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シナリオ詳細

罪を背負いし子羊の依頼、それは神に抗う者達の物語

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「あれはもしかして、妖精郷の門(アーカンシェル)……?」
 アスランは大きなキノコを幾つも生やす、古木のアーチにおそるおそる近づいた。頭を下げてくぐらねばならないほど、低く狭い門だ。
「なんだか悪い魔女が作ったような……なんてひどいですね。妖精さんが聞いていたら、きっと気を悪くしたでしょう」
 辺りを見回すが、この門を出入りする妖精の姿はどこにも見当たらなかった。
(「いまは使われていないのかもしれませんね」)
 気を取り直して妖精郷の門を観察する。
 アーチの向こうに見えるはずの景色は、門の前で波打つ虹色の膜に閉ざされて見えない。
 不思議な力が働いて、妖精郷の門の裏へ回ることはできなかった。横からみると、門と膜の間に、人が一人、ようやく立つことができるだけの狭い隙間がある。
 虹色の膜は、妖精郷に侵入しようとする異世界の人間を弾く仕掛けだろうか?
「ふむ……」
 門は『そこから来た者』しか入ることが出来ないと言われているが、入ってみたいとアスランは思った。
 駄目もとで試すぐらいのことは、やってみてもいいだろう。まさか、膜に飛び込んだからといって、死ぬことはあるまい。せいぜいが、後ろむきに弾き飛ばされて、尻もちをつくぐらいですむはずだ。
 だがいまは、妹のところへ急いで帰らねばならなかった。ここへは高熱を出して臥せる妹のために、解熱の薬草を取りに来たのだから。
「でも……ほんの、ほんの少しだけ……向こうの世界を覗き見るぐらいなら。リンも許してくれるでしょう」
 どうしても好奇心を押さることができず、アスランは大きなキノコを幾つも生やす木のアーチの前、いや虹色の膜の前に立った。
 呼吸を整え、虹の膜に指の腹で触れ、向こう側に目を凝らしたその時――。
 真後ろで、ワン、と吠えられ、驚いた勢いで波打つ虹色の膜の中に飛び込んでしまった。


「このところ深緑で相次いでいるアークモンスターがらみの依頼だ。幻想種の男性が、アークモンスターに操られて怪しげな宗教を始めている。行って目覚めさせてくれ」
 『未解決事件を追う者』クルール・ルネ・シモン(p3n000025)は、後ろに控えていた幻想種の少女を呼び、横に立たせた。
「事件の詳細は、依頼者であるリンが説明する。――リン?」
「あ、はい」
 リンは集まったイレギュラーズにぺこりと頭を下げると、サクランボウのような唇を舌で湿らせてから口を開いた。
「お兄ちゃんは……アスランは、リンの熱を下げるために迷宮森林の奥で薬草を採取していました。そこで偶然、妖精郷の門(アーカンシェル)と、門のエネルギーを食べているキノコのモンスターに出会ってしまったみたいなの。どこにも怪我はしていなかったけど、なにかへんなことをされたみたいで……家に戻ってきたお兄ちゃんは、とってもおかしくなってた」
 その時の状況を思い出したのか、リンは手をぐっと握り込んだ。
「自分の事を『選ばれし神の子』だとかいって、村の人々をキノコのモンスターの前に連れて行って……お兄ちゃんとおなじようにおかしくなった村の人たちと、妖精郷の門(アーカンシェル)を壊すわるいキノコのモンスターを栽培し始めたの!」
 幸い、熱があってベッドから起き上がれなかったリンは、魔物たちの元には連れて行かれることはなかった。
 熱が下がったところで兄たちの目を盗み、村を脱出、ローレットに助けを求めた。
「どうか、お兄ちゃんたちを助けて、悪いことをやめさせてください」
 クルールがあとを引き継いで、まとめにかかる。
「お前たちがやることは、妖精門に憑りついてエネルギーを食う電波キノコの殲滅と、アスランおよび信者……村人たちの洗脳解除だ。殴るなり蹴るなりしてショックを与えれば、目が覚めるだろう」
 ただし、アスランたちはごく普通の一般人だ。やりすぎれば簡単に死んでしまうので、手加減しなくてはならない。
「キノコの他に、リンが動く犬の石像を見ている。ときどきアスランが何か話しかけているらしいが、詳しいことは判らない。そうだな、リン?」
「うん。犬の石像は見た目がとてもカワイイということ以外、リンにもわからないの。みんなと一緒に戦いたいけれど……足手まといになるから、ここでみんなの帰りを待ってるね」

