親睦会は大食い大会！？

オープニング

●冬の終わりと春の始まり
　冬の寒さが和らぎ、気温も穏やかになって行く今日この頃、イザークは頭を抱えていた。
　というのももうすぐ恒例の親睦会が行われるのだが、その親睦会、一般的に想像されるものと少し違っている。
「誰だよ……！　親睦会で大食い大会なんか始めたの……！！」
　内容が被らないようにと毎年の内容を簡単にメモしてあるノートの中には
・焼肉大会（ホルモン限定）
・春先BBQ
・大盛パスタ
・ちらし寿司
・しゃぶしゃぶ
・焼肉
・スイーツビュッフェ
etc
　スイーツビュッフェまではまともだったっぽい。
　面白さを求めた結果、徐々に大食い大会にシフトしていったのだろうか。
「しかも今年は海鮮鍋って……。美味いけどさぁ……」
　ぶつぶつ言いながら自分が所属しているチームの参加予定者を見る。
「……うん。無理。俺一人で30人前とか無理」
　この大食い大会、チームごとに用意された料理を食べ切るのがお約束。それなのに、イザークの所属するチームは先日の集まりの際に食べた二枚貝に当たってみんな寝込んでしまったという。
　ちなみにイザークはその日別の用事で集まりに不参加だったので、難を逃れた。
「知り合いってもほとんど寝込んでるし、どうするか……」
　事情が事情なので食べ切れなくても文句は言われないと思うが、来年以降の親睦会を思うと気が滅入る。
「……とりあえず、参加してくれる人探すか……」
　遠くを見たままのイザークは、大食い大会に参加してくれる人の募集ポスターを作り始めるのだった。
　だが、その絵心のなさと時間のなさのせいで、参加してくれる人は、うん……。

●海鮮鍋は何味がお好き？
「もうすぐ春だけど、お鍋食べない？」
　いつものように唐突に声を掛けてくるフェリーチェに、居合わせたイレギュラーズは顔を見合わせる。
「親睦会で海鮮鍋を30人前食べなきゃいけないんだけど、色々あって参加者が一人だけなんだって」
　一人で30人前は無理だという声にうんうんと頷く。
「と言う訳で、お手伝いに海鮮鍋食べに行こう！」
　春が近いとはいえまだお鍋が美味しい季節。
　わいわいみんなで海鮮鍋をつつくのはどうだろう？

参加者 : 4 人

冒険が終了しました！　リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧（4人）

リプレイ

●30人前行けるかな？
　Ｑ．本日大食い大会ですが、どうして参加しようと思いましたか？
　Ａ．たくさん食べられると聞きまして参加しようと思いました！（『イカダ漂流チート第二の刺客』エル・ウッドランド(p3p006713)さん　17歳）
　Ａ．なんかタダ飯が食えるって聞いて来ちゃいました！　……え、ただですよね？（『永遠の17歳』四矢・らむね(p3p000399)さん　17歳）

