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シナリオ詳細

<高襟血風録>春なき地の乙女

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●春鳴をとめ女学院
 この世界において「女学院」「女学校」という言葉には二つの意味がある。
 一つは言葉の通り「女子を対象とした学び舎」という意味。
 もう一つは、伝統的に女性が士族階級を担うハイカラ族の要塞という意味だ。
 かつて、人間とハイカラが領地を巡って争っていた際に女ばかりの陣営を見て「まるで女学園の様だ」と揶揄したのが始まりであるが、当のハイカラ達はすんなりと受け入れた。
 戦場は学びの場である。
 生きる振る舞い、殺す振る舞い、平時には学べぬことを先達から拝する貴重な場であるのならば、女学校、女学院と呼ぶのがむしろ正しい。
 故に、人間とハイカラが和睦した後も、そう呼ぶ習慣が残っている。

 その女学院の極北。春鳴をとめ女学院(はるなきおとめじょがくいん)。
「申し上げます」
 ヱリカは床に額を擦り付けんばかりに首を垂れていた。
 周囲を囲むのはいずれも女学院を指揮する立場にある女傑達である。その全員がヱリカの様子を苦い表情で注視している。
「冬将軍です」
 ヒュウッと誰かが息を飲む音がした。
「千鳥隊は隊長以下、全員冬将軍の足止めを敢行されました。
 自分のみ、皆様方にこれをお伝えするため参った次第です」
「災来(さいくる)のヱリカ。
 なるほど、災いと同じ様にあらゆる悪路にも決して脚を取られぬお前ならばこそ、我々に戦の準備を行う間が生まれるというわけか」
 ヱリカは今度こそ床に額を擦り付けた。ヱリカは昔から足が早かった。雪の上でも、湿地でも速度を落とさずに走り続けることができた。
 何故皆同じようにできぬのか不思議でそれを優越に思ったこともあったが……一体それがなんだというのか。
 自分が逃げる間を稼ぐために皆死んだのだ。
 足止め等と言ったが実質は特攻である。冬将軍に遅滞戦術は通らぬ。皆がヱリカに背を向けてーーそこまで思い出してぐっと歯を食いしめた。
「兵はどれだけ集められる?」
「冬の間戦い通しで皆疲弊しております。十全に戦える者は……」
「では、この女学院を放棄して南に下がるのは……」
「ならぬ、ここが抜かれれば冬将軍は春の気を喰らいて冷夏になる。
 そうすれば損害は北部だけでなく中原に及び、南の蛮カラ共の戦線にまで影響を及ぼそう」
 ヱリカの頭の上で進んでいた軍議がピタリと止んだ。
「戦える者を全てこの女学院に集めよ。此処が決戦の場である」
 場の最も奥に座していた乙女はそう宣言すると、ゆっくりとヱリカへと歩み寄り跪いた。
「ヱリカよ、大義であった。お前には引き続き別の命を下す」
 この乙女こそが女学院の総司令たる院長、その命となれば末端たるヱリカに拒否権はない。
「自分も戦えます。皆と一緒に戦えます」
 それでも、その先の言葉を予想すれば言わずには居れなかった。
 上官の言葉を遮る無礼に対して返されたのは優しく肩を撫でる掌と。
「南の女学院にこれを伝え、援軍の要請を行うのです」
 無常なる言葉。

●冬と戦う乙女達
「高襟血風録の世界で一番の脅威は季節なんだ」
 イレギュラーズを前にしてカストルはそう切り出した。
「過度に凝った冬や夏の概念、そういうものがモンスターとなって襲ってくる……と考えてもらうのが一番簡単かな。向こうでの呼び名は色々あるようだけれど。
 うん、冬将軍っていうのもその中のひとつさ。
 停滞、孤独、飢え、寒さ……冬の悪い面ばかりが凝り固まって生まれた超大型のモンスター。
 形は嵐を纏った巨大な骸骨を想像して貰えばいい」
 もう春なのに、と誰かが呟いた。
 その呟きにカストルはそうだね、と頷いた。
「君たちにこれから行ってもらう場所は、この世界で最も春が遅くくる場所。
 つまりは最も長い期間、冬が生み出す脅威と戦う場所なんだ。
 誰もが疲弊しきってるけど、目前の春を待ちながら必死に戦っている。
 ……だからどうか、助けてあげてくれないかな」

