シナリオ詳細
<虹の架け橋>虹めく森のかなた、妖精の国より
オープニング
●虹の開いた道
森である。
うっそうと、そしてどこまでも続くような深い深い霧の森。
どこからか獣のような臭いと、のしのしと土を踏む大きな足音がした。
ここは『大迷宮ヘイムダリオン』浅層エリア。
『アスタスの森』。
今回イレギュラーズが攻略すべき、ダンジョンである。
●アーカンシェル崩壊
それがいつ、どこが始まりだったのか、明確に述べることはできない。
暗い森の中や、洞窟の奥や、結界に閉ざされた遺跡や、古い湖の底や、いろいろな場所にあった『妖精郷の門』のうちひとつが、魔物によって破壊されたのだった。
その結果……。
「『ブレーカーが落ちる』って表現で、分かるかしら」
爪楊枝ほどに小さなキセルをくわえ、肩の出た和服姿の妖精はそんなふうに述べた。
ボストンバッグにすっぽり入ってしまいそうなほど小さな妖精は、ゆっくりと煙をすい、数秒の静寂の後に煙と共にため息をついた。
「一つのアーカンシェルが破壊されれば、連鎖的に全ての門が閉じるのよ。
エレベーターが使えなくなったら、非常階段を使うでしょう? それと一緒で非常用のルートがあるわ。
妖精郷も大慌てだろうし、いち早く開通しなおしたいんだけど……なんともね」
これから語るのは、妖精の物語。
いや……妖精とあなたの物語である。
「今から、『大迷宮ヘイムダリオン』の攻略を始めて貰うわ」
妖精郷アルヴィオンを知っているか。
常春の異空間に広がる妖精達のふるさとである。妖精は時折妖精郷の門(アーカンシェル)を通じてこちらへとやってきては、遊んだり悪戯をしたりと和やかに過ごしていたという。
しかしあるとき、そんな妖精たちの門を狙う魔物が現れた。
元々深緑の地にあった魔物とは種の異なる、奇妙な能力や行動をする魔物達。
かれらの狙いは一貫してアーカンシェルにあった。
ローレットは困り焦った妖精達のオーダーをうけ、この魔物達を撃退。無事に門を守ったのだが……。
「私たちもノーマークだった隠里の門が狙われたのね。まさかあの魔物たち、そこまで熱心だったなんて、ねえ?」
あらためて紹介しておこう。
妖精の名は夕顔。
日本でいう花魁を令和ぽくしたファッションをした妖精である。
元々はゲートの管理とは無縁の暮らしをしていたらしいが、今回の閉鎖騒ぎで仕方なく表に出てきたというクチらしい。
「きっと連中は例の非常用ルートを使うつもりでしょうけど、あそこを簡単に抜けられるとは思わないわ」
あそこ、と述べたのは大迷宮ヘイムダリオンのことである。
「ヘイムダリオンは森林迷宮と妖精郷をつなぐ特別な迷宮よ。本来は入ることすらできないけれど、『虹の架け橋』によって直接入ることができるわ」
例えるなら果ての迷宮。
いくつも連なる様相も雰囲気も全く異なる連続迷宮。その果てが妖精郷につながっている。
「ヘイムダリオンの攻略には『虹の宝珠』が必要になるわ。
これを獲得することでさらなる深部へと進むことができる。
といっても、一度や二度のトライで全ての迷宮を攻略しきるのはほぼ不可能でしょうね。
何度もトライして虹の宝珠を収集し、沢山の『虹の宝珠』を獲得・行使することでやっと攻略が完了すると思って頂戴」
●『アスタスの森』
さて、前置きが長くなってしまったが本題に入ろう。
今回イレギュラーズにはヘイムダリオン浅層エリア『アスタスの森』を攻略してもらうことになる。
アスタスの森は視界がろくに通らないほど深い霧に包まれた森型のダンジョンである。
霧には精神を混濁させる毒が含まれており、長くこのエリアにいると意識を失ってしまうらしい。
「森の中には『虹の宝珠』が収められている台座があるわ。それを見つけ出せれば成功、と思っていいわね」
しかし森にはアスタスという恐ろしい熊の怪物が巡回しており、侵入者を排除しようと鋭い嗅覚で襲いかかってくるらしい。
「それだけじゃないわ。送り込まれた『正体不明の魔物』と遭遇すれば戦闘になるでしょうね。
魔物に『虹の宝珠』を先にとられれば……どうなるかあまり想像したくないわ。
できるかぎり急いで、それでいてアスタスや魔物に倒されないように探索を広げてちょうだい」
さあ、あなたと妖精の冒険が、再びはじまろうとしている。
- <虹の架け橋>虹めく森のかなた、妖精の国より完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年04月22日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●大迷宮へ挑め
身をかがめ、足の筋を伸ばすように屈伸運動をする『蒼銀一閃』シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)。
流れるように全身の柔軟体操をしながら気持ちを整えていく。
「大迷宮ヘイムダリオン! 冒険者としてわくわくせずにはいられないね!
