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シナリオ詳細

君と天義(ここ)と花束と

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●天義の花祭り
 「今年も花祭りの季節ねえ」、と話題に上げたのは、『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)の母、ルビア。たまたまそこに居合わせた『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)が祭りについて問いかけると、ルビアは心から嬉しそうに口を開く。
 毎年この季節は天義で花祭りを催し、満開の花とともに春の訪れを祝うこと。
 今年も大過なければ催されるだろうから、是非友だちを呼んでほしいということ。
 ルビアも毎年楽しみにしているのだ、ということ。
「それなら、祭りにうってつけな友人たちがいるから是非呼びたいな。いいだろう、リゲル?」
「当然だ、この機会に天義のいいところをもっと知ってもらいたいからな!」
 ポテトの問いに、リゲルは二つ返事で了承する……当然か。さきの大規模戦闘のあとも小競り合いや怪しい宗教の跋扈、アークモンスターの出現と混乱続きの天義で、少しでも平和な時間を過ごしたいと思うのは誰だって同じこと。
 そして、2人の友人というならば悪い人間がいようはずもなし。
「2人がそう言うなら安心ね。楽しみにしているわ」
 ルビアも仲睦まじい2人の様子に温かい気持ちになり、花祭りの訪れを心待ちにしていた。
 ……この時はまだ、つつがなくその日を迎えられると思っていたのだが。

●救え、天義の祭り
「これは……一体どういうことですの?!」
「あらあらぁ……ちょっとこれは寂しいわねぇ?」
 『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)が愕然とした表情で叫び、『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は困ったように首を傾げた。
 彼女らとアークライト夫妻を含む8人が花祭りの会場に訪れた際、そこには一輪の花も咲いてはいなかった。持ち寄られた花すら、ない。
「周りの皆さんも不安そうな音を奏でていますね。お祭りを催せないのは想定外だった……んでしょうか」
「土の状況は悪くなさそうですが、花が育つくらいに改善したのは最近……なのかもしれませんね」
 『シスタードロップ』リア・クォーツ(p3p004937)は耳に飛び込んでくる暗い音程から人々の不安を敏感に感じ取り、『お花屋さん』アニー・メルヴィル(p3p002602)は地面に触れ、土の質がそう悪くはないことに首を傾げた。もしかしたら、さきの戦いの影響で土の質に関係なく植物が生えづらい状況なのかもしれない。
「天義には色々お世話になってますし、何とか出来ないでしょうか?」
 『慈愛の英雄』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)は特に、先日ちょっとしたトラブルを通じて天義に恩を感じているのだから心配もひとしおだろう。
「これじゃあお祭りどころじゃなさそうだな……どうするんだ?」
 『死兆パン屋さん』上谷・零(p3p000277)はリゲル達に向けて問う。困惑しているのは彼らとて同じだが、それ以上に慌てふためいた様子なのは、駆け寄って来るルビア。どことなく申し訳無さそうに項垂れた彼女は、準備を始めてからこちら、この調子のため非常に困っているのだとか。
「せっかく来てもらってこの調子で申し訳ないわね……このままだと花祭りどころではないのだけれど……」
「いえ、ここは俺達に任せてください! 俺達の仲間はこの状況を解決できます!」
 心配そうな母をみていてもたってもいられなかったリゲルは、思わず叫ぶように応じ、左胸を拳で叩いた。
「ポテトやアニーさんは植物や花を育てられる。零君はパンを出せる。アーリアさんにはそれを使って料理を作ってもらえばうまくいくはずだ。
 ユーリエはこの状況にあった道具なんかを見繕ってもらえればいい。リアさんの音楽と俺のギフトで祭りに華を添えられる。そして……」
 「ヴァレーリヤは場を盛り上げるのが得意だ」。リゲルの言葉に、一同は大仰に頷き。
「ちょっと!!!!! わたくしの扱いがおまけみたいになっているのはなんですの!?」
 当然ヴァレーリヤはオチみたいな扱いを受けたので抗議の声をあげた。だから何が出来る、というわけではないだろうが……まあ……酒を与えれば景気のいいことになるんじゃないだろうか。

