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シナリオ詳細

PPPダービー クラナーハ賞・桜花杯

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 あちらこちら、草がのびのびと生える競馬場。
 その人は春風とともに現れた。
 伸びきった芝の上に百花が一斉に咲いたように、辺りが華やぐ。
「こんにちは。あなたが、ローレット競技場の管理運営責任者さん?」
「は、はい。そうです。Pちゃんがこのローレット競技場の管理運営責任者でございます。……あの、何か?」
 その美しい人は、ライラ・クラナーハと名乗った。
「お願いがあるのです。実は――」
  
 

「パンパカ、パ~ン♪」
 突如、ローレットに鳴り響くファイファーレ。
 イレギュラーズたちが何事かと振り返ると、ギルドの片隅で卵のような奇妙な体型をした男が声をあげていた。
「何度も使いまわしたような出だしでございますが、なにをともあれ、クラナーハ家の主催で、ローレット競馬・桜花杯を行うこととなりました!」
 ローレットに依頼を受けに来ていたイレギュラーズの何人かが、興味をそそられて顔をダンプPに向ける。
 数人が、レース出場の詳細を聞きだそうと、ダンプPの傍へやって来た。
「あ、すみません。すでに出場者は決まっているのですよ」
 出場者はダービーの出資者、ライラ・クラナーハ自ら選定し、招待状を送っている。
 そう説明すると、とたん興味を失って、散り始めた。
「あ、あ、待ってください! みなさんに、是非、レースを見に来ていただきたいのですよ。と言いますのも、ただ走るだけのレースではないからです」
 ダンプPは必死になってレースの内容を語り始めた。
 なんでも、馬だけでなくバイクも一緒に走る、異種混合の障害物レースらしい。バトル要素もあるとか、ないとか。
「ただ走るだけでは『バイオレンスが足りない』、巷に広がる憂鬱な気分を吹き飛ばす、ビックイベントにして欲しい、というスポンサーの意向を受け、わたくしローレット競技場の管理運営責任者のダンプPが、コースに様々なトラップを用意いたしました」
 詳細はここに、とダンプPが壁に手作りのポスターを張る。
 どれどれと、ポスターを眺めてるイレギュラーズの目が、ある一点で止まった。
「よくぞ気がつかれました。そーなんですよ。このレース、観客の反応がとーってもたいせつなのでございます。ということで、ぜひぜひ、ローレット競馬場に足をお運びくださいませ!」


 桜色の封筒に、金色の文字。
 届いたばかりの封書の表には、「クラナーハ賞・桜花杯?」と書かれている。
 手首を返して裏を見ると、ローレット競技場とあった。
 首を捻り、レターオープナーで開封する。
 中から出て来たのは、ダービー出場を誘うエントリー状だった。

「仲のいいお友だちで競争し、最速ナンバーワンを決めませんか? 工夫を凝らしたコースで、あなたとパートナーの出走をお待ちしております」

GMコメント

【!依頼内容】
 ・レースに出場し、楽しむ。
 
【!書式】
・1行目:奇数が好き/偶数が好き ……どちらかを選んでください。
 以下、ご自由に。

【!コース】
  1>ゲートオープンから第1ストレート前半 ……ゆるい上り坂、草
    特に何もなし。
  2>第1ストレート後半 ……前1/3が急な下り坂、草
    コースの左右から、ランダムに水鉄砲が撃たれる。
  3>第1コーナー ……フラット、草
    上からタライが落ちてくる。
  4>第2コーナー ……少し登り気味、アスファルト
    特になし。
  5>第2ストレート前半 ……フラット、アスファルト
    PRステージで芸を披露して、観客から『たくさん』花束を貰おう。
  6>第2ストレート後半 ……後1/3が急な登り坂、砂
    特になし。
  7>第4コーナー ……少し登り気味、砂
    木偶人形が突然、飛び出す。
  8>第5コーナー ……フラット、泥
    かなりぬかるんでいるぞ。
  9>最終ストレート前半 ……ゆるい上り坂、砂
    特になし。