虹の宝珠は必ず見つけてみせるよ!」
「みせるよぉ」
同じようにくにくに運動する『特異運命座標』シルキィ(p3p008115)。
「迷宮攻略の第一歩、虹の宝珠ゲット目指して頑張らなきゃだねぇ」
「だねー!」
体操を終えた二人はパチンと片手でハイタッチ。
そんな様子をなんだか微笑ましく見ていたゼファー(p3p007625)は、腰の後ろと肘で水平に固定した槍で姿勢を整えると、くいくいと腰を左右に回した。
「宝珠もいいけど……どーにもきな臭くなってきてるのよねぇ」
はじめに関わった事件からこっち、お知り合いの妖精への人助けでは済まない事態になりつつあるように、ゼファーには思えた。
「第一、化物が門に群がってた時点でロクなことにならないんだから」
だからこそローレットにお声がかかった、とも言えるが。
今回の探索先は『霧の森』である。
「ふふっ、迷宮探索は得意分野だ。森の中を探索して、指定された台座とそこに収められた宝珠を見つけ出せばミッションコンプリート、というわけだね」
『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)は依頼書を指で挟んでぱたぱたとふってみせた。
深く息をつく『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)。
「霧の森、か。良い景色なんだろうね。霧の毒がなければ森林浴でもしたいところだけれど……」
ゆるく胸の下で腕を組んで、黙々と準備していた『天戒の楔』フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)へと話しかけた。
「今更だけれど、迷宮の領域ひとつがまるごと森なんだよね? 空も土もあるほどの」
「……らしいな」
刀を腰のベルトに通し、ぎゅっと固定する。
「時間も限られているし、闇雲には探しづらい。予定していたとおり、それぞれ方向を決めて探索範囲を広げていく方式がいいだろう」
「ん」
同じく準備を終えた『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)。
(森林迷宮、番犬と宝、乱入者。
いいわね盛り上がってきた。
これこそトレハンだわ)
イーリンは目をしっかりと見開き、アーカンシェルを見つめた。
「『神がそれを望まれる』」
「ノゾマレル!」
真後ろで大きい声を出す『戦神』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)。
びくりとして振り返ると、秋奈はダブルピースをあわせて額にもっていった。
「今日の私は司書ちゃんの相棒ポジ。いやヒロインポジ! 真面目モーーードッ!」
「そ、そう……」
理解しづらい単語が並んだがとりえず頷いておくイーリンである。
そうこうしていると、『虹の架け橋』の歌によって門が開いていく。
行き先は妖精郷……ではない。大迷宮ヘイムダリオンのいち領域、『霧の森』。
●アスタス
鳥の声ばかりが聞こえる。
シャルレィスがポケットから取り出した方位磁石はつねにぐるぐると回り続けて針が定まることはなかった。
「まるで樹海だね」
「じゅかい?」
「聞いたことない? 方位磁石が狂うって噂」
「さあ……」
マルベートは首をひねってから森を見回した。
「この空間自体が迷宮の一部。いわゆる異空間だからね……方角なんてあってないものなのかもしれないよ」
「うーん……思ったより厄介かも?」
そう言いつつ手がないわけではないらしく、シャルレィスは地面や木についた痕跡を探しながら森を歩いていた。
「何を?」
