PandoraPartyProject

シナリオ詳細

未世界エネルケア

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●小さな世界
 小さな息吹がひとつあった。
 空白に植えられた種子は芽を出し、やがて小さな小さな世界となった。
 天上には蒼空と雲、大気と太陽がある。大地には丘と平野と無機質な土と岩。大地を囲むのは大海で、ただひたすらに濃い碧が広がっている。
 そんな生まれたばかりの世界。
 まだ何もない世界。
 そこに幼い小さな少女がぽつんと座っていた。
『エネルケア』
 少女が自分の名前として認識するもの。そしてこの何もない世界の名前でもある。
 言葉も知らない世界の、唯一の言葉だった。
「…………」
 ぼんやりと世界を見やる。
 その目には、世界の端から端が映っている。
 どれも同じようなものだった。何も変化のない穏やかな世界。
『エネルケア』は生まれる前に幾つかの可能性と願いを込められている。
 それを少女は自分の中に感じている。
 でもそれをどう発展させたら『可能性』は芽吹くのか、わからなかった。
 だから、手を伸ばした。
 昔も誰かがこうしていたような既視感を覚えながら、そっと虚空へ。

●何もない世界へ
「ふふ、何だか懐かしい気持ちのする世界ですね」
 そう言って笑うのは、白い少女。境界案内人のデュナ。
 デュナはころころと鈴音のように笑い、イレギュラーズに向き直る。
「ここは生まれたばかりの世界です。空と大地と海以外は何もありません」
 生命は未だなく、夜も存在しない。
 そんな世界に少女が求めるのは。
「かつて彼女の母親はたくさんの『可能性』を込めて彼女を生みました。けれどまだそれは芽吹いていません。ですから、皆さんで『可能性』が芽吹くお手伝いをしてみませんか?」
 そして再び笑った白い境界案内人は、優しく言葉を紡ぐ。
「さぁ、行きましょう。エネルケアへ」

NMコメント

 皆様、お久しぶりです。お初にお目にかかる方は初めまして。灯火(とうか)です。
 今回初めてのラリーシナリオにチャレンジです。よろしかったらご参加ください。

●シチュエーション
 空と大地と海だけの生まれたばかりの世界。
 皆様が望む場所に一瞬で行けます。時間と距離の概念がまだありません。そこにこの世界の創造主であるエネルケアという少女を連れて行って、自分が思う世界を話してあげてください。

●一章
 世界創造。
 この何もない世界に時間や季節、昼や夜などの概念を与えましょう。
 時間というものはこんなものだとか、こんな季節があったら良いのだとか、イレギュラーズの見たい自然の姿だとか、色んなものを与えてあげてください。
 単に『夜空を見上げる』『海を泳ぐ』などでも、エネルケアが何か感じたら増えていくかもしれません。
 また、他に『北にはこんなものがある』、『南ではこんな現象が起こる』、などのように土地そのものや土地ごとに違うものが見られると次章での変化も富むことでしょう。

●二章
 生命創造。
 時間や季節などができたなら次は生命です。
 植物や動物を話してあげてください。魚や虫や鳥や動物、人や知的生命体などもここで話せば生まれます。
 皆様の思い思いの生き物を想像して話してください。多機能で便利な生命や、何の役に立つかわからないような能力を持ったものでも構いません。

●三章
 二章までの出来で変化します。
 どうぞ楽しみにしていてください。

●NPC
 デュナを呼んで連れて行くことが可能です。
 彼女は自分が境界案内人になる以前のことは全く覚えていません。

●皆様へ
 お目通しいただきありがとうございます。
 以前出させていただいた『終わる世界の片隅で』の次の世界となります。
 未だ不完全な世界を少しずつ作り上げていく物語となっています。
 皆様が作り出す新しい世界をどうかお楽しみください。

  • 未世界エネルケア完了
  • NM名灯火
  • 種別ラリー(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年05月05日 21時33分
  • 章数3章
  • 総採用数14人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)
謡うナーサリーライム

「この世界は生まれたばかりなのねぇ。おはようと、おめでとう、だわ」
 荒野に佇む空白の少女の前に現れたのは、白鹿と月の欠片のような妖精。
「お招きをどうもありがとう、エネルケア」
 白鹿ーーポシェティケトが少女と同じ目線で柔らかく言う。
「?」
 言葉をよく知らない少女は、きょとんと首を傾げる。目の前にいる鹿と妖精は未だこの世界には存在しないもので、ただただじっと見つめるだけだ。
 そんな少女の周りを、砂妖精がくすくすと笑いながら飛び回る。
「ワタシは森が好きだから、たっぷりの緑とふかふかの苔と背高な木でいっぱいの森を想像してみるわね」
 それは『可能性』がまだ芽吹かない世界への呼水。
 言葉もわからない少女は、鹿の頭にそっと触れた。

