シナリオ詳細
嵐精テンペスティア
オープニング
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レガド・イルシオン。栄えある都。
されど風は黒く吹きすさび、地は災いに震えた。
諸悪の根源、古の悪霊、その名は嵐精テンペスティア。
されど王都は希望の光に照らされり。
立ち上がりしは、かの大導士バルザリック。
旅の果て、たどり着きし彼の地にて。
テンペスティアは討ち滅ぶ。
バルザリックはその杖に、古の悪霊を封じ去る。
杖はやがて大樹となりて、哀れな黒き魂は永遠の安息を得たのであった。
――
――――
「知ってるかい?」
やぶからぼうに、『黒猫の』ショウ(p3n000005)が尋ねる。
かつて幻想北西部に居を構えていたとされる魔法使いが居た。
名をバルザリック・ドルガスと言う。
様々な魔術を人助けに使っていた好々爺だったらしい。
だが時の冒険者と共に果ての迷宮へと消え、戻ってこなかった。
おおよそ百年程前の事である。
今でも酒場では、いくつかの冒険譚が歌われているといった所か。
ローレットの温かな暖炉の前で、踊る炎と共にイレギュラーズ達の影が揺らめいていた。
歌は。さてどうであったか。
酒場に行けば流しの吟遊詩人が歌っていることもある、古い英雄歌の一つである。
似たような歌は掃いて捨てる程あるものだから。
「まあ、ちょうどその木。石碑の場所でおかしなことが起こっているらしいんだよね」
伝承の怪物が復活なんて、冗談ではないのだが。
「木が枯れかかっている。石碑にヒビが入っている。それから夜な夜な声が聞こえるってね」
おいおい。笑いごとではない。
この情報屋は、伝承に歌われるような怪物と一戦交えろとでも言う気であろうか。
眉をひそめたイレギュラーズに、ショウは話を続ける。
「大体の調査は出来ているから、大丈夫だよ」
この情報屋が言うからにはそうなのだろう。
現場ではその嵐精テンペスティアの残滓のような存在が復活しているらしい。この討伐が依頼内容ということだ。
ショウがより細かな情報が書かれた羊皮紙を差し出してくる。
読んだ限りでは、なんとかやれそうな内容だ。
彼女の力は長い年月の封印で大きく失われていると情報屋は言う。
「伝承なんてのは、往々にして誇張されているものだからね」
そんなものなのであろう。
とはいえ先に封印がとけきってしまえば、面倒なことになるという推測だ。
だから倒してしまうという単純な話である。
それで現場はどこなのだろうかと尋ねてみれば。
「ここから三時間ぐらいかな」
旅の果てが三時間は、ずいぶんな誇張だとイレギュラーズは笑った。
●
王都から見える小さな山の向こう側。
森の奥に彼女は封じられている。
臭いが薄れてゆく。
気配が薄れてゆく。
景色が、世界の全てが色あせてゆく。
百年の歳月に枯れ果てた涙を、テンペスティアが流すことはない。
かつて王都に災いをもたらした強大な力は失われて久しい。
その封印すら役割を終えようとしていた。
彼女は災厄そのものだ。
手を差し伸べれば、目の前の命が切り裂かれた。
慟哭するだけで、その全てが砕けていった。
彼女は一人、天を仰いだ。
ただずっと帰らぬ老人を待ち続けている。
もう一度だけ会いたい理由も分かっている。
戦いの果てに。
その想いを分かってくれたのも、彼女の抱擁に耐えられたのも。
その男一人だけだったから。
けれど、その願いが二度と叶わないことも、彼女はきっと知っている。
人の生が儚く短いことを、彼女は理解している。
彼女は衝動に抗えない。
己の存在そのものが人間と相いれない。それを知りすぎている。
闘争の果ての滅びが、忍び寄ろうとしているのを感じている。
そして今の彼女が受け入れているものは、ただその事実だけだった。
- 嵐精テンペスティア完了
- GM名pipi
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年03月25日 22時25分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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「フフッ」
一条の雷が天を駆けるその下で。
「嵐精テンペスティア君、君は幸運だよ?」
風に無数、薔薇の花弁が揺蕩う。
芝居がかった仕草で瀟洒な細剣を抜き放ち、『ジャミーズJr.』桜小路・公麿(p3p001365)は嘯いた。
「スーパーアイドルであるこの僕! 桜小路☆公麿と出会ってしまった以上!
