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シナリオ詳細

<鎖海に刻むヒストリア>オールド・ローズの瞳

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●最後の作戦
「皆さん、お疲れ様なのです! 絶望の青踏破までもう少しですよ!」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)の言葉に深く頷くイレギュラーズたち。多少の疲労を滲ませる者も──中には死の香りを漂わせた者も──いるが、誰も絶望に染まっていない。
 魔種・冠位嫉妬アルバニアの焦りと苛立ちを肌で感じ取っているからだ。アクエリア島を制圧し、後半の海へ出た彼らは幾度となくこれまで以上の障害に立ち向かってきた。その厳しさも半端なものではないが、廃滅病(アルバニア・シンドローム)にかかった仲間を救うという想いも負けず劣らず強い。それは一同と海洋軍の士気を上げるに一役買っていた。
「アルバニアを引きずり出すため、女王とソルベさんが大作戦を始めようとしているのです。皆さん、第三次グレイス・ヌレ海戦は覚えているでしょうか」
 ユリーカからの問いかけに頷くイレギュラーズも多い。年末年始にかかったその海戦では鉄帝と海洋が戦い、イレギュラーズたちは海洋側として加勢したのだ。
「あの時は敵だった鉄帝国が味方に付きます。海洋国、鉄帝国、そしてイレギュラーズの皆さんで連合軍を組むのです!」
 鉄帝は例え廃滅病を知ったとしても、それを直接的に恐れる者はいない。そんな素振りを見せようものなら『弱者』と言われても仕方がないから。そして彼らは『強者』たれる強さを実際持っている。彼らが味方に付いてくれるのなら心強いことこの上ない。
 連合軍を組んだ一同はこれまで同様、アルバニアを追い詰めるべく絶望の青を一気に攻める。これ以上ないほどに追い詰められればかの魔種も自ら出陣し、こちらを退けようとしてくるはずだ。
 ──逆に。ここでアルバニアが出てこないのならば、初期に廃滅病へ罹患した仲間たちを救うには時間が足らなくなる。
「なんとしてもアルバニアを引っ張り出すのです。そしてえいえいって倒しちゃうのです!
 魔種の、それもとっても強い相手ですが皆さんなら勝って──全員で帰ってくるって信じてるのですよ!」
 ぎゅっと拳を握りしめたユリーカ。彼女を始めとした情報屋は待つことしかできないから。イレギュラーズへ情報を渡して、見送ったあとは祈るしかない。
 皆、どうか──無事であれ、と。



●海上にて
「鉄帝軍人、ルメラだ。この艦の指揮官を任されている」
 よろしく頼む、と礼をするのは1人の女性だった。鮮やかな赤毛の髪が揺れ、その体つきは凡そ筋肉質とは言い難いが──。
「……何か?」
 じと、と見つめてくる眼光は只人の者ではない。それは確かに強者が持ちうる視線だ。
 イレギュラーズたちはこの度、鉄帝艦に乗船して海を進んでいた。後方には友軍となる海洋艦がついている。
「──お前たちは、苛烈なる絶望の青を進んできたと聞いた」
 あれる天候の中、ルメラは室内へ逃れることをしない。無謀なのではなく、1人の戦力も欠けさせまいとしているのだ。
 彼女の言葉にイレギュラーズは頷いた。踏破したとはまだ言えないが、ここまで絶望の青を進んできたことは確かだったから。そうか、と呟いたルメラは視線だけをイレギュラーズへ向けた。
「先の第三次グレイス・ヌレ海戦。あの時、私はお前たちと戦った。……良い、戦いだった」
 彼女の言いたいことが、その先が読めずにイレギュラーズは眉を寄せる。その様子にルメラはふっと小さく笑った。
「楽しい戦いだったのさ。同国の者以外でこうも渡り合い、『本気』で戦えるなど早々ない。故に私はお前たちのことが存外気に入っている。
 だから──」
 ルメラの言葉が途切れる。途端剣呑になった視線の先には、敵の軍勢と──海賊ドレイクの姿。
 戦いが始まるのだ。その光景に鉄帝人たちは湧き、闘志をみなぎらせる。
 同時、波を割って進んでくるのは幽霊船。ドレイクにより操られたそれはこちらを敵視して向かってくる。
「迎撃態勢をとれ! 船を守る者と乗り込む者に分かれろ!」
 指示を出しながらルメラもまた戦いの準備を整える。その様子はどう見ても乗り込みに行く側だ。
 あんたいいのか、指揮官だろう。
 そんな言葉にルメラは笑みを──先ほどとは異なった好戦的なそれを──浮かべてみせて。
「私は鉄帝人だ」
 つまるはそう言うことである。
 幽霊船と鉄帝艦の距離が近づく。接舷したらすぐにでも乗り込む構えを取りながら、ルメラはふと思い出したようにイレギュラーズを呼んだ。
 お前たちを存外気に入っていると言った、その続き。

