PandoraPartyProject

シナリオ詳細

異端の教団コキュートス

完了

参加者 : 8 人

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オープニング


 天義の街の一角にある、小さな食堂。
 そこには、近頃天義を騒がせているという無法者たちの調査に乗り出していたイレギュラーズ達が、ひと時の休息をとっていた。
 今は八人、全員が集まっているわけではないが、ひとまず先に合流した者たちから、腹ごなしなどを進めている。
「目下のところ――」
 ぱくり、とサンドイッチを齧りつつ、『舞蝶刃』アンナ・シャルロット・ミルフィール (p3p001701)が声をあげた。
「まだ息をひそめている……という所かしら。大げさに暴れているようなことは無いみたいだけど……」
「規模がまだ小さい、と見ればラッキーだけれど、潜伏されているとみると厄介だね」
 『慈愛の英雄』ユーリエ・シュトラール (p3p001160)は、果実のジュースなどを飲みつつ、答えた。
 イレギュラーズ達の調査は、一定の成果を得ていた。それにより判明したことによれば、未だ規模は小さいものの、四人の『神官』と呼ばれる存在により強力に統率された無法者の集団は、近頃その噂をちらほらと聞くほどに、頭角を現してきている。
「しかし、ベアトリーチェの復活か。正気じゃねぇなぁ」
 『山賊』グドルフ・ボイデル (p3p000694)はあごに手をやりながら、唸る。
 彼ら――コキュートスと名乗るその無法者の集団が標榜しているのは、冠位魔種、ベアトリーチェの復活である。
 そのようなことが可能なのか、は、今は置いておこう。問題は、その集団がそれをできると信じ、何らかのアプローチを起こす事。
「テンプレートな考え方をすれば、例えば生贄――よねぇ」
 『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ (p3p004400)は、酒の入ったグラスを手でもてあそびつつ、そう言った。
 シンプルに考えれば、そう。
 できるか否かをさておいて、実際に人の命が、奪われる。
 仮に生贄を用いなかったとしても、人心を惑わす存在――狂気のキャリアーとなる可能性も否定はできない。相手は人類の敵、魔種をあがめる存在なのだ。
 こればかりは、捨ておくわけにはいくまい。
 ――と。
「――アーリアの考えは、当たったようだ」
 『希祈の星図』ウィリアム・M・アステリズム (p3p001243)の声に、一同はその方――食堂の入り口へ視線を移す。
 そこには、ウィリアムをはじめとする、残るイレギュラーズ達と共に、1人の、泣きじゃくる少年の姿があったのである。

「調査中に、この子に声をかけられたの。お兄さんが、連れ去られちゃったんだって」
 『差し伸べる翼』ノースポール (p3p004381)は、椅子に座った少年の肩に手をやり、一堂に状況を説明した。
 曰く、ウィリアムとコキュートスについての調査を行っていたノースポールは、イレギュラーズを探す少年を発見したのだという。
 話を聞いてみれば、白昼堂々、黒衣の集団が少年と、少年の兄を誘拐しようとしたのだという。兄の機転により、少年は何とか逃げられたものの、兄はそのまま、連れ去られてしまったのだという。
「その黒衣の集団が落としたのが、この紋章、という訳だ」
 ウィリアムが、テーブルの上に、奇妙な文字と図形が合わさった、紋章の記された板を差し出した。
「間違いないね。コキュートスの紋章だよ」
 ノースポールが言う。その板は、コキュートスの信者が、その信仰の拠り所とするために持っている、一枚のプレートである。ベアトリーチェによる救済を現すというその複雑な文様は、一度見れば二度と間違うことは無いだろう、独特な形状をしていた。
「子供の誘拐……となれば、おそらく……だな」
 『優心の恩寵』ポテト=アークライト (p3p000294)は、少年を不安がらせぬように、あえて明言を避けた。仲間達には、それだけでも充分理解できる。生贄か、あるいは洗脳による利用か。いずれにせよ、放っておくわけにはいかない。
「イレギュラーズさん、お願いします。お兄ちゃんを、助けて……!」
 泣きじゃくる子供の肩へ、『死力の聖剣』リゲル=アークライト (p3p000442)は力強く、手をやった。
「大丈夫だ。君のお兄さんは、俺達が必ず助けるよ。約束だ」
 力強く――リゲルはそう頷いて見せるのだった。


