎に楽しめる真鍮製の万年筆。軸は硝子だからインクが見える。アイドロッパーの胴軸内に己の手でインクを注いでいける楽しみは、きっと他のものでは味わえないだろう。
「では、チル様のオススメなさるその万年筆を。
 仕組について詳しくはありませんが――美しいですし」
 ヴィクトールは僅かに頬を緩ませて。未散も安心して、どれにしようかな、と眺めてみる。
「ぼくは此の白い塗装の子を……」
 ふと、遠くにいる女性客の声が耳に入って。『せっかく友達同士できたのだからお揃いにしようか』と語る声は楽し気で、だから。
「……お揃い」
 ふとヴィクトールが漏らした声。慌てて取り繕おうとするも、時すでに遅く。
「お揃い? ふふ、勿論ですとも!」
 さて、お待たせと現れた店主。両の手に持った硝子瓶にはもう『色』が注がれ始めていた。
「真っ新に生まれ変われた様な青も、柘榴――血の様な赤も好き。後で見せ合いっこしましょうね!」
「勿論です。楽しみですね、チル様」

 ◇

 Name:ヴィクトール
 Color:歯車の如き金。線を引くと鉄を溶かしたような灼熱の赤。時折色が褪せてしまったりするのは仕様。記憶の海が満ちる頃には色も変わるだろう。

 Name:未散
 Color:限りなく白に近い虹。青い玻璃のようなきらめきが混じる。書いた後のインクの手触りはざらざらで、土の上の足跡のようだ。

成否

成功


第1章 第5節

チトセ・ザ・スターライト(p3p008403)
蒼星の踊り手

「ここはいろんなカラーのインクがあるんダネ。
 ブルーだけでもこんなにバリエーションが豊かネ」
 ふと、チトセは背の触手で空に近い青のインクを手に取る。
「……おや? なにか思い出が?」
「ボクはお空の向こうより暗いところにある青い星雲でスリープしていたネ。
 そこはこのブルーよりも深く、きらきらと輝いていたヨ」
 ガラス窓から入ってくる日の光にインクを透かして、遠い青を思い出す。青の星雲、浮かぶ光星。満ちてゆく星々はチトセのギフトにも似ていたのだ。
「で、お前さんはなんでこんな所に居るんだい?」
「え? なんでここにフォールしてきちゃったかって?
 よくわかってないんだヨ、なんでだろうネ! HAHAHA!」
「大分軽いね」
「まぁ、きっとボクがなさなきゃいけないことがあるんダヨ。
 それまではこの世界で旅行をエンジョイする予定サ!」
 ケラケラと笑い飛ばして。何とも言いがたそうな店主を気遣って、チトセはわかり易く話題を変えた。
「あ、そうそう、インク作ってくれるんだよネ?
 どういう風に作るのか興味あるんだけど見学してもいいかな?」
「……嗚呼、それは構わないぜ。どうせなら今、作ってやるさ」
 チトセは瞳を星のように煌めかせて、硝子瓶に注がれていくインクに想いを馳せた。

 ◇

 Name:チトセ
 Color:淡い青に煌めくスパンコールを散りばめて。柔らかな青のミルキーウェイ、浮かぶ綿雲のように書き心地は柔らか。

成否

成功


第1章 第6節

月待 真那(p3p008312)
はらぺこフレンズ

(うわぁ……! すごいなぁ、綺麗やなぁ……)
 真那はボルダーオパールの瞳を煌めかせ、店を彩るインクに没頭していた。
 視界の端に店主を見かけると居ても立っても居られなくなって、思わず駆け寄って。
「あの、思い出を話したら私色のインクを作ってくれるってホントですか?」
 と店主に詰め寄って尻尾をぶんぶんぶん。君のもやっていくかいと告げられれば、遠慮なく頷いて。
 真那の思い出語りはこうして始まった。

「私の思い出はそうやなぁ……この前行きつけの飯屋さんで大食いチャレンジ大成功したことやな! えっへん!」
「おお、凄いね。店主さんの反応は?」
「あの時の店主のおっちゃんの驚いた顔ったら傑作やったで!
 こんな美味しい料理出しといて食べきらん人おらんでーって言ったら凄く喜んでくれてんけどな?」
 楽し気に語る真那の姿にカウンター越しに店主もにっこり。片手にはもうすでに硝子瓶が握られているのだが真那は気付くことはなく語り続ける。
「お礼言いたいのはこっちの方やってしばらく言い合ってたんよ~! あはは!
 ……あっといけない、ご飯の話になると止まらんくなっちゃう」
 でもあの日はすっごく幸せだったんだぁ! と嬉しそうに笑う真那の前に、店主は笑みを浮かべて出来上がったインクを置いた。

