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シナリオ詳細

鳳凰天に舞う夜
鳳凰天に舞う夜

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●今は昔
 バルツァーレク領の奥深く。
 山の民ですら足を踏み入れることがない深い深い山の中、未開の地。

 山菜取りを生業とする山奥の村で生まれ育った少年はある日、黄金色に輝く珍しい山菜を目にした。
 ――これは高値で売れるに違いない。
 少年は必死に黄金色の山菜を探しているうちに、禁忌とされる山奥の地にまで足を踏み入れてしまった。
 咎められても構うもんか。今年は山菜の質が悪く稼ぎが少ない。何かで補填しなければならない。自分の働きに家族の食い扶持がかかっているのだ。少年は意を決して禁忌の地に分け入っていく。

 禁忌の地に足を踏み入れてから、どれほどの時間が経過したか。少年は格段に大きな光る山菜を見つけて、迷うことなく手を伸ばす。
 その時、耳をつんざくような獣の咆哮に身を打たれた。
 ――なんだ、狼か。
 少年は振り返ると、一匹の大きな黒い犬が佇んていた。
 ――喰われる。
 少年は直感で危機を感じ取り一目散に逃げ出した。折角集めた山菜のかごも放り出して。
 枝や硬い葉で全身を傷だらけにしながら、無我夢中で藪の中を駆けずり回る。
 迫りくる獣はただの野犬ではない。動物に悪霊が憑いた存在、彼の住まう地域の伝承では『ブラックドッグ』と呼ばれ畏怖される存在である。

 やがて陽は落ち、邪な時間がやってくる。

 少年は永遠の闇の中で人外に追われる最中、一筋の光を見る。
 まさに光明、少年はすがるように光を追い求めると、やがて藪を抜けた。

 藪の奥には広い原が広がり、中心には岩と見まごうほどの大きな『卵』が鎮座している。
 光は、卵に入った『ひび』から溢れ出たものであった。
 ――これは神鳥の卵ではないか。
 本物の神秘を己の眼で捉えた少年は、雷に打たれたかの様に硬直する。

 だが、背後には黒い刺客が姿を現す。
 ブラックドッグは少年には目もくれず一目散に卵を狙って走り出す。
 その様は百日ぶりの食事にありつく獣の如く。両眼は血走り、涎を垂らし、息を切らせ。
 ――いけない。
 少年は思考よりも先に体が動いた。
 そんな勇気を自分が持ち合わせていたのか。それは後日思い返しても不思議でならない出来事だった。
 少年の唯一の護身具である短剣を鞘から抜き、一寸の迷いもなく投げつけた。それはブラックドッグの後ろ足に突き刺さり、にわかに転倒させる。
 体勢を立て直したブラックドッグは、瞳を怒りの色に染め上げ、少年を睨みつける。

 その時、卵が完全に割れ、中からは炎を帯びた神々しくも美しい鳥、まさしく神鳥が現れ天に向かって飛び立った。
 もし少年がブラックドッグを妨害していなければ、神鳥は無事ではなかったかもしれない。

 そして、神鳥が翼をはためかせるたびに放たれる炎は奇跡を起こす。
 瞬く間に邪悪を焼き尽くし、無垢な少年の傷を癒した。
 少年は、天に昇る神鳥の姿を見つめて、いつまでも立ち尽くした。
 その日見た光景が彼の人生を大きく変えた。

●かつての少年
 80年前に神秘を目の当たりにした少年は今や床に伏せ、歩くこともままならないほど衰えていた。
 だが、あの日得た天啓に従い、山々の動向は逐一監視していた。
 自分が老いてからは息子に、そのまた息子に。『神鳥の守護者』の血筋は脈々と受け継がれていた。
 そして、あの日から80年の月日が流れた今、山では悪霊の動きが活発となり、黄金色に光る山菜を発見する報告も増えてきた。
 ――天啓の通り。間もなく大岩が卵に替わる。神鳥の目覚めは近い。

