シナリオ詳細
零れる涙はひとひらの
オープニング
●くすんだ世界で枯れゆくもの
『拝啓
お元気ですか。こちらは穏やかな小春日和が続います。
天国もこちらと同じ陽気なのかは分からないけれど、きっとキミは向こうでも、花に包まれて笑顔で暮らしているだろうね。
僕の方はちっともだ。キミを失った世界は何もかも色あせて、
まるでモノクロのテレビをブラウン管越しに見ているような――何をやっても他人事の感覚で。
こんな”呪い"を広めておきながら、ちっとも心が痛くないんだ。』
月明かりさし込む窓辺。一人の男がデスクに向き合い手紙にペンを走らせていた。
もう随分と長い間、眠っていないのだろう。彼の目元には黒々としたクマが見え、肌は不健康な土気色をしている。
『――ねぇ、ヘザー。キミはかつて、僕に言ったね。
"世界中を花でいっぱいにしたい!"って』
「こほッ、コホ……」
男が口元に手を当て、小さく咳込む。
唇から離した掌には一輪のチグリジア。
「時間がない。急がなきゃ」
うわ言のように呟いて、書きかけの手紙をそのままに男は部屋を後にした。
花に包まれた無人の街を歩き、そうしてまた次の街へ――。
●鎮魂の花が蝕む世界
プツリ。指先をナイフで傷つけ、滲んだ血を滴らせる。
「嗚呼、やはり"出てしまえば"解けてしまいますのね」
突然の『境界案内人』ロベリア・カーネイジの自傷行為にざわつく特異運命座標たちだったが、後に聞いた話を聞いて納得する事となる。
今回向かう異世界は、ある一人の男の手によって特別な呪いをかけられ、
緩やかに滅びの道を辿っているのだという。
その呪いの名は《散花の呪》。
一度かかると高熱や咳などの症状に襲われ、半日で死に至るそうなのだが、
呪いを受けた者達は皆、不思議な事に血や涙、体液が花弁や花に変わるのだという。
「災いを振りまく男の名はブルーノ。彼は自らを呪術の触媒とし、己の周囲の生物全てに呪いをかけてまわっていますわ。その対象範囲は、彼を中心として"街ひとつ分"ほど」
つまり特異運命座標がブルーノを止めるためには、呪いを受けながら戦いに身を投じなければならないのだ。
「状況を見るため、私も一度あちらの世界へ渡りましたけど……この通り、境界図書館へ戻れば呪いは解けるようですから。リミットまでに元凶を止めて帰還すれば、全ては丸く収まりますわ」
"出来ない"とは言わせません。
暗に特異運命座標の身を案ずるロベリアの言葉に、特異運命座標たちは頷いた。
- 零れる涙はひとひらの完了
- NM名芳董
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年03月23日 22時10分
- 参加人数4/4人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
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参加者一覧(4人)
リプレイ
●
ざらつく空気。噎せ返りそうな程の花の香。
降り立った異世界は幻想の街並みに近い。しかし場に流れる"気"というべきかーー纏わりつくような不快感が4人を迎え入れる。曇天の下、エルシア・クレンオータ(p3p008209)は怯えた様子で辺りを見回した。
「武具ばかりは幾らか揃えてみても、心は決して穏やかでなんていられませんね」
緊張と不安が身を襲う。彼女の不安を察してか、『嗤う陽気な骨』ボーン・リッチモンド(p3p007860)が一層明るく、陽気な笑い声をあげた。
「カッカッカッ! 体液を花に変える呪いとは珍しい呪いもあったもんだな!
