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シナリオ詳細

リコリス・トライアングル海域にて

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

アクセル・ソート・エクシルの蒼那による関係者1人+PCトップピンナップ

●華燭
 銀の髪の乙女が姿を消したと言う。
 欲に塗れた乙女に訪れる筈であった細やかな幸せは潰えたと依頼人の男は泣いた。
 不憫であるとリュミエは胸に手を当て声を震わせる。実に、不憫で身に詰まされる思いであると。
 彼女が消えた場所へと、ペリカ・ロズィーアン達、探索隊を伴い訪れた大魔道は流れ込む映像を見た。

 美しき倶蘭荼華。その中で男が傅いている。
 傍に佇む男には旅人の如き角が額より生え、裾の広がる衣服に身を包んでいるのが見えた。

 ――けがれの巫女よ。よくぞやった。
 ――ああ、貴女は、清き乙女。巫女姫様ではあるまいか!

 傅く男の言葉と共に、その映像は掻き消える。それは一体なんであったか。
 リュミエは直ぐ様にその場所を禁足地とした。その異様な光景が『混沌世界のもの』である確証が、『その時』の彼女には得られなかったからだ。


●魔の海域とリコリスクジラ
 吹き抜ける潮風と連続する波の音。
 海鳥の声が聞こえるほどに近いネオフロンティア海洋王国の沖を、一隻の船が進んでいく。
 船の旗には缶詰と猫のマークがはためき、デッキでは猫獣種の男の子がつけひげのいちを直しながらピッと手をかざした。
「我が名は海賊船長ソマリ! ツナ缶海賊団の船長ニャ! 今日もぼーけんにでかけるニャー!」
「「ニャー!」」
 応えるようににくきゅうを突き上げる二人の猫獣種。
 航海士キジシロは望遠鏡を、甲板長クロは小さな海図を掲げてみせる。
「船長、前方にあやしい影が見えるニャ」
「ニャニャ!? ボクには見えないミャー」
「クロは背が低いからニャ」
「そんなことないミャー! 毎日牛乳飲んでるミャー!」
 彼らは『自称海賊』のツナ缶海賊団。
 海洋王国が外洋遠征にでかけ、大いなる運命と敵に立ち向かわんとしているまさにその時期。
 彼らは小さな冒険を繰り返していた。
 海で大きな空マンタが出たと聞けば見物しにいき、漁師のドムおじさんが今日は大漁だったと聞けばのりつけておさかなを要求した。
 彼らは手作りの小さな海賊船で、今日も本当の大冒険を夢に見ている。
 いつか『伝説の大海賊』のように、大海原に飛び出すのだと……。
 だが今日は、彼らにとって『大きすぎる』冒険が待っていた。
「なんニャ? 船が揺れすぎにゃ。クロー! もっと丁寧に運転するにゃ!」
「してるミャー!」
「あ、あれ……?」
 望遠鏡をのぞき込み、目をぱちくりとするキジシロ。
「下に何かあるニャ?」
 デッキの先端に駆け寄り、ソマリは海面を見下ろした。

 それは大きな大きな影だった。
 それは大きな大きな闇だった。
 それは大きな大きな口だった。
 例えば池の鯉が水面に浮かぶ餌を喰らうように。
 その巨大な存在は、ソマリたちの船に食らいついた。
「ニャニャアアアアア!?」
 激しい揺れと沈みゆく船。
 底なしの闇にもにた巨大な口の奥底に引きずり込まれるのを、ソマリは実感した。
 だが――。
「ソマリ、逃げるミャー!」
 クロが彼を突き飛ばし、船の外へと放り出す。
 振り返ると見えた、巨大な存在――クジラの姿。
 クジラの背には、漆黒の彼岸花がびっしりと咲いていた。
 それが、ソマリにとっての最後の記憶であった。