GMコメント

 ご用命頂きありがとうございます。
 そして最初に謝っておきます。ヴァレーリヤさんの扱いは本意ではないのです。マジで。

●目的
 天義の花祭りを成功させる

●状況
 花祭り開催まで1日切ったあたり。現時点で花が咲いておらず、周囲に人も店もまばら。
 人を集めてくる必要もあるかもしれない。
 地面の土は例の戦争の影響が嘘のように健全な土質だが、不思議と植物が咲いていない。

●やるべきこと
 OPに書いてある通り……ではありますが、工夫次第で色々できます。あくまで一例だと思ってもらえれば。

●その他
 このシナリオは結構アドリブ強めにお送りします。NGとか積極的に採用してほしいあれこれは書いてもらえると盛り上がり度が増します。

 さあ、何も考えず楽しみましょう!
 あ、でもちょっと成功のことは考えてください!!!

  • 君と天義(ここ)と花束と完了
  • GM名ふみの
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年04月17日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
優愛の吸血種
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
アニー・K・メルヴィル(p3p002602)
零のお嫁さん
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
アベリア・クォーツ・バルツァーレク(p3p004937)
願いの先

リプレイ

●希望は誰の手にも等しく
「花祭り、懐かしいわねぇ。小さな頃、家族でクッキー片手に来たのよねぇ……」
「花祭りは天義がちゃんと復興へ向かっているとアピールするにはこの上ない機会なんだ。皆の協力があれば、成功できると信じている!」
 物憂げな表情で思い出を思考の隅から引っ張り出すアーリアをよそに、リゲルは仲間達に向けて拳を握り協力を求めた。尤も、彼が天義に向ける想いや、この国の人々が被った今までの犠牲とこれからに抱く希望を否定するような者が居よう筈もなく。
「花祭りなんて素敵な催しですね! 春といえばそう、花! 皆さんに春を感じてもらうために頑張ります!」
「『花』祭りなら希望はある! 私とアニーがいるなら余計に、だ! 皆で手分けして頑張ろう!」
 アニーとポテトはこの状況にうってつけの人員なだけはあり、やる気はいつも以上に旺盛だった。彼女らが依頼に対して真摯でなかった試しがあるか、といえばないのだろうが。常に比して、という意味でなら間違いなく。
「問題は土ですが……質がそんなに悪くないのが幸いです」
「皆のためだ、俺も全力で協力するさ! 土が大丈夫ならアニーも活躍できそうだし、俺は屋台の準備からだな……」
 零は、パン売り用の屋台を用意して淀みない動きで仕込みを始める。彼はフランスパンを生み出すギフトのせいで霞みがちであるが、パンに関してはそれなりに料理の腕が立つのである。
 花の方に関して着々と準備をすすめるアニーと、調理に向けて忙しなく動き回る零。時折、互いに対して視線を向けているのは間違いないが、何故だか目が合わないのが絶妙な距離感を思わせる。
「素敵なお花見をするには、リラックスした空間が必要ですよね。足元の花もですが、木々に咲いた桜などの花も楽しめるような……」
「ユーリエさん、何か作るのでしたらお手伝いしますよ。あたしは本番までの間に歌の練習の時間が取れればいいですから」
 ユーリエの得意分野はものづくり。花祭りの趣旨を考えるに、桜などの木々の花と、足元に咲くチューリップを始めとする多彩な花、どちらも楽しめる環境を作ろうと考えるのは自然な話だ。
 リアが本格的な活躍を見せるのは花祭り本番なので、余裕があるというのは嘘ではない。尤も、彼女も本番で唄う歌をあれこれと考えねばいけないから、暇というのは違うのだろうが。
「お祭りと言えば音楽! お料理! そしてお酒! こうしてお呼ばれしたのも何かの縁、目一杯飲んで騒いで盛り上げますわよー!」
 ヴァレーリヤが期待されているのは盛り上げ役として、である。この状況に関して、酒を飲んで目一杯盛り上がれるなら一石二鳥、というわけで。必然的に彼女のテンションが上っていくのは当然といえた。無論それがすべてではなく、仲間もその扱いを冗談交じりでしている節があるが。
