シナリオ詳細
<Breaking Blue>サメと、ウサギと
オープニング
●いざ、後半の海へ
中継地、アクエリア島――後半の海域へ向かう為の橋頭保を手に入れた海洋王国とイレギュラーズ達は、絶望の青のさらなる深部へと突入する。
海洋王国、そしてイレギュラーズ達には、一刻の猶予もなかった。絶望の海に漂う廃滅の病、『廃滅病(アルバニア・シンドローム)』が、彼らの身を蝕んでいたからだ。
この病を克服するためには、冠位魔種アルバニアの討伐が不可欠――だが、放っておけば相手が死ぬという病をまき散らした元凶は、当然のごとく姿をくらまし、我々の前に姿を現さない。
となれば――なすべきことはただ一つ。
アルバニアの最も嫌う手段で、アルバニアを引きずり出す。此方はただひたすらに、絶望の青の踏破を目指すのだ。
絶望の青の踏破は、アルバニアの最も忌むべき事態である。なればその踏破を目指せば、必然、アルバニアも妨害のために姿を現すはずである。
もとより、絶望の青の踏破は海洋王国にとっても悲願。ありとあらゆる利害の一致が、絶望の青進撃の燃料となっていたのである――。
●海と、サメと、ウサギと、
絶望の青、その後半海域は過酷である。前半海域ですら熟練の船乗りの腕が必要であったほどだが、後半となれば前半の海域以上に荒れ狂う海や異常現象が船の行く手を阻み、ベテランの船乗りの繊細な技術があってようやく航行が可能になるのだ。
そんな、おっかなびっくりの――しかし勇敢な行軍がしばし過ぎたころ。
「……ん? なんだ、あの船……?」
甲板に立つ見張りが、声をあげる。視線の先には、海にも負けぬ青さの、巨大な船があったのだ。
つるりとした外見。背に見える巨大な帆。奇怪だが、確かにそれは船のように見えていた――こちらへ近づくまでは。
「ちがう、船じゃない……ありゃあ、鮫だ!」
見張り番が叫ぶ。そう、それは、一匹の巨大な鮫だったのだ。つるりとした外見は当然ながら、帆に見えたそれは、巨大な鮫の背びれであったのだ。
うろたえる船員達――だが、サメは悠々と海原を泳ぎながら、此方へと接近してくる。わずかな間の後に、接触。ぐらり、と船が揺れ、甲板から鮫の背中が見える――途端、その背中が無数の四角に、裂けた! 見れば、その四角の一つ一つに円形の穴が開いており、例えるなら、ミサイルの発射口のようである! そこから顔をのぞかせるのは、白く、毛玉のような、巨大な何かであった。
ぼん、と言う音と共に、発射口から何かが発射される。それは、長い二つの耳を持つ、白い毛玉――。
「ウサギ?」
それが、船員の最期の言葉となった。ウサギはその耳をプロペラのように回転させると、船員へと襲い掛かり、その首を無残にも斬り飛ばしたのである!
「ぴょんぴょん! ぴょんぴょん!」
「ぴょんぴょん! ぴょんぴょん!」
奇怪な声をあげながら、ウサギたちが飛び回る。そのプロペラのような耳を用いて、人を、船を、切り刻んで回る!
「ま、まずい、船が……!」
ウサギたちの攻撃の合間にも、巨大な鮫は、そのヒレで船を切り刻まんと接触を仕掛ける! 瞬く間に船は、絶望の青の藻屑と消えていったのである――。
●サメと、ウサギと、イレギュラーズと
「……と言うのが、生存者の報告です」
海洋船の船長が告げた。
イレギュラーズ達は、海洋の船に乗り、一路絶望の海、後半海域を目指す。
その目的地は、件の鮫が回遊していると思わしき海域だ。
狂王種、仮称『シャーク&ラビット』。船並みの巨体の『鮫』と、背中に搭載した無数の『兎』からなる、共生タイプの狂王種。
海洋の船を沈めた狂王種は、今も付近の海域を回遊しており、海域の安全確保のためにも、これの討伐が急務とされていた。
そこで、イレギュラーズへと話が飛び込んできた、という訳だ。
イレギュラーズ達を乗せた海洋船は、今まさに、件の海域へとその足を踏み入れた。そしてすぐに、姿を現すのは、巨大な青い船――いや、サメ。
「出ましたね……イレギュラーズさん、討伐を頼みます!」
船員達にも戦闘配置につかせつつ、船長はイレギュラーズ達へと声をかける。
果たして、絶望の海域における戦いが、始まろうとしていた。
- <Breaking Blue>サメと、ウサギと完了
- GM名洗井落雲
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年05月06日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●イレギュラーズと、ウサギと、サメと
ばたたたた、ばたたた!