GMコメント

●依頼内容
 ・電波キノコ『ギガ』の殲滅。
 ・アスランと村人たちの洗脳を解く

●日時
・昼
・迷宮森林の奥にあるとある村。

●敵1……電波キノコ『ギガ』6体
 おじい、おばあ、おとん、おかん、おねえ、ぼくの三世帯家族です。
 最初はおじいとおばあの2体でした。
 アスランたちが栽培して子キノコ、孫キノコが増えました。
 体長50センチほどの人型のキノコ。
 動き回ります。足が超短いわりに、素早いです。
 中二病にかかってしまう二次の怪電波を飛ばしています。
 『ギガ』同士で二次の怪電波を繋ぎ、増幅します。

怪電波のラインに触れた者、怪電波ゾーンに入ったものは、以下のいずれかの幻覚に捕らわれ、それなりにダメージを受けるまで、すっかりハマってなりきってしまいます。
なお、なりきるだけのことですので、なりきったまま攻撃することはできます。
・三体以上で神・範囲/恍惚、ダメージゼロ
・二体以上で神・近列/恍惚、ダメージゼロ
 【わたしは選ばれし神の子】……アスランたちがかかってしまった幻覚です。
 【暗黒に封印されし運命(さだめ)の社畜戦士】……今日も残業、明日も残業。
 【片翼の天使と同等の力を持つかもしれないダンゴムシ】秘められた可能性。
 【かつて黒き魔物Gの家屋侵略を防いだダンシングキャッツ】にゃ~ん。
 【邪悪なるトマトに違法改造されたホッチキスをもつ三歳児】うんこ。
 【闇のクリスタルの導きのままにタコの頂点に立つ男】偉いのか?
 【闇を喰らい、光を滅するゴミ拾いの人】……ただのいい人です。
 【一説には“死神”とも言われる痔を患う者】…早く治しましょう。
 【やぶれた夢と未来の遺灰を抱く逃走者】……来る、借金取りが来る!

・単体
 【俺の邪気眼がうずくぜ】……神・遠単/睡眠

●敵2……白いわんこのゴーレム1体
錬金術で作られた、喋る二足歩行の石犬。
耳は長くたれ、尻尾は短いです。
腹がぽこんと出ていて、なんだかぬいぐるみみたい。
 【吠える】……神・範/崩れ。吠えます。
 【嗤う】……神・範/乱れ。しひひひ。
 【ぐーぱんち】……物・近単/猫パンチよりは痛いかも。
 【これが定められし旅路(ディスティニー)】……高確率で逃走。

●アスランと11人の神の子たち。
 幻想種の男性や女性。
 特別な能力はもっていません。
 幻覚が解けない限り、アスランと信者は電波キノコ『ギガ』たちを守ろうとします。
 武器はスコップやハサミなどの園芸用品。
 殴ると幻覚が解けて目覚めますが、あくまで一般人。
 手加減しないと死んでしまいます。

 ちなみにアスランは教祖的立場、女性的な美少年です。
 カリスマと人々を操る天賦の才能があるようです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 罪を背負いし子羊の依頼、それは神に抗う者達の物語完了
  • GM名そうすけ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年04月10日 22時50分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

