PandoraPartyProject

シナリオ詳細

空蝉

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「よっし!! 今日も綺麗に貼れたぞ!! ふふ、最の高だ!!」
 祭国ふみかはイレギュラーズの大ファンである。彼は日々、イレギュラーズが解決した事件をスクラップブックに切り貼りし、暇さえあればうっとりと眺めているのであった。
 ただ、彼はイレギュラーズファンとして、有名でありながら、推しの前には絶対に現れることはなかった。何故なら、彼は推しを応援したいだけであり、推しに自らの存在を認められたいわけではないからだ。そもそも、彼らの視界に一秒でも自分を映して欲しくないし、存在を知られ、嫌われたくもない。ひっそりと応援することがふみかにとって一番大切なことであった。

 それでも、イレギュラーズのサインやツーショット写真を友人のテックやロールから見せられる度にふみかは羨ましくてたまらなくなってしまう。何故なら、自分にはスクラップブックしかないからだ。だが、どんなに羨ましいと思っていても、彼らの時間を一秒でも自分のために使うのは至極、勿体ないような気がするしやっぱり、ポリシーとかけ離れている。
「邪念を捨てろ、ふみか。彼らは至極、忙しくて仕事をいつも任されているんだ。僕は僕なりのやり方で彼らを推す。それでいい、いつも通りさ!! 何も問題はない!」
 にっこりと笑い、ふみかは大通りから裏道に向かう。細い道。

「お兄さん、お兄さん」
「え?」
 目を丸くし、見れば、フードを被った猫がふみかに話しかけている。
「ええと? ブルーブラッドまたは誰かの腹話術かな? それとも、君は誰かに操られているの?」
 ふみかは屈み、猫を見つめる。
「そんなことは別にいいの」
「あ、ごめん。そうなんだ」
「そうよ。ねぇ、この万華鏡を覗いてみてくれない?」
 猫は前足でコロコロと万華鏡をふみかの前に。
「え、ちょっとやだよ。覗いた途端に食べられちゃうとか死んじゃうとか何処かの世界に飛ばされちゃうとか操られるとか、有り得そうだもん」
「……詳しいのね」
「うん、まぁね。それなりに詳しいんだ、僕は。だから、軽率な行動はしないよ! 君には悪いけどさ」
「……」
 猫は困ったような顔をする。
「……んんと? 何かわけありなの?」
「……名前」
「え?」
「名前を忘れてしまったの」
「そうなんだ。どうやったら思い出すの?」
 ふみかは尋ねる。イレギュラーズの今までの事件に比べたら、全然、驚くことではない。
「そうね。何が見えるか解らないけれど、万華鏡を8人に覗いてほしいの」
 猫は言った。でも、猫は自分でも解らないが、嘘を吐いた。この万華鏡を覗けば、叶わなかった夢を見るのだ。そして、猫はすぐに言葉を話さなくなった。きっと、すべてを忘れてしまったのかもしれない。ふみかは慌てて猫と万華鏡を抱き抱え、ローレットに向かった。

 ふみかは初めて訪れたローレットの前で猫と万華鏡を抱き抱え、この扉を開けようか迷っている。正直、推しには会いたくない。今までのポリシーが崩れてしまうのは、どんな理由であれ、ふみかにとって好ましいことではない。
(でも、依頼しないといけないよね)
 猫は大人しくしているが、もし、猫が逃げてしまったとしたら?
 想像しただけで、青ざめてしまう。仕方ない。ふみかは息を吸う。

 その瞬間、大きな男が目の前に現れた。どうやら、彼が扉を開けたらしい。
「と言うか、あれだ!! サンドリヨン・ブルーじゃん!!」
 ふみかは指を指す。ドレスを着た、絵心のないチンチラとは彼のことである。顔の傷跡について、知る者は誰もいない。牡蠣が大好物らしく、彼はよく、オイスターバーでウーロン茶を飲む姿が目撃されている。
「え? 僕がどうかしましたか?」
 『ロマンチストな情報屋』サンドリヨン・ブルー(p3n000034)は目を丸くする。恐ろしい顔とは裏腹に彼はとても、人懐っこい。
「ええと、その! 僕からの依頼です!! え、いや、違うな。こ、この猫さんの名前を思い出させるために万華鏡を覗いてほしいんです!!」
「そうなんですね、人数は決まっていますか?」
 流石、サンドリヨン。彼はすぐにこの状況に適応する。
「8人みたいです」
「分かりました、いますぐ、イレギュラーズに覗いてもらいましょう。きっと、貴方もこの猫さんも不安だと思いますからね」
 にっこりと笑い、サンドリヨンはイレギュラーズに声をかける。