それは、聞くものが聞いたら、さながらヘリコプターのローター音にも聞こえただろうか。
空を飛び交う、無数の白いプロペラ――耳を回転させる長毛種のウサギがあげるその音は、今この海を行く我々にとっては、恐怖の響きとなっていた。
「ぴょんぴょん! ぴょんぴょん!」
奇妙な鳴き声と共に、ウサギが降下してくる――高速回転する耳は、それだけで鋭い刃と化して、船員達を、船の甲板を、切り裂き、傷つける。
「ウサギと、サメのコンビ……こいつか! 仮称『シャーク&ラビット』……!」
ノートをまくりながら声をあげるのは、『特異運命座標』羽住・利一(p3p007934)だ。急ごしらえのバリケードから頭をあげると、降下してきたウサギの刃ががりがりとバリケードを削った。再びとっさにバリケードの影に隠れる。
「本体はサメ、と言っても問題はなさそうだね……サメからエネルギーをもらって、ウサギは生きている」
「倒すべきはサメですか……でも、このウサギを無視することは出来ませんよ?」
『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)が声をあげる。当のサメはと言えば、ゴリゴリと船体に向けて攻撃を仕掛けてきているようで、時折船が大きく揺れた。サメだけに攻撃を集中できればいいが、そうなれば船上を飛び回るウサギに、船を荒らされかねない。
「まずは急がば回れ……船の上を飛び回っているウサギを減らしましょう」
「いいね。でも、サメをフリーにするわけにはいかないよね?」
『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)が声をあげる。船上を持続して攻撃し続けているのはおよそ八匹のウサギ。残りのウサギは息切れが激しいのか、攻撃後即離脱し、サメの背中へと戻ってしまっているようだ。とにかくこの八匹のウサギは処理しておきたいが、サメをフリーにしてしまっていては、海中から船を攻撃され、船が沈みかねない。
「チームを分けよう。サイショはサメの抑えに負担をシイルことになるけど」
イグナートの言葉に、仲間達は頷く。「ならば」と声をあげたのは、『特異運命座標』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)だ。
「俺が立候補しよう。水中での活動には、ある程度慣れているからな」
「ブドウもあるし、ボクもサメを抑えるよ!」
懐からブドウの粒を取り出して、『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)が言う。ぱくり、と口に放り込むと、さわやかな甘みが口中に広がり、同時に不思議な力が身体を駆け巡った――水中で活動しやすくなるように。
「では、お願いします。なるべく早くウサギを減らして、そちらに援護を送りますから」
『Tender Hound』弓削 鶫(p3p002685)の言葉に、ベネディクトと焔が頷いた。
「よし、道筋は見えた……女王陛下の大号令を邪魔するなら、沈んでもらうよ……!」
ネクタイピン――そこにあしらわれたサンゴに手を触れて、『大号令の体現者』秋宮・史之(p3p002233)は精神を集中するように瞳を閉じた。深く息を吸い込んで、目を見開く。
「行こう、皆。この絶望の海を、希望の青へと変えてやるんだ」
その言葉に、イレギュラーズ達は頷いて、一気に立ち上がった。バリケードを飛び出して、一気に船上、そのただなかへと駆けだす。
「上は頼む!」
ベネディクトが叫び、
「早く来ないと、先にサメさんをやっつけちゃうからね!」
焔が笑い、海へと飛び込む。