俺は骨だから血は流せねェ……涙は流すかもだが?」
異世界に病魔の如く蔓延する呪術。その在り方に興味を持つ者はもう一人。
「こういうエモい呪いって興味あるんだよ。俺もこういうの使えるようになりてぇ」
病魔の如く蔓延する呪術は早くも『極夜』ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)を蝕みはじめている。自らが災いを受けつつも「術者とは仲良くなれなさそうだがな」なんて平然と言ってのけるトリックスター。その横では『水天の巫女』水瀬 冬佳(p3p006383)が静かに思案していた。
「考え事かい?」
「えぇ。この世界の人々が、こうした極僅かな『力ある者』の存在をどういう形で受け入れていたのかは知りません。
今までこのような事態が起きた事が無かったのか、それともその上で受け入れる度量と優しさが人々にあったのか……」
何れにせよ、相応の在り方を求められつつも、同時に相応のものをも受け取って来た筈である。だからこそ冬佳は強く思うのだ。
「――如何なる理由があろうとも。怒りでも、絶望でも、悲しみでも
これだけは、決してやってはいけなかったと……そう、断言できる」
一刻も早く止めなければ。恐怖のその先を見据えた瞳。力強い仲間の決意にエルシアも頷いた。
(……もしも、私の祈りでこの恐ろしい物語に終止符を打てるのだとしたら、
きっと私にも、特異運命座標として召喚された意味があったのでしょう)
確かめに行こう。この世の呪いも、この身に宿る奇跡の力も。
それぞれの意志を胸に争いへと身を投じ――。
●
その街の最後の生き残りは警察官だった。銃口を向ける彼にブルーノはぼそりと小さく呟く。
「握る銃を花束に」
「嫌……うあァ、ァ゛ッ!」
散り際は刹那。花の兵士に四方から蔓を巻きつけられ、引き裂かれた瞬間――パンッ! と弾けるような音がして、警察官の身体が花と化して霧散する。花びらの雨を浴びながら、街から離れようとブルーノは踵を返し――立ち込めはじめた霧に足を止める。
「手伝ってやったぜ。花で世界を満たすんだろ?」
ロベリアの花によって蝕まれ、怯んだ花兵の根元に清冽なる白い陣が形成される。
「白鷺の羽根に抱かれ、お眠りなさい」
冬佳の凛とした声に呼応するように、領域内へ無数の氷刃が生み出され――不浄を祓い切り刻むその様は、宛ら舞散る白鷺の羽根の如し。2人の範囲攻撃をすり抜けた兵は死霊弓の餌食となる。
「……どうか安らかに」
花の兵士達へもエルシアは慈悲深く祈りを捧げた。死線を越えた後は敵も味方もない。弔うのは残された者の役目だ。
祈る乙女にブルーノが右手を向ける。邪悪な光を放つ円環が現れ、陣の形を徐々に成し――その大技の気配にいち早く影。
「おっとぉ! 『呪殺屋』サマにはちょっと大人しくしてもらおうか!」
錠をかけるような音が戦場に響いた。ペッカートのピューピルシールがブルーノの右手を捉え、魔方陣が手首に嵌り枷のように制御を施す。
「お見事です。さて、後はボーンさんの戻りを待つばかりですが……」
「わりィな、待たせた!」
氷蓮華を構えた冬佳の呟きは、暗い空に吸い込まれ――その曇天から返事と共に重厚な音が降ってきた。屋根の上から飛び降りたボーンが着地点の花兵達をレジストクラッシュで叩き伏せる。
これで役者は揃った。身構える4人だったが、追い詰められた筈のブルーノは此方に目もくれず、右手の封印へ視線を落としたままだ。
「この世の魔術体系に無い構成だ。ゴホッ、コホ」
