シナリオ詳細
<鎖海に刻むヒストリア>きっと羨ましかったのだと
オープニング
●パール・クラークの声なき独白
きっと羨ましかったのだと思う。
世の兄弟姉妹は互いを愛し、グラオクローネやシャイネンナハトのたびにプレゼントを贈りあい、時に些細な喧嘩をしたり、困難を共に乗り越えたり、他に打ち明けられぬ悩みをワイン片手に語り合ったりするのだろう。
――きっと羨ましかったのだと思う。
莫大な財産と今なお広がり続けるクラーク家という『経済の怪物』は、お父様アーサー・クラークの一代によってこの世界に生まれ、そして多くの人々の運命を狂わせた。
商才で劣ったが故に財を失った者や、努力を怠って未来を閉ざした者も多い。報われぬそれらに、クラーク家は一瞥たりともくれることなく、ただ前へ、未来へ、上へ、進み広がり続けていった。
それゆえ当然のこととして、クラーク家に生まれた子供達はアーサーを継ぐ者として見られ、『そうでなくなること』を許されなかった。
物心ついてからすぐに目の前には法律と経済の本が積み上げられ、それを理解することを強く求められ、そして応えることを義務づけられてきた。
兄とキャッチボールをしたこともない。
妹や弟に暖炉の前で手芸を教たこともない。
――きっと羨ましかったのだと思う。
成人するかどうかといった頃には父は事業を放り出し、私たち兄弟姉妹に分割して分け与え、さも家督を継ぐのが当たり前であるように振る舞い、風のようにどこかへと旅だった。
アーサーなくして立ちゆかぬ莫大かつ広大な事業を、過不足なく引き継ぐことを私たちは義務づけられた。
そうでなくなることを、あらゆる人間が、彼らの家庭と人生と生命をもって決して許さなかった。
ある古代の王はこう述べたという。『王に許された行動は二つだけ。力を使うことと、力を増やすことである』。いわく、王は王冠に命じられるまま、王であることを義務づけられたのだと。
父アーサーは経済の王でありながら、王冠の命令など意にも介さず、自分勝手に旅に出た。その子供達である我々のことすら頓着せずに。
――きっと、羨ましかったのだと思う。
分割された事業が派閥を作り、互いを蹴落とし合うようになるのは明白だった。
ひとつの判断で数千という人間が死より過酷な未来を追うのだ。そのために老いた商人を吊し上げることも、若い貴族を騙すことも、躊躇してはいられなかった。そうすることを、『別たれた王冠』が命じたのだ。
やがて兄弟姉妹の誰かが『本家』を名乗ることになるであろうことを皆理解し、そうあれかしと求めたのだ。
そんななかで、例外が二人だけいた。
妹マリーは何の商才ももたず、お荷物であることをただ受け入れていた。
いつも私を褒め、兄弟姉妹を褒め、いいところばかりを探す子だった。
家の財産も未来も、何もいらないようだった。
――きっと、羨ましかったのだと思う。
妹デイジーはあらゆる才能をもちながら、一切の事業に興味を示さなかった。
世の弱者達を戯れに助けてはシンパを増やし、なにをするでもなく毎日ただ楽しそうに暮らした。
――きっと、羨ましかったのだと思う。
成るべきものを決められた人間が、何者にでもなれる妹たちを、きっと羨んだのだと思う。
その羨望が。
その嫉妬が。
醜く油断でしまったのはいつからだ。
別たれた王冠の重さに、毒や闇がまとわりつくようになったのは、一体いつからだった。
ああ、分かっている。知っている。
あなたが私を褒めた時からね、マリー。
薄目をあけたパール・クラークは、もはや身動きのひとつもとれなかった。
自分が氷の巨人の胸の中に収められ、手足をがっちりと磔刑のごとく固定されていることだけが、わかった。
エドワードも、レナードとレジーナも、みな同じように氷の巨人に収められ、巨人たちは一人の女に傅いている。
女の名はマリー・クラーク。
またの名を『流氷のマリア』。
アルバニアに忠誠を誓い、この絶望の青へ兄弟達を誘い込み、そして閉じ込めた……嫉妬の魔種である。
●氷山要塞ベルヴェデーレ
アクエリア島を越えた海洋海軍はローレットに加え鉄帝海軍までもを味方につけ、ついに最後の大進撃を決行した。
この膨大な兵力を前にアルバニアの軍勢は今度こそ総力をあげ反撃に出ざるを得ないはずだ。そうした読み通りと言うべきか、冠位魔種アルバニアをはじめリーデルコールやミロワール、トルテやバニーユ、主力となる魔種やその眷属たちがこの決戦海域へと終結していた。
その中に、強力な魔種である『流氷のマリア』の姿もあった。
いや、正確に述べるならば……。
「『流氷のマリア』が作り上げた氷山要塞じゃ。
