PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<高襟血風録>春なき地の乙女

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●春鳴をとめ女学院
 この世界において「女学院」「女学校」という言葉には二つの意味がある。
 一つは言葉の通り「女子を対象とした学び舎」という意味。
 もう一つは、伝統的に女性が士族階級を担うハイカラ族の要塞という意味だ。
 かつて、人間とハイカラが領地を巡って争っていた際に女ばかりの陣営を見て「まるで女学園の様だ」と揶揄したのが始まりであるが、当のハイカラ達はすんなりと受け入れた。
 戦場は学びの場である。
 生きる振る舞い、殺す振る舞い、平時には学べぬことを先達から拝する貴重な場であるのならば、女学校、女学院と呼ぶのがむしろ正しい。
 故に、人間とハイカラが和睦した後も、そう呼ぶ習慣が残っている。

 その女学院の極北。春鳴をとめ女学院(はるなきおとめじょがくいん)。
「申し上げます」
 ヱリカは床に額を擦り付けんばかりに首を垂れていた。
 周囲を囲むのはいずれも女学院を指揮する立場にある女傑達である。その全員がヱリカの様子を苦い表情で注視している。
「冬将軍です」
 ヒュウッと誰かが息を飲む音がした。
「千鳥隊は隊長以下、全員冬将軍の足止めを敢行されました。
 自分のみ、皆様方にこれをお伝えするため参った次第です」
「災来(さいくる)のヱリカ。
 なるほど、災いと同じ様にあらゆる悪路にも決して脚を取られぬお前ならばこそ、我々に戦の準備を行う間が生まれるというわけか」
 ヱリカは今度こそ床に額を擦り付けた。ヱリカは昔から足が早かった。雪の上でも、湿地でも速度を落とさずに走り続けることができた。
 何故皆同じようにできぬのか不思議でそれを優越に思ったこともあったが……一体それがなんだというのか。
 自分が逃げる間を稼ぐために皆死んだのだ。
 足止め等と言ったが実質は特攻である。冬将軍に遅滞戦術は通らぬ。皆がヱリカに背を向けてーーそこまで思い出してぐっと歯を食いしめた。
「兵はどれだけ集められる?」
「冬の間戦い通しで皆疲弊しております。十全に戦える者は……」
「では、この女学院を放棄して南に下がるのは……」
「ならぬ、ここが抜かれれば冬将軍は春の気を喰らいて冷夏になる。
 そうすれば損害は北部だけでなく中原に及び、南の蛮カラ共の戦線にまで影響を及ぼそう」
 ヱリカの頭の上で進んでいた軍議がピタリと止んだ。
「戦える者を全てこの女学院に集めよ。此処が決戦の場である」
 場の最も奥に座していた乙女はそう宣言すると、ゆっくりとヱリカへと歩み寄り跪いた。
「ヱリカよ、大義であった。お前には引き続き別の命を下す」
 この乙女こそが女学院の総司令たる院長、その命となれば末端たるヱリカに拒否権はない。
「自分も戦えます。皆と一緒に戦えます」
 それでも、その先の言葉を予想すれば言わずには居れなかった。
 上官の言葉を遮る無礼に対して返されたのは優しく肩を撫でる掌と。
「南の女学院にこれを伝え、援軍の要請を行うのです」
 無常なる言葉。

●冬と戦う乙女達
「高襟血風録の世界で一番の脅威は季節なんだ」
 イレギュラーズを前にしてカストルはそう切り出した。
「過度に凝った冬や夏の概念、そういうものがモンスターとなって襲ってくる……と考えてもらうのが一番簡単かな。向こうでの呼び名は色々あるようだけれど。
 うん、冬将軍っていうのもその中のひとつさ。
 停滞、孤独、飢え、寒さ……冬の悪い面ばかりが凝り固まって生まれた超大型のモンスター。
 形は嵐を纏った巨大な骸骨を想像して貰えばいい」
 もう春なのに、と誰かが呟いた。
 その呟きにカストルはそうだね、と頷いた。
「君たちにこれから行ってもらう場所は、この世界で最も春が遅くくる場所。
 つまりは最も長い期間、冬が生み出す脅威と戦う場所なんだ。
 誰もが疲弊しきってるけど、目前の春を待ちながら必死に戦っている。
 ……だからどうか、助けてあげてくれないかな」

