PandoraPartyProject

シナリオ詳細

なんて恐ろしい戦いだったんだ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●その怪物はとっても恐ろしく
 街道、と言えば整理された道を想像するかも知れないが、それなりに街から遠ければ適当に踏み鳴らしただけのものでしか無いことも多い。
 この辺りになると警邏の目も行き届かないこともあり、野党や、野生生物の類が路行く人を襲うということもままあった。
 そういうわけであるのだから、腕の立つ護衛を雇うだとか、乗合馬車を使用するというのが平常であって、若い男女二人がぶらりと歩いているというのは、些か危なっかしさを感じるものである。
 それが苦境な冒険者であれば言うことはない。しかし見るからに軽装な二人組みである。だというのに、彼らは警戒の意識やおっかなびっくりという様子は見せず、風景のひとつを楽しむような余裕さえ持っているように感じられた。
「この辺り、報告を見たって山賊がせいぜいッスよ。本当に、こんなところに怪物なんて出るッスか?」
「出たって当人が言っているんだよ。正式なギルドへの依頼だし、それに、本当にそんな怪物がいるなら調査は必要だろう」
 彼らはどうやら、何かの仕事でこの辺りに来ているようだ。口ぶりからするに、荒事には慣れているのだろうか。
「そういえば、どんな怪物ッスか?」
「……知らないで来てたのか。ええとね、赤い二本角が特徴の如何にも獰猛なやつだってさ」
「詳しいんだか曖昧なんだか微妙なとこッスねえ。この辺で……ギルオス君!?」
「え、うわっ、あぶなっ!」
 男は草むらから飛び出してきた何かを驚きながらも回避すると、手を添えてそれを受け流してみせた。勢いを別方向のベクトルに変換されたそれは、自身を制御できず、大きな岩に頭からぶつかると、そのまま動かなくなる。
「大丈夫ッスか?」
「ああうん、当たってはないよ」
「何ッスかね。野生生物ッス?」
 女のほうが動かなくなったそれに歩み寄り、確認する。当たりどころが悪かったのか、生命活動が停止しているのを見て取ったのだろう。女はその生き物をぐるりとひっくり返すと、少しの間をおいて男を呼んだ。
「ギルオス君、ギルオス君」
「なんだい? 何か変なものでも……あ」
「…………やっちゃったッスね」
 その生き物は、赤い二本の角を持っていた。

●皆が丸く収まる嘘をつこう
「そういうことだから、上手く言っといて欲しいッスよ」
 集まった面々にそう告げた情報屋に向けて、彼らは思わずため息をついた。
 なんでも、ギルドが懇意にしている貴族から依頼があったそうだ。
 街道にて強大な怪物に出くわし、荷物を奪われたそうだ。
 荷物は食料の類であったので、取り戻すことは諦めているが、あのような怪物がいては民草が安心して街道を使用することが出来ない。その怪物を討伐して欲しい、というものだった。
 ところがだ、これを調査に向かった情報屋が解決してしまったという。
 何でも、話に聞いていた怪物とは実際にはネザーランドドワーフ程度の大きさしかなく、草むらから飛び出してきた際に岩にぶつかって死んでしまったそうだ。
 人を襲う以上は放置できない、というのは確かだが、なんともしょぼい結末である。
 これで解決かと思われたが、ひとつの問題が起こった。
 その依頼人の貴族、『街道には危険な怪物が生息しており、現在ローレットに依頼して解決のために尽力を注いでいる。そのため、街道には近づかないように』という旨のお触れを出してしまっていたのだ。
 こうなると、『あなたを襲ったのは小さな兎で、取り越し苦労ですよ』と言うわけにはいかない。善意を持って問題を解決しようとした貴族の面子を潰すということをしてはいけないのだ。
 そこで、依頼に行く予定だったメンバーに、急遽として依頼内容の変更が通達された。
 その怪物が如何に恐ろしく、この戦いがどれだけ過酷なものであったのかをその貴族に説明し、何とか依頼を達成したのだ、これでもう安心だと、伝えて来て欲しいというのだ。
「どうせ街から離れているから誰も真実は知らないッス。ここはもう、どばーんっとヤバい怪物と死闘をしたことにしちゃおうッス」
 嘘を付くというのは気が引ける。善人相手ならなおさらだ。だがこれで貴族の体面は保たれ、不安の種も取り除かれる。
 方便とはよく言ったものだが、優しい嘘が物事を平和裏に解決するということもあるのだろう。