船上へと飛び出してきたイレギュラーズ達に気づいたのか、八匹のウサギがばたた、ばたた、と耳を回転させて迫りくる――その様子を見て、『虹を齧って歩こう』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)はにこりと笑った。
「さあ、Step on it!! 可愛くても容赦しませんよ!」
ウィズィが恋人を抱きしめるように、己が身体を右腕で抱いた。左手は、左眼を隠し。右眼をうっすらと開けば、妖しく、優しく、甘やかに――輝く。
魔眼を用いる準備、戦闘態勢に入った合図。仲間達も応じるように、各々の武器を構える。
ばたた、ばたた。ぴょんぴょん! ぴょんぴょん! プロペラの音と奇妙な鳴き声が響く中、船上での戦いは幕を開けた。
●イレギュラーズと、ウサギと
「ぴょんぴょん! ぴょんぴょん!」
鳴き声をあげながら、ウサギたちが迫る――ばたた! ばたた! 鳴る耳の回転音は、死神の鎌が振るわれるそれと同義である。
振るわれる耳(やいば)が、イレギュラーズ達の身体を傷つける。それは、下手な刃物などよりはずっと鋭い。
「まるで、ミサイル艦と戦闘ドローンの合わせ技ですね。非常に厄介極まりない……!」
迫るウサギを振り払いつつ、鶫が声をあげる。果たしてこの相乗効果は狙ったうえでの共生関係であろうか。まったく、狂王種と言うのは奇怪なものだ。
「短期決戦で決めましょう! 私が敵を引き付けます!」
利香が声をあげて、ウサギたちへと立ちはだかり――くすりと笑う。とろりとした瞳、蠱惑的な唇。たとえ奇妙な生物だろうと、その『魅了』からは逃れられない――!
「ウサギさん、遊びましょう!」
ウィンク一つ。放たれる衝撃――魅惑の魔法。宙を舞うウサギたちが、一斉に利香へと迫る――!
「この船にある魔眼は一つでないですよ! さぁさぁ、喰らえ、私の――恋の魔眼!」
そのウサギたちをまとめて『視る』のは、ウィズィの魔眼だ。蒼の燐光が右目からほの明るく燃え上がり、噴き上がる光の柱が、次々とウサギたちを討ち貫いていく。
ばたた、ばたたた、二つの恋の魔眼に弄ばれた、ウサギたちが幻惑されたように空を舞う。
「逃げ足に自信があるようだが、こうも狙われては避けづらいだろっと!」
利一が放つ『歪業』。因果を歪める力が、一体のウサギの内部に注ぎ込まれ、内部から歪んでいく――その力が一気に、破裂するように弾けると、ウサギはこの海から消滅する。
「やっぱり、耐久力自体はないようだね……!」
利一が脳裏で、仕入れた知識をそらんじる――ウサギは確かにすばしっこいが、一度捉えてしまえば撃墜は容易、という事だ。
「こっちの生態系は本当にワカラナイね。見たこともないようなイキモノばかりだ」
イグナートが苦笑するように笑いつつ、その右腕を振りかぶった。乱雑に振り回される――それだけで、凶悪な武器の乱舞による攻撃圏が出来上がる。
その右腕に叩きつけられた一匹のウサギが、甲板へと叩きつけられた。きゅん、と悲鳴を上げて絶命する。
「カモがネギならぬ、サメがウサギ背負ってやってきた、ってね。まぁ、狩られるのはどっちもカワラナイけれど」
ウサギたちと言えば、幻惑されつつも攻撃の手を休めない。万全の状態に比べて攻撃の勢いは落ちたか、しかしその耳(やいば)の鋭さは決して鈍くなったものではない。
加えて、サメから短期的に襲撃を仕掛けてくるウサギの群れもまた脅威だった。船員達は、イレギュラーズ達の策により後ろに下がらさていたため、その被害は少ない。とはいえ、雨あられのように降り注ぐウサギによる攻撃は、決して侮れたものではない。
サメの背中が次々と切り開かれて、ウサギの群れが解き放たれる。ばたた! ばたたた! 激しい耳(プロペラ)の音が鳴り響き、一斉に降下してくるウサギたち!