 一行は、少年を食堂に残し、出発した。さらわれた子供がいるとなれば、もはや一刻の猶予もあるまい。
「おれさま達、山賊の情報網によれば、確かにこの辺に、見知らぬ連中がたむろしてるらしいが」
 天義の街より離れ、深い森の中を行く。果たしてそこに見つけたのは、壊れかけた、教会のような建物であった。
「見つけた! あれかな?」
 ユーリエが指さす先には、教会の入り口に、件のコキュートスの紋章が飾られていた。
「信仰篤いのか結構だけど、悪い事してるって自覚が……ないのよね、きっと」
 アンナは肩をすくめる。
「さて、どうしようかしらぁ?」
 アーリアが小首をかしげるのへ、
「決まってる。踏み込もう」
 リゲルが剣の柄に手をやりながら、答える。
「そうだな。一刻も早く、あの子のお兄さんを助けてあげたい」
 ポテトの言葉に、仲間達は頷く。
「さらわれたのも、もしかしたら、あの子のお兄さんだけじゃないかもしれないからね」
 ノースポールが言う。コキュートスの目的がベアトリーチェの復活に在り、そしてそのための生贄に子供たちを使うのだとしたら、それは一人で終わることは無いはずだ。
「見張りはいないようだが、中には信者たちが居るはずだ。気を付けて進もう」
 ウィリアムの言葉に、頷き、イレギュラーズ達は異端の教団の本拠地へと、足を踏み入れるのであった。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 此方は、イレギュラーズによる調査(リクエスト)により発生した依頼となります。

●成功条件
 すべての敵を倒し、子供たちを救出する

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●状況
 近頃天義の街にて暗躍する、謎の教団コキュートス。
 彼らは、ベアトリーチェの復活を目的とする集団でした。
 それができるかどうかはさておいて、このまま放置しておいては、人々に被害が出るのは確実。そしてどうやら、既にさらわれてしまった子供も出てしまったようです。
 皆さんには、このコキュートスの本拠地へと乗り込み、敵を撃退。子供たちを救出してもらいます。

 建物内部は、一階と、地下一階が存在します。地下一階には儀式場があり、子供たちを捕らえた『神官』と呼ばれる四人の指導者たちが、今まさに儀式を執り行おうとしている最中です。
 儀式場へは、一本道で突き進むことができるので、迷う事はありません。一階には信者たちが徘徊していますが、あまり強くないので蹴散らしながら進むことができるでしょう。

●エネミーデータ
 信者 ×10
  コキュートスの信者たちです。全員が過去に原罪の呼び声を受けて狂気に陥っており、正気に戻る事もありません。
  主に近接物理攻撃を仕掛けてきます。基本的に弱いので、蹴散らしながら先に進むことができるでしょう。

 『神官』カイーナ ×1
  コキュートスの指導者のひとりです。幻想種の女性で、役割はヒーラー。
  回復スキルを一通りそろえています。
  過去に原罪の呼び声を受けて、強く狂気に陥っており、正気に戻る事はありません。

 『神官』アンティノーラ ×1
  コキュートスの指導者のひとりです。獣種の女性で、役割は神秘遠距離アタッカー。
  氷を主体とした広範囲を射程とする神秘攻撃を行ってきます。
  BSとしては、凍結や出血を付与するスキルも使用。
  過去に原罪の呼び声を受けて、強く狂気に陥っており、正気に戻る事はありません。