「……その様子では、世界の生物全てを死の花に変える前に貴方が先に倒れるでしょう」
咳込むブルーノの唇から零れた花びらを見て、冬佳は目を細めた。
「貴方の行いを聞きつけた他にも居るだろう『力ある者』が貴方を止めに、葬りに来る可能性だってある。けれど、貴方に死ぬまで花を撒かせる訳には行きません」
彼のこの行いの後に生き残った人々が居れば、待っているのは――分かり切った結末。
平和に纏まるのは奇蹟に近い。待ち受けるのは、ただ滅びるよりも酷い行く末。
「故に――ブルーノと言いましたね。貴方の凶行は、ここで必ず終わらせます」
「綺麗だったんだ」
決意を込めた冬佳の声にようやく返された言葉は最早、会話を成していない。
「彼女がくれた花束は、鮮やかで」
「気をつけろ、来るぞ!」
ボーンが叫ぶと同時、花兵がブルーノの右腕を蔓で絡め、棘で勢いよく引き――。
ごりっ。
肉が内側から砕ける音と共に、ペッカートが施した封印ごと右手が引きちぎられた。
肉片がチグリジアの花へと変じ、花弁が辺りに散ってゆく。視界が花で塞がれる中、その殺意は真っすぐ一点を狙って――。
「……ぁ」
放たれた茨の矢がエルシアの喉笛を貫いた。くの字に曲がり倒れ伏す姿に、反射的に駆け出したのはボーンだ。抱き留めた彼女の身体は冷たく、傷口から薔薇の花びらが絶え間なく零れ落ちる。
「おい、エルシアちゃん!!」
「――」
伝えようとした言葉の代わりに漏れるのは、ヒュウヒュウとか細い呼吸の音。
「諦めてはいけません!」
深紅の薔薇に交じり、雪のように白い花弁がエルシアに注ぐ。冬佳の天華命水は――されど彼女の非業を止められず。
彼女は期待していた。遠くから祈るばかりの乙女でも、この世界で花と散った者達が勇気と力を貸してくれるのではないのかと。
しかし物語は時に、現実を非情に突きつける。
これが"死"。
生々しい痛みと共に天へと吸い込まれる花弁は、エルシアの宿命を暗示するようだった。
(ああ……ここが物語の世界で良かった…だって、物語の外に出れば死さえもが元通りなんですもの。でも……。
現実で私が戦いに赴いた際には、きっとこんなに美しい最期にならず、惨たらしく命を奪われるのでしょう)
何ら果たせずに朽ちるだろう。一筋の涙が薔薇へと変じ、はらりと床へ落ちる。
それを契機にパッと彼女の身体が薔薇の花となり――風に浚われ、辺りに深紅の花弁が降り注いだ。
その光景は儚さを帯びて美しく。されど手に残った死の感触を確かめるように、ボーンは骨の手を軋ませるほど強く握りしめて呟いた。
「美しくないな」
無駄死では終わらせない。そのためならば、"陽気な骨"は休業だ。
「テメェを今救ってやるよ」
囲む花の兵士達。それを拳で殴りつけ、ボーンは低い声で告げた。棘で削れた骨は瓔珞百合の花弁へと変わり、花びらの雨の中、彼は進む――魔王たる者の覇気を持って。
●
「くそ……いてぇし、だりぃし、戦いにくいな」
エルシアの瀕死を確信したペッカートは、仲間の救助を妨害されぬよう、独りで花兵とブルーノを牽制していた。
術の乱発で弱った身体を呪いが蝕む。ごほっ、ごほ……と唇に手を当てて咳込むと、掌に残った花を見て、彼は皮肉気に笑った。
「……ははっ。なるほどチューベローズね…俺にぴったりなんじゃねぇ?」
その花言葉は"危険な快楽"。こんな状況さえも彼は楽しみながら身を削って戦っているのだから、あながち間違いではない。
「なぁ、これってどういう仕組みで花の種類が決まるんだ? やっぱり心情か?