「──だから、終わったらまた戦ってくれ。個人的にな」

 接舷の報告。一瞬で武人のそれへ表情を変えたルメラに続き、イレギュラーズたちは幽霊船へ乗り込んだ。

GMコメント

●重要な備考
 <鎖海に刻むヒストリア>ではイレギュラーズが『廃滅病』に罹患する場合があります。
 『廃滅病』を発症した場合、キャラクターが『死兆』状態となる場合がありますのでご注意下さい。

●成功条件
 幽霊船乗組員撃破

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。敵の正体が知られており、不測の事態は起こりません。

●エネミー
・船長『朧月』
 半透明な幽霊です。ひと振りの刀を所持しており、生前からその存在感のなさから『朧月』と呼ばれていました。
 実際幽霊になってからも質感のなさは健在です。防御技術に優れています。反応はそこまで高くありません。

呪:のろわれろ。【致命】
朧:ほら、こっちさ。【魅了】
月:魅入られてしまえ。【窒息】【不吉】【呪い】

・乗組員×20
 半透明な幽霊です。とはいえ船長よりずっと存在感があります。生前持っていた武器を手に戦ってきます。
 元より好戦的だったのか攻撃力に優れ、回避は苦手としているようです。

やっちまえ!:ザクッ!【流血】
いかせねえ!:しがみつけ!【石化】

●フィールド
 幽霊船甲板です。十分な広さがありますが、所々足場が脆そうです。
 また波が荒れているため、海に投げ出されないようお気を付けください。
 自力で戻る手段がない場合、戦場復帰に時間を要します。

●友軍
・『鉄華』ルメラ
 鉄帝人の女性。この船の指揮官です。見た目は流麗な女人ですが、彼女の持つ赤毛の髪と、通った後には赤の華がいくつも咲いたように見えることから『鉄華』の異名を付けられました。
 素早さと攻撃力に特化し、判断力もあります。部下には多対一で乗組員の対応を指示します。
(前回登場『<第三次グレイス・ヌレ海戦>クラレットは海に咲く』:https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/2477)

・鉄帝軍人×10
 鉄帝の軍人です。誰もが攻撃力に特化しており、ルメラの指示のもと敵を掃討します。
 イレギュラーズからも指示があれば、『今回ばかりはルメラよりそちらを優先するよう』にという指示が出されています。

・連合軍艦隊
 イレギュラーズたちと共に来た艦隊です。砲撃により幽霊船事態を攻撃します。

●ご挨拶
 愁です。昨日の敵は今日の友。
 さあ、ガンガン倒していきましょう!
 ご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

  • <鎖海に刻むヒストリア>オールド・ローズの瞳完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年05月23日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
ラクリマ・イース(p3p004247)
守る者
久住・舞花(p3p005056)
氷月玲瓏
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海
ドゥー・ウーヤー(p3p007913)
海を越えて
ルリ・メイフィールド(p3p007928)
特異運命座標
アエク(p3p008220)
物語喰い人