※今回、他の選手への妨害OKです。

  • PPPダービー クラナーハ賞・桜花杯完了
  • GM名そうすけ
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年05月03日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アルプス・ローダー(p3p000034)
特異運命座標
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
クラウジア=ジュエリア=ペトロヴァー(p3p006508)
宝石の魔女
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
中野 麻衣(p3p007753)
秒速の女騎士

リプレイ


 ゴォォーン。
 興奮満ちる競馬場に響くのは、『高貴なる番犬』ライラ・クラナーハが、文化保存ギルドの書庫から持ってきた分厚いアルバムの背で、鉄玉子ことダンプPをぶっ叩く音だった。
「障害物レース、しかも妨害アリだなんて……私は純粋にみなさんの走る姿が見たかったのに」
「え、バイオレンスが欲しいって――」
「そんなこと言ってません!」
 ゴォォーン。
 絶対零度の微笑を浮かべ、ライラはスタート台へ向かった。赤い旗を振って、ファンファーレを鳴らしたあとは、放送席に戻って、観戦しながら写真を撮るのだ。
 練達のテレビクルーがダンプPにキューをだした。
<「ぴ、PPPダービーファンのみなさん、こんにちは。超お久しぶりの開催でございます、クラナーハ賞・桜花杯。実況はわたくしローレット競技場の管理運営責任者、ダンプPが勤めます」>
 それでは、と頭をさすりつつ、出走選手の紹介を始めた。
<「一枠、『二輪』アルプス・ローダー(p3p000034)。走るのはアルプス選手自身。乗っている少女はホログラフィーです。
 二枠、『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)。PPPダービーは漆黒の牝馬ラムレイとともに二度目の出場。前回成績は五着でした。
 三枠、『展開式増加装甲』レイリ―=シュタイン(p3p007270)。がっしりとした馬体はさすが軍馬、ムーンリットガールとともにレースに挑みます。
 四枠、ひと際目を惹く白馬ラニオンに乗って『虹を齧って歩こう』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)。初レースながら落ちついています。
 五枠、『茜色の恐怖』天之空・ミーナ(p3p005003)はパカラクダ、大地の雄【砂駆】に騎乗しての出走。やはり二年前のレースに出ております。順位は九着。
 六枠、『緋色の翼と共に』リトル・リリー(p3p000955)も愛馬カヤとともに二度目の出場です。前回はゴール目前で砂駆に抜かれて順位を落としております。
 七枠、春日をうけてキラキラ輝くメタリックボディー、メカ子ロリババアに跨るのは『宝石の魔女』クラウジア=ジュエリア=ペトロヴァー(p3p006508)。
 八枠、『秒速の女騎士』中野 麻衣(p3p007753)。ヤースミールはブリンカー、「遮眼革」をつけて走ります」>
 ライラが赤い旗を振って、ファンファーレが始まった。
 ラスト一小節、メロディーに合わせて歓声と手拍子が空へ駆けあがる。
 大外枠の麻衣とヤースミールが最後にゲートイン。
 出走準備が整った。