魔種が海底神殿やら砦やらを作っていたとは聞いたが、まさかこんなものまで作り上げて追ったとはのう」
腕組みをして、デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)は船デッキに備え付けたソファに背を沈めた。
『流氷のマリア』には苦い経験がある。兄弟姉妹をなかば洗脳に近い形で誘い出し、まるで見せつけるかのようにデイジーへとけしかけてきたこと。
その戦いに敗北し、兄弟姉妹の身柄と引き換えに仲間達を無事に逃がせたこと。
およそ屈辱といっていいほどに、敗北の歴史となって焼き付いている。
「ことここに至って取り逃しは許されません。海洋海軍からは『流氷のマリア』撃滅の依頼が発行されております」
船を操舵するデイジーファンクラブ会員のセバスチャン三号(元コンビニ店員)は慇懃な調子でそう述べた。
開いた扇子をぱたぱたとやるデイジー。
「無論も無論じゃ。この妾が負けたまま終わるわけがなかろう。
……で? それだけではないんじゃろ?」
「……分かってしまいますか」
セバスチャン三号は懐から小さな書簡を取り出し、デイジーへと差し出した。
『匿名』の書簡にはこうある。
『エドワード、レジーナ、レナード、パールの四人を生きたまま助け出せ。彼らにとってそれは絶大な負債となり、将来のクラーク家を一つにまとめる鍵となるだろう。仮にこのミッションに失敗したならば、おのおのの事業は他の貴族へ移譲するものとする』
「…………」
匿名性のかけらもないような、かなり上からの申しつけである。
デイジーは書簡を丸めて膝をトントンと叩いた。
「これは、正式な依頼書ではないな。最悪無視してもよかろう」
「無視、なさるのですか?」
「ふむ……。兄上姉上どもに情もなにもないが……負債というのは悪くない」
そうこうしている内に、船室から戦闘準備を終えた仲間達が上がってくる。
デイジーは立ち上がり、そして扇子を氷山要塞へと突きつけた。
「とにもかくにも、突入せんことには始まらぬ。ゆくぞ同胞達よ。ローレットの底力、見せつけてやるのじゃ!」
- <鎖海に刻むヒストリア>きっと羨ましかったのだとLv:15以上完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2020年05月21日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●きっと羨ましかったのだと知らずに
氷山要塞ベルヴェデーレの浮かぶ大渦外縁海域。
対アルバニア艦隊および対化骨衆艦隊の間に割り込むように浮上したそれは、いち早く撃滅せねば負傷した味方の撤退にも関わるとして『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)をはじめとするイレギュラーズ精鋭部隊が投入された。
ベルヴェデーレの奥深くで待ち構えているのは『流氷のマリア』ことマリー・クラーク。そして彼女によって囚われた兄弟達。
マリーに相当な痛手を負わされてきたイレギュラーズたちは我こそはとこの作戦へとエントリーしてきた。
「……さて。あの時は散々もてなしてくれたんだから、しっかりお返ししないと名折れってもんだよね。
わたしもあれから何もしてこなかったわけじゃないのよ」
初めて遭遇した魔種との戦いから生還し、過酷な鍛錬の末に一つの極地に達した『初日吊り候補』セリア=ファンベル(p3p004040)。
パチンと手を合わせ、自らの中に備蓄した大量の魔力に対しセーフティーを解除した。
その横では『泳げベーク君』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)が甘い香りを放ち闘士を燃やしている。
「さて、三度目の正直、ですかね……今回が一番シンプルな形な気もします。
ええ、ええ。もう、立ち止まっている時間なんて僅かばかりも存在しません。死力を尽くしましょうとも。
それに、デイジーさんに恩の貸付でもしとけば一仕事終わった後なにがしかで返ってくるでしょう」
ベークはイレギュラーズの中でも、『流氷のマリア』のもつ圧倒的な戦力差を誰よりも体感してきた人物である。
彼ほど強固な耐久性をもつ人間を倒せるということが、レベル差の開きを皆に実感させた。
そしてそれを間近で見ていたのが『大号令に続きし者』カンベエ(p3p007540)である。
「アクエリアにおける完全勝利に泥を塗ってしまったこと。何よりは、負けたままだということだ!