「……ヴァレーリヤちゃんは終わるまで禁酒よぉ、禁・酒」
「えっ、お仕事終わりまでお酒は飲まない方針? でもでも折角のお祭りだし、お祭りは盛り上げなきゃだし…むしろ大いに飲んで騒ぐのが私達の役目であり、主の御心に沿った行いかと!」
「でも駄目なのよぉ! 私だって飲みたいけど! 我慢よぉ!」
 早々に酒瓶の口を切ろうとしたヴァレーリヤの機先を制すように、アーリアの忠告が飛ぶ。すかさず神意を引き合いに出して自己正当化を図るヴァレーリヤであったが、アーリアが血の涙を流さんばかりに握り拳を手に力説する様を見ると、さしもの彼女もそれ以上抗弁することはできなかった。
「わ、分かりましたわ……! それではわたくしはリアが歌うためのステージ作りを手伝いますわ! なんとしても成功させるために!」
 不承不承、といった調子で応じたヴァレーリヤは、そう言ってリアのもとへ向かい、歌うためのステージ作りの相談を始める。
 リアは、最初こそ提案に驚いた様子であったが、「多くの人に聞いてもらえるなら」と非常にウキウキした様子。無論、二人だけで作るには手が足りないのでユーリエにアドバイスを受けにいくのも忘れない。
「皆、準備に動き始めたし……私は花祭りで出す料理を作りましょう!」
 仲間達が各々の目標を決めて動き出したのを見て、アーリアもまた料理を始めるべく動き出す……が、その前に。彼女がこっそりとある『仕込み』をしたことを見咎める者などいようはずもなく。
「ぽてとちゃん! 頑張って一緒にこの会場をお花で素敵に飾ろうね!」
「ああ、アニーもよろしくな! なんとしても、祭りを成功させよう!」
 アニーとポテトは互いに頷き合い、成功した祭りの予想図を思い浮かべて期待を露わに頷きあう。
 それぞれの思惑と希望が交錯しつつ、花祭りの準備は着々と進められるのであった。

●応報は誰の因果にも平等に
「しかし、土が大丈夫でも花が咲かない理由か……なんだろうな?」
 ポテトはまず、花を確実に咲かせるために何をすべきか、そこから考えることにした。アニーの見立てでは土は問題ないらしいので、もっと別の理由なのだろうと想像はつく。
 周囲の精霊達へと語りかけ、何か思い当たりがないかを問うポテト。応じた精霊達から聞き出せた回答は、精霊らしい懸念が混じったものだった。
「そうか、土が大丈夫でも花をつけられるかが心配なんだな……土の方も、そうか。あの戦いのあとすぐに冬がきたもんな」
「花どころか草も枯れちゃって、そのまま種や胞子がないまま冬を越しちゃったんだもんね。心配だよね……」
 アニーもまた、自然との対話を通して花が咲かない理由を聞き及んでいた。
 さきの戦いで黒い泥にまみれた大地は、草花の命すべてを失ったまま冬を迎えた。そこから来る不安を二人に伝えてくる自然の声は、無視できるものではない。
「でも大丈夫! わたし達が手伝ってあげる!」
「ああ、皆にきれいな姿を見せてあげようじゃないか」
 二人はそんな不安を受け容れ、そのうえで立派に育てると胸を張った。二人のギフトは、この状況にあってこそ真価を発揮するのである。
 会場に揃えられた花壇や植木鉢、花を愛でるために用意されたであろう広場、歩道の脇などを回り、二人は球根や種を運び、それらを次々と植えていく。
「アニーは一瞬で花を咲かせられるんだったな。凄いな」
「ぽてとちゃんも、お花選びをしっかり考えていて凄い!」
 アニーは、予め様々な種類の花の種や球根を集め、この場に持ってきていた。彼女の初動の速さはこれに由来する。
 他方、ポテトは種類も無論ながら、『何をどこに植えれば好まれるか』をルビアに聞いておくことで、より天義らしさを演出しようと考えた。両者ともに、出来ること、思いついたことを躊躇せず実行できる力があるのだ。
「ふふ、それはふたりとも凄いのよ。お互いのいいところを褒めあえるのは素敵なことだわ」
 和やかな雰囲気で作業をすすめる二人に声を書けたのは、他ならぬルビアだった。「義母様」と驚くポテトに、ルビアは柔らかく笑う。
「皆にもリゲルにも、面倒をかけて申し訳ないわね。私にも何かできることがあったら言ってね」
「義母様、それでしたら……」
 ルビアの申し出は渡りに船だ。ポテトは、ユーリエとリアの縁台作りへの助力を促した。