君は笑顔の絶えない幸福な終わりを迎えるのサ!」
黒い雲の元。降り始めた雨が、青年の美しい髪を濡らす。
――だからどうか、そんなに泣かないでおくれ。
急激に強まる雨脚を元ともせず、公麿等イレギュラーズ達は戦場を駆ける。
嵐精を撃破――公麿の言葉を借りるのであれば『笑顔にする』ためには、まずは取り巻きが邪魔となる。
故に彼等を排除するのが作戦初動の根幹だ。
視線の先には数体の精霊。その中の透き通った身体で宙を駆ける狼の様なストームライダーに公麿が肉薄する。
その細剣と爪牙が交差する刹那、彼の眼前に嵐精が飛来した。
「アアアァァァァッ――!」
耳を劈く雷鳴と悪霊の奇声。
「待ちきれなかったかな?」
だが公麿は掴みかかる嵐精の両腕をすり抜け、軽口で返した。
「けど僕からは、もう少しだけ待っていて。必ず笑顔にするからサ」
銀糸を編む様に閃く剣撃が、風狼を斬り、ほぼ同時に薔薇と同じ色の液体が雨露に散り溶ける。
イレギュラーズ達が果敢に敵陣へと切り込む中、『不屈の』宗高・みつき(p3p001078)は軽治癒の術式を即座に展開した。
「伝承どおりならとんでもねぇが……」
公麿の身のこなしはパーティの中でも一、二を争う。
その彼が風狼から受けた傷は、決して浅くはない。
暗澹たる事実ではあるが、最も手ごわいであろう嵐精の初撃を避けきった実績は大きい。
「残滓なら何とかなるか……」
敵は伝承の残る怪物だ。それをこの一瞬で、少なくともパーティの手に負える存在であることを立証してのけたのだから。
みつきが放つ清らかな光が公麿の身体を暖かく包み込む。傷を塞ぎ切ったとは言えまい。
眼前のこれとて辟易するような事態の一つの筈だが、みつきは既にこの世界で生き抜く腹をくくっていた。
「ハハハハ! 僕は大丈夫サ!」
仲間を信じ、己を信じる。勝利の予感は己が手で的中させるしかない。
「古の風の悪霊……!」
明るい声音に口笛を一つ乗せ。『【雀】』鶫(p3p004869)が地を蹴る。
可憐な町娘のような姿からは想像出来ない程の俊足で。
「なんや強そやなぁ……って、焔式!」
放たれた猛烈な炎撃がもう一体の風狼の身体を包み込み、炎上させる。
可能な限り集中攻撃したい所であったが、敵が立ち塞がるならば叩く他ない。
だからここで技が完全に決まったのは幸先が良いだろう。
「――ッ、そう簡単に回り込ませてはくれへんか」
とはいえ、反撃に受ける一撃は重く鋭い。
舞う様に立ち回る彼女であるからこそ、痛打は免れているとも言えるのだが。
彼女は【雀】である。長期諜報活動こそが得手だ。
これが【鷹】の連中であれば『笑止』と一笑に付すのかもしれないが、生憎そういう訳にも行かない。
尤も、受けた仕事はきっちりと果たすと。彼女もそう覚悟を決めていた。
雷精の雷撃は高威力であることが調査されている。放たれる直線に複数名が巻き込まれることだけは避けなければならない。
風精達が次々と風の刃を放つ中で、イレギュラーズ達は散開しつつ各々の役割を果たす為に行動している。
「嵐精テンペスティア」
落ち着いた『暇人』銀城 黒羽(p3p000505)声音に、嵐精が振り返る。
これでいい。意思は通じる。黒羽は緊張を解かぬまま、僅かに姿勢を低くした。
古の悪霊の刺し貫く様な瞳を、黒羽は真っ直ぐに見据える。
悪霊は討ち滅ぼされて然るべきだと人は言う。だが黒羽はそうは思わない。
例えどんな存在であろうと、死なせたくないというのが本心だ。
そもそも悪霊を『悪』と呼ぶのも、人間の物差しで計ったものでしかないだろう。
「来いよ」
例え人と相容れない存在であろうと。救いのない結末など、黒羽は決して赦しはしない。
願わくば眼前の嵐精とて救いたいのである。
だが、それが叶わぬことも彼は知っている。
「お前の攻撃、俺が全部受けきってやるよ」