●世界でおこる『神隠し』
 いま、世界のあちこちで神隠し事件が起きていた。
 幻想の迷宮で、天義の地下教団跡地で、深緑で、鉄帝で、ラサで――そしてここ、海洋でも、それは起こっていた。
「つまり、その海上神隠し事件を調査すればいいんだね」
 イレギュラーズの仲間たちと共に、海沿いのカフェ『フェルヴェール』で珈琲片手に依頼人の話を聞いてたアクセル・ソート・エクシル(p3p000649)は、依頼書を受け取ってこっくりと頷いた。
 依頼人の海種男性は、胸ポケットにペンをしまって頷いた。
「そうなりますね。
 地図にある海域『リコリス・トライアングル』には昔から不気味な噂がありました。
 船が突然消えるとか、漁に出た海種が帰ってこなかったとか。
 我々はそれをただのホラ話だと思っていたのですが……最近になって本当にこの海域で姿を消す船が出始めたのです」
 特定海域における突然の失踪。
 時には船ごと。時には船の『乗員だけ』が消えてしまうというその怪事件。
 調査にはだいぶ手子摺るだろう……とアクセルたちが考えていると。
「それはリコリスクジラの仕業にゃ!」
 松葉杖をついて、海賊船長ソマリがカフェへと駆け込んできた。
「ワガハイは見たニャ。キジシロたちと一緒にだいぼーけんに出た時、海の底から現れたでっかーーーーーいクジラをニャ」
 ソマリの話を(脚色を抜いて)解説するとこうだ……。

 リコリス・トライアングルを航海中、ツナ缶海賊団は突如として巨大なクジラ型モンスターに襲われた。
 クジラの背には『漆黒の彼岸花』がびっしりと咲いており、その特徴的なフォルムと闇のような黒さは忘れられないという。
 仮称『リコリス・クジラ』はツナ缶海賊団の船を丸呑みにし、キジシロたちをも飲み込んでしまった。
「なんでそんな沖まで行ったんです」
「うう、その日はいつもより冒険をしようと思って……ハッ、思ったのであるニャ!」
 時は外洋遠征。海洋王国の悲願がついに叶うと期待されている今である。ツナ缶海賊団たちも、いつもの浅瀬を抜け、自分たちなりの大冒険をしたくなったのだろう。
「けど、キジシロもクロも生きてる……そんな気がするニャ。アクセル、クジラを倒してあいつらを取り戻してニャ!」
 
●リコリスクジラ
 それからしばらくして、情報屋はリコリスクジラに関する情報を集めてきた。
「確かにリコリスクジラはリコリス・トライアングルに生息する巨大モンスターです。
 獲物を狩る際の手際やいくつかの特徴から、別の海域にいる同種のモンスターの情報が対策に使えそうだとわかりました」
 まずリコリスクジラの狩りの方法について説明しよう。
「『ツナ缶海賊団』は小さな船だったから丸呑みにするだけにしたようですが、ちゃんとした戦力があるとみなせば、クジラ側もそれなりの攻撃手順をとるでしょう」
 リコリスクジラは海底から狙いをつけ、まず共生関係にある『ジャベリンクラゲ』を大量に放つところから狩りを始める。
 ジャベリンクラゲは海面から飛び上がりいちど飛行状態になってから船の甲板に向けて自爆攻撃をするクラゲである。
 これによって対象を弱らせたところを喰うというスタイルだ。
 そのため、はじめはクラゲの撃墜が主になるだろう。
 撃墜を済ませたら、いよいよ浮上してきたリコリスクジラとの戦いだ。
「クラゲによる撃滅ができなかったと判断すれば、リコリスクジラは直接食らいつくというリスクの高い方法をさけ、一度離れた場所に浮上し戦闘を仕掛けてくるでしょう」
 予測されるのは珊瑚魔法によるミサイル射撃だ。
 空中に形成した爆裂珊瑚を発射し、船の乗員たちへと爆撃するというものである。
「図体はでかいですが、海中海上での動きは素早いはずです。危険な仕事ですが、どうか気をつけて」

GMコメント

■オーダー
・リコリスクジラの撃滅、および『漆黒の彼岸花』の処理

 リコリス・トライアングルでおきている神隠し事件に関わっているとみられるモンスター『リコリスクジラ』の撃破をもって、再発を防止しようというものです。
 一応、クジラを倒した後におなかの中に入ってキジシロたちを探索しようという予定ですが……?