●それはまるで英雄の様な
 走って走って走って、決して後ろを振り返らない様に走って。
 金切り声をあげる北風よりも早く、足をからめとろうとする豪雪も振り切って宙に浮かぶ様にして駆けた。
 南は遠い。急いでも急いでも尚足りぬ。
 ヱリカの足でこうなのに、果たして南から進軍するのにどれだけの時間が掛かろうか。
 全ては無駄な行いではないのか。
 己の心こそが何よりも足を鈍らせる。縺らせる。
 つんのめって泥混じりの雪の中に倒れ込んだ己の無様に体を震わせながらヱリカは立ち上がろうとして。
 ふ、と、目の前に手が差し伸べられていることに気付いた。
 面食らってあたりを見回せばいつのまにか周りには幾人かの人がいる。
 何者か想像しようにもそれぞれ違う意匠の武装を身に纏いまるで統一感がない。
 ただ皆、ヱリカの来た方へと歩みを進めている。冬将軍が纏う黒い嵐の向こう側を見ている。
 それを見て理解した。このどこから来たかもわからない人達は、あの冬将軍を討ちに来たのだと。
 縁もゆかりもない我々の為に、まるで英雄の様に。

NMコメント

 まだ春は終わらせない!!!言子です!!
 高襟血風録シリーズですが、前後の状況はシナリオごとに独立しているので前作を知らない方でも是非ご参加ください。

●一章成功条件
 冬将軍が纏う嵐の突破

 一章目ではまず冬将軍に接敵する為に冬将軍が纏っている嵐を突破していただきます。
 猛吹雪に落雷が物理的に足止めしてきますがそれほど長い区間でないので強行突破も可能でしょう。
 ただし、この空間は人の孤独や、飢え、寒さ、そして停滞にまつわる嫌な記憶を引き出して嵐の中を迷わせる性質があります。
 暗い思いを跳ね除ける工夫や意志の強さが必要になるでしょう。

●二章成功条件
 冬将軍の討伐

 巨大な骸骨型の敵である冬将軍の討伐を果たしてください。
 戦う他にも、後方で傷ついたハイカラ達を癒すことで戦死者を減らす選択肢もあります。

●NPC
 ヱリカ
 ハイカラの伝令の少女。
 申し出があれば一緒に戦います。

※過去作の<高襟血風録>に出てくるヱリカと同一人物ですが、このシナリオは過去のシナリオよりも前の時間軸になるので過去のシナリオで知り合っていてもヱリカにとっては初対面になります。


それでは、皆様のご参加をお待ちしております。

  • <高襟血風録>春なき地の乙女完了
  • NM名七志野言子
  • 種別ラリー(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年05月09日 14時18分
  • 章数2章
  • 総採用数18人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

秋宮・史之(p3p002233)
女王忠節

●吶喊
 黒嵐の中に足を踏み入れれば、そこで待っていたのは痛みの洗礼であった。
 だがそれは越えられる。
 秋宮・史之(p3p002233)が口の中で唄を口ずさめば、聖なる音階がたちどころに傷を癒し、新たな足跡を刻む。
 然し史之が見据えるのは暗く冷たい道ではない。
 赤い瞳が捉えるのは過去の自分自身。余り物だった自分の姿。
 「不必要」な長男、秋宮の家に生まれた夏生まれ。生まれながらのあぶれ者。
 一族の中で宙に浮かんだ孤独感を幼い史之は消化しきれずに、「必要」とされて生まれてきた妹を恨んだ。
 何も知らずにベビーベッドの中で眠る妹の姿は自分に与えられなかった幸福の全てを享受するようで、直視すれば冬の嵐よりも冷たい感情が湧き上がる。
 ただ手にしたカッターナイフを握りしめてーー。
「I was born to the world」
 史之は幼い日の幻影をそっと後ろから抱きしめた。
 優しく頭を撫で、そっと握り締めたカッターナイフを下させる。
「生まれてくる時は神の子だって受け身
 運命を選べるわけじゃない」
 そう、史之はもう理解している。この苦しみを、痛みを脱する方法を。
「ならば
 I'm glad that I was born in this world
 そう言える日まで進むよ」
 幼い自分の幻影が消える。過去の痛みは史之を停滞させるに及ばない。
 積み重ねてきた今は、たった一瞬を切り取った過去では阻めない。