(「あとでとっちめてやるわ!」)
 イーリンはゲートの中からスタート台に立つライラを睨みつけた。
 ほかの選手も大なり小なり、胸の内で悪態をついているはずだ。実際、ゲートイン前に馬を回しながら、後で二人を吊るし上げようと話し合っていた。
 このハチャメチャなレース内容の決定には、主催であるライラは一切関与していない。すべてはダンプPの勝手な妄想&暴走のせいなのだが、イーリンたちに知る由はない。
<「さあ、スタート。ゲートが開き――ん? 真っ黒? さっそく誰かが仕掛けたようです。コースを覆うように闇が広がりましたが、各馬キレイに揃って抜け出ております」>
 ゆるく上がる緑のターフを、五頭が並んで駆け上がる。
<「――先頭集団を形成するのは、内からラムレイ、ムーンリットガール、砂駆、カヤ、馬に比べて短い脚をフル回転させるメカ子ロリババア。半馬身差で白の貴婦人ラニオンが追う。わずかに遅れてヤースミール。おっと、アルプス。巨体との接触を恐れてアクセルを開き切れなかったか!? 最後尾だ!」>
 アルプスは、ミーナがゲートを飛び出した瞬間に広げた闇に惑わされ、スタートが遅れたのだった。
 一方、いち早く闇を抜けたイーリンは、先で待ち構える水鉄砲に備え、早々にゴーグルを額から降ろした。さらにローブを目深にかぶって顔をガードする。
 ここまでは絵に描いた通り。先頭集団にしっかり入っている。さて、これからどれだけ順位を落とさず走り切れるか……。
 前方、コース脇に水ホースを脇に抱えた係員の姿を認め、イーリンはラムレイの首を優しく叩いた。
「ラムレイ、行くわよ。一気に抜ける!」
 速度を落とさず、下り坂に突っ込んでいく。
<「ここでターフにエキゾーストミュージックが響く! 鉄の獣が先頭集団の尻に食らいついたぁ!」>
 芝を蹴る蹄の音にエンジン音が追いついた。アルプスだ。
(「スタートダッシュには失敗しましたが、ここから大逃げして勝ちに行く展開に持っていきたいところ!」)
 フルスロットルで馬群を割って、前へ前へと出ていく。
 水に濡れた草の下り坂は、足に負担がかかりすぎる。トラブルの元だ。しっかり地を掴んでいられるうちに抜けなくては。
 あっという間に先頭のイーリンに並んだ。
 コース両脇から撃たれる水鉄砲を、ラムレイの馬体にぶつかって傷つけないよう、華麗なハンドルさばきで避ける。
 ――が、蛇行した分だけ遅れが出た。
 外から追い上げたミーナとリトルが、水を弾き飛ばしながら、イーリンとアルプスを抜く。
 ウィズィと麻衣は、先頭集団から零れまいと、愛馬に気合を入れた。
<「馬群が少しばらけてきました。先頭並んで砂駆とカヤ。刺されたラムレイとアルプスもほぼ同体で二番、あー、白が飛んできた。ラニオンが上がって第二集団に加わった。若干遅れてヤースミール。そのあとムーンリットガール、メカ子ロリババアが続きます」>