●それはまるで英雄の様な
 走って走って走って、決して後ろを振り返らない様に走って。
 金切り声をあげる北風よりも早く、足をからめとろうとする豪雪も振り切って宙に浮かぶ様にして駆けた。
 南は遠い。急いでも急いでも尚足りぬ。
 ヱリカの足でこうなのに、果たして南から進軍するのにどれだけの時間が掛かろうか。
 全ては無駄な行いではないのか。
 己の心こそが何よりも足を鈍らせる。縺らせる。
 つんのめって泥混じりの雪の中に倒れ込んだ己の無様に体を震わせながらヱリカは立ち上がろうとして。
 ふ、と、目の前に手が差し伸べられていることに気付いた。
 面食らってあたりを見回せばいつのまにか周りには幾人かの人がいる。
 何者か想像しようにもそれぞれ違う意匠の武装を身に纏いまるで統一感がない。
 ただ皆、ヱリカの来た方へと歩みを進めている。冬将軍が纏う黒い嵐の向こう側を見ている。
 それを見て理解した。このどこから来たかもわからない人達は、あの冬将軍を討ちに来たのだと。
 縁もゆかりもない我々の為に、まるで英雄の様に。

NMコメント

 まだ春は終わらせない!!!言子です!!
 高襟血風録シリーズですが、前後の状況はシナリオごとに独立しているので前作を知らない方でも是非ご参加ください。

●一章成功条件
 冬将軍が纏う嵐の突破

 一章目ではまず冬将軍に接敵する為に冬将軍が纏っている嵐を突破していただきます。
 猛吹雪に落雷が物理的に足止めしてきますがそれほど長い区間でないので強行突破も可能でしょう。
 ただし、この空間は人の孤独や、飢え、寒さ、そして停滞にまつわる嫌な記憶を引き出して嵐の中を迷わせる性質があります。
 暗い思いを跳ね除ける工夫や意志の強さが必要になるでしょう。

●二章成功条件
 冬将軍の討伐

 巨大な骸骨型の敵である冬将軍の討伐を果たしてください。
 戦う他にも、後方で傷ついたハイカラ達を癒すことで戦死者を減らす選択肢もあります。

●NPC
 ヱリカ
 ハイカラの伝令の少女。
 申し出があれば一緒に戦います。

※過去作の<高襟血風録>に出てくるヱリカと同一人物ですが、このシナリオは過去のシナリオよりも前の時間軸になるので過去のシナリオで知り合っていてもヱリカにとっては初対面になります。


それでは、皆様のご参加をお待ちしております。

  • <高襟血風録>春なき地の乙女完了
  • NM名七志野言子
  • 種別ラリー(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年05月09日 14時18分
  • 章数2章
  • 総採用数18人
  • 参加費50RC

第2章

第2章 第1節

●冬嵐の先
 冬の嵐を抜けたその先に大きな城砦とその城壁にまとわりつく巨大な骸骨の姿を見るでしょう。精緻に作られた砂の城を叩き壊そうとする子供の様にも見えるかもしれません。
 城砦側は骸骨ーー冬将軍へ縄を打ち、動きを制限している様ですが完璧ではありません。
 冬将軍が吐き出す冷気や氷の刃、そして何よりも巨大な体から繰り出される単純な、ただし大質量の暴力が城壁とそれを守るハイカラ達の命脈を削っています。

●2章目標
 冬将軍の討伐

●エネミーデータ
【冬将軍】
莫大なHPと桁外れの物理攻撃力を持つ敵です。
凍死者の怨念が作り上げた存在であるとも言われており、周囲の一切合切を氷漬けにしようと攻撃してきます。
非常に巨大であるため、移動すら攻撃の一部です。
真の脅威は物理攻撃ですが、明確な脅威であると認識されない限りは超範囲の攻撃でジワジワと削り倒すことを優先する様です。

アクティブスキル
怨嗟の吹雪……神自範超、【致死毒】、【呪殺】
諦念の氷刃……神自範超、【ブレイク】、【致命】、【懊悩】
冬将軍パンチ……物遠範、【防御無効】、【必殺】、特大ダメージ

パッシブスキル
凍てつく体……火炎系BS無効
終わらぬ冬……ターン終了時、同一戦場の対象に対して凍結・氷結・氷漬・足止め・泥沼・停滞のいずれかをランダムで付与
超巨体……マーク・ブロック無効
大山鳴動……移動使用時、進行方向上の存在に対して物理ダメージ
春鳴をとめ女学院の縛め……移動が1/2の確率で失敗する