●ローレットにて
「神鳥の守護者からの依頼なのです」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は、かつての少年の孫から受けた依頼の説明を粛々と始めた。
 神鳥が孵化するまで時間を稼いでほしい。それが依頼の趣旨である。
 神秘を狙う魑魅魍魎が辺りをうろついているので、戦闘は避けられないことだろう。
 だが、神鳥が孵れば神秘の光が闇を払い早々に決着はつく。踏ん張るのはそれまでの間でよいとのことだ。
「尚、神鳥のことは守護者の村では鳳凰と呼んでいるそうなのです」
 ユリーカは胸を張って豆知識を披露する。
 鳳凰という呼称は昔村に立ち寄った旅の学者がそう呼んだとのことだ。響きが気に入って村でもそう呼ぶようになったそうだ。
「初めて神鳥の守護者となったご老人は長くないとのことなのです」
 依頼を受けるということは、老人とその一族の意志を継ぐことを意味する。託されたものは重たいはずだ。だが、何としても彼らの悲願を叶えてあげて欲しい――のです。ユリーカはそう結んだ。

GMコメント

日高ロマンと申します。
何卒よろしくお願いいたします。

●依頼達成条件
 鳳凰(神鳥)を孵化させる

●情報確度
 B
(オープニングと、この補足情報に記されていない事が起きる可能性があります。神秘に吸い寄せられて何か変なものが寄ってくるかもしれません)

●ターゲット概要
 ・ブラックドッグ(憑りつかれた野生動物)・・・5体程度

●その他補足
 ・舞台は深夜ですが、月明かりと神秘の光があるので証明には困りません。
 ・シナリオは卵が鎮座する原に到着したところからスタートします。
 ・神鳥の卵がある地は山の民の中でも禁忌の地とされる場所であり、この依頼が終わったら綺麗さっぱり忘れて欲しいそうです。

  • 鳳凰天に舞う夜完了
  • GM名日高ロマン(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年04月06日 21時30分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

鏡・胡蝶(p3p000010)
夢幻泡影
キドー(p3p000244)
緑色の隙間風
琴葉・結(p3p001166)
魔剣使い
メルナ(p3p002292)
青の十六夜
ヨルムンガンド(p3p002370)
暴食の守護竜
紫・陽花(p3p002749)
Hydrangea
リジア(p3p002864)
Esc-key
朝比奈 愛莉(p3p003480)
砂糖菓子の冠