涼し気に言い放ち、心中で糞たれと吐き捨てる。
全てを受け止め。せめて魂だけを救う。きっとそれしか出来ないであろう己自身に向けて。
『ニンゲンフゼイガ』
吠える雷精の、その透けた身体に一閃の斬光が走る。
月を抱く空のような、美しい宵闇色の翼。嵐の中を舞う一羽の蝶。
『カ、アアァ!』
黒羽の背後から現れた小さな妖精――否、『隠名の妖精鎌』サイズ(p3p000319)が、本当の意味での己自身である大鎌を薙ぎ払ったから。
宙で身を翻すサイズが嵐精を見下ろす。
互いに妖精の残滓と悪霊の残滓。
二つの成れ果ては、どこか似ているのかもしれない。
親近感すら感じる相手ではあるが――暴れる以上、出る杭は打たれるものだ。
「あんたが何を求めてるかは知らないけど……戦闘不能になってもらうよ」
●
こうしてイレギュラーズ達は作戦の第一歩、嵐精の抑えをを完成させた。
両陣営の激突は僅か三十秒にも満たぬ間に、この先の趨勢を強烈に示唆する展開となりつつある。
火力の高い風狼を出来る限り早く撃破し、風精も一掃する。
自陣が壊滅させられる前に敵を壊滅させる。平たく言えば『やるか、やられるか』だ。
そんな戦いも『シティー・メイド』アーデルトラウト・ローゼンクランツ(p3p004331)にとっては、掃除のようなものなのかもしれない。
淡々と職務を遂行するように。巨大な狙撃銃を軽々と操る姿は、その可憐なメイド姿とは似つかわしくないようでいて、この上なく相応しい気もするから不思議なものである。
照準器の先に見えた風狼が駆ける先。そこまでの風の動き、雨粒の影響。敵の機動。その偏差を見切って彼女は引き金を絞る。
巻き込まれた雨が、戦場に真っ直ぐな螺旋を生み出す。
その全ては僅か一瞬。
攻城兵器とすら呼べるであろう銃から放たれた弾丸は正確無比な軌道を描き、轟音と共に風狼の脇腹を構成するエネルギーを瞬時に吹き飛ばした。
一方の最前線。
イレギュラーズ三名を間近にした嵐精が身をよじる。距離を得たいのだろう。
彼女が何をしたいのかは簡単に分かる。
破壊的衝動が高まった時に。嵐精は破壊力が高く、隙も大きな雷撃を積極的に操りたがる。
そして尋常ではない反応速度を誇る彼女が二手を得るタイミングと、それは重なることがある。
「させねえよ」
この場合、嵐精は可能な限り多数のイレギュラーズを巻き込むように動きたいのであろう。
「俺にだけ撃って来い」
だが嵐精は黒羽の的確な立ち回りでブロックされ続けており、後退する他なかった。
これを追うように最前線はやや突出した形となったが、イレギュラーズ達は嵐精の雷撃を強く警戒している。
もちろん戦場を駆けまわる戦いの中で、常いかなる時も複数名が直線に並ぶことを避け、散開した状態を維持し続けることは不可能に近い。
そうした中で黒羽とサイズが敵を十分に引き付けること。他のメンバーが可能な限り意識して立ち回る事。それらを両立させることで、作戦は成立している。
ならばこの偶然の突出は少々リスキーではあるかもしれないが、今回イレギュラーズ達にとってプラスに働くだろう。
『メザワリダ』
当然そんな状況は嵐精にとって好ましくないのだろう。
彼女の苛立ちは暴力的な衝動と直結する。予想違わず、嵐精の指先から激しい雷光が迸り、黒羽が釵を十字に重ねた。
「それで終いか?」
暴力的な風雨を浴びながら。光と黒煙、イオンとタンパク質が焼け焦げる臭気の中心点で。
人間一人を瞬時に殺し切るであろう膨大なエネルギーを真っ向から浴びた黒羽は、身じろぎ一つせず不敵に笑って見せた。
イレギュラーズとて場合によっては一撃で倒れてもおかしくはない威力である。少なくとも肉体は軋み、悲鳴を上げている筈だが。
「全部出しきれよ」
嵐精が震える。それは初めて見せた微かな動揺か。
「嵐精だかなんだか知らねーが」