デイジーには悪いが! 意地を張らせてもらうぞ!! 負けた時のことなど、死んでから考えればいい!!」
いつもの口調と打って変わって、歯を食いしばりきわめて真剣な面持ちでベルヴェデーレをにらんでいる。
「なに、悪いことなどあるか」
『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)はふわふわのついた扇子でゆっくり自分をあおぎながら息をついた。
(エドワード、パール、レジーナ、レナード……御主らに憎しみがあるわけでは無い。
お主達が道を違えた責任の半分は妾の偉大さにあると思っている。
だが、助けて欲しいと思っておるわけではない。
もう半分はお主達の無能が招いた結果じゃ。
特にお主達はクラークという責ある立場の者じゃ。
責をとってここで死ぬのも務めの一つじゃと思うておる。思うておるが……)
目を瞑り、力強く扇子を畳んだ。
空気を読み取ってか、『海淵の呼び声』カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)が歌い始める。
「うちて もやせ にえを ささげ
わがみ かわいさ こころを とろかし
よぶこえ とおく とおく ちかく♪」
周りの仲間達が次々と廃滅病に罹患していくなかで、『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)も唯一の解決策であるアルバニア討伐を目指しここまで戦ってきた。
「この戦いの目的は魔種勢力の撃滅。『お偉いさん』はクラーク家の兄弟達を助けたいみたいだけど……」
現場の苦労を分かっていないととらえるべきか、それとも依頼成功条件に設定してこなかったことに意図を感じ取るべきか。
(お偉いさん方には現場見てから言ってほしいわ、要塞の入り口見るだけで上の下の強さはあるってわかるわ……まあ心の片隅程度には覚えておいてやりましょ)
「面倒なことになった、って思ってるでしょ」
『戦神』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)が船の手すりによりかかり、外側にだらんと身体を垂らすようにして振り返った。
「……」
「でもこれも運命。たまには純粋な兵器になるのもアリかもしれないわね」
身体を起こし、刀の柄を強く握る。
氷山要塞ベルヴェデーレより門番となるクレイオ軍団が飛び出してきたからだ。
「さあ、早速行くわよ。ここからは、戦争だから」
「『流氷のマリア』、ね」
『雨夜の惨劇』カイト(p3p007128)は船の手すりに足をかけ、勢いよくヴェルヴェデーレへと跳躍。教科外骨格の拳部から拡散レーザーを発射してクレイオ兵を粉砕すると、一番乗りで踏み込んだ。
「忘れるな。人間どんだけ一緒に居たいと願っても、死んだら一人になるしかない。
お前は、その手段を間違えたし、兄弟も兄弟だ。無事に生きれてたなら構わねぇが、死んでも恨むなよ」
●きっと羨ましかったのだと気づいたから
氷の階段を駆け下りる。
迫る無数のクレイオ兵を前に、秋奈はぺろりと唇をなめた。
「見晒せ天上天下。戦神が一騎、茶屋ヶ坂アキナ! 有象無象が赦しても、私の緋剣は赦しはしないわ!」
あえてクレイオ兵の中心へと飛び込み名乗りをあげた秋奈に対し、クレイオたちは伸ばした触手を鞭のようにしならせて一斉に打撃を繰り出した。
……が、その瞬間にベークの尻尾をひっつかんだ秋奈は正面からの一斉攻撃をベークシールドで防御。振り込んだ勢いのまま反転して背後からの一斉攻撃をも防御。
より厳密に言うなら身体がガチガチに硬化させたべークの鱗がクレイオたちの攻撃を弾き、ごくわずかに削られた鱗はそのそばからはえなおすというサイクルによって代行防御していた。