「……ということなんだけど、何か聞きたいことはあるかしら?」
「ありがとうございます、ルビアさん! それでは、縁台のデザインで相談したいのですが」
 縁台の組み立てを概ね終え、デザインの調整を始めたユーリエとリアにとって、ルビアの意見が聞けるのは大きかった。
 仲間達との相談で概ねの色味や装飾の方向性は決まっていたが、ルビアはそこに、天義の聖堂などに用いられるモチーフ、特に植物系のものを取り入れることを提案してくる。デザインの大枠は肯定しつつも、細かいニュアンスを指摘してくれる人物の存在は大きい。
「……あの、ルビアさん。差し支えなければ、シリウスさんについてお伺いできませんか。些細な話でも結構なので」
 二人の話を聞いていたリアは、おずおずとルビアにそう問いかけた。彼女とて決戦の場でシリウスの姿を見て、その『旋律』を聞いている。だからこそ唄として伝えられるものもあるし、知っておかねばならぬこともある。
 ルビアはややあって、静かに頷くと彼女とシリウスの思い出を口にする。もしかしたら、女性同士だからこそ語れる話というのもあったかもしれない。
 柔らかな声、そして相手を語る時の旋律がリアに与えたインスピレーションは間違いなく、その唄に反映されることだろう。

「今は花はありませんが、明日には満開の花で、街を覆いつくしてみせましょう。ええ、奇跡を起こすのです! 皆様お誘いあわせの上、是非ご参加ください!」
「アークライト卿の言葉ともなれば、期待は出来ましょう。こちらでも、呼びかけさせてもらいますよ」
 その頃、リゲルは愛馬・アルタイルに跨り、首都を駆けて人々へ花祭りへの来訪を呼びかける。無論、彼一人での宣伝は限界があるため、あらゆる伝手を頼ってから、市民へと広く呼びかける格好だ。常以上の本気さを感じさせるその言葉、その仕草は、往時のシリウスもかくやと言わんばかりのそれ。人々に訴えかける素地は十分にあったといえるだろう。
 ……彼だけでも、その存在感は圧倒的だったのだが。
(あれはヴァレーリヤさんか? 酒場になんの用が……そうか! 祭りで供する酒の選定か……流石だ!)
 そんな中、彼は街でもいっとう大きな酒屋や酒蔵のある一帯に向かうヴァレーリヤを目に留める。彼女を知る多くの者が、きっとそこで止めに入ったり訝しんだりするのだが。リゲルはその点、性善説を重視するタイプなので彼女の行動を疑わなかった。
「ねえマスター、この辺りの名産の美味しいお酒を幾つか持って来て頂けませんこと? お祭りで使うお酒を選びたいのだけれど。自分の舌で!」
 当のヴァレーリヤがこんなことを言っているなどとは、さしもの天義に名だたる騎士殿にも見抜けなかっただろう。