 『神官』トロメア ×1
  コキュートスの指導者のひとりです。鉄騎種の男性で、役割は物理近接アタッカー。
  巨大な斧を利用した近接物理攻撃を行ってきます。
  BSとしては、飛を持つ攻撃や、乱れを付与するスキルを使用します。
  過去に原罪の呼び声を受けて、強く狂気に陥っており、正気に戻る事はありません。

 『神官』ジュデッカ ×1
  コキュートスの指導者のひとりです。人間種の男性で、役割は前衛物理盾役。
  剣と盾を併用した、近接物理攻撃などを行ってきます。
  BSとして、怒りや、泥沼を付与するスキルを使用します。
  過去に原罪の呼び声を受けて、強く狂気に陥っており、正気に戻る事はありません。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加をお待ちしております。

  • 異端の教団コキュートス完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年04月25日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
優愛の吸血種
ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)
想星紡ぎ
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯

リプレイ

●地獄の入り口
 教会跡地――かつて多くの人々の祈りで満ちていたであろうその建物は、今は異端の教団『コキュートス』の信者が住み着く背徳の巣でしかない。
 イレギュラーズ一行は、勇気と決意を胸に、その建物へと踏み込んだ。最初に見えたのは、巨大な礼拝堂。本来の天義のシンボルは破壊され、今は何を祀っているのかすらわからぬほどに、荒れ切っている。
 しかし、その中にもどこか、人の気配と言うか、人の住む残り香のようなものがある事を、イレギュラーズ達は感じ取れただろう。
「いる、わね」
 些かむっとした様子で呟くのは、『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)だ。
 相手は子供をさらい、命を奪うような悪党たちだ。
 たとえ、その所業が、魔種によって行われた狂気の伝播が原因だとしても――その行為を、許すわけにはいかない。
 アーリアは小鳥をファミリアーとして呼び出すと、自らの肩へと乗せた。背中の死角を確認させるように、後ろを向かせる。
「後ろは任せてね。私と、ポーちゃんに」
 ポーちゃん――『差し伸べる翼』ノースポール(p3p004381)は力強く、仲間達へと頷いて見せた。
「あの兄弟のために、そしてこれ以上被害を出さないためにも! 皆さん、よろしくお願いしますっ!」
 ノースポールの言葉に、仲間達は頷く。一行が壊れた礼拝堂の中ごろに足を踏み入れた瞬間、奥の扉を勢いよく開き、3名の黒衣の信徒が飛び出してきた。
 手にしたのは、ぎらつく刃。その目に正気の色は見られず、明確な殺意を伴って、此方を見据えている。
「怒ってる、って感じですね。でも、私だって怒ってるんですから。子供たちを大人の都合で、運命を捻じ曲げさせるなんて絶対に間違ってます!」
 その心の内に浮かぶ、自身の妹の姿。それを今は胸の奥に押し込めると、『慈愛の英雄』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)の髪が銀色へと変わる。
 それは、ユーリエが吸血鬼へと――戦う姿へと変貌を遂げたという証。
「いくぞ、皆。教団を潰して、子供たちを助ける!」
 『希祈の星図』ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)の言葉を合図にしたように、双方は一斉に動き出した。
 『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)が突撃、手にした銀の刃が、悪を断罪すべく清廉に輝く。
 銀の剣が、信徒の刃を弾き飛ばした。
「ポー!」
「はいっ!」
 リゲルの合図に、ノースポールが放つ絶対零度の冷気の魔術が、刃を取り落とした信徒へと迫る。果たしてその冷気が信徒の足を凍り付かせ、バランスを崩した信徒が転倒。激しく頭を打ち付け、昏倒する。
 一方、『舞蝶刃』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)もまた、刃を手にした信徒と相対する。手にした水晶の剣が刹那、煌いた。その閃光は三日月の如き剣閃を描き、信徒の手にした刃ごと切り裂き、打ち倒す。
「手加減する時間はないの。押し通らせてもらうわ」
 その手の刃の如き、冷たく、鮮烈な言葉が、信徒へと投げかけられる。
「一気に突破させてもらいます!」
 ユーリエの手に、血のように赤い鎖が出現した。ヴァンパイア・ブラッディ・チェーン。その血のごとく赤い鎖を振るい、解き放つ。鎖は宙を直進すると、信徒の持つ刃へと直撃し、その刃を砕いた。
「とどめだ!」
 続くウィリアムが、星の剣を出現させる。さながら流星のごとく解き放たれた星の剣は、刃を破壊された信徒の身体を貫いた。魔を貫く流星の刃は、狂気に堕ちた魔を断罪する。
「これで全部……じゃねぇんだろ!?」
 『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)が声をあげるのへ、リゲルが透視の能力を使いつつ、頷いた。
「扉の向こうに、まだ」
「私のコウモリで、奥から追い立てます! 全部やっつけちゃいましょう!」
 ユーリエが言った。ユーリエが使役するコウモリが、建物の後ろ側から侵入し、飛び回っているはずである。
「ここで足止めされるわけにはいかない。足を止めず、突撃しよう!」
 『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)の言葉に、グドルフが頷いた。
「おう! 電光石火、侵略することなんとやらだ。山賊の戦い方、見せてやるよ!」
 一行は足を止めることなく、扉を開いた――。