リプレイ

●守り人の聖地にて
 話に聞いていた通り、一同は無限に続くかのような長い藪を抜けると、不意に開けた原に出る。
 そこは守り人の聖地。
 辺りは静寂に包まれ、柔らかな月の光が広大な山々に降り注ぐ。原は高台になっていてその光景が見渡せる。
 原の中央に鎮座する卵には僅かな亀裂が入り、神秘の光が溢れている。
 その幻想的な光景が、間もなく凄惨な戦場に変わることは、その時は誰も想像していなかった。
「デケェ卵だ。こいつは盗めねえ――なんて冗談を言う気にすらならねえよ」
 『盗賊ゴブリン』キドー(p3p000244)は卵を見上げてため息をつく。
 その大きさはキドーの身長を三倍にしてもまだ足りないほどである。
「本当に輝いている。なんだか暖かい……」
 『聡慧のラピスラズリ』ヨルムンガンド(p3p002370)は卵から溢れる光を身に受け、惚けた表情で呟く。
 『夢幻泡影』鏡・胡蝶(p3p000010)は、満身創痍の肉体を押しての参戦であった。
 長時間にわたる移動で、鎧の下の包帯からは血が滲んでいた。本来ならば戦闘に参加できる状態ではないが――。
「鳳凰の卵、興味深いわね」
 とはいえ、こんな体で守ることになるとは。胡蝶は自嘲気味にそう呟く。
 今の心境を、薄っぺらい言葉で表現したくはない。
 負傷を押してでも、戦わなければならない時がある。それはきっと今だ。
 彼女は微かに眩暈を感じたが、周りに悟られないよう気丈に振舞い配置につく。
 胡蝶は本来であれば、近距離と遠距離をどちらもこなすオールラウンダーであったが、此度の戦いではコンディションを考慮し遠めの間合いで射撃を中心に戦う想定であった。
「本当にすごいや」
 『Hydrangea』紫・陽花(p3p002749)は髪の色を白から桃色に変化させ思わず両手を握る。
「絶対に無事に孵化させたい。だから――」
 みんな、敵が迫っていたら教えてほしい。陽花は周りの草花と心を通わせ警戒する。
 生誕の翼、それは自分とは対極にある存在。
 リジア(p3p002864)は背に在る青白い二枚の翼を微かに震わせた。
 輝かしいものであれば、それは守るべき存在であるはずだ。破の力を向けるべきは、救いようのない有象無象に――。
 彼女は四枚の翼を展開し、いち早く臨戦態勢を取った。
「素敵な光景……今の様子も残しておきたいくらいですけど……今はだめですっ」
 『砂糖菓子の冠』朝比奈 愛莉(p3p003480)は、一度手にした万年筆と羊皮紙を荷に戻す。
 この物語を正しいカタチで終らせて、有終の美を記録に残そう。彼女は創作意欲を胸の奥に仕舞い込み、粛々と配置につく。
 一方で、腰まで届く美しい髪を月色に染め上げる少女は目を閉じて微かに震えている。
 少女の名は『兄の影を纏う者』メルナ(p3p002292)。
「私は、やれる」
 ――月は陽の影となりて。それは、月の呪い。
 目を開くと、ぴたりとメルナの体から震えが消えた。
「ほう。自己暗示か。或いはそれ以上の力が作用しているのか」
 今のは『魔剣使い』琴葉・結(p3p001166)の言葉――ではなく彼女の支配者であり本体でもあるズィーガーの声だ。
「結、お前も暗示でもかけたほうがいいんじゃないか。弱気が出てきませんように、ってな。ヒヒヒ」