●行動指針
1 冬将軍を攻撃する
 文字通り冬将軍を攻撃します。冬将軍のデータは上記の通りです。
 冬将軍撃破の要です。
 周囲ではハイカラ達も戦っています。城壁を守るのと冬将軍の動きを抑えるのに手一杯の様子です。

2 救護活動を行う
 戦場内外には傷ついたハイカラの戦士達がいます。
 雪中から探し出し、助けることができれば死傷者を減らすことができます。
 また、大勢救出することができれば学院側の冬将軍の動きを封じる力が増し、1の戦場に有利な効果をもたらすでしょう。

3 その他
 城砦(女学院)内にいるハイカラ達との連携など、思いついた事があれば自由に行動してください。

以上よろしくお願いします。


第2章 第2節

セララ(p3p000273)
魔法騎士
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
長月・イナリ(p3p008096)
狐です

●聳える冬の意志
 轟音が空気を揺らした。
 強固に組まれているはずの石垣がぐしゃりと積み木のように骨の掌にえぐり取られる。立ち上がれば学院を守る石垣ほどの大きさになろうかという骸骨は、その身をハイカラ達の放った縄で縛められて尚動いた。
「縄を引けェーー!!」
 鋭い号令が飛ぶ。冬将軍を縛める縄を握ったハイカラ達が渾身の力を持って引けば、冬将軍は石垣からずるりと足を滑らせて落ちてくるが……。
 後一体何時間、何日耐えればいいのか。否、耐える事が出来るのか。底の見えない不安を抱えながらもただ今は動きを封じ耐え続けるしかない。
「完全防寒装備! もこもこセララ参上!
 ボクが来たからには冬将軍の進軍もここまでだよ!」
 絶望的な空気を明るい声が裂いた。もこもこのコートを身にまとい、流れる金髪の上には鮮やかな赤いリボンが兎の耳の様に揺らめいている。『魔法騎士』セララ(p3p000273)だ。
 いくよ、と小さく呟いて駆けだせば閃くのは何時もの聖剣――ではなく、拳。
「向日葵元気爆裂拳!」
 小さな体から迸る生命力はそのまま打撃力となって冬将軍の体に打ち付けられる。
 それを迎え撃つは凍える怨嗟の全方位攻撃。
 底冷えのする唸り声と共に空っぽのはずの冬将軍の体から溢れ出す生あるもの、暖かな者達への憎しみ。魂に絡みつくそれは劇毒にもにた症状を齎すが――。
「僕の前でそんな簡単には倒させませんよ」
 溜息にも似た声が落ちる。
 『脳筋名医』ヨハン=レーム(p3p001117)の言霊が氷を解かす様に冬の呪いから周囲の人々を解き放つ。
「もごごもごーっ!」
「ドーナッツ食べながらしゃべらないでくださいよ!?」
「ごっくん! ありがとうヨハン!」
 ヨハンの後押しを受けて体勢を立て直したセララが再び拳を握った時、冬将軍の体が妖しい桃色の霧に包まれた。甘く痺れる香りは生物非生物問わず酩酊させる異界の神の権能。
「このくらいの吹雪で退けるわけないじゃない……!!」
 『新米の稲荷様』長月・イナリ(p3p008096) はその身に宿した上位存在の圧に耐えながら己を奮い立たせる。豊穣を司る神に連なる者である彼女にとって、滅びを振りまく冬の化身は決して許せるものではない。
「私だけじゃ打撃力不足だけど……」
 それでもとイナリは前を向いて冷気を吐き出し続ける冬将軍を睨む。
「私に続く、他の人達の為に少しでもダメージを叩き込んであげるわ!」

