シナリオ詳細
蒼海を灼く焔
オープニング
●そこは静寂なる海
夜の海に、冷え冷えとした月の光が反射している。月と、海との光を受けて海辺の教会はぼんやりと白く浮き上がるように見えた。
「ほら、皆さん。もう眠る時間ですよ。はやくベッドへ向かいなさい。……悪い子には"悪魔"がやってきて、がぶーっと食べてしまうのですよ!」
「きゃー! あくまこわーい!」
「じー先生もはやくねてくださーい!」
「まだおいのりしてなーい!」
じー先生、と呼ばれた茶髪の司祭の周囲をキャッキャと駆け回るのは教会で預かっている子供のなかでも年少組に位置する子どもたちだ。年長組の子どもたちはとても助かることに自分たちと年少組のぶんの夕餉の食器を片付け、それらを洗ってくれていたり寝床の準備をしてくれていたりする。それらはこの教会を一人で切り盛りする大人である司祭にとってありがたいことであった。
「さあ、皆さんも海にお祈りして下さい。――またあしたもよろしくおねがいします。」
「よろしくおねがいしまーす!」
司祭の祈りに続くように、賑やかな子供の不揃いの祝詞が静かな海に響く。
今日も、明日も、明後日も。この穏やかな海のように平和が続きますように――
司祭、ジニアは祈っていた。
●そこは苛烈なる炎
異教徒は等しく灰となるべき。街の掲示板には"聖焔会"からの告知が出されていた。聖焔会は国教であり、そこからのお触れを無視することは彼らには出来なかったし、しようと言うことも考えなかった。つまるところ、異教徒の排斥である。
「彼らは森の向こう、海辺の崖に巣食っている!」
聖焔会、焔剣軍の長たる"炎旗"アティカは自らの二つ名の由来ともなっている真紅の旗を掲げ声高に叫ぶ。
「今こそ彼奴ら――蒼海の悪魔を仕留めるときだ!」
群衆は沸き立つ。異教徒は等しく灰となるべきなのだ。彼らは武装し――海の悪魔を仕留めるべく進軍しようとしていた。
●
「ということで、だ。クカイお兄さんがイレギュラーズ一同にお願いしたいことは『この争いをどうにかすること』なんだよねえ」
さも当然のことだ、といわんばかりに平然とした顔で境界案内人、白雲クカイはあなた方に向かってそう言い放った。
金の髪の毛を指先でいじりながら彼は言葉を続ける。
「大方の予想を裏切って、このままだとこの争いは長期化してねえ。あの司祭さんが本当に『悪魔』を呼んでしまって世界が大変なことになっちゃうんだ。」
ただ静かに暮らしていたかっただけなのにね、と他人事のように――実際他人事だから仕方ない――話すクカイは笑みを浮かべる。
「抵抗をされる前に始末するという形でもいいし、静かに暮らしたかっただけの彼らを守るという形でもいい。
この地に悪魔が呼ばれることだけは、阻止してもらえないかなあ?」
- 蒼海を灼く焔完了
- NM名玻璃ムシロ
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年04月26日 22時05分
- 参加人数4/4人
- 相談10日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
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参加者一覧(4人)
リプレイ
●蒼い海の下で
「まあ。聖焔会が此の教会を貴方達ごと焼き討ちにする為に進軍してるってワケ」
「で、教会の焼失を演出し、聖焔会の襲撃をやり過ごすという計画ですか……」
「こういう争いを無くせれば一番いいんだけど……。個人個人の思いだけじゃどうにもならないのかな」
悲しいね、と『咲く笑顔』ヒィロ=エヒト(p3p002503)は呟いた。
未だ日の高いうち。ジニア司祭の元を訪れたのは四人の特異運命座標。孤児達には不安にさせないように、とのゼファー(p3p007625)の気遣いだったが子供というのはやはり盗み聴きをしたがるモノというか。扉の外には幾人かの隠しきれない気配が中の様子をうかがっている。イレギュラーズも、司祭もそれに気づいてはいたが――追い払う様子はない。
「いったん引けばあちらの方にも働きかけるさ。子どもたちの為にもそっちの方がいいだろう?」
徹底抗戦するよりもマシなはずだ、とゼファーの説明に付け加えるのは『風の囁き』サンディ・カルタ(p3p000438)。しかし、と躊躇う司祭に対し「でも、彼らにも危険が迫っているんです」と桐神 きり(p3p007718)は訴えると司祭の視線の先と同じ――ドアの向こう側にその両瞳を向ける。そう、これは司祭だけの問題ではないのをお互いが分かって居た。わかってはいたが……すぐにハイとうなずけるほどの力が司祭にあるわけではなかった。薄いドアの向こう側でも小さなどよめきが広がっている。