奥州 一悟(p3p000194)
彷徨う駿馬
キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
パン・♂・ケーキ(p3p001285)
『しおから亭』オーナーシェフ
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
天狼 カナタ(p3p007224)
夜砂の彼方に
ゼファー(p3p007625)
祝福の風

リプレイ


 七分咲きの山桜を背にして、小舂日和の暧さのなかで働くアスランと信者――村人たちの姿は,絵に描いたようにのどかな林村風景そのものであった。
 走り回るキノコを除いては。
「あれは……原木でしょうか?」
 『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)の身体を、恐ろしい予感が絞る。
 アスランの指示で、村人たちが組み立てかけた原木にせっせと植えつけているのは、電波キノコの種菌だろうか。
(「魔物が発する怪電波……本来の自分とは違う人格にしてしまうとは何て恐ろしい……」)
 一体であればほぼ無害であるが、これが二体三体と増えるにつれて危険度がぐんと増す。洗脳されているとはいえ、それを無邪気に栽培する姿に戦慄し、震えた。
 しかし、とウィリアムの隣で呟くのは『緑色の隙間風』キドー(p3p000244)だ。
「楽園の東側の次はヘンテコなキノコに洗脳されて……つくづく運がないな。お前はよぅ」
 声に呆れの色が混じる。
 キドーはかつて、電波きのこを従えて村人たちに指示を出す美しい若者を、同郷の者と一緒に魔種、そして狂信から救ったことがあった。同郷の者と言っても相手はキドーと同じゴブリンではなく、本来は不倶戴天の敵であるクソエルフだが。
「……にしても、アスランのやつ、ハマりすぎじゃねえか?」
 くい、と下唇を突きだす。
 アスランの体は、神々しいまでに痩せてすっきりとしており、性が削がれて俗をにおわす生々しさがない。長いまつげが影を落とす潤んだ眼は冴え返り、男を男とも思わぬような凛々しい権威さえ備えていた。
 うーん、と『猫さんと宝探し』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)が唸る。
「すごく似合っているというか、ほんとうに新興宗教の教祖さまっぽいよね。魔物に洗脳されてやっている感がまるでない」
 アスランは洗脳されて布教を始めたというよりも、もともと持っていた夢というか、願望を、ただ魔物に引きだされただけなのかもしれない。
 三人の頭の上から、ゼファー(p3p007625)がしみじみとした声で持論を語る。
「まあ、あの年頃の子……特に男子にはあんな時期がありますからねえ……。終わってみればきっと良い思い出に……え? 違う??」
 仲間たちの反応は様々だった。控えめに目を伏せる者、急に雲の数を数えだす者、装備の確認をし始める者、などなど。
 みんなゼファーが言ったこととは違う意味で、『神の使い、あるいはGOD』になった己を夢想したことがあるかもしれないし、ないかもしれない。
 だが、しかし。
 たとえ青春の一時期に『中二病』なるものに罹ったことがあるとして、それを人前でカミングアウトするのは大変勇気がいることなのだ。
 笑ってくれればいいが、無言で白い目を向けられた日にはよう……泣けるぜ。
「まずはアスランと村人たち被害者を救出しよう。そのままだとキノコをかばうしね」
 冷え切った空気を明るい声で溶かすアクセルに、そうだな、と『彼方の銀狼』天狼 カナタ(p3p007224)が応じる。
「あー、村人のこともだが、俺は犬の石像も気になる。番犬、と言うには可愛いとのことだが……」
 情報によると犬の石像は錬金術でつくられたゴーレムで、歩くことも喋ることもできるらしい。
 いったい何が目的で、石犬は電波キノコたちと行動を共にしているのだろう。同じ魔物とはいえ、両者はあまりに種がかけ離れている。
「裏で魔種が糸を引いているのかもな」
 カナタは鼻を開拓された村へ向けた。春のうららかな風景の中に、白い犬のゴーレムを探す。
 アスランの傍にキノコが四体いた。体の大きさからして「爺」「婆」「父」「母」だろう。親よりも一回り小さな子キノコが二体、傘の下から虹色のオーラを発しながら村人たちの間を走り回っている。が、他に怪しいものが見当たらない。
「……ん、犬はどこだ?」
「あれじゃね?」
 『彷徨う駿馬』奥州 一悟(p3p000194)が腕を伸ばして村の奥を指さす。
 虹色の膜を張ったメルヘンチックな木のゲートの横に、二足で直立する犬の石像があった。
「メッチャ風景に馴染んでいるから、事前に犬のこと聞いてなきゃ、魔物だってわかんなかったかも。かわいいし」
 イレギュラーズたちの上で、ぴぴ、ぴぴぴ、と野鳥が愛らしい声でさえずる。
 来た道をふり向けば、紫に霞む木々の向こうに残雪模様の聖樹の頂が見えて景観も上々――。
「可愛らしかろうがなんだろうが、魔物はぶっコロす! 慈悲はない」
 『勇者の使命』アラン・アークライト(p3p000365)が、のどかな雰囲気にしびれを切らして、声を上げた。
「ま、尻尾巻いて逃げるっていうなら、あえて追わないでやるがな。とにかく、キノコを殺してさっさと帰んぞクソが!」
 『『しおから亭』オーナーシェフ』パン・♂・ケーキ(p3p001285)が、うむ、と頷く。
「オレがおとりになってキノコを引きつける。キノコは素早く捌いて食材にし、あとで料理しよう。……ということで、アラン。さっさと帰る前に食べないか?」
 アランが、ハッとさも愉快そうにロから息を吐いた。
「キノコ料理か! ちょうど腹減ってたんだ! 切り刻んでバター焼きにでもしちまおうかねェ!」
 とたん、アクセルとゼファーが「いいね」、と声をそろえる。
「オレはキノコ汁を作ろうと思っていたんだが……」
「どっちも作ればいいんじゃね?」
 一悟の提案に、カナタがうんうんと頷く。
「いや、おい、ちょっと待てって。食えるのか、アレ? 食っても大丈夫なのか?」
「そうですよ。キドーさんの言う通りです。アレはただの魔物ではありません、のちに黒歴史を残す恐ろしい幻覚症状を――」
 ウィリアムの肩に、目をらんっと輝かせたカナタの大きな手が置かれた。
「ちゃんと火を通せば大丈夫。大概のものは食べられる」
「そ、そんな乱暴な」
 反論しようとしたところで、オイ、と怒った声がした。
「議論は後にしろ。いまは行動の時だ。とっととぶっ倒しに行くぞ!」
 アランの号令で、イレギュラーズは進撃を開始した。


