揺らめく炎

オープニング

●揺らめき爆ぜる
　ぱちぱちと爆ぜる炎を見つめながら、その手前に置いた魚や肉をひっくり返す。
「時々……こうして炎を見つめたくなるんだ」
　ゆらゆらと揺らめく炎。
　一瞬たりとて同じ姿にならないその有様は、見ていると不思議と落ち着く。
「こうしていると、今の自分を振り返ることが出来るんだ」
　今自分を取り巻く状態。
　将来への期待や不安。
「快適な場所じゃないからゆっくり眠れないかもしれないけど、眠れなければ夜更かしもありだよ」
　焼けた肉から脂が滴り落ちて、じゅっと音を立てて炎に飲み込まれていく。
　魚もこんがりと良い感じに焼けてきた。
「そろそろ良い感じに焼けてきたよ」
　塩胡椒だけの味付けだけど、じっくりこんがり焼けた肉と魚は食欲をそそる。
「スープは適当に注いでね。パンは少し炙ったほうが良いかもしれない。肉と魚はまだあるからゆっくりどうぞ」
　野菜スープで体を温め、こんがりと焼けた肉や魚を頬張る。
　その合間合間になんとなく心の奥深くに溜まっていていたものを口にする。
　相手が見ず知らずの人だからだろうか。
　それとも揺らめく炎の魔力だろうか。
　今日は、ずいぶんとゆっくりとした時間を過ごせそうだ。

●静かな語らいへの誘い
「たまには、キャンプでゆっくりするのはどうかな？」
　そんなフェリキスの言葉に、何人かが顔を上げて瞬きを繰り返す。
「気が向いたらふらふらとキャンプをして、誰かと一緒になったら気の向くままに語ったり、話しを聞いてくれる人がいるんだ」
　特に何をするでもなく、ただ炎を見てぼーっとする時も有るという。
「君たちは日々大変だと思うから、偶にはゆっくり過ごすのも良いと思うんだ」
　大変だからこそ、時にはゆっくり心を休めるのも必要だろう？　とフォレスは優しく微笑む。
　娯楽も快適な寝床もないけれど、代わりにただただゆっくりとした時間を過ごすのはどうだろう。
　ちなみに、炙りマシュマロと焼きバナナがお勧めのようだ。