鋼の暴風が風狼を上段から容赦なく打ちのめし、大地に叩きつける。
風狼はそのまま跳ね上がるように飛び起きて、牙を突き立てよう飛び掛かりながら雲散霧消した。
敵の闘志に凄絶な笑み返した『暴猛たる巨牛』ルウ・ジャガーノート(p3p000937)は天性の狩猟者だ。
「俺の暴力の嵐でかき消してやるぜ!」
激戦の渦中にあって、彼女が抱く感情は喜びなのである。
鋼のように鍛え上げられた肉体を誇る彼女は、正に戦う為に生まれて来た女傑であろう。
「やるね」
俯瞰した視点でイレギュラーズ達の司令塔を務めながら、『メルティビター』ルチアーノ・グレコ(p3p004260)は緻密な狙撃を続けていた。
漆黒のマスケット銃フォルゴーレ・ネロが火を噴く度、闇より出る銀の弾丸は鋭く風狼のエネルギーを四散させている。
けれど平素は柔和で愛嬌があり、危機の渦中には常に冷徹である筈の彼は、表情を硬く引き締めていた。
この戦いに――思う所はあるのだ。
ルチアーノが幼少より孤児であったのは、彼の責ではない。
心優しい彼がマフィアの一員として銃のトリガーを引き続けたのも、生きる為に必要なことだったろう。
今、対峙する嵐精とて、一定の知性や感情を有する存在に見える。
だが彼女が人の世にあれば、力をコントロール出来ずに全てを破壊してしまうと伝承は伝える。
戦ってきた限り、事実そうなのであろう。感情らしき物のコントロールも、人間のように柔軟とも思えない。
それはただそのように、そういう存在として生まれたからなのだ。
出自というものは、当人が選ぶものではないのだから。
それについて精霊も人間も変わりはしないのである。
(切ないけれど、少しでも僕らにできる事を見つけたい)
だからこそ、そう想うのだ。
●
蝶の翼がはためき、嵐精を縦横に切りつける。一見すると小人と巨人の闘争であるが、その一太刀は小さな見た目程には軽くない。
切断され空中に溶け逝く光の粒子。その只中を貫き飛翔する様は、妖精が幻想的な舞踏を楽しんでいるようにも見えるだろう。
だがそんな見た目とは裏腹に、サイズは攻撃し続けられるというこの状況を最大限に活用出来ている。
「何が望みなんですか?」
どこか虚ろに見える表情を崩さず、サイズが嵐精に問う。
『ア、ア、ア、ガ、ァァァ!』
返る言は慟哭。純粋な会話としては成立していないのだが、サイズには得られた答えが見える。
「――分かったよ」
それは酷く単純な回答だ。
寂しがりの彼女はコミュニケーションしたいのではないか。
そしてこれこそが、その為の彼女なりの手段なのではないか。
もしかすると人ならざる存在として生まれたサイズだからこそ、即座に理解し得たのかもしれないのだが――
風狼の一体が消滅したことで、イレギュラーズ達の攻撃の矛先はもう一体に向かうことになった。
この時に胸をなでおろしたい心境だったのは、鶫だったのではなかろうか。
状況上、一人でもう一体の風狼と向き合う鶫は、果敢に戦いながら敵を翻弄し続けた。
当然、かなりの傷を背負っている。
「後ろは任せろ」
「おおきにな」
神経をすり減らすような戦いの中で、みつきが再び治癒の術式を描き出す。
呟き、念じ。放たれる聖なる光が鶫が、イレギュラーズ達の消耗した体力の、その底を力強く支えていた。
既に幾度の術式を行使しただろうか。かなり苦しい状況には違いない。
攻撃すら視野に入れたことは的確で正しい判断であろうが、その余裕がないというのが実情だった。
否、これが順調な戦いと呼ぶべきものなのだろう。こうしたみつきの支えがなければ、既に味方の半数が倒れていてもおかしくないのだから。
激闘とはおそらく、今も今後も、そのような状況にあり続けるのだろう。
だが不屈の癒し手みつきの覚悟は、そんなことで折れはしない筈だ。
「俺が相手になるぜ!」
咆哮。猛牛のように突撃するルウを追い、イレギュラーズ達の攻撃が風狼に集中する。