GMコメント

 ご閲覧いただきましてありがとうございます。今回は万華鏡を覗き、叶わなかった夢を皆様に見てもらいます。夢は一人で見ます。ただし、特殊な夢であれば、二人で見ることも可能です。

●目的
 万華鏡を覗いて叶わなかった夢を見ること。夢から覚めたあと、ふみかと交流しても構いません。

●依頼人
 祭国ふみか(さいこく ふみか)
 男性。イレギュラーズファン。

●万華鏡
 叶わなかった夢を見ることが出来ますが、万華鏡を覗いて何が見えるかは依頼人もサンドリヨンも皆様も実際のところ、猫が嘘を吐いた為に知りません。知らずに覗き、叶わなかった夢を見るのです。

●猫
 名前を忘れてしまった猫。今は言葉すら忘れてしまった。

  • 空蝉完了
  • GM名青砥文佳
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年03月21日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

グドルフ・ボイデル(p3p000694)
シラス(p3p004421)
竜剣
Tricky・Stars(p3p004734)
二人一役
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
クラウジア=ジュエリア=ペトロヴァー(p3p006508)
宝石の魔女
メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
虚無堕ち魔法少女
角灯(p3p008045)
ぐるぐるしてる
築柴 雨月(p3p008143)
夜の涙

リプレイ


「オイオイ、こんな筒を覗くだけでカネが貰えるのかい。ラクな仕事だねえ、ゲハハハッ!」
 万華鏡を男は乱暴に掴み、覗き込んだ。

 一抹の夢。もう、そこに『山賊』グドルフ・ボイデルはいない。見覚えのある手鏡に私が映り込んでいる。私は微笑んだ。誰よりも幸せだった。

「兄さん」
 聞こえる声に振り返った。妹が長い髪を揺らし、私に近づいてきた。
「カティ」
 私は目を細め、妹を抱き寄せた。
「アラン!」
 親友の力強い声。遠くでリゴールが私に手を振っている。
「いい子ね」
 先生が微笑んだ。シスターは私をいつでも褒めてくれた。

 鮮やかな笑い声。傍にはいつだって妹と親友がいる。胸元で揺れる十字架。年を重ね、幸福が増えていく。私は力も、金も、名声も、何一つ要らなかった。皆は私を慎ましいと笑う。
「神父様。一人で寂しくない?」
 少女は結婚が出来ぬ私をじっと見つめた。私は首を振り、口を開いた。私は神に感謝を捧げ、大切な人達と生きている。

「カティ」
 何故だか、声は返ってこなかった。私は焦り、親友を呼び止めた。
「リゴール!」
 彼は振り向かなかった。ただ、その肩を震わせている。青ざめ、私は走り出した。
「先生」
 私は必死に探し回った。でも、彼女はどこにも居なかった。

 血の臭いが消えない。私は立ちすくんだ。

 グドルフは舌を鳴らし、万華鏡を投げ捨てる。
「……下らねえ。こいつを作った奴は、余程悪趣味な奴らしい。頼んでもねえモノ見せやがって」
 夢に溺れ、絶望に沈む哀れな男。グドルフは苛立つように髪を掻く。おろおろするふみか。
「オイ、口直しだ。ふみか、おれさまとウマイ酒でも飲みに行くぞ。付き合えよ、なあ?」
「ひゃうっ!? え、僕ですか!?」
「あああん? 決まってんだろう?」
 グドルフはふみかの肩を抱き、古びたロケットを揺らす。
「いや、ちょっと皆さんが終わるまで待ってくださいよ!」
「おれさまに指図するってか!!」
「ええっ!?」
 びっくりするふみかをグドルフはげらげらと笑い、思う。もう、夢に溺れることはない。二度と幸福な夢を見せないでくれ、絶望に触れた男は己にそう、願ったのだから。