「色々大変だけど、できることからやっていくよ!」
 アクセルは、押し返してくる村人を威嚇するかのように、翼を広げた。
 天から白い光が射し落ちて、辺りを覆う。
 信者が数人、目を手で庇いながら地面に転がった。
「わふぅ?!」
 目蓋を透かして届いた光と怒鳴りあうヒステリックな声で石犬、白いわんこは目を覚ました。
「なんだ。なにが起こっている?!」
 騒ぎの元へ目を向けると、開拓地の端で信者たちが人垣を作っており、無理やり押し入ろうとする者たちと揉みあっていた。
 その向こうで、カバンを斜めかけにしたスカイウェザーが得意げに拳を固めている。
 白いわんこは侵入者たちを睨みつけ、魔力の籠った声で吠えた。
 そのとたん、目の前が白み、むわっとした熱気の塊が口と鼻を塞ぐ。
「あちちちっ。石でよかった、毛があったらチリチリになっていたぞ!」
「熱でひび割れてくれればよかったのに、残念です」
「なんてことをいうんだ! そこのハーモニア、お前はダンゴムシ決定だ!」
「お断りします」
 ウィリアムは魔法陣を展開し、石犬へ眩く光る熱の波を放った。
「む。同じ技を二度連続で食らうか、バカ者!」
 白いわんこはひらりと熱波をかわすと、こんどこそ遠吠えをあげた。
 最前列で信者たちと向き合っていたアランやカナタが、わぁ、と声をあげてよろめく。
 一時的に押しが弱まった隙に、数人の信者が列から離れ、キノコたちの守りについた。
 人が欠けて崩れた人垣からパンがやや強引に開拓地に入る。
「おい、毒キノコども。お前たちのようなただ捨てられるだけのクズ素材でも、オレが美味しく料理してやろう」
 ありがたく思え、と背中の大剣を抜ぬいた。
 なにをいうか、調理されるのはお前の方だ。挑発にいきり立ったキノコたちが、信者たちの静止を振り切ってパンを囲む。
 キノコとキノコの体を虹色の光が繋いだ。虹色に輝く六角形が形成される。
「――ひゅっ」
 パンは六角形の中心で大剣を落とすと、片手を尻に回して押さえた。残る片手を神に救いを求めるかのように天へ伸ばし、海老反ったまま固まる。
「あ、あ、あ……」
 半開きの唇が、なわなわと震えていた。大きく見開かれた目の端から、涙が一滴こぼれ落ちた。
 幻の激痛に耐えるパンの尻を、スコップを手にした信者たちが狙う。
「ちょっと待って。それで突いたら普通のお尻でも危ないわよ?」
 ゼファーがパンと信者たちの間に立ち塞がり、拳を固めてファイティングポーズをとった。
「手加減はするけど、怪我したらごめんなさいね」
 華麗なフットワークで信者たちの間をすり抜けつつ、ポコ、ポコ、と軽いジャブを頬に叩き込む。
「信者はオイラたちに任せて、邪魔はさせないよ!」
 アクセルは倒れた信者たちの足を掴むと、開拓地の端へ引きずっていった。
「黒歴史なんて作りたくないからな、速攻で終わらすぞ」
 体から発せられた闘気が幾つもの筋となり、物凄いスピードでアランの周囲を旋回する。
 触れれば切り刻まれそうな黒の暴風に最大級の危険を感じ、キノコたちは虹の六角形を解除するやバラバラになって逃げた。
「チャーンス!」