 ターフはまだ続く。まもなく最初のコーナーだ。
 リトルはしっかり手綱を握った。目の前に風よけになってくれるライバルはいない。真横にはいるが。
「いちばんまえになっちゃったね」
 前半は様子見、後半から徐々にスピードを上げていくつもりだったが、ここを抜ければ次はアスファルト。馬やパカラクダは足への負担を考えて、どうしてもスピードを落さざるを得ない。距離を稼ぐならいまの内だ。
 隣を見る。
 ミーナと目があった。どうやら同じことを考えていたらしい。
「ねえ、カヤ。このままがんばって、いちばんでまがりきっちゃおうよ」
 背で弾むリトルの体は小さいが、声はちゃんとカヤの耳に届いていた。了解、とばかりに長い首を軽く揺らす。
「それじゃあ、いこっか、カヤ」
 鞭を入れるかわりに、軽く背の上で跳んだ。
 とたん、カヤの体がぐっと砂駆の前に出る。
 リトルは真っ先にトラップゲートの下を通過した。
 カヤがターフを蹴る振動でゲートがぐらつき、上に乗せられていた金タライが次々とコースに落ちる。
<「カヤがゲートを駆け抜けたところでトラップ発動! コントの定番、金タライが無情にも後続に襲い掛かる!」>
「しゃらくさい!」
 リトルを猛追するミーナが、落ちてきた金タライを赤と黒の波動を発して突き飛ばす。
「お先に」
 イーリンがリトルの脇を抜く。
 アルプスはちゃっかり、タライを叩き落しまくるミーナの後ろについてトラップをやり過ごす。
 芝に落ちたタライはイレギュラーに跳ねて、好き勝手にコースを転がった。
 ウィズィが巨大テーブルナイフを高々と掲げる。
「蹴飛ばせラニオン!」
青い空に次々と金タライが蹴りあがられるたびに、観客席が湧いた。
<「さすがイレギュラーズ。この程度のトラップなどへのヘのかっぱだ! 六番手ヤースミール、続いて障害物に強そうなムーンリットガールがこの位置。ちょっと意外。最後はメカ子ロリ……おっと、ここで名前が判明。パイロキシン……え、初めから書かれていた? アイテム欄には……(コホン)、あ~、輝石はいつ輝くのでしょうか!?」>
 ノジャーッ!
 突如、パイロキシンが雄叫び、いや牝叫びを上げた。メカ耳が、ぼんくらダンプPの声を拾ったらしい。
「よし征け、征くのじゃパイロキシン!」
 鋼脚の回転数が上がる。
 ノジャーッと前をゆくムーンリットガールに迫り、抜き去った。
<「光った、光った! 陽の目に当たって輝くメカ子ロリババァ!」>
 第二コーナーに差し掛かって下がアスファルトに代わったことも、順位をあげる要因になった。
 パイロキシンは最後尾から三頭を抜いて五番手に。その後も快進撃は続く。
<「来たぞ、来たぞ、やって来たー! 光の国からパイロキシン、怒涛のごぼう抜きー。カヤを抜いて一番でPRステージに上がった!」>