 戦闘は船の上で行われます。
 自前の船があるならぜひそれを利用してください。

●戦闘前半
 海面からジャベリンクラゲが飛び上がれば戦闘開始です。
 これらを撃墜し、船や自分たちを守りましょう。
 射撃や近接攻撃での破壊、もしくはタンク役によるガードが有効です。

●戦闘後半
 クジラとの戦いです。
 珊瑚による苛烈なミサイル攻撃に注意してください。
 ミサイルには【氷結】【崩れ】の効果があり、連続でくらうとかなりキツいことになるでしょう。
 クジラの能力は総じて高いですが、特にHPとEXAが高いようです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • リコリス・トライアングル海域にて完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年04月19日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
弓削 鶫(p3p002685)
Tender Hound
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
ヴォルペ(p3p007135)
満月の緋狐
ミィ・アンミニィ(p3p008009)
祈捧の冒険者

リプレイ

●港町にて
 グレイスフルイザベラ号。港に停泊していた己の愛船を見上げ、『大号令の体現者』秋宮・史之(p3p002233)は眼鏡のブリッジを押した。
「久しぶりの海洋、落ち着くなー」
 女王に惚れ込んでからというものどんな依頼でも海洋がらみならと引き受けてきた史之の基本ムーブが、わりと久々に戻ってきた感があった。
「それにしても彼岸花が咲いてる鯨か。女王陛下の海で事件が起きるなんて大問題だ」
「あのクジラの生態にキョウミはあるけれど、まずはハラを掻っ捌いてキジシロたちを助けなきゃね!」
 いそいそと船に乗り込んでいく『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)。
 今回の依頼内容は神隠しの頻発する海域の調査および原因とみられる華の処理である。
 リコリス・トライアングルは古くからそういう名前で呼ばれていて、時折船が消息を絶ったり船の乗組員だけが消えたりといった事件が起きたことからあまり人がよりつかなくなったという。
 そして今回新たに発見されたのが巨大なクジラ型モンスター。背に大量の『漆黒の彼岸花』をさかせたクジラが船をまるごと飲み込んだという事件報告をうけ、依頼内容はこのクジラの撃滅へと定まった。
「ここ最近、本当に巨大目標と縁がありますね……」
 組み立て式の大型ボウガンを装備し、レバーをがちゃりと操作する『Tender Hound』弓削 鶫(p3p002685)。
「それを踏まえた上での新たな戦闘スタイル――果たして、通用するか否か」

 イレギュラーズは存在、ないし行動しているだけで世界滅亡を回避するとされている。それがパンドラ収集であり、ローレットの根本的な存在意義である。
 一方において、ローレット・イレギュラーズに世界救済の義務はない。善意や正義感から生まれた組織であることは間違いないが、暗殺や窃盗、拷問や誘拐といった悪事にとて手を貸す世界的な中立組織である。
 ……なぜこんな前置きをわざわざ述べたのかというと、今回イレギュラーズに課せられたのは依頼の遂行であって事件の真相究明ではなく、仮に真相を求めたいのならばそれは個々人の依頼外行動に扱われるためである。そして依頼遂行中、依頼内容に反するないしは著しく阻害する行動をとるべきではない。できる範囲は、いつも限られるのだ。
「神隠し事件に繋がる何かを一つでも得られればいいけれど」
 依頼人の目的は再発防止。真相究明を行うならば、その内側で行動する必要が、あった。
「ま、おにーさんは裏方の方が似合ってるから表立って動くより、こっそり危険へ踏み込む方が好きだよ。君は?」
 急に話をふられ、『ディザスター』天之空・ミーナ(p3p005003)はハッとして手入れ中の剣から顔を上げた。
「どうかな。最近あちこちで神隠し事件が起きていやがる。まさか海にまで出るたぁ、とは思ったが……」
 手入れを終え、剣を鞘へ収める。
「ま、それより先に怪物退治だ。こっそりもなにも、堂々とぶつかっていくほうが性には合ってる」

「みんなを助けてにゃ! おねがいだにゃ……ハッ! おねがいするのであるニャ!」
 途中からキャラを作って胸を張るツナ缶海賊団船長、ソマリ。
「もちろん!」
 『猫さんと宝探し』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)は胸をどんと叩いてみせた。
「キジシロとクロを早く助けないとね。ツナ缶海賊団、誰が欠けてもダメだよ!」
「さすがアクセル、わかってくれてるにゃ!」
 今回港に泊めてあるのは史之のグレイスフルイザベラ号と、ヴォルペの黒い小型船の二隻である。
 この二隻体制でクジラをおびき寄せ、そして倒そうという考えだ。
「キジシロ様とクロ様は鯨に食べられたまま……。
 鯨のお腹の中で小さな冒険家の方々はきっと不安がっているでしょう。
 仲間のソマリ様もそうですが、ご家族の方もきっと心配しておいででしょう。
 家族のことは僕にはよく分かりませんが、その絆がとても大切なものなことだけは分かります」
 胸に手を当て、深く呼吸を整える『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)。
「今回は、よろしくお願いします」
「はい、がんばりましょう!」
 『大いなりし乙女』ミィ・アンミニィ(p3p008009)はたかすぎる身長ゆえにか、やや腰をかがめるようにして幻にこたえた。
「クジラに飲まれたと言うねこちゃ……こほん。獣種の方々、無事であれば良いのですが」
 今は無事を祈ること、そしていちはやくリコリスクジラを倒すことに専念せねばならないだろう。

