イ＝ルーナクの君の瞳にトゥナイト☆

オープニング

●波に乗る箱
　古ぼけた机の上に、小さな箱が一つ。

「ぴん、ぽん、ぱん、ぽーん！深夜■■時をお知らせします。
というわけで、はい！今夜も始まりました『イ＝ルーナクの君の瞳にトゥナイト☆』！
おいスタッフ今回までにこれ名前変えておけって言ったよな？おい、こっちを見ろ。目ぇ逸してんじゃねぇぞ」

　軽快な声は、その箱から。

「チッまぁいい。次回までに変えておけよマジで。
あーっと、失礼いたしました！ちょっとした手違いがですね。いや、お見苦しいところを聞かせてしまいました！
そんな私を仕方ないなと苦笑しながら見守ってくれる、優しいリスナーの皆さん。私のここ、空いてますよ？
あぁ待って見捨てないで、みんなが居ないと生きていけないの！
はい、場も温まってきましたかね。では今夜のお相手も私、イ＝ルーナクが務めさせていただきます！」

声に重なって、かさりと音が。手紙を広げたかのような。

「それでは早速お便りの方読み上げてまいりましょう！
最初はふつおたのコーナーですねぇ。いまどきふつおたって言うんですかね？普通のお便りって意味ですよ、若いリスナーの皆さん。

ではRN（レィディオネェム）『膝の皿が河童の皿』さんからのお便りです。膝に水が溜まってるんですかね。病院に行ったほうが良いと思いますよ。

『イ＝ルーナクさん、こんばんは』

はい、こんばんはー

『季節の変わり目は病気が流行って大変ですね。僕はまだ平気ですが何時発症するかと思うと気が気でありません』

あー、ホント大変ですよねこの時期。このスタジオもスタッフが一人風邪引いちゃってね。まったく気が弛んどる！
なんてね、ちゃんとお見舞いにフルーツの盛り合わせを贈りましたよ

『昨日はとうとうこの町でも発症者が現れました。みんなが利用しているマーケットの店員です。街のみんなは誰が感染したのか、疑心暗鬼です』

なんか、きな臭くなってきましたね……。

『もう手遅れだと思います。きっとこの街は明日にでも動き回る死体で溢れかえるでしょう』

待って待って待って。

『実を言うと、その感染者は僕の友人でした。先日会ったばかりで、きっと僕にも感染しています。あぁ、嫌だ、あんな化け物になりたくない。なんで、こんなウイルスが急に現れたんだ。せめて、僕の理性が無くなる前に、この手紙がラジオで読まれますように……』

いや重っも！？ていうかどこの世界線からのお便りなのこれ！？
ふつおたのコーナーで読んじゃって良いやつ！？
普通のお便りかこれ！！？！？

いや、落ち着けじゃねぇよ。カンペ出してくんなスタッフ。
ええー、なんかどういう状況なのかわからないし、私にはどうすることもできないけど、そうですね。ハーブとか食べると良いんじゃないかなって思います。
大丈夫？今、読ませてもらったけど理性残ってる？

えーと、はい。次のお便り行きまーす──。」

　箱は声を流し続ける。

●波を聞く人々
「ラジオ、って言うんだ、これ」

境界案内人、カストルはテーブルの上の、先程まで朗々と喋っていた箱を撫でながら語り始める。

「ここは少し変わった世界でね。一軒の屋敷に、このラジオと、手紙を入れるポストだけがあるんだ」

　そう言って部屋の奥を見やる。壁の中ほど、カストルの胸ほどの高さに空いた、横長の穴がその『ポスト』なのであろう。

「手紙を書いて、あのポストに入れるとこのラジオの番組、『イ＝ルーナクの君の瞳にトゥナイト☆』っていうらしいけど。その番組の中で読み上げてもらえる事があるみたいなんだ」