「月並な比喩ですが蟻と像といったところでしょうか」
 ヨハンは冬将軍を見上げながら独り言ちる。
 相変わらず周囲に吹雪や氷の刃を降らせるばかりで、攻撃する個人に向けた攻撃をしてこないのはそういうことなのだろう。群がってくる羽虫に対して一匹一匹手で潰す馬鹿は居ない。
 そう、小賢しい策を弄したところで誰にも限界がある。限界が来るまでただ待てば、周囲は勝手に凍り付いていく。冬将軍はあの空っぽの頭でそう考えているに違いない。
「でも、蟻を優秀な兵士へと変えるのが参謀のお仕事でして」
 冬将軍の頭蓋に雷撃を纏った短剣が突き刺さる。
 莫大な体力をほんのわずかに削る蟻の一矢に過ぎないが、稲妻は一瞬、確実に冬将軍の動きを止める。
 それを見逃すセララではなかった。
 一息に冬将軍の体を駆け上がり、かざした拳は太陽の如く光輝くオーラを纏う。
「ボクのとっておきを使ってあげるよ。太陽の力を喰らえ!」
 一撃、拳を叩きつけた頬骨は小動もせず。
 二撃、じわりと染み渡る太陽の、生命力の波動は凍てつく表面をじわりと溶かす。
 三撃、蹴りつけた頭蓋が傾ぐ。
「迦具土神は火の神、冬将軍なんて名前なんだもの火は天敵でしょ!」
 地上ではイナリを中心として爆発的な熱量が膨れ上がっていた。水を求めて無意識に飲み込んだ唾は血の味がした。連続で神を宿し続ければ反動もまた激しい。
「火の神の熱量で蒸発しなさい!」
 放たれた光線は厚く積もった雪を溶かしながら冬将軍に殺到する。
――オオオオオオ――
 充満する水蒸気のスクリーンの向こうに見える冬将軍の姿は今尚健在。
 しかし周囲に響き渡る低い唸りは確かに苦悶の声だった。

成否

成功


第2章 第3節

寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
春宮・日向(p3p007910)
春雷の

「こっちを向いたね」
「おっ、まじだ。ついでだし名乗っとくー?」
 ひらりとプリーツのスカートを翻し、少女は華やかなピンク色に塗られた指先を冬将軍へと向ける。
「あーしは日向! 春雷の日向!
 こっちはこんだけ仲間居るんだけどー、ぼっちの冬将軍は尻尾巻いて逃げてくれるー?」
 『春雷の』春宮・日向(p3p007910)が、にっと唇を釣り上げて笑う後ろで 『大号令の体現者』秋宮・史之(p3p002233) は小さく息を吐いた。
 この妹分は、敵を前にするとどうにもがむしゃらになるクセがある。
「ひなちゃん、突っ込むのはいいけど俺の回復の範囲内へ居てね」
 忘れずに釘を刺すが一体どこまで効果があるものか。元気よく「わーってるって!」と返す日向の意識は完全冬将軍に固定されている。
「貴方達にばかり良い恰好をさせるわけにはいかないな」
 そんな二人の後ろにはハイカラの女戦士達が居た。皆一様に傷ついていたが、史之の力により回復しつつある。
 その姿に史之は眩しそうに目を細め、頷いて返す。
「後ろは振り向かなくていい。俺が守るよ」
 赤い理力障壁が静かに展開される。
 それと同時に戦士たちが各々の武器を掲げて駆けだした。

 史之の支援は凄まじいものがあった。
 吹雪により言霊は凍てついていく氷を溶かし、歌声は長期戦に膝を折りかけていたハイカラ達に活を入れる。
「恐れずに進んで。実りの秋の後には冬至るし、春だって必ず来るから」
 そう叱咤されて奮い立たない戦士は居ない。
「そうだ、春を取り戻そう!」
「こんなところで負けてたまるか!」
 声は段々と広く広がっていく。戦場にまとわりついていた切望が少しずつ砕かれ、崩れ……。
 今まさに希望という火が燃え上がろうとしていた。

 日向は圧倒的な体格差をものともせずに冬将軍に攻撃を加える。凡そ卑怯と呼ばれるような手管も織り交ぜるが春宮の辞書に燦然と輝くのは「勝てば官軍」という言葉である。
 その上で、日向はちらっと冬将軍の頭蓋骨を見上げた。あれは人体の急所の総合である。
「日向殿ッ!」
 日向の目線に気づいた槍を構えたハイカラが叫ぶ。
 その意を察した日向は迷わず地に伏せられた槍の穂先を踏んで――ぶっ飛んだ。
 ひょう、と槍を振る勢いでバネに弾かれたパチンコ玉のように宙に打ち出されたのだ。
 日向は空中で奇しくも冬将軍の巨大な眼窩と同じ目線になり。
「てかこの学院の子みたいな可憐な乙女をいたぶり殺そうってその魂胆が気に食わないんだけどー?」
 斬撃が走る。空っぽの頭蓋が後ろに大きく傾ぎ、冬将軍の手が傷口を押さえるように眼窩に添えられる。
「あはっ、眼球ないのに目は抑えるんだ」
 日向は空中で一回転して方向転換した。
「じゃー、もう一発いっとこっかー!」
 斬撃か、否、日向の肉体に魔力が滾る。落下の勢いさえ纏って叩きつけられた拳は春一番のように冬将軍の手を吹き飛ばした。

