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シナリオ詳細

<TinkerBell>探し物は夜と共に

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●アイを探す
 良く晴れた日だ。こんなにお天道様がご機嫌なら、客入りも良かろうと姉が笑った。
 とある町に大道芸の一家があった。両親と子が二人。それに弟子の幾人か。
 男はその家の息子ながら、何ひとつ芸が出来なかった。
 代わりに剣の腕が良く、用心棒をしていた。
 別嬪な姐さんらや売上金を狙った不届き者を成敗するのが仕事だ。
 ふと急に曇って空を見上げれば、巨星が落っこちてくるところだった。
 一瞬のことであった。瞬きをする時間もなかった。
そのまま、逃げることも出来ないで世界は星に埋もれた。
 重く頑丈な木材で建てた寄席も、立派な岩を砕いて築いた神社も、
 巨星の下に埋もれて沈黙してしまった。
 ただひとり、用心棒の男を置き去りにして。

●眠りついた世界
 あなた方が図書館に足を踏み入れると、車椅子の案内人、ラプンツェルが小さな声で出迎えた。
「今日、お願いする本はとっても繊細で独特なの」
 ぶかぶかで真っ白い手袋をして、そっと取り出した本は確かに取り扱いに繊細さを要求する代物だった。
 和綴じされたその本は、ところどころ糸が解れ、表紙は痛ましいほど破れている。
 中も破れていたり、それどころか落丁もあるようで開く作業を躊躇いたくなる。
 ページに触れるだけで神経を使うだろうそれを、ラプンツェルが慎重に指先で取る。
「この本のお話を想像して欲しいんだ」
 もともとは違う物語だが、こうもボロボロだと新たな物語を描き出して貰うしかないのだと言う。
 いくつか捲ってラプンツェルが手を止める。それをイレギュラーズへ示す。
「それからもう一個。一人だけね、生きてる人がいるんだ。この人のお願いも聞いて欲しいの」
 小さな手で示された箇所に男の用心棒、という記載があった。彼だけがこの世界の生き残りだ。
 ラプンツェルが悲しそうな、どこか複雑そうな顔をする。
「この人、世界におっきな星が落ちた後からずーっと、みんなのお墓を作ってるみたいなんだ」
 それも、何かを探すように。だから彼を手伝って欲しいのだとラプンツェルが告げる。
 探し物はなんなのか、それを見つけてから物語を想像する。それが今回の仕事だよと気を取り直したラプンツェルが笑う。
「みんな、いってらっしゃい!」

NMコメント

統計的には人間は探し物してる時間の方が長いそうです。桜蝶 京嵐です。
今回は少しもの悲しい物語をお願いいたします。
舞台はファンタジーな江戸中期か後期をイメージしましたが、ちょっと具体的に想像すると良いかもしれないです。

  • <TinkerBell>探し物は夜と共に完了
  • NM名桜蝶 京嵐
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年04月12日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

セリア=ファンベル(p3p004040)
初日吊り候補
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛

リプレイ

●夜から始まる
 濃灰色の世界で探し物を続ける男の前に、純白の椅子とテーブルが現れる。
 座っていた人間が目を開く。
「初めまして、すこしよろしいですか」
「悪いようにはしないゼ」
 琥珀の眼差しと柘榴の瞳が腰を抜かした男へ手を差し伸べる。『今は休ませて』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900) と『ホンノムシ』赤羽・大地(p3p004151)だ。
 黒真珠の痩躯、『凡才』回言 世界(p3p007315)が魔術で椅子を増やして鼈甲色の少女、『初日吊り候補』セリア=ファンベル(p3p004040) が持参した緑茶を手渡す。
「じつは僕たちは零落したかみなのです。あなたの想いを聞かせてください」
「これもなにかの縁だしね、手伝わせて」