 キドーはニタリと笑うと、無防備に背を向けて逃げるおじいキノコをククリの刃で切り裂いた。
 おじいはグァッと不気味な声をあげて、縦に裂けた体を揺らしながらしばらく走っていたが、いきなりパタンと倒れた。
「ちっ。仕留め損ねたかと思ったじゃねーか」
 いきなり横からぶつかられた。
 腰に腕を回され、そのまま地面に押し倒された。背に温かな重みがかる。
「正気ですか、キドーさん。大切なキノコになんてことを」
「それはこっちのセリフだ、バカ野郎。どけ、アスラン!」
「どきません。キドーさんは大事な恩人……このまま英雄たちの国にお連れいたします」
「えーゆー? ふざけんな。テメェはまたリンを泣かせやがって。クソエルフが知ったら……って、はへ?」
 顔をあげたキドーの眼前に虹色の壁が迫る。
 あわてて起き上がり、アスランを背から転がり落としたが、うれしそうに走ってくるキノコたちから逃げ切れなかった。
 虹の壁をくぐり抜けた途端、キドーははっと表情を一転させた。
「俺、世のため人のため、ゴミ拾いで世の中をキレイに気持ちよくする」
 キドーはアスランに温和な笑みを向けると、地面に落ちる『何か』をもくもくと拾いだした。
「よし、いいぞ。その調子だ。どんどん幻覚を見せて仲間にしろ」
 シシシ、と笑ってキノコたちを支援する白いわんこの前に一悟が立ちはだかった。トンファーに炎を纏わせる。
「調子にのってんじゃねぇ!」
 トンファーの真価を発揮する回転からの遠心力を活かした振り抜きで、狭い眉間をぶち抜く。
「ワォォン!」
 白いわんこは、ぶっ飛ばされた反動を使って木の幹を蹴り、一悟に殴りかかってきた。
「アブね!」
 間一髪で攻撃を避けたはいいが、転がった先でおねえとぼくの虹ラインに引っ掛かってしまった。
「ほっちきちゅー」
 三歳児化した一悟は、目を輝かせながら透明なホッチキスをガチャガチャさせる。
「一悟君、ダメ!」
 子供は弱った相手を見つけるのが抜群にうまい。
 ウィリアムの注意を無視して、一悟はパンに駆け寄ると、トマトに魔改造されたホッチキス(人差し指を組み合わせたアレ)を尻の最奥に突き入れた。
 地獄の悪魔も肩をすくませるパンの断末魔が、開拓地に響く。
「止めたのに……」
 ウィリアムは空に浮かせた魔法陣を回転させた。呪われた風音を立てる旋風で、白いわんこに切りかかる。
「ぎゃ!」
 白いわんこは旋風から逃げまわりつつ、隙をみて、ウィリアムの髪を掴もうと巧みにぐーぱんちを繰り出した。
 コマ送りの超スロー展開で、白いわんこがウィリアムの脇をすり抜ける。
 ぶちっとすごい音がした。
「――ッ!!」
 膝を折り、側頭部を手で押さえるウィリアム。
 犬の指の間に、長い金髪が束で挟まっていた。
 それを横目で見ていたアランが、「ハゲ隠しに俺の帽子を貸してやろうか?」と声をかける。
 ウィリアムは何と返したか。
 返事はソニックブームと呼ばれる轟音に掻き消されてしまった。音速で繰り出された大剣が、おとんキノコの体を粉々にして吹き飛ばす。
 みればその先に、丸く幹を削られた木々の円道ができていた。
「おら、次! てか、一悟。キノコどもと一緒に走り回ッてんじゃねェ!」