「いきなり台座ってわけにはいかないだろうけど、例のアスタスってモンスターなら見つかる気がしてね。ほら見て、木に爪痕がある。これはナワバリを示すマークだって聞いたことあるよ」
「うん……その話、本当かもね」
マルベートは槍を握り、ある方向へと身構えた。
先に気づいたのはマルベートだが、すぐにシャルレィスも気づくことができた。
森の草木をかき分けるように、大柄な熊がこちらへと走ってくるという足音を息づかい。
狙いはシャルレィス――だが、彼女のムラのつよさを知っているマルベートは素早く割り込みアスタスのタックルをガード。すかさず眼光を浴びせることで注意を自分へと引きつけていった。
「攻撃は引き受けておくよ。その間に――」
「うん!」
シャルレィスは剣を再び握りしめ、自らに風を纏い始める。
アスタスがマルベートにがっつりと掴みかかっているそのさなか、シャルレィスの剣がアスタスの首筋や足を的確に切りつけ、その場に崩していく。
がくりと膝をついた形になったアスタスから一度距離をとり、マルベートは飛行状態から翼を大きく広げた。
「悪いけど、時間をかけてる場合じゃないんだ。シャルレィス、後ろをよろしく」
マルベートがそういいながらアスタスにとトドメをさすと、死角から両手をノコギリにした巨大デッサン人形が現れ、マルベートへと斬りかかった。
このダンジョンの在来モンスターにはとても見えない。
シャルレィスは間に割り込んで剣を水平にかざすと、ノコギリハンドを受け止めた。
「紛れ込んでるっていう魔物だね。わかった、任せて!」
シャルレィスはギアを一段階上げると、人形の繰り出す連続攻撃を剣によって次々に受け流していく。
といってもやはりムラのあるシャルレィスのこと。何発かまともに食らってはしまうが……。
「攻撃は最大の防御!」
間接部を狙って、素早く人形を切断・分解していった。
「しかし、いかにも迷いそうな森だな」
フレイは霧の深い森の中を進みながら、木に刀で印をつけていた。
視界が通りづらく、似たような景色が続きやすい。いかにも道に迷いそうなものだが、不思議とすいすい進むことができた。
箒に横座りし、ふよふよと浮かびながら一緒に移動するシルキィ。
「なんだろうねぇ、獣特有の臭いが道っぽく繋がってるから、案外迷わないかなぁ」
すんすんと顎を上げて空気のにおいをかぐ。
箒にまたがっているのは単に歩くのをサボったり地面の凹凸をさけるためだが、いざ戦闘になったら下りるだろう。
飛行移動というのは通常移動に比べて機動力で大きく劣るので、ガチな移動や逃走には向かないのだ。
「臭いというのは……例のアスタスの臭いか」
「だねぇ。他にもケミカルな油っぽい臭いもするよぉ」
『こっちはすごく嫌な感じだなぁ』とつぶやくシルキィに、フレイは考え込むように顎に手を当てた。
「危険度で言えば、どちらが上だ?」
「うーん…………?」
フレイの問いかけに、シルキィはうまく応えられなかった。臭いだけではどうも判別がつかなかったからだ。
ただ、こうしていかにもな臭いをさせているなら、『どちらか』を避けて進むことは可能である。フレイが言いたいのは、どちらを避けるべきかの指針であった。
「アスタスは情報があるから楽だけど、そうじゃないほうは余力があるうちに解消しておきたいねぇ」
「なるほど、決まりだな」
フレイは頷き、刀に手をかけた。シルキィもまた箒から飛び降り、指の上にくるくると糸をのばしはじめる。
二人はシルキィの鼻を頼りに『油っぽいにおい』の存在を探索しはじめたが、思いのほかすぐに見つかった。
茂みに身を隠し、様子をうかがうフレイ。
全身が炎に包まれた操り人形のようにみえる。
全長は2mほどで、糸でつるして動いているような動作をしているが糸はどこにも見えない。このダンジョンに潜んでいるという未知の魔物に違いない。