　質問に笑顔で答えた二人だが、予想外過ぎるその答えに全員がぽかんとしている。
　何故ならイザークが連れてきたのは全員若い女子ばかり5人。この時点で周囲は何の冗談かと声を潜めていた。ちなみに他のチームは大体10人程度。しかも十代後半の少年少女から、3、40代の働き盛りの男性まで幅広い。
　大食いと知らずにやってきたのでは。と思って質問してみたが、理解した上で来ているようだ。
「海鮮鍋！　良いですわよねー。ブリ、エビ、ホタテ！　この時期ならまだ牡蠣もギリギリ……！　お酒は何が良いかなあ。ふへへ」
　『祈りの先』ヴァレーリヤ＝ダニーロヴナ＝マヤコフスカヤ(p3p001837)は両手いっぱいの酒を手に頬が緩んでいる。
「食いきれるかな……」
　唯一『常闇の死神騎士』エレンシア＝ウォルハリア＝レスティーユ(p3p004881)だけが心配しているが、エレンシアも6人で30人前食べ切るつもりでいる。
（しかしまあ、これは……4人＋αで30人前の海鮮鍋たぁなかなか経験できるもんじゃねぇな。ま、受けたからには食うしかない。とりあえず一人頭7人前は食う覚悟で行かねぇとな）
　何から食べていくか頭の中で段取りを考えながら席に着くと、他のチームに挨拶をしているイザーク以外も適当な席に座った。
「この日のためにいっぱいお酒を持ち込んで来たのでとっても楽しみ！　飲むぞー食べるぞ―おー！」
　うっきうきで配膳される具材を見ていたヴァレーリヤだが、明らかに人数分以上の具材を見て頬を引きつらせる。
「あの……なんだかやけに量が多くありませんこと？」
「そうですか？　海鮮鍋の大食い大会ということで、お腹いっぱい海鮮鍋が食べられるそうです。……頑張って食べましょうね、みんな！」
　曇りのない真っ直ぐな笑顔で言うエルに、ヴァレーリヤは思わずぽかんと口を開ける。
「……えっ、大食い大会？　食べきらないと帰れない！？　聞いていませんわよそんなの！！」
　酒ならいくらでも飲めるけど、食事は人並みしか食べられないヴァレーリヤの顔が蒼くなる。
「何言ってるんです！　こんなに美味しそうな海鮮鍋食べる機会なんてあんまりないですからね！　私貧乏なんで！」
「イザークさんが2人前、フェリーチェさんが1人前と考えて、1人につき、6.75人前……。つまり1人で7人前を完食出来れば、問題無いです！」
　キリッとしたらむねの眼差しと、エルの笑顔が眩しい。
「とりあえずたっぷり味わっていきましょう！！　まずは最初に食べますね！　頂きます！」
「よっしゃまあじゃんじゃん食べていこうぜ！
　白菜や魚肉、エビカニの甲殻類、豆腐……全部食い切らねぇとな。残すともったいないし」
「そうですわね！　文句を言っても仕方がないし、楽しみながら食べましょう！　いえーーい！　乾杯かんぱーい！」
　開き直ってエレンシアが持ち込んだお茶とヴァレーリヤが持ち込んだ酒で乾杯すると、早速一つ目の鍋に手を伸ばす。まずはシンプルに寄せ鍋のようだ。

「見てくださいよ、このぷりっぷりなエビ！　そしてこの大きくて贅沢なホタテ！！　たまりませんねぇー、ぐへへ……」
　喜びの余り、らむねは怪しい笑い声になっている。
　大丈夫か永遠の17歳！
　大丈夫かアイドル！！
「私はカニの身や、タラや鰯のつみれが入っていたら良いですね！　大好きなんです！　あと……味は豆乳が良いな～。
　みなさんはどんな味が良いですか？」
　飽きが来ないように色んな味を楽しみたい。その為にも、どんな味の鍋を頼むか考えなくては。
　そう思いながらエルが小さく首を傾げると、すかさずらむねが答えた。
「味噌とキムチは外せないわ！」
「海鮮にキムチあいますものね！　でもこのお鍋も良いお出汁が出ていますわー！」
　一度に6人前と考えて、5回別の味を用意して貰える。そう考えたら凄く贅沢な時間だ。
「もう一生食べれますね、これ！？」
　らむねがそう叫ぶのも無理もないかも知れない。
　周囲から生暖かい微笑みで見守られつつ、6人はもぐもぐと鍋を食べていくのだった。


●最終兵器、それは……。
　一つ目の鍋を食べ終え、二つ目は味噌味。
「しかしまあうん、この食材どれもなかなかイケるなぁ。旨いぜ。あたしは肉派なんだがたまには魚介類も悪くはないな。あと野菜も」
「あっさりしているから、こってりしたスープとも合いますよね」
　エレンシアとエルがのんびりと話しながら食べ進めていたが、らむねのお腹は限界を訴えていた。
「普通に1人前食べるとお腹にそれなりに溜まりますね……」
　まだ海鮮鍋だからそこまで重くはないけど、それでもそろそろ1.5人前を食べ終えようか。という量になると流石にお腹が重い。
　しかしここで秘密兵器投入！　その名もスパークリング麦ジュース（アルコール入）！！
　コップに注ぐと、しゅわしゅわと弾ける黄金の液体とふんわりとした泡が。
「これがあればまた更に食が進むってもんですよ！」
　飲み干せば仄かな苦みと弾けるスパークリングが喉をすっと通って行く。
「ひゅーっ！　キンキンに冷えてやがりますね！」
　その様子を見ながらエレンシアが半目でらむねを見た。
「それ、ジュースじゃなくてビールじゃないんですか？」
　エルも眉根を寄せてらむねのコップを見ている。
「え、ビールじゃないですよ！？　私は17歳ですからね！　アルコール入ってる！？　き、気の所為ですよ！」
　二人の様子に焦って言葉を重ねると、らむねは誤魔化すように質問を重ねる。
「ってか皆さんは飲めないんですか！？　17歳に18歳……！　なんか若い子多いですね……」
　永遠の17歳なのにショックを受けるらむねに、ヴァレーリヤがそっと2杯目を注ぐ。
「私は24なので美味しく頂けましてよ？」
「アルコールは……未成年なんで飲めないのが残念だ。飲めるようになったらガッツリ飲んでみたいな」
「私も成人したら飲んでみたいです」
　エレンシアとエルの未成年コンビの言葉に何故かショックを受けるらむね。
「これが若さ……！
　……イザーク君は飲めるんですか？　飲めるんならのめーい！！　うぇーい！！」
　可愛いアイドルはどこに行ったのか、酔っ払いのノリでイザークのコップに麦ジュース（アルコール入）を注ぐと、イザークは逃れられずにコップを重ねて行くのだった。