 教会内部は荒れ果てていて、扉がふさがれていたり床が抜けていたりと、些かの遠回りを強いられることもあった。
 だが、そこはある程度人が活動しているためか、全体としてみればほぼ一直線になるように、奥へ、奥へと道が続いていることがわかる。
「邪魔ァするんじゃねえッ!」
 グドルフが、出会い頭の信徒を強かに殴りつけた。フッ飛ばされた信徒が壁に叩きつけられ、ぐぅ、とうめき声をあげて昏倒する。
「戦闘能力は低い……けれど、急に出てこられるのが厄介ね」
 アンナのボヤキに、
「そう、それにぃ……後ろからぁ!」
 アーリアが叫び、振り返る。物陰にでも隠れていたのか、飛び込んできた信徒の男が刃を振るうのを、アーリアは寸での所でよけた。そのまま手を握り込み、指輪を信徒へと向ける。放たれた魔弾が、信徒の胸を打ち据えた。ぐぇ、と悲鳴を上げて、信徒が昏倒する。
「アーリアさんのファミリアーも、頼もしいです!」
 ノースポールが声をあげるのへ、アーリアは少しだけ、微笑んで見せた。
「でもぉ、これで大体片付いたかしらぁ?」
 アーリアが尋ねるのへ、頷いたのはリゲルだ。
「少なくとも、周囲に敵はいない……ユーリエ、君の友達はどうだ?」
 友達……使役しているコウモリの事だ。ユーリエが頷くと、前方からぱたぱたと、一匹のコウモリが飛んでくる。
「この子が無事……という事は、一階には敵はいないと思います。多分、ですけど」
 ユーリエの言葉に、ウィリアムが頷いた。
「了解だ。このまま進もう……だが、油断しないでくれ。調べた情報によれば、腕の立つ『神官』って連中が居るはずだ」
「コキュートス――罪人が最後に行き着く氷結地獄。それに関連する四つの地獄を名乗る連中か。ハッ、そんなモンを自ら名乗るなんざ、まさしく正気じゃねえなあ!」
 グドルフが吐き捨てるように言うのへ、ポテトが頷く。
「だが、正気であろうとなかろうと、彼らのやっていることは現実だ。彼らの妄想を実行に移される前に、行こう、皆」
 その言葉に仲間達は頷く。前方には、地下へと通じる大きな階段があって、一同は急ぎ、それを駆け下りた。
 それはさながら、物語のごとく、地下の地獄へと向かうかのような錯覚を覚えさせた。