リプレイ


 船同士が近づく。『亡き者も共に』ジョージ・キングマン(p3p007332)は波の高さに目を眇めた。近づいたと言ってもゼロ距離ではない。乗り込む間に滑り落ち、波に攫われるといった事態は避けなければならないだろう。
(本当にこれでなんとかなるのでしょうか……)
 『協調の白薔薇』ラクリマ・イース(p3p004247)は半信半疑で手の中のソレを見つめていた。とあるイレギュラーズの手作りドーナツ。曰く、これを食べればパワー倍増なのだとか。ついでに念じれば浮けるとか。本当に本当なのだろうか。ドーナツで?
 しかしそんな疑問を解消すべくこのドーナツが売れているのは事実だ。実際ラクリマの手元にあるのだから。ならば──ラクリマも食べてみる他ない。
「おう、顔色悪いな。酔ったか? それともアイツらにビビってんのか?」
 鉄帝軍人がラクリマの背を叩きながらにやりと笑う。ラクリマはそんな相手からそっと目を逸らした。
「いえ、別に怖くないのです。気持ち悪いだけであって怖くは、ええ」
 それは真実か、それとも自身へそう暗示する言葉か。しかし何にせよラクリマが現状に立ち尽くしてしまうことはなさそうで、鉄帝人は「なら」と視線を敵へ向けた。
「さっさと気持ちわりぃのを倒すとするか」
「ええ」
 視線に敵意を滲ませ、敵船へ乗り込んでいく2人。その後ろをついていきながら『風のまにまに』ドゥー・ウーヤー(p3p007913)はそっと視線を軍人へ向ける。
(……ちょっと怖いけど、頼もしい)
 鉄帝人と言えば力を絶対とする者たち。言葉を変えれば力でねじ伏せる者たちでもあるということで、そんな気性にドゥーは若干の気後れを感じていた。けれど彼らのようなツワモノが味方になるのならばこんなに頼もしいことはない。共に戦うならいつもより殊更、情けない所など見せられなかった。
 アミュレットによる低空飛行でふわりと甲板へ降りた『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)は幽霊たちを見る。楽しい楽しい決戦、前哨戦ともいえる戦いの露払いだ。
「次から次へと湧かれちゃ迷惑だからね。ま、いつも通り適当にやるさ」
 その手に握るのはサファイア。媒介に呼び出すのは──霧と魔術の雨。まだ前衛が接敵もしていない段階で固まっている幽霊たちに浴びせたそれは、彼らの霊力も何もかもを洗い流してしまうかのようだ。
「幽霊如きに後れを取る鉄帝ではない! 総員、全力を持って打ちのめせ!」
 ルメラの言葉に軍人たちが湧き、幽霊たちへ向かっていく。『月下美人』久住・舞花(p3p005056)はそれを見ながら小さく呟く。
「……私達も負けてはいられない」
 共闘するのはあの鉄帝。この場においても『終わったら戦いたい』と言う豪胆さ、そして隠さず述べる実直さはかの国ならではと言うべきか、ルメラという人のものか。いずれにせよ信用に値し、その部下である軍人たちも期待に応えるが如き戦いぶりを見せてくれることだろう。だからこそそう思わずにはいられないのだ。
(あまり戦場で敵として戦いたくはないけれど……もし鉄帝国と戦う事があるのなら、剣を交えるのは彼女らのような相手であってほしいものね)
 舞花の視界には鉄帝軍人たちと、ルメラと、幽霊たちと。そこに『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)も姿を見せる。『鉄花』の異名を持つルメラも共に。
「ぶはははッ、約束通り『今度は横に並んで観せて』もらいに来たぜルメラ殿!」
「ふん、観る余裕があるなら、な」
 肩を竦める彼女とゴリョウは第三次グレイス・ヌレ海戦にて戦った仲。あの時の約束は今、ここで果たされるのか。
 のっしのっしと歩きながら霊薬を飲んだゴリョウは兜を装着し、より一層希薄な幽霊──朧月へ目を付けた。
「奴さんに幽霊共に紛れられたら厄介だ。俺らはアレを抑えるぞ!」
 その言葉に応えたのは5人程度の鉄帝軍人。向かう道すがらゴリョウは金眸で相手をしかと見つめる。流石に不快であったのか、幽霊がこちらを見た──ような気がした。気がしたとしか表現できないくらいにその存在は薄く、儚いものであった。
 ゴリョウと軍人たちで取り囲み、朧月を動けなくさせる。ごく薄い幽霊はその手をゴリョウへ向けてひゅんと振るが、彼の持つ騎士盾が直撃など何があっても許しはしない。
「ぶはははッ、『見られる』のは苦手かい? 魅力的な太刀筋してるのが悪いと思って諦めてくんな!」
 空気が悪くなり、朧月が不快らしいことが何となく感じられる。からりと明るく笑ってみせるゴリョウの声に触発されたか、鉄帝軍人たちは朧月の足止めをしつつも武器を構えた。
 一方、舞花も鉄帝軍人たちと幽霊たちがぶつかり合ったのを見て動き始める。狙うは鉄帝軍たちから零れたクルーだ。
 刀剣を手に駆ける舞花はその刃を眩ませる。元より回避を得意としていない幽霊はぎくりとその体を強張らせた。その後方からドゥーが杖を向ける。
「行け……!」
 作り出された疑似生命体が、ドゥーへ従い敵へ牙を剥く。その後を追うようにジョージは駆けた。青白い妖気が真っすぐに軌跡を描く。
「まずは数を減らす! 隠れるものも、奴の手足も、立ちはだかるなら全てなぎ倒すまで!」
 クルーたちが集まってきたところへ暴風が吹き荒れ、その存在を削いでいく。敵がまずこいつからだとジョージへ刃を向ける中、歌が響き渡った。
 果てしない悲哀と怒りの鎮魂歌。白き嗜虐の呪い。船から落ちぬようヘリと距離を取るラクリマの歌が幽霊たちをじわじわと攻め立てる。敵の姿を見て『情報食い』アエク(p3p008220)はつと目を伏せた。裸足に伝わる甲板に感触は冷たく、水を含んでいくらか柔らかい。恐らくは船自体がそうなのだろう。幽霊たちはこの船と共にずっと彷徨い続けている。
(──ああ、かわいそうな子等ではないか)
 彼らにしてあげられることと言えばたった1つだけ。元より向こうはこちらを『廃滅』し、こちらは向こうを『排滅』する分かりやすい対立だ。
 鼻につくのは潮と磯の香り、そして鉄帝人の鉄錆臭さ。彼らに染みついたモノとでも言うべきか。その血で本を記してみたいなどという興味も湧くが──今はそうも言っていられない状況である。
「生憎この手にもつは筆なれど、知っているものからどうにかすることは出来よう」
 自らの知より味方の分析を行い、支援するアエク。『特異運命座標』ルリ・メイフィールド(p3p007928)は低空飛行しながら視線を巡らせる。幸い回復支援に長けた者は多い。あとは如何に仲間から戦闘不能者を出さないかにかかっている。