　豆乳の優しい味に助けられながら食べ進める三つ目。みんなのお腹は限界だった。
「たくさん量がなければ、お米を持ってきておじやを作りたいくらい。フェリーチェも一口いかがでして？　これ、とっても美味しいですわよ！」
　一人マイペースにもぐもぐと食べ続けるフェリーチェの取り皿に、ヴァレーリヤがそっと具材をよそって渡す。
「ヴァレーリヤは食べないの？」
「少し休ませてください……！」
　お腹を休ませたり、軽く運動したりしながらなんとか食べ進めるも、やはり女性グループで大食いは大変だろう。と食べ終えた他のチームが話し合う。
「タッパーかなんかに入れて持ち帰りたい……。こんな美味しいものをこんな気持ちで食べるの嫌じゃないです……！？」
「分かりますわ……。美味しい食べ物がたくさんあるのは幸せだけれど、流石にこれは……」
　ぐったりとした様子の四人に、そっと他のチームからタッパーを差し出される。
「本当は駄目だけど、ここまで頑張ってくれたんだ！」
「美味いもんは気持ち良く食いたいしな！」
　それは完食ではなく、持ち帰っても良いという優しさ。
「皆さん……」
　まだ10人前ぐらい残っているけど、そこは手分けして持って帰ればいい。
「有難うございます……！」
「完食出来なかったのは悔しいけど仕方ねぇ。帰ってからちゃんと食べるよ」
　とっくに限界を超えていたエルたちはその言葉を有難く受けとる。
「せめて取り皿に取っている分だけは完食しますわ！
　イザークもそんなところで何をしていますの！　ここでラストスパートを掛けますわよ！！」
「はい！！」
　ヴァレーリヤに叱咤され、すっかり箸の止まっていたイザークも必死に箸を動かす。
　タッパ―に詰められたキムチ鍋を残して、何とかテーブルの上は綺麗に片付くのだった。

●美味しく無理なく食べよう
「ちょっと残念ですけど、ほっとしました」
　バニラアイスを口にしながら、エルが苦笑する。
「完食する気満々だったけど、無理して食べる方が勿体ないもんな」
　エレンシアも甘く冷たいアイスを食べながら、無理な大食いから解放されてほっとしている。
「ふっふー、ついにアイスの時間ですわねー！　甘くて美味しい……！
　えっ、お腹は大丈夫なのかですって？　甘いものは別腹と言うでしょう。すなわち、甘いは正義なのでございますわーーー！！」
　高らかにアイスを掲げるヴァレーリヤに、周囲から微笑ましい眼差しが集まる。
　その横でらむねが「うぇ、吐きそう……。酒飲みすぎるんじゃなかった……」と蒼い顔でテーブルに突っ伏しているけど。
　何はともあれ、無事懇親会は終わりを迎えた。
　四人の頑張りが実を結んだのだ。

「ところで気になっていたんですけど、これ何の集まりですの？」
「言ってませんでしたか？　俺たち、裁縫愛好会です！
　あ、これ俺が刺繍したハンカチです。今日のお礼にどうぞ」
　なんて見事な花の刺繍が施されたハンカチを渡され、5人は何とも言えない気持ちになった。ただ、
――裁縫愛好会の懇親会で大食い大会なんておかしい！
　みんなの心の叫びは、綺麗に一つに纏まっていた。

成否

成功

状態異常

なし