「ああもう、数が多いですね……」
長期的な耐久性に優れたベークは度重なるアップデートによって様々な弱点を克服、強化してきた。現バージョンのベークはこれまで採用されていた反射攻撃をオミットし充填能力を強化。更に最大ともいえた弱点であるファンブルリスクは大幅に削減した。
これによって防御のさらなる安定化に成功し、クローズドサンクチュアリの継続付的な付与も容易になった。
「そこに立っておると巻き込むぞ。それ走れ」
デイジーは『月球結界』の魔術を発動させると、ベークたちを中心としたクレイを密集エリアをポイント。
ベークと秋奈はよしきたとばかりにその場から飛び退き、それを確認したと同時にデイジーは月光を爆発。包み込んだクレイオたちの生命活動を強制停止させた。
「慣れないことは、大変だけど……」
カタラァナは追撃とばかりに『夢見る呼び声』の音楽を発動。
深淵に眠り待つ神を言祝ぐ歌がクレイオたちを惑わせ、狂わせ、そして死滅させていく。
かなりAP性能の高いカタラァナといえど、連発するにはコストの重い魔術だ。
ゆえに消耗をおさえるべく、『フィル・ハー・マジック』を用いた幻想的な楽曲演奏でクレイオたちを個別に内側から破裂させていった。
たららん、と鍵盤を左から右へなでるように奏でるカタラァナ。
それを見たデイジーがふむふむといって腕組みした。
「ついさっき思いついた作戦じゃったが……案外うまくハマったのう、待機誘導戦術」
待機誘導戦術とは。味方が適時待機状態を選択することで行動順を必ず『ヘイト担当→範囲攻撃担当』となるように調整する方法である。攻撃が完全に後手にまわるため途中で対応されると破綻することも多いが、クレイオ兵相手には有効な戦術であったらしい。
特に今回のようにヘイト、タンク、範囲攻撃と担当が明確に分かれている場合はよりよくハマる。
ちなみに、この戦法を用いずとも役割分担を明確にできる戦法も存在する。
それが、利香、カンベエ、カイトのチームプレイである。
「雑魚どもはこうですよ!」
クレイオの一体を掴み、利香は周囲に『チャーム』の魔力がこもったウィンクを放ちクレイオたちを引きつけた。
クレイオたちが触手を伸ばして利香を高速しようと迫ったそのタイミングでカカンと草鞋を小気味よく鳴らして割り込むカンベエ。
「ワシの斯様な身の上。絶望の海の先を見たいと思ったこともごぜえます。ですが今は、この瞬間は、――怨敵殲滅!」
伸ばされた触手の全てをつかみ取り、束ねて綱引きのように引きつける。
「カイトさん、今です!」
『おう』とこたえたカイトが拳を真上に突き上げる形で砲撃姿勢をとった。
「大盤振る舞いってわけにゃいかないんでな。効率重視でいかせて貰うぜ」
バイザーにキラリと光の線を走らせると、教科外骨格の拳部から青白いレーザーを発射。自分たちの頭上で爆発し拡散したレーザーが降り注ぎ、あたり一面へと攻撃。クレイオたちの肉体を凍結、ないしは破砕していく。
それは味方も含む攻撃ではあるが、カンベエは気合いで凍結硬化とダメージを振り払った。
「だいぶ消耗を抑えられてるみたいね」
セリアは強烈な威嚇術によってクレイオを破壊すると、パチンと指を鳴らして仲間達を呼び寄せた。
高い充填能力をもつベークのような仲間は別として、多くの仲間はAP消費を完全に抑えることは出来ない。
が、セリアがクェーサーアナライズの連発によってAP供給を行えばそれを大きく補うことができた。
セリアの消耗は激しいが、払ったコストの何倍もの戦術的効果を生み出したと言える。