「……!」
 ――きたぜ。結が反論しようとしたところで、キドーが後ろから囁いた。
「南から五匹、歩幅的に、全部犬だぜ」
 卵は原の中央に鎮座している。よって、全方位からの襲撃に対応しなければならない。
 しかし、キドーの『耳』が敵の接近を事前に探知する。よって、万全の迎撃体制を敷くことができる。
 
●接触
 最初にブラックドッグに接触するのは最前衛である結だ。彼女はズィーガーを強く握り、交戦の時を待ち構える。
 月明かりがあるとはいえ、視界は相当悪い。地を這うように迫りくる獣の群れに姿をさらすのは死を意味する。だが――
「80年も守ってきたお爺さんの為にも絶対守ってみせるわ! かかってきなさい、化け物ども!」
 結は辺りの山々まで木霊する見事な口上を述べると、程なくして瞳の輝きが増した。
 ブラックドッグのうち、二匹は結に向かって一直線に駆け込んでくる。
 一匹目は結の喉元に食らい付こうと飛び掛かるが、間一髪ズィーガーで受け止める。
 続く二匹目に対しては、逆に突進を仕掛け、捨て身ともいえる渾身の一刀を叩き込み、返り討ちにした。
「イヒヒヒ。反応速度を上げたか。悪くはないが、よくもないな。どれ――少し制御を寄越せ」
 瞬く間に肉体の支配権は結からズィーガーに移る。
 同時に三匹目のブラックドッグが結に飛び掛かるが、彼女は足さばきだけで巧みに攻撃を回避する。
「待たせたな!」
 結の救援に最初に駆け付けたのはキドーだ。
 彼は目を閉じ集中力を高めた後、結の攻撃を受けて弱っているブラックドッグに対して魔力弾を打ち付けて転倒させる。
「無に還れ」
 リジアは後方から狙いをすまし、掌から破壊的な魔力を放射状に撃ち出す。魔力は光の帯となり瞬く間に獣を飲み込み、骨の一片すら残らず地上から消滅させた。
 だが、一匹のブラックドッグが前衛を抜け、卵に迫る。
 ――私も飛んで行く姿を見てみたいぞ。さぁ早く出ておいで。
 ヨルムンガンドは卵の前に立ち、襲い掛かるブラックドッグを全身全霊の力で抑え込み、後ろには決して行かせない。
 足止めされたブラックドッグは、胡蝶・陽花・愛莉に狙い撃ちにされる。防衛部隊を前に立ち止まったら最後、次の瞬間には蜂の巣である。
「ちっ……またか!」
 一方、キドーは右手に握るナイフでブラックドッグの咬を受け止めようとしたが、意思に反して右腕は動かない。
 フーリッシュ・ケイオスに召還される直前の出来事が彼の脳裏を過る。
 咄嗟に左手でマントを翻し狂犬の一撃を受け止め、事なきを得る。
 そこに、すかさず胡蝶が後衛から援護射撃を放ちキドーを救出した。
「助かったぜ。――これはなんだ。羽音のような」
 キドーは一息つく間もなく、周囲の気配に集中する。前衛を突破したブラックドッグは防衛組が完封済であった。
「読み通り、といったところかしら」
 胡蝶は宙に数回銃撃を放つと、鳥のようなものが落下してくる。それは蝙蝠に憑いた死霊であった。
 彼女は事前に飛行する敵を警戒していたため、戸惑うことなく対応できる。
「10匹はいるね。けど、諦めない」
 陽花は髪の色を虹色に輝かせ空の敵に応戦する。
「やらせませんっ!」
 愛莉も遠術を放ち陽花と火線を合わせて応戦する。
 ――絶対に卵は守ります。
 