「ほっちきちゅーでお口とめちゃうぞー」
「うっせえ、クソガキ!」
 怒鳴るアランの後ろを、おばあとおかんラインが襲い、抜けていった。
「タコの頂点に立つ俺様の拳骨は、かなーり痛ぇから歯ァ食いしばれよ!!」
「うわーん」
 アランにタコ殴りされて気を失った一悟を、白いわんこがシシシと嗤う。
(「アランは……あまり普段と変わらないじゃないか。つまらん。しかし、こいつ。心底この状況を笑ってやがるな?」)
 よし潰そう。殴って従わせよう。この世は弱肉強食だ。
 カタナは牙を向いた。
 狼の脚に力を籠め、銀の矢となって、一足飛びにしろいわんこの懐に入る。
 鋭い爪で脇腹をえぐり取った。
 普通ならすぐに離脱するところだが、カナタはその場にとどまった。腰を低く落とし、体重を乗せた重いパンチを白いわんこに叩き入れる。
 白いわんこはまるでマンガのように回転しながら、ウィリアムの髪の毛とともに森の奥へすっ飛んでいく。
「待て! お前たち、髪の毛とか集めてなにを企んでいるんだー」
「わしは逃げ帰るのではない。そこのデカイ犬が無理やり帰らせたのだー」
 アクセルの問いかけに斜め下の捨て台詞を寄越し、白いわんこは逃げ去った。
「俺は犬じゃなくて狼……いやヒトだ!!」
 アクセルは肩を怒らせるカナタをまあまあとなだめてから、邪を払う気を広げてアランとキドーの幻覚を解いた。
 涙目のウィリアムは魔法陣を柔らかく光らせて、顔をパンパンに腫れあがらせた一悟を癒した。
「やめてください! 神の国の門を前にして、どうして乱暴ができるのです」
「はいはい。邪魔だからちょっと寝ててちょうだい」
 再びキドーを捕えようとしていたアスランを、ゼファーが殴る。
 花が落ちるように倒れる様をみて、思わずため息をついた。
「まあ、美青年は倒れ方も耽美なのね」
「うっとりしてる場合か。逃げろ、ゼファー」
 おかん、おねえ、ぼくが泣きながらゼファーに魔の虹トライアングルを仕掛けてきた。
「え?」
 振り返った時にはもう遅い。どっぷりと虹に浸かりきっていた。
「ひっ! すみません、返します。必ず返しますからぁ」
 幻覚の債権者に囲まれて、ゼファーは恐怖の叫び声を上げた。
 全部絞り取られる。ここでつかまったが最後、ぺんぺん草の一本まで奪われてしまう。あとには夢の燃えカスすら残らない……。
 債権者の手を振り払うかのように振り回し始めた腕が、そばに倒れていたパンに当たった。
「いたた……ん? なんだ、まだキノコたちが残っているのか」
 よっこらしょ、と立ち上がると、またもキノコたちを挑発しだした。
 怒ったおばあキノコとおかんキノコがパンに向かっていく。
「一悟、手伝ってくれ。調理を始める」
「オッケー!」
 一悟がおばあキノコを叩き、パンが一刀両断する。
「ゼファー、しっかりして」
 やぶれた夢と未来の遺灰を抱く逃走者の幻覚を解くアクセルの横で、カナタが咆哮する。
 銀狼の前ですくみあがったおかんキノコを、涙目のウィリアムが焼いた。
「最後はオイラに締めくくらせて」
 アクセルがストラディバリウスに弓をあてて引く。
 高音で弾かれた炎の旋律が、おねえキノコをこんがりと焼きあげた。