 男は看板を探してくれ、と云った。家族仲良く過ごした場所、それを象徴する看板を。
 男の父が家具職人の友人に譲って貰った細長い桜の木に力強く新木座と筆書きしてあるのだと云う。
 巨星にありとあらゆるものを吹き飛ばされ、破壊された町で、それを探し続けていたのだ。
「なるほど。それなら人手が要るな」
 世界がズボンのポケットに手を突っ込み、一枚の布を手の平に広げる。そこに祈りを込めて口内で祝詞を唱える。瞬間、布から美しい女の妖精が飛び立つ。
「俺は彼女と東を探すよ。集合はここで」
 そう言って歩き出した世界を一同は見送って次は大地が動き出した。
「それなら俺は、ここに眠る霊魂たちと探そう」
「悲しいガ、死んでしまった者の方が気の遠くなるほどに多い。なラ、そいつらの力を借りた方が手早く済むだロ」
 大地がローブのフードを被り直して黒い表紙の本を撫でて、目を閉じて呼び掛ける。
 やがて周囲に霊気をまとった気配が集う。
「じゃ、西を探してくる」
 静かに去った大地を見送ってセリアと睦月が男に振り帰る。
「探し物は彼らに任せて、あなたの家族をきちんと見送りましょう」
「どちらに墓を?」

●夜の幕が閉じる寸劇
 男に連れられて来た丘には幾千の簡素な土盛りがあるだけだった。
 拾い集めた社の欠片を片隅に置き、毎日ここで黙祷をしているとのことだった。
 絶望に荒れるわけでもなく、狂うでもなく。男はただひたすらに、黙々と墓を立て続けたのだ。
「……あなたの家族と仲間?」
 セリアが控えめに訊ねると男は頷いた。知った顔をここへ、顔は知らないが町の人をこの奥へ。
 そうして長い孤独の時間を過ごしたのだと囁くように男が告げる。
「そう……あなたは強いのね……」
 過去、家族と不幸な別れをして孤独に生きてきたセリアはもしかしたら、彼の在り方は少し羨ましいのかもしれなかった。
 自分の気持ちだけれど、定かじゃない。
「僕らに命を弔わせてください。ご家族と仲間が逝くべき場所へ送りましょう」
 睦月は普段、戦勝を祈願する神子だが今回ばかりは魂の安寧を願う仕事を請け負った。
 それもこれも、耐え続けた用心棒の健気を思ってのことだ。
(僕が用心棒の彼の立場だったら……立ち上がることすら困難でしょうね)
 内心をそっと吐息に混ぜて簡易に儀式を執り行う。
「かけまくもかしこき」
 この絶望の世界でも、耐え忍んで墓を作り続ける男と明日を生きたかった町人へ。
 これから世界を再生させる役目はイレギュラーズでも、生き残っていくのは彼らだから。
 今、確かな想いで祈祷を捧げる。
「ねえ、あなたの望みを聞いても?」
 セリアの問いに、男ははじめて微笑んだ。

●光明の朝
 三人が丘から町へ戻って数十分後、世界と大地が長い板を抱えて戻ってきた。
 薄汚れて黒くなったそれ、でも確かに文字が読める。木、という字だ。
「霊魂たちが教えてくれたんダ。飛んだ先を見ていたんだって」
 読みやすいよう、向きを調整してから渡せば男はあからさまにホッとした様子だった。
 大事そうに看板を抱き締める。
「そら、これで顔やら拭くと良い。まだ生きてる小川を彼女が教えてくれてな、そこで清めた手拭いだ」
 世界が言うと、妖精は男の額にキスを落とすとくるくると旋回しながら消えた。『彼方』へ還ったのだろう。