 『二人一役』Tricky・Stars(p3p004734)は演者のように万華鏡を覗き込む。吸い込まれる。

 気が付けば、小劇場の前に立っていた。俺は眺め、息を吐く。聞こえる、軽快な足音。制服を着た女が俺に駆け寄って来る。
「宜しくお願いします!」
 女は手にしたビラを俺に押し付け、にっこりと微笑んだ。ビラには『演劇』の文字。公演は今日。女の口元にはほくろ、明るい髪色が太陽に眩しく光っている。女はスカートを揺らし、何事も無かったように俺から離れ、ビラを撒き続ける。

『高校演劇部 母の日特別公演 青い鳥』
『チルチル役:空樹 麻資郎』

 息を吐く。俺はビラを花束のように握り、足早に歩く。行かなくてはならない。俺は汗を拭い、熱い熱気に触れる。
「受け付けはこちらです」
 聞き覚えのある声に導かれ、双眸に沢山の人を俺は映した。受付に立っていたのは黒の短髪に優しげな茶色の瞳の青年だった。俺は目を細める。青年は演劇を愛していた。希望に向かうその瞳は星よりも輝き、楽しそうに笑うその顔に呪いなどなかった。
「ありがとうございます!」
 青年は公演プログラムを俺に手渡した。俺は頭を下げ、真っ赤な椅子に座る。観客席には多くの親子連れ。ざわめき。空席はすぐに埋まってしまう。
「お母さん、今日、このお兄ちゃんが出るんだよね?」
「そうだよー? 楽しみだねぇ」
「うん!」
 俺はそれを聞きながら、プログラムを開く。

「行こう、ミチル。青い鳥はきっと次の国にいる!」
 壇上を動き回る演者。その声は何処からでもはっきりと聞こえる。観客は無意識に息を止め、彼らに夢中になった。俺もその一人だった。

 ああ、願わくばこの目で見届けたかった。

 俺は万華鏡を傾けた。もっと、この夢を見ていたかった。

『稔くん』

 何故だろう。聞こえたのは今にも泣き出しそうな声。橙色の髪、赤い瞳のチルチル。俺は首を振る、どうか、もう少しだけ。

『もう止めよう。どんなに強く望んだってあの人は生き返らないんだよ』

 あっという間に劇場は燃え、全てを壊してしまう。俺は呻いた。青い鳥は何処にも居ない。消えてしまったんだ。


 女は魔導の深淵を覗き込もうとした。しかし、覗ききるには人の身では到底、足りなかった。だから、女は宝石の化生となり、他の者は子孫を残し受け継ぐことで時間を手に入れた。
 
 それが目の前の『宝石の魔女』クラウジア=ジュエリア=ペトロヴァー(p3p006508)であった。ふみかは万華鏡を覗くクラウジアを見た。

「!?」
 目の前にはかつての同志がいた。同時に自らの身体も人へと戻っていた。テーブルには食べかけの料理。私は同志と食事を取り、それから書物を読んだ。

 身体が少しずつ老いていく。夢の中の私は自然にそれを受け入れていた。やることは昔と変わらなかった。ただ、若い頃とは違い、徹夜は出来なかった。計算を間違い、意味の分からないものをよく生み出したりする。その度に同志と私は騒ぎ、笑い合う。
「クラウジアおばあちゃん、杖から珈琲を出す方法教えてよ!」
 孫の一人が言った。
「それは明日かのう」
 薬を飲みながら笑う。
「えー、今がいいのにー!」
「焦るでない、明日は満月じゃろ?」
 クラウジアはにやりとする。孫や弟子、同志に囲まれ、毎日が楽しかった。同志と魔術理論を語り、どちらが勝っているか決闘することもあった。勿論、皆に怒られたりしたが私は幸せだった。