 幽霊たちは血の気盛んなのか鉄帝人にも劣らない攻撃力を持っている。半透明で判別するには苦労がいりそうだが、もしかしたら鉄帝の血を持ったクルーたちだったのかもしれない。
 そんな彼らはイレギュラーズたちへと迫りくる。リーチの長さがある者は大抵近距離からの攻撃に弱いものだ。
「──なんて思ってる? 近寄れば大丈夫だろうって?」
 新作魔術を試していたルーキスはにやりと笑う。開いた魔術書から飛び出したのは蛇、ではなく蛇の如くうねる雷撃だ。
「本命はこっちでした残念」
 冠位が現れ、乗り込む最中にちょっかいを出されてはたまらない。派手に暴れて──且つ、徹底的に。
 味方を避けて的確に幽霊を狙う雷。周りを抜けていく雷を前髪越しに見ながらドゥーは疑似生命体を敵へけしかける。前方にいたジョージの名を呼べば、彼は心得たと言うように1つ頷いて自らの拳をストレートに叩き込んだ。
「さぁ、来い! 鉄帝には負けてられんのでな」
 たとえ向かってくるのが横からだろうと背後からだろうと構わない。全て叩き潰し、打ち砕くまでだ。
 ジョージの言葉に呼応したか、敵が武器を離したかと思うと羽交い絞めにしてくる。さらに向かってくる敵へカウンターを放つ中、ルリの回復支援がジョージへ飛んだ。
(……濁った瞳だ)
 半透明な幽霊たちを見てジョージは思う。彼らは囚われている。『絶望の青』に囚われ続けている。彼らが解き放たれるのならば、そのタイミングは恐らくこの海を突破した時。
 向かってくる刃も、掴んでくる腕も跳ねのけて。ジョージは青白い妖気を手に前をひたと見据えた。
「──最後の手向けだ。存分に付き合ってやる」