●そして地獄の中心で、英雄達は戦う
 地下特有のひんやりとした空気が、辺りに漂っている。
 地下に広がる広大な空間は、岩盤を直接くりぬいたような形をしている。部屋の隅には、縛られた子供たちが、恐怖が滲んだ表情で広間の中央を見据え、その広間の中央の祭壇には、縛られた幼い少年が一人、寝かされていた。その目には恐怖と涙が浮かんでいる。
 彼を囲むように、四人の黒衣の『神官』が、何か悍ましき呪文を唱えていた。それは、冠位魔種――ベアトリーチェによる救済を称え、そして復活を願う祝詞である。
 神官――『ジュデッカ』を名乗る人間種の男が、手にした長大な剣を掲げた。ぎらり、と松明の明かりを受けて、刃が輝いた。
 刃が、振り下ろされる。
 ――その直前。
 響く、扉の開く音。同時になだれ込んでくる八名の英雄達。
「お楽しみ中の所で悪ィんだが、今まで散々遊び回ったツケを払ってもらうぜえ。これがお優しい事に――お代はてめえら全員の命で良いとよ!」
 その中の一人、グドルフが声をあげた。じろり、と神官たちがグドルフを――イレギュラーズ達を見やる。
「誰か?」
 幻想種の女性神官、『カイーナ』が声をあげた。その眼は、深い狂気の色に染まっている。カイーナだけではない。神官たちの誰もが、すでに正気を失っていた。
「神聖なる儀式の最中である。邪魔をするな」
 ぐらり、と獣種の女性神官『アンティノーラ』が、イレギュラーズ達へと向き直る。
「神聖、ですって?」
 アーリアが眉をひそめた。
「冗談でしょぉ? いくら正気を失おうと、子供を生贄に……なんて、最低ね」
「俺たちは、イレギュラーズだ」
 ウィリアムが声をあげる。
「こう言えば……俺たちの目的が分かるだろう?」
 その言葉に、鉄騎種の男性神官『トロメア』が嘆くような声をあげた。
「おお、おお……イレギュラーズ。我らが聖母を殺めし、悪逆の徒よ……!」
「その蛮行、許すまじ。さらには我らの神聖なる儀式を邪魔立てに現れたか」
 ジュデッカが怒りと敵意を明確にあらわにし、声をあげる。神官たちは各々の武器を持ち、明確な殺意を、此方へと向けてきた。
「嫌われたものね。まぁ、好かれていても嬉しくないけれど」
 アンナがぼやく。しかし油断なく、その手には水晶の刃を構える。
「子供たちの未来、そして希望を潰えさせません!」
 ユーリエが叫ぶ――同時に、両陣営は一斉に動き出した。神官たちは、この時、イレギュラーズ達へと意識を向け、子供たちを完全に意識の外へと置いていた。人質にとる様な事をしなかったのは、彼らが狂気に侵されていたこともあり、同時に『生贄に捧げる』事に固執していたこともあるだろう。
 そしてそのわずかなスキがあれば、イレギュラーズ達には充分であった。
「貰った……っ!」