「やれやれ、こっちの攻撃も厄介だね……射角よし! 起点設定完了! いっけえ!」
振り払われる耳(やいば)を、斥力で次々と弾き飛ばし、史之は、すぅ、と意識を集中。
「お目覚めになられませ祭神よ、御加護を賜りませ」
同時に生み出される聖域が、仲間達の傷を癒していく――史之の支配する領域には、ウサギであろうとも手を出せない。
一方、グレネード弾の炎がウサギを次々と飲み込み、叩き落していく。『縮退霊子加速砲『天羽々矢』』、そのライフルの銃口が輝く――持ち主たる鶫の視線が、ウサギの群れを見据えた。
「たとえどれだけのドローンを投入しようと、その全てを撃ち落とせば無力よ……!」
鶫は、まさにすべてを叩き落すつもりで、そのライフルを掲げる。放たれるのは、『呪詛転写型炸裂弾頭『八塩折』』。毒をはじめとする呪詛を叩き込むグレネードの焔が、雄々しく放たれた。
嵐のような攻撃が退けば、持続型のウサギのみが船上に残される。その数は戦闘開始時に比べて大きく数を減じていた。イレギュラーズ達の奮戦により、次々と撃墜されていったのである。
「クレーン射撃は得意なんだ、任せてくれ……一気に攻め立てるよ!」
利一が叫び、放つ『歪業』の一撃。歪む因果の果てに、ウサギはその身体を消滅させる。
「了解ですっ! 一気に引き付けて――」
利香の放つ、再びの魔眼――妖しく、艶やかに輝くその眼は、しなだれかかる腕のように、ウサギたちを捉えて離さない!
「まとめて、恋に落としてやりますっ!」
両手で体を強く、強く抱きしめて放つ、ウィズィの恋の魔眼。両目が青くほの輝き、次々とウサギたちを撃ち落とした――!
●イレギュラーズと、サメと
一方、水中に飛び込んだベネディクトと焔は、水中を遊弋する巨大な鮫と相対していた。
「流石に俺達二人だけでは倒しきれはすまいが、倒しきる心算で行くぞ!」
ベネディクトの言葉に、
「了解! さぁ、キミの相手はボクたちだ!」
焔が水中を泳ぎながら、その闘気を炎へと変える。その炎に、蒸発した水がぼごぼごと泡をあげて、焔の周囲に漂う。
焔は、その炎を一気に解き放ち、サメへと叩きつけた。巨大な鮫の腹がじりり、と焦げ、船に密着していたサメがゆっくりと引きはがされる。
サメは、ぐん、と身体を揺らすと、焔へ向けてその横腹を叩きつけた。巨体を利用した、逃げ場のないタックル。焔は両手をクロスさせて、そのタックルを防御――水中を尾を引くように、吹き飛ばされる。
「焔……! ちぃっ!」
ベネディクトは焔を庇うようにサメの前に立ちはだかると、左腕の短槍を、サメの腹部へと叩きつけた。きゅい、と耳をつんざくような悲鳴が響き、サメがその身体をよじる。
「焔、無事か!」
後方へと声をかけるベネディクト――ばしゃり、と海をかいて、焔が泳ぎ、やって来る。
「だいじょぶ! でも、さすがに油断ならないね……!」
巨大な鮫は、船への攻撃を諦め、2人をそのターゲットに捉えたようだ。ぐわっ、と身体を旋回させ、真正面から二人目がけて突進してくる。
二人はそれぞれ逆方向に、跳躍するように泳いで別れた。その間を、サメがぐぅ、と泳いでいく。
鋭いひれが、刃のように、二人目がけて繰り出された。二人はその手にした槍を構えて、ヒレを受け止める。その海流に巻かれた様に、2人はその姿勢を崩すが、水中行動能力を持ち合わせる二人は、すぐに態勢を整える。
その二人を追いかけるように、サメは身体をうねらせる。二人は迎撃すべく、各々武器を構えた。
「来い……!」
ベネディクトが呟く――繰り出される、左手の槍。真正面から、サメの顔面を叩きつける。じゅ、と鮫の血が滲み、海に溶ける。
「このおっ、燃えちゃえっ!」
焔の闘気が炎となって、サメへと放たれた。闘気は消えぬ炎となってサメへと纏わりつき、その身体を焼き続ける。
ぎゅお、と鮫が身をよじり、水上へと逃れるその水流に乗る様に、二人も水上へ。水上へと逃れたサメの背中が次々と裂けて、ウサギを船上へと放つのが、二人には見えた。
――が。ウサギは放たれ、船上へと向かう端から、次々と撃ち落とされていく。残されたウサギが攻撃を敢行するも、それらの与える損害は、決して大きいものとはならない。
途端、船上から、海上へとダイブしてくるいくつかの影が見えた――!