●リコリス・トライアングル海域
 船が進むさなか、突如として鶫が声を上げた。
「ソナー反応。狙われています」
 仲間達にはしる緊張。
 と同時に海面を抜けて空へと飛び上がるクラゲの群れ。
 リコリスクジラと共生しているというジャベリンクラゲに違いない。
「迎撃態勢――!」
 鶫は強襲式魔導甲冑『Ω』のホバー装置を起動させると対空迎撃の姿勢をとった。
 ジャベリンクラゲをロックオン。
 人の腕ほどはありそうな矢を発射した。
 空中で反転し今まさにこちらへ飛びかかろうとしていたジャベリンクラゲの一体に命中。空中でドカンと爆発を起こさせた。
 おちる塵に目もくれず、アクセルは平手を地面に打ち付ける。
「皆、いくよ!」
 反動で飛び上がり、翼を広げてデッキでの低空飛行(ホバリング)姿勢へ移行。
 アクセルは構えたバイオリンの音色で魔力弾が大量生成すると、高射砲のごとく連射した。
 こちらへと向かってくるジャベリンクラゲを数匹まとめて迎撃。
 爆発するそのさまを見て、幻と史之はジャベリンクラゲの性質をおおまかに把握した。
「どうやら、エコーロケーションに似たスキルで船の大きさと乗組員を測定したようですね」
「といっても海の底からのエコー。船影はともかく乗組員の数や配置までは把握しきれないはず。だからある程度はまとめつつも――」
 二人は同時に振り返り、全くの逆方向から飛び上がったジャベリンクラゲたちを目視確認した。
「全方向から包むように砲撃する!」
 跳躍、と同時にそれぞれの翼なき翼を広げる幻と史之。
「お目覚めになられませ祭神よ、根の国へ贄を流し奉る――!」
 史之によるバフが船のデッキに広がっていく。
 船上での戦いは足場になる範囲が狭く範囲攻撃への巻き込みが起きやすい一方、こうした範囲バフの効果を維持させやすいというメリットもある。混沌世界での船舶戦闘が船単位で考えられるのもそのためだ。
「幻さん、砲撃を!」
「絆を壊させなどしません!
 絆は壊れてしまえば儚いものですから……」
 くるりとまわしたステッキの先端から水が噴き出すかのごとく幻影が噴射され、大量のサメや船や銛をもった男たちが形成される。
 一度に複数体のジャベリンクラゲを破壊した幻。
 しかし全てを破壊しきれたわけでない。
 反転を終えたジャベリンクラゲが足(?)からジェット噴射をかけ甲板へと突撃開始。着弾と共に爆発することは目に見えた。
 ゆえに。
「おにーさんの――」
 赤いシャツにしめた黒いネクタイを指でくいくいとゆるめ、強くシャツごと掴んだその瞬間。
「出番だね!」
 上半身をいっきに脱ぎ去っていきなり半裸になった。
 あまりのインパクトにうっかり注意をむけてしまったジャベリンクラゲたちがヴォルペに殺到。
「はははは、楽しくなってきた!」
 とかいいながら爆発の白い煙にもりもり包まれていくヴォルペ。
「え、え……? 大丈夫なんですか? 防御が堅いことは聞いていましたけど、あの……」
 ミィがヴォルペとミーナを交互に見ながら不安げに慌てたが、ミーナは『まあ好きでやってるからな』と放置する姿勢をみせた。
「それより、来るぞ」
「わっ――!」
 背後から迫るジャベリンクラゲを、かざした腕で防御するミィ。
 爆発に晒されるも、持ち前の頑丈さゆえにたいした被害にはならなかった。損害率でいえば1~5%といったところだ。
 更には飛んでくるジャベリンクラゲを空中でがしりとつかみ取り、自爆するまえに遠くにぶん投げることで撃退していく。
「一つ一つは小さくても、数が多すぎて……」
「頭数には手数で対抗だ。そのまま抑えてろ」
 ミーナは『希望の剣【束】』を抜いて闇の領域を形成。ジャベリンクラゲたちを巻き込むようにして力を発動させた。
「――『 さあ、恐れ慄けそして食われろ。その闇は、貴様自身の闇である』」
 連続して起こる爆発。
 イグナートはぴょんと飛び上がり、ミィの肩パット装甲を踏み台にして更に跳躍。
「「自爆攻撃なら倒せなくても船に当たらないようにそらせればオッケー!
 小型船が危なくなってきたらオレの身体で受け止めて守るよ! ケッコウ頑丈だからね!」
 そう言いながら、高所からすさまじい速度での連続パンチを繰り出した。
 パンチはひとつたりともジャベリンクラゲに届かないが、おきた風圧がそのまま弾丸となり、拳型の空気がジャベリンクラゲたちを次々に爆発させていく。
 一通りの迎撃が済んだ……その段階で。
「おっと、ソロソロお出ましかな」
 甲板に着地したイグナートは、こちらへ近づいてくる巨大な影を感じていた。
 水面を割って浮き上がるそれはまさしく、クジラ型モンスターリコリス・クジラである。