「さあさあ、遠慮しないでたくさん食べてくれ」
「オーナーがちゃんと毒を抜いて作ったから大丈夫だよ。美味しいぜ」
 パンがモンスター知識を使いながら調理したキノコ汁とキノコのバター焼きを、一悟がみんなに配って歩く。
「どうだ、アラン。美味いか?」
 パンに味を問われ、アランはキノコのバター焼きを豪快に食いちぎった。咀嚼し、黙って親指を立てる。
 ウィリアムはキノコ汁を飲んだ。
「キノコ汁も美味しいですよ。キノコのうま味が他の具材の味を引き立てている」
 抜け毛の具合を見ていたゼファーが、「うんうん、いっぱい飲めば毛の代わりにキノコが生えてくるかも」とまぜっかえす。
「やめてください。冗談じゃないです」
 村人たちの笑い声が弾け、ギクシャクしていた雰囲気がほぐれた。
 カナタもキノコのバター焼きをホークで刺しながら、笑い声をあげる。
「ところで、宴には音楽が必要じゃないか?」
「お安い御用だ」
 アクセルが明るく楽しい曲を弾き始めると、数人が立ちあがり、焚き火の周りで踊り始めた。
 その時。
 キドーは隣から股のあたりに注がれる視線に気がついた。
「な、なんだよ、アスラン」
 そっと膝を閉じる。
「とても立派ですね……」
「え? ま、まあな」
 まさか、こいつ。キノコ汁が入った椀をあおる。
「さわってもいいですか?」
 ――へっ?
 柔らかい吐息が尖った耳に触れる。
 アスランの指が、太ももに置かれた聖樹のナイフに触れる。
 目が裏返る。
「ああ、やっぱり。あの杖と同じ波動だ……。あれ、キドーさん?!」
 キドーはキノコをのどに詰まらせて気を失っていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。
村人たちは幻覚から目覚め、アスランとともに自分の村に帰って行きました。
依頼主のリンもイレギュラーズに感謝して、村に帰っています。
白いわんこは逃げてしまいましたが、ちかく黒幕とともにみなさんの前に戻ってくるでしょう。

ご参加ありがとうございました。

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