だってキミの花は"私を助けて"だもんな」
花に込められた悲鳴を見透かされ、ブルーノが初めて彼を見た。
「ま、どんな意味を付けられようと白い花はキライなんだ。嘘ウソ、花はいいよな。綺麗でさ。だたちょっと綺麗すぎるだけだ。
――それで。キミの救いってなんだ?」
答えの代わりにけしかけられた花兵をイービルクローで引き裂くも、その足元は縺れ。
「こうやって他人を呪って世界と心中することか? ならこの世界には愛されないし救われない。
キミが望むヒトはもういないんだ。そんなに会いたいなら俺達が会わせてやるよ」
倒れたペッカートの頬に冷たいひとひらが落ち、溶けていく。
見れば冬佳が切り結び、花兵を散らしていた。傷口から零れるのは氷の蓮華の花びらで、散った傍から淡雪のように溶けては消え。
「逢いたいですか」
問う彼女に花兵の蔓が襲い掛かる。
その傷口に触れるな、と言わんばかりに。
「逢える筈がない!」
「――逢えない、等と誰が決めたのです。この世界では、誰か魂の行く末を確認したのですか
逢えるのかどうか、など関係ありません。『逢う』のです」
最後の一輪の命は儚く。全ての花兵の散り際を見届けて、冬佳は吼える。
「手向けの花は充分でしょう
逢えた時に……貴方はそんな顔のままで逢う心算ですか!」
不浄なるものを洗い浄め祓う刃の如き一閃。華水月を避けようとブルーノが一歩踏み出し――。
『もういいよ』
「……ヘザー?」
ようやく気づいた。
遅れて現れたボーン。その傍らに佇む女性の姿に。
「愛する女を理不尽に奪われた悲しみは辛いよな……世界を滅ぼす位に」
不条理に引き裂かれた恋。残された者の憎しみ。
それは在りし日の"俺"と同じだ。だからこそ問える。
「それを愛する女が望んでるのか? 誇れる行為なのか?
どう思うんだ、ブルーノ!」
――嗚呼、僕は。
「これで終いだ、同類……せめて安らかに死ね」
――いつもヘザーを泣かせてばかりだ。
斬撃で深手を負ったブルーノに、剣魔双撃が叩き込まれ――彼の身はアネモネの花となって、風に浚われていった。
成否
成功
NMコメント
今日も貴方の旅路に乾杯! ノベルマスターの芳董(ほうとう)です。
花いっぱいの異世界をお届けします。春ですから。
■目的
『呪殺屋』ブルーノの討伐
■重要
この依頼ではキャラクターに呪いがかかり、流す血や涙などの体液が花や花弁へと変化します。
必ずプレイングの一行目に、ご希望の花を記載してください。思いつかない場合は「お任せ」と記載して戴ければ、こちらでイメージフラワーを考えて扱います。
■戦場
異世界『フローズ』。中世ヨーロッパのような街並みです。
剣はあるけど魔法を扱える者はごく少数。そのためブルーノの呪いに抗う事ができず、すでに幾つもの街が花咲くゴーストタウンと化してしまっています。
特異運命座標がブルーノを迎え撃つのはレンガ造りの家が並ぶ小さな街です。
■敵情報
『呪殺屋』ブルーノ
黒染めの白衣を着こんだ20代後半くらいの男性です。
元々呪殺を生業としていましたが、恋してしまった花屋の女性に心を奪われ、彼女を失った事で心を病んでしまいました。
遠距離攻撃を持ち、呪術(神秘)をメインに扱うようです。
ボタニカルガーディアン(花兵)×20
植物の蔓が寄せ集まり、人のカタチをとった人形です。
棘のある蔓を鞭のように扱い、中距離から近距離の物理攻撃で戦います。
■その他の人物
『花屋の娘』ヘザー
ブルーノが恋していた女性です。20代前半くらいの、花のように優しく笑う穏やかな女性でした。
数か月前に流行り病で亡くなり、すでにこの世を去っています。
『境界案内人』ロベリア・カーネイジ
特異運命座標に依頼した案内人。拘束衣を彷彿とさせる装束を身に纏い、足を戒めた姿の妖しい女性です。呼ばれなければ特に活躍はしませんが、何か求められればサポートにまわったり、顔を出したりするでしょう。
■その他
戦闘依頼ではありますが、呪いに侵されたキャラクター達が苦しみながらも戦いに身を投じる姿を頑張って描いていきたいと思っています。
600字全てを戦闘用の立ち回りで埋めるよりは、呪いへの葛藤や心情などを書いて頂いた方が盛り上がるかもしれません。
それでは、よろしくお願いいたします!
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