 その刹那、荒野の赭は新緑へと彩られた。
 木々がそびえ枝葉が空に伸び、太陽が隙間から射し込む。地表には踏むと足跡が付いてしまいそうなくらい深い苔に覆われて。
 むせ返るほどの強い緑の匂いに少女はふらふらと体を傾がせる。
「背中にお乗りになって、エネルケア」
 ふと白鹿が脚を折って少女の前に座る。
 じっと数秒見つめた少女は、その背に跨がり。
 そして白鹿は駆け出した。日溜まりを、緑に覆われた土の上を。不思議とポシェティケトの歩む場所に足跡は付かない。
 まだ広がり続ける世界を見て、少女は何を思ったのか。

「白鹿の森……」
 ふと洩れた少女の言葉。
 それがこの場所に付けられた名前だった。

成否

成功


第1章 第2節

ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
同一奇譚

「私――此度の文字列を思考すれば我等『物語』と認証を変えるべきか」
 少女の前に現れたのは、『何か』。形容しにくい存在。少女と同じようなヒトの姿に似ているのに、どこかその輪郭は曖昧で。
 そんなオラボナの登場に少女はきょとんとするばかりで。彼女は少女に手を乗せる。
「昼と夜が在るならば、光と闇を説くことは不要だろう」
 ノイズの声でオラボナがそう言えば、太陽が沈み、世界は紺色の暗闇に包まれ、星と月が煌めいた。
 それを見たオラボナは苦笑した。
「ならば純と混。秩序と無秩序の在り方を世界に垂らすが好い」
 真実の海は偽りの波を生じ、その波を包み込む正しさの仮面が涌く。
「?」
 それを戸惑うように聞くは空白の少女。
「貴様は如何なる世界を餓えるのだ。何が起きても『争い』の悲劇は止められぬ」
 何が起きても、起こることが波紋である限り、その波はやがて他の波と衝突を起こす。
 それもまだ芽吹いていない今では理解できない。少女はわかるように、理解するようにじっとオラボナを見つめーーふいに空を見上げた。
 空には夜の帳に散りばめられた星々がある。
「……混沌の夜空」
 そこに名を付ける。
 それは少女が少女なりに理解しようとした『世界の闇』の形。
 ずっと続いて欲しい安寧の闇。
「そうか、そう名付けたか」
 ノイズの言葉がほぅとこぼれる。
 どんなに不自然だろうと、自然だと思い込めば『当たり前』である。
 Nyahahahaha!

成否

成功


第1章 第3節

サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り

「なんだここ? なんにもねぇや」
 そう言って少女の前に現れたのは、少年のような風貌の人。
「ここまで何もねえとサンディ様の大活躍って訳にもいかねーな。さーて、何したもんか」
 そして足元に座り込む少女の姿を認めたサンディは。
「あ、今の俺は世界に何か足せるんだな?」
 こちらに来る前に境界案内人によって言われていたことを思い出す。
「とは言え、この世界に突然スラムを足してもしょうがねーし……」
「?」
 きょとんとした表情で、サンディをじっと見上げる少女。
 空白の少女に顔を近付けるように腰を落とすサンディ。
「ま、とりあえずあれだな。停滞しててもはじまんねーよな」
 何かを作れた記憶はないけれど、今の自分なら多分上手くいくはずだと心にそれを描く。
 何を考えているかわからなかった少女は、サンディの手にそっと自分の手を乗せる。

 ふわっと空気が流れた。
 サンディの赤茶の髪を、エネルケアの白銀の髪を、風がそっと揺らしていった。
 強くはないけれど、決して留まることのない風が、世界に流れ始めた。
「……そう、せっかくのまっさらな世界なんだ。今度こそ、吹き溜まりとか、澱みとか。そういうの、残しちゃいけねーぜ」
 昔を思い出したのか、哀愁を孕んだ声音で空に向かって言う。
「旅人の風……?」
 ふと少女が風に名前を付けた。
「この世界を吹き抜けて、今後生まれてくる全ての奴に教えてやらなくちゃいけねーよ。俺の代わりによろしくな」

成否

成功


第1章 第4節

回言 世界(p3p007315)
狂言回し

 少女の前に現れたのは、どこか気怠げな青年。
 青年は何もない世界を眺めて。
「ここが生まれる前にすでに『可能性』を込める手伝いをした」
 それなら新たに何かをする必要はないだろう。他の奴等も色々やってくれてるみたいだし、と青年ーー世界は少女を見下ろす。
 このエネルケアの誕生に関わった彼は、その時に出会った真白の少女に似た空白の少女を見つめて。
「だが、手ぶらで来訪なんて無礼な真似をするつもりもない。故に一つだけ贈り物をしよう」
 そう言って少女の手を取る。
 かつて真白の少女と出会った場所を想像して。

