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シナリオ詳細

恋する殺人鬼

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ぐちゃり。
 高く空に伸ばした手の中でどくどくと脈打つ心臓が愛おしい。愛おしくて愛おしくて、だからぎゅっと握った。
 ぱたたっ、っと音をたてて、私の顔に赤いいのちが滴り落ちた。
 ああ、素敵。きれい。どうして。どうして赤(これ)に気づかなかったのだろう。
 愛する人のそれを顔で受け止めるときに感じる高揚。体の奥底からの快感。体の芯がビクリと跳ねる。
 ああ、ああ。
 大好き、愛してる。
 なのに貴方はもう動かない。
 だからね、私はまた恋を探しにいかなくてはならないの。
 恋をしましょう! とってもとってもときめく恋を。
 ねえ、私に愛させて。
 貴方を好きだと感じさせて。

 少女は血まみれでまんまるの月の下、くるりと廻る。
 くるくるくるくる。
 サーカスのピエロのように。
 くるくるくる。
 
 ああ、恋がしたい! 恋がしたい! 恋がしたい!

 ――少女は。
 ――殺人鬼となった少女は新しい恋を求めて歩く。
 
 目があったらきっと恋に落ちる予感がする。
「おい、お前、何をしているんだ!?」
 男の人の声に私は振り向く。怯える瞳。振るえる声。ああ、ああ、ああ!
 貴方は私に恋をしたのね。
 私も貴方に恋をしました!
 
 少女は鋭利な長い爪を男の首筋に沿わせる。
 ぶしゃあと。
 頸動脈を切り裂けば、あいがふってくる。まっかなまっかなあいが私にふってくる。
 すてきすてき!
 一晩で二回も恋ができるの! なんて! なんて! なんて素敵! 神様アレルヤ!
 

「世界のみんな! きいて! 私! 今! めいっぱい恋してる!!」

 少女の形をした恋する殺人鬼はあいをもとめて月夜を歩く。
 


「サーカス、すごかったよね。すごく興奮した」
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)が、君たちに話しかけるは先日のサーカス興行。シルク・ド・マントゥールの話題。幻想での興行は大成功を収め、多くの観客に満足を与えた。
「それはそうと、最近は嫌だね。なぜか妙に血なまぐさい事件の話がローレットに持ちかけられてる」
 ふうと、ショウは疲れたような口調で前置きすると、ため息をつく。
「ユリーカも、プルーもあっちこっちで大忙しだよ。もちろん俺も。イレギュラーが出向くようなものからそうでもないものまでほんとに一気に増えた」
 で、自分たちにはどんな依頼なんだ? と君はショウに問いかける。
「話がはやくて、助かるよ。『恋する殺人鬼』って知ってる? もともと、手配はしてたんだけど、なかなか捕まらなかった、所謂殺人鬼なんだけど……最近、やけに被害者が増えたんだ。昨日なんて一晩で2人。正気じゃないよ」
 月の夜、独りであるく男性と目があった瞬間に恋と称して心臓を奪う殺人鬼。
 ローレットに通報したのは、現場を見てすぐに隠れてやり過ごすことができた男性だ。もし目があっていたら彼も3人目の「恋」の相手になっていたことだろう。
 恋する殺人鬼の行動範囲はある程度まではローレットが特定した。危険ではあるが、おとりとしておびき出して、撃破してほしい。それが今回のオーダーである。
「危険な仕事だよ。彼女はすでに何人も殺している殺人鬼だ。だからコレ以上の犯行をとめてほしい」
 そう言うとショウは、次の依頼を説明しにいかなきゃ、とその場を後にした。

GMコメント

 鉄瓶ぬめぬめです。恋する殺人鬼ちゃんを退治してください。

 ロケーション。
 月夜の町中です。ある程度の場所はローレットが割り出しています。あとは捕縛、退治をお願いします。
 大まかにわけて酒場の裏通り、大橋の上、町外れの街道の3箇所で犯行が行われました。
 各々の場所は基本的に移動に3ターンかかります。
 メタですが、彼女は此の日に恋を決行しにきます。皆様は3箇所に別れて、警邏していただくか、何処かにアタリをつけて待ち伏せしていただきます。
 もしアタリがハズレてもNPC男性を殺します。悲鳴なりスキルでなんらかの調査をしていれば気付きます。その時点で駆けつければ、恋する殺人鬼はそこにいます。
 
 彼女は一人の男性を狙います。
 何分夜ですので、女性でも男装をすれば誤認するかもしれません。
 彼女は目のあった相手に恋をします。
 恋を叶えるために攻撃をしてきます。