 ポテトが一気に走り出す――祭壇へと向けて。飛びあがり、祭壇の上に寝かされていた少年を抱き上げる。
「返してもらうぞ……!」
 堂々と立ち上がり、再び跳躍する。天井スレスレを飛んで、ポテトはさらに部屋の隅へと向かう。
「ポテトさん! こっちです!」
 そこにはノースポールがすでに居て、縛られた子供たちを解放している所だった。
「生贄が……!」
 ジュデッカが声をあげるのへ、突撃してきたのはリゲル、そしてアンナである。
「お前の相手は……!」
「私達ッ!」
 銀の剣、そして水晶の刃を、ジュデッカが盾で受け止めた。
「お二人は、子供たちを上へ!」
 ユーリエが叫び、血鎖がアンティノーラの手にした杖を縛り付ける。
「こっちは任しとけ! さぁ、一切の希望を捨てやがれ。これからてめえが望むモノすべて、おれさまが奪っちまうからなあッ!」
 グドルフはトロメアを殴りつけ、自身へと引き付ける。
「少しくらい、俺達だけで耐えて見せるさ」
 ウィリアムが微笑む。
「そのかわりぃ、子供たちをお願いねぇ?」
 アーリアはカイーナを警戒しつつ、そう言った。
「分かった……すぐに戻る!」
「さぁ、みんな、こっちだよ! 動けない子は言ってね!」
 ポテトとノースポールは子供たちを連れて、来た道を引き返した。
「振り返るな、今はまっすぐ上まで走れ! ……大丈夫だ! あのお兄さんたちは、負けたりしない!」
 子供たちを鼓舞しつつ、ポテトは階段を上る。ふりかえるな。過去の神話にあるように、地獄から帰る時、振り返ってはならないのだ。
 やがて子供たち全員が、一階、礼拝堂へと帰還する。震え、泣きじゃくる子供たちを、ポテトとノースポールは優しく抱きしめた。
「皆、大丈夫? もう安心だよ」
 ノースポールが、少女の頭を撫でて、落ち着かせた。少女はしゃっくりをしながらも、徐々に泣き止み、頷く。
「この中に――と言う子のお兄さんはいるかい?」
 ポテトが声をあげるのへ、おずおずと手をあげる少年の姿があった。それは、最初にポテトが助けた――祭壇に横たえられていた少年だった。
「そうか。君が弟を逃がしてくれたおかげで、私達は危機を知ることができた。ありがとう。そんな勇敢な君に、私たちから頼みがある」
「今から悪い奴らをやっつけてくるから、皆でここで待ってて……大丈夫、私達は、負けたりしないから」
 ノースポールの言葉に、少年は頷いた。自身の行動を称えられたのが嬉しかったのか、その目には確かな決意がうかがえた。
「お腹がすいていたり、のどが渇いている子が居たら、このバスケットの中身をあげてくれ。おちゃと、おにぎりが入っているから」
 ポテトはバスケットを少年に託すと、ノースポールへと視線をやる。ノースポールが頷くのを確認して、二人は再び、走り出した。