GMコメント

皆様如何お過ごしでしょう、yakigoteです。
街道にて怪物が出現し、ヒトを襲っては荷物を奪っていたのですが、これは解決しました。
しかし問題はそれでは終わりません。
この怪物がどれだけ強大で恐ろしいものであったのかを報告しなければいけないのです。
ありもしない戦いでしたが、リアリティある脚色を持ってこの討伐依頼の一部始終を貴族に説明し、必死の思いで解決したのだと伝えてきてください。
『依頼後、心配しているだろうと思い、そのままの脚で屋敷まで報告にかけつけた』くらいの体で。

【ワードデータ】
■街道の怪物
・赤い角を持った小さな兎。ヒトを襲っていたが、正直強くはない。情報屋がたまたまでくわしてぺちんてしたら死んでしまった。

■ジョージ・フランネル・オリオロー
・貴族。怪物を野放しにしてはいけないとローレットに依頼を持ち込んだヒト。善人なので面子を潰しては可愛そうだ。50代くらいの細身の男性。

  • なんて恐ろしい戦いだったんだ完了
  • GM名yakigote
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2020年05月25日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
主人=公(p3p000578)
ハム子
クィニー・ザルファー(p3p001779)
QZ
サイモン レクター(p3p006329)
パイセン
ハッピー・クラッカー(p3p006706)
爆音クイックシルバー
中野 麻衣(p3p007753)
秒速の女騎士
エルシア・クレンオータ(p3p008209)
自然を想う心
月待 真那(p3p008312)
はらぺこフレンズ

リプレイ

●満身創痍の冒険者
 噂には聞いていたのだ。あの道には厄介なものがでると。しかし直接的な訴えが来なかったことから、単なる噂に過ぎないのだと思っていた。嗚呼、今思い出すだけでも恐ろしい。あんな、あんなものがいるだなんて。あれは目にも留まらぬ速さでこちらを襲い、眼光鋭くこちらを睨んだ。そして呪いの言葉を囁いたのだ。ダメだ、あんなものがいては人々の平穏は訪れない。こうなったら、彼らに頼むしか無い。

 その日も、ジョージ・フランネル・オリオロー伯爵はあまり眠ることが出来なかった。
 あの怪物のことが気にかかって仕方がなかったのだ。
 自分が襲われたことなどどうでもいい。自分が傷つくことで民が失われずに済むのなら、この身など喜んで差し出そう。
 寝ぼけ眼をこすりながら、新しい書類へと向かう。怪物のことは気にかかるが、それで政務が疎かになっては本末転倒というものだ。
 小さなあくびを噛み殺そうとした時、突然、大きな音とともに執務室の扉が開いた。
「伯爵様!! ギルドの者たちが報告をしたいと館を訪れました!!」
「何、もうか!?」
 なんとも早い報告だ。通常の依頼よりも遥かにだ。早急に解決してくれたのかという期待と、もしや悪報ではという思いがないまぜになる。
「よし、謁見室に向かおう」
「はっ、それが……」
「どうした? まさか失敗を――」
「いえ、そうではありません。報告者が、多いのです」
「―――ん?」

●精鋭揃いの達成者
 情報屋は一通りの調査を済ませた後、微妙な面持ちで依頼を引き受けると回答してくれた。無理もない、きっと彼もあの恐ろしい怪物を見たのだろう。情報屋というからには、戦いは専門外であるはずだ。彼もあんな恐ろしい体験をしたのだと思うと、胸が痛む。しかし、やってもらわねばならない。彼らしか、最早頼める希望はないのだから。