「無茶で無理難題を吹っかけてるのも分かってるけれど。それでも、あの子達の命が天秤にかけられている以上、他に道は無いわ」
「それに、此処で退けても、いずれまた攻め寄せてくるかも……。それなら、静かに暮らすためにも新天地を探してみたらどうかな?」
ゼファーとヒィロの言葉を後押しするように、サンディがドアの向こうに声をかける。
「なあに、大丈夫さ」
アニキカゼを吹かせるサンディの声にどよめきは次第に静まり、ぎいと音を立ててドアが開いた。
「ジー先生、その……僕たち――」
子供のうち一番背が高い少年が口を開く。その声を聞いて司祭は「……わかりました、少々危険な旅路にはなるかもしれませんがあなた方の話に乗りましょう」と言うのだった。
「新天地までの旅路の護衛はボク達に任せて! 行き先は司祭様に決めてもらうけど、子どもたちの安全は必ず守るよ!」
咲くように笑うヒィロを、天井のステンドグラス越しの太陽が照らしていた。
●聖焔の飾り旗
そろいの赤い衣に、赤い武器。それらの格好で歩いていれば咎められることは無く、連絡があるといえば『炎旗』アティカの天幕にイレギュラーズは容易く侵入することが出来た。フードを下ろしながら四人は彼女の前に相対することになる。見慣れぬ人間に眉根を寄せるアティカではあったが、ヒィロが懐から蒼海教会の象徴を出せば、彼女の眼は驚愕、といった具合に見開かれた。
「平和的解決……その計画に、協力しろ、と?」
「はい。正面から戦わなければ犠牲は出ません。それに、戦わずして勝てるならばそれがもっともスマートでしょう?」
きりの言葉に静かに頷く、その通りだった。
「正義だの、神の啓示だの…そんなのの裏に押し込めた貴女の本心は、どう? 其の紅い旗は、罪もない子供たちの血で染めた、恥知らずの旗ではないのでしょう?」
「この功績があれば、アティカさん自身の立場も強くなるんじゃあないかな?」
そうすればより自分のやりたいことができる、苦しむことを――こういうことをやることなどないように導けるんじゃあないか。ゼファーとヒィロは言う。
その旗で護れるものがある、この旗で救えるものがある。なればこそ。アティカは立ち上がると深々とイレギュラーズ達に頭を下げる。
「……そもそも断る理由が『私』にはありません。むしろ、お願いしよう。私に出来ることならば」
「よし、ならこれから先の段取りの話をしようか。なあに、トップが"作戦会議"っていっておけどうにでもなるだろう?」
何せ時間がないからな、とサンディときりが予め用意していた地図を広げ作戦について説明をする。その時間はそれはまさしく作戦会議と呼ばれるモノに違いなかった。
●教会或いは孤児院は燃える
深更の海は凪いでいた。海風が潮の匂いと僅かな冷気だけを海辺にたたずむ教会へ運ぶ最中、それは始まった。
「異教徒共の巣窟を燃やせ!」
赤く燃えるような旗、多くの人間の足音と共に静寂を裂くような怒号と熱。教会を取り囲む人間の群れに、燃え上がる建物。火を付けた聖焔の人間でさえも容易に中に入ることは適わず、そのほとんどが燃えさかる炎の隙間からその様子をうかがうのみ。兵士がのぞき込めば炎の先に泣き叫んで居るように見える少年少女やそれを護るような男の姿が見える。ごうごうと強く吹きすさぶ風と熱の向こうで瓦礫は崩れ、その先が見えなくなっていく。炎の燃える音の隙間から聞こえる少年の叫びもまた、外で少ない出入り口を見張る聖焔の人間の満足心を充分に煽っていた。この聖なる炎の中で異教徒らは燃やされているのだ、と。そう思った瞬間にまた一段と火の手は強くなる。この小さな教会なら一晩で燃やし尽くしそうなほどに――
「まったく、楽じゃないわね」
その瓦礫の影……まだ炎の回っていない場所でゼファーが汗を拭いながらため息をついた。無論少年少女や司祭は本物ではない、幻影である。
「もう一つの方はサンディさんが担当してくれてるし、あとはいい感じにボク達も脱出、だね」
「私たちまで此処で燃えてしまったら元も子もありませんからね」
教会で異教徒は焼け死んだ。そういう記憶を焔剣軍の人間に確りと焼き付けるのが残った四人の仕事だった。ゼファーとヒィロは幻影で、サンディは自らとモルダーの二人で。きりは内部から追い打ちのようにもう一回着火しここにいた人間が燃え尽きて何も残ってもおかしくないように。