　毎回ってわけじゃないけどね。と、カストル。
　だからこそ読んでもらえたときはちょっと嬉しいんだ。とも。

　さては何回か『お便り』を出しているのか。
　そんなイレギュラーズの視線をふわりと受け流し、カストルは今回の目的を告げる。

「けどね、最近、お便りの量が減ってるってイ＝ルーナクさんが言っていてね。このままだと、番組が終わってしまうかもしれないって」

　少しだけ、その評定を真剣なものにして。

「このラジオが終わってしまうのは、この世界が終わってしまうのと同じこと。どうか、この世界を救うためにラジオにお便りを出してくれないかな？」

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第2章

第2章 第1節

「それではコーナーの方移っていきますよー。
まぁコーナーって言っても、テーマに沿ったお手紙を送ってきてもらって、
それに私が意見を言うだけなんですけどね。

ここだけの話超手探りなの。この番組。
毎回直前になってからテーマ決めますからね、ここ。

スタッフが睨んですので進めますよー。

では今回のテーマは、『無人島に一つだけ持っていくなら？』です。

心理テストかよ。
いや、心理テストかよって言っちゃったけど私心理テストとかできませんからね。
メンタリストとかじゃないんで。

まぁ定番のテーマですよね。
ひねくれたやつが『船』って答えるの。
燃料も持っていけるとは限らないですけどね。

さて、皆さんは何を持っていきたいんでしょうか。
それでは、お便りの方読ませていただきまーす」

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第2章 第2節

「はーい、それでは最初のお便り行きますよぉ！
RN『魔術師キュクレイン』さんからのお便りです。
魔術師さんは無人島にどんな物を持っていくんですかねー」

　魔術師キュクレイン、クーアは盃を傾けながらそれを聞いている。
　酒の肴にラジオを聞くというのも、なかなか乙なものである。

「『無人島。
即ち、誰に迷惑をかけることもかけられることもない、この世で最も開放的な閉鎖空間。
ならば私が持ち込むべきはただ一つ。「燃料」なのです』

ふむふむ、たしかに燃料は大事ですね。
無人島に燃えやすい気があるとも限りませんし、火が焚ければサバイバルも捗りますしね。

『島一面の緑が、丸々炎に包まれる光景とか。人生一度は見てみたいじゃないですか。
それが合法的に、後腐れなく楽しめるチャンスなんて、そうそうないじゃないですか。
無人島ならそれが出来るのです。だからやりたいのです。後始末とか知ったこっちゃないのです』

誰に迷惑をかけることもないってそういうこと！？
なんか不穏な一文が入ってるなぁって思ってたよ！
こんな物騒だとは思わなかったよ！？

そして別に合法ではないからね。
無人島なら誰も見てないからセーフって理論じゃねぇからね。
自然破壊、ダメ絶対。

まぁ火が燃えてるの綺麗って気持ちはわかりますけどね。
だからってキャンプファイアーが派手すぎるんですよ。

というわけでね、魔術師キュクレインさんには焚き火の環境音声とか聞くことをおすすめします」

成否

成功

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第2章 第3節

「では次のお便りでーす。
RN『透明しっぽの人魚姫』さんからです。
素敵なお名前ですね。
詩的なお名前と言っても良いかもしれません。

『そういうものがあれば、の話ですけれど…わたしが持ってゆきたいものは、『海中安全のお守り』、ですの』

ほうほう、なかなか珍しい方向性ですね。

『島に、ひとりぼっちになってしまっても、それがあれば、大きな魚に襲われたり、毒クラゲの触手にひっかかったりせずに、どこへでも泳いでゆけるのですから』

いや、すごいですね。
人魚と言うだけあって泳いで脱出する気満々です。

いやでも確かに人魚なら一気にイージーモードですよ、無人島問題。
島に上陸する必要すらないもん、人魚。

そう考えるとかなり堅実な持ち物ですよ、お守り。
海中の安全が保証されれば脱出するのも食料集めも楽々だもの。
ちなみに許可なく魚を獲って陸に上がると密猟になるけど、上陸せずに海の中で食べちゃえばセーフらしいです。
海中で行動できる方は参考にしてくださいね。

というわけで、あるあるネタに一石を投じてくれた透明しっぽの人魚姫さん、お便りありがとうございました！」

　ちゃぷちゃぷと波が揺れる音に混じってラジオの声が。
　波間に揺れながら、ノリアはそれを聞いている。
　一石を投じたつもりはないけれど、こういう質問に海種が回答するのはちょっと反則だったかなと思いながら。
　それでも、このしっぽの美しさを自慢してみたくなっったのだ。

成否

成功

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第2章 第4節

「では、次のお便り。
RN『黒いシロイルカ』さんからでーす。
白黒はっきりしねぇな」

　三味線の弦の調子を確かめながら、ユゥリアリアはラジオを聞いていた。
　こうして作業の合間に聞き流せるのも、ラジオの魅力の一つだろう。

「『こんばんは、イ＝ルーナクさん。初めて投稿させていただきます』

お、、ありがとうございます。

『『無人島に一つだけ持っていくなら？』というお題ですが、ずばり【時計】です』

お、文明の利器。けど、それだけだと心細くない？

『わたくしも海に棲まう海種の端くれですので脱出を試みると思いますが。
現在位置がわからないと航海計画も建てられませんよね？
方位は星を見ればわかりますし、あとは正確な時刻さえわかれば…ということで、時計を持ち込みたいですね。
無人島なんかで朽ちるつもりはありませんもの、もちろん』

うん。
このコーナーに来たお便りの傾向見て思ったんだけど。
このラジオのリスナーさん、バイタリティ強いな！

こう、生き延びるためにこれだけは！的な持ち物の話をするつもりだったんですよ、私。
みんなその段階じゃないんだよ。
生き延びるのは当然でその先の話を見据えてるんですよ。

私、時計だけ持って無人島に行っても死亡時刻の特定くらいにしか役立てられないもん。
星を見てわかるものはアレが夏の大三角ってだけです。
嘘です。夏の大三角わかりません。

では、世の中すごい人が居るなぁってことで。
お便りありがとうございました！」

成否

成功