成否

成功


第2章 第4節

夏宮・千尋(p3p007911)
千里の道も一歩から
アレクサンドラ・スターレット(p3p008233)
デザート・ワン・ステップ

「ひゃー、でっかいですねー……」
「さすがに今の私で冬将軍の相手をするのは……悔しいが無謀だ……。春宮めが無茶をせぬといいが。」
 遠景にも分かりやすいほどに巨大な冬将軍に、アレクサンドラ・スターレット(p3p008233)は息をのんだ。あんなのと正面から戦い合うなんて戦士でもない只の商人のアレクサンドラには無謀としか思えない。
「でも、やれることは他に山ほどありますから!適材適所って奴ですね!」
 しかし、それに立ち向かって倒れているハイカラ達を見捨てられるかと言えば否である。
「そうだ。私は戦えるものを探す。貴殿は重傷者の移送を頼む」
 『千里の道も一歩から』夏宮・千尋(p3p007911)の腰で鈴の鳴った。冷えた空気の中、高音が良く響く。
「鈴の音が聞こえるまで耐えよ。疾く馳せ参じる。助けなど呼ばずとも良い、ただ想え、春を」
 そう声を張って宣言すれば、眼を閉じて集中する。
 今や千尋の感覚は研ぎ澄まされ、雪中に埋もれた人々の息遣い、血の匂い、そして何より助けを求める心がただ白いだけの風景に浮かび上がる。
「行くぞ、アレクサンドラ殿。片端から救いあげる」

 雪を掘り起こし、まだ息があるはずのハイカラに触れる時、その冷たさに何度でも心臓が跳ね上がった。
 鋭敏に強化している感覚が生きていると伝えても、指先から伝わる冷気がそれを否定するのだ。
(大丈夫か?)
 負担をかけぬようハイテレパスで語り掛ける。
(ああ、鈴の音の君。来て下さったのですね)
(鈴の音の君?)
(貴女の鈴の音が近づくほどあと少しと、意識を繋ぐことが出来ました)
 ありがとうと、偽りのない心の波動を受ければ千尋はぎゅっと唇をかんだ。不随意的に頬が動こうとしたのを律する為にどうしようもなかった。
 やがて立ち上がれるまで回復したハイカラにふんと腕を組む。
「何処へ行く気だ」
「前線へ」
「征け、悔いは残すな。史之という気のきかん男がいる。そこへ行け」
 
「こんにちはー! 運び屋サンディです! お届け物ですよー!」
 アレクサンドラは固く閉ざされた春鳴をとめ女学院の門をガンガンやっていた。
「何者だ」
「アレクサンドラです! 傷ついたハイカラさん達がいっぱいいるので開けてくださーい!」
 不信感満載の声にも物怖じせずに扉を叩いていると不精不精といった様子で大扉の横にしつらえられた小さな扉が開く。
「おお、これは……!」
「やっと開けてくれましたね!さぁ、受け取りのサインを……あっ、今回はいらないんでした」
 扉を開けたハイカラはアレクサンドラの言葉に偽りがなかった事に目を見開くと、非礼を詫び深々と頭を下げて礼を言った。
「もしや、貴女は今まさに冬将軍と戦って下さっている方のお仲間では?」
「はい! 私達ローレットの仲間なんです!」
 皆さん頼りになるんですよ、と笑ってアレクサンドラは再び駆けだした。少しでも多くの命を助けるために。