正々堂々。真正面から。防御をかなぐり捨て、力いっぱいに叩きつけられる女傑の鋼鉄は、人ならざる精霊達と言えどもひとたまりもない。
「お待たせ」
ルチアーノの銃弾が風狼を捉え穿つ。
「待ちくたびれてしもたわ」
少女の白く美しい足が、鮮やかな緋色の布から閃いた。
鶫が軽やかに地を、そして風狼を強かに蹴りつけ―-衝撃。
吹き飛んだ風狼が虚空を回転する中で、鶫は蹴撃の反動を使い音もなく地に降り立つ。
その後方。アーデルトラウトが一人照準を定めていた。
鶫の蹴撃で態勢を崩し、一瞬だけ腹の中心を見せた風狼へ向けて。
トリガーを引き――轟音。
短く息を吐き、アーデルトラウトは即座に移動を開始する。
その横眼は、光となり雨に消える風狼の散り際を捉えていた。
二体目の撃破は驚くほど速かった。
敵の翻弄をつづけた鶫による炎の継続的な打撃が功を奏しているのだろう。
そしてイレギュラーズ達の集中攻撃は、さしもの敵も対処しきれぬという副次的な効用を生んでいる。
そして――
「エアエレメンタル君の番だ」
「ええ。次はこちらの掃除と致しましょう」
アーデルトラウトが涼し気に相槌を打つ。
「美の化身、ここにあり」
公麿が片目を閉じる。
「さあ、存分に堪能したまえ」
深紅の花びらに彩られた青年へ向けて、風精の二体が風刃を叩きつける。
「美ッッッ!!」
一つを細剣で払い、もう一つをその身に受け。お道化るように微笑んで見せた。
高火力のぶつかり合いは、一方的になりつつある。
戦況の天秤はイレギュラーズ達に傾き始めた。
アーデルトラウトとルチアーノの弾丸が風精を屠り、公麿が華麗に斬り裂いた次なる風精を、ルウの猛撃が叩き潰す。
こうして風精達の順調な撃破が続いたが、イレギュラーズ達の傷は深い。
既に三名が可能性の箱を開き、全員が肩で息をしている。
みつきの懸命な癒しが、すんでの所で仲間達が倒れるのを防いでいるのもまた事実だ。
否。全員というのは誤りだ。
「随分と気持ちの良い風だこと」
血に濡れ、並の人間であればとっくに死んでもおかしくないであろう傷を負い。
黒羽は苦し気なそぶり一つ見せていない。
●
最後の一体を鶫が沈め、風精が全滅して尚、嵐精は健在だった。
だが猛攻は確実に敵の体力をそぎ落としているであろう。
そこから更に幾らかの攻防が続き。ただ一体となった敵へ向けて、アーデルトラウトは後方に下がり照準を定めていた。
ここからは背水の構えで挑む。
轟音が雨を打ち払い、嵐精の身体に大穴を穿った。
「泣かないでおくれ愛しい人――」
嵐の抱擁。人の身体を蝕み砕くエネルギーが、公麿を包み込む可能性の光と澄んだ和音を奏でた。
「僕がめいっぱいの愛を上げるから」
『ニドメ、ダ』
嵐精が苦し気に呻く。
「一度目はバルザリックだよね」
サイズの言葉を聞いて僅かに逡巡した嵐精は、紫電を纏い始める。
それが答えか。サイズは鼻で笑う。
「あんたも俺の製作者と似た感じか」
妖精も精霊も人間に恋したら待つのは破滅。それを知るサイズは、だから恋愛が苦手だ。
答えには答えを。
大鎌がうなりを上げ――悲恋末路。切り裂かれた嵐精の腕はそのまま掻き消えた。既に形態を維持する力が弱まっているのだろう。
影のように。背後に回り込み。音もなく鶫が跳ぶ。
隠された刃が閃き。狙うは首筋。
この存在の身体が通常の生命体同様の構造かは分からないが。これが彼女の戦い方であり、その結果とて一つの情報でもある。
蹴撃が嵐精の首筋を切り裂き、エネルギーの本流が大気と雨の中に散る。
「悲しそうなのは分かる」
なるほど人とは違う。だが手ごたえは確実だ。軽やかに降り立つ彼女を、嵐精が睨んだ。
「けど。なんでそない、うれしそうなんや」
鶫は【雀】として、戦場に来る前にかつて嵐精を倒した大魔法使いバルザリックの縁を探していた。