●朽ちた使者
「何が敵は5体程度だ」
 リジアは大きく息を吐きだした。流石に魔力を使い過ぎた。疲労の色が見え始めているが、原に出没した敵は全て殲滅している。
「倍じゃすまないよっ! ユリーカちゃんったら……」
 メルナは膝に手をつき呼吸を整える。
 前線に踏みとどまる結、キドー、メルナは何度かの被弾があったが、陽花と愛莉の献身的な治療で大きな損害には至っていなかった。何より卵は無傷で守り通した。
 そして卵の亀裂は進行し、光はより一層強く溢れ出している。だが――。
「何……? 悍ましい何かが近づいてくる……」
 メルナは直感で『何か』を感じた。

 程なくして、大きな地鳴りが一同の耳に入る。
「あれは山ではなかったか……」
 ヨルムンガンドは目を細め、異様な光景を見つめて立ち尽くす。
 山であったはずのものから足が生え、轟音を鳴らしながら一歩一歩原に近づいて来る。
「卵よりでけぇ」
 キドーは僅かに後ずさりする。
 原に到達した『山』は月明かりを浴びて正体を露にする。
 それは長い首を持つ竜の死骸であった。朽ちた竜の死骸に死霊が憑いたのだ。
 肉体は朽ちており、竜の原型はほぼとどめていない。唯一長い首と翼のない丸みを帯びた体躯が生前の姿を僅かに彷彿とさせた。
「竜の端くれなの……? だとしても『その程度の大きさ』で勝ったつもりになるな……」
 ヨルムンガンドはゆらりと巨竜の死骸の進路に立つ。
「真の姿を解き放つ」
 この神秘に満ち溢れた空間ならできる気がする。それに――。
「今やらなければ、卵を守れない」
 彼女は容姿端麗の半竜人の姿をしているが、真の姿は無限を内包する伝説の巨竜である。
 次第に彼女の体は神秘を集め、光輝いていく。
 卵から溢れた光は神秘そのもの。原の一帯はオーロラの様に幻想的な色を帯び始める。それ程までに凝縮された神秘を使えば力を開放することが出来るかもしれない。
「おい、結。止めた方がいい。何が起こるか分らんぞ」
 ズィーガーは真剣な声色で結に告げる。
 ヨルムンガンドはフーリッシュ・ケイオスに転移してからは一度も真の姿に戻っていない。何が起こるか分からない。決死の覚悟だった。
「無茶はしないで! ボクが盾になる」
 大丈夫。痛みも感じないし、手足を失っても明日には生えてくるから。そう言うと陽花はヨルムンガンドの前に出る。
 だが、対峙するものは三階建ての貴族の屋敷がすっぽり入るほどの体躯を誇る。まともに攻撃を食らうと四肢が千切れるだけでは済むはずがない。
「私が止めてみせるよっ!」
 お兄ちゃんなら、誰かの犠牲の上に成り立つ勝利に意味はないって、きっと言うから。メルナは身の丈を超える大剣を両手で握り締め、高く跳躍する。
 竜の死骸が頭を垂れる瞬間に狙いをすまし、乾坤一擲の一撃を放つ。
 それは目を見張る見事な一撃だった。
 頭部の肉は散り、頭骨は大きく砕かれる。竜の死骸の進行を止めるどころか、半歩後退させることに成功した。
 だが、メルナの着地と同時に長い首を鞭のようにしならせ、彼女は独楽の様に弾き飛ばされる。
「大丈夫……『私も』ここで諦める気なんてないから』
 メルナは不屈の闘志で立ち上がり、すぐに剣を構えなおす。
「卵には指一本触れさせないから!」
 メルナは負傷を押して再び斬りかかろうとした瞬間、結が前に出る。
 結は自身の回避能力にかけ、接近戦を仕掛けて注意を引く。
「こっちよ! 少しでも時間を稼げればいいけど」
 竜の死骸は結に足止めされた後、進路を再び卵に戻して進行を始める。
 そこに立ちはだかるのは、ヨルムンガンドだった。メルナと陽花を庇う様に前に出る。
「みんな、わかった。無茶はしない。この体で止めて見せるぞ。かかってきな……おチビさん」
 竜の死骸は長い首をしならせ、崩壊しかけた頭部を地面に叩きつけた。
 その衝撃で地表が砕け、無数の石礫や岩が卵に向かい高速で打ち出される。
 ヨルムンガンドと愛莉と陽花は、自らの体を盾にして卵を守った。だがもっとも多くの破片を受けたヨルムンガンドはその場に崩れ落ちた。
「くそ……」
 倒れこんだヨルムンガンドは最後の力を振り絞り、辺りを見回した。
 ――そこの君、卵を早く目覚めさせて、お願いだ。
 動物疎通の力で近くにいたリスに思いを伝えた。それを最後に彼女の意識は混濁した。
「所詮は死肉か。全身綻びだらけだ」
 リジアは天眼でそびえ立つ死骸を見るも弱点は見当たらない。死肉の集合体である。存在そのものが綻びと言っても過言ではない。
「頭を潰せば倒れるかしら。これ以上、卵には近づけさせないわ」
 少しでも時間稼ぎをしなければ。胡蝶は後方から敵の頭部に狙いを定め、ありったけの弾を撃ち続ける。キドーも中距離から魔弾で援護射撃を行う。
 愛莉は口から血を流しながら立ち上がり、マフラーでそっと卵を拭った。
「私たちが……守ってあげないと……温めたら、少しでも早く孵るかな……」
 彼女は満身創痍の体でありったけの力を振り絞り、最後の一手に出る。
 愛莉は卵に逆再生の力を行使する。
 ――本当は自然に孵るのを待つのが一番のはずだけど。
 殻だけを破壊して早く生まれるように。早く天に羽ばたけるように。間に合いますように。愛莉は胸の中で祈り続ける。
「もう殻が無くなればいつでも生まれてこれるんだろう? 早く来い!」
 キドーは必死に魔弾を撃ちつつ叫ぶ。
「ボクも手伝うよ! ヒトの80年はとっても長いんだ! 一夜で台無しになんてさせない!」
 よろめきながらも立ち上がった陽花も逆転の策にかける。
「全員殺されて、鳳凰まで殺されるよりも、ずっとましなはずよ。殻だけ取ってちょうだい」
 胡蝶は重火器を手にし、卵を守るように立ちはだかる。
 竜の死骸が最後の防衛線まで残り三歩の距離に差し迫ったその時――辺りは眩い光に包まれた。