フレイは小さく手をかざし、シルキィに『あとから来い』のサインを出した。
ドッとわざと足音を立てて跳躍。
フレイは大きな声をあげてモンスターの注意を引くと、大上段から刀をたたき込んだ。
腕で受け、口から炎を吹き付けてくる人形。
たちまちフレイの身体が火に包まれたが、展開としてはのぞむところである。
なぜなら、シルキィがより隙を見つけやすくなるからだ。
「――!」
三つ編み髪のようにあみこんだ糸が伸び、モンスターの身体にぐるぐるまきついていく。
粘着した糸に身動きを鈍らせ、よろめく人形。
立ち上がって糸を両手でしっかりと握ったシルキィは、それを引っ張ることでモンスターの動きを押さえ込んでいく。
「今だよぉ」
「ナイスアシストだ……」
フレイは静かに剣を返すと、人形の腰や首へ連続で叩きつけていく。
最後に人形が弱った処で、糸越しに電流魔力を流し込んだシルキィによって撃滅した。
――さて、シャルレイス&マルベートペア、フレイ&シルキィペアがそれぞれ台座を探して森の中を進んでいる間、彼女たちとは逆方向を行くゼフィラ&ゼファーペアは少々異なるアプローチから台座を探していた。
「幻想王国の田舎町だったかしら、『森のアスタス』っていう民話が伝わってるのよね」
自身の聞きかじったモンスター知識の一環として、ゼファーはアスタスについて語り始めた。
霧の深い森を進み、草木をかき分けながらも身長に行く先を確かめる。
ゼフィラは先行しつつも、ゼファーへと振り返った。
「それは興味深い。霧の深い森で熊に合う話かい?」
「それが……全然違うのよね」
「ほう?」
人差し指で頬をとんとんと叩くゼファー。
「『森のアスタス』っていうのは、その地方では有名な民話でね。誰でも子供の頃に聞いたような話らしいの。
詳しいことは忘れちゃったけど、灰色の翼と蛇の下半身、鱗に覆われた顔をした怪物で、アスタスっていう名前も『軋む鳥』って意味の言葉らしいわ。実際キイキイ軋むような音を立てて移動するのよ」
「熊とは似ても似つかないな。第一、その民話というのはどういうものなんだい?」
木の幹についた傷を手でなでて確かめつつ、話に相づちをうつ。
ゼファーは背負っていた槍を何気なく手にとって腰の辺りで構えながら、ゼフィラを歩調をあわせはじめた。
「正直者が貧しさのあまり野草をとっているとアスタスが尻尾を切り落としていって、尻尾からとれた薬で貧困を免れるの。けど味を占めて森でアスタスを乱獲しはじめたところでアスタスの群れに殺されてしまうっていうオチね」
「『業は身を滅ぼす』の訓話ってことだね? この森に出るアスタスに外見的特徴が一致しないなら、もしかしたらその民話にヒントがあるのかもね」
と、いいながら。
ゼフィラは人差し指を立てて見せた。
ぴたりと足を止めるゼファー。
「『業は身を滅ぼす』……か。もしかして、この状況のことを指してるのかな?」
くるりと同時に反転する二人。
背を突け、ゼファーは槍を、ゼフィラはタクトをそれぞれ構えた。
濃い霧を抜け、複数のアスタスが同時に現れる。
「台座が近い、とか?」
「あり得そうね。けど……黙って通してくれそうには見えないわね」
一斉に襲いかかってくるアスタス。
ゼフィラは素早く近くの木によじ登ると、地面に残ったゼファーだけがアスタスたちの相手をした。
ぐるぐると回転させ牽制する槍に、うまく近づけないアスタス。
一方でゼフィラは足を止めたアスタスの頭めがけてソウルストライクを次々と発射していく。
「私の戦闘スタイルは長持ちしないんでね。手早く頼むよ」
「分かってる。まかせなさいっ」
ゼファーはアスタスの腹に槍を突き立てると、懐に潜り込んで拳と肘で的確に熊の急所を突いていく。
