Summer Star

オープニング

●春の次は夏。当然の理
「あっっっつい！！」
　ブルーム・ブルームの妖精界では一足先に夏が訪れようとしていた。妖精達は四季を大切にするようだ。だがしかし、だからといって夏に耐性がある訳でもない。
　暑いものは暑いのだ。
「お兄様、ゆ、雪を……」
「すまない、ダメだ。溶ける」
「そんなぁ……」
　ぺしゃりと横に転がり、床に落ちたアイスのように溶けそうなフローラ。妖精女王よ、それでいいのか。
　見かねたグレイシアも夏ばかりは流石に半袖。雪の妖精だから余計に暑さには弱い。クーラーの下に居座ってアイスを食べている。
「こうも暑いと、何かしたくなるわね……。そうだわ！
　春の島も作ったんだから夏の島も作りましょう！！　女王命令、決定！！」
「秋にも同じことを言うだろう……」
「勿論よ！　でもまずは目先の夏よ！」
「はぁ……」
「浮島を四つも作るなんて、過去の妖精王に怒られそうだわ」
「全くだ」
　それでもやってしまうのがこのお転婆兄妹。何時ものように羊皮紙を取り出して、島のイメージを書き連ねる。
　それを見ていた上級妖精達は頭を抱えた。諦めないで欲しい、まだ間に合うはずだ。
「私は島をぐるっと一周してしまいそうなウォータースライダーが欲しいわ！」
「俺は……水合戦がしたい。ボールみたいな水を投げるんだ」
「いいわね！　うーんあとは花と、雪と、……食べ物ね！」
　サラサラと慣れた手つきで羽根ペンを動かし、女王の印を押して。完成した夢の島（パート2）は、なかなかの出来栄え。以前と同じように人間からも好評の様子。
「よし、それじゃあフルールを誘って、私達も遊びに行きましょう！」
「ああ、行こうか」
　後程護衛に回されたカナタの胃が痛んだのは言うまでもない。

●胃薬と水鉄砲
「……僕ここで毎回ため息ついてるような気がする」
　憂鬱そうに羊皮紙と睨めっこ。カストルはやれやれと肩を竦めて水鉄砲を手渡した。
「今回は水着と水鉄砲が必須らしいよ。まだ初夏だって言うのにさ……」
　今は五月、今は五月と呟きながらカストルは特異運命座標に水鉄砲を配給する。まるで呪いのようだ。
「でもまあ、この時期から海やプールが楽しめるなんて流石だよね。仲のいい人を誘って泳ぎに行ってみるのもありなんじゃないかな」
　まあ、僕は行かないけどね。と呟きながら、カストルは手をひらひらと降って見送った。

参加者 : 4 人

冒険が終了しました！　リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧（4人）

リプレイ

●その疑問は正しい
（今、何月だったでしょうか……？？）
　そう首を傾げるのは『うさぎのながみみ』ネーヴェ（p3p007199）は困惑しつつも島へと一歩踏み出して。嗚呼、そうだ。此処は物語の中。何が起こるかなんて、誰にも判ったものではない。
（日焼けしないとは、言っても……暑くて、兎は、丸焼きになりそうです。念のため、日焼け止めは塗っています、が……うう）
　じりじりと照り付ける日差しに思わずたじろいで。嗚呼、こんなに暑いのに日焼けしないなんて魔法じゃなければ御伽噺のようなものだ。信じるか信じないかは貴女次第。
　普段ならお腹を壊してしまうけれど、と遠慮していたアイスクリームにかき氷を両手に握ってプールサイドへ。なんだかとっても贅沢！
　煌めく水面に誘われるままに手を伸ばせば、ひんやりとした温度。掌の熱も波に攫われて、溶けて。
　流れるプールで浮き輪に浮かんで、ぷかぷか揺蕩えば。なんだかとっても、眠くなってきて、だから。
　視界の淵、靡いた若草に思わず目を見開いた。
（フローラ様……この方が、妖精女王。なんて、なんて、可愛らしいのでしょう！）
　とはいってもここは流れるプールの上。止まることも難しければ、浮き輪に掴まっているネーヴェの意思とは反対に、浮き輪は揺蕩い続ける。
　お構いなしにフローラは水鉄砲の銃口を向け――BANG！
「ああ、少々、お待ちを、わぷっ」
「ふふ、愛らしい兎のお嬢さん。私は退屈よりも楽しい方が好きよ！
　私とも遊んでくれないかしら！」
　遠慮なく水鉄砲を噴射して浮き輪からおとし、そのまま手を差し出して。彼女なりの気づかいではあったのだろうが、何とも判りづらい。
（違うの、遊びたくないわけでは、なくて、）
　華奢な手を伸ばして掴み引き上げられて。プールから出たネーヴェは、そのままフローラの顔を見る。きょとんとしたまま首を傾げられるから、思い切って言の葉を。
「その綺麗な御髪を、整えても、よろしいでしょうか」
「髪？　ああ、そういえば今日は引きずっていたわね」
「――引きずるほど長い、長い、若草色の髪。せっかく美しい色なのに、痛んではもったいない、ですから」
　ふわり、手を翳したフローラは空気中に浮かんで座ったような体勢に。ネーヴェにくるりと背を向けると、振り返って微笑んだ。
「頼める？」
　ふふ、と笑って。幼い少女のような体躯でも嗚呼、この人は王なのだと。わたくしよりも、遥かに長い、永久を生きてきたのだと。こくり、小さく頷いたネーヴェも、それはそれは嬉しそうに。
（フローラ様は、遊びたいご様子。なら、動きやすいような髪型が、良いかしら）
「貴女。ネーヴェというのね」
「はい。よく、ご存知で」
「これでも女王よ。それくらいはね。で、貴女、髪結いがとても上手なのね？」
「ふふ、これでも髪結いは、得意なのです。自分の髪や、お母様の髪を、たくさん触れていたから」
「へぇ……素敵ね」
　程なくして。編み込んだ三つ編みをくるりとまけば、お団子の出来上がり。フローラは幼子のように微笑んで、『有難う、ネーヴェ』と。
　フローラはネーヴェの手を取ると、一日中傍に居て、二人でたくさん遊んだそうな。