 ふわっとした浮遊感の後、二人は塔にいた。
 頂上には天井はなく、下へ降る階段もない。この世界には未だ存在し得ない物でできた建造物。
「きっと良い物じゃないだろう。むしろ縁起は悪いかもしれないな」
「?」
 世界の言葉に首を傾げる少女。
 不思議と見たことがあるような景色な気がして。彼の手を離して縁に近付いて下を見やる。
「この塔が世界に何かを齎すことはないだろう。だが、一人になれる場所ってのは良いもんだ。何か困り事や考え事があればここに来て存分に考えろ」
 下にも上にもまだ何もないから代わり映えはしない景色だけれど、いつかは色んなものが生まれて、塔にいても退屈しない世界になるだろう。
「暇があれば、俺達も手伝ってやるから」
 そう笑む世界に空白の少女は。
「天使……天使の塔」
 ーーこの塔の名を、そう決めた。

成否

成功


第1章 第5節

寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛

「ぽつぽつと色々できてるみたいだね」
 そうこぼしたのは、黒髪の青年。
「でも、この世界には色が足りないや。そう思わない?」
 ね、しーちゃんと首を傾げて問うのは、儚げで綺麗な少年。
 二人が空白の少女の前に現れて。
「はじめまして、エネルケアさん。僕の思い描いたものがエネルケアさんに伝わりますように」
 綺麗な少年ーー睦月が優しく笑んで少女に言葉を紡ぐ。
「もう夜は教わったのかな、エネルケアさん?」
 黒髪の青年ーー史之が少女に言葉を投げかける。
 夜ーー空が闇に包まれた景色を思い出して、少女はこくりと一つ頷いた。
「じゃあ追加。今の状態は昼と言います」
 昼と夜の間には朝と夕方がある。空に在る太陽が昇ったり沈んだりすることで一日という区切りができる。
 少女に説明をする史之をじっと見つめて聞き入る少女は、ふと空を見た。
 空は太陽が沈み、夜になり月と星が空を埋め尽くす。そして月も傾いていき、再び太陽が昇る。
「そうそう、これが一日。これが積み重なっていくと一年という区切りになる。一年が積み重なっていくと歴史になる」
「?」
 少女はまだ理解できずにきょとんとするばかり。それでも何とか理解しようとしているのが目まぐるしく変わる空を見ればわかった。
 史之と睦月は必死に考えている少女にくすりと笑んで。
 小休止というように、睦月が持ってきていたものを差し出す。
「今日はエネルケアさんのためにお土産をたくさん。どうぞ見て触って味わってみてください」
 差し出されたのは、虹色の鍵と花束とフルーツの詰め合わせ。
「?」
 それに触れて、これは何? というように首を傾げて見つめる少女。
「僕の普段いる世界にはこんなに色で溢れているんです。空には虹が、足元には花畑が、森の木には果物というものが生ります」
 鍵と花束とフルーツをそれぞれ指差して説明すると、空に弧を描く虹が、足元には色とりどりの花が、森にはいくつもの果物が生まれた。
「果物は食べられるものもあるんですよ。しーちゃん、皮むいてあげて?」
「わかったよ」
 史之が盛り合わせからリンゴを取り、ナイフで簡単に皮をむいて一切れを少女に差し出した。
 少女はそれを口に入れて、目を見開いた。
「美味しいですか、エネルケアさん?」
 美味しいの意味がわからない少女だが、その顔は笑顔で綻んでいて。二人も一緒に笑った。
「花や果物にも、咲く季節や生る季節があって、いつも見られるわけじゃないんだよ」
 今度は四季について教えよう、と史之が言葉を紡ぐ。
 春は華やぎの季節。
 夏は生命の季節。
 秋は実りの季節。
 冬は停滞と死、そして生まれ変わりの季節。
 その言葉に応じるように、世界はころころと色を変える。ほんの一時が一年の四季を彩る。
「……色彩の時間」
 悠久の時と、変わる景色を、空白の少女はそう名付けた。
 二人はその声を聞いて、嬉しそうに笑った。

成否

成功


第1章 第6節

『森』と『夜空』と『風』と『塔』と『時間』、生まれて間もない世界に新しくもたらされた可能性の欠片達。
 それらを見つめて空白の少女、エネルケアは何を思うのか。はたまた何も思えないのか。
 ただ何かを考えようとする。首を傾げて、傾げ過ぎてころりと転がって。空を仰ぎ見て、後ろに引っくり返って。一つ一つの時間を渡り歩き、見えない風を追いかけて、塔の頂上で佇む。
 そうして幾ばくかの思考が導くのは。
「……足りない?」
 何かの欠落。
 まだこの世界には何かが足りないと思った。
 そして欲求。
 もっとこの世界にたくさんの可能性が欲しいと願った。
 それはかつてのエネルケアが生まれる前の世界ではあり得なかったこと。
 異世界に触れて、可能性を増やせる今だからできる一つの手段。

 もっと異世界に触れて、この世界の可能性を広げてみたい。
 そう、空白の少女は願ったのだった。

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