泡をふいて気絶するアスタス。その下に潜り込むようにして他の追撃をかわすと、ゼファーに夢中になっているアスタスめがけゼフィラがシムーンケイジの魔術を発動。
密集したアスタスだけを対象にして熱砂に沈めていった。
「まだ行けそうだ。探索を続けようか。それとも、休憩がいるかい?」
戦闘を終え、すたんと枝から下りてくるゼフィラ。
ゼファーは身体についた砂をぱたぱたと払い落とし……。
「ま、体力には自信ありなので」
ごしんぱいなく、とウィンクした。
「秋奈ちゃんスペシャル!」
森の中をジグザグに駆け抜けた秋奈。二本揃えた刀を振り抜いた姿勢でブレーキをかけるとしめった土がはねた。
その後ろでは複数のアスタスが血をふいて倒れていく。
一方でイーリンは髪色を戻し、ふるふると首を振った。土を長く激しくえぐった跡だけが残り、ライン上には破壊されたアスタスが二体まとめて倒れている。
「急に数が増えたわね」
「目的の台座が近いってことなんじゃない?」
広い森の中からたった一個の宝珠を探し出そうと闇雲に歩き回ったなら、きっと相当な苦労をおうことになるだろう。
しかし秋奈は森を巡回し侵入者を攻撃するというアスタスや魔物がいればいるほど宝珠が近いと考え、爪痕や糞といった動物的痕跡を捜索していた。
元々は危険をさけるための捜索であったが、重要なものが近いほど危険が多いという考えに途中からシフトしていったようだ。
ふいーといって額の汗を拭うと、イーリンのそばについて歩き出す。
「それにしたって、歩き回って探すのめんどくなってきたわね。司書ちゃん無敵のインスピレーションで見つかんないの?」
「見つかるだけの判断材料が揃ったときはもう見つかっている時よ」
「そゆもん?」
イーリンは秋奈の言葉を軽くうけながしつつも、脳内に走っている計算図のようなものを一部開示することにした。
「さっきも言ったけど、『危険が多いほど目的のものが近い』にも状況的根拠があるのよ」
霧で視界の通りにくい森をゆっくりと進み、獣道をたどる。
「例えば空。星が出てはいるけど妙に周囲が明るいし、星の並びも滅茶苦茶なのがわかるでしょ」
「いわれてみれば」
秋奈が空を見上げると綺麗な星空があった。つまりは夜であるはずなのに、さしたる照明器具をもつことなく森を、それも霧の濃い森を探索できている。かなり非現実的な環境であった。
「この『霧の森』っていうダンジョンがただの森でないなら、何らかの設計意図があるはずなのよ。偽りの星空があるのも、霧の中をたいまつを持たずに進めるのも、アスタスが徘徊してるのもね」
「司書ちゃんは……」
そこまで説明されたところで、秋奈もさすがに言わんとすることが分かってきたらしい。
刀を両手それぞれでくるくる回しながらこたえた。
「この森は宝珠を隠して、探しに来た探索者を試すためにあるって言いたいのね?」
「少なくとも、誰もとれないようにするつもりはないし、誰でもとれるようにしたつもりもないってことは確かね。それと引っかかることがもう一つ」
イーリンはスクロールを開いてみた。
「アスタスっていうモンスターは幻想の田舎町に生息していて、羽根飾りが魔除けのお土産になるくらいには地元で有名よ。けどどう見たって熊じゃない。むしろ霧の森を巡回して不届き者を排除する熊のモンスターは別にいるの」
「長い。三行で」
「まだ一行よ」
コホンと咳払いしてから、イーリンは途中をはしょって結論に近づけた。
「『ワルセザ沼の熊』。ワルセザ沼の森には『生きた霧がかかっている』と言われているわ。
いたずらに獣を狩る者や森を焼いて居座る者を飲み込んで、その近隣の村に死体を運んでくるのがワルセザベアーと言われてるの。