参加者 : 4 人

冒険が終了しました！　リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧（4人）

リプレイ

●
「そう……。君たちは同じ場所に所属している仲間なんだ」
　ぱちぱちと爆ぜる火で魚をひっくり返しながらそう呟くその人に、『物理型お嬢様』碧紗(p3p008350)が微笑む。
「えぇ。わたくしはイレギュラーズになって初めての依頼なのですが……ただ食べて語るだけの依頼もあるのですのね。少し驚きましたわ」
「基本的に依頼は誰かが助けを求めて出すものだし、こんな風にのんびりキャンプするだけなのは珍しいかもしれないわね」
　持参したきりたんぽ――ギフトで育てた米を丹精込めて炊き上げ、程よい触感が残るよう半分程潰したものを棒につけて成形し、表面をきつね色に焼いたもの（焼くのは炭火がお勧め。外はカリっと中はもちもち。さらにほんのり焦げた香ばしさが堪らない！）――を温めながら『狐です』長月・イナリ(p3p008096)が笑う。
「まぁ、初めてだと肩の力入っちゃうけど、今日はゆっくりキャンプ楽しめばいいのよ」
「……そうですわね。今日はゆっくりせていただきますわね。召喚されてから日も浅いわけでございますし。それに、キャンプというのも初の体験ですわ。少しでも楽しめたら良いのですけど」
　可憐に微笑む碧紗の言葉に、『荒れ砂の眷属』アルジク＝G＝グリットサンド(p3p008304)がそうだろうなぁ。とばかりに頷く。
「碧紗さん、見るからにお嬢様だもんな。キャンプの経験あったらそっちのほうが驚くな」
「あら、アルジクさんはキャンプの経験がおありですの？」
「野営なら召喚される前は日常だったな。家がある今の状況はまだ慣れないな」
　お茶にドライフルーツを入れた物を手に、元居た世界のことを思う。
　別に戻りたいわけでもなく寂しいわけでもないが、家族同然の部族のことを思うと、少し切なくて懐かしく思う。
「一緒に野営してたのは顔見知りばっかりだったから、こうやって知らない人と囲むのは初めてだな。ま、一つよろしくたのむぜ」
　ニッと笑うアルジクに、碧紗も穏やかに微笑む。
「でも……テントが無いのも初めてだなぁ。しなない？　ほんとか？」
　テントのない野営は初めてなのか不安げなアルジクだったが
「大丈夫だろ。日が落ちてもこの気温だし、寝袋があれば風邪は引かないだろう」
　ようやく会話に参加した『凡才』回言 世界(p3p007315)の言葉に、戸惑いつつも小さく頷いた。イナリもうんうんと頷く。
「辺りに獣の気配もないし、寝ている間に襲われることもないと思うわ。ま、襲われたら私が倒すから安心して！」
　表面がカリッと焼けたきりたんぽに、持参した味噌だれを塗って味噌を炙る。
　味噌だれに入っている生姜の香りがふわりと立ち、小さく空腹を告げる音が鳴る。
「魚と肉も焼けたし、夕飯にしようか」
　
「あ、これ美味い！」
　きりたんぽを食べて目を輝かせるアルジクに、イナリが誇らしげに胸を張る。
「でしょう？　きりたんぽ単体でも美味しいけど、この味噌だれが一緒だと最高なの！　もちろん私の腕も最高だけど」
「初めて食べますけど、もちもちしていて美味しいです！」
　碧紗も初めて食べるきりたんぽが気に入ったようだ。豪快に、とはいかないが、上品にちまちまと齧っている。
「どう？」
「もうちょい甘いほうが好みだけど、美味いな」
　黙々と食べていた世界にも声を掛ければ、そんな言葉が返ってくる。
　全員からの美味しいにイナリも大満足だ。
「焼いただけのお肉とお魚も美味しいですわ」
「焼き加減が絶妙だな」
　美味しそうに齧り付くアルジクの真似をして、だけどやっぱり上品な仕草で肉や魚に嚙り付く碧紗。どうやらお嬢様もキャンプを楽しめているようだ。
　逆にいまいちキャンプを楽しめていないのは世界だ。
　あまりキャンプの経験はないので新鮮味だが、皆で火を囲んで過ごす時間はあまり居心地が良くない。
（ここは早々に飯を食べ終えてさっさと一人になるとしよう）
　そう思うと、世界は若干食べる速度を上げるのだった。

●
　キラキラと輝く星空を見上げたら、一つ二つ落ちてくるのではないかと思うぐらいに星々が瞬いている。
「綺麗」
　ぽつりと零れた碧紗の呟きに、イナリが同じように星空を見上げる。
「本当に。こんなに綺麗な星空を見られるのも、キャンプならではね」
「キャンプは、こんなにも綺麗なものを見られるのですのね」
「えぇ、キャンプは楽しくて素敵なものなのよ」
　にっこり笑うイナリにとってキャンプは楽しいものだ。
　普段と違う環境。普段と違う食事。それによって普段とは異なる高揚感に包まれる非日常。
「碧紗さんもキャンプを楽しいと思ってくれるなら、私も嬉しいわ」
　幼少期からの積み重ねでキャンプ＝楽しいと思うイナリだが、もし仮に幼少期からキャンプは楽しくない。食事は面白くないものだと教え込まれていたら、どんな気持ちで参加することになるかと疑問に思ったことはある。
（世界さんなんてこの疑問に答えれそうだけど、どうなのかしら……？）
　とは言え折角の時間をそんなことに費やすのも勿体ない。
「ま、不毛な思考ね」
　このまま無駄な思考を続けても結論など出ない。結論な出ない思考など時間の無駄でしかないと結論付けたイナリは、温かいお茶を片手に持参した団子を焼き始めた。
「とりあえず、今はのんびりしましょう。最近は依頼で忙しかったから、こんな時間があっても良いわよね」
　のんびりと団子を焼くイナリだったが、感じる視線に思わず周囲を見渡す。
「なんだろう……」
　敵意はない。それどころか視線の先はイナリではないような気さえする。いや、それは間違っていない。見つめられているのはイナリが持つ団子なのだから……！