「アニー、手伝ってくれるのか?」
 忙しなく調理の準備を続けていた零のもとに現れたのは、ひと仕事終えて満足顔のアニーだった。頬は少々土で汚れているが、調理を手伝うためか、手は綺麗なものだ。
「お料理もいっぱい必要になるし、零くん一人じゃ大変かなって思って。皆に喜んでもらえるように美味しいもの作ろうね!」
「ああ、凄く美味しくしてやろう!」
 アニーの言葉と笑顔は、それだけで零の疲れを吹き飛ばした様子だった。彼女と一緒に作るオープンサンドは、以前互いに食べたもの。
 フランスパンの上にのった具材は、十分な鮮度を保っているのがわかる。零が生み出したフランスパンに負けない味わいとなるだろう。
 ブルスケッタは火を使うだけに、ふたりとも慎重に作業を進める。祭りの前に怪我など以ての外だ。
「アニー、明日は……時間が出来たら俺達も祭りを楽しもうか」
「うん、折角のお祭りだもんね!」

「零くん達も頑張ってるんだから、お姉さんも頑張らないとねぇ。この季節、少し温かいものがいいわねぇ」
 アーリアは、零のパン料理を引き立て、かつ花冷えする時期に体が負けないようなスープ作りに取り掛かる。
 細かく刻まれた野菜は、もとの面影も薄く、肉や調味料の味が染み込むことでそれぞれのクセも緩和される。彼女なりに、子供でも楽しめる料理を目指したもの。
 他方、酒に合う鶏肉のグリルやチョコチップクッキーの準備も忘れない。すべて並行して行うとなるとかなりの量だが、手際のよさは苦労を感じさせない。
「ひゃっほーい、私もおてつらいいたしまふわー! 材料を切るのはまかへてくらひゃい~!」
 そんなアーリアのもとへ駆け寄ってきたヴァレーリヤは、案の定赤ら顔で、しかし誰に借りたのかリヤカーいっぱいの酒を積んで帰ってきていた。転んで台無しにしなかっただけ、理性の片鱗が見て取れる。頬に猫の引っかき傷があるが。
「ああもうヴァレーリヤちゃん、酔っ払いが包丁持たない! それは材料じゃなくてお祭の偉い人よぉ!」
「なんで止めますの!? あんなに大きなお肉がありますのに!」
 すっかり上機嫌なヴァレーリヤを止めるのは苦労が大きかっただろうが、彼女の振る舞いが酒場で一杯引っ掛けてた人々に花祭りをアピールしたのは、怪我の功名なのだろうか。

●『感謝』
「花祭りへようこそ!」
「目一杯楽しんでいってほしい、花達も歓迎している」
 アークライト夫妻は、入り口で人々に白のダリアを配っていた。
 二人とも、花祭りの顔とあってルビアの手配により、十分にめかしこんだ格好だ。それが嫌味に映らないのは、両者ともに地がいいからだろう。
「リゲルさん、ポテトさんも、すっごく綺麗!」
「そう言うユーリエだって、素敵なものが出来たじゃないか。服も似合ってるぞ」
 二人に駆け寄ってきたユーリエは、すっかり花祭りを楽しんでいる様子だった。零やアーリアが作った料理のほか、ポテトが準備した野菜揚げなども手にしている。
「リアさんのステージもそろそろ始まるそうですから、時間ができたら来てくださいね!」
 ユーリエはそう言って、人々の輪へと入っていく。彼女のフットワークの軽さは、周囲により明るい印象を与えることだろう。