 ◇

 Name:真那
 Color:ボルダーオパールをベースに、煌めく玻璃を一掬い。砂糖のようなひかりは真那の甘く優しい微笑みにも似て。

成否

成功


第1章 第7節

イルミナ・ガードルーン(p3p001475)
まずは、お話から。

「思い出……思い出ッスか。そうッスねぇ……」
 『ひと』と『妖』の温度の狭間。ロボットのイルミナは、店主に思い出をぽつぽつと語りだし、店主は静かに耳を傾けて。
「今はもう、帰ることを殆ど諦めてしまっていますけど……元いた世界の風景は今でも思い出せるッスね。
 ……いやまぁ、イルミナはロボットなので忘れるって事自体が意識しないと無いのですけれど」
 自虐気味に笑うイルミナ。ロボットである彼女が思い出す故郷のすがた。
 漆黒のまち。鉄壁とコンクリート。人の静けさを表すかのように、僅かに灯ったひかり。
 そんな世界だったのだ、と語るイルミナに店主は黙って頷いて。
「イルミナは……そんな世界で、ご主人様と暮らしていたッス」
「……悪くはなかったのだろうね」
 店主は優しく笑んで。イルミナは躊躇いながらも頷き。
「……あぁ、もし良ければ。万年筆を一本、売っていただけますか?」
 と、話を切り出したイルミナに店主は驚いて目を瞬かせる。
「いえ、たまには……紙にでも、文章としてデータを残しておこうかと」
「……なるほどね。構わないよ」
 好きなのを持っていくといいさ、と語る店主の右手。握られた硝子便にインクが満ちていった。

 ◇

 Name:イルミナ
 Color:鈍色。薄曇りの空の色。ペンの軌跡をなぞるように、炎のようなひかりが揺蕩う。どうか忘れることなかれ、故郷の景色を。例えそれが忘れることの無い記憶だとしても。

成否

成功


第1章 第8節

リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように

「人生をインクに――ええ、素敵ですね」
 リンディスは店内のインク瓶に触れて、見て、笑って。
「"文"に"色"を与えて、より物語を形作るもの……貴方はいくつの色彩をその瓶に生み出してきたのでしょう?」
 本に刻まれていない数多の物語を刻むその技を素敵だ、と笑った。
「では、私も一瓶お願いしましょうか」
 深く椅子に腰かけて、リンディスはふむ、と大切な物語(おもいで)を思案し始める。

 ――嗚呼。私の大切は、

「突然の旅の先で出会った友人たちと、そこで出会った沢山の本達。それが、私の宝物です」
 本と文字が全てだった『私』の世界が大きく広がって、その地で出会った素敵な"お話"と"物語へ至る可能性"。
 燃やすのが好きだという困り者もいるのだけれど――そんな新しい世界が、私の今の大切なのだ、と。
 言葉を選び乍らゆっくりと語るリンディスに店主も深く相槌を返して。
「いい物語だね」
「ふふ、有り難うございます。……なので良ければ、私にも。
 とびっきりの、これからの素敵な未来を紡ぐ色を。
 この、未来を綴る羽筆と対になる――素敵な色を、お願いできますか?」
 勿論。片手に硝子瓶を握った店主は、リンディスの紡ぐ物語に添える色を生み出し始めた――、

 ◇

 Name:リンディス
 Color:淡く発光する赤。赤い羽根には赤が似合う、との店主の閃きから。本を開けば優しく照らしてくれる色。このインクは空中に描くことができる。

成否

成功


第1章 第9節

ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸

(万年筆は確かにかっこいいが使う分には羽ペン派だからなぁ。
 貰ったインクを羽ペンに使ってみるのも良いかもしれないが……たまには別の物で書いてみるのも特別感があって素敵だね)
「ううん。迷う……使うかどうかは後で考えるかな」
「おや、お悩みの様子だね。それなら此方で物語を聞かせておくれ」
 と呼ぶ若い店主の男に釣られ、気付けばランドウェラはカウンター席へ。
 首を傾けて思考し、己が内に在る物語をことのはに乗せて綴り出した。
「物語かぁ。そうだな何でも良いなら……」


「僕はこんぺいとうが好きだよ」


 好きな食べ物の話をされると思っていなかった店主は思わず笑みを漏らして。ランドウェラはそんな様子は気にせず語り続ける。
 こんぺいとうとは元の世界から一緒に来たのだと。
 共に来たこんぺいとうはもう食べてしまったから、此れは混沌で買ったこんぺいとうなのだということ。
「だから、この甘い食べ物ではなく『こんぺいとう』という名称がついている事に意味があるのかもしれないね?
 よくわからない話をしてごめんよ。……お詫びにこんぺいとうをあげよう。甘くてとても美味しい、ぞ」
 店主はこんぺいとうを笑い乍ら受け取り口に含んで。じゃあ俺からもお礼、と。握られた硝子瓶に色は満ちてゆく。

 ◇

 Name:ランドウェラ
 Color:白。硝子瓶に在る内は。酸素に触れることで色を持つ。それは淡く、まるで金平糖のように愛らしい色に変わるのだ。

成否

成功


第1章 第10節

 店主がほう、と吐いた息は空気中に解けて、消えて。

 ――いい物語を聞かせてくれて、ありがとさん。

 店は陽炎のように消えてしまった。

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