成否

成功


第2章 第5節

マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫

「とんでもない世界に来ちゃったね!早速救助活動にかかろうか!」
 木の棒片手に凛々しく宣言すると『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685) は雪の中を歩きだした。
「おーい!生きている者はいるか!?」
 大声で確認しながら、片端から木の棒を雪にさして雪下に声が出せない救助者が居ないか確認する。やっていることはシンプルであるが、その動きは素早い。
 声に反応があればすぐさま駆け寄って救助し、反応がなくとも要救助者がいない場所を特定する。
 目印に乏しい雪上でマリアが大量に開けた穴は「探さなくても良い地点」と後続ににも分かりやすい。
 マリアは元々軍人である。「国民は国の宝」と教えられた彼女にとって他の世界の住人であろうとその命が失われようとしていくのを見過ごすことはできない。
「ん?」
 ふと、木の棒の先に氷ではないものに触れた感触が返ってくる。
 表面の雪を蹴り上げようと思案して、その深さの前に首を振った。それではあまりにも時間がかかりすぎる。
「少々派手だが我慢しておくれ!」
 マリアの周囲に紅の雷光が顕現する。ゆっくりと深呼吸して低く構えを取れば、気合一蹴。
 柔らかな表層の雪を吹き飛ばし、更に神速の蹴撃がかき氷よろしく固まりかけた雪を吹き飛ばしていく。
「よく頑張ったね!」
 そして、狙い余さずぴたりと雪の下に倒れていた少女を掘り出すと、マリアは笑顔で冷え切った体を抱きしめたのだった。

成否

成功


第2章 第6節

日車・迅(p3p007500)
疾風迅狼
エルシア・クレンオータ(p3p008209)
自然を想う心

 凍り付いた世界の中でただ祈りを捧げる少女が居た。
 己の無力さを自覚し、強大な冬という滅びの概念の前に慄き、しかしそれでも祈りという己に科した「出来る事」を放り出さない少女が居た。
 戦場に立つ者はだれも彼女の事を認識していない。それはそうだろう。彼女は祈っているだけなのだから。
 ――それでも。彼女を見ている者はいた。
 その背中を見て「出来る事」をもう一度やろうと奮起した者がいた。
 そして、それは一人ではなかった。だから……。

「これより春鳴きをとめ女学院はローレットの方々の援護に入る!!」
 城壁の上から大号令がかかった。
 人気が疎らだった石垣の上には今や多くの弓兵や、投石機の準備をする者がいる。そのほとんどは負傷兵だ。よく見れば投石機も瓦礫で作られた急ごしらえのものだと見て取れるだろう。
 それでも、見も知らぬ他人が援軍に来てくれた、助けてくれたとなれば奮起せぬはハイカラではない。
「矢玉を惜しむな!全て撃ち尽くせ!」
「これは故郷を思い出しますね」
 ぺろりと唇を舐めると先ほどまで飲んでいた甘酒の味がした。戦場も甘酒も、どれも故郷を思い出させるものだ。そして、その故郷で自分の役割がなんだったかといえば……。
「うーん……ようし、死のうか」
 『何事も一歩から』日車・迅(p3p007500)はあっさりと結論付けた。
 迅は兵である。お国の為に戦って散るのが是であると叩き込まれて生きてきた。どうせ散るなら前のめりとも。
「ふっ……」
 鋭く息を吐いて加速していく迅は正しく弾丸だ。行って帰って、決して戻ってこない。
 あっという間に肉薄した迅は、八閃拳の中でも秘奥たる死門の構えを取り駆け抜ける勢いのまま殴りつける。殴りつける。殴りつける。
 一番強いのはこの拳だとばかりに殴りつけて――耳をつんざくような悲鳴。
 他の戦場のイレギュラーズも総攻撃を開始したらしい。あの巨大な冬将軍が、苦しみ悶えている。
 犬の様に激しく息を吐いて、それから迅は再び拳を握り、目の前に巨大な骨の手を見た。
 嫌な音を立てたのは己の頭蓋か、それともほかの場所なのかは分からない。ただ、駄々をこねるように周囲を殴りつける冬将軍の姿を見て「こんなのに負けるのは厭だな」と思った。
「ま、だ、ま、だぁ……!!」
 開きかけていた拳を握る。真っ赤に染まった視界の向こう冬将軍を睨みつける。
 振りかぶった一撃は、鳳を堕とす鉄拳――。

 イレギュラーズ達の猛攻を受け、ついに冬将軍は倒れ伏した。
 その姿はゆっくりと溶けていき、比例して空を厚く覆っていた雲が晴れる。
 魂までも凍てつかせる吹雪の代わりに、降り注ぐのは暖かな春の日差しだった。
 戦勝に沸く人々の中、静かに凍てついていた『自然を想う心』エルシア・クレンオータ(p3p008209) の肩にそっと羽織がかけられる。
 彼女も戦っていたのだと、そう感じた誰かの手で。

成否

成功

状態異常
日車・迅(p3p007500)[重傷]
疾風迅狼

PAGETOPPAGEBOTTOM