成否

成功


第1章 第2節

春宮・日向(p3p007910)
春雷の
夏宮・千尋(p3p007911)
千里の道も一歩から

「うはははは! ちょー寒い、わらけてくるー!」
 吹き付ける寒風を『春雷の』春宮・日向(p3p007910)の甲高い声が裂く。
「寒すぎるとテンションあがるよねーちっひー」
「……やかましい」
 口を開ければ喉が凍りつきそうな気温の中でも、むしろその逆境を楽しむ様な日向とは対照的に『千里の道も一歩から』夏宮・千尋(p3p007911)の声は苦い。
 凍り付いて張り付く前髪を払い、千尋は陰鬱な目を正面に向けた。
 暗い。
 厚い雲は太陽を遮り、遍く日の光がもたらす恵みの全てを遮っている様だ。
「ここは戦場だぞ。もう少し緊張しろ」
 逆風に体を丸くしながらにじり進む千尋とは対照的に日向は飄々として笑う。
「そっかー夏生まれにこの寒さは厳しーかー」
 その様子はまるで猛吹雪の中ではなく春風の中にいる様に朗らかに響いた。

(冬は新たな一年が生まれいづる神聖な季節だ。汚すことは許さん。だが、冷えるな……)
 千尋は寒さから身を守る様に身を縮めて一歩、また一歩と進む。
 耳元では轟々と風の音が喧しい。先ほどまで聞こえていた日向の声も遠く、進んでいるのか迷っているのかも判然としない。
(ああ、混沌へ呼ばれたこと以上の悪夢があろうか)
 寒さが滲み入るように千尋の心の中にその様な思いが生まれる。
 混沌肯定によって鍛え上げた力を失った自分自身ほど情けないものはなかった。
 元の世界に居た時に感じていた祭神の加護、次期当主たらんと磨き上げた力は全て溶け消えて、残されたのはかつて修行についていけなかった……否、それ以下の自分。
 再び力を取り戻そうと倒れるまで修行したところで手応えはない。
 永遠に同じ場所で、過去の自分の背を見ながら足踏みしている千尋はーー。
(私はここまでなのか?)
 そして、耳元で稲妻の声を聞いた。

「冬将軍? この日向さんの敵じゃないしー、なんたってあーしは春雷だし?」
 雪の中に現れた母の顔をした幻を間髪入れずに張り倒しながら日向は笑った。
 記憶の中の母と違い、一撃入れれば溶け消える幻はバトルジャンキーの日向には期待外れだったが、的当てと思えばそれなりだ。
 迷路みたいな家系図を殴り、沢山居る父親の虚像を殴り、そして最後にやはり母を殴る。
 日向とて15の少女だ。
 可愛いお嫁さんと温かい家庭(バトル上等な)という夢と現実の自分の家族に悩みもする。
「でも冬を越さなけりゃ春は来ないんだよん」
 春宮の彼女はよくよく心得ていた。
 この寒さの先にこそ温かい季節がやってくるのだ。
「ねーちっひー! おっ、ヤバい予感! 殴っとこ!」
「何をするかこの馬鹿者!」
 急に殴りかかかってきた日向を反射的に殴り返して千尋ははたと正気に帰る。
 胸の中に凝っていた陰鬱な気持ちがさっぱり消えているのだ。
「……礼は言わんぞ」
 ふいっと顔を背ける千尋に日向はにひひと笑った。