 クラウジアはパイロキシンに跨ったまま、エレキギターを熱くかき鳴らした。
「近年のイレギュラーズの清楚属性の有名無実化、安易なお色気とぱんつ風潮への警鐘。あとロリババア属性をくらえなのじゃー」
 ナンセンス上等! PBWだもの、ちょっとナンパに寄ってもいいじゃない……と言ってしまえばそれまでだが、花吹雪くステージで中道回帰、正統派ヒーロー像の復権を誓(うた)うクラウジアの勇姿に、つい観客も「のじゃー!」と叫ぶ。
 場内が沸き返る中、ぞくぞくと他の選手たちもステージに上がる。
 イーリンは、目深にかぶっていたローブをさっと脱ぎ捨てて、観客の前に勝負水着姿をさらした。
「貴方の心もトレジャーハント! 頂いていくわ!」
 コーナーを曲がってやってくる恋人の目を気にしてか、ちょっぴり恥じらいながら、強気に言い放つ。それが男たちのハートにぶっ刺さった。
 花束が乱れ飛ぶ。
 麻衣も超きわどい水着姿で小道具を使い、オッサンたちを喜ばせる。
<「こ、これは反則。にんじん、ぺろぺろ攻撃だ! おっぱいにニンジンー! ああ、お客さま。どーか、どーか、観客席の内で踏みとどまってください。競馬は紳士淑女のゲームです!」>
 これは競馬じゃねぇだろ、という突っ込みと花束が馬場を埋め尽くす。
<「それでも、それでもーっ、と、ああ!?」>
 アルプスが猛スピードでPRステージに上がった。
前輪を浮かして止まった、と思えば、そのままウィリーでステージを下りて走り去る。
 他の選手が、ずるい、と叫ぶ中で、ミーナはほっとしていた。
「あんな感じでいいのか」
 ストリップショーは回避された。ありがとう、アルプス。
「よし、砂駆。一発、アイアース見せてやれ!」
 パカラクダの足の裏は、砂漠の細かい砂粒を捉えて踏みしめるために意外と柔らかい。
 が、そこは無問題。
 ミーナから発せられたエネルギーが、瞬時に砂駆の前脚を駆け下り、足の裏をがっちりコーティングして守る。
 砂駆は、数百キロに及ぶ全体重を前脚に預け、アスファルトを踏み砕いた。
 直後、強い縦振動が起こり、すぐ近くにいたカヤが四足を揃えたままトンっと跳ね上がった。周りに集っていた小鳥たちが驚いて、一斉に離れていく。
 コミカルな動きに目を引かれ、観客の関心がカヤとその上で跳ねていたリトル(水着姿)に集まった。
 放送席でライラが、かわいい、かわいい、を連発しながら超望遠カメラのシャッターを切りまくる。
「やっとみてくれた。ちいさいもん、ふつうじゃアピールしきれなかったよ。……ライラさんのいじわる」
 背に首を回したカヤが、涙声のリトルを慰める。
「ありがとう、カヤ。……これ、もうアピールできたったことでいいんだよね?」
 カヤは前脚を高くあげると、勢いよく駆けだした。
「もうダメ、スーツ脱ぐ!」
 防水スーツがクソ暑い。
 恋人のイーリンが飛び出していってから数秒後、ウィズィはファスナーをおヘソの上までおろした。
 可愛いピンクのラインの入った純白のスポーツブラの上に、玉のような汗が浮かんでいる。
 場内を深く揺らすようなどよめき。ウィズィの美しく割れた腹筋に、称賛の声が続々と上がった。
「……まあ、男に見られても嬉しくないけど!」
 見て欲しいのは――まぎれもない本音をステージに残し、ウィズィはラニオンとともに颯爽と去っていった。
<「残っているのは……おっと、レイリ―。馬上でムーンサルトを決めて、鮮やかに早変わったぁ!」>
<「まあ、素敵!!」>とライラ。
 レイリ―はフリルの多い純白のドレス姿に変身すると、しとやかに横座りで鞍に腰掛けて、ほんのり小首をかしげてみせた。
「みんなー、楽しんでねー!」
 蠱惑的な笑みを浮かべた唇に、軽く指を添えて――。
「チュ!」
 なんとも魅惑的なレイリ―の投げキッスを、ライラはアップで写し撮った。