結論として、見つけることが出来たのは墓である。と言っても当人は果ての迷宮から戻っていないという話だから、記念碑に近いものかもしれないが。
「ああ……そか」
それが『残したいもの』なのか。
「その想い」
その情報を。
「確かに収めさせてもらうわ」
嵐精はこのタイミングでは二手三手を得られない。
生じたのはおそらく数秒の隙。
破れかぶれにも見えるその行動は、イレギュラーズのチャンスでもあった。
猛攻が嵐精の存在を切り裂き、穿ち、叩き潰して行く。
終わりの時が近づいている。
「辛かったね」
望んで災厄に生まれた訳ではなかったろうに。
ルチアーノが残された雷精の腕をとる。
「君を止める事ができたのは、バルザリックさんだけだったんだね」
燃え上がる身体をそっと抱き留める。
「辛いなら思いきり泣けばいい」
消えた老人の代わりにはなれなくとも、孤独からは救いたいから。
俺達は彼女の想いに応えられたんだろうか……?
みつきの脳裏を一つの言葉がよぎった。
最早彼女は抵抗していない。
運命を受け入れたのだと、みつきは天を仰いだ。
いつの間にか嵐は止んでいる。
炎と紫電に彩られたルチアーノの腕の中で、テンペスティアの身体が薄れて行く。
「おやすみ、テンペスティア」
黒羽が彼女に背を向けた。
助けられなくてごめんな……
辺りを包み込む光の粒子の中で。
そんな小さな呟きと共に、戦いは幕を下ろす。
――
――――
疲れが癒えたのなら街の酒場にでも行くと良いだろう。
きっと数日も経てば。
街の吟遊詩人達は、バルザリックの歌の続きを謳っているだろうから。
嵐鎮めし冒険者達を讃える果敢なる詩を。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
厳しい依頼をお疲れ様でした。
勝利自体が皆様全員の活躍の成果です。
称号獲得
ルチアーノ・グレコ(p3p004260):『Calm Bringer』
銀城 黒羽(p3p000505):『Quell the Storm』
それでは。
またのご参加を心待ちにしております。pipiでした。
GMコメント
pipiです。
ストレートなバトルです。
強そうな敵をかっこよくやっつけましょう。
NORMALですが敵は強いです。
相談5日ですが、頑張ってみて下さい。
●目標
敵の全滅。
●情報確度
Aです。戦うだけの依頼です。
●ロケーション
昼の現場です。灯りの心配は不要です。
足場は安定して広く、その辺りの心配も不要です。
枯れかけた大樹と石碑の近くの広場に敵が居ます。
対峙した所からスタートです。
戦闘開始と共に突如嵐になりますが、明るさとか足場の不利とかは問題ありません雰囲気です。
●敵
悪い風の精霊です。
〇嵐精テンペスティア
髪の長い美しい女性。半分透き通った感じ。
悪霊の残滓です。回避は低めですが、HP、AP、反応、特殊抵抗が高い難敵です。
意思疎通は出来ますが、戦闘は回避できません。
・抱擁(A):神至単、ダメージ、窒息
・慟哭(A):神中範、ダメージ小、足止
・雷撃(A):神遠貫、ダメージ大、溜1
・EXA40(P):EXAが40です。
・低空飛行(P):雰囲気です。
〇エアエレメンタル×4
戦闘開始と共に現れます。
緑色に輝くエネルギー状の存在。
強くはありませんが、反応が高いです。
・風圧(A);神至単、乱れ
・かざきり(A):神中単、ダメージ
・低空飛行(P):雰囲気です。
〇ストームライダー×2
戦闘開始と共に現れます。
緑色に輝く狼のような存在。
強くはありませんが、攻撃力が高いです。
・切り裂き(A):物至単:ダメージ
・低空飛行(P):雰囲気です。
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