孤児達はもう避難を終え、少し離れた場所で用意された馬車の中だ。あとは脱出して裏口にも火を付け。安全なところまで護衛をして終わりである。ヒィロが視線を向ければ反対側の窓に近い部分ではサンディが幻影ではなくモルダーと共に叫び、動き、走り、地獄を強調していた。そしてサンディの側もまた外から見えづらくなったところで息を吐く。
「こっちも終了、っと。さて行くか」
モルダーと共にゼファーとヒィロを追いかけるようにサンディもまた燃えさかる教会から脱出する。
「三人とも、こっちです」
偽装のために普段の服の上から羽織っていた蒼海教会の孤児や司祭の服をはぎ取る。証拠隠滅とばかりに彼女の炎でそれらに火を付けさらに投げ入れれば、通ってきた裏口もまた火の手に包まれる。ミッションコンプリート、仕事の完遂である。
裏口――もとい海側の崖の下、小さな入り江で子供らが遊ぶためにかけられた木製の梯子――の先から少し歩けば上の喧噪がウソのように静かな森があり、その中に幌馬車の用意がすでにされていた。御者席にはすっかり司祭服を脱ぎ捨て御者服を纏った司祭が座っており、子どもたちもそれぞれがしっかり『旅支度』を済ませていた。
「ありがとうございます、教会にあれだけ注目が集まっていれば平気かもしれませんが――安全なところまで、護衛をしていただければ幸いです」
朝には多分見えるところまでいけるでしょう、といいながら彼らは新しい土地を目指して歩き始める。
静寂の海は、静かにそれを見守っていた。
●残り焔(ひ)
「我らの勝ちである!」
勝ちどきを上げれば、周囲は歓声に包まれる。そこに残っていたのは焼け落ちた教会だった。
ステンドグラスは熱で溶け落ち、中の人間が居たとしてももはや生きてはいるまい、というくらいの消し炭と瓦礫の山である。異教徒は死んだのだ、と少女の内心とは裏腹に辺りは喜びの空気に包まれていた。
ふと、懐に異物感を覚える。何も此処にはなかったはずだと思いながら取り出してみればそれは一枚のカードであった。
ああ。これもまたあの協力者達の土産だったのだろう。ふと視線を海の方へ向ければ遠くのほうに馬車が走っているのが見えた。
この地夜明けは、随分と近そうだった。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
初めまして、膝毛(ひざけ)と申します。初めてのライブノベルなるものを出させていただき候。
●目標
『蒼海』と『聖焔』の争いをどうにかし、『悪魔』を呼ばせないこと。
選択肢としては主に以下の通りになります。
1)蒼海の味方をし、聖焔軍を退ける。
2)聖焔の味方をし、蒼海教会を焼く。
3)蒼海と聖焔の衝突を何らかの手段で未然に防ぐ。
4)その他
など。「どちらかを勝たせる」か、「衝突を起こさせない」ようにしてください。
注釈:プレイヤー間で行動目標、また戦闘中心か対話中心か、といったことは定めておくことを推奨します。
:この選択肢にない行動をとることも可能です。
●舞台
『第四亜界』
剣と魔法、それと機械が発達した、様々な種族が入り交じるファンタジー世界。
文明レベルは混沌と近しく、違和感を余り感じない程度でしょう。
イレギュラーズはアティカ、ジニアどちらとも接触が可能な人間として送り込まれます。
●NPC
『静寂の凪』ジニア・フローレンス
海に面する蒼海教会の年若き司祭。外見年齢は20代後半ぐらいのヒト族(カオスシードに酷似している)であり、穏やかな青年。
子どもたちを守ることなら何でもすると決めており、孤児達が死んだあとに彼が生き残っていた場合は『悪魔』が呼ばれる。
孤児たち
教会が保護している孤児達。意外にも鍛えられており簡単な回復や支援などを行うことが出来る。彼らに手を出すとジニアは激昂する。
彼らの目の前でジニアが死んだ場合、『誰か助けて!』という祈りは『悪魔』を呼び起こすだろう。
『炎旗』アティカ
聖焔会の所持する軍、焔剣軍の長に君臨する少女。見目が麗しく、剣の腕も立つことからリーダーにされたとも言われている。
本人は自分がお飾りである、という事は幾分承知の上でありまた無抵抗の者を蹂躙することには罪悪感を抱いている。
信者
一杯居ます。一人一人は弱いですが数は暴力です。基本的には弱いものから蹂躙しようとします。
アティカの言うことには従いますが基本的に扇動などに弱く、混乱しやすいです。
●
以上になります、何卒よろしくお願い致します。
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