●リコリスクジラ
 浮上と同時に空中へぱきぱきと音をたて発生する珊瑚の槍。後部から魔力噴射を起こし、船へぐねぐねとした軌道をえがいて飛来する。
 いわゆる珊瑚ミサイルだ。
「続きといこうか。おにーさんのお仕事は護ることなんでね。イグナート君、全速前進ヨロシク!」
「無理は禁物……て言ってもムダかな!」
 操縦席に飛び乗り、アクセルペダルを踏み込むイグナート。
 スクリューの回転によりクジラめがけて全身した船。船めがけてうなぎののたくるような軌道で迫るミサイル。
 船首側へと飛び出したヴォルペは両腕をクロスし、ミサイルの集中を引きうけた。
 ジャベリンクラゲとは比べものにならないほどの爆風がヴォルペを中心にはしり、あまりの衝撃に吹き飛ばされる。
 身体が凍り付き平衡感覚までもが失われる……かに見えたが。
 ヴォルペはだくだくと血をながし笑うばかりで、凍り付いたはずの腕を器用にくねりと動かしてみせた。
「言ったろ。護るのが仕事だって」
「だからって回復量を割るほど無茶をして……ま、そうでもしないと勝てない敵だけどね」
 併走する船を操縦していた史之は『祭神降臨・根之益荒男』を用いてヴォルペの守りを強固にすると、神威を行使しつづけヴォルペの傷口を修復していく。
「俺は痛いのは嫌いだよ、おまえだってそうなんだろリコリスクジラ? 逃げ回っちゃってさ」
 船はリコリスクジラへ充分に接近――したところでスクリュー逆回転ブレーキからのドリフト。
 後方へ回り込む船。大きく傾くデッキ。
 史之は手すりにつかまって耐性をいじしながら、リコリスクジラの背にひろがる黒い彼岸花をにらんだ。
「あれが神隠しの原因? それともクジラ自体が? どっちでもいい、これ以上の被害は出させない!」
 リコリスクジラが反転しさらなる攻撃をしかけよう……としたその時。
 側面に着弾した杭のごとき鋼鉄の矢が魔術爆発を起こした。
 軌道をたどった先。
 船のデッキに身をかがめ、安定した射撃しせいをとった鶫が巨大なボウガンの『弾倉』をレバー操作で開いた。空になった炸裂ディスクが排出され、かわりに新たな矢を装填。
 側面に『NIGHTMARE』と刻まれた矢を重心に収めると、ボウガンのリム部分が畳まれかわりに撃鉄が起きた。
 ハープーンライフルと化した弓のひきがねを強くひくと、リコリスクジラめがけてさらなる矢が突き刺さり新たな魔術爆発を引き起こす。
 無理矢理開かれた傷口。流し込まれる毒。流れ出る血やエナジー。続けて抵抗力を激減させる魔術が込められた矢(というか銀の杭)をセットする鶫。
「このスタイルの弱点は、燃費です。1サイクル回した後はしばらくBlackDog-Effectによるエナジードレインを行わねばなりません。ですがそれだけに、短期決戦にはきわめて強力」
 銀杭を発射し、『ハリーアップ』と叫ぶ鶫。
「効き目がある間に勝負をつけてください。突破口は開きました」
「りょーかいっ!」
 アクセルはヴォルペの船から飛び上がると、幻をつれてリコリスクジラの背へと飛び移った。
「爆撃開始!」
 ストラディバリウスを奏でることで小さな魔術爆弾を大量に生成。投下していくアクセル。
 一方で幻はステッキをくるくると回して海のあちこちから黒い板の幻術を生成。リコリスクジラを包み込むと、その内部で激しい爆発を起こさせた。
 ぱかんと全方向に開いた箱からは、派手に表面の焼け焦げたリコリスクジラが現れる。
 直後、アクセルや幻たちへと珊瑚ミサイルの反撃が始まる……が。
「させません……っ!」
 船から助走をつけて飛び上がったミィがクジラの背へと着地。発射されるミサイルを直接鷲掴みにすると、手の中で爆発させた。
 次々とおこる爆発。
 しかしミィは負けることなく新たなミサイルをつかみ取り、リコリスクジラに開いた傷口へと直接突っ込んで爆発させた。
 ゴオウという雷鳴……いや、リコリスクジラの悲鳴がした。
「死が恐ろしいか、リコリスクジラ。だが悪いな」
 ミーナもまた飛び上がり、クジラの背へと飛び乗っていく。
「嫌でも死んでもらう!」
 剣をつきたて、直接魔力を流し込むミーナ。
 激しい毒と炎がエネルギーの渦となってリコリスクジラの体内をかけめぐり、そしてあちこちの傷口から血や黒い炎となって吹き出ていく。
 イグナートはトドメとばかりに跳躍。空中で反転すると、リコリスクジラの背めがけて強烈なキックを繰り出した。
 皮膚を切り裂き肉を穿ち骨を断ち、そして海中へと突き抜けていくイグナート。
 リコリスクジラは最後にゴオウという悲鳴をあげたのち……ついに、動かなくなった。