「おまたせ! 上は片付いたよ」
史之は海上スレスレを飛行しつつ、二人に告げた。傷ついた二人を、史之はすぐに癒す。
「ダイジョウブかい? さぁ、ここからが本番だ!」
イグナートが笑いかける――果たしてここに本体であるサメの包囲網は形成されたのである。
船上から、次々と放たれる攻撃――巨大なナイフ型のオーラがサメの背中に突き刺さり、ぎゅいい、悲鳴を上げながらサメが身をよじる。
「害獣駆除に毒物は付き物。遠慮なくどうぞ?」
鶫が船上で声をあげる。放たれたグレネードの炎が、サメの背中を走り、その身体を蝕む。
「そうか、よーし!」
焔は得心の言った表情で頷くと、その意識を集中した。途端、その手には炎で作り出された爆弾が出現する。
焔は水上から、その爆弾を放り投げた――サメの背中目がけて。果たして爆弾はサメの背中の真上で爆発し、その炎をサメの背中にまき散らした! サメの背中が次々と裂けて、「ぴょんぴょん! ぴょんぴょん!」悲鳴をあげなら、燃え盛るウサギたちが脱出――だがすぐに、海上へと墜落し、息絶えていく。
「もうひと踏ん張りです! さぁ、この障害を越えて、果てを見ましょう!」
船員達を、そして仲間達を奮い立たせるように、利香が叫んだ。身体を燃やし、身をよじるサメは、確実にその生命力を減じている。
「あと一息だよ! 一気に攻撃を集中させるんだ!」
利一の放つ歪曲の力が、サメの背中を破壊していく。ぎゅおお、サメは悲鳴をあげて潜水――その眼前に立ちはだかっていたのは、イグナートだ!
「そのガンジョウそうな顎、貰ったァ!」
振り上げられる、拳の一撃――がつん、とした衝撃が海中を走り、次の瞬間、すさまじい勢いで、サメの巨体が海上へと放り上げられる! まるで釣り上げられたように、空中でサメがその身体をよじらせた――それを追うように、海上へと跳躍したのはベネディクトだ。
「我々は此処で二の足を踏んでいる訳にはいかない、この先に用があるのでな……!」
ぐっ。その左手に、力を込めて。
「全力で、押し通らせて貰うぞ! 」
手にした短槍を、思い切り――サメの眉間へと叩きつける! ずん、と周囲を揺るがせるような音が響いた。ぐらり、と鮫の眼が白目をむくと、そのままざぶん! 水中へと落下していく。
ややあって、サメはその腹を空へと向けて、ぷかりと浮いてきた。サメはしばし、そのまま浮いていたが、やがて水中へと沈んでいく。その意気が吹き返されることは無く、サメは背に抱えたウサギたちもろとも、水中へと没していったのであった――。
●イレギュラーズと、青い海と
「ふぅ……何とかなったようだな」
タオルで髪の毛を拭きながら、船上で、ベネディクトは声をあげた。
水中へと向かっていたメンバは、すぐに引き上げられた。そのままタオルを渡されて、どうにか水をふき取ろうとしている。
「ふー、ぶるぶるぶる」
猫がそうするように身を震わせて、身体の水滴を払った焔が、髪の毛の先など触りつつ、
「うーん、やっぱり髪がべたべた。シャワーは……次の寄港地につくまで我慢かなぁ」
その言葉に、ベネディクトは苦笑する。
「だろうな……しかし、奇妙な相手だったな。どういう理屈で進化したのか少し気になるが、気にしては駄目なんだろうな……」
「混沌のサメって……まあ、鮫ってのは大概変なものですけれどね」
ウィズィが笑った。これが一般的な混沌人のリアクションである……かもしれない。
「サメ……というか、海の巨大目標はこれで4体目。ええ、いい加減に慣れましたよ?」
肩をすくめつつ、苦笑するのは鶫だ。流石は絶望の青と呼ばれる海域、奇怪な生物は後を絶たない。
「まるで因幡のウサギのような……いえ、因幡のウサギって、こういう話ではなかったですね……」
むぅ、と口元に手をやり、鶫は困ったような顔をする。サメの背中を飛び回ったウサギの話は、旅人のもたらした昔話にあったが、さて、サメの背中に住み着くウサギの話ではなかったはずだ。
「おやすみ、次はもうちょっといいものになって生まれておいで」