「嘘を言わなきゃいけないのか……よし、憎いブルーベルのせいにしよう、あいつは錬金術師の魔種が作ったキメラとかスライムとか使役してるし……」
 伯爵の登場を待つ間、『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)は自分の説明の背後関係を地固めしているようだ。
「どこまで事実かどこまで俺の推測かは忘れたが、今回は嘘つくことなので問題ない、とにかく真実と嘘が混じり会うから信憑性が増すはずだ」
「はあ……はあ……」
『QZ』クィニー・ザルファー(p3p001779)はいつ伯爵が謁見室に来ても良いように、満身創痍ですごいしんどそうなポーズを今から行っている。早い呼吸は意図的にやりすぎると過呼吸になるので気をつけよう。
(このような姿でご無礼、ジョージ・フランネル・オリオロー卿―――赤い角の狂獣。討伐、完了致しました)
 ちっちゃくぶつぶつと予行練習をしながら、思いの外、壁に凭れる姿勢を維持し続けることがキツイと実感し始めていた。
「事実は小説より奇なりっていうが、こんだけしょぼい結果をそのまま伝えるのは確かにしのびねぇわな」
『吸血鬼を狩る吸血鬼』サイモン レクター(p3p006329)は後頭部をガリガリと掻きながらこれ以上は顔に出すまいと表情を引き締める。
 虚偽の報告を行う。そう言ってしまえば悪徳のように思えるが、実際よりも体面のほうが重要であることもあるのだ。
「ま、誰も困る相手がいないウソならついてもいいだろう?」
「あーなんかネタが膨らみませんね……」
 ああでもないこうでもないと、『秒速の女騎士』中野 麻衣(p3p007753)はこの段階でも自分の台本を書き換え続けていた。
 なにせ、大仰過ぎず、しかし明らかに一般市民には驚異となる存在を演出しなければならないのだ。
 うんうんと頭をひねる。せめて伯爵がその扉を開くまでに、何か良いアイデアが浮かべば、僥倖であるのだが。
「そういえば、私のローレットでの初依頼も、真実をでっち上げる依頼でした……」
『自然を想う心』エルシア・クレンオータ(p3p008209)はさめざめと泣いていた。戦う自身などないけれど、命を奪い合う自身などないけれど、それでも選ばれたからには、仕事というからには誇りを持っていたというのに。
「そして今回も……憧れていた英雄像とは似ても似つかぬ特異運命座標の仕事に、涙が出そうです」
「狩りの依頼やと思ってたら拍子抜けやなぁ……」
 戦いだと思っていたら、とうに終わったという。それがあまりにちっぽけだったから、演出を交えて捕まえた魚も大きく見せろという。
 嘘をつくのが得てではないと思いつつも、しかし事情も理解できた『ハラペコ狼』月待 真那(p3p008312)としては、捨て置く話ではなかったのだ。
「ジョージさんの面子は守ってあげたいし、いっちょ頑張ってみよかな! おー!」
 そして、奥の扉が開き、そこから男が現れる。
 領主、ジョージ・フランネル・オリオロー伯爵。
 地位の高さと裏腹だというべきか、その顔には善人さが透けて見えている。
 今も心配でたまらないのだろう。民も、そしてイレギュラーズも、気をかけている様子がありありと見て取れた。
 報告を。
 そう言われて、語り始める。
「あれは……そう、ボクがローレットの緊急依頼を受けて現場に赴いた時の事でした」
『ハム子』主人=公(p3p000578)が先手を切る。
「奴は物陰から突然現れ、そのまま走り去って行ったのです。ボクたちはその影を追って森の中へと踏み込んでいきました」
 まさしく、それが件の怪物だろう。どうして、襲いもせずにそのまま走り去ったのか。
「恐ろしい。あまりにも恐ろしい戦いでした……」
 続きを語るのは『爆音クイックシルバー』ハッピー・クラッカー(p3p006706)だ。
「しかし、勝利を信じて食らいつくイレギュラーズの魂が、この勝利をもたらしたのです!!!!!!」
「おお、勝利を……!!」
 伯爵の顔に喜色のそれが見える。
 さあここから、皆を幸せにするために、大きな大きなホラを吹こう。

●疾風怒濤の帰還者
 解決したと、彼らが駆け込んできた。その早さには目を剥いたよ。もっと、何ヶ月、下手をすれば何年もかかる大きな戦いになると思っていたからだ。彼らの有能さにはいつも驚かされる。それにしても酷い傷だ。きっと、民のことを心配して、奮闘してくれたに違いない。彼らも無茶をしたのだ。なんと、なんと心優しい者たちであるのだろう。是非とも勲章をと伝えると、俯いたまま辞退された。なんと奥ゆかしい。

「もしも、もしもあの街道が封鎖されない……そんな未来があったなら、きっと今頃、未曽有の大惨劇が起こっていた事でしょう!!!!!!!!!!!」
「おお、では、伯爵の判断は正しかったと……!」
 ハッピーの断定に色めきだつ執政官達。自分の行動を褒められて、伯爵も少し照れている。
「しかし勝利の代償は軽いものではなかった」
「何、まさかどこか大きな怪我を……!?」
 慌てる伯爵。戦うことを生業にしていると知っているはずなのに、それでも傷ついたと聞けば心配してくれる。
「……そう、私の命はこの戦いで失われてしまったのです」
「えええええええええええええええっ!? 死んだの!!?」
 家臣の誰もが思わず叫び、伯爵が杖を取り落した。
 わなわなと震え、後悔に頭を抱えている。
 死んだ。死んでしまった。そんな危険な仕事に、自分が送り込んでしまったせいだ。
 尊い命が失われたことに、誰もが涙を―――あれ、じゃあここにいる彼女は一体何なんだ?
「でもそこはイレギュラーズ、ただでは死なぬ! 心配ご無用、これからは私、幽霊イレギュラーズとしてやっていきます!」
「えええええええええええええええええええええっ!!??」
 死んでも戦うイレギュラーズ。ギルドってすごいと伯爵達は思った。