 舞花は神速の斬撃で幽霊を切り払い、目に見えぬ霊体へと還す。ちらりと視線を向ければラクリマが足を踏ん張り、アエクを庇いながら軍人のサポートをする姿が見えた。そして更に視線を移せば傷つき傷つけられる鉄帝軍人と──その指揮官、ルメラ。幽霊から血は出ないが、鉄華の異名持ちに相応しき赤毛を乱す様はやはり鉄帝人だ。
 そろそろだと声を上げれば、イレギュラーズたちは皆頷いて駆けだした。
 一方のゴリョウはそのもちもちボディで朧月の攻撃を耐えながら軍人たちの支援を行っていた。自身は防御も抵抗もこのボディひとつでバッチリだが、軍人たちはその限りでない。希薄な体と裏腹に濃厚な呪いの気配を出す朧月は実に厄介だ。
 しかしすかさずアエクの分析が飛び、ゴリョウは傷の深い者から回復させていく。その耳に仲間の声が飛んだ。
「ゴリョウさん、交代だよ……!」
 ドゥーだ。他の仲間も共に向かってきている。「助かるぜ!」と返したゴリョウは軍人たちへルメラの元へ戻るよう指示を出した。
 同時、船が大きく揺れる。たたらを踏んだ何人かのうち、最も外側に近かった軍人がヘリを乗り越える。
「これを掴むのです!」
 咄嗟にルリがロープを掴んで放り投げる。戦闘の最中、術式を解除する暇などないけれど、無いよりはましなはずだ。
 その傍ら、アエクは指示に従う軍人たちへ注意を促す。イレギュラーズの中には浮遊することで難を逃れる者もいるが、鉄帝人は地に足を付けている。その足元には危険な箇所も見て取れた。
 ジョージはラクリマからの治癒を受けながら朧月を見る。その存在感のなさは奇襲に向いた力だ。戦いの最中にそれが行われなかったのはゴリョウと鉄帝人がひたすら足止めしていたからでもある。
(小魚は、群れることで自身の姿を偽る。あるいは、息を潜めて獲物を狩る。……その手合いか)
 身を潜めて獲物を狩る、熟練の狩人。しかしこの先へ進むためにも狩られるわけにはいかない。防御を打ち崩す一撃を放ったジョージに、今度はドゥーが追随する。かざした杖から放たれるのは歪みの力。
(その存在感のなさは共感できる。でも、)
「敵になると、厄介だね……!」
 こんな相手に自分ができる事は少なくて、小さなことかもしれない。けれど全力を出さねばきっと──いいや、必ず後悔する。
「本当にね。存在感を消す振る舞いも、その立ち回りも」
 残像を残すほどのスピードと手数で迫る舞花は最後に真っすぐ朧月へ刃を向けた。ほぼ全てといって良いほど刀と刀が交錯した。交えたそれでどのような得物なのか、大まかになら分かる。
「──せめてもの手向けと貴方への敬意です」
 名のある剣士だっただろう『朧月』。愛刀を死して亡霊となっても手放さなかったことには感嘆を覚えずにいられない。だからこそ最後の最期まで剣士として、尋常な戦の中で逝かせてやるべきだろう。
 ちらりと視線を巡らせれば、鉄帝側も決着がそろそろつきそうな様子。もともと双方ともに前のめりな者たちばかりだ。短期決戦となるのは必然だったのである。
 白薔薇で敵の苦痛を吸い上げたラクリマは、その力を自らのものとすると軍人たちへ聖歌を歌い上げる。自身が居る限り、誰1人として倒れさえないという決意と共に込めて。
 ルリやアエクが回復でサポートする中、ゴリョウはひたすらマークしつつその瞳で朧月を捉え続ける。頭上からばさりと羽ばたく音が聞こえた。
「削るならこっちのほうが早いしね」
 ルーキスが戦友たる悪魔から継いだ悪霊軍、その一角。戦場を舞うそれらが朧月を翻弄し、鉤爪で襲い掛かる。ドゥーは遠術を発動させながら朧月を見据えた。
(ここで負けるわけにはいかない。アルバニアを引きずり出したんだ)
 廃滅病になってしまった沢山の仲間、人の命がかかっている。失敗など許されない。
 風をまとった舞花が畳みかけるように残像を生み出し、幻影の剣技で追い打ちをかける。ラクリマは仲間たちを回復しつつ、朧月への鎮魂歌を歌った。
「お前がドレイクに従うなら止めん」
 ジョージが青白い軌跡を残しながら告げる。ドレイク配下でいたいのならば、他人であるジョージたちに口をはさむ余地はない。
 けれど。
「この海の先に夢を見るなら、共に来い」
 ジョージの言葉に朧月が一瞬動きを止める。彼は言葉を、そして拳を畳みかけた。
「貴様の魂も、夢も、絶望の海の先へ連れて行ってやる」
 亡き者も共にと望む者。それがジョージ・キングマンという男だ。
 その拳が朧月の防御も貫き、届く。