●錆びるのでだめ
（まあ、パトロールの意味も必要もないとわかってはいるが…特にやる事が無いからな……）
　『カースド妖精鎌』サイズ（p3p000319）は島の不具合がないか見回り中。上陸時に『ここで花火が見られるのよ！』とウインクを決められたことには肩を竦めて忘れたフリ。
（まあ、出来立ての島ということだから念を入れて、変なところがないか、不具合がないか見回るか……。
　最も雪とか降ってるとか超常現象が起きてる時点で不具合が見つかってもどうしようもないんだけどね、まあなにかあったらフローラ様に連絡するか）
　その通りである。
　夏の島で雪を降らそうとは相当な馬鹿なのであろう。重く分厚い布に包まれた鎌の本体もこれには苦笑しそうなレベルである。
　するといつぞやの妖精たちがサイズに群がってきた。彼はエサなのだろうか、いやそんなはずはない。常連ともなると熱烈歓迎なのだ。
「あそぼ～！」
「むこうには海があるよ～！」
「はいはい、また後でな……」
　やや呆れ気味に。アイススフィアで氷の壁を生み出すと、すたこらさっさと逃走。妖精たちはひんやりする、と喜んでくっついているのだが。
　けれどもこの技の代償として活性化する悲恋の呪い。活性化する吸血衝動に抗って、妖精の香りのしないところへ。
　随分慣れてきたとはいえまだまだ毒なのである。いつものスタイルも今日ばかりは暑苦しいかもしれない。
「鎌のフルールみっけ！」
「うわ、見つかったか」
　しぶしぶお手上げのポーズを取り、サイズは見回りを断念。みつけた妖精に水着を着ろだの海に行くぞだのやいやい言われてしまう。
「え？　水着を着ろ？　海に落ちたら、沈んで窒息&塩水での酸化というか錆び発生によるダメージ負うからきないぞ？」
「ぶーぶー」
「けち」
「いじわる」
「なんでもいいさ……海だけは勘弁」
　それならプールは、と提案されずるずる引きずられてしまうサイズなのであった。