 やがて、命が尽きた。

「え、泣いてるんですか?」
 ふみかが息を呑んだ。クラウジアは呆然とした表情で泣き、何も答えなかった。

「のう……これ、猫の名前関係ないじゃろ? うむ、まあ、よい、騙したことはゆるそう。ただ、一発殴らせろ、儂の細腕で壊れるものなどないわ、いいから一発殴らせろじゃぁー!!」
 クラウジアは泣きながら、様々な物を破壊し、すとんとまた椅子に座った。

 私はあいつをどう思っていたのだろう。
 あいつは私をどう思っていたのだろう。
 もう、何も思い出せない。

 クラウジアはテーブルに突っ伏し、失ったものを知る。


 『ぐるぐるしてる』角灯(p3p008045)は慌てているふみかとすやすやと眠る猫を見つめた。湧き上がる好奇心。角灯は彼と猫の近くを行ったり来たりする。どう、話しかけていいか分からない。
「あ、あの、お願いします」
 ふみかは角灯を呼び寄せる。
「覗いたら、食べられたり、死んだり、変なとこ飛ばされたり、操られたり、有り得そう……だけど」
「え、あ、そ、そうですね」
 口をぱくぱくするふみか。角灯は眠る猫の額をゆっくりと撫でる。
「猫さん、今は静かにしてるけど、喋ってたの?」
「はい」
「そっか。まだ、思い出したいのかな。んー、でも、おれの名前みたいに、新しく付けてもらうんじゃ、ダメ?」
 氷色の瞳がふみかを見た。ふみかは答えなかった。いや、答えられなかった。だから、ふみかは角灯に万華鏡を手渡した。角灯は頷く。

 覗き込んだ世界で角灯は紫のウサギだった。そこには少年がいた。
「ジル、ほら、星屑だよ!」
 少年は種に似た黒色の星屑を角灯に与えた。角灯は星屑を食べ、抱っこを求めた。
「甘えん坊だなぁ!」
 少年は笑い、角灯を抱きかかえる。長いひげが揺れる。角灯は少年の胸に頬を擦り付けた。
「ああ、可愛いなぁ、ジルは」
 少年は角灯の耳を撫で、角灯の背をくんくんと嗅ぎ、また、笑った。
「あ! かけっこしよ? ほら、ジル、おいで!」
 少年は角灯を地に降ろし、駆けだした。
「!!」
 角灯は少年を追う。楽しかった。とても、居心地が良かった。少年はちらちらと角灯を見つめ、時折、立ち止まった。
「あ、違う!! こっちだよ、ジル!!」
 もぐもぐと野草を食べる角灯に少年が慌てて近づく。角灯は耳を動かし、少年の声を聞く。

「……」
 角灯は元の姿に戻っていた。ふみかが心配そうに角灯を見つめている。人恋しかった。

 名前も、居場所も、愛も、生きる糧も、与えられるままを享受して、誰かに依存しきって。
 おれは、ペットになりたかったのかな。子供に、なりたかったのかな。

「角灯さん?」
 恐る恐る話しかけるふみか。角灯はふみかを見つめ、「にゃー」と返事をする。まだ、伝えたい言葉は見つからなかった。


「本当にそれだけでいいんだ、俺らめちゃくちゃツイてるぜ! それとこの猫? どうしてこいつの名前を調べることに繋がるわけ?」
 『ラド・バウC級闘士』シラス(p3p004421)はふみかが抱きかかえている猫を見つめる。真っ赤になるふみか。
「まあ、いいや。貸せよ、見てみてやる」
 シラスは勇敢に万華鏡を覗き込んだ。
「おっ! 綺麗な模様だ」
 感嘆し、シラスは見知らぬ部屋に一人。
「なんだ……いや──」
 知らない場所なんかじゃなかった。一瞬だけ忘れていた。
「俺の家だ、今の住処じゃあない、昔の……まだ子供の頃の家」
 壁の感触。鼻に触れる、あの香り。
「シラス、何してんだよ? 食事の時間だって何度も言っただろ?」
 金色の髪が揺れる。
「お兄ちゃん」
 無意識に呟いていた。
「どうしたんだ? 変な顔しやがってよぉ」
 きょとんとする兄。近づいてきた黒髪の女をシラスは見た。
「お母さん……」
 見たこともないチョコレートがポケットから零れ落ちた。
「なんだよ、これを隠してやがったのか」
 にやりとする兄。母はふふと笑い、「シラス、チョコレートは夕食のあとでもいいわね?」
 奇麗な紙に包まれたチョコレートを拾い、母はそっとシラスの掌に落とした。