<「さあ、レースも終盤。真っ先に直線を抜けたアルプス、砂の上り坂でやや苦戦か。細砂にタイヤが滑る、滑る!」>
 アルプスはなんとか軸に力を伝えてタイヤを回そうとするが、ラサの沙漠から運んできた砂はきめが細かい。ダートを掴めず苦戦する。
<「後ろにつけていたヤースミール、正面から飛んでくる砂を嫌って外へ出ます。ラムレイはわりと平気なようですね。馬体が砂で白くなるのも構わず、ずんずん坂を上っていきます」>
 パイロキシンは駆動部分に細かい砂が入り込んでしまい、脚の回転数が落ちた。一番から四番に下がる。
<「中団は三馬立てになりました。カヤ、ムーンリットガール、そしてPRステージを最後に抜けた砂駆が、地利を生かして最下位から浮上しております」>
 ウィズィは手綱から手を離し、額に浮かんだ汗を手の甲で拭った。蒸し暑さに耐えかね、一旦は上げたファスナーを再び下ろす。
「やん!!」
 蹴り上げられた砂が肌に張りつき、汗で泥になって胸の谷間を流れていく。これでは何のための防水スーツか分からない。
「もー、ライラさんのばかぁ!」
 ウィズィはまたファスナーを引き上げた。
 この砂の坂を登りきれば、トラップステージだ。気を散らしたままでは、砂から飛び出してくる木偶人形に落とされてしまうかもしれない。
「いくぞ! 一気に追い上げるよ!」
<「ウィズィ、ラニオンに鞭を入れた。さあ、ここからが本番だ。前を行くムーンリットガールを追う」>
 砂柱が立ちあがる。
 レイリ―の右手がすばやく動き、小脇に抱えていた槍が前に立ち塞がる木偶人形に襲いかかった。穂先が木偶人形の脇腹に突き刺ささる。
 見ている分には簡単なようだが、実は至難の業。馬上槍は、相手に突き刺さった際の反動を吸収するのが難しく、未熟なものがやれば落馬する。
 騎乗戦闘の腕前もさることながら、今まで戦場を共にした相棒ムーンリットガールとの意思疎通がレイリ―の一番の武器だ。
「本当にぶっ飛ばしたいのは、鉄玉子とライラ殿だけど――」
 レイリ―は槍を回すと、砂を飛ばして飛び出してきた木偶人形の頭を突き砕いた。
<「第五コーナーに入ってまいりました。ここを曲がり切るとあとは直線、ゴールは目の前です。先頭を走るのは黒い流星ヤースミール。木偶人形をうまくかわして順位を大きく上げましたね、ライラさん」>
<「ええ。麻衣さんはエコーロケーションをうまく活用しました。透視も使ったんじゃないかしら?」>
 ライラの解説は当たっている。
 麻衣はスキルを使って事前に木偶人形の位置を割り出していた。戦闘を避けることで、ヤースミールにかかる負担を減らし、スピードダウンを防いだのだ。
(「不良ダートは先行が絶対有利。だから無理をしても先頭に出たかったのよね」)
 裏を返せば、ヤースミールの貴族的な脚が、ぬかるみきった泥のカーブを無事に曲がり切れるか不安があったということだ。
「がんばれ、ヤースミール!」
 案の定、泥で足を滑らせた。馬体が大きく外へ振れる。
<「後続のアルプスもタイヤを滑らせたぁ。ラムレイ、パイロキシンが突っ込んできて泥団子状態! カヤが開いているところを慎重に進んでいく。白薔薇ラニオン、 泥はねを嫌ったか。ゆっくりしている場合じゃない、沙漠のアサシンこと砂駆とムーンリットガールがすぐ後ろに迫っているッ! 危ない、危ないー」>
 ダンプPの絶叫が終わらぬうちに、ミーナはウィズィを捉えていた。横並びになった瞬間、砂駆に鞭を入れて一気に抜き去る。
「悪いな……二年前より少しでも順位を上げたいんでね」
 後ろで悲鳴が上がった。
 砂駆が蹴り上げた泥を、人馬まともにかぶったのだ。
 ミーナはまっすぐ前だけを見て、鞭を入れ続けた。砂のゆるい上り坂を越せば、あとは短い直線を残すのみ。
 だが――。
「……これで、最後なんだ。私は、な」
 意味深なつぶやきは、スタンドで沸きあがった大歓声に掻き消されてしまった。
 先頭の馬が最後の直線に入ったようだ。
「ふっ……気合入れるぜ、砂駆!」
 一着に入れなくとも、最後まで全力で走り切るのだ。
<「一時は泥にまみれて曇ったが、光って帰って来たぞ、パイロキシン!」>
 混戦の中からいち早く抜きだしたのは、クラウジアの駆るパイロキシンだった。ずっとしまい込まれていた鬱憤を晴らすかのように、ダートを疾走する。
<「半馬身遅れて二番手はラムレイ。外へ流されたヤースミールが戻ってきて三番手。さあ、さあ、このままゴールまでパイロキシンが突っ走るのか!?」>
<「みんながんばってー!!」>
 ライラのシャッターボタンを押す指が止まる。写真を撮ることも忘れて、ひたすら応援に声を張る。
<「ここでアルプス! すごい脚、いや、すごいタイヤだ! ヤースミールをロックオン――、撃墜ッ! パイロキシン逃げる、ゴールまであと100メートル。爆音届くか、届くかーー……あー、パイロキシンだぁ。
 春の柔らかい光に包まれて、クラナーハ賞・桜花杯を制したのはパイロキシン。おめでとう、クラウジア!!」>

成否

成功

MVP

クラウジア=ジュエリア=ペトロヴァー(p3p006508)
宝石の魔女

状態異常

なし

あとがき

【PPPダービー クラナーハ賞・桜花杯】成績
 優勝 、クラウジアとパイロキシン号
 準優勝、アルプス
  3着、麻衣とヤースミール号
  4着、イーリンとラムレイ号
  5着、リトルとカヤ号
  6着、ミーナと砂駆号
 同7着、ウィズィとラニオン号
 同7着、レイリ―とムーンリットナイト号

楽しんでいただけたでしょうか。
あと、ダンプPはゆで卵にしておきました。

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