史之はささやかに、海へ向けて黙とうをささげた。それは、敵対したとはいえ、同じく意味に生きる命――狂王種たちに捧げての祈りだった。
「――さて、ひとまず船の修理を手伝おうか」
史之の言葉に、頷いたのは利香だ。
「ですね! 船も結構、ダメージは負ってるみたいですから」
あたりを見回しながら、言う。確かに複数回の攻撃によって、船にはそれなりのダメージが蓄積されていた。航海できないほどではないが、修理をしておくにこしたことは無いだろう。
「ささっと直して、航海を続けましょう!」
「うん。これでまた一歩、絶望の青の踏破に近づいたわけだ!」
利一の言葉に、仲間達は頷く。航路の安全の確保は、絶望の青踏破のために必要不可欠なものだ。
「探検家としての血が騒ぐね。さて、この果てに何があるんだろう」
「タノシミだね。念願の、海の果て、か」
イグナートがそう言って、イレギュラーズ達の前へと広がる、青く広い海を見やる。
その海は、未だ謎と不思議を称えながら、イレギュラーズ達の前に広がっていくのであった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
皆様、ご参加ありがとうございました!
皆様の活躍により、海洋の船は狂王種の魔の手から逃れることができました。
この船は絶望の青のさらなる奥へ、皆様を導いた事でしょう。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
絶望の海に現れたサメとウサギ。
共生タイプの狂王種を、撃退してください。
●成功条件
1.海洋船の生存
2.『シャーク&ラビット』の撃破
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●状況
絶望の青、後半海域。そこには、サメとウサギと言う奇妙な共生関係を持った狂王種が回遊していました。
アルバニアら魔種の影響を受け、海洋の船を襲う狂王種。皆さんは、船を守りつつ、この狂王種『シャーク&ラビット』を撃退しなければなりません。
作戦決行時刻は昼。周囲は波も穏やかで、船や海面は安定しているものとします。
●エネミーデータ
『シャーク&ラビット』 ×1
特徴
巨大なサメと、ウサギのような1mサイズの生き物が共生している狂王種です。
ウサギはサメからエネルギーを得ているため、サメが討伐されればウサギも程なく死に絶えます。
サメは至近~近接レンジの物理攻撃を行います。
BSに関しては『飛』属性持ちの攻撃や、『出血』属性持ちの攻撃を行います。
また、『サメに与えるダメージは、海中or海上で戦えば大きくすることができます』。適性の高さによって、ダメージは増えます。
なお、サメは毎ターンの最後に以下の特殊行動を行います。
ウサギ射出
ウサギを射出し、レンジに関係なく船、あるいは船員、あるいは船上にいるイレギュラーズにダメージを与えます。
船上にいるイレギュラーズが多ければ多いほど、この攻撃によるダメージは減少します。(攻撃される前に撃ち落とすイメージです)
ラビット ×8
特徴
サメが射出したウサギです。戦闘開始時に8体が船上に配置されています。
なお、前述のサメの特殊行動『ウサギ射出』では『数は増えません』。
HPは低いですが、反応と回避、機動力が高め。
主に近接レンジの物理攻撃を仕掛けてきます。
BSとして、『出血』を付与する攻撃や、『必殺』属性を持つ攻撃を使用します。
また、『ウサギに与えるダメージは、船上で戦うと大きくすることができます』。
●重要な備考
<Breaking Blue>ではイレギュラーズが『廃滅病』に罹患する場合があります。
『廃滅病』を発症した場合、キャラクターが『死兆』状態となる場合がありますのでご注意下さい。
以上となります。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております。
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