つまり、この森にかかる霧は私たちを観測していて、都合の悪い動きをする者に対して攻撃担当であるところのアスタスが集中する仕組みになっているだろう、ってことよ」
それが、危険を避けるべきでないとした根拠である。
それを裏付けるように、あちこちにいびつな外見の魔物の死体がごろごろと転がり、中にはアスタスの死体も見られるようになってきた。
アスタスと魔物が戦っていた痕跡である。
その先へ進めば……。
虹の宝珠。
森の中にぽつんと存在する石の台座。
その頂点には虹色の宝珠が置いてあり、取り上げた途端イーリンたちはすぐさま迷宮の外へと転送された。
同じように探索していた仲間達も転送され、シャルレィスなどは突然のことにきょろきょろとしていた。
「それが『虹の宝珠』か」
フレイは珍しそうに、イーリンが見せた宝珠を眺めた。
「これを一定数集めることでこの大迷宮を越え、妖精郷へ至ることができる……と」
ひとつや二つで至れる場所では、もちろんないだろう。
彼らの挑戦は、続く。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
――虹の宝珠を獲得しました。大迷宮踏破ポイントが加算されます。
GMコメント
■アスタスの森
フィールドは霧の深い森型ダンジョンです。
戦闘可能な程度の視程しかない深すぎる霧の中で、『虹の宝珠』が収められた台座を探し出しましょう。
基本的に探すための近道(裏技や便利なスキル)はないに等しいので、参加メンバーを分散させて東西南北しらみつぶしに歩いて探すことになるでしょう。
このとき何チームに分けて探すかで、探索の確実性と危険度が変わってきます。
極端に言うと、1人×8チームが一番探索がはやくて危険。8人×1チームが探索無理そうだけど安全。といった具合です。
・霧の毒
霧には意識を失わせる毒があり、どうやってもこの毒をうけてしまいます。(BSとは関係ないので無効系スキルや回復スキルも効果はありません)
具体的にどの程度がタイムリミットかは決めません。メタなことをいうとあまりに時間がかかりすぎる探索方法をとったり途中で何チームか戦闘不能になったりするとヤバくなって緊急撤退(=失敗)する形になります。
・通信手段について
今回に関しては自分が割り当てられたエリアの探索を一通りして帰還する、とだけ決めておけば特に通信手段を講じなくてよいと思われます。どうしてもって場合は何かしら考えても良いとおもいますが、それにプレイング字数をとられるとそれ以外の色々がだいぶ不利になるので無理にさくことはないでしょう。
・アスタスとの遭遇戦
森を守護する獣アスタスは熊を更に強化したような怪物です。
鋭い爪や屈強な肉体で攻撃します。
戦闘になったらあまり気は抜けませんが、戦闘能力がかなりシンプルなので対策は楽なはずです。
・魔物との遭遇戦
皆さんより先に『虹の宝珠』を手に入れようとしている魔物が、このアスタスの森にも放たれているはずです。
皆さんとは明確に敵対関係にあるので、まず『遭遇=戦闘』になるでしょう。
どんな魔物が放たれているかは不明で、どんな攻撃をしてくるかも不明です。
ですがアスタス対策にBSや防御ないし回避、たまに治癒といった能力で固めていそうな気がします。
※備考
このシナリオではイレギュラーズの『血』『毛髪』『細胞』等が、敵に採取される可能性があります。
■■■アドリブ度■■■
ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用ください。
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