比較的受け身な、そして防御を固めた形での侵攻であったためそれなりに時間はかかったが、APの消耗はそれほどひどくない形で最奥『禊の間』へと到達することができた。
セリアが扉の前に立ったと同時に、巨大な氷のシャッターがごとごとと音を立てて開いていく。
跪く三体のアイスガーディアン。
その胸の奥で眠るクラーク家の兄弟達。
マリーは氷の椅子に腰掛けて、物憂げにこちらを見ていた。
「来たのね。来て、しまったのね」
長い髪を指でくるりとまいて、息をつく。
「今頃はみんな溶けて消えてしまっていると、思ったのに。あなたたちが何かしたのね、コン=モスカ」
「…………」
戦闘態勢をとり、なにも応えないカタラァナ。
「そして、デイジー。あなたは……お兄様たちを取り返しに来たの?」
「妾が? 冗談をぬかすでないマリー、流氷のマリアよ」
たこ足を動かして、力強く踏み出すデイジー。
「お主の十字架は妾が抱えていく。
故、ここで妾に殺されるが良い」
「そういうところ……」
対して。
マリーは美しく、そして砕ける前の氷のようにいびつに微笑んだ。
「やっぱりちょっぴり、羨ましいわ」
●ちょっぴり羨ましい
戦闘態勢とったイレギュラーズチームに対し、真っ先に飛び出したのはレジーナ&レナードを内包したアイスガーディアンだった。
ドンと音をたてて地面を蹴ると、突如として利香の眼前へと出現、四本の腕を生やしその全てを使って目にもとまらぬ連続攻撃を仕掛けてきた。
魔剣を叩きつけることで初撃群をいなし、側面へスウェー移動しての連続攻撃を魔力の障壁でガード。素早く飛び退きさらなる攻撃をガードするも増幅した腕に両肩をつかまれ、強烈な連続膝蹴りをたたき込まれた。
相手の腕を破壊することで離脱。着地をミスって転がった利香だが、しかし表情には余裕の笑みがあった。
「どうやら、クレイオとの情報共有はなされてないみたいですね。私を『まっさきに』狙ったのがいい証拠です」
仮に利香が敵の立場だった場合、今回編成されたメンバーのうち利香、ベーク、カンベエの三名は極力後回しにすべき相手である。
自由に好きな順番で倒させてくれるなら『カタラァナ、カイト>デイジー、セリア、秋奈>利香、ベーク、カンベエ』といったところだろうか。
この順序を策定できていないということは、こちらの能力的個性を把握できていないことをさす。
もっと言うと、ベークに『行かなかった』理由はベークの耐久性を前もって把握していたことにあるだろう。
マリーのワンマン軍隊であるデメリットが出たということだろうか。
仲間だけに聞こえるよう小声で続ける利香。
「けど、撃破順を策定できたところで思うとおりにはさせませんけどね。……ん?」
ふと、二つほど重大な見落としをしているような気がした。それがなんであったか、この時点では気づかなかった。というより、気づくだけの時間的余裕をマリーが与えなかった。
エドワード型、パール型アイスガーディアンと共にマリーが動き出す。
エドワード型は秋奈に、パール型はカタラァナを狙い、マリーは――というところでカイトが先手をとって攻撃を仕掛けた。
「クラークの兄弟は救出するって方針なんでな。アンタにはしばらく遊びに付き合って貰うぜ!」
カイトは強化外骨格で強烈なブローを繰り出し、その勢いのまま『リリカルスター』のビームシャワーを発射。
常人には回避行動自体不可能なほどの高精度集中攻撃である。
が、マリーは指先程度しか通らないような隙間に指を入れ、琴をかなでるように払って強制的に光線を歪ませた。その隙間をするりとくぐり、次の瞬間にはカイトの背後へと瞬間移動していた。
「回避した? ――マジかよ!」
とはいえカイトの攻撃の『厄介さ』を理解したのだろう。マリーは氷の巨腕を作り出すとカイトへと繰り出した。