●鳳凰
 眩い光と共に卵の殻は粉々に砕け、鳳凰が誕生した。
 その神々しい光の前に、あるゆるものが静止する。
 そして、鳳凰は天に向かいゆっくりと羽ばたいていく。まるで月を目指すかのように静かに優雅に。
 鳳凰が羽ばたくと同時に、白い炎が巻き起こり辺り一面を埋め尽くす。
 その炎は魑魅魍魎を祓い、清きものには癒しをもたらす。
 白炎に巻かれた竜の死骸は、肉の一片を残すことなく溶けるように消滅した。
「うおっ! ちょっと熱い気がする……体が溶けていくようだ……」
 キドーは膝をつき、白い炎に包まれる自らの両手を見つめて嘆くように呟いた。
「おはよう!」
 陽花は髪を黄色に輝かせ、両手を広げて祝福した。そして、あの日の少年に思いを馳せる。
 ――無事に鳳凰が生まれたよ。この想いを貴方に。そして次の守護者に伝えたい。
 陽花は天を見上げ、月に向かう鳳凰をいつまでも眺め続けた。
 そして、今の出来事が白昼夢だったかのように、原からは白い炎は消滅し、辺りには静寂が戻る。
 不思議なことに重傷を負った一同は平然とその場に立ち尽くしていた。倒れたはずのヨルムンガンドの傷も癒えている。キドーも消滅していない。
「やったよっ!」
 メルナは蒼い瞳を輝かせて一同と共に喜びを分かち合う。
 ――やったよ、お兄ちゃん。
 鳳凰のこと。今日の戦いこと。いつか伝えたい――。
 メルナは大剣を鞘に戻し、大切な想い出に浸ることにした。少しだけ下を向いた気持ち。それは月の呪いが解けたせいかもしれない。
「見事な勝利よ! 山を降りたら依頼主に報告するわ」
 結はこぶしを握り勝どきを上げる。だが、いい気分も束の間。
「おい、魔力が空のようだな。力の配分は課題だな。イヒヒヒ」
 ズィーガーのお小言に結は顔を膨らませる。まぁまぁ。勝ったのだからいいんじゃないかしら。と胡蝶はやんわりとフォローした。
「無事に生まれてくれたな! 立派な姿だったぞ! さぁ行くんだ。生きることは楽しいぞぉ」
 ヨルムンガンドは天を仰ぎ満足げな表情で鳳凰を見送った。
 今は、半竜人のままでもいいのかもしれない。この姿で転移したことは、きっと意味があるはずだ。彼女は少しだけ安堵感を得ていた。
 鳳凰よ――。
「また再び、会うことが許されるのならば……その翼を見せてくれ」
 リジアは天を仰ぎそう呟く。
 彼女は刻天使であり崩壊の審判者である。その性質は破壊と崩壊に偏ってはいたが、記念すべき生誕に胸が躍らないわけはない。
「依頼外の収穫としては、上々だったな」
 そう言った時の彼女の表情は誰も見ていないが、もしかするとその日で一番穏やかな表情だったのかもしれない。 
「愛莉ちゃん、どうしたの?」
 一同が山を降り始めたところで、メルナは原の中央に立ち尽くす愛莉に気が付いた。
「もうちょっと……と思ったけど、大丈夫。帰ろうっ!」
 愛莉は羊皮紙に鳳凰の姿を書き留めていた。
 今日の光景は絵に残して守護者の一族に送りたい。それが彼女の望みであった。
 まだ空に鳳凰の姿が在るうちに書き残したいと思ったが――彼女の脳裏にはしっかりと鳳凰の姿が刻み込まれている。
 それは、決して忘れることはない。だから、もういつでも書けるはずだ。
 愛莉は手を振るメルナに追いつき、聖地を後にした。
 
 一同が去り、静寂が戻った聖地には、柔光だけがしんしんと降り注ぐ。
 また長い年月をかけ、その日は訪れる。
 その時にローレットが残っているかどうかはわからない。
 だが、危険な任務にも関わらず、二つ返事で来てくれる救い主達がいたわけだ。
 中には重傷を押してまで駆けつけた者もいた。
 先のことは分からないが、少なくとも命を懸けて鳳凰を守った者達の志は、いつまでもこの地に語り継がれる。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

見事、成功となりました。
負傷者ゼロで完了です。お疲れ様でした。

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