 食卓に並ぶ料理は温かった。母は穏やかに微笑み、熱心に兄やシラスの話を聞いてくれた。何もかも満たされる。
「シラス、もっと食べていいのよ」
 母はシラスに穏やかな笑みを向けてくれた。頷き、笑いかけようとした。
「え……?」
 シラスはハッとする。黒塗りの貌。椅子を蹴り、シラスは逃げるように立ち上がった。遠ざかっていく兄と母。

「シラスさん? あの! 大丈夫ですか?」
 ふみかの声が聞こえ、シラスは万華鏡を置く。何も見えなかった。嫌な笑いが口元に浮かぶ。心臓が痛い。

 そりゃあ見えるわけないよな、あの人が俺に笑顔を見せたことなんてない。
 どんな顔で笑うのか俺自身が知らないんだから。

 シラスは冷たい汗を拭い、ふみかをじっと見つめた。
「ね、何だってこんな猫と万華鏡拾ってきたわけ? 聞かせてよ、興味出て来ちゃった」
 笑う。誰かと話して忘れてしまいたかった。


 『始末剣』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)は万華鏡を見つめる。簡単すぎて気味が悪い。ただ、暇つぶしには丁度良かった。咲耶は万華鏡を覗き込む。

 知らない街に咲耶はいた。街路樹には桜。花びらが舞う。
「拙者に何か用でごさるか?」
 瞳には若い女。
「お姉さんにチラシを渡しに来たんですよー! 今日からお店がリニューアルオープンなんでー! てか、お姉さん、めっちゃスタイル良くてびっくり!」
「む?」
 咲耶は鏡で自らの姿を映し、叫んだ。豊満な身体。そこには別人がいた。
「もしや今頃成長期とやらが来たのでござるか?」
 確かめるように咲耶は触れる。姫様の影武者となるべく掛けられた忍術によりあの娘子の体躯のまま、一生を終える物と思っていた。少し胸が邪魔な気もしなくはないが。
「年も取っているような気がするでござるよ」
 咲耶は息を吐き、はっとする。もしや今までぶてぃっくで憧れていたあのお洒落な服を着たりしてもいいのでは? 手には汗でくしゃくしゃになったチラシ。
「二十ぱーせんとおふ。ふふふっ、ろーれっとの者達も粒揃いで少々羨ましく思っていたのでござるがこれでようやく拙者の身も心も大人のれでぃの仲間入りというものでござる」
 咲耶はぶてぃっくで沢山の服を買った。
「ぱんぷすとやらも買ってしまったでござるな」
 咲耶は目を細め、今度は美容室に立ち寄る。

 奇麗にセットされた髪、咲耶はワンピース姿で飲み屋に立ち寄った。何も言わずに出てくる、おちょこと徳利。
「んっ、くっ……くぁーっ! 誰にも見た目で咎められずに酒を飲める事のなんと気持ちの良い事か! やはり大人の体は最高でござるな!」
 笑う。その瞬間、双眸にふみかが映った。
「うわっ!?」
 驚き、咄嗟に胸に触れる。小さな手が見えた。
「ぬぅ、まるで成長しておらぬ……祭国ふみか殿」
「は、はい!」
「拙者のやけ酒に付きおうてくれぬでござろうか!」
「え、あ、ちょっと待ってください」
 ふみかはスクラップブックをめくり、咲耶の年齢を確かめている。
「くぬぅ……ふみか殿も拙者を……」
 咲耶は唸り、悔しげにふみかを見つめた。


「さぁ、貸して!」
 『躾のなってないワガママ娘』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)は万華鏡を覗きこんだ。

 祝福の声が聞こえた。メリーは馬車に乗り、旗を振る人々をじっと眺めている。
「意外と退屈なものなのね。あら……」
 メリーは目を細め、石を投げつけてきた者を瞬時に始末する。魔法によって溶けるように男は消えていった。
「女王様!」
 キラキラと人々の目が光った。メリーは微笑む。だが、あっという間に夢は弾けた。