●ゴミ拾いもいいけれど
「夏、夏と言えば海、海と言えば水泳よ！
でも、環境に優しい稲荷神なら海岸のゴミ拾いを……この島の海岸はゴミが殆ど無い無いわね……」
　きょろきょろと海岸を見渡す『新米の稲荷様』長月・イナリ（p3p008096）は、しぶしぶ内陸部へ。
　しかしここは妖精の作り出した所謂魔法の島。ゴミはゴミ箱へ、地面に捨てられようものならゴミ自らゴミ箱に飛んで行く。
「内陸部も……無いわね……うん、気持ちを切り替えて水遊びしましょう！」
　そうして気持ちを切り替え、海岸側へと歩いて行ったイナリの視界に映ったのは、海上スキーをして楽しむ人々の姿。心惹かれたイナリは思考する。
（あれ、楽しそうね……うーん、どうにかして私もあんな感じで遊べないかしら……？）
　そうして悩んで模索した結果、ひとつの結果に辿り着く。
　お察しの人もいるかもしれない。練達上位式だ。
　三ｍサイズの巨大トビイカ型の式神、通称スクイ君が召喚される。
（トビイカは水を噴出する事で推進力を確保して水面から飛び出し、腕とヒレを広げる事で揚力・バランスを確保して短時間の飛行を可能にしているイカ、この子ならあの遊びに似た様な事が出来る筈……！）
　原理はそういうことらしい。実はよくわかっていない。
「いざ、発進よ！」
　水を切るイカ、スクイ君。彼の努力のおかげでイナリは海を満喫することができたようだ。そんな感じで何度かワイワイ遊ぶうちに疲れてきたので引き上げて、今度は内陸部を満喫することに。
　内陸部もまるで夢のよう。フランクフルトやらかき氷やらきゅうり棒やらタコ焼きやらたい焼きやらベビーカステラやら、屋台がずらり。
　スクイ君に今日のお礼と称して焼きそばを奢ったところで、空が紺になっていることに気付く。
（うん、夢の様な素敵な島ね……でも、無いわね、花火大会……夏の醍醐味なんだけど。
　まぁ……これだけ遊べたんだし満足するべきよね）
　ここは夢の島だ、と貴女が言うならば。それを叶えるのもこの島の仕事である。
　パァン。大輪の花咲かせ、音を轟かせ。夜に花火は花開く。
　光と色が満ちていく。突然のことに、周りを行きかう人々も声をあげて。
（……明日も依頼と稲荷信仰の布教、頑張りましょう！）
　こんな日も悪くないと思うイナリなのであった。

●正しい大人の歩み方
（なんで夏に雪が降る場所があるんですかねと野暮なツッコミはしないのが大人だ。細かいことは気にしない、長い物には素直に巻かれる。
　これが胃へのダメージを少なくする方法として最適だ。今度カナタにも教えてやるべきかな……）
　ちらほら降る雪が止んでいくのを待ちながら、『凡才』回言 世界（p3p007315）は夏の島を進む。
（さて、泳ぐのは面倒だし水で濡れるのもな……というかそもそも混沌に召喚されてから泳ぐ機会が無かったから水着なんて持ってないし）
　そもそも今は五月である。遅い人はまだ衣替えだってしていない時期だ。そんなころに水着を引っ張り出せというほうがおかしいのである。
「はぁ。屋台でも楽しむかな」
　甘いもの好きな世界は、今回も甘いもの探しの散歩へ。かき氷、綿あめ、チョコバナナ、りんご飴、その他諸々の甘いものを複数個買って満喫しながら、島を進んでいく。
（それにしても、一人で食べてもいいが折角だし誰かを誘うか？　……ティターニアは迂闊に近づくと水鉄砲で撃たれそうだし）
　ご名答である。
（グレイシアも何やら忙しそうだな。となると消去法でカナタかな。いざという時の弾除けとして……じゃなくて有意義に時間を過ごすために声を掛けるとしようか）
「よ、カナタ」
「ああ、こんにちは。こんなところで何を？」
「まぁ……おすそ分けだな。ほらよ」
　先程購入したお菓子の半分をカナタに渡すと、カナタはえっという顔をした。こんなに食べきれるのだろうか。最悪晩御飯にしよう。そんな顔だ。
　水着を着ているが色白なカナタは、世界の水着とお揃いであることに顔を顰める。そう、カナタもレンタルである。
「いい大人がペアルックってだいぶきつくないかな」
「同意する……」
　しかし平和だな、と呟いた世界にカナタも頷いた。煌めくビーチ。響く楽しそうな声。綺麗なお姉さんたち。美味しいご飯。何も考えたくない。
　その平穏をぶち壊す存在をご存知だろうか。そう、ティターニアである。
「ちょっと世界！　ぼーっとしてるとこうなるわよ！」
「うわぁ！？」
　空いた背中を狙い撃ちされたカナタは、前のめりになってこける。あっ。盾がない。しかし世界も負けてはいない。
「水の精霊の力で弾切れの心配が無くなった水鉄砲の超連射をくらえ！！」
「きゃー！？」
　四者四様の夏は、近いうちに幕を開けるだろう。

成否

成功

状態異常

なし