成否

成功


第1章 第3節

日車・迅(p3p007500)
何事も一歩から

「おぉ、ヱリカ殿。どうされました?」
 『何事も一歩から』日車・迅(p3p007500)は以前会った時のように、ヱリカに語りかけた。ヱリカの姿は自分の記憶にあるものよりも幼く、きっとまだ自分の事など知りもしないだろうが関係ない。
「……どうやら走り疲れたご様子。暫しここで休まれると良いでしょう」
 驚きと混乱で二の句を告げないヱリカに背を向けると迅は遠くに見える嵐、その向こうに控える冬将軍を見据え。
「なに、後ろの嵐はお気になさいませんよう。すぐに砕いて参ります!」
 獣の如く駆け出した。

 雹が降る、吹雪が裂く、稲妻が走る。
 その中を迅は猛然と駆けていた、雹を払い除け、吹雪を踏み越えて、稲妻を蹴り飛ばす。
 寒さは情け容赦なく体力を奪っていくが、それでいて尚迅の体は熱っていた。
 迅にとって冬の記憶といえば飢えと寒さである。
 僅かな国土しか持たない故郷は貧しく、冬は尚更に厳しい季節であった。しかし、そのような環境にあればこそ「座して死を待つ」などあり得ぬ話だ。
「鳳圏の操典に退却の二字などありません! 何が阻もうと必ず駆け抜けてみせましょう!」
 心身を蝕もうとする冬の概念を食い破り、迅は駆け抜ける。
 一歩、また一歩、敵をその間合いに入れる為に、ただひたすら前に。

成否

成功


第1章 第4節

ヨハン=レーム(p3p001117)
ステンレス缶

(えええ、なんですかこの世界)
 境界案内人の説明を聞いた瞬間に『脳筋名医』ヨハン=レーム(p3p001117)の頭に浮かんだのは大きな戸惑いだ。
 しかし、それも現場につけばすぐに雲散霧消した。
 故郷ゼシュテルを思わせる厳しい寒さ、絶望と希望を半々に瞳に宿す泥だらけの少女。
 ヨハンは決して争いを好む性質ではない。しかし、傷付く人々に背を向けられるかと言えば否だ。
 己が行かねば助けられぬのだと承知した時、自然と足は渦巻く黒嵐の方へと駆け出していた。

「人の命がかかっているんです、こんな吹雪が何だと言うんだ!」
 吹雪に負けじと叫び、ヨハンは凍てつく嵐の中を行く。鉄騎種の強靭な体と強さを尊ぶ故郷の育んだ精神が時に心さえも侵す冷気を跳ね除ける。
 そうして一体どれだけ進んだだろうか。次第に顔を打つ氷の礫が止み、風が緩くなる。
 抜け出たか、と一息ついた時、なにかぐにり、としたものを踏みつけた。
「うわあ!?」
 慌てて足を退けてみれば雪の間から白い女の腕が出ているではないか。
「大丈夫ですか!」
 息を飲んだのも一瞬、急ぎ雪から掻き出しミリアドハーモニクスによって己の活力を分け与える。
 女の体は冷たく、しかし混濁しつつも意識は辛うじてあるようで譫言のように繰り返し何かを言っている。
「わかりました」
 口元に耳を寄せるとヨハンは頷き、女性を肩に背負って歩き出す。「みんなをたすけて」彼女はそう言っていた。

成否

成功


第1章 第5節

コゼット(p3p002755)
ひだまりうさぎ

 豊かな銀色の髪が極寒の地に舞う。
 『ひだまりうさぎ』コゼット(p3p002755)は身を低くして吹雪をやり過ごしながら進んでいた。ともすれば体が沈みそうになる雪原で地を舐めるような雷を跳ね飛んで避けるのは苦労するがコゼットにとって出来ないことではない。
 コゼットの耳はギフトによりこの地に満ちる悪意をノイズとして捉えている。
 この嵐が自然現象ではなくある程度意思を持った存在で、尚且つ悪意の起伏を感じ取れば光速の攻撃だろうと予測が立つ。
 しかしーー。
 コゼットを苦しめるのは環境ではない。過去だ。
 悪意ある冷気が心にまで絡みつき、思い出したくもない過去を掘り返してくる。
(うん……嫌な事を思い出す、寒さと嵐だね)
 じくりと、首や手首が疼いた。
 運命特異座標として召喚を受けるまでコゼットは温かな繋がりを得られなかった。与えられるのは冷たい枷ばかり。いつだって寒くて、お腹が空いて……。
 もういっそ死んじゃおうかな。
 かつて自分の中に確かにあった生々しい感情が胸の中にじくじくと痛みを持って染み渡っていく。
(でも……)
 コゼットは胸の前で小さく拳を作る。
(だからこそ、もうお腹は空いてない、あったかい服もある、もうどこも痛くない)
 正面から嵐の先を見据える。ノイズを放つ巨大な影を睨む。
(なにより、頼れて信用できる仲間がいる、生きたいって思える)
 だからーーコゼットは駆けた。今ある幸せを守る為に。