 てきさん。
 恋する殺人鬼
 16歳ほどの少女です。4匹のペットである巨大な狼を連れています。殺した残りは狼さんに食べさせていました。
 狼は少女の指示に従います。
 狼は出血BSつきのかみつき、ノックバックつきの体当たりをしてきます。

 殺人鬼の少女は主に鋭い爪と、範囲を氷結させる攻撃ができます。
 爪には、混乱、致命、呪縛がランダムで付与される毒が塗ってあります。(BS毒ダメージはありません)

 以上、彼女のこいに決着をつけてください。

  • 恋する殺人鬼完了
  • GM名鉄瓶ぬめぬめ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年04月02日 21時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

猫崎・桜(p3p000109)
魅せたがり・蛸賊の天敵
アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)
穢翼の死神
シグルーン・ジネヴィラ・エランティア(p3p000945)
混沌の娘
ローラント・ガリラベルク(p3p001213)
アイオンの瞳第零席
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
美音部 絵里(p3p004291)
たーのしー
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士

リプレイ



「美しくないのです」
 町外れの街道警備担当の『万古千秋のフェイタル・エラー』クーア・ミューゼル(p3p003529)はイライラとした口調で呟く。
「全く美しくない赤なのです。明るさと暗さを併せ持つ焔こそが美しい恋の色なのです。犯人とは分かり合えそうにないのです」
 自らの美学とは違うそれ。恋とは燃え上がる炎のような真紅。恋する殺人鬼の恋は只の赤。鉄さびの赤。自分が愛する赤とは種類が違う。だからわかり合うことはない。
 その目線の先には、男装した『自称カオスシード』シグルーン(p3p000945)がサラシで潰した胸元が気になるようで、何度もタイをいじっている。
 夜闇に浮かぶオレンジは燃え上がる炎のようだと、クーアは思った。
「恋愛なんてした事ないけど、目が合っただけで恋に落ちるものなの?」
『私にも分からん。一目惚れという言葉があるが今回の相手はまた別だ。アレはそういうものではない。――どちらにせよ、人殺しを放ってはおけんだろう』
「そうだね。被害が拡大する前に始末しないとね」
 クーアの隣に座り、同じく街道で一人囮をするシグルーンを見守るように、木立の後ろに身を潜めた『穢れた翼』ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)は胸元の十字架を指でなでながら『神様』と会話する。
 木立を夜行性の小動物ががさりと音を立てて移動した。その音に、はっと気づいたティアは街道の向こうを眺めるが、見える範囲にターゲットの姿は見えない。

 一方、大橋の上。スーツにハット。一見小柄な紳士に変装した、『二刀流バニー』美音部 絵里(p3p004291)は、橋の欄干にもたれ、アンニュイな表情で一人佇む。
「恋、私にはまだ分からないのです。あ、でも死んだら自分のなのは分かります」
 だって、そうすることで相手の全てを奪い支配することができるから。恋する殺人鬼の行動原理というものはわからなくはない。ただ、恋というものだけがわからない。欲しいものを手に入れる、それが「恋」なのだろうか?
 その橋の下、『GORILLA』ローラント・ガリラベルク(p3p001213)と、『特異運命座標』サクラ(p3p005004)は潜み、直ぐに行動できるように準備を整えている。
 今日は抜くことができない聖刀が地面に擦れてかちゃりと大橋に反響する。
「恋が女の子を狂わせたのか、狂った女の子が恋をしたのかなんだか悲しくなっちゃうな。恋ってもっと素敵なもののはずなのに」
 15歳の少女であるサクラはいわば恋に恋する年頃だ。だからこそ恋というものは美しいものであってほしい。
「ヒトの求愛行動には詳しくないが、少なくとも、彼女のそれが異常であることはわかる」
 サクラの悲しげな呟きにローラントは低い声で答える。あれは恋ではない。客観的に判断して異常だ。だからその思いは間違いではないと言外に含めて。