「あれもアニーが咲かせたのか? 相変わらず凄いな」
「零くんも、あんなに沢山の人にアーリアさんと一緒に食事を振る舞って頑張ってたから……」
 どちらからともなく、おずおずと手を繋いだアニーと零は、多くの人で混雑する会場を練り歩く。
 開場直前、花の気配が薄い開場に不安を覚えた人々は、しかしアニーのギフトで一斉に咲き乱れた花々に歓声を上げ、我先にと(しかし整然と)足を踏み入れた。
 当然、その混雑に合わせるように食事も飛ぶように売れ、零とアーリアはしばらくの間てんてこ舞いだったのである。
 一段落したところでアーリアが零をアニーに引き渡したことで出来た貴重な時間だ。彼女には感謝しきれぬだろう。
「そうだ! リアさまの演奏を聴きに行きたい!」
「リアの演奏は俺も気になるし……聞きに行くか!」
 二人は意図せず、つないだ手をより強く握りしめてステージへと向かう。仲間が唄う演目は、天義の戦いをまとめ上げたもの。二人にとっても思い入れの強いものである。
「いいわよぉ、とっても初々しくて見てるだけで楽しいわぁ……はー、もうそろそろ大丈夫よねぇ? リアの演目もあるけどその前に一杯くらい……」
 二人のやり取りを影から見ていたアーリアは、ふう、と満足したような息を吐いて頷いた。しかし、昨日からずっと準備に追われていて酒にありつけていない。自分から遠ざけていたのもあるが、そろそろ禁断症状が出てもおかしくはない。
「アーリア、飲んでますのー?」
「飲んでないわよぉ、もう限界よぉー!」
 そんなアーリアのもとにほろ酔いのヴァレーリヤが現れれば、ギリギリまで保っていた理性も決壊するというもの。
 ……なのだが。二人がそれ以上の酒気を求めなかったのは、偏に流れてきた音色を受けて、である。

(己の正義を信じ、最後まで全力で駆け抜けて天義を救ったリゲルさん。
 不正義と言われながらも、誰よりも天義を想い戦い抜いたリンツァトルテさん。
 天義の次代を信じて最後まで巨悪に抗ったシリウスさん。
 この国の未来のために礎となった多くの人々……全てを一つにして戦った歩みを、そして今に至る道程を、物語としてしっかり奏でる!)
 歌声は当然、リアのもの。ハープを手に奏でられる唄は、天義という国の試練を物語るもの。
 そして、これからの希望を誘うもの。
 英雄幻奏によって顕現した幻と調べは、精霊達の助力を以てより遠く、より確かに人々の耳目へ届く。
 傍らで花びらを舞わせ、盛り上げるヴァレーリヤとアーリアの姿も見逃せない要素である。
「見て、あれ……!」
 その声は誰のものであったろうか。薄闇の中、仄かに光る花々はリゲルの手によるもので。脇に寄り添うポテトとの歩みは、宛ら少し早いキャンドルサービスのようでもあろうか。
「君のお陰だよ、可愛い俺のお姫様」
 おもむろに足を止めたリゲルは、そう告げるとポテトの頬にキスをひとつ。
 より賑やかさを増すなか、見る者は居なかったが……。
「こんな素敵な光景は、リゲルがいてくれたおかげだ。有難う、私の王子様」
 そう言ってリゲルの唇に己のそれを重ねた光景は、何より華やかであったろう。

 リアの唄が終わり、歓声とともに乾杯の音頭が高らかに響く。
 それはただの一日の終わりではなく、天義復興に関わる新たな一歩であったのかもしれない。

成否

成功

MVP

アニー・K・メルヴィル(p3p002602)
零のお嫁さん

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。
 書くごとにあれもこれもと盛り込んで、字数は増えても書く勢いは上がっていく謎の矛盾に見舞われました。
 お酒要素が弱いかもしれませんが、まあ準備八割って言いますからね。
 ちょっと先走ってやしないかヒヤヒヤしますが、凄く良かったと思います。
 MVPは……選ぶの凄く苦労しますが、ここはアニーさんですね。間違いない。

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