成否

成功


第1章 第6節

長月・イナリ(p3p008096)
狐です
アレクサンドラ・スターレット(p3p008233)

 暗い吹雪の中を金色の小狐が風に逆らい前進していた。
 太陽の元にあればさぞ煌めいて見えるであろう被毛は霜を纏って、小さな体は今にも暴風に吹き飛ばされんばかりだ。
 しかしそれでも『新米の稲荷様』長月・イナリ(p3p008096)の胸に灯った使命感の炎を消すことは叶わない。
(冬将軍……五穀豊穣の穀物神である稲荷神の使いとしては見過ごせない敵ね。
 行くわよ、冬なんてぶっ飛ばして上げるわ!)
 心の隙間に潜り込もうとする冷気が蠢くのを感じたが、結びつくべき凍える記憶が存在しないイナリでは上手く像が結べないらしい。
 ただ胸の奥には原因不明の不安、焦燥感が募るばかりだ。
(もっと早く前に進まなきゃ……)
 小さな体躯は風を受け流すのには優れていても一歩がとても小さい。
「おや、お困りですか?」
 そんな時だった。イナリの頭の上に軽やかな声が降ってきたのは。
「だ、誰!?」
「これは失礼、私は『運び屋サンディ』。今日だけ特別、配送料無料サービス中ですよ!」
 現れた馬。アレクサンドラ・スターレット(p3p008233)を仰ぎ見たイナリはぽかんと口を開けた。

「この運び屋家業、基本は一人旅で野営する機会も多いですから。
 暗い夜には怖いくらい孤独を感じることもあるんですよ」
 雪上であるというのにアレクサンドラの脚力といえば全く衰えることはなかった。蹄は凍りついた大地を確と捉え、吹雪を切り裂いて駆け抜ける。
「あら、でも今は私がいるのだわ」
「ええ、とても頼もしい。
 それに届け物を待っている人がいるのです。
 笑顔と、感謝。それとお金のためなら!
 足を止めたり、迷っている暇はありませんとも!」
 背中にあるイナリの温かな重みを感じながら、アレクサンドラは胸の中に忍び込もうとしていた悪意ある冷気の呪縛を振り払う。
 そもそも今は孤独な配達中ではない。背中にはイナリがいる、そして今は見えなくてもこの吹雪の中で目的を同じくして進んでいる仲間がいる。
「私自身に過去の記憶は無いけどーーでも、ここがなんとなく昔思ったことを思い出させてるだけなのはわかるわ」
 振り落とされない様にアレクサンドラの体にしがみつきながらイナリは前を見る。
 闇の黒と、雪の白、そして迫り来るは閃光。
「過去は変えられない、だからそれを踏み台にして今を生きる人達を救う、全員は無理だけど、少しでも救って見せる!」
 二人を飲み込もうとする雷撃に飛びのこうとして自らの背の上で莫大な熱量が編み上げられている事に気付き、アレクサンドラはむしろ正面を睨んで加速した。
「過去が今に口出ししないで!」
 放たれるは異界の神の力の一端。膨大な熱量を誇る光の筋は稲妻を押し除けて爆発する。
 それは周囲を覆っていた暗雲に穴を開けてーー、そして二人は見た。
 嵐の中心地、極北、春の最終配達地。
 冬の概念に取り付かれ今まさに滅びようとしている城砦を。

成否

成功

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