●神隠し
 ヴォルペの船のうえ。
 イグナートは口を開けたままぷかぷかと海に浮かぶリコリスクジラの死体を眺めていた。
「あれが、カミカクシの正体だって?」
「さあね。証拠はないし」
 ヴォルペは運転席に座り、腕組みをしてした。
「それにしても漆黒の彼岸花、ねぇ。美しいものは好きだよ、それにどんな毒があろうとも」
「もしあれが原因なら、いくつかローレットに持ち帰ってみては?」
 幻がそんな風に提案したが、ミィが不安げに眉尻をさげた。
「いいのでしょうか。依頼内容は花の処理でしたけど……」
「よかぁねえよな」
 船の手すりに腰掛けるようにして足をぶらつかせていたミーナ。
「仮に……仮にだぞ? あの華が神隠しの原因だとして、ローレットに持ち帰ったらどうなる? 私らまとめてどっかに飛ばされるのか? ていうか……神隠しって、飛ばされたやつは無事なのか?」
 土や壁の中に呼び出して殺すトラップだったら最悪である。
 とはいえ、そこまでのことをわざわざする必要がないとも、言えた。
「適当な袋にでも詰めときゃ安全かな」
「安全な収容方法が分からないうちから実験的に……それも重要な場所に収容するのは賛成できないな」
 史之はリコリスクジラの肉を切り取りながら語った。
「事故が起きたとき、失うものが大きすぎる」
「たしかに」
「とはいえサンプリングは重要ですね。一輪くらいは持ち帰りましょう」
 ……といった話のかたわら。
「撃破確認、救助に移行しましょう。……お腹の中は、これで3度目です」
 そんなふうに言いながら、鶫はリコリスクジラの口のなかへと飛び込んでいった。
 同じく口へと飛び込むアクセル。
 そして……。

「クロー! キジシロー!」
 呼びかけるが応えはない。
 アクセルはリコリスクジラの中を進んでいったが、そこで見たのは小さな船のみ。
 旗や小物類からこれがツナ缶海賊団のお船だということはわかったが……。
「キジシロたちがどこにも見当たりませんね」
「感情のサーチにもかからないです。まさか……」
「いや、船はこの通り無事だ。人だけ消化されるなんてことはないだろう」
「て、ことは……」
 アクセルたちは、新たな事実に直面した。
 キジシロたちが神隠しにあったという、事実である。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――任務完了。調査を継続します。

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