そこへ割り込むベーク。
「今度こそ耐えて見せますよ、海の同胞。しばしお付き合い願います」
強烈な当たりによってベークは巨腕に握られ、振り上げて地面や壁に幾度となく叩きつけられる。更に腕ごと爆発に巻き込まれ……たが。
「……」
マリーの微笑みに若干の曇りが見えた。
ベークは一切のダメージを受けていなかったのだ。
彼の周囲へ球形に展開された神秘結界のせいである。
「この短い間に、成長しているのね。ちょっぴり、羨ましい……」
一方で、カタラァナはパール型による連続砲撃に晒されていた。
これをしのぎきるのはカタラァナには困難だが、まともに相手をしている暇はない。
作戦の方針上、中盤から本格的に猛威を振るうであろうレジレナ型の撃滅を急がねばならないからである。
ちらりと利香やカンベエに合図を送り、カタラァナは『フィル・ハー・マジック』の浮遊鍵盤を情熱的に演奏。『夢見る呼び声』を発動させてレジレナ型へ浴びせかけた。
主な目的は【魅了】効果による連携の破壊だが、これはレジレナ型が数ターンに渡って戦闘し続けることを前提としたものであり、作戦上これは保険に位置している。
つまりやるべきことは一気呵成の集中攻撃。
「もったいぶらずに、あの島でわたしたちを仕留めてればこんな事にならなかったのにね」
セリアはレジレナ型に張り付いた形で威嚇術を連射。
激しいインパクトによってレジレナ型の腕がへし折れ、その隙を突くようにして秋奈が突撃。
力任せの斬撃で他の腕を次々に切り落とすと、トドメの突きによってアイスガーディアンの胸を貫いた。
ガーディアンはバラバラに砕け散り、意識を失ったレジーナとレナードが地面へ落ちる。カンベエは素早く駆け寄り、首筋に手を当てて彼らの生存を確認した。
「大丈夫。次へ!」
短く唱え――つつ状況を分析した。
セリアと秋奈が攻撃対象に入っていない現状、二人を同時に庇おうとするとカンベエの行動が実質的な空振りになってしまう。
当初の計画は『カイトの【怒り】付与』『ベークのカバー』が確実に効いている前提で組まれていたため、カバー協力を次点の行動選択に据えていたが、マリーに対しカイトが効果的なヒットを出しづらいことからくる【怒り】付与の遅れが計画を大きく壊していた。
「けれど、まだ……!」
それから、戦いは長期戦へもつれ込んだ。
作戦通りにレジレナ型、パール型を撃破できたが、その間に味方が複数倒されることになってしまった。
回復手段を欠いた状態でまんべんなく味方の戦力をけずられ、ベークとカンベエ庇うだけでは維持できなくなっていったのだった。
「凍り付きそうな心に愛を……っていっても届きそうにはないですね」
剣によってアイスガーディアンを破壊しきる利香。
利香がエドワード型を倒した次点で半分以上の戦力を失っていた。
マリーの回避性能と治癒能力も相まってダメージを稼げぬまま時間が過ぎ、結果……。
「――ぐううう!!」
壺を直接マリーの頭に叩きつけ、殴り倒すデイジーの姿があった。
デイジーたちはもとより、マリーもまたAPを枯渇させ、唯一充填能力で結界を継続利用できたベークがデイジー(通常攻撃効果の高い方)を庇う形で戦力を無理矢理に維持し、わずかに残った仲間がマリーとほぼ素手で殴り合うという有様であった。
頭から血を流し、ぐらんと傾くマリー。
「お友達に恵まれたわね、デイジー」
途端、氷山要塞ベルヴェデーレがばらばらに崩壊。
「巻き込まれます、逃げましょうデイジーさん!」
ベークに引っ張られるかたちで、デイジーたちは戦闘不能になった味方を回収。崩れゆく要塞から脱出した。
気づけば海上に浮かんでいた要塞は海の底へ消え、マリーの姿もなかった。