 現実に引き戻される。ふみかは困惑していた。わたしは笑った。
「すぐ目が覚めてしまったようね」
 世界を征服した後のことをわたしは何も考えていなかった。他の者達はもっと長い夢を見たのだろう。
「あの……どんなものを見たのですか?」
 ふみかの言葉にわたしは「そうね、世界征服の夢を見たわ。ただ、すぐに終わってしまったけど」
「そうですか」
 万華鏡を覗かぬ者は分からなかった。ふみかは黙ってしまった。猫は毛布の上で眠っている。
「元の世界の話なんだけど、わたしね、生まれつき特別な能力を持っていたの」
 頷くふみか。ふみかはわたしを知っているような気がした。
「みんな、魔法による攻撃にすごく弱いから、大人にも簡単に勝つことができたのよ? ママもパパも先生も怖くなかった。この力があれば無敵だ、いまに世界中の人間をひれ伏させてやるって思ってたわ。でも、出来なかった。どうしてだと思う?」
「……敵わないことを知ったから、ですか?」
 ふみかの声は何故だか小さかった。
「そうよ。だから、世界征服は諦めて、町征服で妥協することにしたの」
 その途端、ふみかは顔を歪ませる。きっと知っているのだと思った。でも、わたしは話してしまいたかった。
「結局、駄目だったわ。力で抑えることなんて出来やしなかったのよ。やりすぎて後ろから撃たれちゃったの。きっと、清々したでしょうね」
 メリーは言い、目を丸くした。
「ちょっと! どうして、ふみかが泣くのよ!?」
 メリーの言葉にふみかはより表情を崩した。


 『夜の涙』築柴 雨月(p3p008143)はすり寄ってきた猫をそっと撫で、確かめるようにふみかを見た。
「この万華鏡を覗いたらいいんだよね?」
 頷くふみかを信じ、雨月はゆっくりと万華鏡を覗く。
 
「一緒の班になろうよ」
 約束が聞こえ、青年は少年となる。地面は雨の香りがした。誰かが雨月を呼ぶ。俺は走り、親友に笑顔を向ける。遅れて沢山の声が聞こえた。バンガロー。これは課外学習の合宿だろう。そう、俺が行くことが出来なかったあの日の夢。包丁を握る俺を心配していたのは同じ班の少年だった。それでも、彼は俺にその仕事を任せてくれた。当たり前のことを当たり前に出来ることがとても嬉しかった。

 浮かぶ、星。俺は親友と星を眺めていた。心地よい風が吹いている。俺は彼と笑い合っている。この時間を俺は永遠に忘れない。美しい思い出。
「俺は約束を守れたのかな?」
 何故だろう、俺は此処にいるのに問わずにはいられなかった。親友は笑い、「気にするな」と俺の肩を叩いた。

 雨月は万華鏡を置き、ぼんやりした。本当は行きたかった。親友と約束したのだ。でも、叶わなかった。あの日も俺は病室のベッドに横たわっていた。約束を守れないことがどうしようもなく、悔しかった。雨月は笑う。でも、今は違うのだ。彼のお陰ですっかり元気になった。だから、今度は彼とどこか少し遠くの方へ出かけられたらいい。

 雨月は猫を見つめる。
「どうかな、名前は思い出せたかい?」
「ええ。ありがとう、あなた達のお陰で取り戻せたわ」
 猫は言った。思い出した名は、雪笹(ゆきざさ)だった。
「良かったよ。名前がないと、こう……なんかしっくりこないもんね」
 頷き、猫はすぐに何処かに行ってしまった。雨月はふみかに笑う。
「終わったね」
「はい」
「万華鏡には俺のちょっと昔の姿が映っていたよ。危険なものじゃなかったみたいだね」
 ただ、皆はどうだったのだろう。雨月の言葉に同意も否定すらしなかった。
「ふみかさんも覗いてみるかい?」
 雨月は万華鏡をふみかに手渡そうとし、目を瞬かせる。
「あれ?」
 置いたはずの万華鏡は何処を探しても見当たらなかった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 いやー!! けしからん、万華鏡でしたね!!!

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