「──さぁ、来い! 次は俺達が魅せる番だ!」
 時代は移り変わり、人も変わっていく。
 けれど、その想いはずっと共に。



 クルーたちがいなくなった幽霊船は只々波に揺られるだけ。しかし一同はふと同時に視線を落とした。
「これは……」
「波のせいか? いや、」
「総員退避! ──沈むぞ!」
 ルメラの声に鉄帝軍人は応える、より先に体が動き始める。イレギュラーズも彼らと共に船へ渡り、或いは先に空へ逃げる事で幽霊船と運命を分かつ。
「ルメラ殿」
「ああ」
 ゴリョウに差し出された手を迷いなくルメラは掴み、同盟軍船へ。その場を船が離れていくと、間もなくして海へ沈んでいく幽霊船が見えなくなった。
「……あっという間、だったね」
 ドゥーの呟きに全くだと鉄帝人たちからも同意が返ってくる。中肉中背のドゥーと違ってどこもかしこも鍛えられた男ばかりだったが、共闘前とは違ってもう怖くない……かもしれない。
「本艦隊はこれよりアクエリア島へ帰還する。進路の調整と負傷者の治療にあたれ!」
 ルメラの指揮に応えた軍人へ、ジョージは声をかける。おそらくこのタイミングを逃せば話す機会などそうそうないだろうから。
「中々の戦いぶりだった」
 拳を突き出すと男は目を瞬かせ、のちににかっと笑顔を浮かべて拳を返す。あんたもな、という言葉と共に。歯車大聖堂の件では時に敵となり、時に仲間となった鉄帝人だったが本質は善の者ばかりなのだろう。この男もおそらくは、きっと。
 ルメラもそのような交流を咎める気はないようで、どちらかと言えばそういった雰囲気は緩いようだ。手を動かしていればあとは和やかなもので、以前刃を交えた者からすれば奇妙にも映るかもしれない。
 その1人でもあるゴリョウはといえば、やはりほんの少しの驚きはあるだろうか。しかしキビキビと機械のように働いているよりは、こちらのほうが声もかけやすいというもの。
「ルメラ殿、到着まで力試しはどうだ? 何なら行司するぜ、ミリアドハーモニクスとかもあるしな!」
「ほう」
 ゴリョウの言葉にルメラの瞳が煌めく。同時に周囲の鉄帝軍人たちも。
「指揮官だけですか!」
「俺も戦ってみてえなあ」
 先ほど戦ったばかりでどこにそんな力があるのか不思議だが、これが鉄帝人というものなのだろう。
 わいわいと賑やかになる傍ら、アエクは遠くにポツンと島が見えてきたことに気づく。我らが橋頭保、アクエリア島だ。
「さ。新たなる世界を刻みに往こう」
「そうだね。さてまだまだ忙しくなるなぁ」
 出て来るのはこの海に縁のある類ばかり。幽霊船の次は果たして、とルーキスは呟く。

 アクエリア島へ帰還し、態勢を整えて更に先へ。新たな世界がある限り『情報食い』は情報を得るため向かうのだ。

成否

成功

MVP

ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海

状態異常

ジョージ・キングマン(p3p007332)[重傷]
絶海

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ!
 明日の敵は今日の友、ルメラたちは次に会う時どちら側でしょうね。

 それでは、またのご縁をお待ちしております!

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