 酒場の裏通りを、『太陽の勇者様』アラン・アークライト(p3p000365)は警戒しながら歩く。とはいえ、あまりにも警戒しているのがわかれば『彼女』は姿を表さないだろう。だからある程度は声をかけやすいように気を抜いた雰囲気もなくさないように器用に立ち回る。
 『アランさんの側にいたりしたら出て来なくなっちゃうかな? だから僕は付近に隠れているねー♪』と言って、姿を消した『特異運命座標』猫崎・桜(p3p000109)が何処にいるのかはわからないが、巧くやるだろうとアランは酒に酔ったフリをしながら、口笛を吹いた。
「~♪」
 背後から、その口笛に合わせるような女の歌声が聞こえ、アランは振り返る。
「こんなところで出会うなんて……此れは運命ね!」
 高い明るい声。かかった。
 そう思ったアランは強い眼光で、彼女を――恋する殺人鬼を睨みつける。
「ああ、ああ、そんなに強い目で。貴方は私に恋をしたのね! ええ! 私も貴方に恋しました!!」
 熱にうかされたような、その少女は恍惚とした瞳でアランを見つめ一歩前にでる。
「お前が、恋する殺人鬼って奴か?」
 瞬間、アランの問いかけに答えることもなく、彼女は体勢を低くすると一気に近接し、長い爪を振るう。アランの頬から鮮血が飛沫いた。
「ウォオオオ!」
 アランは叫び声をあげて、裏通りを抜け、少しでも広い場所にと全力疾走する。
「まあ、追いかけっこなの? いいわ! 私もそれは得意なの!」
 彼女はアランを追いかけて表通りに向かう。
 表通りにでるその瞬間に、足元の敷石にガトリングの銃弾の雨が跳ねる。
「……?」
 表通りの中心で振り向いたアランを少女は不思議そうな瞳で見つめ、その隣に目をむければ桜の姿。
「恋は盲目っていうけど、こういうのは迷惑極まりないね、今回で最後の恋にしてあげないとだよ」
 その言葉に少女はニヤリと蠱惑的に微笑み、両手を上に上げて合図を送れば4匹の巨大な狼が桜に向かって飛びかかる。
「これは! 知ってる! 恋の邪魔者ね! うん、障害が多ければ多いほど素敵!」
「目が合った奴を殺すとかとんだサイコパスだな……お前の『恋』とやら、よーく教えてくれや」
 叫び声は届いただろう。あと20秒もあれば仲間が辿りつくはずだ。その時間を耐えればいい。
「ちょっときつっ!」
 4匹の狼に襲われた桜が悲鳴をあげながら、深呼吸を繰り返している。
「ちょい、耐えろ! 気合で!」
 恋する殺人鬼の爪での猛攻に全力防御で耐えながら、アランもまた桜に向かって叫んだ。
「あー! もうみんな早くきてー!」
 その声に答えるように、全速力で走ってきた仲間たちが援護攻撃を仕掛ければ、狼達は一旦桜から離れ、恋する殺人鬼の後に控える。
「あら? 邪魔者がいっぱい! 私の恋は否定されているの!? すごい! ねえ、この恋を叶えたら、きっと素敵だわ!」
 状況は仕切り直しだ。
「ねえ、あなた。わたしに恋したあなた。あなたをください!」
 恋する殺人鬼は再度アランに攻撃を仕掛ける。
「随分とモテたもんだぜ、こっちは任せろ、皆は狼を!」
「りょーかいですよ。『皆』いきますよー。狼さんもお友達にしましょう! 兎の狼狩りなんてしゃれてますよねー」
「わかりましたー。燃すのです」
 阿吽の呼吸で絵里とクーアが狼の群れに飛び込む。次いで、ティアとサクラと桜も獲物を構え、先に狼を倒すべく踏み込む。
「さて、少女よ。君から見てゴリラは恋愛対象にはならないかな?」
 防技を高めたローラントがアランの隣に並ぶ。狼への対応は十分と判断した彼はフォローすべきはアランと判断したからだ。少女に声をかけることで狼への指示系統を崩す目的も在る。
「私は君に恋してしまったようだ。私の血では不服かな?」
「まあ! まあ! ゴリラさんが喋ってるわ! 旅人さんね! すてき! 種族を越えた愛、なのね!」
 長い爪の両手を組み、頬を紅潮させる恋する殺人鬼。
「なんでもいいのかよ!」
 それには思わずアランも突っ込んでしまう。