「敵は深緑の魔種が作り出した、いろんな姿になるやつだった」
『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)の説明は皆の報告を補佐するものである。姿形を変えてくることにしておけば、敵の特徴で食い違いがあっても、その時はそんな姿だったんだよ、でごまかせる。
 ついでに、思い返せば敵ってちっちゃかったんじゃね? って思い出しても、その時はそんな姿だったんだよ、でそっちもごまかせるのだ。
「なんと、魔種が……? 例えば、どんな姿に?」
「とにかく、いろいろだ。イレギュラーズの姿にもなった。俺の姿にだってなってきたぜ……」
 いろいろってすげえ便利な言葉だなって思う。なんかこうディティールがうまく言えない時に使いやすい。いろいろだ。敵はとにかくいろいろだったんだ。
「わざわざ深緑じゃなくてここを狙ったのは、深緑ではイレギュラーズの偽物の噂とかあったからな。バレにくいようにここを狙ったんだな」
 伯爵は神妙な顔で頷いた。

「まさかあんなことに成ってしまうなんて……」
「何、どうしたのだ……!?」
 もう既にひとり死んでるが、それ以上のことがあったのかと、公の言葉に伯爵は焦る。
「ボクが捜索を続けていると、血を流しながら助けを求めて逃げて来た女性が居たのです」
「なんと、まさか民が森に紛れ込んで!」
「いいえ、何とその女性は魔物が擬態した姿だったんです。不意に襲い掛かられたボクは手傷を追ってしまいました」
「卑怯な怪物め……!」
 伯爵は怒りを顕にしている。こんなに騙されやすくてこの領大丈夫なんだろうかとちょっと心配になってくる。
「すると……ああ!何という事でしょう! ボクの血を舐めた魔物はボクの姿に変身したではないですか!」
 語り口は加速する。
 仲間を害させるものかと奮闘する公。傷の痛みに歯を食いしばり、決死の思いで一撃を放ち、しかし意識を失ってしまい、そして……。
「後で聞きましたが皆も苦戦したようです」
 最後、結構飛んだ。

「ひどくやり辛い相手でした……」
 クィニーが続いて語り始める。
「卿がご覧になったのは彼奴(「きゃつ」って読む)の凶々しき姿、禍々しき力のほんの一部でしかなかったようです」
 人生で初めて「きゃつ」とか言っちゃったよと思いつつ、表情を取り繕う。
「そう、あの赤い……真紅の角こそは魔種の力の顕現。それを一目で見抜かれた卿はまさにご慧眼にござる」
 その上「ござる」とか言っちゃったよ、ニンジャかよと思いつつ、表情取り繕う。
「あの角から迸る、闇深き魔の力の奔流。言うなれば…………えーと……ま、魔種ビーム」
「魔種ビーム……!?」
「そう、魔種ビーム」
 なんだろう、今回語録すげえな。
「しかし、我々も、イレギュラーズ。彼奴を屠ったのは、パンドラの匣に残った最後の希望。特異運命座標が抱く夢の顕現。即ち……PandoraPartyProject」
「おお、なんという……」
 この場にいる誰もが、クィニーが何言ってるのかよくわかんなかった。
 ぼくたちはふんいきでかいわをしている。

「いやー、自分不幸にも御触れを聞く前に例の街道を行商で通ってしまったんですがね、そこでイレギュラーズと怪物が戦ってるとこに遭遇してしまったんですわ」
「何、ではお主はたまたま戦いに巻き込まれただけだというのに、わざわざ報告をしに来てくれたのか!?」
 善良な市民の存在に胸を打たれる伯爵。
 無論、この巻き込まれた商人はサイモンの変装であるのだが。
「そしてイレギュラーズの必殺技が決まって「やったか!?」と思った瞬間……変身したんですわなぁ、怪物が」
「そうか、確か怪物はいろいろ変身するんだったな……」
 サイモンの語りは続く。なんていうか、正面向きのカメラ目線なインタビュー形式で続く。
「え? もうだめかと思ったかですって? いやー、ああなっちまうと普通は勝負ありだわってなるとこだわ、普通は」
 身を乗り出す領主に語る。やっぱりあなたはワカってない。普通わね。
「だけどこりゃイレギュラーズの話でしょ?」