 アンティノーラの編みだした魔術の氷が、室内へと降り注いだ。肌を切り裂く、鋭利な氷の破片。
「死ね! 死ね! 悍ましき邪悪の徒よ!」
 狂気に陥ったアンティノーラの、悲鳴のような声が響き渡る。
「悪逆の徒、って、どっちがですか……っ!」
 ユーリエはお返しとばかりに、その剣を、弓を構えるように掲げた。途端、刀身より溢れる紅の魔力が、柄を通して上下に広がり、弓のような形をとる。同時に、魔力は紅の矢をも生成していた。
「撃ちますッ!」
 ユーリエの放つ矢が、アンティノーラの足元に着弾、爆発する。身構えるアンティノーラ。カイーナがとっさに回復の術式を飛ばすべく詠唱を始めるが、それを『視て』阻止したのは、アーリアだった。黄金色の魔眼。すべてを蕩けさせる、それは甘い蜜。
「ざぁんねん、おねーさんと、遊びましょ?」
「おのれぇ……っ!」
 カイーナが術式の弾丸を放つ。しかしアーリアは、その黄金色の目を離さない。
「しつこい女は嫌い? でもぉ、今日はめいっぱい、しつこくしちゃう」
「いいぞ、そのまま抑えていてくれ!」
 ウィリアムが放つ、流星の剣! 放たれたほうき星が、カイーナの持つロッドを砕く!
「しまっ……!」
 うめくカイーナへ、
「はい、そこまでよぉ」
 ゆるりとした動作で放たれた、アーリアの投げキス。魔力を帯びたそれが、カイーナを撃ち抜く――内部から迸る、熱と焦燥。それは毒となって、泥となって、内部から犯す、恋の病。
「そんな……ッ!」
 断末魔の悲鳴を残し、カイーナがキスの炎に焼かれて消える。
 一方、合流したポテトとノースポール、そしてユーリエがアンティノーラへと対峙する。
「私が足を止めます!」
 ユーリエの放つ、吸血鬼の鎖。手にしていた杖をからめとられ、アンティノーラは身動きが取れない!
「ベアトリーチェの復活なんて幻想は、ここでお終いだ……ポー!」
「はいっ!」
 ポテトの編む回復術式を背に受けて、ノースポールが突撃する。その手に編まれる虚無の刃。
「あなた達の目論見は、ここでお終いだよ!」
 振り下ろされた刃が、アンティノーラの身体を切り裂いた。
「う、嘘……!」
 かふ、と呼吸を吐きだし、アンティノーラはその意識を手放した。
 戦いは続いていた。ジュデッカとリゲル、そしてアンナの激しい撃ち合いの応酬が、地下空間に響いていた。
「ベアトリーチェはもういない! 復活も不可能だ!」
 叫びと共に、リゲルが刃を振り下ろした。交差する、ジュデッカの刃。
「邪教の徒の言葉など、とどかん!」
 振り払うジュデッカ――続くアンナが水晶の刃を煌かせる。
「イレギュラーズである私達の血を捧げれば、ベアトリーチェも喜んでくれるかもしれないわね?」
 鋭い斬撃を、ジュデッカは盾で受け止めた。
「ほざけ!」
 豪、と響く雄たけび――意識を集中せずにはいられぬほどの轟音。リゲルは、その轟音にびりびりと肌を震わせつつも、不敵に笑ってみせた。
「一気に仕留める……合わせられるかい?」
「もちろんよ。当てにして?」
 リゲル、そしてアンナが一気に走り出した。まず斬り出したのはリゲル。上段から振り下ろした刃で、ジュデッカの刃を叩きつける。
「仮にベアトリーチェを復活させたとしても――!」
 刃を交差するように、リゲルは刃を振り下ろした――と同時。膂力を持って、その刃を今度は振り上げる。ジュデッカの手にした刃を、今度は上へ、弾き飛ばす――その隙をついて、飛び込んできたのはアンナだ。
「私たちが倒すわ。何度だって!」
 その開いた身体に向けて放たれる、三日月の如き剣閃――! その一撃は、ジュデッカの命に届いた。がふ、と地を吐き、ジュデッカが倒れる。
「……終わりだな。お前らの、つまらねぇ悪夢も」
 グドルフは、傷だらけの身体をものともせず、にぃ、と笑ってみせた。
 対峙する、トロメア。彼もまた、決して浅くはない傷を負っていた。
「――終わらない。我らが聖母は、必ず、再び現世へ」
「そうかい!」
 グドルフは、吠えた。突撃する。トロメアもまた、手にした斧を振るい、グドルフを迎え撃つ。
 交差する、斧と、斧。
 相手を捉えたのは、グドルフのそれであった。
「例えガキの命を捧げたって、死んだ奴(ベアトリーチェ)が帰って来る訳がねえだろうが、バカ野郎。――ま、イカレちまった奴に何言ったって届かねえか」
 どこか寂し気に、グドルフは言った。
 戦っていたからこそわかる、トロメアの実力。
 あるいは狂気に陥っていなければ、彼は勇敢な戦士だったのかもしれない。
 されど――。
 トロメアは、どさり、と倒れた。
 静寂が――地下を、しん、と支配していた。

 地上へと戻ったイレギュラーズ達を、迎えてくれたのは子供たちだった
 その眼は、自分たちを窮地から救ってくれた英雄たちへの、感謝の色に染まっている。その視線が、どこかくすぐったく、そして誇らしかった。
 天義復興の影で巻き起こった闇は、こうしてイレギュラーズ達の手によって払われた。
 そして、子供たちはきっと、自分たちを救ってくれた英雄たちの姿を、生涯忘れることは無いだろう――。

成否

成功

MVP

グドルフ・ボイデル(p3p000694)

状態異常

なし

あとがき

 リクエスト、そしてご参加ありがとうございました。
 勇敢な英雄たちの手により闇は払われ、子供たちも無事、家族の元へと戻ったことでしょう。

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