 幻惑のステップを踏み、魔弾を狼に撃つシグルーンは、なにそれ? と思う。行動原理がめちゃくちゃだ。彼女は男装の必要のなくなった今、苦しかったコルセットを捨て去っている。
「やっぱり、あれはどう考えても恋なんかじゃないわ! 恋はもっときれいだわ!」
 サクラが今回刀を抜くことはない。彼女は『違う』から。蹴撃が狼を襲う。
「わかるのです。恋とは焔の色なのです」
 少しずれた答えを返したクーアは、サクラの攻撃した狼に言葉の通り焔式を叩き込んだ。ギャンと叫んだ狼は怒りあわらにクーアに反撃をしかける。
「おっと危ない」
 横合いから肉薄戦でフォローするのは絵里。連携は上々だ。
「わたしのわんちゃんたちいじめてるの? ひどいわ」
 クスクスと笑いながら状況を楽しむように殺人鬼が思ってもないような言葉を彼女らにぶつける。
「しらじらしい」
『思ってもないことをいけしゃあしゃあと言われるのは気分がいいものではないな』
 飛行によって立体的な戦場を作っていたティアはうんざりとした口調になる。
「はやく、たおさなきゃね、神様」
『ああ』
 上空から一気に降下し、疑似神性を降ろしたデスサイズで狼たちをティアが薙ぐと、狼達の体勢が崩れた。
 それに合わせるように桜はガトリングで弾幕を展開する。
「まずはお邪魔な狼から倒しちゃわないとかな? かな?」
 見逃さず、サクラが踏み込み竹のように撓る蹴撃が一匹目の狼を屠る。

「なんでもいいわけではないのよ。わたしを愛してくれた男性が二人! だったら、応えないと。わたしも、わたしの全てをかけてあなたたちに恋するわ!」
 言って振り上げた指先に冷気が集まり、二人の男を抱きしめるように振るえば、空気がぱりぱりと凍っていく。
「ちっ」
 凍りはじめた自分の武器にアランは舌打ちしながら、氷を溶かすように焔の術式で斬りかかる。幸いクリーンヒットは免れたが、体の芯が凍えるようなダメージは蓄積していく。
「ふむ、アラン殿は攻勢に集中してくれたまえ、なぁに、防御は私が担当する」
 きらりと歯を光らせてローラントが不敵に笑う。たぶん不敵にわらった表情だと思う。