彼女がどうなったのかは分からないが、この戦場から撃破できたことは確かであった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
――氷山要塞ベルヴェデーレを攻略しました
――エドワード、パール、レジーナ、レナードは無事救出されました
GMコメント
■オーダー
・成功条件:『流氷のマリア』ことマリーを撃破すること
・オプションA:パール・クラークの救出
・オプションB:エドワード・クラークの救出
・オプションC:レジーナ&レナード・クラークの救出
・オプションD:パール、エドワード、レジーナ&レナードの全員を抹殺する
・オプションE:パール、エドワード、レジーナ&レナードの全員が変異種化した後で撃破する
成功条件を満たすためだけであれば、戦力の殆どをマリーへ集中させ強引な一点突破で解決することが可能です。
ですが後述する呪いによって囚われており、マリーを倒して時点で各兄弟たちの救出が完了していなければ彼らは強制的に変異種化してしまいます。
※変異種とは:廃滅病罹患者に海の怨念コフィン・ゲージが憑依することで生まれる怪物。多くが見る影もない怪物へと変貌し、元に戻すことはできず殺すしかない。
基本的に高い戦闘力をもち、仮に3体新規に出現した場合戦闘難易度は困難を極める。
■氷山要塞ベルヴェデーレ
マリーの作り上げた氷の要塞です。船のように海に浮いており、海上に開いた入り口から突入します。
内側は氷の神殿めいたつくりになっており、狂王種クレイオが守備についています。
まずはこのクレイオ軍団を排除し、最奥の部屋『禊の間』へと至らなくてはなりません。
●突入時(作戦前半)
全長1m程度のクリオネ型モンスターであるクレイオが大量に襲いかかってきます。
個体ごとの戦闘力は低く、特段目立った能力もありません。ですが群がられるとHPを地味に削られますし、排除するにもそれなりの労力がかかります。
対集団戦で大体15~30ターン程度を想定していってください。
途中休憩はできませんので、消耗しきった状態でシームレスに作戦後半へと至ります。
●禊の間(作戦後半)
ここでは『流氷のマリア』に加えてアイスガーディアン3体と戦います。
アイスガーディアンにはパール、エドワード、レジーナ&レナードがそれぞれ閉じ込められており、アイスガーディアンを撃破しなければ救出することができません。
救出時の生死に関してはアイスガーディアンの項で解説します。
・『流氷のマリア』
マリー・クラークが嫉妬の魔種となったもの。
アルバニアに忠誠を誓っており、兄弟姉妹の全員が変異種になるか溶けて海の一部にして、家族でずっと仲良く暮らそうと思っている。
明確に高い戦闘力を持ち、攻撃には【氷漬】【恍惚】【魅了】といった効果がつく。
自域と超貫の攻撃範囲を使いこなす。
性能傾向はハイバランス神秘回避ヒール型。
・アイスガーディアン
パール型、エドワード型、レジレナ型の三種が存在します。
パール型は広範囲にわたる遠距離砲撃に
エドワード型はハイバランスな近距離戦闘に
レジレナ型はEXAや【連】といった攻撃回数を増やすスタイルにそれぞれ優れています。
アイスガーディアン撃破時に囚われている人間を救出できますが、『ダメージ値300以下のオーバーキルにとどめる』『【不殺】攻撃でとどめをさす』二つのうちどちらかの条件を満たしていない場合死亡するリスクが生じます。
なお、敵のHPは測定できないものとします。(「トドメのみ不殺攻撃を選択する」というプレイングは無効扱いになります)
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