「あれはすごくムネの大きなサキュバスだったっすよ……」
「な、サキュバスだと……?」
 麻衣の言葉に、伯爵も執政官(ほぼ男のみ)もざわつき始める。
「それはもうとんでもないレベルの魔乳な……」
「な、なんと……」
 ざわざわ、ざわざわ。
 なんかちょっと嬉しそうな伯爵達。こう、ね。
 少々浮足立った空気に、女性執政官が大きく咳き込むと、皆が気まずそうに姿勢を正していた。
 許してやってほしい。彼らも男の子なのだ。
「強大なおっぱい魔法で男は瞬時にヤられてしまったっすよ。女もひんぬーなら攻撃が少し大人しいと聞いたっすけどこのメンバー大体ムネが大きいので苛烈な責めをされてしまったっす……」
「苛烈な、責め……」
 ざわざわ。咳き込み。しーん。
「報告書に記載できないようなへっちな責めに全滅寸前だったっす……」
「報告に記載できないくらいいやらしかったのか!?」
 ざわざわ。咳き込み。しーん。

「その魔物は、オリオロー閣下がご覧になったと仰るよりも遥かに小さな、ウサギのような大きさのものでした」
「うさぎの、ような? 馬鹿な、強大な怪物では……」
 エルシアの語る怪物の真実に、不思議そうな顔をする伯爵。
「ですが、やけに簡単に倒せた小物だと思ったら……それが恐怖の幕開けだったんです」
 ごくりとつばを飲む伯爵。一体何が置きたというのか。
「嗚呼、先程の魔物は、子供か、眷属か……兎に角私達は、親玉に襲われてしまいました!」
 うさぎだけに? とは誰も言わなかった。
「魔物の発する気迫に恐怖して、その場に跪き、精霊達に祈る事しかできなかった私の、何と情けない事か……!」
「いや、良いのだ。お主はよくやってくれた……」
 自分の不甲斐なさを嘆くエルシアに、優しい言葉をかける伯爵。
「私の体は祈りも空しくあっという間に空に放り投げられて、どちらが天でどちらが地なのか判らなくなったのが最後の記憶でした……」
「お主も、さぞ無念だっただろう……」
 伯爵もまた、悔し涙を流している。

 口々に語る怪物の姿はどれも断片的で、それも全く異なったものまであるため、要領を得ない。
 どれもが真実というには、あまりにも不可解な怪物。だがその真実の裏付けを行うものがいた。一部始終をその目で見ていたというのだ。
 真那である。彼女は戦いの最中に武器を失い、ただただ見ていることしか出来なかった自分を悔やんでいるという。
「敵の攻撃で、か。得物をへし折るほど、怪物の力は凄まじかったのだな。わかった、あとで代わりの銃を――」
 それは断った。もらってしまうと使う時にいちいち罪悪感が半端ない。
「しかしそれでは……いや、それもまた、戦士の矜持なのだろうな」
 納得したように深く頷く伯爵。よくわからないけれど、とにかく納得してくれたので真那は頷くことにして、そのまま俯いた。そろそろ顔に出そうで怖かったのだ。
 銃を失った狙撃手。しかしなおも気高くあろうとする存在。それを伯爵は、何か眩しいものを見るような顔で感じ入っていた。

●空前絶後の大勇者
 そうだ、彼らの銅像を作ってはどうだろうか。

「……のう」
 彼らが去ったあとで、伯爵は部下に声をかけた。
 部下もまた、主人と同じく神妙な面持ちでその続きを待っている。
「彼らのような者を、ツワモノと、いうのだろうな」
「はい、誠に」
 彼らはただただイレギュラーズのあり方を称賛し、この大偉業を後世にも残すべきだと、此度の報告を噛み締めていた。
 すごいぞイレギュラーズ。かっこいいぞイレギュラーズ。
 本とか出たら、恥ずかしいだろうなあ。

 了。

成否

成功

MVP

ハッピー・クラッカー(p3p006706)
爆音クイックシルバー

状態異常

なし

あとがき

死んでるやつズルいのでMVP。

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