「あっちはそんな感じだね。ならシグたちも頑張らないとね!」
 シグルーンもまた、不敵な笑みを強くして仲間を克己する。少女たちは可愛らしくおー! と相づちをうつ。
「だから、わたしたちと『皆』に頑張りでまけたらはずかしいですよー」
 うさみみのヘッドホンをぴょんこと揺らして、絵里が軽口を叩く。
「だということだ、アラン殿」
「好き勝手いいやがって」
 それでもアランは笑みを浮かべる。傷ついた傷が痛くないわけではないが、少女たちに男として負けるわけにはいかない。痛みを隠して伊達男は見栄をはる。
「怪我は終わったら手当するから」
『ティアは包帯を巻けるようになったのか』
「できるよ、できるもん」
 ティアが胸元の十字架にぷうと頬を膨らます。彼女の飛行による戦線の撹乱は効果的にパーティを支えていく。
「ふふ」
 サクラの笑みに合わせてポニーテールが揺れる。
「緊張してたの、なんかなくなっちゃった」
 彼女にとっては最初のローレットの仕事だ。少しの緊張が阻んでいた性根――バトルマニア――が顔をだす。
「では、燃やすのです。焼くのです」
 クーアの火花が一段と紅く激しく燃え上がり、狼に爆ぜた。
「人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られてなんとやら、という言葉あるけど、狼に食べられちゃうのは笑えないよねー! ところで誤射は一回まで大丈夫?」
 桜も軽口を叩きながらも、狙撃手の目でもって、確実な一撃を重ねていく。その物騒なひとことに「だめ!」と答えたのは誰だったか。とにかく戦場は十分なまでに温まっている。
 やる気の出た少女たちの猛攻は、狼を圧倒していく。殺人鬼の指示も飛ぶが、確実なブロックが狼を殺人鬼のもとに向かわせない。防御力の高いローラントがアランを護りつつ、狼はアランたちに手出しができないという状況を作った。
「あなたたちつよいのね。うふふ! はやく! はやく死んで! 死んでよぉ!! わたしのものになってよぉ!! 赤をみせて? あいをみせて? ねえ、死、死、死。殺、殺す、殺す!! ねえ! どうして殺せないの?! ああ!最高! 今最高の気持ちよ!」
「野郎、急にテンションが上がったな」
 アランが鼻白む。
「ええ! ええ! 声がきこえるの! わたしがあなたたち、恋する相手にであえたのも導き! こえが! よんだの!」
「声……?」
 熱に浮かされたようなその響きがやけにローラントには引っかかった。
「衝動! 衝動! 恋の、衝動! 呼び声! ねえ! あなたが呼んだの? 私が呼んだの? ねえ?」
 殺人鬼の言動はどんどんと支離滅裂になっていく。同時にまたその攻撃も苛烈になっていく。
「くっ……」
 ローラントの巨体が、揺らぐ。
「少女よ、恋する気持ちは尊いものだが、その行ないは悪しきもの、だ」
「どうして? こいは すてき こいは しあわせ こいは」
 ローラントを倒した、殺人鬼は次はまっすぐアランに向かう。爪が彼をかすめれば、ふと何故自分がここにいて剣を振るっいるのかが曖昧になっていく。
 ぼやける視界、どれが敵でどれが味方だ? 曖昧な世界がぐらりと揺れる。
 パァン! と頬に破裂音が響いて、アランは目をぱちくりとさせる。
 隣には、シグルーン。
「混乱してたみたいだね、目はさめた?」
「ああ、あの殺人鬼より随分と乱暴な一発だったからな」
「失礼だね、アラン君。手加減はしたというのに」
「此れで手加減とは恐ろしいな」
 少女たちの猛攻で狼はすべて駆除された。だから彼女らはこいする二人に割って入る。
「うふふー、ぼーっとしてたらわたしたちの勝ちってことになっちゃいますよー」
 横合いから飛び出した絵里がまるで兎のように跳ね回って、多段牽制を入れる。殺人鬼は突然の邪魔に、表情を歪める。
「じゃま、しないでよ! いま、私は恋してるの! みてわからないの?!」
「わからないよねー、だって只の殺戮行為だよー!」
 桜の射撃が殺人鬼の頬を掠めた。
「わたしの、崇高な、あい、わからない野蛮人!」
 殺人鬼が、桜に向かって飛び込んでいくのを、サクラが眼の前に入り込み止める。
「貴女のこれは、恋なんかじゃない!」
「こい、だわ!」
「恋っていうのは、もっとキラキラしてて、楽しくて、たまに苦しくて、そういう素敵なものなのよ」
「きらきらしてるわ。あかい、こい。楽しいわ。あかい、こい。素敵なのよ! 素敵じゃない!」
 通じているようで全く通じていない言葉の応酬ににサクラはやきもきするが、蹴撃は止まらない。
「どちらが野蛮人かわからないのです」
 踏み込んだクーアもまた、殺人鬼に火花を弾けさせる。
「あなたたち きらい。 殺すわ」
 殺人鬼が大ぶりに爪を振るう。最短距離にいたサクラとクーアが膝をついたが、二人とも同時にパンドラを咲き誇らせ、もう一度立ち上がった。
「なんなの、あなたたち」
「貴方みたいな、恋には絶対負けない!」
「美しくないものは燃やすのです」
 殺人鬼がそのパンドラの奇跡に怯え一歩後に下がる。すかさず、アランが回復役が詰め込まれた瓶を口で開けると、体力のより少ないサクラに使った。
「みんな!」
 殺人鬼は悲鳴混じりの声で狼を呼び戻そうとするが狼は既に全部斃れている。不利を悟った殺人鬼は逃げようと踵を返すが、先回りをしていた絵里が、狂気をはらんだ瞳でさせませんよーと、飛びかかる。
「ふざけないで!」
 背後をとるように飛行したティアが、殺人鬼の背中にとん、と手を当てた。
「なに?」
 生命力の逆流。再生能力が殺人鬼を壊していく。
「うそ」
 断末の一言。振り向いた殺人鬼の額を桜の精密射撃が撃ち抜いた。

「ちっ」
 アランが舌打ちをする。捕縛しようとはしていたが、そうはならなかった。殺人鬼の行動は不可解で、彼らに不殺を徹底する余裕はなかった。
 だからそれは仕方のないことだ。
 既に息のない殺人鬼の前に据わった絵里は彼女の残留思念を奪い、『皆』にしてしまっている。
「みんなー、こいってなんだろうねー」
 絵里は虚空に向かって楽しそうに会話している。
「この人のしたことは到底許されることじゃない。わかってるわ」
 サクラは屍の前で呟く。
「でも、そういう感性を持って生まれてしまった人はどうすれば良かったんだろうね……」
 それが彼女にとって正しい感性であると思っていたのなら。それは他人が否定できることなのだろうか? ならば、そういった人の中で生きていくことのできない感性で生まれて、そして育ってしまったのであれば。何が悪いのか。
 サクラはわからない。何が悪かったかなんて。だから、もう一度今の私にはわからないと声に出して呟いた。
――生まれたことが罪だとは思いたくないから。
 

成否

成功

MVP

なし

状態異常

ローラント・ガリラベルク(p3p001213)[重傷]
アイオンの瞳第零席

あとがき

というわけで、恋する殺人鬼は皆様のご尽力で倒すことができました。
少々怪我をされている方もいますが、巧く作戦はまわったと思います。
ご参加ありがとうございました!

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