 男が落ち着いたところで一同は純白のティーテーブルへ戻った。いよいよ世界の再編が始まるのだ。
 用心棒で唯一の生存者、彼に望むものを与え、何もかも新しくするべきか、それとも。
「唯一の生存者たるあなたの意見を、無視するわけにはいかないけれど……なァ、アンタはどうしたイ?」
「お墓を作って探し物を見つけて……これからは?」
 男は椅子から立ち上がってある一点を指差した。先程、墓参りした丘だった。
 睦月がそうだね、と穏やかに応じた。
「死者は大きな守護霊の集合体。この世界が再びにぎやかになるよう願ってくれるでしょう」
 いつの間にか、テーブルには黄金のベルが置かれていた。
 それの取っ手に触れた睦月が男へ最後の確認を行う。
「『あなたはあの丘の墓場の墓守』、それで良いんですね?」
 ゆっくりと男が頷いて、それ以上は任すと告げた。
 睦月がベルを鳴らした。丘に社が再建され、男の着流しが作務衣に変わる。
 男は物珍しそうにくるりと回って、イレギュラーズに深く礼をした。
「似合ってるわ。なら、次はどうしよう」
 セリアが再びテーブルに置かれたベルを見つめて考え出す。
 男は任すと云ってくれたけれど、なるべく素敵な世界にしたい。
「なァ、他の望みは無いのカ? 筆を執るのは俺達だけれど、ここでの主人公はあなただ。
あなたの声や意思無くして、この世界の再編は叶わない」
 男は首を横に振る。宝物だった看板が手元に戻り、墓守になったことで願いは全て叶ったことになったのだろう。
「甘いもんが美味しいと良いよなあ……。ああ、そうだ。そうしよう」
 不意に世界が呟き、パァン、と自分の太ももをたたいて立ち上がる。
 ニヒルに笑ってベルを手に取る。
「『丘のすぐ下の大通りには、美味しいものの店が建ち並ぶ』!」
 叫ぶような宣言に大通りが整備され、甘味処から天丼屋など、あちこちから美味しい香りが漂ってくる。
「なるほど、これなら町は賑やかになりますね」
 自然と小さく拍手が沸き起こって世界が照れたように頬を掻く。黄金のベルが机に戻されてまた沈黙する。
 そのベルを大地が撫でる。つるんとした金属に木製の取っ手が手に馴染む。
「なら俺はやっぱり、『文化』が欲しいな。『大道芸や演劇に読書などの文化活動が活発』、楽しそうダロウ?」
 一同が賛同したことを確認して、大地がベルの音を響かせる。
 それに反応して劇場と演芸場、それに本屋が生まれた。
 最後にセリアが立ち上がってベルの前に立つ。
「最後は私ね。もう全部が揃ったみたいだけれど、ひとつだけ。『みんなで使える広場やお風呂屋』が欲しいわ。家族の団欒ってやつね」
 セリア自身が家族と辛い別れをしたからこそ、それを提供したかったのかもしれない。
 もう二度と悲劇がないように。幸福な世界が続くように、ベルが鳴り響いた。

●あの日の再編
 どんどん、ぴーひゃらら。どんちゃん、どん。
 たくさんの音が鳴って、芸人が躍り回り、演目表を配る。演芸場が開場する合図だ。
 チケット売り場のすぐ隣には屋台が出て、団子やお茶を売っている。
 それの三軒隣はこの町で一番大きな劇場で、毎日のように芝居や歌舞伎がかかる。
 中の売店で役者の生写真なんかも売っていて、こちらもなかなか盛況だ。
 劇場の目の前は本屋で、なんと台本のレプリカが飾られ、演劇や歌舞伎に関する資料から演芸の本まで取り揃えてあった。
 同じ道に建ち並ぶ店は料理屋と甘味処が多く、どの店も美味しいので甲乙つけがたい。
 少し外れた道には広場があって、小さな子供たちや、それを見守る親たちや町人の憩いの場である。
 大通りと住宅の間にドーンと構えられた城は風呂屋だ。
 露天風呂から日替わりの変わり湯などの風呂が楽しめるので朝から晩まで人がひっきりなしに訪れる。
 さて、その大通りをまっすぐ行くと丘に続く道に出る。
 この道を辿ると丘の上に建てられた社へ着く。
 この社は土着神様を奉ると共に、かつていた町人みんなを供養する場所だ。
 墓守の男が一人いて、彼はいつも丘から賑やかで楽しげな町を見下ろしている。
 この男は少しばかり若いだが町の歴史に詳しく、誰もが彼を頼った。
 奉納祭の時は彼がいないと始まらないほどだ。
 彼も町人と町が大好きなので、時々は演芸場で大道芸を観に降りるそうだ。
 他の演目や芝居も観るが、大道芸が一等好きなのだといつか云っていた。
 今日も彼は大道芸を観に降りて来て、飲みに行こうと町人の一人に誘われたところだ。
 それはとても良く晴れた日だった。それを眩しそうに男が見上げる。
「こんなにお天道様がご機嫌なら、客入りも良かろう。
……なあ、かみさまたち。この世界は悪かないよ。めでたしめでたしってやつだ」

成否

成功

状態異常

なし

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