　早々に夕飯を食べ終えた世界は、身の置き場のない焚火の傍を離れてふらふらと歩いていた。気が付けば炎の明かりは見えるが、声は聞こえないところまで来ていた。
「大分離れたところに来てしまったな。まあここなら誰も来ないだろうし、思う存分孤独を楽しめるから良しとするか」
　そう納得すると、凭れるのに良い木の幹に凭れて星空を見上げた。
「満天の星空ってやつだな……」
　今にも降ってきそうな星空を見上げて小さく呟くと、世界はため息をつく。
「しかし……　……何でこう折角みんなで来たってのに、一人で行動してしまうかね。本当ならばみんなと火を囲んで過ごすのが良いんだろうが」
　とはいえ、苦手な環境で無理に過ごして、ストレスを感じるのも余り良くない。
　元々世界は集団で……いや、他人と一緒に過ごす時間が苦手だ。相手の感情等を考慮するのが面ｄ――苦手なのだ。それなら一人の方がいたほうが、相手にも迷惑を掛けずお互い気楽に過ごせる。
　そう思って一人でいることが多いのだが……。
「一匹狼なんて言えば多少は格好良くなるが、結局のところ周りにうまく馴染めないってだけだよなぁ」
　苦笑交じりに呟くと、世界はそんな自分ため息をついた。
「ま、努力するか」
　少しずつでも馴染めるようになっていけばいい。
　甘味があれば他人と過ごす時間も多少はましになる。甘味の話ならそれなりに続くのだから。
「そろそろ戻るか」
　立ち上がりぐっと背伸びをする。
　もう流石に全員食べ終わっただろう。そうなれば、次に出てくるのは――。
「甘味は炙りマシュマロと焼きバナナと聞いていたが……団子もあったのか」
　思案顔で呟いたのは世界だった。
　声も届かない距離なのに、イナリの持つ団子ははっきりと認識できる世界だった。

「あ、世界さんどこ行ってたんだ？」
　戻ってきた世界にまず気づいたのはアルジクだった。その手には筆記用具とメモ帳が握られている。
「ちょっとな。それよりアルジクこそ何してるんだ？」
「みんなの知ってる香水について聞いてたんだ。俺、香水作りが趣味だから」
　初めは話すことなんてあるのかと不安だったアルジクだが、混沌初心者同士、混沌に来たばかりの碧紗と話が合った。
「この世界でわたくしに何が出来るのかわからなくて……」
「急にパンドラを集めろって言われても、何をどうすればいいのか悩むよな」
　今までと違う環境の中、どうやって生きていけばいいのかわからない。
　どうすればいいのかと聞けば思うままに行動すればいいと言われたけど、右も左も分からない状態では不安だけが胸の中に溜まっていく。
　だから碧紗は良い機会だと思ったのだ。似たような境遇である他の旅人の話を聞けば、これから自分の進む道がわかるかもしれないから。
（老いる事も成長する事も止まった私に……今の私に出来る事があるのかしら……）
　行く先は不明で不安だらけ。だけど少しずつでも前に進むために。
「まだ混沌のことは詳しくないけど、ちょっとでも知るために混沌中を歩いてみたいな」
　アルジクも分からないことだらけで不安だけど、それと同時に期待していることもある。
「そういえば碧紗さんたちは香水とか使ってるのか？　良かったら教えて貰えないかな？　出来れば原料も分かると嬉しいんだけど」
　地域が違えば香水も変わる。まして世界が違えばどんな香水があるのか想像するだけでワクワクする。
　好きな物のこととなると不安どころか期待に満ち溢れるし原動力になるのだから、好きな物の力は偉大だ。

●
「星座は違うんだろうけど……星空はどこも変わらないな」
　混沌に来て驚くことも多々あるけど、空がないとか地面が縦になっているような、アルジクの中の常識と違いすぎることはない。それは殆どの旅人にとっても安心できる点だろう。
「あたしは星座とか詳しくないけど、星空は綺麗よね」
　もぐもぐと団子を食べながらイナリも空を見上げた。
「えぇ。ずっと眺めていたいぐらい綺麗ですわ」
　今後への不安はまだ拭えないけど、今はそれを忘れて星空に魅入ってしまう。
「ま、偶にはこういう日も悪くないか」
　マシュマロを炙りながら世界が呟けば、ぱちぱちと火が爆ぜる音が響く。だけど流れる沈黙は苦痛ではなかった。

成否

成功

状態異常

なし